学園
学校
僕にはまるで、未知の領域。
赤蔵ヒグサなる転生人と別れた僕は、教えられた道をたどりアカデミーへと向かっていた。・・・・・・普通に歩いてだよ?屋根の上跳んだりしないよ?
茶店で少々時間を取られたため、もしかしたら既に皆帰ってしまっている可能性もあったが、サスケ辺りは居残りしてるだろう。
「・・・・・・あ。あの建物かな?」
なんかそれっぽい建造物グラウンド付きを見つけた。塀を乗り越えるようなことはせず(怪しさ満開だし)閉じた門に足を向ける。
「えっと・・・インターフォンは、っと」
無線があるので当然存在するスイッチをためらいなく押し込む。
ピンポ~ン。
どこの家庭だといった音調。・・・・・・もっと他のはないのだろうか。気が抜けすぎる。ジーー、ぐらいでいいのに。
などと勝手極まりない感想を抱いていたら、女性の声で返事があった。
前もって用意していたセリフを口にする。
<どちらさまでしょうか?>
「あ、すいません。見学希望なんですが」
<・・・・・・見学?>
「はい。僕はカシワという隊商の者なんですが、一度学校というものを見ておきたくて」
<ここは忍者アカデミーですよ?>
「一般人でも入学は可能ですよね?僕は忍びの訓練も受けてますが」
<・・・・・・しょ、少々お待ちを>
ブツッ、と音がして内線が切れる。ふむ、これならいけるかな?
同時刻、アカデミー職員室にて。
「先輩、見学希望の方が見えてるのですが」
「は?そんなアポないよな?」
「それが隊商の子らしくて・・・・・・一度学校というものを見てみたいと」
「隊商?それならアポがないのも当然か。・・・・・・危険度のチェック、そして身元の確認ができたら入れてもいいだろう」
「了解しました」
「え~っと、白亜刹那くんね。身元の確認は取れたから・・・・・・後は武具忍具を全部預けてもらえるかしら?」
「・・・・・・脇差以外は校内にあるのと一緒ですよ?」
「念のためよ。いくら身元がはっきりしてても、ここには名家の子も通ってるから。万が一があっちゃいけないの」
「全く仕方ないですね・・・・・・はい、どうぞ」
「・・・・・・えー、何かしら?その無能め!みたいな目と言葉は」
「何でもないですよ?女性とはいえ大の大人がこんな子供1人止める自信がないのか~、なんて思ってませんよ?」
「思いっきりわざと言ってるわよねそれ!!大人をなめちゃいけないのよ!?」
「大人ではなくあなた個人をなめてます」
「・・・こっ、子供っぽくない・・・・・・可愛くない・・・・・・!」
「早熟は忍びにとっていいことだと思いますが?それに、貴女の方が子供っぽいですよ?」
(うぅ・・・・・・何なのこの子はーっ!?ホントに私が子供扱いじゃないっ!!)
精一杯の反論はあれよあれよと封じられ、心の中で絶叫するくの一さん。
可憐なくせして腹黒さ満載の微笑みに、新米女教師は子供の未来を憂うのであった。
「元気出してくださいよ、ミミ先生」
「・・・貴方のせいでしょ、白亜くん。というか、私の名前はミミナですよ!」
「まあまあ、子供と大人のスキンシップということで」
「貴方が子供に思えないのだけれど・・・・・・(見かけは可愛い子なのに・・・)」
「あははは・・・お団子あるんですが、食べます?」
「あ、もらう―――コホン。その、勤務中ですし、お昼休憩でもないのでいけません」
「でしたらお持ち帰りください。はい、1パック(3個入り)どうぞ」
「・・・・・・た、食べ物で釣ろうったって、そうはいきませんからね!」
「でもしっかりもらうんですよね?」
「う・・・・・・あ、ありがと」
「いえいえ」
・・・・・・うん、楽しい。非常にからかい甲斐がある。これだけ読みやすい人は周りにいないなー。おかげで随分遊べたし。
校門に現れ刹那の案内役となった松風ミミナという女性は、忍びとは思えないほどに思考が読みやすかった。・・・・・・いや、だから先生やってるのかな?前線に出ないで。
てくてくのんびり木目調の廊下を歩く。刹那が来た時にはもう授業も終わる頃合だったのだが、校舎だけでも見て回りたいという要望を目の前の先生が聞き入れてくれたのだ。忍びとしての適正はともかく、良い先生である。
ちょうどホームルームの時間なのか、通路に人はおらず、時々通りがかる教室の中から賑やかな声が響いてくる。そのほとんどが子供の声。当たり前だ。ここは学校なのだから。
「これが学校・・・アカデミーかぁ・・・・・・」
「通いたくなった?」
「さあ・・・・・・いや、うん。こういうのも、悪くないかもしれない」
声に、ミミナは思わず、隣を歩く少年を盗み見た。そして――息を呑む。
窓から入る斜陽に照らされた、水色の髪と、瞳。目元と口元を緩ませた、穏やかな、けれどどこか寂しげな微笑。美少年だとは思っていたが、ここまでではなかった。
それはそう、さっきまでが恐らく、作り物だったせいだ。半ば演技だったせいだ。
羨望、憧憬。子供が浮かべるに相応しい。否、子供にしか浮かべることの叶わない、純粋にして自然な、笑顔。
どうしようもなく、見とれた。
・・・・・・最初が最初だったので、そのギャップは凄まじい。
たとえ言動が子供のそれとかけ離れていても、子供は子供なのだと、ミミナ心底から思い知った。
頭の後ろで手を組んで歩く姿は、同年代の子供たちよりも、よほど幼く見える。
この少年はもしかすると、限りなく純粋なだけなのかもしれない。
脈絡なく、そう思った。
ついでに自分はショタコンだったのかと、ミミナは激しく落ち込んだ。
校舎を大体一周して、最後に屋上を見学した。
「わぁ、火影岩までよく見えるね」
沈みかけた夕日に照らされ、灰色の岩肌が朱に染まっている。さながらナルト版の炎のがけか。・・・・・・あれはゴビ砂漠だっけ?
