・・・結局母さんが壊したドアは適当に片付けた後で宿に丸投げした。木遁なんて使えないし、あれだけ派手にぶっ壊れてるなら新しいの持って来た方が早い。・・・はあ、いらない出費だ。母さんめ。
《刹那よぉ~、さっさとやろうぜ?》
「・・・今の今まで片付けに追われてたんだけど」
《もう終わっただろ?こっち来いこっち》
「・・・・・・?」
いつまで僕の姿でいる気なのかはともかく、眩魔が手招きする化粧台に近づく。
《もっとだもっと。そんで手ぇ出せ》
「・・・何で?」
《何ででもいいから早くしろ》
「・・・・・・」
何らかの思惑を感じつつもとりあえず手を出す。そ~っと、鏡に触れるか触れないかまでに伸ばした、途端。
「!?」
透明に輝くという不可思議極まる液体でできたような腕(?)が鏡から生え、伸ばした刹那の腕をつかんだ。
《1名様ご案な~い!》
「・・・は?」
妙にハイな眩魔の声に当惑した直後、異常な腕力(?)で引っ張られた。
「な・・・!」
とっさにチャクラを流し綱手張りの怪力を発揮!・・・・・・したが、そういうレベルというか問題ではないらしい。
「嘘!?」
ぐい、っと。大岩をも砕く強力が、碌な抵抗もできずに力負け。馬鹿力にも程がある。
引っ張られるまま指先が鏡面に触れる。触れた指先は、そこに鏡などなく、ただ冷ややかな水面であるかのように奥へ奥へと引き込まれる。
指が入り手首が埋まり肘が沈んで、尚止まらない。
「っ・・・・・・。・・・!」
足が、床を離れ。
水の中に跳び込んだような感触を最後に、全く久しぶりに、意識が落ちた。
――そんなことは露知らず、ロビー。
「――のお団子がとても美味しくてですね、ついたくさん食べちゃうですよ~」
「わかりますわかります。それで次の日体重計を見て後悔するんですよね」
「そうなんですけど・・・でもあの至福がやめられなくて、」
「またやってしまって、」
「「後悔するんですよね~」」
にこ~っと微笑むアゲハとミミナ。
話そっちのけですっかり意気投合していた。
「それでですねー――」
「まあ本当に――?」
「あの・・・ご用件は・・・・・・?」
と、声を挟むもまるで聞いちゃいない。肩を落とすハコベ。
女3人ならずとも2人して姦しく。
そこに男の入る余地はなし。
ああ女性2人に挟まれて。
男の肩身狭きことかな。
「・・・・・・・・・・・・う」
闇の底から意識が浮上。微かに重い頭を抑えつつ、身体を起こす。
・・・・・・あー・・・うん。なんだろうね、ここ。
回りを目にして、僕は驚く前に呆れてしまった。
鏡。
大小様々。多種多様な形の鏡をつなぎ合わせて造ったと思われる馬鹿でかい――宮殿。
どちらかと言えば中国のような気もするが、神社の仏閣あたりをひたすら大きくしたような印象もある。目の前のあれ、間違いなく鳥居だし。鏡だけど。
下手すれば木の葉の里丸ごと入るんじゃないかと思うほど広い・・・と思う。あちこち反射してる上、付近に比較対象がないからいかんとも言いがたいが。
よくよく見れば、今自分が座ってる床も鏡だ。何だここは。趣味が悪いと言うより設計ミスだろう。どこが壁だかも分かりにくいし。
《ようこそ、我が住まいへ》
・・・・・・なんか声が聞こえた。どこからともなく。
「・・・眩魔」
《何だ?》
「ここどこ?」
《お前らのいる世界を現実世界とした場合に存在する鏡の世界。早い話異界だ》
「・・・・・・ああ、鏡に棲まう魔物ね。他に似たような生態の妖魔はいるのかな?」
《いねえ。俺1人だ》
「・・・僕みたいに連れてこられた人は?」
《肉体があった頃ならともかく、今の俺の力じゃ水鏡の血を引く奴じゃなきゃ連れてこれねぇよ。昔ゃ動物も人もいたんだがねぇ・・・気づいたらみーんな逃げてやがった》
・・・・・・十中八九、奴隷というか家畜のつもりだったのだろう。それを、先祖の誰かが救出したって所かな?
