木の葉の里のそばにある森の奥深く、
金髪青目の幼子が気配もなく川の上に立っている。
ナルトだ。
今日も欠かさずチャクラコントロールに励んでいた。
その子の周りには様々な動物たちがくつろぐように集っている。
ナルトは川の上に立ったままおもむろに印を組み始める。
一瞬で組んだ印から火遁豪火球の術を発動させると、周りの動物たちはビクリと驚いたような反応を見せる。
もちろん動物たちに当てるようなまねはしない。
その反応が楽しくて声を出して笑うナルト。
その姿は歳相応だ。
NARUTO ~大切なこと~ 第6話
時は夕刻、もうだいぶ空は赤から夜の色へと変わり始めている。
――そろそろ夕飯ですね。
ナルトは川から上がり、動物たちに別れを告げる。
帰るついでに寄り道をして山菜を摘み家へと向かう。
――なんだか、今日は森がざわついている・・・?
ナルトはいつもとどこか違う雰囲気に首を傾げた。
ナルトは年々森に入っている薄い気配を感じ取ってはいたが、姉が気にしているような素振りを見せたことが無かったので、気にすることはなかった。
――今日もまた5人の気配がしますね・・・。
ナルトにとって気配をよむことは姉のとても薄い気配を探り慣れているため、人間である忍の気配はいくら上忍や暗部といえども簡単に探ることが出来る。それとは対照に、ナルトは森では常に気配を消して過ごしているため、磨きがかかり今では空気同様の存在となっている。
――早く帰って姉さんの夕飯作りの手伝いをしましょう。
何故かざわつく胸を気にしないように、採ったばかりの山菜を抱えて家へと帰っていった。
――姉さんの気配が無い・・・?
家のすぐそばまで来たが、そこから全く何の気配も感じられない。
――入れ違いになってしまいましたか。
姉の華代は時々、ナルトの帰りが遅いと迎えに来てくれる。
今日も川へ行くと言ってから出かけて行ったのできっと入れ違いになったのだ。
最近では出かける場所を言ってから出かけなければ姉でさえナルトを見つけることが出来なくなっていた。
ナルトはとりあえず家に入り、山菜を置いてからまた川へと向かった。
ナルトの胸は川の方に近づくにつれてざわつきがひどくなる。
――どうしたんでしょう。今までこんなこと無かったのに・・・。
嫌な感じがする。とても。
歩がいつの間にか走りへとかわり、ついにはチャクラを全身へと流し込む。
その走りはもう人の目では捉えられない。
姉に近づいているはずなのに、胸の不安が拭えない。修行の最中だってこんなにも息苦しいことは無かった。
川へたどり着いたが、華代の気配は感じられない。ナルトは必死になって川の周辺を探し始めた。
――少し、落ち着かないと。
そう胸に言い聞かせ、落ち着きを取り戻そうとする。すると、さっきから森でずっと感じていた忍びの気配が意外に近いことに気づいた。
物音一つ立てずに忍びたちに近づくと、忍びとは思えない大きな声で会話をしていた。
「だいぶ狐も減ってきたと思ったら、今日は大物だったな。」
「ああ。もっと甚振ってやりたかったのによ。すぐに逃げちまって。くそ!あ~ぁ、残念だぜ。」
「ま、とは言ってもあれじゃぁ、すぐに死んじまうだろ。かなり強力な毒だしよ。」
もろ刺さったからな。と笑い声が聞こえる。
ナルトの顔は次第に青ざめていった。
姉はナルトの3歳の誕生日を境に時々狐の姿にも変化をするようになった。姉曰く、「この姿のほうが走りやすいのよ。」ということらしい。
ナルトも何度も姉の狐姿を見ている。
普通の狐よりも倍ほど大きいが、すらりとしていて、姉の綺麗な毛並みが好きなナルトはよく背中にも乗せてもらった。
――姉さん!!!!
ナルトは忍びが行く方とは逆の方へと走り出す。
――姉さんに限って、そんなことは絶対無い!!
そう信じているのに。鼓動はどんどん速くなる。
そして、少し藪の開けたところにそれはいた。
呼吸が止まる。
息が出来ない。
目が閉じられなかった。
綺麗な毛並みの大きな狐がそこに倒れていた。
「姉さん!!」
ナルトは狐に変化している姉の首を両腕で抱きしめる。
まだ姉は温かかった。しかし、呼吸は浅く、息は絶え絶えとしている。
「姉さん・・・!!どうして。」
声が震えて上手く言葉にならない。すると、狐は閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げ、ナルトを見つめた。
「ナル・・ト・・・。あなた・・の・・名前は・・う・・ずまき・・・ナルト・・よ・・・。」
ナルトはその言葉に目を見開き、息を呑んだ。
「あなたの・・おと・・さんは・・・、里人は・・みんな・・家族と言・・・って・・いたわ・・・。」
「ねぇ、姉さんどうしたの・・・?こんな時にそんな話・・・。」
これじゃあ、お別れみたいじゃないですか。
ナルトは涙でにじむ目で必死に姉を見つめる。
「ナ・・・ル・・ト・・・・・・。ねぇ・・・笑・・って・・・?私・・・ナルト・・・の・・笑顔が見たい・・わ。」
「姉さんしゃべらないでください!!姉さん・・大丈夫ですよね・・・?ただの風邪ですよね・・・?」
風邪なんかでないことはナルトにだって分かっている。
ただ姉が死ぬかもしれないだなんて考えられないのだ。
「私・・は・・・もう・・・・・・助からないわ・・・。死ぬ・・前に・・・ナルトの・・笑顔が・・・見たいの。」
「死ぬなんて言わないでください・・・!!僕を一人にしないで・・・?」
ナルトの目から堰を切ったように涙があふれ流れている。その顔を姉の毛皮へと埋め、嗚咽を堪える。
「あな・・たは・・・一人・・・なんかじゃ・・ないわ・・・。ねぇ、・・・笑ってよ・・・。最後の・・・お願いよ・・・?」
ナルトの肩がピクリと跳ねる。そして、毛皮から上げた涙と鼻水でグシャグシャの顔に笑顔を浮かべようとしている。
頬が引きつって上手く笑顔が作れないのをごまかし、一生懸命作ろうとする。
「姉さん。ほら、ヒック・・・僕笑ったよ・・・?姉さんも笑ってよ。うっ・・・僕も姉さんが笑ってくれたらもっと笑えるよ・・・?」
狐はナルトの顔をじっと見つめ、少しだけ口角を上げたような気がした。そして何かをつぶやいたが、それが音として出ることは無く瞼を下ろした。
「・・・姉さん・・・?姉さん!!姉さん!!!!」
狐の身体を揺り動かすが、動く気配は全く感じられなかった。
――どうして・・・!!どうしてですか!!
ナルトは堪えられなくなった嗚咽を上げ、姉に縋り付いた。
森には小さな幼子の悲痛な叫びが響き渡る。
と、急に途切れた嗚咽。そこには禍々しい目に見える赤いチャクラをまとい、紅い目をギラギラとさせた幼子が倒れている狐のそばに立っていた。
そして、そこには狐しかいなくなった。
あとがき
華代さんごめんなさい!!