歴史
正史
其はすべからく、僕の道具。
「それじゃ・・・またね、我愛羅」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いや、そんな顔されても困るって。・・・・・・手紙送るから、ね?」
「・・・・・・・・・・・・(コク)」
なんだかなー。原作とのこのギャップは何なのだろうか?
1週間の滞在期間が過ぎ、僕達カシワ商隊は次なる目的地へ出立しようとしていた。
無論のことながらそれを告げた昨夜、我愛羅のテンションは最低ランクに落ち込みテマリ達共々フォローするのが大変だった。・・・・・・こう、ね?頼りにされるのはともかく依存はどうかと思う訳。そのへん交えて説教紛いなことしたら余計落ち込んだのさ。大変だったよ・・・ホント。
テマリ達とはあの翌日謝罪(もといご機嫌伺い)に彼らの好物片手に行って一応仲直り(休戦?)した。それ以降はこれといった問題が起きることもなく、日々我愛羅との友好を深めていった。忍術及び戦術等の議論をしている時はテマリ達も参戦した。何でも、僕をまだ認めた訳じゃないがその脳力は認めてやるとか。我愛羅に聞こえないよう耳打ちだったが、それでもまあ僕は良しとする。最初と比べれば大きな進歩だ。
ああそういえば、一度だけ風影と会ったっけ――
「・・・お前が白亜刹那か」
声には断定の響きがあった。恐らく砂の暗部などに探らせていたのだろう。表情は覆面に隠れ碌に見えないが、瞳には値踏みするような色があった。
警戒は当然。砂の最悪にして最強の兵器と普通につきあう得体の知れない子供なのだから。
「100年の伝統を誇る商隊『柏』を代々護衛する忍びだとか。・・・そんな昔からあるが故に、どこの里にも属してないそうだな」
・・・・・・さすがは風影。最低限のことは調べてるみたいだ。水鏡までは知らないだろうけど。
「そういうことは母に言ってください。僕はさして詳しくありませんから」
僕は友好そうな笑みをたたえたまま、口調のみを正しそう答えた。
もちろん大嘘だ。歴史はとうに習っており、その記憶も万全である。五影に対し余計な情報を与えるなど愚の骨頂甚だしい。
「こちらの知ることを口にしただけだ。気にする必要はない」
「そうですか。僕としましてはその情報の信憑性の方がよほど気になりますが」
「信頼はできる、とだけ言っておこう」
風影の目が値踏みから満足そうな色に変わった。僕は何らかの基準を満たしてしまったらしい。
「カシワ商隊と言えばあらゆる国々を廻ることで有名だが・・・」
「ここ数年は霧も物騒ですし、そこまであちこち行ってる訳じゃないですよ」
「そうだな。そこで物は相談だが、砂に雇われる気はないか?」
「あの・・・・・・カシワ商隊と長期契約結んでるんですが」
「言い方が悪かったな。情報屋にならないかという誘いだ」
要は簡易スパイですかそうですか。ある意味自由に国を廻れる僕という存在は非常に適任ではあるけれど・・・・・・
「こんな子供に頼むことですか?」
「ただの子供は人柱力と仲良くしようとはしない」
・・・・・・一理ある。だけどどうしよっか。砂と、それも最高権力者とパイプを結べるなら魅力的な提案ではあるけど。
「・・・・・・義務も責任もない歩合制なら考えてみましょう。価値の判断はそちら持ちで」
「くっくっく・・・・・・成る程成る程、確かに歩合制だ」
「口座番号はこちらですから、気が向いたらお支払いください。やる気に繋がります」
「では交渉成立だな。契約を違えるのは忍びの世界でも御法度だ。安心すると良い」
「では早速払ってもらいましょうか」
「・・・・・・何?」
「『赤砂のサソリ』が現在いる組織の名前・・・いくらで買います?」
その名を出した瞬間、愉快気な気配が欠片も残さず消え失せた。里長となるに相応しいプレッシャーと眼光を前に、けれど僕は柳に風と冷めたお茶に口を付けていた。
「・・・・・・冗談の類では無いようだな」
「契約違反は御法度ですからね」
言質を返され、風影は覆面の奥で唇をつり上げるとプレッシャーを収めた。双方一歩も動いてないにも関わらず、室内温度の上下移動が激しい。
「信憑性は?」
「100パーセント。仮に現段階で所属してないとしても、今後確実に入る」
「判断の根拠は?」
「秘密。契約相手であっても、手の内を明かす奴はバカだ」
「・・・・・・百万両だそう。こちらで確かめ、間違いがなかった場合さらに九百万だ」
「くすくす・・・賢明だね。一千万も出すとは思わなかったけど」
日本円に換算すれば一億だ。軍縮で苦しいだろうに、よくもまあ。
「では対価をもらおうか」
「そうだね。早いとこ受け渡しを済ましましょうか」
すい、っと僕は瞳を細め、それを口にする。
「彼らの名は――『暁』」
この一言だけで一千万両だ。それも、労力は一切使わずに。・・・・・・原作知識というのは、本当にありがたいね。
「・・・・・・」
アレは我愛羅とはまた違う一種の化け物だと、風影は考える。
白亜刹那という少年が砂を訪れ、まだ一週間と経たない。だと言うのにあの子供は我愛羅を掌握しこの私すら半ば翻弄した。敵に回して良い存在ではない。我愛羅と共に刺客を倒した実力のみならず、その頭のキレにおいても・・・・・・いや、こちらの方をより注意すべきか。
テマリからの報告・・・・・・あの2人が次に取るだろう行動をいち早く予期し、何気ない会話の中で我愛羅にそれを示唆する話術・・・心理把握・・・・・・異常な領域にあると言って過言にもならないか・・・・・・
先の会話でも能力の高さはうかがい知れた。存分に見せつけられたとも言うが・・・・・・まあいい。あの子供と契約を結べたことは僥倖だ。それに、白亜が去り際に残した言葉・・・・・・
『これはご忠告ですが・・・下手に話を広めて命を無駄にさせない方が良いですよ?』
何を言いたかったのか瞬時には分からなかったが・・・よく考えれば簡単だった。確かに御意見番に知らせるのは時期尚早だろう。・・・・・・チヨ婆のことまで、一体どこで知ったのやら。
『それと最後に、邪悪なる蛇の囁きは身を滅ぼします。では、またいずれ・・・・・・』
・・・・・・この言葉の意味はまだ不明だ。無駄という訳ではないだろうが。
「何にせよ、長い付き合いになると良いな」
――風影との会合、そして秘密のお仕事は母さんには秘密である。何を言われるか分かったもんじゃない。口座は変化の術で大人に化けて取ったので母さんも知らない・・・はず。多分ね、多分・・・
遠くなってゆく砂の里をぼんやり眺めながら、僕はこの一週間を思い返していた。
4年かけてようやく出会えた原作キャラ。これから少しずつ、歯車はずれていく。
木の葉崩しの砂参戦は恐らく防げるだろう。我愛羅とは友になれ、風影とは個人的な契約を結んだ。
砂の里、そして我愛羅とはしばしのお別れだ。
視線を背後に、商隊の進む向きへと移す。
次は、木の葉だ――