「・・・まあいいや。それより眩魔はどこにいるわけ?声は聞こえるけど」
《俺はこの世界のどこにでも存在する。言うなりゃ世界そのものってとこか》
「・・・・・・将棋できるの?」
《心配ご無用っ、と》
ぐにーーんと床が伸び上がり、人の形を型どりながらだんだん色を持っていき――
「・・・・・・また僕の姿か」
《俺は鏡だ。鏡は全てを映さなければならねぇ》
「一定の形を持たないってこと?」
《話が早くて助かるな。まあそういうこった》
つまりどんな姿にもなれる。その代わり、自分という個は明確な形を持っていない。否、持てない。
だから、他人の姿を借りなければこうして何かをすることもできないのだろう。
・・・・・・難儀な身体だ。
別に何を思うでもなくそう結論していると、ぐにーっと床がまた伸び上がり、何故か将棋盤になった。ご丁寧に駒も置かれている。
「・・・眩魔の身体の一部?」
《ご名答・・・っつーかよく分かったな?》
他に思いつかなかっただけだ。さすがは鏡の魔物、何にでもなれるらしい。
まあそれはさておき、足のついた立派な将棋盤の前に腰を下ろす。僕は正座、眩魔は胡座。
《座布団要るか?》
「要らない」
《あっそ》
聞くだけで眩魔の方も要らないのか、そのままだ。
《俺は後攻でいいぞ》
「ん・・・じゃ、こっちから行くね」
そうして僕は、ひとまず銀を動かした。
《・・・・・・おい、いいかげん攻めて来いよ》
「そっちこそ来れば?」
《俺はカウンターが好きなの》
「僕は防御が好き」
《このままじゃ千日手だぞ》
「正確には違うけど、勝負がつかないのは確かだね」
《なら何とかしろよ》
「僕は気が長いから」
開始より15分。
攻め手を欠く以前に攻める気の見えない盤上は、膠着状態に陥っていた。
どちらも、防御にかなりの比重が置かれてしまっている。
気は短いほうなのか焦れに負けて、眩魔が動いた。
パチリ。進んだ一手に、刹那の目が細まる。・・・一手、足りない。
即座に捨てて防御を僅か、崩し攻めへ。ニヤリ、眩魔が意味ありげに笑った。
「・・・・・・ところで」
《あん?》
「長考は10分まで、でいい?」
確かに、言われてみれば決めてなかった。ふむ・・・と眩魔は思案して、問題ないと判断する。
《じゃ、10分以内に打たなかったら負けな》
グネグネ床が動き時計となる。本当に便利だと刹那は思った。
数手、小さな攻防が続き・・・眉を寄せる刹那。全てが全て、僕の狙いを読んだような手を打ってくる。攻め始める前とは、明らかに違うその棋力。
・・・・・・まさか。
視線を眩魔に向ける。自分の姿をした眩魔は、自分ならまず浮かべないニヤニヤ笑いで、僕の推測を肯定していた。
「・・・・・・覗き魔め」
《くくく・・・やーっと気づいたか!そう、お前の考えは――大当たりだ!!はっはっはっはっはーっ!》
「・・・・・・」
大笑いする眩魔。僕は盛大な溜息を吐く。
簡単な話。眩魔は僕の思考を覗いていた。これに尽きる。心を覗く――まさにその通りか。
《くっくっく・・・どうだ?お前の思考力は俺のもの同然!つまりはハナっから勝ち目なんぞなかったんだよ!》
高笑い。嘲笑。既に自分の勝利を確信している眩魔。
「・・・ま、勝負は最後までやってみないと分からないけどね」
《はあ?分かりきってるだろうが。めんどくせえからさっさと降参しろ》
「僕にはまだ目があるんだよ。勝利の目が」
《・・・・・・?》
余裕とも取れるそのセリフ、そして心。さざなみ1つ立たない、完璧な心理コントロール・・・とは、違う?
――本当に・・・・・・勝てると思っている・・・?
《けっ・・・好きにしやがれ》
口調はそっけなく、けれど警戒心は最大に。五行のことといい守鶴のことといい、刹那の行動には突拍子もないものが多い。故に警戒し、欠片も漏らさず心を覗こうとする眩魔。
それが、仇となった。
(読めるものなら、読んでみれば?)
