群雲に突如現れた軍師、笹草新羅。
その鬼謀を以て電撃的に群雲を手中に収めた彼であるが、
やはり上に立ってみて初めて分かる苦労というものがある。
その新羅の最近の悩みというのが――
「・・・・・・お金が足りない・・・」
戦費に費やしすぎたが故に燃え上がった火の車。
要は資金難であった。
・・・・・・いや、潰れるとかリストラとかそういう話じゃなくて、目標に足りないわけ。
発足した五行の運営にはなんら困ることはないのだが、巻き込んだ他都市を支配するにはどうしても足りない。
企業で言う資金は給料に始まり、経費、光熱費、情報料等々上げればキリがない(特にこの世界では)。
そして他都市の裏を制圧してしまうには遠征費がかかる。危険手当も出さねばなるまい。制圧し支配した後はそこで登用した社員に払う給料も必要だ。
それだけの要素を含めて考えてみると、現況のままでは全て治めるのに4年、早くて3年は必要となる。それではうちは虐殺に間に合わない。
金が出るからこそ下は勇敢に忠実に従うのだ。忠誠だけでは人は付いてこない。
「遅くても後2年内に終わらせたいんだけど・・・・・・さもなきゃ五行創った意味ないし・・・」
打開策はいくつかあるが、どれもまだ時期じゃない。早過ぎる、もしくは切り札として成り立つ要素が欠けているのだ。
「今札を切っても効果はたかが知れてるし・・・・・・どうするかな」
そんなこんなで執務室で一人支配者の苦しみを味わっていると、ノックもなしに突然ツムジが飛び込んできた。この執務室の扉はデスクの真正面ではなく横側に造られているため、側頭部が丸見えだった。
「若大将今賭場に――」
ヒュンッ。ガスッ!
言葉も行動も中途で完全に凍り付く。反射的に首をすくめた頭上を、危機的速度で通り過ぎ壁に備え付けの的に突き刺さったのは――短剣。パラパラと、髪が何本か地に落ちた。
「やりなおし♪」
「イエッサーッ!」
有無を言わせぬ笑顔で関門開きの扉を指差され、ツムジは顔を青くしてすぐさま踵を返す。
扉を閉めて、命があったことをまず神に感謝し、呼吸を整えてから改めてノック。
「入れ」
「失礼します!」
先の慌ただしさが嘘のように洗練された礼を以てツムジが入室した。
「よしよし。やっぱり上司が手本をにならないと部下に示しが付かないからね」
「若大将・・・やっぱ、戦闘部門の総責任者なんて立場、俺には重すぎんですが・・・・・・」
「それだけの戦功、才能を評価してのこと。護衛としても、頼りにしてるからね?」
「はあ・・・」
返事なんだか溜息なんだか不明な声をツムジは漏らす。前々から思っていたことなのだが、この主人に護衛が要るのか甚だ疑問であった。・・・・・・投げナイフの達人だし、わざわざ壁に的付けてるくらいだし。
その的を脅し以外に使ったことがないのもまた問題だが。
「で、賭場がどうしたって?」
「っとそうだった!今賭場が凄い見物になってんすよ。若大将も是非見るべきかと!」
「見物・・・?」
「ここ群雲の賭場に世界最高の獲物がですね、丁度よくやって、来て・・・まし・・・・・・て」
尻切れトンボに途切れるツムジの言葉。
相対する新羅の笑顔は、濃く、深く。
にぃ・・・と唇が弧を描いていた。
・・・・・・ヤバイ。
何がヤバイかって、獲物の命運が。
戦の最中、幾度か見たことのあるその笑みは、
巣に掛かった餌を見る、八つ足の笑顔。
「へえ・・・・・・それは是非とも、みないとね・・・」
・・・・・・すまん、伝説のカモ。骨は拾ってやるから恨まないでくれ・・・
祟らないでくれと、祈るツムジであった。
3と、10と、7。計20。対してディーラーは8と6とA。現在15。
このまま行けば十中八九、いやまず間違いなく勝てる。次に引いたカードが4以下、7以上ならこちらの勝ちだ。敵が勝つ確率は、13分の1、引き分けを合わせても13分の2。
ベットしたチップの山に目をやる。今日の残り全財産。これに勝てば、負けを取り返せる・・・!
