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No.3089の一覧
[0] NARUTO うちはルイ暴走忍法帖[咲夜泪](2010/06/23 02:13)
[1] 巻の2[咲夜泪](2010/06/23 02:30)
[2] 巻の3[咲夜泪](2010/06/23 02:36)
[3] 巻の4[咲夜泪](2010/06/23 02:54)
[4] 巻の5[咲夜泪](2010/06/23 03:02)
[5] 巻の6[咲夜泪](2010/08/03 21:09)
[6] 巻の7[咲夜泪](2010/06/23 03:13)
[7] 巻の8[咲夜泪](2010/06/23 03:23)
[8] 巻の9[咲夜泪](2010/06/23 15:36)
[9] 巻の10[咲夜泪](2010/06/23 15:47)
[10] 巻の11[咲夜泪](2010/06/23 16:44)
[11] 巻の12[咲夜泪](2010/06/23 17:00)
[12] 巻の13[咲夜泪](2010/06/23 17:16)
[13] 巻の14[咲夜泪](2010/06/23 17:23)
[14] 巻の15[咲夜泪](2010/06/23 17:37)
[15] 巻の16[咲夜泪](2010/06/23 17:45)
[16] 巻の17[咲夜泪](2010/06/23 17:52)
[17] 巻の18[咲夜泪](2010/06/23 18:01)
[18] 巻の19[咲夜泪](2010/07/01 23:34)
[19] 巻の20[咲夜泪](2010/06/23 18:13)
[20] 巻の21[咲夜泪](2010/06/23 18:42)
[21] 巻の22[咲夜泪](2010/07/01 23:39)
[22] 巻の23[咲夜泪](2010/06/23 19:09)
[23] 巻の24[咲夜泪](2010/07/01 23:54)
[24] 巻の25[咲夜泪](2010/07/01 23:59)
[25] 巻の26[咲夜泪](2010/07/02 00:10)
[26] 巻の27[咲夜泪](2010/06/23 19:42)
[27] 巻の28[咲夜泪](2010/06/23 22:52)
[28] 巻の29[咲夜泪](2010/06/23 23:01)
[29] 巻の??[咲夜泪](2010/06/23 23:07)
[30] 巻の30[咲夜泪](2010/07/02 00:43)
[31] 巻の31[咲夜泪](2010/06/23 23:29)
[32] 巻の32[咲夜泪](2010/06/23 23:36)
[33] 巻の33[咲夜泪](2010/06/23 23:51)
[34] 巻の34[咲夜泪](2010/06/24 00:31)
[35] 巻の35[咲夜泪](2010/06/24 01:19)
[36] 巻の36[咲夜泪](2010/06/24 00:38)
[37] 巻の37[咲夜泪](2010/06/24 01:00)
[38] 巻の38[咲夜泪](2010/06/24 01:05)
[39] 巻の39[咲夜泪](2010/06/24 01:26)
[40] 巻の40[咲夜泪](2010/06/24 01:37)
[41] 巻の41[咲夜泪](2010/09/10 01:08)
[42] 巻の42[咲夜泪](2010/07/07 03:50)
[43] 巻の43[咲夜泪](2010/07/20 02:03)
[44] 巻の44[咲夜泪](2010/07/30 20:06)
[45] 巻の45[咲夜泪](2010/08/03 02:20)
[46] 巻の46[咲夜泪](2010/09/07 06:26)
[47] 巻の47[咲夜泪](2011/01/12 13:50)
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[3089] 巻の12
Name: 咲夜泪◆ae045239 ID:ceb974ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/23 17:00




