結論から言うと、授業は退屈だった。・・・・・・言うまでもないか。
基本的な読み書きそろばんに始まり、忍者としての心得や忍具の扱い方。印の組み方に気配の消し方など、まさしく忍タマに相応しい授業だった。
・・・・・・シギはよく耐えてるね。
一般教養(国語や算数など)は前世の経験が活かせるから学ぶ必要皆無だし、シギの実力から言えばアカデミーの肉体鍛錬はお遊びレベル。それはまあ僕も同じだけれど、彼の立場で考えると無駄な時間を過ごした分だけ寿命が縮まるのだ。かといってカブトが木の葉にいるため目立つこともできないのだろう。イタチは脅威だが、大蛇丸とて大きな脅威には違いない。仮にうちは虐殺で上手く生き残ったとしても、その後大きすぎる死亡フラグが待ち構えていては話にならないのだ。
この状況で無為な時間を過ごさなければならないことが、どれだけの苦痛か。どれほどの苦悩か。想像は不能である。・・・・・・当事者にしか、分からないだろうね。
とにかくそういうわけで、シギにしてみれば余裕というものが全くないと言える今現在。
「オイ刹那、さっさと答えてやれよ。――お前らも早く知りたいよな?」
隣でにやにや笑いながらシギが急かしてくる。椅子に座る僕の周りには、クラスの大半が集っていた。
・・・・・・えっと、何この状況?
軽く整理してみる。保健室から戻ってきて、授業を受けた。合間の短い休み時間はナズナの様子見に行ってて、質問される暇も答える暇もなかった。そうして昼休み兼昼食タイムとなった今、みんなの押し込まれていた好奇心がようやく解放されたわけで。
・・・・・・自業自得かぁ。
あっはっはっはっは!・・・なんて笑ってすまない現状が憎い。
「どこ住んでるの?」「お昼一緒食べない?」「誕生日いつ?」「里の外ってどんな感じ?」「血液型は?」「ほんとに一瞬で覚えるの?」「お菓子食べる?」「他の里とか行ったことあんの?」「あとで一緒に遊ぼーよ」
・・・等々。一斉に聞かれて対処に困る。
シギはシギで周りを煽ってるし。・・・・・・余裕ないはずなのに余裕そうだね。先日の仕返しか?僕にやられたお返しか?よし、後で覚えてろ。
質問に適当に答えつつ、昼ご飯を食べ終わった時点で席を立った。
「はい、質問タイム終了~!続きは放課後ね」
「「「「え~~~!?」」」」
不満の声など軽く無視。「もうちょっとつき合えってばよー!」幻聴として処理。
「シギ、悪いけどちょっと来て」
「・・・こいつらほっといていいのか?」
言われて周囲に目をやれば、皆さんまだまだ物足りない様子。・・・・・・まったく仕方ない。
「それじゃ代わりにこれやっといて」
「は?」
ノートをちぎって作成した簡易メモ用紙。・・・ただちぎっただけとも言うがさておき、渡されたその中身を読んでシギが渋面を作る。
「・・・・・・オイ」
「質問は受け付けないよ?僕の代わりにお願いね」
「・・・・・・」
しかめっ面のままだったが、従ってはくれるようだ。・・・・・・表情からして気は進まないみたいだけど、僕の意図を汲み取るぐらいはできるでしょ?
教室から出ていくシギを見送り、さて、と僕は視線を戻した。
「・・・何が聞きたいのかな?」
「・・・・・・」
無言で、難しい顔で、シギは歩く。
メモ用紙に目をやり、溜息。・・・・・・やる気出ねぇ。
たどり着いた扉の前、かけられている札を確認。
『お昼休み中です。ご用の方は職員室までどうぞ』
・・・よし、いないな。
「失礼しま~す」
誰もいない・・・いや、誰も聞いてないのに律儀に口にする。
戸を開けて、鼻につくのは薬品の匂い。目に入るのは白いカーテンでできたついたてと、ベッド。
保健室だった。
・・・・・・ナズナはそこか。
歩み寄りカーテンを引くと、すやすや眠る幼女の姿。そちらの嗜好は持ち合わせていないので、特に感じることはなく、
「うふふ・・・おいしい?刹那くん♪」
「・・・・・・」
危険な寝言は流した。・・・・・・患者いるのに席を外す保険医って、どうなんだ?
恋がどうのは別として、一般的な意見として逃避気味に、そう思うシギ。
今一度メモを確認し、懐に忍ばせてから行動に移った。
ナズナの耳元に口を近づけ、ボソリ。
「今度刹那が女の子連れてくるってよ」
「女ギツネはマッサツあるのみ!?」
凶悪な一言と共に飛び起きた。・・・・・・女って怖えぇ。
「――え?あれ?ここはどこ?ナズナはナズナ?」
「意味分かんねぇし・・・」
「・・・だれ?」
今ごろ気づいたのか、視線がこちらを向く。いざとなればすぐ動けるよう手足の位置をズラしているその姿勢は、忍びとして正しい。・・・・・・相当鍛えられてるな、こりゃ。
・・・・・・まあ、あの刹那と一緒にいるという時点で普通のはずはないんだが。
「俺は、うちはシギだ。刹那の奴が質問責めにあって来れねぇから、代わりに来た」
「むぅ~・・・ナズナより他の子・・・?」
「い、いや、俺が無理言って残らせたんだよ。だから刹那は仕方なく、な」
「うちはくんが?・・・・・・はっ!?ま、まさかナズナにケソウしてわざわざ・・・?だ、ダメです!ダメなのです!ナズナには刹那くんという人が!!」
「・・・いい感じに妄想してるとこ悪いが、違うからな?」
そうですか・・・と、残念半分安心半分に肩を落とすナズナ。・・・・・・修羅場でも期待してたのか?
