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No.2371の一覧
[0] NARUTO ~大切なこと~[小春日](2007/12/04 23:34)
[1] NARUTO ~大切なこと~ 第1話[小春日](2007/12/06 19:28)
[2] NARUTO ~大切なこと~ 第2話[小春日](2007/12/08 11:57)
[3] NARUTO ~大切なこと~ 第3話[小春日](2007/12/09 13:40)
[4] NARUTO ~大切なこと~ 第4話[小春日](2007/12/10 18:47)
[5] NARUTO ~大切なこと~ 第5話[小春日](2007/12/12 16:44)
[6] NARUTO ~大切なこと~ 第6話[小春日](2007/12/12 16:50)
[7] NARUTO ~大切なこと~ 第7話[小春日](2007/12/13 18:18)
[8] NARUTO ~大切なこと~ 第8話[小春日](2007/12/14 19:29)
[9] NARUTO ~大切なこと~ 第9話[小春日](2007/12/15 19:13)
[10] NARUTO ~大切なこと~ 第10話[小春日](2007/12/16 19:35)
[11] NARUTO ~大切なこと~ 第11話[小春日](2007/12/17 20:32)
[12] NARUTO ~大切なこと~ 第12話[小春日](2007/12/18 19:24)
[13] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2007/12/19 19:38)
[14] NARUTO ~大切なこと~ 第13話[小春日](2007/12/21 18:21)
[15] NARUTO ~大切なこと~ 第14話[小春日](2007/12/23 23:41)
[16] NARUTO ~大切なこと~ 第15話[小春日](2007/12/27 19:27)
[17] NARUTO ~大切なこと~ 第16話[小春日](2007/12/28 19:25)
[18] NARUTO ~大切なこと~ 第17話[小春日](2007/12/28 19:44)
[19] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2007/12/29 20:55)
[20] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2007/12/30 10:32)
[21] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2007/12/30 10:31)
[22] NARUTO ~大切なこと~ 第18話[小春日](2008/01/01 19:42)
[23] NARUTO ~大切なこと~ 第19話[小春日](2008/01/01 19:59)
[24] NARUTO ~大切なこと~ 第20話[小春日](2008/01/02 15:46)
[25] NARUTO ~大切なこと~ 第21話[小春日](2008/01/02 16:15)
[26] NARUTO ~大切なこと~ 第22話[小春日](2008/01/02 17:55)
[27] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2008/01/03 09:15)
[28] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2008/01/03 09:21)
[29] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2008/01/04 23:12)
[30] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2008/01/05 09:50)
[31] NARUTO ~大切なこと~ 第23話[小春日](2008/01/07 23:00)
[32] NARUTO ~大切なこと~ 第24話[小春日](2008/01/07 23:04)
[33] NARUTO ~大切なこと~ 第25話[小春日](2008/01/11 16:43)
[34] NARUTO ~大切なこと~ 第26話[小春日](2008/01/13 19:48)
[35] NARUTO ~大切なこと~ 第27話[小春日](2008/01/16 19:00)
[36] NARUTO ~大切なこと~ 第28話[小春日](2008/01/16 19:05)
[37] NARUTO ~大切なこと~ 第29話[小春日](2008/01/16 19:17)
[38] NARUTO ~大切なこと~ 第30話[小春日](2008/01/21 18:32)
[39] NARUTO ~大切なこと~ 第31話[小春日](2008/01/26 13:48)
[40] NARUTO ~大切なこと~ 第32話[小春日](2008/02/02 12:34)
[41] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2008/02/10 23:03)
[42] NARUTO ~大切なこと~ 第33話[小春日](2008/05/16 21:54)
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[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第32話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/02/02 12:34


*読んでくださってありがとうございます。
 何度も修正を入れてしまい、申し訳ありません!
 少しだけですが火影様とアンコさんとミコトさんの部分を変更させていただきました。
 よろしかったらお読みください。
 






“第三の試験”の予選、第九回戦が始まった頃。


塔付近の死の森に、金髪の長い髪を1つに括った青年が立っていた。


その青年は何故か険しい面持ちをしている。


すると突然、パッと振り向いた青年は、塔のある方角を睨み付け、


静かに口を開いた。







NARUTO ~大切なこと~ 第32話







「いつまで隠れているつもりですか。」

ジロリと森のある一点を睨みつけ、実に嫌そうにそう告げた金色の青年。しかし、青年の視線の先にはただ鬱蒼とした森が広がっているだけだ。が、青年はじっとその一点を見つめ続けている。
すると、ククク・・・という不気味な笑い声が、だんだんとその青年に近づいてくるではないか。そして、笑いながら姿を現したのは、忍服を着て、額に音符のマークの額あてをつけた黒髪の長い男。