 木ノ葉隠れの里から土の国の国境付近まで辿り着くのに一週間余り。
 意識を失ったナギと私という二人分の荷物を背負い、不眠不休で木ノ葉隠れの里に逆戻りするのに四日前後掛かったそうだ。
 その四日間、私は死人の如く眠り続けた。その御陰で里に帰還した夜にダンゾウと交渉しに行けたのだが、少し調子に乗りすぎたと後悔する。
 あの狸爺は思った以上に手札を隠している。包帯に隠れた右眼が写輪眼か白眼か、または万華鏡写輪眼か、何れにしても厄介であるし、隠している右腕の方はもっと厄介なものが封じられている気がするが、直接戦わぬ限り、確かめ様が無いのが残念だ。
 翌日、文字通り動けない身体に私は思わず舌打ちする。写輪眼と手抜きの口寄せで、折角回復の兆しが見えたチャクラを使い果たしてしまったのだろう。
 一人寝転がりながら不貞腐れていると、扉からノック音が聞こえる。誰かと思えば日向ヒアシとハナビの二人組だった。

「叔父様にハナビちゃん。態々お越し頂いてすいません」
「気にするな。して、容態は?」

 起き上がって出迎えようにも身体が動かないので首を逸らすだけに留まる。
 無礼極まりないと思いつつも、お見舞いに来た二人に感動を覚えずにはいられない。

「チャクラを使い果たしただけなので一週間程度の入院で大丈夫です。他の負傷は掠り傷なので問題無いかと」

 ヒアシは一安心するように目を一度瞑った後、厳しい眼差しを窓の外に向ける。

「そうか。……全くあれも不甲斐無い。後程此処に来るだろうから、修練場で待つと言伝を頼む」
「はい、しっかりと受け賜りました。――それと例の件ですが」

 あれ呼ばわりのユウナにご愁傷と合掌しつつ、岩流ナギの件に関して確認しようとしたが、ヒアシは途中で遮って一言で斬って捨てる。

「問題無い。今は休養に努めよ」

 ヒアシの不器用な優しさが心に染みる。
 やはり心身共に弱っていると容易に心の隙間に付け込めるのだな、と実体験として納得する。

「ルイ姉さま、御身体を大事に」
「うん。ありがと、ハナビちゃん」

 ハナビのお見舞いの言葉に私は思わず破顔する。
 家族なるものは言葉上でしか理解出来ない希薄なものだが、確かに暖かいと思ったのだった。


 巻の12 木ノ葉に帰り、束の間の平和を楽しむの事


「お、漸く目覚めたか寝坊助」
「一言目から酷い言い草ですね。――おはようございます、カイエ先生にヤクモ、ユウナ、ついでにナギも。身体の具合はどう?」

 ヒアシとハナビが帰った後、程無くして九班のメンバーと子犬バージョンの六尾渾沌を胸に抱く岩流ナギが現れる。元気そうで何よりである。
 子犬バージョンの渾沌には尾獣としての面影は真紅の眼以外無い。尾も一つであり、羽も生えておらず、足も四脚、何処からどう見ても奇妙な黒犬である。
 ナルトの口寄せで例えると、ガマブン太を口寄せし損ねて、小さい蝦蟇を呼び出したような状態である。流石はチャクラの塊で恐らく不死の存在と言ったところか、形状の差異などお構いなしである。

「上忍を嘗めんなよー。幾ら凡人のオレでも人間の身体してないぜ」

 カイエへの評価を体術だけならガイ並の際物へとランクアップする。横で「わ、私はついでですか……」としょんぼりするナギを私は華麗に無視する。

「俺達二人は本当に三日三晩走り続けて全身疲労に陥っただけだから問題無いぜ。ルイの方は?」

 目の下の隈が目立つヤクモの様子に若干疑問符を浮かべるが、敢えて気にせず受け答える。

「二度と八門遁甲の体内門を開けないと誓ったね。リーみたく動いてもいないのに全治一週間なんてふざけているわ」
「多重影分身並の禁術だしな、常人が使えば普通に死ねるぞ。一門すらまともに開けた事の無い奴が一気に七門開けたんだ、後遺症無くて幸いだと思え」

 ぶーぶーと文句垂れる私に、カイエは説教じみた事をやる気無く告げる。
 完全な状態でもナルトみたいに多重影分身の術を使えば一発で枯渇死するだろう。その最悪な事態を考えれば、今回は僥倖だったと一息付かざるを得ない。