「でまあ、今もう昼飯の時間でな。刹那が目ぇ覚めたら食いに来いって言ってたぞ」
「そっ、そういえば今日は刹那くんの手作り弁当が・・・・・・って、ナズナは何で寝てたんでしょう?」
「さあ?なんか知らんがいきなり倒れてたぞ?」
「むぅ・・・?」
首をひねるナズナ。その手の趣味の奴には垂涎な仕草だ。興味ないが。
「そうそう、刹那のことが大好きなナズナに言っておくことがあった」
「な!?なななな何で知ってますですかぁっ!?」
・・・・・・さっきから敬語と丁寧語とタメ口が混ざってる気が。
「いや・・・今自分で言ってただろうが」
「――あ」
ポン、と手を打つ弥遥ナズナ嬢。・・・・・・天然何だか何なんだか判定に苦しむ。
「続けるぞ?最初自己紹介の時、刹那のこと話そうとしてただろ?」
「・・・・・・そういえばそんな気がするようなしないような・・・?」
「俺も一回刹那と戦って負けたからな、あいつの凄さはよく分かってる。だからこそ、刹那のことはあまり話さない方がいいぞ」
「・・・・・・?」
口元に手を当て声を潜め、シギの真剣な表情に中てられナズナは固唾を飲み、
「刹那が強いと知れば・・・・・・女子が刹那を好きになる可能性がグンと上がる」
「っ!!!!」
天啓の如き閃きを、ナズナは得た。
刹那の凄さを他の子が知る
↓
好きになるかもしれない
↓
女ギツネ大増殖
一瞬で思考がそこまで流れナズナはその損益を明確に理解した。そしてその損益を教えてくれたシギに対し、
「ナズナはナズナなので、シギくんと呼んでも!?」
「あ、ああ・・・そりゃ、いいけどよ」
「感謝感激です!!この恩はいつか絶対シギくんに返すですよっ!」
興奮を隠しきれない笑顔で言うだけ言ったナズナは瞬身の勢いで保健室を出ていった。
・・・・・・クラスの場所分かってんのか?
浮上する疑問だが、あの調子なら刹那の匂いをたどって行き着きそうな気もする。しかしまあ、実力の程がアカデミーレベルではないのは確認できた。
用も終わったのでミミナが戻ってくる前にシギは教室へと足を向け、ふと例のメモを取りだし見やる。
『パターンから考えてナズナはどうも僕のことが好きみたいだから、話すと自分が損だよー、ってこと教えといて。こういうのは第三者が言わないと意味ないし。僕の恋愛偽話すればナズナは起きるから、よろしくね』
パターンというのは不明だが、それはとりあえず隣に置いておき、呟いた。
「・・・・・・やっぱ外道だわあいつ」
刹那が自分の実力や能力を知られたくないということは、原作を知る自分からしてみれば当然であり、理解できる。故に先刻、口走りかけたナズナの口を一時的にだが塞いだのだ。
だが、あの少女の抱く自らへの好意を知りつつ、完全に分かった上で、あいつはそれを利用した。・・・・・・女の独占欲利用とか、アホだろ。
真っ当な神経の持ち主がすることではない。自分には無理だと、シギは思う。
・・・・・・まあ、だからってあの2人の関係がどうかなるわけでもないんだが――
「・・・いや、まさかそれも分かってた上でか?」
今回のことがあろうと、なかろうと。刹那とナズナの間に何の溝も生まれようがない。
デメリットがないならば、後は本人の感情問題。相手の好意を利用することに対する、忌避感を抱くかどうかの。
・・・・・・なんつーか、判断基準が機械みてぇだな。
一切の感情を排しただひたすらに利害を計算して行動する。それは忍びの在り方としては一種の理想だが、人間としては間違いだ。
人は人故に、心を持つ。機械には、それがない。
「・・・・・・まあ会ってせいぜい一週間じゃそこまで判断できねえか」
おいおい分かっていくだろうと判じ、シギは小さな火遁でメモを燃やし証拠隠滅を計った。
開いた窓から入り込む風が灰をさらい、遠く外へと運んでゆく。
それを何ともなしに眺めるシギ。いくらかの時間が過ぎ、いつのまにか止まっていた足を再び教室へと向けた。
刹那の言った、イベント回避。可能なのか、不可能なのか。不出来な頭で、転がしつつ。
「・・・・・・そういや代わりに行ってこいとか言われたけど、あらかじめメモを用意してたってことはまさか――」
顔をこわばらせ、シギは1人刹那の思考力に戦慄した――
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・・・・・・ナズナの口調が一定しない。困った。仕方ないので幼年期はこのまま続けて原作開始辺りで大人思考にステップアップする予定。
ニッコウさん、・・・・・・いいですか?こんなに黒くて本当にいいんですか!?――なんて、作者の言うセリフじゃありませんね。原作キャラへの対応は一部除きノリで行こうと思っております。
RENさん、はい、しっかり杞憂で終わりましたよ~!どうですかこれ?お気に召されたなら幸いです!
野鳥さん、それは違います。刹那はきちんと黒さを見せる相手を選びますよ?・・・・・・多分。それと、シカマルとの絡みは絶対出すのでご安心を。
一見さん、どうもありがとうございます!何やら同じような感想を持つ方が多いようで、ゆめうつつは嬉しい限りです!・・・ちなみに感想の中で新羅が森羅になってますよ?