激しく自己主張をする太陽。それを助ける足下の熱砂。塩の混じった海風は独特の香りを運び、波の打ち寄せる音と共に前髪を揺らす。わーい海だー。……わーい。………………わーい。「玄之介、集中が途切れているわよ」「はい」母さんに急かされ、長く息を吐きつつチャクラを大気中に散布。そして海風に混じっている湿気を除去、気圧の操作を――あ、ミスった。チャクラは霧散し、後に残るのは疲労感のみだ。「……ねえ、母さん。これ、個人的にすんごく難しいと思うんだけど」「そうね。 けど、これが出来なきゃ如月の技を会得するなんてことは不可能よ」腕を組みつつ、そう断言する母さん。ちなみにこれ、火遁を安定して使うには必要不可欠な技なんだそうです。火を扱う火遁。それは自然と、天候などによって威力が左右される。湿度が高くなれば通常時と同じチャクラを使用しても火遁の威力は下がるのだ。逆に、湿度が下がれば火遁の威力は増す。冬に火事が増える理屈みたいなもんだと思ってもらえればいい。かなりいい加減な説明だけどさ。ちなみに気圧の操作は、対水遁用の技術。気圧を下げれば水の沸点は下がる。マスターすれば、弱い火遁でも格上の水遁を相殺、もしくは打倒出来るんだとか。無茶苦茶だ。結局は力押しじゃないか。この世界、物理法則云々よりも相克関係の方が優先されるのだが、火遁に風遁を追加することで相性の悪さを打破出来るらしい。しっかし、風遁が風を操る忍術だってのは知っていたけど、大気操作まで出来るとは思っていなかったので少しビックリだ。……なんでも有りだな、如月。そのなんでも有り状態になるには、鍛錬積まないと駄目なわけだけど。ちなみに、説明を受けた時、ちょっとした昔話を聞かされた。如月の比翼として伝えられている卯月。そんな関係だからなのか、合体忍術とかあったらしいですよ。ううむ……なんか気圧変動させて雷を落とすんだとか。まあ、強いわなそりゃあ。「ほら、頑張って。これを会得したら、次の段階に進めるわよ」「ああうん。……ところで、休みはないの?」「そんな余裕があるの? 強くなりたいんでしょう?」まあそうなんだけど、と言いつつ、視線を海辺へと移す。そこでは水着を着た日向宗家の皆様が遊んでおります。スク水着たハナビちんとヒナタ。外見は自主規制。ただ、胸元に名札が張ってあるとは伝えておく。師匠はトランクス型の水着。砂浜にパラソル立てて、座禅組みながら娘を監視してますよ。っていうか、師匠の場合はふんどしじゃないのが不自然だ。……くそう。修行に来たんじゃないのかよう。いいもんねーだ! 奴らが遊んでいる間に俺は強くなってやる!! ぎゃふんと言わせてやるぅ。ちょっとした苛立ちと直射日光で、いい加減熱くなってきた。ジャケットを脱ぎ捨てると、アンダーウェアの袖を捲って修行続行。……ところで。「薙乃さんは遊ばないの?」「私はあなたの監視で忙しいのです」「あら、玄之介は真面目にやっているわよ? 学校の成績は酷いなんてもんじゃなかったけど」そう言い、意地悪な笑みを俺に向ける母さん。はい、反省してます。「この子は私が見てるから、薙乃ちゃんは遊んできなさい」「し、しかし……」そう言い、何故か俺の方を見る薙乃。なんだろう。「いいよ薙乃さん。俺の代わりにハナビちんと遊んであげて」「……駄目です。 主どのが修行をしているのならば、私も遊ぶわけにはいきません」あ、拗ねた。なんでだ。彼女はそっぽを向きつつ掌にチャクラの渦を巻かせる。……螺旋丸の練習か。ハナビちんの一件で、彼女はあの馬鹿馬鹿しい術の破壊力に目を点けたみたい。当てづらいっつーか当たらないよ、と忠告はしたんだけども、「主どのと一緒にしないでください」と一蹴された。なんだろう。威厳とかそういうものが俺には足りてない気がする。まあいいさー。あれだってチャクラコントロールの練習になるしね。妖魔って、人間と違いチャクラの性質変化が出来ないのだ。いや、出来ない、というのは言い方が悪いか。