「それにしてもナギも自分達と同じだとは――それも人柱力にいるとは。案外、何処にでもいるものですね」
「ううぅ、苦節十二年、生きた心地全然しなかったけど、木ノ葉に来て本当に良かったぁ」

 ユウナは半分呆れたように感嘆の息を付き、ナギは涙目になりながら苦労を語る。
 ナギが私達と同じ同郷の者と発覚したのは、私が月読の精神世界で六尾をフルボッコにしている時だ。……何処かで見た事ある過剰殺傷を目の当たりにして、ぶるぶる震えていたが。
 因みに彼女が意識を失った原因は単純に七十二時間過ごす羽目になったからである。決して巻き添えにしたとか、そういう事は無い。

「――で、あれから調子はどうなの?」
「もう在り得ないぐらい絶好調です! 暴れ出す事も無くなったし……ただ」

 満開の笑顔がなりを潜め、ナギは抱える子犬の渾沌の頭に恐る恐る手を伸ばす。
 手が掛かるか掛からないかの刹那、自身の尻尾を噛んでいた渾沌は尻尾を離してまでその手を噛まんと無言で威嚇する。

「どういう訳か、コンちゃんの頭撫でようとすると噛み付かれるのよねぇ。全然懐かないし……」
「その的外れな度胸が何処から沸いてくるか興味深いわ。……その胸かしら?」

 ヒナタと同じぐらい発育の良いナギの胸を刺々しく睨みつける。
 というより、渾沌だからコンちゃん呼ばわりする単純なネーミングセンスに全身から脱帽する。

「あ、あうぅ~」

 ナギは蛇に睨まれた蛙のように縮こまる。
 同時にその腕から抜け出した渾沌が私のベットの脇に座り込む。犬は自分と他者の力関係に順位付けると言うが、間違いなく私>渾沌>>>超えられない壁>>>ナギなのだろう。

「念を押すけど、もう一度言っておくわ。私が写輪眼使える事は他言無用よ。うっかり喋ったりしたら――同じ目遭わすぞ」
「ひ、ひぇえぇ~~~っ! ご、ご勘弁をぉ~~~!? わたしゃまだ死にたくありませんっ!」

 トドメとばかりに私は笑顔で凄む。その取り乱し様は滑稽で面白い。
 そりゃ念に押すさ。一番うっかりで喋りそうなのはこの娘だし。

「……同じ目って何ぞや?」
「六尾を調伏した際、繰り広げられた全てのオーバーキルをプレゼント」

 自身の疑問に率直に尋ねたヤクモは想像したのか、一瞬にして顔を真っ青にする。
 いや、本当にする訳無いでしょ? この娘は大切な大切な六尾渾沌の入れ物なんだから。

「ナギ、ご愁傷様」
「うわっ、爽やかな笑顔であっさり見捨てた!?」

 親指を立てて、ヤクモは良い笑顔を浮かべる。
 ナギは涙目で抗議するが、それを横目に私はとことん弄られキャラが板についていると内心思う。

「二人とも、病室では静かに」

 口元を歪めつつ、ユウナが注意する。
 ヤクモは何処吹く風とそっぽを向き、ナギは身振り手振りと無言で何かを訴えようとしている。
 けれど、残念だ。君の弄られキャラのポジションは既に私の中で確定している。
 自然と笑顔が零れる中、ヤクモの腰元が眼に入る。何か微妙に足りないと思考し、あ、と気づく。

「……あれ? ヤクモ、太刀どうしたの? 脇差しかないけど」
「コイツの泥斬ったら折れたんだよ。ああ、思い出しただけで腹立たしい! 弁償しやがれコンチクショーっ!」
「ええぇ! やった覚え無いし、素晴らしいまでに無一文ですよ!?」

