「・・・・・・」
チラリ。サスケはわいのわいのといつも以上ににぎやかしい教室の、その原因を視界の隅で捉えた。
部屋の真ん中近い席で級友たちに囲まれる編入生・・・白亜刹那と、弥遥ナズナ。
水色の髪の方は、先日少しだけ話した記憶がある。・・・頭に血が上ったシギと初っぱなから戦りあってたから、よく覚えている。
そして女の方は・・・・・・見覚えはないが、初登校のホームルームの最中に突然気絶するという離れ業をしてのけた、変な奴。午前いっぱい潰して(寝て)、ようやく戻ってきた今は食事中だ。周りの応対をしながら、いやに美味しそうに食べている。
サスケは1人後方の席で教科書を開いていたが、2人に興味がないわけではない。むしろシギとの関係など、聞きたいことはいくつかあった。
だが、自分からあの輪に入っていくのは気が引ける。そもそもクラスの連中とは馴れ合っておらず、会話程度はこなしても、本当に親しいと言えるのはシギだけだ。・・・・・・妙に女子から話しかけられたりはするが。
・・・・・・土遁、使ってたよな。
白亜。確か、そんな名前の石があったはずだ。だとすれば、うちはが火を扱うのと同じく、土を操る一族なのかもしれない。断定はできないが。
先日の、突発的なバトルを思い返す。規模は小さかったとはいえ、あの水色の編入生は紛れもなく土遁を使っていた。アカデミーに入学してないにも関わらず、同い年の奴が。
「・・・・・・」
仄かに燻りだす、対抗心。午後の授業は外での実習。そこであいつの実力を見てやろう。
確か今日は・・・・・・組み手、だったか。
「せいれーーつ!」
号令一下、騒がしさが静まり並ぶ生徒たち。その中に混じって、刹那は内心どうしようかと迷っていた。
目立つのは、良くない。すこぶる良くない。むしろ悪い。
が、下過ぎると今度はナズナの機嫌が悪くなる。こちらも良くない。いや悪い。
んー・・・・・・ここはやっぱり、クラスの練度を見て、その中間くらいの成績で行こうかな。
授業自体は退屈だ。けど、その空気が好い。
同年代の子供と一緒に、時間を共有する。
互いの関係性を見て、何の利害関係も見あたらないそれが、ひどく、新鮮だった。
・・・・・・名家とのコネを得られるって利はあるけど、それはまあ別として。
「前回組み手を行うと言ったが・・・今ここで訂正する。今日は試合だ。男子と女子に別れて、それぞれ1人と戦ってもらう。この結果で成績上下するから各自気を抜かないよーに!」
えぇーっ!!・・・という抗議の叫びは教師なので当然気にも留めてない。
というか・・・困った。これでは全体のレベルを正確に計れない。運がないなぁ・・・
「それと、編入生2人はいきなりで悪いが、1学期の屋外実習の成績はこれで5割ほど決まるからな」
「・・・手厳しいですね」
「時期が時期なもんでな。本当に悪いんだが・・・」
確かに、もう1月もすれば夏期休暇だ。学生の特権長期の休日。・・・・・・補習というか、夏合宿みたいなものはあるらしいけど。
「抗議したって意味ないですし、気になさらなくてもいいですよ。ナズナもいいよね?」
「うん!刹那くんがいいなら!」
・・・・・・落ち着いてるというか、大人びた子だな。
クラスを受け持つ副担任クルメの感想。ちなみにこのクラス、担任は座学担当である。
男女に分かれて、適当に戦りたい人と戦るらしい。戦績もそうだが、クラスの成績優秀者に勝った方が配点は高いようだ。ナズナの相手は・・・・・・なんか、群がってる。人気者だね、ナズナ。好意的に受け止められているようで何よりだ。
で、僕はと言えば、
「よっしゃー!刹那やろうってば――」
「邪魔だドベ」
いきり立つナルトを押しのけてやってきたのは・・・サスケ?
「なんだよサスケ、お前こそ邪魔すんじゃねえってばよ!」
「ドベは黙ってろ。こいつはシギをノックアウトできる実力がある。お前じゃ相手にならねえ」
どよめきが広がった。・・・・・・え、何?シギもしかして実力隠してないの?