出来ることは出来るのだが、種族によって可能な性質変化が決められているとのこと。例えば蝦蟇ならばチャクラを油や水に性質変化出来たりとかね。ちなみに因幡一族は性質変化が不可能らしい。その代わり他の種族と比べてチャクラコントロールに特化している、と説明を受けた。彼女が変化出来るのも、チャクラコントロールが得意な種族だから、ってのに由来するのかな。ま、雑念はこれぐらいで。薙乃さんから視線を外し、練習続行。再びチャクラを放出し、大気操作に神経を向ける。向こう側じゃ数字として表されていた気圧も湿度も、頭に送られてくる情報だと、『やや下がった』とかそんなもんで表現される。分かりづらいが、やはりこれは練度が足りてないせいか。「はい、じゃあそこでチャクラを火に性質変化させてみて」「はい」大気操作を続行しつつ、右手にチャクラを送り込んで火遁の性質変化。掌に溜め込み、密度が高まったと同時に解放するイメージ。とは言っても、今溜めているのは松明の火程度だ。そのはずなんだけど……。解放した瞬間掌から火柱が上がり、思わず仰け反った。何これ?! 前髪焦げたよ!!「あっぶねー! 母さん、こうなるなら先に言ってよ!!」「あら、火遁の性質変化は上手いのね」そう、俺の慌てようをなんでもない風に受け流す。「今ので分かったでしょう? 少ないチャクラでも条件さえ整えば、火遁は凶悪な威力を発揮するわ」まあ、分かったけどさぁ。でも、今のは自分の周りだけしか大気操作を行っていない。もし豪火球などの飛び道具を使う場合は、範囲を更に広げなければならないわけで。……道のりは果てないなぁ。 in Wonder O/U side:Uそして午後。今度は俺も水着に着替えているぜ。額の鉢巻きは相変わらずだが、下は赤いトランクス型。右側にはファイアーパターンが描かれていたり。はい、薙乃さんの趣味です。上は白いヨットパーカー……と言いたいところだけど、破けるのが嫌で浜に置いてきてある。そう、浜に。「師匠」「なんだ」「何故、浜から二百メートルも離れた海上に僕たちはいるんでしょうか」水面歩行でね。沖にいるんですよ。しかし師匠は、何を当たり前なことを、みたいな感じで鼻を鳴らす。「折角海に来たのだ。こういうシュチュエーションでなければ出来ない組み手をするのが、おつというものだろう」いや、どうだろう。「師匠師匠。 気絶したら海の藻屑となる気がします。 っていうか、ハナビ様は性質変化の修行に来たんじゃないんですか?」「見えないか? 今、お幻に教えてもらっているぞ」言われ、思わず浜の方を眺める。うーん。母さんと一緒にハナビちんがいるのは分かるけど、何をやっているかはさっぱり。俺には白眼がないから探知不能です。「ふむ、そうか。……話は変わるが」「はい、なんでしょう」「お幻から技術を教えてもらっている時、聞いていた程嫌そうではなかったが……」「ああ、そのことですか」どこか不思議そうな師匠に、俺は苦笑する。説教のオンパレードがあった時期、唯一俺を褒めてくれた両親。我ながら現金だとは思うが、あれ以降二人とは上手くやっている。まあ、自分なりに、だが。正体を明かすつもりは毛頭ないが、それでも如月の子供として生きてゆこうと、思えてきたのだ。「変にとんがるのは止めにしようと思いまして」「そうか。……では、始めよう」そう言い、深入りするつもりはないのか柔拳の構えをとる師匠。右足を引くと同時に海面にさざ波が走る。俺の方はいつもの如く半身を引くと、左手を突き出して手を軽く握ったまま右腕を脇に構える変形した柔拳の構え。「……折角広いのだ。少し派手にやるか」「あのー……なんか物騒なこと言ってません?」「庭では家を壊さないよう威力を下げていたからな。 その分鋭い打ち筋だったのだが……今日は、威力重視で相手をしてやろう」え、冗談? と言おうとした瞬間だ。師匠の姿は掻き消え、一拍置いて海面が割れる。比喩ではなく、三十センチぐらいの亀裂が生まれる。