「『五行』・・・・・・う~ん、全部ぶっちゃけるのはまだ時期尚早だよね」
とりあえず、当たり障りのないこと送るか?・・・いや、下手に立ち回ると、こちらとあちらでいざこざの起きる可能性がある。そうなったら目も当てられない。
そんなことをぶつぶつ呟きながら思考の海に沈む刹那。やがて何を書くか決まったのか、おもむろにペンを取って、
ザグッ
《がっ・・・・・・!》
予備動作なく投じられたボールペンが部屋に備え付けのテレビ画面に”吸い込まれ”、覗き見していた【何か】にその先端が食い込み悲鳴を上げさせた。
・・・・・・吸い込まれた?
自分でやっておきながら、理解できない現象に目をぱちくり。
《ぐぅおおおおお・・・・・・!》
その間も真っ黒なテレビ画面から悶え苦しむ声が。・・・・・・いや、ほんと、何?
視線を感じて、考える前に投げた先がテレビだったわけだけど。
《ぐくく・・・・・・くそっ、とうとうバレたか》
プッ、と画面からペンを吐き出しながらそいつが言う。・・・・・・とうとう? つまり、これまではバレていなかった。イコール、これまでずっと覗いていた?
「いやそれ以前に・・・誰?ってか何?」
《・・・・・・ふん、知られたからには教えてやる》
どこか反響しているような声がそう言って、テレビから気配が消える。
「逃げた?」
《誰が逃げたって?》
声に振り向けばそこは化粧台。上半身を映す鏡の中で、映る刹那の姿が歪んだ。
渦巻くようにねじれた後、元に戻った鏡の中で白亜刹那がニヤリと笑う。
《俺は、白亜刹那だ》
「ダウト」
間髪いれずの合いの手に、ズルリ。偽刹那の身体がかしいだ。
《・・・もうちょっと別の反応はないのか?えぇっ!?とか・・・・・・》
「僕の姿でいじけるな。うざったい」
《遊び心のない奴》
「うるさい。それよりお前、何?」
苦無と脇差をしっかり構えつつ、刹那が問う。
今の現象から鑑みるに、鏡やガラスなど、平面に映る物の中に潜み移動する能力か。汎用性からいって白の魔鏡氷晶よりタチが悪い。
更に、その平面に映る相手に擬態することも可能。もし能力まで擬態できるなら手のつけられないことになるが、はたして。
《くくく、聞いて驚け!》
ババーン!と効果音が付きそうな、刹那であれば絶対しそうにないポーズをつけるそれ。
原作の自来也を思い出した。
《この世に在りて数千年、喰らいし魂万をを超え、覗きし心億数う!西に東に北南、那由多の者すら恐れ入る!!鏡に潜みし魔幻の化生、世に轟きし我こそは――》
「眩魔!!」
ドタァアン!!
いい感じに興が乗っていたところへ文字通り扉を蹴破って乱入してきた水色の女性・・・って母さん!?
《ア、アゲハ!?》
「何やってるのよ眩魔!正体さらしちゃ何の意味もないでしょうが!」
《ちょっ、誤解だコラ!俺の気配察して刹那が見破ったんだよ!》
「見破った?見破られるようなヘマしてんじゃないわよ!」
《たった7つの子供が俺に気づく方がおかしいんだよ!!つか俺の決めゼリフ邪魔してんじゃねぇっ!》
「知ったことじゃないわよ!!」
わいのわいの。ギャースギャース。
うん、とても賑やかだ。
いいかげん騒音公害で宿から文句言われる前に、溜息しながら印を組む。
「――雷遁・静電招来」
バチィッ!
《「っ~~~~・・・・・・!」》
声もなく指先を抑えるアゲハと鏡の中の偽刹那。
術の名前はそれなりの癖してただ静電気を流すだけというショボさ。チャクラをほとんど喰わないのが美点と言えば美点。一応オリジナルだったりするが、はっきり言ってそんなことどうでもいい。
・・・・・・母さんはともかく、ちゃんと眩魔とかの方にも術届くんだ。
原理は知らないけど、物質が入るぐらいだからエネルギーなど言わずもがな・・・か?
