刹那とサスケの試合から数日後。アカデミー帰りに刹那に誘われ、シギは白亜邸を訪れていた。
「まず言いたいことが1つ。・・・・・・何だこの家は!」
「・・・うちのお母さんの好みだからノーコメントで」
視線を逸らしている辺り、刹那も同意見らしい。散財もいいところだ。
5LDKだか6LDKだか知らないが、たった2人でこの広さは無駄そのものだろう。
「逆に広すぎて、ちょっと寂しいぐらい何だけどね」
「あー・・・」
その表情に何も言えず、口をつぐむ。
「・・・まあ座って座って!お茶と茶菓子持ってくるから」
「お、おう」
キッチンの方へ駆けてく刹那を見送って、洋式のテーブルに付く。・・・・・・ここじゃ洋も和もないが。
刹那が戻ってくるまで手持ち無沙汰になったので、何気なく部屋を観察してみる。
中央に長方形のテーブルを置き、壁際にはL字のソファが。他にも食器棚や風景画、ランプなんかもある。
「・・・思っきり西洋式だな」
仮にも忍者の住んでる家だと言うのに。・・・前世の経験から、違和感はないが。
「・・・・・・あ?」
部屋の角隅下に目をやって、妙な物を発見した。札だ。
(起爆札・・・・・・じゃあねえな。文字が違う。・・・いや、どっちにしろ理解はしてねえが)
何となく近寄ってしまい、覗き込む。
「・・・触ったらヤバげだな」
「ヤバいよ?はっきり言って」
いつ戻ってきたのか、お盆にティーポットとケーキを乗せた刹那が部屋の入り口に居た。珍しく真顔である。
「マジか?」
「・・・・・・まあ、肉片が残ればいい方かな?」
「家ん中に何仕掛けてんだお前ーっ!!つかそういうことは先に言え!」
飛び退くシギに刹那は爽やかな笑顔を向ける。
「やだなあ。常識的に考えて、忍者の家にある怪しさ満点の札に触ったりするはずないよね?」
くっ・・・正論故に返せん。
「それ口寄せのトラップなんだ。中に王水仕込んでる」
紅茶を注ぎながら説明する刹那に、シギは冷や汗を禁じ得なかった。
王水。本来腐食しないはずの黄金も溶かす最強の酸。人体なぞ言わずもがな。
「んなのぶっかかったら死ぬじゃねえか!!」
「殺す用の罠だからね」
えらく朗らかな顔でコポコポと紅茶を注ぐ姿は優雅に見えるが、言ってることは凶悪極まりない。
ちなみに結界用の札はその裏に仕掛けてあったりする。無論、そんなことを教えるつもりはないが。
「王水って金属だったら大体溶かすんだけど、銀は溶けないんだよね。金も白金も溶けるのに」
その白金族元素の中でもイリジウムだけは溶けなかったりするのがまた不思議なのだが、ここではどうでもいいことである。
「マメ知識をどーも・・・。・・・その紅茶に混ざったりしてねえだろうな?」
「ん?王水はさすがに入ってないよ?・・・他のはともかく」
「他のって何他のって!?」
「飲めば分かるんじゃない?主に症状が」
「誰が飲むかんな危険物!!どう考えても客に出すもんじゃないだろうがっ!」
「くすくす・・・まあ飲む飲まないは別として、座れば?紅茶冷えるよ?」
「・・・・・・俺は飲まねえぞ」
「お好きにどうぞ」
刹那とテーブルを挟んで向かい合う位置に腰掛ける。当の刹那は、紅茶を美味しそうにいただいていた。
・・・・・・いや、俺は騙されん!きっと事前に解毒薬を飲んでいたに違いない!
と、シギは自分を無理矢理納得させる。
「あ、そっちのケーキには何も入ってないから」
「信じられるか!ゾルディック家かここは!?」
「・・・・・・ああ、H×Hね。あの暗殺一家。大丈夫、うちにあんな異常者はいないから」
「既にお前が異常だよ・・・」
精神的疲労から、シギは机に突っ伏す。真剣に帰りたくなってきた。
「・・・俺何しにここ来たんだっけ・・・・・・」
「くすくす・・・今後の話し合いでしょ?シギの命が掛かってるんだから、もっと真面目にしないと」
「ああそうですね」
やる気を著しく削いでくれた奴に言われてもな!