「引きます」
誰かが生唾を飲む音が聞こえる。無数の視線に晒されて熱が生まれ、熱膨張の如く高まる緊張感。伝説のカモまさかの逆転!?という声もどこからか、耳に届く。
ああそうとも、これを待っていたのだ。誰だ、私をカモなんて呼んだ奴は。能ある鷹は爪を隠す。とうとう、私の博才も芽吹く時が来たらしい。さあ今日から全てを取り戻すぞ・・・!
と、そんな意気込みで見る先。
ディーラーが束からカードを1枚、引く。
13分の11。勝率約85パーセント。
そこに、大金が賭けられている。盛り上がらないはずが、ない。
カードが、ゆっくりとめくられていき・・・・・・
衆目の視線に晒されたその表は・・・・・・・・・・・・
♣ 6
「ブラックジャック!!」
誰かが興奮の叫びを上げ、押し包められた熱狂が大爆発した。
ギリリ・・・・・・と歯噛みの音。周囲の喧噪がやかましい。・・・おのれ、またしても・・・・・・!
「お、惜しかったですね、綱手様」
トントンを抱いたシズネがそう言ってくれるが、負けは負け。覆らない。賭けた金は、戻らない。
希望に満ちた未来が消えていく・・・・・・
「あれ?せっかく来たのに・・・もう終わった?」
綱手が消沈した内心を押し隠していたその時、どうにも呑気すぎる、カジノという場にそぐわない声が耳に届いた。
それは決して大きな声ではなく――しかし絶対に聞き逃せない気配を放つ・・・声。
瞬間、静まり返るカジノ。何だ?と疑問に思ったのも束の間。
「「「オ、オーナーッ!?」」」
驚愕に染まった絶叫が、その理由の答え。
ざざっ、と割れる人垣。伝説のカモを一目見ようと集まっていた野次馬が、一斉に道を空ける。
その先に現れた人影を認めて・・・不審から、綱手は眉をひそめた。
若い、いや若すぎる男。むしろ少年とくくっても、間違いとは言い切れないような年代。
・・・・・・こんな若造が、ここのオーナー?冗談だろう?
フードの向こうに覗く黒瞳は確かに理知的だが、いくら何でも若すぎるのではないか?
「ほらほら、そんな緊張しないで。ちょっと野次馬根性出して来ただけだから」
「若大将・・・そりゃ無理な話じゃないですか?」
隣の、どうも護衛役らしき男が言う通り、オーナーの突然の登場に固まっている者幾十数名。
「ふむ・・・まあいっか。さて、お初にお目に掛かります。ここの経営総責任者、笹草新羅です」
フードを脱いで礼を尽くしてくるオーナー・・・笹草新羅。怜悧な面立ちの中、黒い双眸が細まる。
「このたびは我がカジノのご利用まことにありがとうございます。おかげさまで多大なる寄付金を頂き、感謝のしようもありません」
訂正。礼を尽くすかと思ったら、いきなり皮肉が来た。
・・・・・・私の掛け金を寄付だなどと・・・言ってくれる・・・!
青筋が浮かぶ様子を目の当たりにし、あひぃー!とこっそり悲鳴を上げるシズネ。これ以上刺激しないことをひたすら祈っている。
「・・・そのオーナーが一体私に何の用だ」
「先ほども言った通り野次馬のつもりで来たのですが・・・もう終わってしまったようですね」
「生憎、私は見せ物のつもりがさらさら無くてな」
「しかし、このままお帰りになられてもまったく面白くないですし・・・」
困ったように、飄々とのたまってくれる笹草新羅。自然、青筋が太くなる。
「では1つ、ゲームなんていかがでしょう?」
「ゲームだと・・・?」
「ええ。互いに10万両ずつ資金として用い、最終的にどちらが上か競う・・・なんてどうですか?」
「ふん・・・面白そうだな。だが私にはもう金がない」
「こちらで負担しましょう。元手をオーバーした分はお持ち帰りして構いません」
その新羅の発言に場がざわついた。綱手にとって有利すぎるルールだ。資金を向こうが用意してくれるというのだから、デメリットが欠片もない。
「・・・何を企んでいる?こっちにはメリットしかないぞ?」
「娯楽です。貴方の負けっぷりを見てみたいもので」
――空気が凍った。
ダラダラと冷や汗が止まらないシズネ。静まり返った室内で、騒々しいバックミュージックが耳に痛い。
「この私を前にして・・・・・・ここまで啖呵を切った奴は、久し振りだ」
ニィ・・・。口の端が持ち上がり、凄絶に綱手は笑む。
「いいだろう・・・その勝負、乗った!」
「娯楽へのお付き合い大変感謝いたします」
「皮肉も能書きも一切不要だ。ゲームの説明をしろ」
「そうですね。では説明に入りましょう。種目は・・・・・・ルーレット」
ルーレットの台を前にして、向かい合う両者。
「僕は経営者でして、ギャンブルは余り詳しくありません」
「ふん、群雲一のカジノオーナーの言葉とは思えんな」
いつの間にかその周囲に踏み台が建てられ、観客がひしめきコロシアムめいた様相となっている。
「ですので、今回に限っては特殊ルールとして、お互いに玉を放りましょう」
