転生
憑依
この世にどれほど、いるのだろう。
宿泊している部屋の戸を開けたらそこに満面の笑顔で待ち構えていたナズナを発見。・・・・・・最近お母さんに鍛えられて気配が読みにくくなってるから非常に困っていたり。
「えっと・・・ナズナ、何か用?」
「刹那くん、お買い物に行こ!」
にこにこと拒否を許さぬ輝かんばかりの笑顔・・・・・・笑顔、だよね?打算とか策略なんか欠片もない純粋さからくる笑顔だよね??
「その・・・今日は用事があって、」
「またそれ!?昨日も昨日でいなかったから今日こそ行こうと待ってたんだよ!」
「・・・・・・約束はしてない」
「でも行ってくれるんだよね?」
うう・・・・・・そんなきらきらした眼差しを向けないでお願いだから!
「・・・バイバ」
ガシッ!
・・・・・・腕をつかまれた。ずるずると引きずられる。
「ふっふ~ん!今日という今日は逃がさないんだから!こないだの砂の里の時も刹那くん1人でどっか行っちゃうし、暑いのに何やってるんだろうと思ってたら突然お友達連れてくるし。・・・・・・忍者の訓練がお休みになる里じゃないと遊べないんだから、こーいう日をユーイギに使わないと!・・・・・・ねえ、刹那くん聞いてる?」
余りに反応がなさ過ぎる背後を振り返ったナズナが見たものは。
・・・・・・デク人形。それも人体を恐ろしく精巧に模した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
顔の部分に苦無で縫いとめられたメモを見るともなしに読む。
『ごめんねナズナ。この埋め合わせは必ず! 刹那より』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
デク人形の腕、つかんでいたその部分がミシリと不吉な音を立てる。
はらりと風でひるがえった紙の裏面に、追伸、とあった。
『身代わりの術ぐらいすぐに気づけるようにならないとね。精進しなさい。 刹那より』
「・・・・・・・・・・・・刹那くんの・・・刹那くんのバカーーーっ!!」
いつの間にやらすりかわられていたデク人形にナズナの魂からの拳が打ち込まれたのは、言うまでも無いことである。
決死の覚悟に近い感覚でナズナを撒いてきた僕は、うちは一族の住む区画へ足を運んでいた。・・・・・・うう。これからやる予定のうちはシギとの会話よりも、帰ってからナズナをなだめる方が憂鬱だよ・・・
昨日、正当防衛とはいえ名家の子息をのしてしまったことへのお詫びに、刹那は目を回したままのシギを背負うサスケと連れ立ち、うちは邸を訪れていた。
・・・・・・何故か連れて行かれたのはサスケの家だったけど。何でもシギの両親は共働きで、警務部隊でなく普通に任務をこなしてるらしい。それで仲のいいサスケの家に泊まることが多いんだとか。
で、うちは本家におじゃまして、僕はフガクさんと面会した。一族を束ねる日向で言えばヒアシと同じ立場なだけに、貫禄は相当だった。もっともサスケから事のあらましを聞いて苦虫を噛んだような表情になってはいたが。
時たま起こるらしいシギの暴走とサスケの証言から当然僕はお咎めなし。逆に迷惑をかけたとかでお土産までもらってしまった。うちはせんべい。・・・・・・カシワさんが美味しそうに食べてたな。
結局シギは目を覚まさなかったため、明日もう一度訪問する旨を告げて刹那は邸宅を辞した。
――そして現在、僕はうちは本邸にてうちはシギと対面していた。・・・・・・うん。目に敵意がありありと見えるね。
「テメェ・・・白亜刹那だっけか。昨日はよくもやってくれたな」
「正当防衛と言ってほしいね、うちはシギ。そもそもあの先生と話すらできないのは自分のせいでしょ」
「なっ――なな何言って!」
「サスケから聞いた」
「・・・あの野郎・・・・・・」
ぎりぎりと歯軋りするシギ。覚えてろだの覚悟してろよだの陳腐だが不吉に呟くのを聞き流し、案内された部屋の周りに聞き耳立てる者が誰もいないのを確認して本題に入る。
「で、キミの中身は地球人ってことでいいの?」
「・・・ああ。地球出身の日本人だ。お前もだろ?」
「日本人じゃないけどね」
「・・・・・・は?」
「・・・国籍が違うだけで何驚いてるんだか」
「あ、いやその・・・・・・」
「NARUTOの漫画は英語版もしっかりあるよ?僕が読んだのは日本語だけど」
「いや、なんつーか、先入観が。この世界思いっきり日本っぽいし」
まあそういった考えになるのも仕方がないと言えよう。NARUTOの作者は日本人だし、一番出回ってるのも日本。そしてこの世界も日本じみた構成だ。無理もないね。
「さて、僕が聞きたいことは簡潔だ。シギ、キミはどのくらい原作に干渉してる?」
顔つきを改めシギを見やると、シギは何故かたじろいだように身を動かした。・・・・・・特に不審な行動ではないけど・・・なんだろう?
