チチチチチ・・・・・・
小鳥のさえずりで目が覚めた。身を包む感触に困惑し、部屋を見回して畳敷きではないベッドルームだと気づきそれに納得する。どこだここは。
こんなところで眠りについた覚えはない。何があったかと昨夜の記憶を脳の奥から引っ張り出し、うちはイタチは疲れているのだと眉間を揉みほぐす。
笹草新羅の正体が白亜刹那だなどと、できすぎた夢だ。新羅は五行のボスであるし、刹那は弟のクラスメイト。シギと親しく、家まで遊びに来ることもしばしば。いやしょっちゅう。二人の間に何ら共通項はなく、そもそも同じ人間が二つの国にまたがって同時に存在することになるので、物理的に不可能だ。
「・・・・・・どこだ、ここは」
至極論理的な防壁を張って夢だと思いたい矛盾を追い出すと、結局最初の疑問に立ち返ったイタチは、ここが敵地であると仮定して行動を開始する。
逃げるは容易い。だが多少の戦果を持ち帰らねばうちはの名折れ。
そういう思考の元情報収集すべく扉に近づき、
ガチャ。
「!」
回ったノブに反射の動作で天井に貼り付く。扉が押され、こちら側に開き、現れた小柄な人影の背後に降り立ったイタチは手刀を落とし――気配に振り返った少女が誰かに気がついて、ギリギリ当たる寸前で腕を止めた。
「あ・・・あう・・・・・・」
ピタリと首筋に当てられた手刀と殺気に、少女は怯えて涙目でこちらを見上げている。
「・・・・・・」
・・・・・・どうしたものか。
シギが言うにはナズナという名の、カシワ商隊のメンバー。刹那と一緒にいるところしか見たことがない少女。
イコール、ここは白亜邸に当たるわけで。
こんなところにいる理由が一つしか思い浮かばないわけで。
「・・・・・・」
否定要素がどんどんと削られていく。つまりあれは夢ではなく現実なのか。認めたくない思いがひしひしと。
カシャ、という音に振り返ると、特徴的な水色の髪の少年が。これでもう決まりだが諦めたがその手のカメラは何だ。
嫌な予感に襲われる。
「・・・・・・何のつもりだ?」
「暗部分隊長幼女暴行の決定的瞬間」
「待て」
面子や体面やプライドの関係で誤情報だとしてもそれはヤバイというかそんな醜聞を晒すようならマダラに殺されかねない。
「ふふふ、これで明日の新聞の一面は決まったね?」
「だから待てと、」
「副題、『まさかあの人が!?名門うちはの歴史に残る汚点!』」
「・・・・・・頼むからやめろ」
げっそりした気分で、イタチは頭を抱えた。これまで余り関わり合いになることはなかったため気付かなかったが、今はっきりと分かった。こいつは苦手だ。
程度で言うと、現実逃避したくなるぐらいには。
うちはイタチは、にこにこと邪気がありまくりの笑顔に珍しく肺が空になるまで溜息するのだった。
「・・・・・・」
並べられた料理を眺める。ご飯に味噌汁焼き魚。ついでにハムエッグ。とどめに漬物とサラダ。コーンポタージュ。
何か違うような気もするが、典型的な朝食の風景。たった今コーヒーが追加された。
・・・・・・汁物が多くないか?
