「これでどうだ」「そうですね ……後は、中の人をなんとかすれば」渋い顔をしながら設計図を睨んでいるたたら爺さん。俺も設計図を覗き込み、眉間に皺を寄せたり。「しかし、馬鹿もここまで来るといっそ清々しいな。全身鋼鉄製の傀儡なんて」とは言っても、間接部とかにはセラミック使って軽量化してありますが。ええはい。カンクロウから手紙が来たんですよ。基礎設計出来たから肉付け頼まぁ! と。それでまあ、やるなら徹底的にって気分でたたら爺さんと悪巧みしているのである。「操るのは難しいっていうか、チャクラの糸云々よりも握力が問題でしょう」「……そんな代物を友の傀儡として作るか、普通」「……でも強いでしょ、これ」「まあそうだが。……どうなるのか」一段落し、安堵で思わず肩を落とす。……ああ、ちなみに傀儡の名は『黒百合』です。内蔵ギミックは名の通りなので。まあ、他にも搭載しますがね。「ありがとたたら爺さん。無理言ってごめんね」「いや、いいんだ。 仕組み自体も発想も面白い。良い参考になっ――」そこまで言い、カッ、と目を見開くたたらの爺さん。何事?!む、ジェスチャー? 何々? ボスが来た?――やべえ。広げた設計図と、晒しっぱなしとなっている変態忍具の作業台を隠す。師匠に見つかったら接収される!設計図は全て床下に放り込む。変態忍具は棚に無理矢理押し込んで作業台を収納。あ、変な音がした。たたら爺さん泣きそう。「玄之介はいるか?」ドアを開け放ち、師匠が小屋へと入ってくる。それを愛想笑いで迎え、なんでもないよ、という風に作業台を隠す俺たち。「な、なんでせう」「来い。客だ」踵を返し、付いて来いと言う師匠。なんぞ? in Wonder O/U side:U客と言うのは先輩でした。着物にジャケットという奇妙なファッションは変えないこの人。あっれー、向こう側だとこんなにセンス悪かったっけ?まあいい。「なんですか一体。昼休憩中に終わらせてくださいよ?」「んー、もちっと掛かるかも」マジかよ。今日は師匠に偽・八卦十六掌を見て貰おうと思っていたのに。「えぇー、なんなんですか?」「……お前、子供になってから口調が幼くなってないか?」……え? マジ? ショックなんだけど。これでも中身は紳士のつもりなのに。だというのに口調がガキっぽいだと? 思わず頭を抱えてしゃがみ込む。「どうした後輩。脳に虫でも湧いたか」「いえ。自分の将来が心配になっただけです」口調を変えようかしら、と頭を悩ませつつ先輩の後に続く。そうして辿り着いたのは、火影邸。そびえ立つ設計者の神経を疑いたくなる形の建物。なんでこんな場所に。「……えっと?」「今から三代目に会ってもらう」「は? 聞いてないんですけどファッキン」「言い忘れていたからなぁ」この野郎、と首を絞めていると、門番の人がジロジロと見てくる。やりずれえ。「……入りますか」「そうだね。あ、くれぐれも無礼のないように」気を付けます。門を通って薄暗い廊下へ。階段を上って最上階へ辿り着くと、執務室の前へと辿り着いた。先輩がノックをすると、入れ、と返事がある。ドアを押し開いて中に入ると、奥には干物の如く干涸らびた老人が。三代目火影。こうやって直に見るのは初めてだ。「失礼します」「よく来たな朝顔、そして如月玄之介じゃったか」「火影様に置きましてはお変わりなく、ご健勝お慶び申し上げます」「ほほ、その体でそう固い挨拶を聞くとどうにもむず痒いのう」「いえ、目上に対する礼は欠かすなとの姉の教育の賜物でしょう。 さてまずは此度も急なお願いを聞き入れて頂き、ありがとうございます」「よい、気にするな。して何の用件じゃ」「火影様にお話した私の現状。 とみに憑依という事実に関し新たな発見がございましたので、失礼を承知ながら参った次第です」「ほう。それは聞き捨てならんな」ん? 俺のターン?不意に視線が向けられたため、はっとする。三代目は俺に舐め回すよう見つつ、煙管に火を点す。そして一吸いすると、先輩が話の続きを始めた。「以前にここで語った通り、私は異世界からの旅人です。 その様な異常事態は寡聞ながら他に聞き及んだ事がなく、私一人だけがあちらより迷い込んだと思っておりましたが、違ったようなのです」……おい待てや。アンタ他人に自分の正体を明かしたのかい。なんて突っ込みはこの雰囲気じゃ入れられません。