 何やら知らぬ間に折れていたらしい。
 素晴らしいぐらい無駄な言い争いをする二人に、私は至極冷静に割って出る。

「買えば良いじゃん」
「買う金ねぇよ!」

 ヤクモに即座に言い返され、まだ知らされてないのかとカイエに問い質すように視線を送ると、「あ」と気まずく目を逸らした。忘れていたな。

「そうそう、今回の任務は飛び入りだが、準Aランク扱いだ。口座に二十万両入っているからチャクラ刀の一本や二本は買えるぞ」

 頭を掻きながら「全くもって割りに合わねぇな」とカイエはぼやく。
 本当のAランク任務なら四十万両以上、それに今回は国の存亡に関わる事だったから相場的には百万両はくだらないとか。
 これもダンゾウとの交渉の成果の一つなので、本来なら支給されなかった報酬故に、多少は眼を瞑ろう。
 うちは一族の遺産を半分持っている私にとっては端た金だが、今までDランクの任務で小銭しか入らなかった二人には大金なのだから。

「二十、万両……? 一両が十円程度だから――二百万だとぉ!? ……てか、チャクラ刀って何すか?」
「おいおい、あれってチャクラ刀じゃなかったのか! 普通の刀であんな芸当してやがったのかよ……」

 私とカイエは驚きの表情をヤクモに向ける。
 チャクラ刀じゃないのにあんな離れ業をしていたとは、もう獲物の刀すらいらないんじゃないのか? 霊剣みたいなものを形成してさ。

「チャクラ刀というのはな、簡単に言えばチャクラを籠め易い刃物の事だ。使用者のチャクラによって性質が変化する面白武器だ」

 原作では猿飛アスマのアイアンナックルがそのチャクラ刀に該当する。

「この世界には美しい魔闘家でもいるんですか?」
「うわ、酷く懐かしいネタ飛び出したな、ユウナ。まあでも似たようなもんだ。それなりの業物なら十万両程度で買えた筈だ」
「高っ!?」

 そういえばヤクモはこの中で唯一忍以外の家系出身だから、高い忍具に費やす財は持ち合わせていない。だからこそ太刀と脇差一本で頑張って来たのだろう。

「ヤクモ、良い店知っているから退院したら一緒に行こう。品定めと値切りは得意分野だわ」
「……え、おお、ありがたいっ!」

 助け舟を出してやったところで、すっかり忘れていたヒアシの伝言を思い出す。
 伝え忘れてもユウナに責任転換させて楽しめるが、伝えた方が結果的に面白い。

「そうだ。ヒアシ殿からユウナへ言伝――修練場で待つ、だってさ。遺言なら聞くよ?」
「短い間だが楽しかった――って、死ぬ事前提かっ! ……前提だよねぇ」

 どん底まで意気消沈するユウナの姿を見て、私は満足気に頷く。入院中だから骨は拾ってやれないから頑張ってくれと応援する。

「それでナギ。貴女、今日から日向宗家に住まう事になっているから。其処のところヨロシク」
「は、はい? な、何故っ?」
「……え? 自分は聞いてないぞ」

 落ち込んだ傍からユウナも身を乗り出し、ナギと一緒に疑問の声を上げる。

「不測の事態に備え、貴女の中の尾獣を制御出来る者と一緒に住まうのは当然でしょ」
「あ、あれ。日向宗家にコンちゃんを抑制出来る人がいるんですか?」

 ナギの視線がユウナの方へ向き、ユウナは私に視線を送る。
 それでも理解出来ず、ナギは私とユウナの顔を行ったり来たりする。

「あはは。勿論いるに決まっているじゃないかー。――で、いい加減、現実逃避されるのも面倒だから言うけど、私は日向宗家にいるのよ」
「……か、神は私を見捨てた……!」
「元々でしょ」

 今日もまた清々しいぐらい良い天気である。




「……おい、ルイ。一週間は入院しているんじゃなかったのか? まだ三日しか経ってないぞ」
「男が細かい事をガタガタ言わない。もう中忍試験が三ヶ月ぐらいまで迫っているのに身体を鈍らす暇は無いの。……此処よ」