いやいや、そうではなくて。
「これはどういうことだ、シギ」
「俺に聞かれても分からないですよ・・・・・・元から昨日は泊まるつもりだったんですけど、イタチの兄貴が来てたとは聞いてないんです」
どうにか刹那の暴挙を阻止したイタチは、問いただす暇もなく並べられた料理の数々にこめかみを押さえていた。
「・・・・・・お前もグルか?」
ビシッ、と石のように固まった。黒だな。
「な、な、何のことでしょう・・・?」
「今更しらばっくれるな。何がどうなっているのかはさっぱりだが・・・・・・取り決めを守らないのは決闘への冒涜だ。話は聞く」
「ありがとうございます、イタチさん」
「・・・・・・ちょっ、ちょっと待て刹那!決闘ってまさかおい・・・・・・!」
「ん、勝ったよ。疲れたけど」
「はあああっ!?この人相手に一対一でどうやって勝ったってんだよ?!写輪眼は?万華鏡は!?つか話し合いだけじゃなかったのか!?」
「まあまあ、詳しい話は食後にしよう。僕もうお腹空いちゃって。ね、ナズナ」
「いつものことだけど刹那くんが隠し事・・・・・・これがハブなのですか・・・・・・」
「・・・・・・夜は蕎麦にしてあげるから」
「約束ですよ?絶対ですよ?」
「分かったからほら機嫌直して・・・・・・」
「先に質問に答えろよおいっ!!どうやって勝ったんだよ!?」
「忍びに手の内明かせって言うの?有り得ないね」
「くっそ・・・また今度問い詰めてやるからなーっ!」
「・・・・・・」
神経を張り詰めさせていた自分が馬鹿馬鹿しくなり、イタチは詰めていた息を吐いた。
どうしようもなく、頭が痛かった。
「さて・・・・・・どこから話しましょうか」
ズズズ、とすする刹那の手には抹茶。何やら最初から和室にあったという茶器で刹那が手ずから点てた茶だ。見よう見真似らしい。誰の真似か知らんが。というかホント何なんだろうかこの家は。
白亜邸和室に座布団敷いて、目の前には和菓子と芳醇に香る茶。それを囲むのは俺と、イタチと、刹那の三人だ。
ナズナ?刹那に言い含められて外に行ったな。夕飯のデザートを餌に。
「先に聞いておきますけど、僕の話に賛同してくれるので?」
「内容次第だ。勝算があれば考慮しよう」
「質問。俺その話自体知らないんだけど」
あれで刹那はメチャクチャ秘密主義だからな。何する気なのか具体的なこと何も知らん。イタチと戦うとかも知らされてなかったし。
「戦う前にちょっと話しただけなんだけど・・・・・・簡単に言うと、三代目に許しもらってうちはみんなで里抜けしましょー、ってとこかな」
・・・・・・うちはみんなで里抜け?
「何馬鹿言ってんだお前?」
「・・・本気だよ?」
尚更馬鹿だろうがそりゃ。わけが分からん。
「・・・・・・俺がそれに乗ったとして、成功率はどの程度だ?」
「フガクさんたちの説得ができれば、もう成功したも同然だと思うよ」
「おいおい、三代目はどうすんだよ。そこが一番の問題だろ?」
「どこが?」
いやどこがって・・・・・・全部?
「三代目が断れない状況を作ればいいだけなのに」
いやだからどうやって!?・・・・・・ホントこいつの考えることは分からん。
「それに、だ。クーデターの中止を説得するそうだが、俺が何か言ったところで聞くとは思えないな」
「まあそれは僕が時間調整して上手くタイミング合わせるよ」
「いや・・・・・・何の?」
「脅迫と、許可と、説得のタイミング」
「だから何がしたいんだよお前は!?」
「うちは里抜け」
そうじゃなくて・・・・・・ああくそ、無駄に頭いいせいでこっちの言いたいことが伝わってねえ。
「・・・里人全て人質に取るなどと言っていたな、そういえば」
「へ?何?火薬でも仕掛けるの?」
「んー・・・・・・具体的に説明するとね――――」
数十分後。
「怖ぇ!!何考えてんだお前馬鹿かっ!」
「えー・・・・・・」
「えーじゃないっ!どこからんな誇大妄想な芝居思いつくんだよっ?!」
「誇大妄想って・・・・・・ここまで来ると成功率高いんだけど・・・・・・」
「現実に成功しそうで怖いんだよ阿呆っ!」
「・・・・・・何その理不尽」
何か不貞腐れてるがそれどころじゃない。俺は今始めてこいつの怖さを思い知った・・・・・・!
つか何だよ五行って。マフィアって!乱雲の役?魅惑香?風影?
俺の知らん内に何やってんだお前はーーーーっ!!
いや全部俺と出会う前なんだが、壮大すぎる話の内容にあのイタチまで頭抱えてるし・・・・・・刹那、お前ホント何者?