「それはまさか」「例外は二人という事です」「そうか、では隣にいる如月の子が」「はい、如月玄之介もまた異世界からの旅人でした。ほら玄之介、挨拶しろ」「ええと……初めまして。中身の違う如月玄之介です」「……ふむ、確かに年齢に合わぬ所作は朝顔と似たものじゃのう」急に促されたため、反射的に砕けた返事をしてしまう。それに対する三代目の反応は、苦笑混じりだった。「年上はもう少し敬え」「すいません、つい」小声で責められるも、過ぎたことなんだからどうしようもない。「それで、ただ報告に来た訳ではあるまい」「ええ、一点。重ね重ね火影様にはご尽力を頂けなければならないのですが、お願いがございます」「申せ」「私がアカデミーを卒業する一年後、 正規の忍とは違う道を行く許可を頂きましたが、彼も同じ許可を頂きたいのです」「じゃがそれには玄之介は幼すぎると思うが」「確かに、仰る通りだと思います。 そして火影様が私の言葉だけで彼の異質を信じられないのも、十分に理解できます」考え込むように煙を吹かす三代目。まあ、そうか。見た目はただのガキだしな俺。「私が憑依しているという事実を、火影様が少なからず認めてらっしゃる以上、彼が同じであるのを証明するのは難しいでしょう」……んー。先輩が如月玄之介にそういうことを吹き込んで演技させているかもしれないから、ってことか?にしたってそんなことをするメリットを感じないんだけどね。どうなんだろ。「しかし必ず、二年後の中忍試験において、彼の力は役立つ筈です。 身命に賭けそれだけはお約束いたしましょう」なんつーか、大げさだな先輩。命を賭けるなんて言葉を安々と使っちゃあ、イザという時の価値がさがるぜ。いい加減なプライドなら灰になれ、ってね。俺の場合はなんだろ。この両腕に賭けて、とか? ……命と大差ないな。三代目は顎に手を当てつつ顔を俯ける。どんなことを考えているのかなんて、俺には想像も出来ないね。「左様か……確かにこちらに損は少ない」うわ、割と打算的。んでもって簡単に口にすることかそれ。んー、確かに、打算的じゃなきゃ里の長なんてやってらんないだろうけどさ。一応、元史学科なんで自己中心的な施政者がどんな末路を辿るのかは知っているし。にしたって、目の前でこんなことを言われるのはいい気がしない。「それでは……」「良いじゃろう。玄之介にも同じ許可を約束してやる」「ありがとうございます」先輩、深々と頭を下げる。「私と同じく、彼の力もそのうちにお見せ致しますので」「ふむ。楽しみにしておく。用件がそれだけならば下がれ」「はい。失礼致しました」行くぞ、と小声で急かされ部屋を出る俺たち。悶々と考え事をしながら火影邸を出ると、ようやく肩の力が抜けた。「つっかれたー」「あの人威圧感あるから」「ええ。……っていうか先輩。アンタ、自分が憑依人間ってこと喋ったのかよ」「まあね。そうしないと出来ないことが多いから」む。確かに協力するとは言ったけどさぁ。面倒だなぁ。もし変なところから憑依人間ってバレたら、師匠や薙乃、ハナビちんはどんな顔するだろ。変に距離取られたら嫌なんだけど。「……ナルトとかにも自分が異世界の人間だって伝えてあるんですか?」「いや、教えたのは朝顔の姉である夕顔、三代目、綱手様、自来也、師匠ぐらい。他の人は知らないね」「結構バラしてるじゃねえか!」平手で先輩の頭を殴りつつ、ヘッドロックかましてコブラツイストへ。「ちょ、ギブギブ……何するんだ」「あ・ん・た・が・無茶するからだろうが!」くそう。目的のためには手段を選ばない類だったか、こやつ。「大体、先輩と同じ待遇ってなんですか」「暗部」「は?」「暗部へ入た……イデデデデ!」「馬鹿言ってんじゃねー! そんな技量はねーっつーの!!」「二年後の話だって! その時になったら暗部って扱いが変わっているかもしれないんだから興奮すんな!」そうなの?拘束した先輩を放し、腕を組む。先輩は固められた間接を撫でさすりつつ眉間に皺を寄せていた。「じゃあ聞くけど。二年後の俺に何をさせるつもりなんですか」「今のところ、中忍試験の試験官になってもらおうと思っている。 まあ、三代目にも言ってないことなんだけどね」「で、それで何をやれと」「カブトの監視」その名を聞いて脳裏に浮かぶのは、眼鏡を掛けたインテリファッキン小僧。……そうか。再戦は二年後か。堪えきれず、拳を握り締める。