月光が降り注ぐ中、俺はテマリちゃんの前に膝を着き、頭を下げていた。平たく言うと土下座。「どうかっ。どうか風影様には……っ!!」うん。誤解の解けたカンクロウと世間話していたらテマリちゃんが復活したんだけども。起き上がった彼女は俺の言うことも聞かず、子供の必殺技を使用したのだ。そう――必殺・パパに言いつける。それだけはやめてー! 運が良くて強制送還。悪くて拘留。最悪、木の葉との国交が悪くなる。やめて。マジ勘弁。こんなことで原作の流れを崩したくない。背後にいる薙乃が、情けないと言わんばかりに溜息を吐いたのを聞きながら、俺はテマリちゃんに平謝りし続けた。 in Wonder O/U side:U「玄之介。喉が渇いたわ」「はいお嬢様」投やりに返事をしつつ、飲み物をテマリちゃんに手渡す。向こう側の人生経験で、なんだけどさ。土下座って相手をドン引きさせて、その隙に平謝りして約束事を取り付けるって代物だと思うのよ。ゼミの教授とか押し切れたし。考えてみ? 目の前の人が土下座したら引くっしょ? けれど、その法則はテマリちゃん――否、子供には適用されないようです。こう、純粋に相手が媚び諂っていたのが面白かったようですよ。畜生。なんとか機嫌を直してくれたテマリちゃんなのだけれど、まあ、ギブアンドテイクってことである条件を持ち出してきた。下僕になりなさい♪ってほどストレートじゃないけど、砂隠れにいる間は言うことを聞けとか。まあ、境遇に同情してくれたカンクロウと仲良くなれたのが唯一の救い。薙乃は何故かむくれてるしさー。……なんでこう、女運ないかな俺。木の葉じゃ鉢巻を引っ張られて首を折られそうになり、旅の最中はツッコミで蹴り飛ばされて死に掛け、今度は手下一号に任命ですよ。生涯独身でいいよもう。まあ、考えてると虚しくなるのでこの話題は終わり。本来の目的である風遁の会得なんだけれど、どういうことなのか大丈夫そうだ。機嫌を良くしたテマリちゃんを交えて、昨夜は深夜まで世間話を続けた。霧隠れであったこと以外は脚色交えず話したんだけど、里から出たことのない二人は外の話に興味津々でしたよ。んでまあ、話のネタが尽きる頃になって、この時間でも空いている宿はないかと聞くと、「ウチに泊まりなさい。そうしなさい」とテマリちゃん。うーむ。割と面倒見がいいのか。無邪気だなぁ。数年後はすげぇ手厳しいのに。ああ、野宿って線はなかった。砂漠って昼間と夜の気温変化が酷いんだ。外で寝たら凍死までいかなくても間違いなく風邪を引く。で、その夜、薙乃はテマリちゃんのところ。俺はカンクロウの部屋に泊めてもらいました。どうやら二人は寮住まいらしい。まあ、我愛羅と同じ場所にいたら危険だしなぁ。あ、二人っきりになると、カンクロウにカラスを壊したことに対して文句を言われたぜ。うん、ごめん。でもあの人形、センス悪くて嫌いなんだ。そして今なんだけど、これから稽古の時間ってことで、俺は二人に着いて行ってる。テマリちゃんが先生に頼んでくれるらしいよ。俺のことを風にどんな説明されるのか分からないけどね。昨夜と同じ演習場に辿り着くと、そこには一人の男がいた。ベストを着用した大人。額宛をしており、砂隠れの忍ってことが分かる。ん、我愛羅が隣にいるな。……ってことは、バキか。近付くとそれが確信へと変わった。バキは俺を胡散臭げに一瞥するといかにも不機嫌そうに顔を顰める。しかしそれに気付かず、話しかけるテマリちゃん。「おはようございます、先生。あの、お願いがあるんですけど」「なんだ」「この子、如月玄之介って言うんですけど、風遁を覚えたくて旅をしているらしくて――」「君、どこの出身だ」テマリちゃんの言葉を遮り、俺に言葉を向けるバキ。「火の国です」「……大人しく木の葉と言えばいい」「それで、先生」「駄目だ」そう言われ、目に見えてしゅんとするテマリちゃん。まあ、普通そうだよね。同盟国って言っても敵には違いないしさ。「……やはり砂の忍に教えを乞うのは無茶でしたね」「まあ、分かっていたことだしね。テマリちゃんがあんまり良い返事をするから期待しちゃったけど」稽古をしている三人を眺めつつ、俺は右手で螺旋丸の練習。薙乃はチャクラ操作の練習だと思っているみたい。教えないと言われたわけで。じゃあ見学してます、と言ったら、好きにしろ、と突き放されました。まあ、そんなんでめげる俺じゃあないですよ。なんて言ったって、おそらくは最強の風遁使いがテマリちゃんに稽古をつけてるんだぜ?