コポコポコポ・・・・・・ズズ・・・・・・・・・はあ。
「紅茶が美味しい」
「お・・・俺は無視か・・・・・・」
身体を引きずりながら椅子に這い上がるシギ。・・・20分。なかなか早い復活だ。雷遁を浴びたというのに元気なものである。
「あれ、生きてたの?」
「・・・・・・お前に期待した俺が馬鹿だった」
諦観を込めてシギは呟き、がっくしと机に上体を預けた。所々焦げてはいるが、まあ許容範囲だろう。
「・・・ところでよ」
「ん?」
「仮に説得が上手く行ったとして、里の上層部がそれで納得するか分かんねえぞ?」
「・・・・・・くすくすくす。大丈夫、安心していいよ。しっかり裏工作してるから」
「・・・いや、木の葉相手にどこをどう安心しろと?つか、その笑い方が既に安心できないんだが?」
「さあ・・・?心配するのは勝手だけど・・・意味ないよね。シギにしてもらうようなこともないし、今は仕込みの段階だし」
「仕込みねぇ・・・・・・。敢えて中身は聞かんが、いつ頃完成するんだ?」
「謀略、奸計、策謀、計略・・・・・・悪巧みっていうのは、じっくり煮込めば煮込むほど効果が高くなる。だからまあ、慌てる必要はないよ。とりあえずの目安として・・・うん、シスイが死んだら動こうか」
「少なくとも数ヶ月は後なわけか」
「そ。修行でもしながらのんびり待てばいい。そろそろ・・・砂で動きがあるはず」
「・・・・・・砂?」
訝しげなシギの視線に、刹那はただ、笑うだけ。
――砂の里。
「バキ様」
「どうした」
半分隠した顔の下、視線も向けずバキは聞く。その目が向かうは己の書類。忍者と言えど上忍にもなれば事務仕事も重要となる。
「里の門衛から連絡があったのですが」
「管轄が違う」
「いえ、その、なんと言いますか」
「歯切れが悪いな。一体なんだ」
「・・・・・・バキ様。守鶴の器に、友達など居るのでしょうか」
「・・・・・・は?」
信頼している部下の報告だが、さすがに耳を疑った。いきなり何を言い出すのだこいつは。
「里の前に、器の友達を名乗る子供が来てまして、里に入れろと」
・・・聴覚以前に正気を疑いたくなった。
「・・・待て。確かな話か?それは」
「は。報せでは、間違いないそうで。・・・いかがしましょう?」
「・・・・・・」
弱った。これが他の誰かなら、たとえ風影でも確認は楽なのだが。
相手はあの我愛羅である。下手をすれば話しかけただけで命を落としかねない狂犬、いや狂獣だ。本人確認も容易ではない。
「その子供の名は?」
「それが、器に友達が来たと伝えれば分かると、その一点張りだそうで」
「・・・普通なら話にならん。が、取り合わない訳にもいかんか・・・・・・」
「申し訳ありません」
「言うな。追い返した後でそれが本当だった場合、俺の首が飛ぶからな」
飛ぶというか、潰れて見る影もないかもしれないが。
・・・・・・考えるだけで虚しいな。さっさと行くか・・・
自分をあの姉弟の担当教師に任命した風影に、今更な愚痴をこぼしつつ。
とはいえ直接本人に聞くのはやはり躊躇われたので、周りから情報を得ようとし、結果見つけるまでに結構な時間がかかってしまった。
風影邸に行けば演習場にいると聞き、演習場に向かえば帰ったと言われた。倦怠感宿る二度手間に溜息しながら、最初に行った風影邸でようやく目的の2人と接触できた。
「テマリ、カンクロウ」
「ん?バキ?」
「なんか用じゃん?」
「聞きたいことがあってな。・・・我愛羅は居るか?」
「居るには居るが・・・・・・」
「なんか用なら、後にした方がいいじゃん」
「何があった?」
2人は顔を見合わせ、フッと遠くを見るような、虚ろな表情に。
・・・・・・本当に、何があったのだ?