「・・・・・・あー、まあサスケと仲良くなったぐらいで、他は何もできてねぇ」
「何で?」
「気づけよオイ・・・・・・うちはだぞ。後1年あるかわかんねーんだぞ!?」
声が大きくなる。後1年・・・・・・うちはイタチによる、一族虐殺事件。
そのタイムリミットまで、1年あるかどうかといったところ。
不安は当然だ。この世界にやってきた理由は知らないけど、自分が1つの命であることには違いない。理不尽に殺されるなどもってのほかだ。
それら全てを踏まえ、理解した上で、僕は答えた。
「そうだね」
まるで、突き放したように。
それはただの、事実だから。
「そうだね・・・だと?テメェ、他人事だと思って!」
故に・・・シギがそこで怒る理由が分からなかった。
今にもつかみかからん剣幕のシギに、僕は純粋な疑問から首を傾げた。
怒っている暇などあるのか、と。時間は限られているのに、と。
「・・・まあ他人事には違いないんだけど、僕的にはそのイベント回避したいんだよね」
「はあ!?んなもん無理に決まってんだろうが!」
「実際やってみたわけ?」
「やんねえでも分かるっての!里の中枢とうちは一族の摩擦、優秀な忍びとしてのプライド、どうあろうと火影になれない鬱積に・・・・・・長年の因縁やら恨みやらが山ほどあるんだぞ!!どこをどーしたら回避できるってんだよ!?」
シギの的確とも言える状況分析に、こいつは意外に頭がいいのかもしれないと認識を上方修正した。シギの見立ては正しい。それだけの問題点を普通の手段で解決するのは、僅か1年という時間では不可能だ。
―――普通の、手段では。
故に、僕は思考に思考を重ね吟味し検討した答えを、口にする。
「回避は不可能じゃない」
「っ!?」
「今から始めたんじゃ無理だろうけど、僕は2年前からこの時に備えて準備してきた」
「な・・・・・・に・・・?」
「確実とは言えない。不確定性も高い。だけど、うちは虐殺を回避するすべは、確かにある」
僕の全てを斬って捨てる断言に、硬直しているうちはシギへ、僕は微笑んだ。
「――協力、してくれる?」
「っ・・・・・・!!」
その時のシギの表情は、彼の自尊心のためにも言わないでおこう。
不確定分子たるうちはシギ。彼と協力関係を取れたことで、回避成功の確率は僅かながらも上がった。
僕の目論見が上手くいけば、うちはの存続は可能だ。
僕のささやかなる望みのためにも・・・・・・願わくば、上手くいかんことを。
「ところで忍タマで流行語大賞取った人には会った?」
「あの人か・・・・・・相談しようと思ったんだが、調べたけど家もわかんねーから何年も前にあきらめた。どーせ一介の上忍に何とかできるとは思えなかったし、多分忙しいんだろうし」
「・・・・・・昨日僕補導されたけど」
「・・・・・・は?」
「そっかぁ、忙しいのかぁ。・・・・・・昼間っから茶店に行くぐらいに」
「なんだとぉぉぉーーーっ!?」
その日、うちは本低に悲痛な叫びが響き渡りましたとさ。やれやれ・・・・・・