月光ハヤテを葬った実力は鮮烈だった。あの話読んだのは、確か高校生の時だったなぁ。絶対強キャラだと思っていたハヤテを瞬殺だもの。見ているだけだって肥やしにはなる。それに――「む、何か教えていますね。『そうじゃない。風遁とはチャクラを大気に混ぜるだけではなく、風を手や脚のように、体の延長と捉えて』だ、そうです」「ありがと」こうやってバキの話し声を薙乃から聞くこともできる。忘れがちだけど、彼女の元は兎。そりゃあ耳はいいよね。バキの教えを無駄にしないためにも、俺は空いている左手で術を行使する。漫画でやっていた風遁の練習方法も知っているんだけれど、それは何度も行っている。それでも上手くできないので、コツを掴むために盗聴ですよ。風遁・操風の術。右手で螺旋丸の練習しているからすげームズい。経絡系が無茶すんなと文句を言う。けれど、これぐらいはしないとね。風を手足の延長として、イメージする。――って、これ余計に操作が難しいよ!風には決まった形がない。それを知覚するだけでも手一杯。形を決め付けて操ったほうが数段楽だ。歯を食い縛り、両手のチャクラコントロールに集中する。普通の忍と違い、俺は両手で術を行使せねばならない。同時に二つの術を行使できるというメリット。しかしそれには精密なチャクラコントロールを覚えなければならないのだ。どちらか片方の練習だけにすればいいのに、と言葉が浮かんでくる。しかし、そんなものは却下だ。少しでも早く、強くならないといけないのだから。「だ、大丈夫か?」「……鍛えてますから」心配そうに声を掛けてきたカンクロウに、涙を流しつつ返答する。いやー、操風の練習したのはいいんだけども。ははは、操作を失敗して薙乃に砂を被せちゃったのですよ。耳に砂が入ったとかで薙乃さん大激怒。そしてお約束で蹴り飛ばされた。落下した時に岩石が直撃したせいで、頭からドクドクと血が流れております。午前中の稽古が終了すると、テマリちゃん達と昼食を食べることに。我愛羅はどっかへ行ってしまいました。「なあ、カンクロウ。ここら辺に食べられる動物っている?」「……いたはず。どうするつもりじゃん」「昼食ですよ」うは、カンクロウの同情的視線が強くなった。「だって砂隠れ、すげえ飲食物高いんだもん」「まあなぁ。迂闊に買い食いもできないしなぁ」「そういうわけで、レッツ・サバイバル」「……俺のを分けてやるから」「……ありがとう」「あ、これあげる」テマリちゃんからもおかずが届きましたよ。彼女はバツが悪そうに俯くと、上目遣いでこっちを見てくる。「悪かったね、玄之介。調子良いこと言って」「いいってば。気にしないで」「そっか。……それより、午前中は何をしてたんだ? 何度も蹴り飛ばされてたけど」「見よう見まねで風遁の練習を。蹴り飛ばされていたのは、まあ、スキンシップかな……?」自分で言っておいて疑問系。「木の葉流のスキンシップって派手なんだな」「いや、テマリん。それは間違ってるから――ってギャー!」頭の傷を殴られた。テマリんは駄目らしい。「……そ、それより、バキ先生と我愛羅、薙乃は?」「先生は我愛羅を追っかけてどこかに行っちゃった。午後の稽古には戻ってくるはず。薙乃は……分からないなぁ」ふむ。ちょっと目を離した隙に消えてしまったんですよ薙乃さん。さて。彼女がいないとバキ先生の言っていることも聞こえないし、稽古が始まるまでに探さないとな。なんて思っていると、「主どの。昼食、を――」手に砂色の大きなトカゲを持って帰ってきましたよ。「……何を食べているのですか」「いやぁ、お腹空いちゃって」「……仕方のない人」溜息を吐きつつ、トカゲを鉄串で地面に突き刺す。その下に枯れ木を敷き詰めると、俺の方を見た。イエッサー。火遁・炎弾。弱火で放たれた炎弾は枯れ木に引火し、トカゲを炙り始める。午後の稽古までには焼けるといいなー。「げ、玄之介。今のどうやったんじゃん?!」「……えっと?」「片手で印を結んだだろ?」姉弟に問い詰められる。あー、そっか。生活の一部になっているから忘れていた。どうするか。血継限界持ちってバレたら、テマリちゃんとカンクロウは大丈夫だろうけど、バキ辺りが怖い。拉致られて解剖とか勘弁ですよ。「た、旅の途中で、学んだのだ」焦りながら考えたら、そんな嘘が飛び出た。うわーバレるーとか思ったんですけど、お子様二人は納得してくれたみたいです。その後、教えて欲しいじゃん、教えなさい玄之介、とせっつかれたのは言わずもがな。