 体調が半分まで回復した私は自主的に退院し、ヤクモを連れて忍具専門の武器屋『御影堂』に辿り着く。
 若干ふらつくが、これぐらいは大丈夫だと虚勢を張る。

「うわぁ、いかにもって感じだな」

 年季の入った古看板と威風堂々と立ち聳える立派な門構えを眺め、ヤクモは息を呑む。
 重々しい雰囲気に呑まれたヤクモより先んじて扉を開き、気構える事無く来店する。

「御免下さい」
「おや、うちはの嬢ちゃんに……彼氏ですかな?」

 あらゆる忍具が所狭しと立ち並ぶ店の奥、新聞を広げた二十代前半の店主が冗談混じりに尋ねる。この男、年は若くても結構の曲者である。

「単なる同僚ですよ」
「左様ですか。して、本日の用向きは?」

 冗談を言う気力も無いので一言で斬って捨てるが、何やらヤクモが落ち込んだ気がする。

「チャクラ刀が欲しいの。値段は問わない、形状は刀のを」
「暫しお待ちを」

 忍者の如く奥に消える店主を尻目に、私とヤクモは近くにある忍具を物色する。
 私に関しては忍具に不自由する事も無いので、暇潰し感覚であるが。

「お待たせ致しました。此方などは如何でしょうか?」

 何本か持ってきた刀を私達は手に取り、鞘から抜き出して直接鑑賞する。
 刀というものは機能美の極限まで追究した芸術品である。折れず曲がらず斬れるという相反する性質を同時に達成した優秀な武器であり、刃紋の乱れ一つ取っても同じ物は無い。

「……すげぇ、今まで御目に掛かれなかったほどの大業物だぜこりゃ」

 ヤクモも見惚れるように刀の品定めに没頭する。己の獲物を選ぶのだからその表情は真剣そのものだ。
 次々と鑑賞していく中、一つの刀を手に取り、私は睨むように凝視する。

「ん? ルイ、どうしたん――な」

 息を呑む音が聞こえる。ヤクモもまた魅入られるようにその刀の刀身を隅々まで凝視する。

「――これはこれは、良い物を置いているね。これで無銘の刀?」
「はは、流石は御目が高い。他の業物に見向きもせず、それを御選びになるとは」

 その刀は異彩を放っていた。その刀身に秘められたものは妖気と評しても過言じゃないほど魔性の輝きだった。
 浮き出た刃紋は不規則な乱れ刃紋であるが、見惚れるほど美しい。
 意思の脆弱な者が持ったならば切れ味を試したいという願望に逆らえずに辻斬りと化す、そうなっても然程不思議じゃないほど人を狂わす何かを滾らせていた。

「ちょ、ルイ。それヤバイって。絶対に尋常じゃねぇ、人の生血啜った妖刀の類だぜ!」
「良くぞ見抜いたね。伊達に剣客はしてないか」
「おま、解ってて選びやがったのか!? てか使うの俺なんだぞ!」

 ヤクモの必死の訴えを無情に退け、店主の方に首を向ける。

「店主、試し切りをしたいのだが」
「ご案内します。此方にどうぞ」
「無視かよ!?」




「さあヤクモ、一刀両断してくれ」
「ああもう、やりゃ良いんだろっ!」

 直径二十センチはあろう丸太を前に、ヤクモは文句を言いながら抜刀する。
 抜いた当初は不可解なぐらい手が震えていたが、刀を肩に担ぐと同時に震えがぴたりと止まった。
 緊迫した空気が流れる中、繰り出された必殺の一閃は紫電の如く走り、丸太は一拍子置いて横一文字に両断される。
 その一部始終を私はしっかり眼に焼き付ける。
 鍔元の縁から柄尻の頭まで横滑りさせる特異な技法は精妙な握力の調節だけではなく、チャクラの精密な操作によって補われている。
 これによりあらぬ方向へ飛ぶ事を抑え、剣の切先を予想以上に伸ばす。初見で見切るには極めて困難な業と言えよう。