チラリと目線を送ると、何やら口パクが。
えーと・・・・・・お、れ、は、た、い、じゅ、つ、ば、か。・・・・・・ああ、筆記で点落としてるのかぁ。
・・・・・・ダメだ。なんて言うか、色々と。
仕方ないので満面の笑みをシギに送った。ついでに口パクも返す。あ、と、で、お、ぼ、え、て、ろ。
「理不尽だーっ!!」
突然頭を抱えて叫んだシギに皆の目が向くが、奇行に慣れているのかすぐに興味を無くされる。普段の行いが大事だと分かるワンシーン。・・・・・・あれ、この場合流された方がいいのかな?
しかしまあ、下手するとナズナを騙した・・・いや、騙したのとは違うけど、とにかく使った意味がなくなっちゃうね。
・・・・・・さて、上手く乗り切れるかな?
「なんか盛り上がってるけど・・・こないだシギを倒せたのは、シギが見境なくなってて冷静じゃなかったからだよ?」
「謙遜はいい。オレと戦え」
サスケの目を見る。真っ直ぐな、自信で溢れた黒瞳。
・・・・・・これは、よほど上手くやらないと不味いね。きっと。
こっそり吐息して、僕は頷いた。・・・そう言えば、サスケの口調が原作のこの時期と違うようだけど・・・・・・クラスメイトにはこうして喋ってたのかな?
・・・どうでもいいか。違和感がない分楽かもしれない。
男女各1組ずつ同時に試合を行う。ルールは簡単。何らかの攻撃が胴体、もしくは頭部に通った方の負け。苦無とか手裏剣とか、一応刃引きしてるのを使うみたいだ。・・・・・・まだ幼年組だしね。
それにしてもこの授業、かなりエグい気が。
好きな相手と試合をするってことだけど、それってつまり精神の成熟度合いを計る意味があるよね?どの強さの相手を選ぶかで、その子が単に勝ちたいだけなのか、いい成績を取ろうとしてるのか、はたまた己の向上を考えているのか。分析すれば漠然とだけど分かってくるし。
・・・・・・考え過ぎかな?
「それじゃ、お互い構えて」
教師クルメが片手を上げ、僕とサスケ、知らない女子2人が構える。
・・・単に皆が見たいという理由で、1番にされてしまった。ナズナはいのと戦るみたいだけど、あっちは2番。
さて、と意識を切り換える。
試合に勝つのはこの上なく容易だ。しかしそのせいで死亡フラグが立つような事態に陥れば、将来的な負けである。まさに自業自得。
ならばここで狙うのは、善戦しながらも敗北、という結果。
10メートルほど離れた位置に立つサスケに勝たせるためには・・・・・・それも、意図的に見せないためには。
・・・・・・算定演舞禁止、チャクラ使用量制限に、血継限界は当然として・・・相討ち狙いでいけば、何とかなるかな?
頭の中で戦闘ルールを定め終わった頃、
「――始め!」
クルメが、上げた手を振り下ろした。
サスケは合図と同時に手裏剣を投じた。やはり兄には遠く及ばないが、それでも今の自分に出来る最善を行う。
手加減をするつもりは、端から頭になかった。
数は左手で3枚。正確な狙いを付けるなら、これが現在の限界点。投じて、右に苦無を構え、手裏剣を追うように走り出す。
手裏剣の向かう視線の先、刹那はそれを迎え撃つように、細く短い、脇差しを腰から抜き放った。個人所有の武器であるため刃は潰されていないが、代わりに納刀したまま、扱う。相対の前に許可を取っていたので、あれを使うだろうことは想定済み。
硬い金属音。それが3回。短な刀を振るうでもなく、少し位置をズラすだけで3枚とも弾いた。
・・・・・・その程度は、やってもらわないとな!
猛る心のまま、接敵。苦無と脇差しが、甲高い音を立ててぶつかる。
「――っと」
ぶつかった拍子に脇差しがすっぽ抜けそうになり、とっさに後退する刹那。・・・・・・何だ?
僅かな疑問を頭によぎらせながら、無言で距離を詰め、突き、払い、蹴りを叩き込む。そのいずれも回避し、ガードした刹那。しかしその動きは、自分が想定していたより遥かに鈍い。
・・・・・・まさかこいつ、体術が苦手なのか?
いや、自分やシギのレベルを求めることがそもそも間違いなのだろう。わ、とか、ひゃ、とか、声を上げ眉を寄せて防御に専念するその顔は真剣そのもので、余裕など一分たりとも見当たらなかった。
段々防御に手が回らなくなってきた刹那が、舌打ち1つ、大きく後退。それを追いかけようとして、刹那のポーチからこぼれ落ちた球体に足を止めた。
爆発。しかし炎はない。――煙玉。
もうもうと立ちこめる白煙は、正しくその機能を発揮して見事なまでに視界を阻む。
・・・・・・気配も消したか。狙いは、何だ?