「さて、うちは虐殺イベント回避に向けて、何か聞きたいことは?」
流れとか一切無視して話進めやがった!
「・・・・・・結局お前、どういう形に持って行きたいわけ?俺的には、生き残れたらそれで良いんだが。・・・フラグ無しで」
「んー・・・そうだね。基本的にうちはは全員生存が狙いかな。あ、シスイには死んでもらうけど」
あっさり死んでもらうとかのたまえるこいつの精神が怖い。・・・というか、
「シスイっておまっ・・・・・・万華鏡渡す気か!?」
「何か問題ある?」
「問題っつーか・・・・・・自殺行為だろ?」
「どこが?」
本気でキョトンとしているらしい首の傾げ方が腹立つ。
「俺はてっきり万華鏡会得前のイタチをどうにかして処分するかと思ってたんだが・・・・・・」
「甘い甘い。浅慮に過ぎるよ?ここはやっぱり、上手く説得しないと」
「・・・説得に応じるような玉じゃねえぞ?」
「普通ならね。そもそもイタチが一族皆殺しにしなきゃならなかった理由は、何だか分かる?」
「・・・・・・クーデター止めるのと、サスケを護るためだろ?」
「ん、正解。裏に木の葉への忠誠心もあっただろうけど、一番の理由はサスケだと思う」
それは・・・・・・分からないでもない。原作でも、最終的にサスケに殺されるために、倒されるべき悪を演じてたからな。
「イタチにとっての一番はサスケ。じゃあ二番は?」
「木の葉・・・はねえな。やっぱ一族か?」
「だろうね。でも一番を護るためにそれ以下を切り捨てた。1を救うために9を捨てたわけだね」
「普通逆だよな。9を救うために1を捨てるか、それか無茶して10救おうとするか」
「大事に思う比重が違うけどね。それでまあ、イタチには三番目をすててもらおうと思ってる」
「・・・木の葉か?」
「そ。でもそのためにはね、クーデター自体が起こってはならないんだ」
「・・・・・・いや、無理だろ?」
「正確に言えば、クーデターを諦めさせる」
「だから無理だろ!?前にも言った軋轢が色々あんのに!」
「くすくす・・・・・・1つ聞こうか。イタチは何故、クーデターを阻止したと思う?」
「は?んなのサスケを護るために、」
「違う。イタチはクーデターの失敗を確信してたんだ」
「!?」
「クーデターが成功するなら虐殺なんて必要ない。2足のわらじを履いてたイタチなら、どちらに付くこともできた。なのに一族を殺したのは、反乱が絶対に失敗するって分かってたからだ」
言い切って、刹那は少し冷えた紅茶に口を付けた。
・・・・・・有り、得る。つか、それ以外ねえ。
「分かった?つまりうちは一族にクーデターの無意味さを説いて、それを納得させればクーデターは止められる」
ズ・・・・・・。やや冷えた紅茶を流し込む。
対面では、シギがこちらの説明を必死に噛み砕いている。いいことだ。常に思考しなければ人間は衰える。
シギの様子を視界の端に捉えながら、買ってきたショートケーキに取りかかる。・・・ふむ、甘さ控えめのすっきりとした味わい。これはいい買い物したみたいだ。ナズナのバースデイケーキもここで頼もう。
「・・・・・・何する気なのかは、分かった。でも何でみすみす万華鏡渡すんだ?」
「んー?イタチがマダラの協力を得て皆殺しにしたのは知ってるよね?」
「ああ」
「言うなればね、抑止力が欲しいんだ。戦闘能力ばっかで脳味噌が足りてないうちはは、やっぱり力で説得するのが最適だから」
「・・・それで、イタチの説得?」
「そ。まあその辺は任せて。シギはシスイが死んだら僕に教えてくれればいい」
実際は今説明した以外にも裏工作は必要なのだが、ぞちらは既に遂行中だ。しばらくは鏡像任せで、僕は修行でもしとこうかな。