「で、どうします?」
「・・・・・・・・・・・・乗らせてもらおう」
マジで?一応加担してる俺が言うのもなんだけど。
「だが一つ聞いておきたい。俺と三代目との密約・・・・・・どうやって知った?」
「・・・・・・五行の協力者って、意外と色んなところにいるんですよね」
「まさか・・・・・・!」
「壁に耳あり障子に目あり・・・・・・漏れない秘密のほうが少ないんですよ」
「・・・・・・」
あ、あのイタチが黙ってしまった。・・・・・・ただの舌先三寸で。
「・・・・・・そうか。俺としても一族を殺さないで済むならそれに越したことはない」
「一番割を食うのは貴方ですよ?」
「どちらにせよ変わらないな」
まあ確かに・・・・・・刹那の案に乗らなけりゃ、自分は虐殺者として一人里抜けするんだもんな。殺さないで済む分こっちのがマシか。
「刹那君、いや五行総帥笹草新羅。貴君の策に乗らせていただく」
「こちらも全力を尽くします。この後うちは本邸へ戻る際のフォローも含めて」
ピタッ、イタチの動きが凍る。言われみればそうだな。俺と違って、イタチは無断で姿をくらました形になってるんだよな。
「・・・・・・頼む」
「はい。了解しました」
・・・・・・いや、イタチが今ここにいるのってお前が気絶させて連れてきたからだろ?何で頭下げられてんの?
「それじゃシギも一緒に行こっか。なんせ共犯だからね。猿芝居にも付き合ってもらうよ」
俺演技とか苦手なんだが・・・・・・え?いるだけでいいのか?
・・・・・・何する気だ?
「フガク殿、うちはイタチの行方はまだ分からないのですか?」
「貴方が責任を持つと言ったのですぞ!」
「一体どうなされるおつもりで!?」
次々と詰め寄り泡を飛ばす親族たちに、うちは一族頭領うちはフガクは渋面するばかりであった。
イタチの部屋がもぬけの空なのに気付いたのが今朝早く。恐らくは昨夜の内に出たのだと当たりを付けたが、どこに行ったのか分からない現状に変わりはない。暗部の仕事なら書置きぐらいはするはずだ。
・・・・・・あのような問題を起こしてまだ二日だというのに・・・・・・軽率にすぎるぞ。どこに行ったというのだ・・・・・・
と、苦渋を噛み締めるフガクの元へ、急報が。
「うちはイタチが戻って来ました!」
「「「何だとっ!?」」」
「・・・・・・」
一斉に振り返った彼らと異なり、フガクの表情は冴えない。と言うより、どうにも腑に落ちない表情。
行方をくらませたかと思ったらふらっと姿を現す。何を考えているのか読めないのだ。女ができたという話もない。やはり不明だ。
そうこうする内に、話題の当人がやってくる。
「・・・・・・ただ今戻りました」
「イタチ、今までどこに行っていた」
「それは・・・・・・」
口を濁らせる。言いにくい、ではなく、困ったような。いや困っている。あのイタチが?
「シスイの件で疑いもかかっている。このような無責任な行動が続くようならそれ相応の処罰を取らねば――」
「待ってください!」
・・・・・・刹那くん?
半年以上の付き合いだが、刹那が大声を出したことは一度としてなく、フガクは目を丸くした。
だが、それはそれ、これはこれ。
「これは身内の問題なんだ。刹那くん、済まないが部屋から出ていって――」
「イタチさんが昨日の夜帰れなかったのは、僕のせいなんです!」
「・・・・・・何?」
部屋がざわめいた。ジロリと一瞥してそれを黙らせると、扉の横にいた刹那を手招きする。
「どういうことか、教えてもらえるね?」
「・・・・・・はい。あ、シギも一緒でいいですか?」
「・・・シギ、入ってこい」
ハラハラした面持ちで、扉の横に隠れていたシギが刹那の横に正座する。
「これでよいか?」
「ありがとうございます。・・・・・・実は――」
そこで刹那が話した内容を纏めると、以下のようになる。
昨日はシギが刹那の家に泊まる予定だった。
それを聞いてなかったイタチが迎えに行き、そのまま夕食をごちそうになる。
その時刹那が眠り薬を仕込んだせいで、帰ることができなかったと言うのだ。
「だから、僕が悪いんです。イタチさんを責めないでください」
「「「・・・・・・」」」
頭の痛い話だった。気炎を上げていた親族たちも、拳の落としどころを見失ったような。
「・・・・・・そう、だな。それなら確かにイタチに非はないが・・・・・・何でまた、眠り薬を?」
「・・・・・・・・・昨日、初めてシギが泊まりに来て、嬉しかったんです。でも、同じくらい寂しかったんです」