そう、刹那の心から読み取った直後。
――流れ込んでくる情報、情報、情報。
一手先十手先百手先可能性として存在し得るありとあらゆる指し方盤面棋譜その他不要な数字の羅列文字言語数式術式暗号化学式論文工学知識知識ちしきチシキ――――・・・・・・
怒涛の如く雪崩れ込んでくる情報の奔流に、眩魔は成す術もなく何が起きたかも分からず意識が暗転。
カチッ、カチッ、カチッ。
後ろにぶっ倒れた眩魔を気にも留めず、平等に時は進む。
そして――
「10分経過、僕の勝ちっと」
未だ意識の戻る様子のない眩魔をほたって、刹那は気持ちよさそうに伸びをした。
まさに想定通り(思いつきだが)。心を読むすなわち思考を読むと同義。心の中で適当に眩魔を煽った後、全力の算定演舞を発動したのだ。
結果は目の前の眩魔を見れば分かるはず。展開される情報量に脳味噌はオーバーヒート。容量を遥かに越えたため、神経がいくらか焼き切れてるかもしれないが大丈夫だろう。妖魔だし。精神体らしいし。
「くすくす・・・・・・僕に頭脳ゲーム挑んだ時点で負けは決まってたんだよ?」
白目を剥いてる眩魔に聞こえてないだろう言葉を投げかけて、無謀な挑戦者を、ただ笑う。
「・・・・・・あ」
はたと気づいた。
ここから、どうやって出る?
「・・・・・・・・・」
てくてく歩き、一撃。
《ごぶっ!!》
「眩魔起きろさっさと起きろ帰り道教えろーーっ!」
胸倉引っつかんでぶんぶんゆさゆさ。死人に鞭打ってるのは確かだが、優しさ向ける対象ではないので罪悪感はゼロだ。・・・・・・あ、グッタリなった。根性なしめ。
仕方がないので手を離してやると、その身体がグニャグニャ崩れて床と同化し、目の前の空間が姿を変え元の部屋を映した。・・・・・・何だ、ボス倒したから扉が開いた?どこのRPGだ。
しかしまあ、帰れるなら文句はないので刹那は鏡の宮殿を一顧だにすることなくさっさとその扉(?)をくぐった。無事に戻れたのでほっとする。
・・・・・・さて、眩魔との話はまた今度にするとして、我愛羅の手紙でも読もう――
「刹那~~!」
「・・・何?お母さん」
風通しの良いままのドアから何故か満面の笑顔の母さんが姿を見せた。ここまで機嫌が良いのは初めてかもしれない、そんな笑顔。
「お母さん知らなかったわ、まさか刹那にそんな可愛げがあったなんて!」
「・・・・・・は?」
言葉自体の意味は分かるがそうなる理由が見当もつかない。
「大人っぽい大人っぽいって思ってたけど、あんな子供らしい考えもするのね~!」
「あの・・・お母さん?」
言ってはみるが、舞い上がってるらしいアゲハに刹那の言葉が届くはずもなく。
「そういうわけで刹那、来週からナズナちゃんと一緒に学校行きなさい」
「・・・・・・・・・・・・はい?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1週間ぶり、でしょうか?ゆめうつつです。
ニッコウさん、まあその通りです。アゲハの言う可愛げ云々はご想像にお任せします。ミミナが来ていることから察してください。
野鳥さん、商隊の諸国漫遊も問題なくクリアできます。案としては現在2つありますが・・・まあお楽しみということで。遅いでしょうが体調にはお気をつけを。ゆめうつつの学校ではインフルエンザ患者が出てますし。・・・こちらも気をつけます。
シアンさん、最初の方の感想以来ですね。お久しぶりです。将棋合戦、お楽しみいただけましたか?細かいとくどくなるので、このぐらいが妥当かと思ったのですが、どうでしょう?
RENさん、その疑問には簡単にお答えしましょう。アゲハは忍びです。これはNARUTOす。普通に筋力が異常なのです。思いっきり蹴れば壊れますよそりゃ。・・・という感じでどうでしょう?深く考えないのには賛同ですが。
現在『回想・五行設立編』の改修をどうすべきか悩んでいます。皆さんご意見いただけないでしょうか?案は2つ。
現状とさして変わらずそれっぽくまとめるか。
いっそのこと外伝として新しく長く取るか。
どちらがいいと思いますか?後者だと本編の進行状況にも影響が出ますが、最終的にどちらでも説明はつけられます(一応)。ご意見お待ちしております。
P.S どなたかルビの振り方教えてください。Wordで出して貼り付けるでは上手くいかないのです。ご教授願います。