「・・・・・・」
深夜の月光が差し込む部屋で、イタチは一人溜息を吐く。とことん、今日は疲れた。
昨日の刹那との戦い。今朝聞かされた呆れを催すほどの謀略。極めつけが迫真の嘘泣きだ。
これまで二重スパイとして一族を騙し続けていた自分が言える義理ではないが、他の一族たちを哀れに感じてならない。
あの後刹那は夜に予定していた蕎麦を昼に回し、現在この家の客間で休んでいる。本当に休んでいるのかはともかくとして。
ちなみにシギと、サスケも一緒だ。サスケの方は半ば無理矢理だったようだが。
「・・・・・・ふう」
「らしくないな。溜息など」
・・・・・・マダラか。
庭に通じる戸口の脇に、いつからか立っていた仮面の人影。その表情は杳と知れず、暗部の仮面に隠され瞳すら覗き得ない。
「天照を使ったな?北の森が一部焼野原になっていたぞ。・・・・・・誰と戦ったのだ?」
「そのことだが・・・・・・三代目と計画した一族の滅びは、取り止めることになった」
「何・・・・・・?いや・・・“なった”?」
「そうだ。これ以上、お前の助けは必要ない。・・・・・・安心しろ。暁には入ることになる。ただ、手順が変わるだけだ」
「・・・・・・何があった?ここまで煮詰めた計画を破棄するとは」
・・・・・・そうだな。
「政治的な天才と出会った。・・・・・・それだけだ」
もっとも、政治だけとも限らないようだが。
「お前に天才と言わせる程の者か・・・・・・一体誰だ?」
「・・・・・・今は駄目だ。だが、いずれ話すことになる」
二国・・・いや三国も巻き込む様な動きをして、そうそう長く隠し続けられるはずがない。
それとも・・・・・・白日に晒すことが目的なのだろうか。
あの悪魔が子供の形になったような少年の内心など、推し量れるわけもないが。
「くくく、面白い。その時が楽しみだ」
それを最後に、マダラは闇へ姿を紛らせた。
万華鏡写輪眼の祖。百年を生きる歴史上の伝説。初代火影への妄執は、未だ断ち切れていない。
それは、今の一族にも言えることだ。
なればこそ、うちはイタチは新たな計画の成功を願い、客間の方角へと頭を下げる。
・・・・・・古き血統に、感謝を。
水鏡、刹那。
ピクリ、と寝具に包まる刹那の身体が震えたのを、眠りを知らない我愛羅は目聡く見逃さなかった。
「・・・・・・どうした」
「報告が来た」
眠気を感じさせない挙動で刹那が起き上がり、軽く節々を伸ばす。
「ちょっと、風影のところに行ってくるよ」
「・・・そうか」
言葉少なに刹那を見送り、我愛羅は再び僅かに欠けた満月を双眸に入れる。かつては毎月のように身を焦がしていた衝動も、刹那と暮らしだしてからは回数を減らしていた。里人から受ける視線も、徐々に変わっているのを感じる。
友が一人できるだけでこれ程までに世界は変わるのだと、我愛羅は初めて知った。
最近はカンクロウやテマリとも、それなりな会話をこなすようになった。刹那という仲立ちを挟んでだが、大きな進歩だと刹那に言われた。
カンクロウは傀儡のことで助言をもらい、テマリは戦術で舌戦を交わすこともしばしば。大概打ち負かされているが。
昨夜は鏡を通して本体へチャクラを回していたとかで碌に動けない様子だったが、今朝には回復したらしい。
眩魔のおかげで便利になったと喜んでいた。だが眩魔とは何かと聞いてもまだ教えてくれない。いや、またと言うべきか。
・・・・・・まだ、親友には届かないようだ。
刹那曰く、山は六合目からが本番らしい。となると、刹那が山か。早く踏破しなければ。
・・・・・・む、戻ってきたな。
「話は済んだのか?」
「滞りなく、ね。兼ねてから予定してた通りだし」
刹那があいつと何を企んでいるのかは聞かされていない。知らない方がいいらしいが。
「まあそれはともかく、我愛羅」
「何だ」
「明日木の葉に向けて発つから、準備して」
・・・・・・木の葉へ?
「俺もか?」
「そ。ついでだから家族旅行にしてしまおうかなって」
「家族旅行・・・・・・」
・・・・・・人柱力である、俺が?
いやそもそも、風影が?
