竜の王国の中でも一際際だった存在、数多のプレイヤーを恐怖のどん底に、死に追いやった存在、体は金色に輝き、吐くブレスは灼熱を超え、扱う魔法は熟練したプレイヤーを軽々と超え、直接打撃は、グランドマスターたる戦士達でも瀕死の重傷に追い込む。
それが古代竜だ、だが、それでさえも、制限があった世界での話。
「法則」が彼を縛ると同時に彼はこの世界で定義され、その際に彼に取っては忌々しいだけの制限は全て取り払われた。
ーーー取れる攻撃手段は三つ、ブレス、魔法、打撃。
ーーー取れる攻撃回数は触れている時だけ、一秒間に最大三つ。
自我が無い状態だったとはいえ、彼にとっては忌々しき制限であった。
それが、全て、取り除かれた。
始まりは、至高にして最大の神のプレスから始まった。
体力ゲージに従い威力が変わる、その制限も取り除かれ、直接かすりでもしたらそれだけで体内の水分が瞬時に沸騰して即死、決して当たってはいけない神の裁き。主の裁き。
効力は部屋全体に及び、あらゆる壁という壁をガラス状に変えた。
「・・・・・・土遁・岩隠れの術」
「水遁・爆水衝波!」
落ち着いてかわしたのがイタチ、地面に潜り事無きを得て、急いで術を展開したのが鬼鮫、咄嗟の術が間に合い、鬼鮫には傷一つつかなかった。
「待った待った、イタチさん、私は先に帰らせていただきます、こんなのがいるってことで、使命はもうすでに果たされたでしょう」
そう言うが早く、鬼鮫は瞬身の術でその場から姿を消した。
「二人とも防げるとは流石は人族の勇者、ふむ、逃げるのも戦術の一つ、お主はどうする、さぁ何を我に見せてくれるのだ?」
喜悦の色を隠そうともせず、古代竜はイタチにスフィンクスさながら問いをぶつける。つまらなければ、最大攻撃の構えだ。
「・・・・・・何も、もうすでに・・・・・・?」
古代竜は平然としている。
イタチに初めて焦りが見て取れた。
「我に人族の術が及ぶと思うてか!?」
古代竜の激昂と共に、イタチの周辺に光が集まる、上からは黄色い雷の束と隕石が、下からはイタチを嘗めつくさんと炎の渦が、周りからは全てを飲み込まんばかりに赤い光が、そして古代竜本体からは直線的に真っ白な破壊エネルギーの塊が。
Chain Lightning Meteor Swarm Flamestrike Explosion Energy Bolt
人間の身では未来永劫不可能な五連コンボ、それも第六と第七に記載されている人の身で喰らってしまったならば、絶命必死な逃れられぬ、圧倒的なエネルギーがイタチに放たれた。
ドゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
各々の魔法が干渉をして、元の威力を数倍にまで上げる、空間そのものが抉り取られたように、炸裂した直後、補完するため空気が術の中心に集まる。
「・・・・・・とんでも無い威力だな、まるで尾獣を相手にしているみたいだ・・・・・・」
イタチは、イタチにしては珍しく顔に汗を流しながらも、基本忍術の一つ、変わり身の術で危機を逃れた。
「幻術が通らない相手というのは初めてだな・・・・・・そうでなければこんな所にまできた意味が無い!」
イタチの目に万華鏡が走る。
「それはもうすでに見た」
古代竜の姿が声と共に消える、Invisibility-姿消しの魔法。
天照は不発に終わる。使うべき対象の姿が見えなければ意味がない。
「・・・・・・使うしか、無い、か、須佐能乎」
イタチの目から黒い血が流れる。
古代竜はTelelportですぐさま後ろに回り込み、渾身の一撃をイタチに振り下ろす。
イタチの周囲に鬼の顔が鬼の姿が浮かび上がる。
「八咫鏡」
古代竜の攻撃は須佐能乎が完全に防ぐ、が、其所までだった、激しいチャクラの消費により、イタチはその場に崩れ落ちた。