「・・・・・・なあ」
「何?」
「俺はただ生きてえだけなんだが・・・刹那は何で、うちはを救おうとしてんだ?」
「・・・・・・」
カチャリ・・・。フォークを置いて、ポットから新しく紅茶を注いで、口に含んだ。甘さに慣れた舌に、紅茶の苦みが染みてゆく。
「・・・・・・ちょっとした目的、いや、願いがあるんだ」
天井を見上げて、思い浮かべる。
「その願いはとても小さなことなんだけど、それを成すにはためには力が要る。それも生半可じゃない、ね」
瞳を閉じて、瞼の裏に見えるのは、優しさをくれた人。
「これはうちはに恩を売るためのチャンスなんだ。全てが上手く行けば、また1つ、力が手に入る」
「・・・・・・また?」
「いくつかは手に入れた。でも、足りない。全然、足りない」
そう、足りないのだ。
僕等が、何の気兼ねなく生きていくためには。
「・・・暁みてえに、か?」
「まさか。僕が求めるのは平和の先にある。あんな戦闘狂の集団と一緒にしないでよ」
あれと一緒にされては甚だ心外だ。恨みしか残さないようなことをするつもりはない。
・・・・・・でも長戸とは微妙に目的がかぶってるかもしれないね。うちはが片づいたら鏡像送ってみようかな。
「つまり、暁と敵対するんだな?」
「・・・・・・時と場合によるよ?」
利用するとか、仲間に引き込むとか。・・・あくまでできればだけど。
というか、シギはさっきから何を聞きたいのだろう?
「それじゃ最後に1つ。お前にとって、平和とは何だ?」
「・・・難しいこと聞くね」
でも、まあ。
「笑顔があることだと、僕は思うよ」
つまりは楽しいということ。ペインの言う痛みの平和とは、まるで違うのは確かだ。そんな平和じゃ、母さんもナズナも、カシワ商隊の誰も、笑ってくれないから。
「・・・・・・よし。それならうちは虐殺が回避できたら、今度は俺の番だな」
「何が?」
「決まってるだろ?今度は俺が刹那を手伝ってやるんだよ」
・・・・・・は?
「な・・・何で?」
「恩返しに決まってるだろ。鶴ならぬ鴫の恩返し。・・・・・・何驚いてんだ?」
「え?あ、いや・・・・・・うん。よろしく?」
「・・・・・・今初めて知った事実。刹那は天然だった」
「・・・・・・・・・・・・」
「ちょっ、待て!印結ぶな屋内で術使うな!!」
「・・・・・・うるさいっ。放雷天の術!!」
「ぎゃぁああああああああ!!!」
その日、痛ましい絶叫が白亜邸から響き渡ったそうな。
適度に焦げたシギに背を向け、赤くなった顔を隠す刹那。
照れ隠しにしてもこれはないだろうと、痺れながらシギは思った。
合掌。
ちなみにその頃。
「・・・?どうした我愛羅。急に振り向いたりして」
「いや・・・・・・何か、先を越されたような気がした」
「?何言ってんじゃん?」
「さあ・・・」
首をひねる2人をよそに、野生の勘を発揮しまくる我愛羅だった。
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ちょっと間が空いてしまったゆめうつつです。途中まで書いてたのに気に入らなくて全部書き直してしまった。
ニッコウさん、まあ、ナルトはそのうち書きますよ?今のところ全然目立ってませんが、大丈夫かと。・・・・・・多分。
野鳥さん、ありがとうございます。批判痛み入ります。ゆめうつつも後から読み直して、少々微妙に思っていたり。・・・前話、番外編に変更してみようかと考えている次第。
何やら進まないので、学園編はしばらくおさらばです。うちはに取り組みます。・・・・・・二次小説も書くの大変ですよね。
次の更新は一週間以内を目標に頑張ります。では、またいずれ。