「それじゃ、僕は二人を起こしてくるから、準備しといてね。早朝には出るよ」
すたすたと扉から出て行き、十秒もするとカンクロウの悲鳴が聞こえてきた。どうやって起こしたのかは考えないことにする。何やら口論が聞こえるが、聞かなかったことにする。
「・・・・・・」
木の葉に旅行、は、いいのだが。
「何のついでなんだ・・・・・・?」
そろそろ一年が経とうと言うのに、未来の親友の考えはどうしても読めなかった。
「スリーカードでどうだ!」
「ちっ・・・ブタだ」
「すみません綱手様、フラッシュです」
「・・・・・・ツーペアで」
各々のカードが公開され、残るは一人。
視線が集中する。不安と呆れと苛立ちと僅かな期待が籠もった視線である。
それら衆目を浴びて、満を持し、最後の一人が伏せたカードを裏返した。
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「何でだぁあああああっっっ!!」
いつもの薙刀をトランプに変えたツムジの絶叫が轟くが、答える者はいない。
ジャラジャラとチップが回収されていくのを綱手は睨みつけ、シズネは疑問を持って見つめ、ミカノは諦観を吐息に乗せて吐き出した。
「なあ若大将若社長!何でそんな良い手ばっかなんっすかぁ!?」
「悪い手が来る時もあるけど?」
「そん時はいっつもブラフかドロップで碌な被害ないじゃないっすかっ!」
「ついてるだけだね」
「そんな馬鹿なーっ!!」
それを横目で捉えつつ、くの一二人はひそひそと。
「綱手様、ホントにイカサマじゃないんですか?」
「口惜しいが、そうだ。ディーラーの方もむしろ困惑している」
「じゃあ何であんなに?さっきからブラフ以外だと圧勝か一つ上の役ばっかりなんですけど」
「・・・・・・それが分かれば苦労はせん」
二つのやり取りを眺めながら、ミカノはもう一つ溜息する。
火の国の大きなカジノだ。ここの裏連中とは今のところ問題は起きていないが、いつそうなるかと少々不安である。
まあ、あの魅惑香にぞっこんであるなら、何の心配もいらないが。自分たちはその仕入れ人なので。
社長命令で木の葉に魅惑香を広めて、八ヶ月。ほぼ全域に出回ったと言っていい。一度あれを体験すれば、大抵の人間はまた欲しくなる。理性で抑えられるレベルというのが重要だ。
新羅の手腕は確かだった。必要な時に必要な場所へ必要な量を的確に輸送したのだ。さすがにあれには舌を巻いた。
妙原にフル稼働してもらったそうだが、その結果莫大な利益が転がり込んだことは間違いない。
素晴らしい先見の明だ、とはミカノは思わない。半年で結果を出せと言われた意味がまだ分かっていない。どちらかと言うとこの利益は、副次的なものだったのではないかと推測している。
真の狙いは何なのか・・・・・・と、こんなことを考えついてしまうから、新羅はミカノを重用するのだ。
そしてその推測は正しかったということを、ホテルに帰ってからの会話でミカノは実感することになるのだった。
「若大将、もう一勝負、もう一勝負しましょう!」
「別にいいけど・・・・・・綱手さんたちは?」
「負けっ放しでいられるか。次こそ勝つ」
「・・・それじゃ、私も」
「・・・・・・付き合いますよ」
普段の仕事ぶりを見ているミカノは、もしかしてカードの並びを全て覚えてるのでは・・・・・・と邪推するが、さすがにそれはないだろうと否定する。
その推測もまた正しかったりするのだが、ミカノにそれを知る術はない。
結局、最後に新羅は大負けを喫した。が、それは互いの関係に軋轢をもたらさないための配慮だということを、誰も知らないのだった・・・・・・
「それで決行はいつだ?」
「んー・・・・・・五日から、一週間後かな。風影が来ないとどうにもならないし」
「・・・・・・その間にクーデターが始まったら?」
「タカ便で風影来訪の話が今日中に届くと思うから、起こるにしても風影が帰った後にするはず」
「どこまでもお前の手の内なんだな・・・・・・」
「あはは、どうも」
「誉めてねえっ!!」
そして刹那の策謀が始まる。
張り巡らされた糸は如何なる動きも察知し、動きを絡め取る。
巣を張られた時点で、獲物に勝ち目はない。
To be continued...
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・・・・・・短めだけど何やら書けたので連投です。多分次は遅い。・・・多分。
干し梅さん、どうもゆめうつつです。刹那悪魔してます。この次がもっと酷いですよ。
ゆうさん、ありがとうございます。このお話も楽しんでください。
野鳥さん、はい、会話ターンです。しばらくこのまま続きます。
ライル・エオリアさん、刹那究極合理主義なので・・・まあ、その辺はまだ明かしていない前世にあったりするのですが。・・・・・・いつ明かそう。
ニッコウさん、最高ありがとうです。我愛羅もどうぞ。
ザクロさん、ありゃ、修正しときますね。そして更新をどうぞ。
ディオンさん、大蛇丸も仲間って・・・・・・う~ん、仮にしても信頼関係は築けそうにないですね。
【重 要】
さて、皆様のおかげでこのたび水鏡も(消しちゃったの含め)累計30万PVを記録しました!感謝感激感無量です!!
祝!と言うわけでもないですが、うちは編が終わった後の日常編にお題を募集したいと思います。・・・・・・余り思いつかないので。日常が。
細かく設定していただいても構いません。可能なものはゆめうつつが執筆します。とくに期限はないです。
では、これからも水鏡を映すモノをよろしくお願いいたします!