奴が中忍試験の時どれだけ強くなっていたのかは覚えてないが、はたけカカシ程度、と言われていたことだけは記憶している。果たして、二年で奴に追い付けるのだろうか。「主に足止めを――って、聞いてるか後輩」「え? あ、はい。多分」「多分ってなんだ多分て」「んー。ねえ先輩」「なんだ」「ファッキン小僧を足止めするのはいいが――別に倒してしまってもかまわないのだろう?」「そういうことはもっと強くなってから言え馬鹿」グーで殴られた。酷い。まあ、指針は決まった。取り敢えずは強くなる。自分の考えが単純すぎて泣けてくるが、それが最も重要なことだろう。「それから、二年の間にすべきことを纏めるぞ」行こうぜ、と誘われ、先輩に引率される俺。辿り着いた先は、木の葉茶通り三番地に立つ『鈴女蜂』って定食屋。なんだろう。既視感があるぞこれ。有名な元上忍の店主が経営しているそうで。奥さんがロリっ子なんだぜマジ有り得ねぇ、と行く途中に説明された。うーん。こんな店あったっけ設定資料集に。どっちかって言うと紙媒体じゃなくてデータ媒体で見た覚えがあるんだけど気のせいだよね。テーブルに着き適当に注文をする。そしてお冷やで喉を潤すと、早速話を始めた。「こっちに来てから、俺は姉さんと三代目の説得をした。 そして里を抜けた後自来也と綱手にコネ作った。んで、師匠に弟子入りしたわけだけど」そう言い、お冷やを一気に飲み干し、「ナルトとヒナタ、サスケと仲良くなった。ついでにヒアシにヒナタの自由恋愛を認めさせたよ」「最後の方はアンタの趣味じゃねえか!」お静かに、と定食屋の奥さんに注意されたのでトーンを落とす。……あれ? ヒナタが分家筋の者と婚約しなかったら、どうなるんだろう。ハナビちんの未来って……。と、軽くブルーになっている俺にかまわず先輩は先を続ける。「で、だ。結局時間が取れなかったからはっきり聞いてないんだけど、玄之介は今まで何やってたの?」「ええと……日向宗家に弟子入りして、ハナビちんにスーパーロボットな英才教育を施しつつ旅に出て……」あ、先輩の顔が歪んだ。「……そして旅に出て、霧隠れで」「霧隠れで?」「大蛇丸に目を付けられた」酷い音を立てながら、先輩はテーブルに額を打ち付ける。ど、どうしたの?「何やってんだ馬鹿ー!」「お客さん、お静かに」はい、と頷き、話を戻す。「何があったのか詳しく説明してみなさい」「えっと……道に迷ったらかぐや一族の里に出たんですよ」「いきなり地雷踏んでるな」「そうですねぇ。……それで、何事もなく霧隠れへ行ったんですけど、 丁度良く戦火に巻き込まれちゃって……それから逃げる途中に、うっかり大蛇丸に声掛けちゃった」実際何があったのかは恥ずかしくて言えません。割と一生の恥だ。「……決めた。お前、大蛇丸の足止めしろ」「俺に死ねと?」「いや、適材適所って言うし。お前は挑発が得意だから時間ぐらい稼げるでしょ」「んな無茶な!」「別に倒してしまってもかまわんよ?」と、会話が白熱していたら今度は注意でなく、厨房から苦無が飛んできた。はい、すみません。「まあいい。それから?」「それから抜け忍を狩りつつ砂隠れへ。 収穫はまあ……風遁覚えてカンクロウと仲良くなったぐらいですかね」「そうか……」話が終わると、何やら考えるように首を捻る先輩。「玄之介は体術が得意なんだっけ?」「ええ。あと、色物忍具の扱いですかね」「……おっけ。取り敢えずお前の役目は決まった」「なんです?」「ガイ班面子を向こう側よりも強くして、個々の問題を解決し、結束を強固なものとしなさい」「えぇー?」思わずそんな言葉が洩れてしまいました。だってガイ班だよ? ネジいるんだよ? 嫌に決まってるじゃん。「何か不満なの?」「テンテンとリーはいいんですよ。素直そうだし。けど、ネジがなぁ」「ネジ好きだったじゃん」「いや、実際話してみるとすげークソガキなんですよ。 しかも超ド級の。口が減らないって言うかなんと言うか」「……あー、ごめん。お前日向宗家の弟子だったね。そりゃあ嫌われるわ」忘れてた、と言わんばかりに溜息を吐く先輩。なんだよう。らしくないってか?これからどうすんべ。遠い未来よりも近い未来が不安となり、俺は口をへの字に曲げた。そして鈴女蜂からの帰り道で。「どうした玄之介?」「い、いや……なんか急に胸が苦しくなって……」心臓の上を押さえつけ、蹲る俺。マジ苦しいんだけど。一体何事?