「何?」
「5回ずつの計10回。賭け方は自由、配当はそのまま。・・・どうです?」
新羅の思わぬ提案にまたも場がざわめく。
ギャンブルにおける新羅の手腕が不明の今、傍目提案した側の新羅が有利に見える。しかし一般には余り知られていないが、それに相対する伝説のカモはこう見えて木の葉最強のくの一であり、コツを掴めばイカサマ程度すぐに習得するだろう。
そうした思考の末に、綱手は決める。
「いいだろう。負けた後で吠え面をかくなよ?」
――ギャンブルの中で、綱手が自信に定めた約束事。
忍びの能力を活かした、イカサマをしないこと。
運に任せるからこそ、ギャンブルは面白い。
・・・・・・見抜く目ぐらい持っている。そっちがその気なら、こちらにも考えがあるぞ・・・!!
綱手の返答に、新羅は一礼。チン・・・と音を響かせてコイントス。
「どちら?」
「表だ」
重ねた手をどけると、絵のある方。
「表ですね。先攻、どうぞ」
「若大将・・・どっちでも意味ない気が」
「ツムジ・・・・・・その小うるさい口を閉じないと首と胴が泣き別れす」
「全力で黙らせていただきます!!」
さておき、ベット。最初は無難に赤へ1万両。負けっぷりがどうのと言っただけあり、新羅は黒へと1万。
綱手がボールを投げ入れ、摩擦を減らされたルーレットは慣性のまま球体を滑らす。
「おや・・・意外にも手慣れてるようですね」
「手先は器用だからな。・・・まあ、器用でなければとっくに死んでいるだろうが」
軽口には、やはり軽口で返すが最良。ペースが乱れる。
やがてボールが減速し、落ちたポケットは――黒。
新羅:11万両 綱手:9万両
「くすくす・・・早速見ることができました」
「フン、まだこれからさ」
そう。これはまだ序の口に過ぎない。あと9回も賭けるチャンスは残っている。
「次は僕の番ですね」
次いで、ベットする前に新羅は玉を投じた。
7回目が終了。現在、
新羅:27万4千両 綱手:3万8千両
「くすくすくすくすくす・・・・・・いや、楽しいですね。これ以上ないくらい、見事な負けっぷり。適当に賭けているだけで、ここまで勝たせてもらえるなんて・・・」
言葉より前に、笑い声が癇に障って仕方がない。無性に神経を逆撫でしてくる。
「っ・・・・・・。まだ、3回もあるぞ?その余裕が、命取りにならなきゃいいがな」
・・・・・・冷静だ、冷静になれ。勝てる勝負も、勝てなくなるぞ・・・
「次はお前だ、早く投げろ」
せっつくような綱手の言葉に、しかし新羅はボ-ルを弄ぶ。
「まあ慌てない慌てない。ああそうだ・・・・・・賭け金が無くなったら、その首飾りを賭けていただいても構いませんよ?」
思わず、シズネが息を呑んだ。そっと綱手の横顔を伺う。
「・・・・・・悪いが、これは大事な物でな。賭け事に使う訳にはいかん」
あの首飾りを引き合いに出され、綱手の頭が一気に冷えていた。・・・・・・良かった。これなら、少しでも目が・・・・・・
冷えたから勝てると思うほど、シズネの付き人生活は短くなかった。
と、新羅が口元を歪ませた。
・・・・・・さっきまでと、笑みの種類が違う・・・?なにか、厭な感じが・・・・・・
「そうですねぇ・・・・・・それは大事な物ですよねぇ・・・」
妙に引っかかる間の伸ばし方。綱手が疑念を口にする前に、玉が投じられる。
それはごく自然な意識誘導。反射的に視線はボールを追い、頭は独りでに確率を分析し始める。
そこに生じた――否。作り上げた意識の間隙を縫うように、
「魂二人分は重いですよねぇ」
「っ!!?」
新羅の囁きが過たず・・・
心的外傷を――――――刺し穿った。
言葉の意味を理解してない外野は、ただ首をひねり、ゲームの続きを気にするだけ。
しかし8回目・・・・・・最後まで、綱手が動くことはなく。
「おや、賭けないのですか?・・・残念、時間切れです」
赤に落ち、また新羅のチップが増えた。
依然として飄々とした態度を崩さぬ新羅と裏腹に、綱手は、歯を砕かんばかりに食いしばっている、蒼白な表情。
「綱手様・・・」
「・・・・・・大丈夫だ。ただ、気を付けろ」
気遣う付き人に、それだけを返す。
今の、発言・・・・・・。
どういう訳か、目の前のオーナー・・・まだ若造と呼んでもいいようなオーナーは、私の過去を知っている。・・・・・・あの話を記憶に留めている人間は限られているが・・・誰だ?誰が話した?自来也・・・・・・ない。色事にはあちこち捻子の外れた大馬鹿だが、みだりに人のプライベートを話すほど分別のない奴ではない。ならば、大蛇丸?あいつなら面白半分で口にしてもおかしくはないが・・・・・・私に対して有効打を取れる手札をみすみす晒すとも思えん。・・・・・・残るは、里の上層部か?くそ・・・。一体誰が話した!?