「いたた・・・ちょっと刹那、何するのよ」
《地味に痛ぇぞオイ!》
「・・・宿の方に苦情出る前に止めただけ」
「他にやり方があるでしょう!?」
「カシワの魔宴を”火遁で鎮火”させるお母さんにだけは言われたくない」
「・・・・・・そ、それは、その、」
「そ・れ・よ・り!」
一転。無邪気に”見える”笑顔を刹那は浮かべ、
「ちゃんと説明してね?」
《「・・・・・・・・・」》
何とも言えない異様なプレッシャーに、眩魔とアゲハは冷や汗した。
――鏡に棲まう魔物在り。
其は心を侵し、心を喰らう魔物なり。
――魔物に刃向かう忍び在り。
三日三晩戦いて、遂に其の首落とすなり。
然れど魔物の本質現世に在らず。
いつの日にかは黄泉返らむ。
肉は滅せど魂までは滅ぼせぬ。
故に忍びは決意せり。
魔物の魂其の一部。
己が意思にて喰らうなり。
魂欠けしことにより、
魔物の復活妨げり。
忍びの身命変わらずも、
纏いし力変わるなり。
猛々しき其の忍び、
斯くて無上の力、手に入れむ。
「――と、いう訳なのよ」
「いや、意味不明だから」
膝を突き合わせ問い詰めたところ、今の歌というか昔語りを聞かされた訳だが、だから何だという話。・・・・・・あ、母さん、なんかガックリしてる。
《おいおい、これ一応水鏡の秘話だぜ?》
呆れたように鏡の向こうで言う眩魔。・・・・・・あのね、秘話だからって誰にでも重要って訳じゃないの。その話はまた今度じっくり聞かせてもらうから。矛盾点というか疑問点があちこちあるし。
「じゃなくてね、僕が聞いてるのは、僕のことをずーーっと監視してたのかってこと。わかるよね?言葉通じてるよね?ハイ、答えて」
《あー・・・・・・それは、だな》
「まあ・・・その通りね」
認めるのか。スパイ行為を認めるのか。
「自分の息子を信じてくれないなんて・・・・・・」
「だって・・・ねぇ?」
《そうだなぁ・・・・・・1人勝手に風影と交渉するくらいだからなぁ・・・》
「・・・・・・!」
予想は、していた。眩魔と母さんの漫才めいたやりとりを見た時から。
・・・・・・プライバシーなどあってないものなのだろうと。
そんな感じで悄然としかけた僕の耳に、
「でも別に悪いことじゃないわよね?」
《無茶は無茶だけどよ、結果的に上手く行ってんだから良んじゃね?》
はい?
「聞いた時は驚いたけど、秘密もバラしてないし、行商先で見聞きしたこと教えるぐらい問題ないわよ」
《そうそう。その程度でいくらか稼げるんだから気前のいいこったぜ》
あれ?あれれ?
・・・・・・意外に好評?っていうか、なんか齟齬があるんですけど?
未だ僕の姿の眩魔を見る。母さんに見えない角度で、鏡の魔物は意味ありげに口の端を曲げた。
「・・・・・・」
確信する。真面目に報告してないな、こいつ。どういうつもりだ?
「刹那、監視してたことは謝るわ。どうしても心配だったの」
本気の色が感じられる、母さんの言葉。・・・・・・でも母さん、その目論見は上手く行ってないよ?スパイ役の眩魔が、まともに務め果たしてないし。
もちろん、自分が不利になるようなことを言う気はないが。
「・・・・・・分かったよ。この件はもうこれでおしまい。追及はしません!」
「ありがとう刹那!刹那なら分かってくれると信じてたわ!」
ぎゅう~っと僕を抱きしめる母さん。嬉しいけど、久しぶりだからなんか懐かしいけど!どの口がそれを言いますか!?