「・・・・・・我の本気の攻撃を三度防いだ、か。気絶こそすれど命を取り留めたは・・・・・・勇者の名にふさわしい・・・・・・・・・・・・この者に、かけてみるか」
古来より、神話の中に三つという数字は度々出てくる、有名どころで言えばクトゥルー神話、その他にも三つの試練を乗り越えた等の話は様々な場面に出てくる、三匹の子豚でさえ、根幹にはその思想が練り込まれているのかも知れない。
古代竜は人間とは違い、魔法の詠唱に秘薬も呪文もいらない、その膨大なる力、この世界で言えばチャクラがその二つの存在を無意味にしている。
しかし、古代竜は、あえて呪文を唱えた、彼に取って・・・・・・彼女に取って特別な呪文を唱えんがために。
「Vas Ylem Rel」
「この姿になるは、この世界では初めて、かの・・・・・・ほれ、起きろIn Vas Mani」
Greater Healは元の世界では体力だけを補完する魔法だ、しかし古代竜の圧倒的魔力に掛かれば・・・・・・。
「遅いですね、イタチさん・・・・・・まさかイタチさんに限って遅れを取ることなんて・・・・・・」
先に帰ると言っていた鬼鮫だが、どうにも気になりダスタード入り口にてイタチの帰還を待機していた。
全くの無音、それから徐々に地震が始まり、洞窟が徐々に崩れていく。
「イタチさん?主を殺したんですかね、流石、あのとんでも無い化け物ですらイタチさんに掛かれば・・・・・・おや?」
暁は今まで探索した洞窟で、主を発見、殲滅した場合、その洞窟自体が崩れることを発見していた。
もの凄い轟音と共に洞窟は完全に潰れた、後には平穏な平原が広がるのみ。
「まさか、洞窟の崩落に巻き込まれたなんて間抜けなまねをするわけが!?もしかして相打ちですか??まさか、イタチさんに限ってそれはないでしょう」
「ほう、随分相方に信頼されているようじゃな、大した物じゃのうイタチ」
「・・・・・・黙れ、・・・・・・帰るぞ鬼鮫」
「・・・・・・イタチさん、私は貴方の趣味にとやかく言うつもりはありませんが・・・・・・それは犯罪ですよ、何処で拾ったんですか?その幼児は、攫って大蛇丸みたいに人体実験なんて悪趣味な真似でもするんですか?」
鬼鮫の目には、イタチの上着一枚のみをまとった幼女と、それを抱えているイタチの姿が映っていた。年の頃は六歳、顔立ちは年の割に整っており、将来が楽しみと言えば楽しみといえる子供だった。
イタチはつまらなそうに喋る。
「馬鹿か、こいつは主だ、何でこんな姿なのかは知らないが、協力してくれるらしい」
目が点になる鬼鮫
「よろしくのぉ鬼鮫、イタチがどうしてもこの姿になってくれというから泣く泣くのぉ」
「黙れ・・・・・・行くぞ鬼鮫」
何故か洞窟に入るよりも元気になっているイタチは、瞬身の術で子供を抱えながら去った。
「ちょ・・・・・・詳しい説明を後でして下さいね」
鬼鮫も同じく瞬身の術で後を追い、にやにやしながらイタチに問いかける。
「・・・・・・知るか」
イタチはそっぽを向き、更に速度を上げた。
「契約?」
何故か体力、チャクラ共に全開に為っていた、イタチの前には素っ裸の子供が立っていた。
「そう、契約じゃ、我は死ねばすぐに我の全く同じ同位体が「世界」によって生み出される身なのじゃ、それは我であって我ではない、我は我だけで十分じゃ、じゃなければ手下共にも申し訳ないからのぉ」
イタチは無言で上着を一枚子供に羽織らせた。
「ふむ、優しいとでもいうのかの、続きじゃ、我は、「世界」が憎い、我は自由に生きたいのじゃ、せっかく得た自我、「世界」等という得体の知れない者に操られるのはまっぴらご免じゃ」
「契約して俺に何の得がある」
「隠しても無駄じゃよ、主は病に冒されとるな?しかもかなり重い・・・・・・その病を治せるとしたら、どうする?」
イタチは子供に詰め寄り肩を握りしめる。
「・・・・・・詳しく話せ」