「――やれるとは思ったけど、ヤバすぎるだろこれ……」
「お見事な腕前で」
「半分以上、刀の切れ味だね。それじゃ刀にチャクラ流してみて」

 ヤクモは両手で柄を握り、チャクラを籠める。
 刀身から今まで以上に鋭いチャクラの刃が発生する。長さも申し分無く、その刃には紫色の雷が激しく帯びていた。

「おぉ、いつも以上にチャクラの刃作るの楽だし、何だか知らんがビリビリ帯電しているぞ」

 流れの技法にチャクラの刃、更には帯電。刃の間合いは変幻自在で回避など困難極まるし、刃の帯電で防御も貫通して無意味と化す。その使い勝手の良さに息を巻く。

「店主、御代は?」
「五十万両で御座います」
「ご、五十万両だとぉ!?」

 妖刀の類だという事を差し引いて気に入ったヤクモは店主に値段を尋ね、驚愕する。

「十人以上斬っている、オマケにこれは無銘だ。十万両」
「はは、手痛い御指摘で。しかし、チャクラ刀は希少価値が高く御座いまして。三十万両」
「希少価値と需要の無さを履き違えてはいけないね。こんな凶刃を求める特異な客は少なかろう? ――十五万両」
「二十五万両でどうでしょうか? 確かに忍の方々はお求めにならぬものですが、侍の方々には咽喉から手が出るほど欲しがります故」
「二十万両、侍風情でそんな大金を持っている奴はいないね。大名とて、その刀は観賞用にすらなるまい」
「――ふぅ、やれやれ。嬢ちゃんには叶いませんね。解りました、二十万両で手を打ちましょう」
「商談成立だね」

 激しい値引き合戦が繰り広げられた中、当事者であるヤクモは唖然としていた。

「いや、ちょっと待て。俺を放置して商談成立してるんじゃねぇ!」
「えー、私が選んだ刀だよ? それが大業物で且つ妖刀じゃない訳無いじゃないか」

 獲物は業物であれば業物であるほど良いに決まっている。それが人智を超えた妖刀の類なら尚更最高だ。無性に人が斬りたくなっても我慢すれば良いだけの話である。ようは気の持ちよう次第なのだ。

「無銘なのは可哀想だから私が名付け親になろう。そうだね、今日からこの妖刀の銘は〝紫電〟だ」
「……妖刀に似合わない銘だな。その由来は?」

 私は満天の笑顔で答える。

「ヤクモが振るう限り、この妖刀に紫電が途絶える事は無いから、かな」




「――ヤクモ。人を斬った事、悔いている?」

 帰りの道中、里を見渡せる展望台に寄り道しようと勧めたルイは突如、そう切って出た。
 ヤクモは咄嗟に誤魔化そうかと一瞬悩んだが、この少女に生半可な嘘は通用しないだろうと止める。

「……お見通しか。いや、俺が解り易かったのかねぇ。――三日三晩走り続けた時は大丈夫だったが、あれから毎晩夢に出るんだ。咽喉元を突き刺して殺した奴の事を。今でもその生々しい感触が鮮明に蘇りやがる」

 小刻みに震える自分の掌を見て、ヤクモは呼吸を乱しながら湧き上がる嘔吐感を必死に堪える。
 あれから安眠出来た事は一度も無かった。眠れども夢にあの死者が現れ、すぐさま目覚める。血塗れで這い寄る死者の恐怖は如実に尽くしがたいものだった。

「今でも血塗れなんだよ、俺の掌は。幾ら洗っても落ちやしねぇ……! 幻だと頭で解っていてもこびり付いて離れねぇんだ。刀を握った時もそうだ、手の震えが止まらな――!」

 ――その震える手を、ルイは両手で握り締めた。
 か細い指先は力強くも優しく包み込んだ。自分と比べて一回りも小さな手の感触は柔らかく、とても冷たかったが、何より暖かかった。