弧を描くようにして俺の横へ。亀裂のお陰で移動先は予測出来るが――左手の甲で繰り出される掌を弾き、右腕を跳ね上げて次も逸らす。威力重視ってのは嘘じゃないらしい。一撃やすりごす毎に痺れに似た振動が走る。ちょ、勘弁……っ!やはり手加減してくれているのだろう。掌の速度は辛うじて見切れる速度でセーブしてある。しかし、辛うじて、と言うだけあって、俺の認識出来る限界近い。くっそ、守ったら負ける、もとい、ぶっ飛ばされる。偽・八卦十六掌。ただの掌に対して奥義の真似事をカウンターで発動。威力も速度も、俺が押され気味だがなんとか相殺。無理矢理生んだ一瞬の空白。それに呼応して体勢を下げ、瞬身を発動。懐へ入り込み――「良くやった!」が、攻め入る隙はありませんでした。八卦掌奥義・回天。地上でやったらクレーターが生まれる一撃を放たれ、俺は不様に宙を舞う。in the blue sky.上空から見た師匠の周りには、外側へと向かう津波が生まれていた。出力は俺に向けられたので過去最高なんじゃないか、今の。錐揉みして飛んでいるお陰で、上下感覚が微妙に狂う。その速度は鳥肌が立つ程で、過ぎ行く海面はまるで道路を走る車から眺めたようだ。こんな速度で海に叩き付けられたらシャレにならん。風遁・操風の術。海風を身体に纏わせ、姿勢制御。シェイクされたせいで軽くふらつく頭に顔をしかめつつ、ようやっと着水した。たったの一撃で俺と師匠の間は百メートル程離れた。どんな威力なんだ、あの人の回天。剥き出しのチャクラを叩き付けられた衝撃で、組み手が始まったばかりだと言うのに膝が笑う。思わず悪態が出そうになるが、どうやって攻め込もうか、と考える自分もいて、思わず苦笑した。まったく、飽きることがないね、師匠との組み手は。一日の稽古が終わった後、宿へ戻って疲れを取った。温泉とかあったりして安らげたよ。……っつても、珍しく一緒に入った師匠と、遅れて到着した父さんに板挟みにされ妙に緊張したが。悪戯小僧のテンプレに乗っ取って、覗きしようぜ、とか言えるはずもない。それにしても父さんと師匠の仲が割と良い感じでビックリだ。いつだったかに聞いた、ヒザシと両親が同じチームだったってのは関係あるんだろうね。ん、温泉に入ったことから分かるように、珍しく宿に泊まっています。サバイバルはなし。そのお陰で、師匠との組み手では絞られましたが。浜に帰った時には、師匠に引っ張られる体たらい。自力で帰還出来ないレベルでしたよ。んで、その後は夕食食べて就寝。ぐっすり寝て疲れを取るべー。……と思って入眠しのだけれど、妙な物音がして目を覚ました。霞んだ視界はぼんやりとしており、耳に届く音だけで状況を把握しようとする。遠くから聞こえる響きの剣戟音。怒号はなく、ただ淡々とした戦闘の音が聞こえてくる感じだ。「あら、起きたのね玄之介」ふと名を呼ばれ、声のした方へと顔を向ける。そこには母さんがいて、彼女は開いた窓辺に腰を掛けつつ外を眺めていた。「母さん……なんでここに」「お守りよ。あなた達の、ね」そう言い、母さんは薄く笑みを浮かべる。「見てみなさい」未だ状況を理解できない俺を、手招きしつつ窓の外を指さす。……外では、予想もしてない状況が展開されていた。夜空には雲一つ無く、満月が振りまく月光の下ではいくつもの影が乱舞している。その中に、見知った顔を二つ見つける。師匠と父さんだ。師匠は日向宗家の上着を羽織っており、父さんは皮膚を赤銅色に染めながら、柄が身の丈ほどもある大鎚を片手に戦っていた。師匠はともかく、父さんは体内門を開放しているようだ。それを表すように、瞬間移動の如く姿を現したり消したりを繰り返している。「……何これ」「血継限界が群れをなして旅行に来ているんですもの。見逃す手はないでしょう?」「えっ、と……?」「どこかの里の忍でしょう。こうなることを予想して出掛けるんだから、日向宗家ってのは過激よね」……そういうことか。かなり大雑把だが、ようやく理解出来た。