子供は捕まれた手をものともしない。
「何、この世界の技術では治せなかったんじゃろ?ならば、我の世界の技術ならば、どうじゃ、人族の中には死者すら霊魂から蘇生させていた者がいたぞ・・・・・・必ずいるはずじゃ、この世界にも、我がここにいるということは、「感染源」がおるはずじゃからな、我は無理じゃ、人族の治療は人族でなければいかん」
「そんな技術者が必ずいるとは・・・・・・」
「もし居らずとも、「知識」は確実に持ち込まれているはずじゃ、でなければ我が魔法を使える理由にならん、いやそもそも我が存在しえん、引いては人族が定義するところのモンスターが存在出来ないのじゃ」
「・・・・・・それが、契約とどう関係があるんだ」
「このまま我が主をやっていても、「世界」を敵に回すことすらできん、我は人に紛れる必要がある、少なくとも、「世界」に直接動かされる心配が消える、我の意思を無視した行動なんざ、まっぴらご免じゃ」
「・・・・・・具体的には」
「ゆえに、主と契約するのじゃ、我が認めた主ならば、「世界」の尻尾くらいはつかめるじゃろう、安心しろ、我と行動を共にしていればいずれ「感染源」とは巡り会えるはずじゃ・・・・・・主の病、もって五年程度じゃろう?それまでには必ず逢える、主も生きてやることがあるのじゃろ?」
イタチは子供の肩から手を離し、深く目を瞑り、考える。
目が、開いた。
「わかった、契約しよう」
「契約の内容を聞かなくてもいいのかの?」
「嘘をつくのは人間だけ、かつて誰かに聞いた話だ、・・・・・・それにお前程の者が俺を陥れるはずがない」
「ふふ、さすが我が認めた男、・・・・・・目を瞑り、顔をさげい」
イタチは言われた通り、顔を下げた。
「我の名前は*******じゃ、決して忘れるでないぞ、これはサービスじゃ」
古代竜の変化した美少女の唇がイタチの唇に触れる。
「何を!?」
イタチの体に熱が走る。
「安心せい、主の力の底上げじゃ・・・・・・来たか」
常人ならば気絶してしまうほどの熱、だがイタチは常人ではない、耐えきり顔を上げると広大なフィールドに、大量の竜がひしめき合っていた。
それぞれが一言もうめき声も上げず、ただじっとイタチを、古代竜を見つめていた。
「皆の者、我に従いついてきた者達よ、暫しのお別れじゃ・・・・・・我はこの者と暫しの間歩むこととなる、何、我らの寿命からすれば星が動くよりも早い事じゃろう・・・・・・安心して眠るがよい」
聖少女の顔つきで、古代竜は全てのモンスターに声を掛ける。
ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
モンスターの返答が響き渡る。
「随分と慕われているんだな」
「当たり前じゃ、我を誰だと心得る、この竜の王国の主、・・・・・・竜王じゃぞ?」
イタチは不覚にも、目の前の少女の微笑みに心を刹那奪われてしまったことを自覚した。
モンスターの姿が薄れていく、モンスター達の古代竜に対する声はやまない、最後の一匹まで薄れていき、やがて最後の一匹も消えた。
「さて、最初の仕事じゃイタチ、我を外まで運ぶがよい、何しろ我はか弱き少女じゃからのぉ」
「・・・・・・どこがだ・・・・・・契約、忘れるなよ」
「ふふ、人族は短い寿命こそにこそ真価があると思うのじゃが、・・・・・・我が認めた勇者のためじゃ、一肌脱ごう」
イタチはそれきり黙り込み、ダスタード入り口まで少女を抱え、走り去る。
洞窟の鳴動が始まる。
「さらばじゃ、皆の衆・・・・・・また、すぐに帰るでの・・・・・・」
古代竜は姿に似つかわしい声で、最後にぼそりと呟いた。
*はい、主人公を狙うペアがもう一組増えました、大蛇丸に比べれば変態度は全くありませんが、イタチが相手では主人公が逃げ切ることは限りなく難しいでしょう、どきどきの命懸けの隠れん坊がまたまた始まりです。