「――震え、止まったよ」

 本当に、この少女はいつも手段を選ばない。
 物理的に止めておいて何を言うか、と咽喉まで出かかったが、確かに手の震えと地獄のような嘔吐感は不思議と消え去っていた。

「殺人に対する罪悪感は永遠に消えない。個人によって大小の差はあれどもね」

 ルイは眼を細め、少しだけ俯く。その言葉は果たして、一体誰に対してなのか、今のヤクモには知る由も無い。

「眼を逸らしても網膜に焼きつき、耳を塞いでも鼓膜に響き、忘却の彼方に放り込もうとも絶対に追い回してくる。――結局は自身が生きる為の必要最低限の犠牲として割り切るか、背負うしかない」
「……背負、う?」
「何を背負うかは人其々だわ。奪った生命か、犯した罪咎か、届かぬ怨嗟か――何れしろ、重たいわ、自責の念で押し潰れてしまうほどにね」

 そう、背負う以前から殺したという事実が重く圧し掛かり、己が精神を酷く圧迫している。果たして自分はそれらを背負う覚悟を持てるだろうか――。

「でも、それを分かち合い、一緒に背負う事は出来るわ」

 ふとルイの顔を見上げるヤクモに、彼女は笑顔で答える。
 それは悪魔の誘惑か、或いは神の福音か。闇の中で苦しみ悶えるヤクモの前に救いの光明が差し込まれる。

「ヤクモ、私達が生き延びる為には対峙した敵の屍を踏み越えるしかない。屍の仲間入りしたくなかったらね」

 ルイは厳しい眼差しでヤクモを射抜く。
 最初から敵として現れた者に対話の余地は無い。自身の生を掴むには相手を死に堕とすしか無いのだからと諭すように。

「中忍試験ではうちはである私を狙って大蛇丸と交戦するかもしれないし、木の葉崩しが終わってもイタチなどの暁の脅威に曝されるのは明白だわ。うん――全部、私のせいよ。人を殺したとしても全部私の責任だから、ヤクモが気に病む必要は無いよ」

 一転し、場違いなまでにルイは明るい笑顔を浮かべる。問題が解決したと言わんばかりに。
 その都合の良い感情の落とし所に、ヤクモは彼女を責め――ず、ふと、冷静に戻る。そんなあからさまな誘導に気づけないほど、今の自分は参っているのかと初めて自覚する。

「……っ、言っている事、違うじゃねぇか。全部一人で背負い込む気かよ」
「あら、バレたか。私は傲慢で傍若無人の人でなしだから、今更背負うのが一人や二人、百人や千人増えたところで支障無いよ」

 ――私は既に、見殺しにしたうちは一族の遺志を背負っているのだから。ルイは酷く儚げに笑った。
 その覚悟を聞き届けたヤクモは、やはりコイツだけには敵わないと羨望し、同時に自身の不甲斐無さに激しい殺意を覚えた。

「一族の妄執、里への確執には興味無いけど、創始者のうちはマダラが千手柱間との火影争いに破れたから後の悲劇は生まれた。――だから、うちはである私が火影になる事こそ手向けになると思うんだ。私がこの里で生き延びる為の最低条件でもあるし、ね」

 驚かせるばかりだ、とヤクモは内心愚痴る。主人公達を差し置いて火影を目指すなどこの少女しか実現出来ない夢物語だろう。

(だが――)

 ルイは自分とは比べ物にならないぐらい心が強い。その精神は超越的だと評して良いぐらい不屈で強靭だ。
 けれども、何故だかヤクモにはそれが一概に良いとは思えなかった。
 その強さは、そうでなければならない、という裏返しなのでは無いだろうか。最初から絶対的な強者たる者は存在しないのだから。

「ヤクモ。私は頂点を目指す。内部からの軋轢、外の脅威、見得ざる神の手、原作の修正力、敵など湯水の如く湧き出てくるだろうね」

 ルイは掴んでいた手を放し、今度は自分の手を差し伸べた。
 その弱々しい仕草はいつも自信満々で大胆不敵な少女には似合わない、恐る恐るで小刻みに震えていた。

「だから、ヤクモ――手を、貸して欲しい。一人の忍として、掛け替えの無い友人として、助けが必要なの」

 ヤクモを見つめる真摯な瞳には普段では在り得ない、臆病な色が見え隠れしていた。拒絶されるかもしれない、そんな恐れを、ルイはその胸に抱いていた。あのルイがだ。
 だからこそ、猛烈に情けなくなった。未だに殺人を受け入れる覚悟が出来ずに一人甘ったれていた自分を本当に八つ裂きにしたくなった。
 ――今はまだ、その手を握り返す資格は無い。