「ほら、貴方の番ですよ」
嗤いながら私の前にボールを置く新羅。・・・・・・腹立たしい奴だ。しかし、この笑みは・・・
「・・・・・・どこぞの蛇のような笑い方だな」
「!?」
ポツリと漏らした私の言葉に劇的な反応――ショックで打ちひしがれている――を示した笹草新羅。・・・・・・そこまでショックだったか。いや、ショックだろうな・・・
この様子からして、大蛇丸のことは知っているようだが。
「蛇・・・僕が蛇・・・・・・あんなオカマと・・・変態と一緒にされた・・・・・・」
「あの、若大将?若大将はどっちかっつーと、蛇じゃなくて蜘蛛な気が」
「・・・・・・ツムジ」
「はい?」
「減俸5割」
「なっ・・・・・・かっ、考え直してください若大将っ!」
「青大将って呼ばれてるみたいでヤダ」
「そんな!?」
・・・・・・何なんだこの主従は・・・
目の前の遣り取りに状況も忘れて、内心ごちる綱手だった。
「――コホン。続きをどうぞ」
「あ、ああ・・・」
仕切り直しとばかりに咳払いし、睨み付ける新羅の妙な気迫に押され玉を放り・・・・・・放ってからどこに賭けるか考えてないことを思い出した。
――ぬかった・・・・・・!私を引っかけるための芝居だったか・・・・・・くっ、役者め・・・!
実を言うと新羅もとい刹那は完全に素であり、綱手の身勝手な被害妄想に過ぎなかったことをここに記しておく。
咄嗟に黒に賭ける綱手だったが、玉はあろう事か0に落ちた。緑である。
9回目。勝者無し。
新羅:21万両 綱手:2万両
「ほんっとにギャンブル弱いですね・・・・・・確率2分の1をこれでもう5回も」
「うぐ・・・・・・か、かくなる上は・・・」
赤の5。残りチップ全て、1枚賭け。
当たれば36倍、72万両。
「37分の1に賭けますか・・・」
「外れればそれまでだ。元々損はない」
「・・・つまり、当たれば大当たり、と」
「・・・?何が言いたい」
「つまらないこと聞きますが・・・賭け事で大勝ちしたことは?」
「・・・・・・無いこともない」
伝説のカモの勝ったことがあるというセリフに沸く場内。どよめく。
が、新羅は成る程・・・と呟くだけ。・・・・・・気味の悪い奴だ。ここは周りのように驚くなり、冷やかすなりが妥当だろうに。
こちらのトラウマを突いてきたかと思えばそのまま畳み掛けるでもなく、かと思えば芝居を打って来る上、問いに答えればおよそ一般的とは思えない反応をする。
まともな思考回路でないことは確かだと、綱手は思った。
「神社に、おみくじってあるじゃないですか」
突然話し始めた新羅に、首を傾げる綱手。
「あるが・・・それが何だと言うんだ?」
「あのおみくじ・・・なかなか『凶』が出ないんですよね」
「・・・・・・?」
「やっぱり神社も商売ですからね。『凶』より大吉が出た方が参拝者も喜ぶでしょうし、また次も来ようって気にもなりますし」
・・・・・・こいつは、何の話をしている?