「・・・手紙がね、返ってこないんだって」
「・・・・・・何?」
「この間、カシワ商隊ってのが来たじゃん?そん時、仲良くなった奴が居んだよ」
「意気投合というか、向こうの懐が深いというか・・・・・・この一月、我愛羅の頭の中はそいつとの手紙の遣り取りでいっぱいなんだ」
「その相手から返事がなかなか返ってこないとかで、今めちゃくちゃ機嫌悪ぃじゃん。向こうは年中移動してるような商隊なんだから、時間的にムラがあって当然なのに、全然聞かねえんじゃん」
「それは・・・・・・友達か?」
問いかけ、もとい確認に、嫌そうながらも2人は首肯する。
「最悪なことに、じゃん・・・・・・」
「私達はいい思い出ないんだけどね・・・・・・」
嫌な物を思い出してしまったらしく、どんよりと空気が陰る。虚ろな表情が、更に深みを増した。
どうも、話題にすらしたくないことだったらしい。我愛羅もこんな話を語るような性格ではないので、今まで自分がその相手とやらを知る機会がなかったのは単なる偶然のようだった。
に、しても。
・・・・・・一体全体、何があったのだ?この2人にこんな顔をさせるとは・・・
目前の光景に、バキは幾らか、冷や汗。
「そんなに、マズい奴なのか?」
「マズいって言うか・・・・・・とにかく頭の良い奴で、気付いた時にはどこにも逃げ場がないんだ」
「前に一度、それで嵌められたことがあんじゃん」
「我愛羅を敵に回してしまったあの時ほど、恐ろしかったことはないな・・・・・・」
「そ、そうか」
バキが思わず目を逸らしたくなるほど、今の2人の顔色は悪かった。ある種のトラウマなのだろう。
このような話を聞かされた後では傷跡を抉るようで非常に言いにくいのだが、言わない訳にも行かない。
主に自分の寿命的な理由から。
2人には耐えてもらうとしよう。
「・・・・・・ところで」
「うん?」
「今里の前に、我愛羅の友達を名乗る子供が来ているのだが」
「「・・・・・・な」」
「我愛羅に、友達が来たと伝えれば分かるとか、言ってるらしい」
「「なにぃいいいいいいいいいいいいいっ!?(じゃんっ!?)」」
思う様に絶叫する姉弟上2人。我愛羅に聞こえやしないかとバキは焦ったが、話の当人が出てくる気配はなくほっと胸をなで下ろした。
が、実際の被害を被った2人はそんなことに配慮する余裕はないようだった。
「・・・声が大きいぞ」
「いや、だってあいつが!って、あいつか!?」
「ま、間違いねえって!そんな無駄に自信あるような言い方、あいつしか居ねえじゃん!?」
「あああ!!やめろっ!もうイカもタコも嫌だっ!!」
「ほうれん草はもう勘弁してくれじゃんーっ!!」
いい具合にトラウマを突いてしまったようだ。挙動不審も極まりない。
・・・・・・いやいや、冷静に観察している場合ではなかった。たとえ半ば錯乱状態の2人が愉快な顔をしていたとしても。
「落ち着け2人とも。向こうの手口を知っているなら、そうならないよう動けばいいだけだ」
「・・・ハッ!それも、そうか・・・」
「考えてみりゃ、前回のはある意味自業自得だったじゃん・・・」
ふう、やれやれと。額の汗を拭う。
落ち着いたのを見ながら、しみじみとバキは言った。
「それにしても信じられんな。あの我愛羅に友達なんて高尚ものができるとは」
「ああ、それは分かる。私もあの時は信じられなかった」
「殺し合ってもいねえってのが、また驚きじゃん」
「本人の前では言えないけどな」
「ならば、その本人が聞いてないかも、確かめるべきだったな」
――瞬間、世界が凍った。
身を軋ませながら一様に顔を向けた先に、ズゴゴゴゴゴ!という擬音が似合うような気配を大放出させている我愛羅の姿が!
しかも既に砂が集まりつつある!