「これで校舎は全部回ったけど・・・・・・どう?満足した?」
「そうですね・・・授業が見れなかったのが、残念といえば残念ですが」
「それは仕方ないわよ。また今度早い時間にいらしゃい」
「ですね・・・・・・あれ?」
「どうかした?」
「ミミ先生、あの端っこにいるの、誰ですか?」
そう言って僕はグラウンドの一部を指差した。逆行でよく見えないが・・・確かに2人いる。
「あれは・・・・・・多分サスケくんとシギくんね」
「・・・・・・誰?」
サスケは分かるが、シギって何?
「背中の家紋が見えない?2人はあのうちは一族よ」
「・・・え?2人とも!?」
「そうそう。ああやって遅くまで個人訓練してるのよ。才能に溺れず努力するっていいことよねー」
「・・・・・・ちなみに、兄弟だったりします?」
「ううん。確かはとこだったはず。あ、サスケくんにはイタチってお兄さんがいてねー、この人がまた優秀でカッコイイのよ!」
「そう・・・ですか。・・・・・・会いに行っても?」
「んー・・・邪魔しなければいいと思うわ」
「では早速」
「って刹那くん!ここ屋上――」
呼び止める声が聞こえたけど、僕は止まらなかった。まっすぐ縁へと向かい、跳ぶ。結構な高さがあっても、この程度は問題にならない。着地の寸前、タイミングを見計らって足を曲げ膝をつき前転。垂直エネルギーを全て横方向に変換し、少々土が付いたが問題なく地面に降りた。
とそこで焦らずとも問題ないことに思い至る。・・・・・・う~ん、ちょっと動揺してたかな。
ともあれ、まずは確認しないとね・・・
「すご・・・・・・」
高みから力任せチャクラ任せに着地するなら分かる。だが、あそこまで見事に勢いを殺す芸当は見たことがない。
しばし呆然とした後思わず拍手したくなったが、案内以前に監視の役割があったことを思い出し、ミミナは慌てて刹那の後を追うのだった。
もちろん、飛び降りるのではなく壁を伝って。
努めて自然体で歩み寄っていくと、手裏剣術を磨いていたらしい2人が僕に気づきこちらを振り返った。
片方は、うちはサスケ。後に万華鏡写輪眼をも体得する天才。今はまだ孤高といった感じはせず、見慣れない僕へ不審そうな顔を向けてくる。
そして、もう1人。
教師ミミナの言うことが確かなら、名をうちはシギ。サスケを二枚目とするなら、三枚目といったところか。若干容姿が劣っている。こちらはどうも切羽詰ってるというか、焦燥に駆られているというか、そんな空気が濃厚だ。・・・・・・可能性が高くなってきた。
何か言われる前に、機先を制す。
「How are you?」
「っ!?」
「・・・・・・?」
片や顔色を劇的に変え、もう1人は訝しげに首を傾げた。
これで間違えたらおかしいというぐらいに、決定的な反応だった。・・・・・・あー、あー。またですかそうですか。
やれやれ。今日は呆れるぐらいに縁のある日だ。イレギュラーに2人も逢うなんて・・・・・・
今後の対応への変化を思い、刹那はこっそり溜息を吐いた。十中八九、敵にはならないだろうと思いつつ・・・
・・・・・・はうあーゆう?