つまりは、この修行兼旅行は、釣りだったわけだ。餌は師匠本人であり、俺たちでもあるわけで――しかし、その餌は食らい付いた獲物を噛み殺すだけの強さと、馬鹿げたことをする大胆さを併せ持っていた。普通はやらないことだろう。自らを危険に晒すことで、付け狙っている獲物を一網打尽にしようだなんて。どういう神経しているんだ、とも思うが、そこら変は俺の師匠。有り得ないことを可能とする、自称木の葉最強集団の頭目なのだ。しかし、それにしたって――「……俺はともかく、なんで薙乃は起きないのさ。耳の良い彼女だったら、真っ先に飛び起きそうだけど」「ああ、結界が張ってあるから。勿論、あなただけを外してね」なんでさ、と問おうとした時だった。母さんは笑みをコマ落としのように掻き消すと、冷たささえ宿った眼差しで外に視線をやる。「……来たわね。いい、玄之介。良く見ておくのよ」そう言い、それぞれの手で印を結び、「これが、如月の本領であり、他の者に真似を許さない絶技」両手を合わせ、更に印を結ぶ。印を結び終えるのと窓のすぐそばに人影が現れるのは同時だった。母さんは一瞥する間もなく重ねた掌を眼前に翳し、低く呟く。「――秘術・焔突破」そして放たれたのは、朱い突風だ。それぞれの手で組んだ印は、豪炎華と大突破。おそらくはそれらを組み合わせた忍術なのだろう。どれほどの熱量が伝播しているのか。放たれた灼熱を浴びた忍は、服を燃やされ、肉を灼かれ、臓腑すら蹂躙されて骨となり熱風で吹き飛ばされた。焼き尽くした肉は次々と風で削ぎ落とされ、次の階層を燃やし尽くす。それらが行われるのは刹那であり――忍の姿が消えるのは、一瞬のことだった。肉が燃える時特有の匂いさえ残さず、敵は文字通り消滅する。目の前で一人の人が死んだ。だというのに、俺の胸に宿っているのは恐怖ではなく興奮だ。先が見えず、どんな代物なのかも分からなかった如月の技。それが、ここまでのものだったなんて。「……これを見せるためにあなたにを結界から弾いておいたの。まあ、見ないに越したことはないんだけど」「……あ、うん」「あなたがどんな忍になるのかは分からない。 ただ――こういうことが出来る可能性を、その血に宿しているのよ。そのことを忘れないで」諭すような口調で贈られた言葉。それに応えることが出来ず、俺はただ自分の手を見下ろす。……あんな力が。そんな言葉が、何故か脳裏に浮かんだ全てが終わってから、俺は一人で浜へと出ていた。水平線には微かに太陽が顔を覗かせており、眩い山吹色の明かりが目に痛い。師匠たちの戦闘が終わってから二時間が経つ。今も師匠は宿で白眼を行使しており、曰く、周辺に敵影は存在しないらしい。ったく、どんだけ広い千里眼なんだよ。ふう、と軽く息を吐き出す。こうやって静かな浜辺も、少し前までは激戦区となっていた。なんだか信じられない、というのが正直なところだ。ふと、足下に落ちていた赤黒い染みが目に留まる。……一体何人の人が死んだんだろうか。いや、人殺しが悪いなんて他人へ声高に言えるほど、俺は善人なんかじゃない。戦わなければ生き残れない。それが適応されてしまう血を、俺やハナビちん、ヒナタは宿しているのだ。まだ弱者でしかない俺たちを守ってくれた師匠を有り難がるなら兎も角、責めようと思うほど人非人じゃないんだ。自己満足の要素が強い不殺なんてお題目を掲げて馬鹿を見るのは俺だけでいい。ただ――あの、ハナビちんが誘拐された時のように、再び襲われたら。今度は殺さなければならないほど切羽詰まった状態だったら、どうするだろう。「……怖いな」そうだ、怖い。この手を血で染めるのが恐ろしい。この世界では酷く簡単なことだが、それ故に俺にとって踏み出してはいけない一歩だ。そして、それだけのことが出来る血を俺はこの身に宿している。それだけじゃない。使い方を少し変えれば、今の状態だって簡単に人を殺せるだろう。それをしないのは自分なりの決意であり、信念なのだが――分かっている。自覚している。