「覚悟はいいな?特にテマリとカンクロウ。貴様等の間で、まさか俺のことを雑談のネタにできるとはな。どうやら恐怖が足りなかったようだ。――骨の髄まで刻んでやる」
一歩、一歩。歩く度に近づく度に、目に見えて砂が増えてゆく。
歩み寄りしは砂瀑の化身。かの存在は絶対なる恐怖を以て操砂せしむる。逃げ場は、ない。
最早3人の顔は蒼白を通り越して真っ白だ。パクパクと金魚のように口を開閉させている辺り、上手く呼吸ができているかも怪しい。
「いつだか、刹那が言っていた。何かを成すなら、全力で。やるからには、徹底的に殺れと」
絶対字が違う。3人が共にそう思ったが、指摘する勇気があるなら逃げ出している。
「・・・末期の祈りは済ませたか?そろそろ、真実肉塊に変えてやろう」
「あ、ああああああの、が、我愛羅?」
「そそそ、その前に言っておくことが、あんじゃん!」
比較的我愛羅の殺気に慣れている兄と姉がどもらせながらも口を開けたことに、バキは軽く尊敬しそうになった。
・・・・・・だ、だが!この状況で我愛羅の説得など・・・・・・くっ、短い生涯だった・・・
人生は諦めていたが。
「命乞いなら聞きはしな――」
「里の前に刹那が来てるんだ!」
絶えず流動していた砂がピタリと止まる。助命の芽が出て高まる期待。しかしすぐまた動き出して、
「くだらん嘘で俺を惑わそうなど・・・」
「バキ!バキっ!なんとか言ってくれじゃん!?」
「・・・た、確かな話らしい。わざわざ、確認が俺のところに――」
言いかけ途端砂が吹き荒れ視界が塞がれ気付いた時にはそこに我愛羅の姿はなく。
後にはただ砂塵のみ。
残された3人は殺気の大本が消えたため、全力で脱力する。
「「「・・・・・・た、助かった(じゃん)」」」
どうも、信憑性が出た瞬間に砂瞬身で向かったようだった。友情を大事にするその姿勢は素晴らしいのだが、周りからしてみれば悪夢でもみるかのような心境である。
いいことなのだが、心臓に悪いのは何故だろう。
「・・・・・・おい」
「・・・・・・なに」
「俺が知っている我愛羅なら、あんな風に口でいたぶってくるような真似は、しなかったはずだが」
口を開く暇があるなら、砂を飛ばすというか。
「ああ・・・あれね・・・・・・」
「前に刹那が、言ってたじゃん・・・」
「刹那・・・例の友達の名か。それが、なんと?」
「『我愛羅は喧嘩は強いけど口論は苦手だから、そっちも鍛えた方が良いよ?戦闘に応用できたら恐怖を煽ったり精神的余裕を失わせたりできるからね』って・・・・・・」
・・・・・・なんと言うか。
「しっかり手綱を握られてるな。仮にも里の最終兵器だというのに」
「うん・・・お父様にも相談したんだけど、それでかまわんって言われて・・・」
「風影様は・・・一体何を考えておられるのだろうか・・・・・・」
「「さあ・・・」」
「・・・・・・」
それにしても。
担当教師である自分の言より、唯一の友達とは言え子供の意見を取り、あまつさえ実践しているとは。
・・・・・・・・・・・・。
軽く、プライドが傷つけられたバキであった。
我愛羅は駆けた。砂の里特有の外観を持つ建物の、外壁を蹴り天井を踏みつけ時に踏み砕き、自信の全速を以てひたすらに駆けた。
・・・・・・刹那が、きた。
それ自体とても喜ばしいことだ。友人の来訪はそれだけで嬉しいものだ。
しかし。
・・・・・・『何故』だ?
商隊としてきているのなら、門前で待たされるなど有り得ない。通行証があるからだ。わざわざバキのところまで本人確認が行くはずはない。
つまりは、1人。あったとしてもせいぜい数人の可能性が高い。
・・・・・・何があった?
「『何故』、単独行動をしている・・・?」
あの刹那が、理由なく商隊を離れるとは考えられなかった。
ただ自分に会いに来ただけと考えるほど、我愛羅は無能ではない。自惚れてはいない。何か特別な理由と目的を持って訪れたはずだ。
それは一体、何なのか。
類い希な知性を有する彼は、何をしに里へ来たのか。
・・・・・・きっちり、説明してもらうからな。
また一つ、民家を越えて。
門が見えた。
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予定より一日遅れたゆめうつつです。どうもすみません。
再び場面は砂へと移りました。次の投稿でまた別のに移るつもりですが。
トマトさん、ありがとうございます。ナズナに関する意見って、今まで出なかったんですよね・・・これでいいのかどうかと、少し悩んでいたり、いなかったり。
ザクロさん、刹那は用心深いのです。罠はたくさんあるのです。だからこれは当然です。・・・・・・多分。
そう言えばようやくPVが見た目十万超えました。皆様のおかげです。ご愛顧ありがとうございます。
うっかり全削除などしていなかったら累計二十万オーバーなだけに、自分が恨めしかったり・・・・・・。
さておき、これからも頑張ります。微妙に、モチベーションは下がりつつありますが、まあ、気力で。