見覚えのない奴が口にした聞いたこともない単語にサスケは首を捻る。・・・と、シギの様子がおかしいのに気づいた。
「オイ、シギどうした?」
「・・・・・・悪い、サスケ。後は1人で練習しといてくれ。俺は、こいつに話がある」
「はあ・・・?知り合いか?」
「・・・まあ似たようなもんだな。初対面だが」
訳が分からなかったが、シギの真剣極まりない表情に気圧され頷く。こいつとは長い付き合いだが、こんな顔は見たことがない。
「とゆー訳で、場所変えるぞ」
「時間に余裕があるんだったら、僕が泊まってる宿なんてどう?」
「それでいいから早く行くぞ!」
初対面だと言ったにも関わらず、あの水色の髪の奴とシギの間には暗黙の了解らしきものがあるようだ。全くもって意味不明である。
場所を変えるということは、つまり聞かれたくない話をするのか。
自分にさえ話せない、けれど初対面の奴には話せる内容。・・・・・・気にならないはずもないが、後をつけたりしたらシギは怒るだろう。それだけは避けねばならない。どんな報復が待ってるか、想像するだけでも恐ろしい。
以前それで弁当に下剤を仕込まれたことを思い出し、ついでにおかずが全て納豆にすりかえられたことを思い出し、更にはもらったトマトに濃縮された蜂蜜が入っていたことを思い出し、サスケはちょっとばかり青い顔で、離れていく2人を見送るのだった。
うちはシギと連れ立って歩き、ひとまず自己紹介をしようとしたところで邪魔が入った。
「刹那くんっ、いきなり飛び降りるなんて怪我したらどうすムゴっ!?」
何やら凄い剣幕で迫ってきたミミナの口に素早く団子を詰め込む。うん。静かでいい。
「ああそれで、僕の名前は――」
「何やってるかお前ーっ!!」
「―――!?」
突如爆発した怒鳴り声と同時、何故かシギに殴りかかられ危ういところでこれを避けた。
「い、いきなり何を――」
「それはこっちのセリフだこの野郎!松風先生に何しやがる!?」
「何って・・・・・・団子を食べさせただけだよ?静かにしてほしかったから」
「ふざけるなぁーっ!!」
別にふざけてなどいないというに、シギは怒髪天を衝く形相でまたも殴りかかってきた。しっかり顔面目掛けて打ち出された拳を余裕で回避し、とりあえず距離を取る。
「えっと・・・怒る理由が見当たらないんだけど」
「その態度がムカつく!天然かこの野郎、そこに直れぇ!!」
侍じゃあるまいし、直れはないんじゃないかと思うのだが、そんなことを言っても止まってくれそうにない。ついには手裏剣まで取り出したシギを見て、溜息混じりに腰へ手を伸ばす。―――が、伸ばした手は空を切った。
・・・・・・武器預けたままだし。
もちろんシギがこちらの事情を汲んでくれるはずもなく、当然の帰結として手裏剣が投じられた。・・・・・・連続で。
「多っ!」
投げすぎだろというぐらいの数、具体的には24枚。狙ってやったか否かはともかく、適度に軌道が散らばっているので下手に動けない。・・・・・・見た感じ思いっきりマグレだが。
ああもうっ、チャクラの無駄使いだ!
ほぼ一瞬で印を組み、手の平を地面に叩きつけた。
――土遁・土陸返し!
流すチャクラ量を少なくし、必要最低限だけ地面をひっくり返す。ザクザク手裏剣が刺さってあらかた通り過ぎた後、眼前の土塊に掌底を向け、突き、触れる寸前でチャクラを爆発させる。
刹那と同サイズだった土の塊は、途方もない衝撃で砕け散弾の如くシギへと襲い掛かった。
・・・・・・簡単に言えば刃のない手裏剣が10倍返しどころではない物量で飛来したようなものであり、無駄にたくさんの手裏剣を投げ体勢の崩れていたシギにかわす余力があるはずもなく――
「のべごぼあぁーーっ!っ、・・・・・・・・・・・・」
土の弾丸で全身を打ちのめされ最初の怒号が嘘のようにあっさり沈黙。・・・・・・うん。土を飛ばした際にエネルギーもかなり拡散したから大丈夫だと思うけど・・・・・・ちゃんと生きてるよね?
泥まみれもとい土まみれのシギにそーっと近寄り――
「引っかかっだゴベ!?」
ゾンビの如く起き上がった気味の悪い物体の側頭に回し蹴りを叩き込み、今度こそ静かになった。
「・・・・・・何だった訳・・・?」
また起き上がりそうな気がしないでもないため、確実に意識を刈り取ったと判断しつつも微妙ーに距離を置いて呟く僕。
と、一連の事態を離れたとこで見ていたサスケが、まるで頭痛をこらえるように手を額にやってこちらへ来た。
「・・・・・・悪い、迷惑をかけた」
「ていうか・・・今の何?」
僕の問いにサスケはチラリと詰め込まれた団子を仕方なさそうに食べるミミナに視線を走らせ、耳元でぼそぼそと語る。
「(この馬鹿はあの女教師に惚れてるらしい)」
「は?」
「(平たく言えば嫉妬したんだ。・・・・・・恥ずかしがって1人じゃ話もできないとか言ってたぜ)」
「な・・・なんて傍迷惑・・・・・・」
精神年齢的には適してるかもしれないが、まず間違いなく相手にされないだろう。
・・・・・・まともに話、できるかな?
今後の道行きが不安になったと言わざるを得ない刹那であった。