「でも確率的に言うと、『大吉』よりも『凶』の方が数が少なくて、『幸運』なんですよね。形としては『凶』なのに」
「・・・・・・・・・」
「じゃあ逆に考えてみると、『ハズレ』るのが普通の人が時たま大『アタリ』した場合・・・・・・それは本当に『幸運』なのかな?」
「――っ!!」
「形としては『アタリ』だけど・・・・・・発想を逆にすると、それは最大の『不運』じゃないのかな?」
「っ・・・・・・ぁ」
――頭の中が、その一言で掻き乱される――
新羅が、玉を放った。
音はない。いや聞こえない。心臓の音だけが鼓膜を叩く。
目は、勝手に玉を追う。耳は何も聞き取ろうとしない。流れる冷や汗が、気持ち悪い。
1周、2周、3周。ボールが回る、廻る。
時が緩慢だ。いや違う、認識が遅いだけ。時はいつも、遅くなりなどしない。
――そう、あの時も、あの時も、いつだって――
カラン・・・・・・。玉、が、落ちた。
パチ、パチ、パチ、パチ・・・・・・。拍手の、音。
「おめでとうございます」
新羅の、高くも低くもない中性的な声が、頭の中でひび割れたように鳴る。
「赤の5。大当たりですよ」
ああ・・・・・・
はっきりした。
こいつは、人の精神を追いつめることにかけては・・・・・・大蛇丸以上だ。
「さあ賞金です。元金の10万を引いた62万両。どうぞお持ち帰り――」
「そんなはした金、くれてやる!!」
ガタン!と椅子を蹴立てて立ち上がった私は、奴を一顧だにすることなく店の外へと出ていった。
「ふむ・・・でも負けた僕がもらうのも何だよね。それじゃ、拾った者勝ちだ!」
背後でそんな声と、チップをぶちまける音。途端溢れかえる熱狂。
それら全てを背に受けながら、綱手はカジノの外へ出た。
あの喧噪が嘘のように静かな、夜の群雲市街。空の三日月が、嗤った唇みたいで癪に障った。
「綱手様・・・・・・」
追いかけてきたシズネ。ダンの姪で、私の付き人。
耳慣れたその声と、いつの間にか近くにあることが普通になっていたその気配。
・・・・・・ようやく、頭が冷え・・・心も落ち着きを取り戻してきた。
そうして巡り始める綱手の思考。
後に5代目火影にまで上り詰めるその頭脳は、これからすべきことを瞬く間に導き出す。
「・・・見張りを頼む」
「!――はいっ!」
トントンを置いて、闇に紛れるシズネ。今の一言で、私の言いたいことは察したはずだ。
「報復・・・では大人げないな。だがあんな失礼なガキには、きっちり仕置きしてやらねば」
せいぜい・・・・・・覚悟していろ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
感想少ないとか言ったくせに投稿の遅れたゆめうつつでした。
いや、実は予想外に長くなりすぎまして、このお話。ここで一旦区切りました。逆に、次短くなるような気がしないでもないような・・・。
ザクロさん、お待たせでした。しかしまた切ってしまっていたり・・・スミマセン。
gnakさん、34話、実はないことに気付いて入れようとしたらアルカディア休止となっていたんです。そしてなかなか書き上がらない次話。おかげでこんな遅くになってしまいました。
まるまるさん、はい。綱手との話です。続いてますけど。 刹那の分身は本編時間軸で2体です。新羅と砂にいる分だけですね。・・・今は。
我が逃走さん、実はゆめうつつ、薬を話に出すべきか非常に迷っていたのです。ホントに。でもほかに良い資金稼ぎの案が浮かばなくて・・・。あ、薬の話はしっかり書きますので、ご安心を。
野鳥さん、その通り。麻薬じゃないのでGOです、GO。詳しい説明は今後をご期待ください。
ニッコウさん、・・・いえ、二回書くという問題ではない気が・・・。さておき、いつもいつもありがとうございます。現状では風影死亡フラグ、そのままでもへし折っても良いかな~、と、考えていたり。
ttさん、う~ん。作品の続き的に答えにくい感想ですね。いえ、感想はとても嬉しいです。う、嘘じゃないですよ?
やはり感想をたくさん頂けるとゆめうつつのモチベーションも上がりますね。気合いが違います。
これからも、是非ごひいきにお願いいたします。
(誤字修正いたしました。黒騎士さん報告ありがとです!)