じわり、と刹那の目尻が潤んだ。
「僕とナズナは、商隊のみんなと一緒に暮らしてて、ずっと大家族だったのが、急に二人になって」
「・・・・・・」
「今までは騙し騙し、何とか保ってましたけど・・・・・・でも、昨日の夜イタチさんが来て、すぐにいなくなっちゃうのが寂しくて・・・」
正座した膝の上で、ぎゅっ、と両手を握り締めた。
「帰って欲しくなくて・・・・・・眠り薬を盛ってしまいました。・・・・・・ごめんなさい」
深く頭を下げる刹那を、怒る者はいなかった。カシワ商隊から離れて、たった二人で暮らす子供たちのことを、この中で知らない人間はいないのだ。それくらい密接な付き合いが、この八ヶ月の中にあった。
「・・・・・・今の話は本当か?シギ」
「――え?あはい!本当です!」
・・・・・・そうか。
「・・・・・・・・・・・・分かった。刹那くん、もし良ければ今日は泊まって行きなさい。ここを自分の家だと思ってくつろぐと良い」
「え、でも、そんなお世話になるわけには・・・」
「シギが世話になったお返しだと思ってくれればいい」
「・・・・・・あ、ありがとうございます!後でナズナと相談して、今日はどうするか決めてみます!」
「うむ。では皆、これで解散する」
宣言して、急速に散っていく血族たち。彼らもそう暇ではない。
何はともあれ、お騒がせな事件だったな。刹那くんもやはりまだまだ子供だということか。
・・・・・・イタチに非がなくて、本当に良かった。
なんだかんだで皆仕事に行き、シギの部屋にて。
「あっり得ねぇええええええええええーーーっ!!」
「煩いよ、シギ」
「・・・悪いが今日ばかりは俺もシギに賛成だ」
「えー?なんでイタチさんまで・・・・・・」
さっきの涙は何なのかと小一時間問い詰めたくなるぐらい刹那はいつも通りだった。・・・・・・やべぇ。何言いたいか分かんねえけどこいつとにかくやべぇっ!
「何なんだお前何なんだ!?役者か?富士風雪絵か!?」
「風雲姫の映画なら、ナズナと一回見に行ったね」
「・・・・・・ダメだこいつ手に負えねぇ・・・」
「この態度は酷いと思いません?イタチさん」
「・・・・・・」
あ、返答を拒否して明後日の方向いた。うん、気持ちは分かる。
・・・・・・つーか、罪悪感がひしひし来るんだが。騙すにしてもあの騙し方はないだろ普通。
「人の良心につけ込むとかお前悪魔だろ・・・・・・外道だ外道だとは思ってたけどよ」
「・・・・・・合理的だよ?」
「少しは倫理とか道徳も考えてくれ・・・」
「?」
刹那が何言ってるんだこいつ、みたいな表情に。せめてそこは悩むぐらいはして欲しい。
・・・・・・どこまで原作から離れるんだろうかと言うのが、最近の俺の悩みだ。
お前もうちょっと自重しろぉおおおおおおーーーっ!!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
いや~、遅くなりました。やっと投稿です。
では前回諸事情でできなかった感想返信を。
ゲッコウさん、はまって頂き恐縮です。これからも頑張ります。
ザクロさん、イタチとの戦いはこのように終わりましたがいかがでしたでしょうか?シギも今回出ましたよ。
野鳥さん、お望み通りの会話ターン・・・・・・しかし詳しいところはまだ秘密だったり。
カケルさん、ゆめうつつもあの戦闘描写は会心の出来だと思うのですよ。いい仕事したなー、なんて。
TRAVIANさん、お褒めにあずかり恐悦至極。刹那のパワーアップ案があったするのですが、当分先なのでガチはまだ無理ですね。
ヒルネスキーさん、・・・・・・実はそれを考えたこともあったり。
我が逃走さん、褒め言葉ですね。謀貧弱忍って・・・クサビですかね?日向の。
ニッコウさん、2828してください。さて今回のはいかがで?
しえさん、ありがとうございます。続きをどうぞです。
Gfessさん、気絶させたので翌朝に飛びました。まあ戦闘終了後の話になるんでしょうが。
オポさん、冷静キャラって扱いやすいんですよね。何ででしょう?
レイさん、・・・れ?そうですか?ゆめうつつはシリアスが続かないのですよ。どうしてもコメディ風な物を入れたくなりまして。
jannquさん、原作は破壊するためにあるんです。とか言ってみる。大蛇丸・・・お、言い物思いついた!
ではまた次回。テスト近いので遅くなっても悪しからず。