と、僕が内心珍しく激しいつっこみをしていると、蹴破られたドアからナズナのお父さんがひょっこり顔を出した。
「え~っと・・・お取り込み中でしたらいいのですが、アゲハさんにお客ですよ」
おっとりというかゆったりというか、外見に見合う丁寧な口調で言うハコベさん。壊れたドアは見やるだけで、つっこまないのがありがたかった。
ちなみに、眩魔は僕の振りをしている。ただの鏡っぽく。
「客?誰かしら」
「・・・まあ来ていだだければ分かると思います。うちも無関係じゃありませんから」
「・・・・・・?まあいいわ。刹那、ちょっと行って来るわね。ドアは直しといて」
「・・・・・・自分でやって欲しいよ」
「お客さん待たせちゃいけないでしょ?」
至極もっともそうな言葉で逃げを打つ母さん。酷い。
次いで、パクパクと唇を動かした。読唇術だ。
(疑問は眩魔に聞いときなさい)
言うだけ言って母さんはさっさとロビーへ向かった。・・・・・・まあいっか。
ちょうど、眩魔と2人きりで話したいと思ってたし。
直すと言っても真ん中からへし折れたドアをどうやって直すのか思案しながら、聞いてみる。
「眩魔」
《あん?》
「お母さんに言ってないことあるでしょ」
《そりゃお前も同じだろうが》
それはそうだ。風影との会話の真実。五行。そして、僕自身について。他にも色々たくさん。
「・・・何で言ってないの?」
疑問は、そこ。
スパイの役を引き受けてるはずなのに、肝心の報告に嘘が混ざってる。スパイの意味がない。
《そうだな・・・・・・よし、俺に勝ったら教えてやる》
・・・・・・どうしたらそういう提案になるのか不明だが、まあいい。好都合。
「・・・なにで?」
《何でもいいが、コイントスとかはダメな。互いがある程度考えなきゃいけねえやつだ。じゃんけんでもいいぞ》
ニヤニヤと。まるで自分の勝ちが決まってるかのように。・・・・・・うん、それなら。
「将棋で」
《乗った。負けたら言うこと1つ聞いてもらうからな》
後付けしてるとこから言ってろくな命令じゃない気がぷんぷんと。そんなに自信があるのか?
「じゃあ僕が勝っても1つ言うこと聞いてもらうよ」
《はっはっは、好きにしやがれ!どうせ俺の勝ちは揺るがねえからなぁっ!》
・・・・・・頭が良いのか馬鹿なのか。
古くから生きているという妖魔の口調から、推し量るのは無理だった。
所変わって、ロビー。
ハコベと一緒に向かった先にいた女性を見て、アゲハは内心首を傾げた。木の葉の忍びが、何の用だというのか。
さておき。接客用の笑顔を貼り付けて、アゲハは先方に挨拶する。
「お待たせしてすみません。白亜アゲハです」
「あ、いえ、こちらこそ何のお伺いも取らず突然おじゃまして申し訳ありません」
一礼。そして女性は、まるで子供のような笑顔を浮かべて言った。
「私は、松風ミミナと言います」
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ガイナさん、ゆめうつつは思うわけです。橋造りの時にサスケが倒した再不斬の水分身が本体の10分の一だったので、これくらいが適当じゃないかなー・・・と。そこを踏まえた上で違和感が残るのであれば、修正いたします。
野鳥さん、おじさんと言われてはしゃこつさんが泣きます。まだ20代の設定です。・・・・・・ちなみにゆめうつつは風邪引いて喉が痛いです。執筆には何の影響もありませんが。
とうとう刹那が眩魔の存在を知りました。という訳で、次は将棋合戦(細かいのはなし)とこれからについてです。
・・・・・・テスト当日に何やってるんだろうと思わないでもないゆめうつつでした。