苦無を顔の高さに、油断なく身構え、出方を待つ。
接近戦は、多分ない。既に構えている相手に不意を突いたところで効果は薄い。体術もそれなりにやるが、せいぜい上の下か中の上。ならば、この隙に何らかの仕掛けを施したと考えるべき。
とその時、急な突風が。
白煙がたちまちのうちに追い払われてゆく。
煙の向こうから、慌てたような顔の刹那が姿を見せた。
どうやら、運はこちらにあるらしい。準備を終える前に煙が晴れてしまったか。
ニッ、と口の端を歪ませて、駆ける。あの僅かな時間にできることなどたかがしれている。見たところ何かが仕掛けられてるわけでもなし。
よって、サスケは刹那へと追いすがり。
盛大に足を滑らせた。
「――なっ」
思わず、声が漏れる。踏みつけた地面は、土ではなく、ぬめり気を帯びた液体の感触がした。
――驚愕から、つたないチャクラコントロールが乱れ、元より性能を落としていた術が解ける。
視界が変転し、サスケは未だ煙の中にいた。
(幻術――っ!)
一瞬で理解へ至る。あの突風からして既に幻だったのだ。
煙が消えたように見せかけ、
それに慌てたように思わせ、
何の仕掛けもないかの如く誤認させた。
そして足を滑らせ、宙に浮く今は現実。
「――っ」
視界は未だ白煙に包まれている。この状況で、次にあいつが取る手は何だ?
・・・・・・急襲に決まってるだろうが!
思考は一瞬。決断は即座。中空で体を整えさらに1本苦無を取り出し両方共に地面へと突き刺した。
恐らくは忍具だろうぬかるみを貫き、固い地面に突き立つ苦無。2つを支えに、転ばず、代わりに前転空中前回り。
足を伸ばして、固い地面を踏んだ。
ザリッ、と砂を噛む音。それに驚いたのか、え、と近くで声がして。
迷うことなく、サスケは声の方向に拳を叩きつけた。
「――そこまでっ!」
クルメの決着宣言に、え、と声が上がる。
途中から煙でほとんど見えなかったが、最初の組み手だけでも見応えはあった。
そして今、煙の中で勝負が付いたという。
どちらが勝ったのか。サスケか、はたまた刹那か。
徐々に煙が晴れ、立つ1人と転がる1人が姿を現し、
「勝者――うちはサスケ!」
拳を振り抜いた体勢で留まるサスケを認め、くの一から黄色い歓声が上がった。
その中でただ1人顔を青くしたナズナがすぐに駆け寄り、脈拍と呼吸の有無を確かめ、
「いや、大丈夫だから」
気絶はしていなかった本人にたしなめられた。
不満そうにナズナはジト目で睨み付ける。何で負けたのかと、その目がありありと問いつめていた。
約束を守った故なのか、どうなのか。無言の圧迫に、さて、どうスルーすべきかと刹那が悩んでいると、
「オイ・・・白亜」
「刹那でいいよ?サスケ」
当の対戦相手が話しかけてくれたので、これ幸いと視線をそちらに向ける。
「・・・・・・刹那、次は、引っかからねえからな」
・・・・・・まったく、勝者が何を言うかと思えば。
「くすくす・・・次は、引っかけた上で、勝つからね」
「・・・・・・フン」
そんな、戦った当人達と、恐らくクルメとシギにしか分からない会話を終え、サスケは背を向けた。
・・・・・・やれやれ。
ひとまずは実力を隠し仰せたことに、敢えて殴られた頬を抑えながら、刹那は安堵の息を吐いた。
ちなみに。
途中から忘れられていた女子の方の決着は、その2分後に決まったという。
・・・・・・ほとんど誰も、見ていなかったのだが。
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今回かなり真面目な文章になってしまったゆめうつつです。どうもです。
ニッコウさん、いつもいつも感想ありがとうございます。・・・・・・ダメだ。一個前の感想とさして変わらないので、これ以上返事が書けない。・・・くっ。
野鳥さん、・・・・・・何やら、えらくシカマルに期待を寄せていますね?これは、頑張らないといけないかな?
模擬戦のお話、刹那とシギのレベル差が具体的すぎて気になってきたので、修正いたしました。ガイナさん、その節はありがとうございました。
・・・・・・なんか、話が遅々として進みません。全っ然うちはの方に話が回ってない。困ったなぁ。・・・のんびり行きましょうか。