押し寄せる熱波。巻き上がり、纏い付く砂塵。あーくそ。なんだこれ。砂漠ってこんなに歩き辛かったのか。日光を避けるためのフードを風に吹き飛ばされないように抑えつつ、俺と薙乃は砂隠れへと向かう。おそらく、あと数時間で到着できるはず。保ってくれ俺の根性っ。具体的に言うと、空腹と乾き。ああもうヤバイっすよー。 in Wonder O/U side:U砂隠れの里。大陸の西南に位置し、砂漠という防護によって他国を寄せ付けない忍里。夕日に照らされたそこは、酷く幻想的な雰囲気を醸し出していた。まあ、そこへやってきたわけですが。「……ねえ、薙乃」「なんでしょうか」「飲食物、高くない?」そうなのだ。取敢えず観光がてら市場に来てみたんだけど、超弩級のインフレしてやがる。大体、木の葉の2倍って感じ。しかし薙乃は分かっていたのか、頭を抑える俺を余所に、やれやれと首を振る。「木の葉が潤沢だっただけですよ。雪と風の国は最も酷い場所と言えるので、落差は激しいですけどね」うーむ。きっと、こういう認識がゆとりってことなんだろうね。「……なんだろう。最近野宿ばっかやっていたから、店で物を買うのが惜しく思える」「良い兆候ですね。……ち、ちなみに、普段の因幡一族は天然自然のものしか口にしないため、主どのもそうしていただけるといずれ――」ふと、視界の隅を人影が通過する。薙乃の言葉が右から左に筒抜けする。なんか若干恥らっているが無視。市場を掠めて見えた三人組の姿。見覚えあるよなぁ。どうするか。声を掛けるべきかそうでないべきか。いやあ、今まで原作キャラと関わってロクな目に遭ってないわけで。うーむ。「――故に、今の調子で成長を続けたならば、将来は因幡の里へきて頂いてもよろしいのですよ。そうしてもらえると、わ、私も嬉し……」「しゃあない、行くか」「……え?」「よし、行くぞ薙乃」「よろしいのですか?!」うお?! なんか顔を輝かせてる。「う、うん」話聞いていませんでした、なんて言ったらぶっ飛ばされること請け合い。砂漠横断で力尽きそうな今の俺では受身取れません。だから思わず返事をしちゃったんだけれど……。やべぇ。なんて言ったんだ薙乃さん。怖くて聞けない。今まで伊達に一年も一緒に生活しているわけじゃない。ご機嫌→不機嫌って感じに突き落とされた時の薙乃んはデビルメイクライってレベルで怒る。「そ、そう言えばさ。さっき砂隠れの忍を見掛けたんだ」「はぁ」まあ、今は下忍にすらなっていないだろうけど。「取敢えず後を追おうぜ」「……何をするつもりですか?」カンクロウ、テマリ、我愛羅の三人は、今日の鍛錬を終えて帰宅するところだった。我愛羅は無言で二人から離れ、風影邸へと行ってしまう。何故か彼はその屋上で見る月が好きらしかった。たった一人でそこへ向かうのはいつものことだ。テマリとカンクロウは着いて行こうともせずに、自分達の家へと脚を進める。帰宅し、損耗した装備を補充すると、二人は再び家を出た。目指すはこの風影一家専用の演習場だ。砂隠れの里を僅かに外れてある岩場。月光に照らされ、不気味な雰囲気を放っている場所だ。そこへ辿り着くと、カンクロウとテマリはお互いの忍具を展開する。そして両者は大きく腕を振り上げ――岩陰へと同時に攻撃をぶち込んだ。HQ! HQ!! 見つかった!!!「ぎゃー! やっぱりこうなるのかよ!! これだから原作キャラはっ!!!」飛来するカマイタチと暗器。それをバックステップで回避しつつ、月光の元へと躍り出る。「何者だ!」と、問いつつ次のカマイタチを扇の一閃で叩き込んでくるテマリ。それを援護に突撃してくるカンクロウ。答えが言えなかったらどうする気だよまったく。「怪しい者じゃないよー」無視された。動き続ける二人。こんなことになるとは。漫画の感じからして性格曲がってそうだとは思っていたけど、こいつら危機管理の精神が強すぎないか?