カカシ上忍に貸してもらった『イチャイチャパラダイス』を4回読み終わる頃にはありとあらゆる検査、というか探知タイプが試されていた。
日向一族の白眼曰く、
「チャクラ量は平均より少し多い程度。忍びとしての鍛錬によるチャクラ変換率の高さが視れる」
要は、普通の忍びの範ちゅうを超えてはいないと。
山中一族曰く、
「さすが上忍とあってタフですね。ああ、戦争を体験したのか。まあ、そうなるよね」
その後知り合いの話で盛り上がり、なぜかお菓子を貰った。
尋問部曰く、
「嘘をついてはいない。自白剤を使うか? 中身はともかく身体は子どもだからおすすめはしないが。腐っても上忍だから情報をとろうとしたら廃人は覚悟しないと。……ああ、もしかしたら子どもになったせいで痛みへの耐性は無くなっているかもな。試してみないと」
中指を突き立てておいた。
「退院していいぞ。その代わり退院後、君の診断結果を火影様に報告しおいたから。指示を以降仰ぐ……あ、何か分かったら教えてくれ。面白そうだから」
散々いじられたあげく医療忍から聞かされたのはそんな言葉だった。酷い、酷過ぎる。
健康であるとの太鼓判を頂き一週間世話になった病室を後にする。休暇を貰ったと思って、と言われたがこんな理不尽な休暇があってたまるものか。
執務室のドアを叩く。
「入れ」
「失礼します」
手元の書類をみつめる三代目の姿があった。ふむ、と言うと仰々しくパイプに火をつけ始める。
「ユウキよ、お主の両親について何か思い当たる節はないか?」
「何も。父は幼い頃両親をなくしていましたし、母は一般人でした。そしてそれ以上のことは知りません」
そうか、と呟く。確認のために聞いたのだろう。
「悪いが敵からの術の可能性も考え、お前の部屋を調べさせてもらった」
やはり、カカシ上忍が指摘したとおりだ。
「が、残念ながら何も出なかった」
「わかりました」
しょうがない。
「もしかして私は鬼火ユウキではなく、全く別の子どもで、記憶を移し替えられただけ、ということはありませんか?」
「何か心当たりが?」
「この状況を説明できる仮説の一つです」
事実であるはずないと思うが、それでも状況から推測できる仮説だ。
「それはありえんと知っているだろう」
「……はい」
姿形は変わろうと、自分は鬼火ユウキだと確信がある。三代目の眼差しは、それを捉えていた。
「儂も文献に当たってみたが、この状況を打開する情報は得られなんだ。分かるとしたら綱手や……そのあたりだろう」
一瞬言葉が詰まったのを、敢えて見逃す。
「すまんがお前には現状維持となる。定期的に検査して様子を見る。また、お前の任務だがすべて他のものに変わって貰った。はっきり言ってその肉体でどこまで身体が動かせるのか分からんのでな。上忍にその身体での適正を見てもらい、その上で任務を言い渡すことになるだろう」
「了解しました」
「うむ、ずっと病院にいて体もなまっているだろう。準備をし、明日その上忍に適性を見てもらう」
「はい」
今日中に体を調整しておかないといけないな。
「それと……」
「なんでしょうか?」
言いよどんだ火影を催促する。大丈夫だ、こういう状況は予測できていたし、覚悟はある。
「孫の木の葉丸にあったら、仲良くしてやってはくれんかの?」
……は?
「いやはら、同い年くらいであやつのやんちゃに付き合える忍者がいなくての、ちょうどお前ぐらいであったらいいだろう」
いいことを思いついたというようにしきりにうなずいて納得している。
「あやつも可愛い女子だったらさすがに話も聞くだろう」
ホホ、と笑う糞爺ぃに軽い殺気がわく。お前も同じか。私は二十歳の成人女性だといっているだろう。しかもかわいい系くノ一じゃない、クールビューティー系くノ一である私に対する侮辱だ。
「分かりました火影様。木の葉丸様に会ったらやんちゃに付き合っておきましょう。ええ、仲良くなって見せます。お楽しみにしておいて下さい、火影様」
全力の営業スマイルをかまして、執務室を去る。
あと、裏で笑っていた暗部の奴、てめえもぜってぇ許さねえ。
鬼火ユウキの処刑リストに二人が載る。
この時、三代目火影にして猿飛木の葉丸の祖父、猿飛ヒルゼンが世紀の大噴火を起こし、鼻血の海に溺れることが決まったのだった。