「初めまして、如月玄之介です。 趣味は高等忍術の練習と組み手。好きな言葉は乾坤一擲」嘘ですがね。本当の趣味は酒と変態忍具開発。今口にしたのは日課です。そして好きな言葉は一撃必殺。しかし、しかし、だ。学園デビューをミスるわけにはいかない。故に嘘も必用なのだよ。だというのに――「あ、ジェントリーじゃん」「お前はなんで間違えるかなぁ?!」おそらく意図的に間違えたキバに思わず突っ込み。くそう。俺、ボケ役のはずなのに。 in Wonder O/U side:U今日からアカデミー生。目指すは友達百人だ。嘘です。女中さんに弁当を作ってもらい、鞄に教科書と筆記用具を詰め込む。さて、登校しようかね。玄関へ行くとそこにはヒナタが。「待っててくれてありがと」「うん。……じゃあ、行こうか」「そうだね!」……なんだろう。思わず視線を下に送れば、えへー、と笑うハナビちん。「こら」「私も行くのー!」玄之介の馬鹿ー、と薙乃さんに拘束されて叫ぶハナビちんを尻目に、日向邸を後にする。ああもう。帰ったら師匠に愚痴られそうだ。ハナビちんが不機嫌だった、とか。まあいい。「ねえ、ヒナタ。アカデミーってどんなとこ?」「えっと……一言で伝えられないよ。 実際に過ごしてみれば分かると思う」「そっか。……楽しみだな」「うん。分からないことがあったら聞いてね。 先輩として教えてあげるから」そう言い、薄い胸を張るヒナタ。むーん。先輩の調きょ……もとい、介入で大分前向きになったなぁ。「あ、そうだ。知ってる? 俺がヒナタの学年に入るって」「そうなの?!」「うむ。年齢詐称してね。あまり他の人に言わないでよ?」うん、と納得してない様子で頷く彼女。ちなみに、それを実現したのは恐るべき火影パワー。民主主義と言えど所詮は軍事国家。鶴の一声で俺の戸籍は書き換えられました。火影の半分は権力で出来ております。「けど、なんでそんなこと……」「表向きの理由はヒナタの護衛」「……ごめんね?」「いやいや、話を最後まで聞いてくださいな。表向きは、と言ったでしょうが」「あ、ご、ごめんなさい」「うん。で、本当の理由は……」「理由は?」「卒業に時間掛けたくないだけです。面倒臭い」あ、ヒナタがずっこけた。珍しいアクションだ。まあ、それすらも表向きの理由ですが。本当の本当な理由は、木の葉崩しを正規の忍として迎えるため。流石にこれを言うわけにはいかないしなぁ。アカデミーに着くとヒナタと別れて職員室へ。そこで担任と顔合わせし、クラスへ。いざ学園デビュー。……キバに真面目キャラ崩されたけどね。畜生。アカデミーの授業って、本当に基礎中の基礎なのね。座学は常識の欠けている俺に必用だけど、実技はどうにも。授業中に窓から見た他学年の実技の授業は、師匠の言うように本当に糧にならない気がした。よし、サボろう。まあ、サボるのは若干抵抗あるんだけど、授業中に高い場所でグラウンドを眺めている熱血馬鹿を発見したのだ。授業受けるぐらいなら彼に指導を受ける。了承してくれるかは分からないけどね。それもいずれはリー周りと関係して来るでしょう。ええ、きちんとした理由があるんですよ。裏蓮華が覚えたいだけじゃありません。んで、午前中のスケジュールを消化し、昼休み。キバとシノくんに連れられて食堂へやってまいりました。「……玄之介。お前、弁当なのか」「おうとも。 日向宗家の女中さんが作った傑作だ。羨ましいだろうー」ほれほれと目の前でちらつかせたら飛びついてくるキバ。本当にアホの子だ。「……おかずぐらいやるから涎を拭きなさい」「本当か? よし、お前を友人に認定してやろう」安い友人だなぁ。「……ところで玄之介」「なんでせう」「お前は九歳だったはず。 何故俺たちの学年に編入出来たんだ」サングラス越しに俺を見てくるシノくん。いや、微妙に怖いぜ。「ボク、ジュッサイダヨ」「……そうだったのか?」「ウン」そうか、と呟き昼食に手を付けるシノくん。うわぁ、なんだろうこの罪悪感。ハナビちんに嘘吐いたレベルで悪い気がする。っていうか棒読みなんだから突っ込んでよ! 嘘だろそれ、とかさ!!まあいい。普通に信じたお子様二人に倣い、俺も弁当を。って――俺の弁当、中身がロストしているんですが。んでもってキバが楊枝で歯をほじってますよ。「てめえ何人様の弁当を平らげてるんだ」「いやあ、美味かった」この野郎、とキバの首を絞める我。「……ちょ、お前……握力、強い……」「伊達に鍛えてないからな。ほれほれ、頸動脈を締めてやろう」首をキュっとね☆バンバン、と音を立ててテーブルをタップされるも、力を緩めません。食い物の恨みは恐ろしいぞ。そして落ちるキバ。じゃあ俺はキバの弁当をもらおうか。……しっかし、これ。「……肉が多い」「いつもそんな感じだ」「そうなんだ」まあいい。