……いや、出自や今に至るまでの人生を考えれば、こういうのは当たり前なのかもな。それにしたって理解はできるが、納得はできない。マイノリティーは辛いぜ。「う、嘘じゃないよ!」叫び、嘆息しつつ、頭の中でスイッチを入れる。それは妄想の産物だ。まあ、気分の転換みたいなもの。根っこの部分が不真面目な俺は、意識しないと真面目になれないのだ。目が据わるのを自覚しながら、カンクロウの操る人形に接近した。このからくり人形はカラスか。ならば、接近はあんまり良策じゃない。しかしネタは割れている。秘密の明かされたカラクリ人形など恐るるに足りない。忍法・分身の術。忍法・火炎瞬身の術。右と左の同時展開。目的は撹乱だ。敵の姿が増えて、更にそれが炎を纏っていたから動きは止まる。まあ、実勢経験があったらそんなことしないんだけど。案の定動きを止めたカラス目掛け、右の拳を打ち込む。口寄せ・リボルビングステーク。そしてパイルバンク。苛烈な衝撃で内側から破壊され、カラスは胴体を破砕、四肢――いや、六肢を四散させた。「話聞いてよ!」「下がれ、カンクロウ。後は私がやる!」「で、でも――」「人形を壊されたお前に何ができる!」その意見をもっともだと思ったのか、カンクロウは押し黙る。まあ、彼女の言うとおりなんだろうけど。厳しいぞテマリちゃん。「いや、それより俺の話を聞いて!」また無視された。分身の術を発動して突っ込んでくるテマリちゃん。ったく、無力化しなかったら話聞いてくれないんですかい。リボルビングステークを外し、九鬼流の構えを取る。……む、いざ構えてなんだけど、なんで俺ばっかり攻撃されてるんだ。薙乃さんはどこへ行った。A.逃げて、岩陰から此方を見守っています。……くそう。あ、やばい。集中が途切れてる。なんて考えた瞬間、カマイタチが飛んできました。真空の刃があるであろう空間を睨みつけて再び気を引き締める。俺に殺到する二体はフェイクか。真空刃は最も奥にいるテマリちゃんから発せられた。教科書通りか。分身はあくまで陽動。まあ、俺のやる分身使いながらも接近戦を挑むってこと自体が、リスクを減らす類の術を使っている意味をなくしているが。けど、それじゃあ意表は突けない。火遁・炎弾。印を組み終え、目標を人差し指と中指で指し示すと、炎弾がその先から射出される。炎弾は半年前とは見違えるほどに威力を増している。牽制の域を出ないが、相手にダメージを与えられるレベル。火球は相克属性の関係でカマイタチを真っ向から粉砕、吸収し、威力を増幅してテマリちゃんの足元へ着弾する。巻き上がる粉塵、爆炎。炎の幕が広がる寸前、彼女の表情が怯えに歪むのが見えた。悪いことしたな、と思いつつ、瞬身の術を発動。炎を飛び越え、一息で間合いに飛び込んだ俺が選択するのは、九鬼流の絶招・其の四。「焔――」扇を持つ腕を絡め取りつつ、背後に回り、「――槌」後頭部に肘を打ち込んだ。いつものような大人と子供の体格差は存在しない。これは子供同士の小競り合いだ。九鬼流は本来の威力を発揮し、テマリちゃんを一撃で昏倒させた。地面に倒れこむテマリちゃんを抱き留め、残ったカンクロウに視線を送る。「お、お前、何が望みじゃん?!」「……だから話を聞けよぅ」溜息を吐いて緊張を解く。カンクロウ警戒しまくり。要するにビビリまくっている彼の様子に頭を振りつつ、俺は腕の中にいる女の子を地面に下ろす。そしてどこぞのザ・ウィザードみたく腕を交差してポーズを取る。「俺の名前は玄之介。如月玄之介。仔細あって、風影の子供である君たちに、風遁の教えを乞いたい」軽く鼻の頭を掻きつつ、「駄目かな?」そんなことを言ってみた。唖然とするカンクロウは軽く首を傾げると、腕を組む。「……俺たちの命を狙っていたんじゃ?」「だから人の話を聞けっつーの!!」いい加減イライラが限界にきた俺は、思わず叫びを上げてしまった。