「ルイ、一発ぶん殴ってくれ」
「……そういう趣味の持ち主だったの?」
「ちゃうわ! 今までうじうじ悩んで腑抜けた自分自身が不甲斐無いだけだっ!」

 先程の空気が跡形も無く霧散する。このマゾめと半分本気で引いているルイに、ヤクモは必死な口調に弁解する。
 ルイは少し悩み、これも通過儀礼の一種かと自己解釈して納得する。

「OKOK、そういうノリは全く理解出来ないけど、全力でぶん殴れば良いんだね。歯ぁ食い縛りなー」

 ルイが嬉々と容赦の欠片も無く繰り出された拳は病み上がりである事を差し引いて、ヤクモの頬に痛烈に穿ち貫いた。




 翌日、カイエを除いた私達四人は日向の演習場にいた。
 ヤクモの目元に隈が無い事と右頬に湿布が張ってある事以外、昨日と異なる点は無い。……ユウナについては昨日の時点から全身包帯塗れだったから変わりないよ?

「――で、ナギ。貴女の最大の弱点は自動攻撃しか出来ない事よ。これでは個人戦闘はともかく集団戦で敵味方の区別無く同士討ちしてしまうわ。役立たずも良いところね」
「うぅ、面目無いですぅ」

 だから最初に出会って岩隠れのくノ一と交戦した時も、あの中で最も多くのチャクラを持つ私を優先的に攻撃してしまうから出さなかったのだろう。

「でも、その混沌は条件付けする事で非攻撃対象を認識する事が出来るし、自動攻撃を解除して任意で操る事も可能だわ」

 因みにこれは実体験の事である。
 それ故に岩隠れの暗部を大量虐殺した六尾とのコンビでの術で九班だけは無事だったのである。自動じゃない分、チャクラを余計に消費するが、それは仕方が無い問題である。

「中忍試験が始まるまで三つの課題を言い渡すわ。まず味方を識別する事、次に手動攻撃が出来る事、最後に混沌の形態変化と性質変化を任意で出来る事よ。最後のは三ヶ月程度の時間では期待してないけど」
「はいはい、ルイ先生っ! 最後の形態変化と性質変化はどういう事ですか?」

 私は出来の悪い生徒に答える先生のように受け答えする。

「貴女の混沌は常に何らかの形態変化と性質変化を起こしているわ。混沌の名に相応しく、その内容はランダムのようだけど。それを任意で操れるようになれば他の有象無象の術なんざいらないわ」
「えぇ~、私も螺旋丸のような格好良い術覚えたいな~と」

 自分の異常な特性を理解しているのか、頭が痛くなる。
 無尽蔵のチャクラを持つだけの一辺倒のナルトとは違って、万能な混沌の泥と無尽蔵のチャクラがあるナギに他の術なぞ最初から必要無いのに。

「寝言は寝てから言え。さて、まずは最初の味方を識別する修行から始めるよ。方法は至極簡単、混沌の泥で私以外の二人に攻撃しなさい」
「「「え?」」」

 三人の声が重なるが、無視して説明を続ける。

「勿論、この中では最もチャクラが大きい私を優先的に攻撃してくるから、そうしないように全力で条件付けしなさい。――ああ、もし私に当てたら月読の精神世界にご招待してあげるわ」
「ひ、ひええぇぇぇぇ~~~!? ぜ、全力で、ががが、頑張ります~!」
「ちょ、待てっ! まだ俺達は了承してないぞってうおおおおおおぉ!?」

 混沌の泥と悲鳴が入り乱れる中、今日もまた平和であるとしみじみ実感した。





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