ご飯があればなんでも食える。白目剥いて泡を吹いているキバを無視しつつ、シノくんと楽しく昼食だ。向こう側だと、スタ丼の肉増し飯増しを普通に食べられた俺。それはこっちでも変わらないみたい。並の人ならボリューム満点通り越して吐き気を覚えるおかずのラインナップだったけど、完食しました。ご馳走様。「……おい、玄之介」「何?」「こちらを見ている奴がいる。日向ネジだ」マジか。顎で差された方を向けば、確かにそこにはネジが。なんだよあの野郎。アカデミーでも難癖付けるつもりか。「無視だ、シノくん」「虫?」「字が違う!」ああもう! 何故俺が突っ込みをせねばならんのだ!!その後、ネジを無視しつつキバを保健室へ引き摺っていき、午後の授業へ。と言っても実技の授業だったんでエスケープしましたが。アカデミー屋上。強い風が吹き荒ぶ中、一人の上忍が避雷針のてっぺんに立ちグラウンドを見下ろしていた。うむ、あのオカッパ。間違いない。俺は後ろ手でドアを閉めると彼の元へ。「上忍のガイさんですねー?!」風に声が攫われないよう、大声で叫ぶ。んで、彼は俺の方を向いたわけですが。「……お前、青春しているな」は?「その鉢巻き、成る程、良いセンスだ!」とう、と掛け声を上げて俺の横に飛び降りる熱血馬鹿。……大丈夫か? なんか第一次接近遭遇が嫌な雰囲気になっているんですけど。いや、確かに鉢巻きは熱血アイテムだろうけどさぁ。こんな反応されるとは思わなかったぜ。「しかし少年、サボりは感心しないな。 授業をサボって屋上に来るのも勿論青春だが、俺が好きなのは真っ当な青春だ!」「いや、ガイ先生の美学は聞いてな――」「さあ、教室へ戻るんだ! 今ならばまだ、教師も仲間も暖かく迎えてくれるだろう!!」「あの、俺の話を――」「そして育まれる師弟愛と友情。 『ああ、授業をサボってごめんなさい』 『何、気にするな。お前にだって悩みの一つはあるだろう』 『そうだぜ。気付いてやれなかった俺たちも悪かっ――』」「人の話を聞けぇ!!」思わず焔捻子を鳩尾にぶち込んでしまった。虚しい。嗚呼、薙乃さんってこんな気持ちだったのね。俺、もうちょっと他人に優しくなるよ。で、ガイ先生。アカデミー生の掌だと思って油断していたのか、存外にダメージを受けて悶えております。「……な、なかなか、いい打ち込みだったな」「ありがとうございます」「しかし真っ当な青春をしていない奴の掌など効かん! さあ、早く教室へ戻るんだ!!」「だから人の話を聞けっつーのに!!」思わず蹴りが飛んだ。しかし、今度は受け止められましたよ?「……ふむ。さっきの打ち込みに今の蹴り。日向流柔拳法の色が混じっているな」そこまで分かるか。流石は体術フリーク。脚を離してもらい、服の乱れを直す。ようやく話が出来るかしら。「初めまして。俺、如月玄之介と言います」「そうか。俺はガイ。マイト・ガイだ!」マイトガインみたいな名前だよな。っていうか、それそのもの。まあ、あれも元ネタがマイティ・ガイって英語だし。そこら辺一緒なのかしらん?「ガイ先生、今暇ですか?」「俺は君の先生になった覚えはないのだが」「まあまあ。……あの、お願いがあるんですけど」「なんだ、玄之介」「忍術を教えてください。どうにも、アカデミーの授業じゃ物足りなくて」「……それは」ふむ、と思案するガイ先生。当たり前か。「流石にサボりを推奨するのは気が進まない」「そこをなんとか。座学ならまだしも、実技が身にならないんです」「……普通、逆ではないか?」「まあ、普通は。お願いします、忍術を教えてください」頭を下げ、ガイ先生の顔色を窺う。眉を潜めた思案顔。さて、どうなる?「……だがな」「ここであなたが俺を見捨てて、俺は授業に戻ったとします」「ああ」「そして俺は卒業し、忍へ。 しかし熱の入った青春を送らなかった俺は、体術が出来ず敵に殺されてしまうでしょう」「……んな無茶な」うん、自分でもそう思う。ごめんなさい。ならば――「じゃあ言わせてもらいますがね。 ……そうやって煮え切らないのは、青春していると言えるんですか?! アンタの忍道はその程度か!!」「な、なん……だと?!」あ、存外ショックを受けてる。後一押し。「授業をサボる非行少年の性根を稽古で叩き直す。 そんなシナリオはどうでしょう?」「それは――すごい、青春してるな」「そうでしょう? だから一丁、ここで俺に――」よし、手応えあり。「――裏蓮華を伝授してください」「この馬鹿ー!!」殴り飛ばされた。うむ、いきなりすぎたね。って、屋上のフェンス超えた?!ヤバイヤバイ。受け身取っても死ぬぞこの高さ。早く操風を! 否、大旋風を使わないと!!その後、なんとかリカバリー。しかし初日から授業をサボったことで薙乃さんには怒られました。師匠は何故か納得顔だったけど。くそう。