この先、俺は忍となるだろう。そして木の葉崩しや暁との戦闘が待っているだろう。必用に迫られた時にこの力を振るわないのは、おそらく罪なのだ。それを自覚しているからこそ、こうやって悩んでいる。自分のタガがどの程度の強度を持っているのかなんて知らない。ひょっとしたら案外簡単に外れてしまうのかもしれないし、考えたくもないが、身近な人が死に瀕するか、死んでしまった時にようやく外れるのかもしれない。親しい人が死ぬぐらいなら、手どころか全身を血染めにしたってかまわないと思う。ただ、それは冷静に考えている今だけの話だ。追い詰められた時、俺はどちらを取るのだろう。此方側か、向こう側か。たった一つの事柄で立場が変わるような構図であり――「……ああ、なんだ。そういうことだったのか」言い得て妙な喩えから、ようやく不殺を決め込んでいる根底に思い至り、思わず苦笑した。つまり俺は、恥ずかしくも元の世界に思い入れがあるのだ。何年も此方側で過ごし、好きなだけ馬鹿やっているというのに、向こう側への恋しさを捨て切れていない。闘争などなく、今にして思えば無為に時間を過ごしていたというのに、それでも半生を過ごした世界が今でも――いや、今だからこそ美しく思え、憧憬すら浮かべる。なんにしたって薄情な話だ。今の俺が有るのは、色んな人の助力があるからだというのに。ヒナタ、両親、先輩、カンクロウやバキ先生達、師匠、ハナビちん、そして――「主どの」彼女の名を心中で呼ぼうとした瞬間に呼ばれ、思わず肩を震わせる。振り向いてみれば、そこには薙乃の姿があったんだけど……「朝の散歩ですか。潮風は割と冷たいのですから、お体に気を付けてくださいね」「あ、うん。……ねえ、薙乃さん」「なんでしょうか」「……それ、似合ってるね。可愛いよ」そんな風に声を掛けると、彼女は赤面しつつ俯き加減となる。そう、薙乃さんは普段と違う格好をしていたのだ。昨日はお披露目されなかった水着姿である。やはりヒナタ達よりも年齢が高いからか、彼女が身に付けているのはスクール水着なんかじゃない。まあ、学校とかに通っていない薙乃が着るのも変な話だが。朝日で薄く色づいた肌を覆っているのは、眩しいばかりの白いビキニですよ。水着だからなのか、ベレー帽は被っていない。その代わりに頭に乗っているのは麦わら帽子だったり。……あー、うん。素直に可愛いと言える。美人とかじゃなくて、可愛い。ここ重要。「あの……パレオは似合わないと、言っていたので」「そうだけど……ごめん。似合っていたと思う。うあー、後悔ですよ?」いやでも、綺麗な脚のラインが、脚線美がお目にかかれたから、むしろ良いのかも?どうなんだろう。収まれ俺の小宇宙。そして鳴り止め脳内のバスターマシンマーチ。いや、田中公平は偉大ですよ?そんな風に軽く錯乱して考え唸っていると、薙乃さんは苦笑したり。「良かった。似合わないなどと言われたら、怒る云々以前に、少しショックでしたから」「いや、それはない。 ビキニを選んだのも良いと思うよ。ワンピース型だったら、こう、ずどーんと……」「何か?」いえ、なんでもないです。胸が控えめに言って平らだから、ぺたーんってなるよね、とか考えてないです。「……考え事、していたんですね」「……良く分かったね」「ええ。……これでも妖魔なので。人並み以上に鼻は利くんです」「そうか」ならば、潮風に攫われても残った血の香りに気付いたって不自然じゃないか。うーむ。どうにも見透かされているようで面白くない。……なんだろ。そういえばなんで薙乃さんは水着なんかに。いや、考えるの止め止め。都合の良い方に解釈しそうだ。軽く咳払いをして、爪先を旅館の方へと向ける。「……戻ろうか。折角薙乃さんが水着なのに残念だけど、やっぱ肌寒いや」「分かりました。ねえ、主どの」「何?」「……その……す、少しは、元気が出ましたか?」そんな言葉に、踏み出そうとしていた脚を思わず止める。……ああもう、この人には敵わないなぁ。