「あなた、医療忍者だったのね。」

「・・・・・・大蛇丸。」


やっと姿を見せたその男、大蛇丸に青年はなんとなく後退る。出てくるように言ったのは自分だが、その視線がどうも慣れそうにない。

「三代目があなたを任務に行かせないのも分かった気がするわ。」

舌なめずりをしながらそう言った大蛇丸に、鳥肌が立ち、思わず腕をさする。

「でも・・・さっきは私と話すことなんてないって言ってたじゃない・・・?」

まぁ、私としては嬉しい限りだわ、と言葉通り本当に嬉しそうに微笑む大蛇丸に、青年は顔を引きつらせる。どうも、この人は苦手だ。

「・・・先ほどから僕に視線を寄こしていたのはあなたじゃないですか・・・。」

そう、さっきの第八回戦終了後のヒナタの治療の時、痛いほどの視線を感じていたこの青年は、耐え切れなくなって塔から出てきたのだった。
青年のその言葉に、大蛇丸はフフッと笑う。

「だって、あんな術初めて見るんだもの・・・それに、私はあなたと話がしたかったのよ。」

大蛇丸の視線から青年はバッと目を逸らす。逸らしても、穴が開くほど見つめられているのが全身でひしひしと感じられる。恐ろしい眼力だ。

「あの・・・お話というのは・・・。」

こうやって会ってしまったのだ。きちんと話をしない限り、この視線からは逃れられないだろう。

「そうね・・・まずはこれかしら。」

そう言った大蛇丸は、どこから出したのか、手には見覚えのある術式がのっていた。それを見て青年は諦めたようにため息をつく。大蛇丸が言いたいことは分かっている。

「この術式はアンコと会っている時に使われたものよ・・・。これを貼れたのはあなたじゃない・・・そう、ナルト君よね。あなたの存在は一度も聞いたことがないから・・・」

ナルト君の方が本当の姿なのよね、と楽しそうに告げた大蛇丸に、「そうですよ」と軽く答える。
その術式は、ナルトと大蛇丸が戦闘したあの時、大蛇丸の気を逸らすために右腕の神経を切断すると同時に右脇腹に貼り付けたものだ。
青年のそっけない返事に、「あら、つまらない」と呟いている大蛇丸に、思わず顔を顰める。

「それで、お話と言うのはそれだけですか。」

とにかく早く話とやらを終わらせて、塔に戻りたいと思う青年だった。が、

「まさか、これだけじゃないに決まってるじゃない。」

やっぱりか。青年は、覚悟を決めて大蛇丸を見据える。すると、大蛇丸はニコリと笑った。

「その姿だったら・・・ナルト君よりもミコト君のほうが良いかしら?」

「そうしてくださったほうがありがたいです。」

そうねぇ・・・何から訊こうかしら、と考え始めた大蛇丸に、自分にそんなに訊くことがあるのだろうか、とミコトは内心げっそりした。と、その時、なにやら大蛇丸がふと思い出したように尋ねてきた。

「そういえば、あなた・・・殺気は出さないのね。」

会った時はいつもすごい殺気を放っていたじゃない、と少し目を細めてそう言った大蛇丸に、ミコトはきょとんとした。確かに、大蛇丸に会った2回とも殺気を放っていた。が、今は必要ない。

「会話に殺気はいりませんからね。それとも、出して欲しいんですか?」

ミコトがそう告げると、大蛇丸が顔を歪めた。

「いや・・・好き好んであんな殺気を受けるほどマゾじゃないわ。」

「マゾ・・・。」

大蛇丸の言葉にミコトは真剣な顔をした。突然の変化に、大蛇丸が少し身構えると、ミコトが口を開いた。

「マゾヒズム・・・被虐症のことですね。異常性欲の一種、別に恥ずかしがるようなことではありませんよ。」

医療忍者としてそんなことは気にしませんから、と笑ったミコトに、大蛇丸は一瞬、ぽかんとしたが、透かさずそれを否定する。その焦り様に、ミコトはフフッと笑う。

「冗談は置いておいて、早くその訊きたいことをおっしゃってください。」

「冗談・・・。」

どうやらミコトは大蛇丸の扱いを覚えたようだ。少し悔しそうにした大蛇丸だったが、「まぁいいわ・・・」と早速ミコトに尋ね始めた。

「その変化の術、見事ね。」

今のミコトの姿をじろじろと見ながら呟く。
この自分でさえ、目の前にいるのが本当にナルトかどうか確かめなければ分からなかったのだ。もし術式に気づかなかったら、ミコトの姿が変化だなんて思いもしなかっただろう。それほどこの変化の術が見事なのだ。

「この姿は2歳の頃からずっと続けているので、もう慣れてしまいました。」

ミコトはその頃を思い出して、優しく笑う。これは姉から教えてもらった初めての術だから。大蛇丸は「そう・・・2歳の頃から・・・」と、ちょっと驚いているようだ。

「それと・・・あなたは本体かしら? それとも影分身かしら?」

大蛇丸がナルトと初めて会った時、あの時は影分身だったのだ。それも五行封印をするまで全く消えることのなかった影分身。別に今は話ができればどちらでも良いのだが、先ほど予選で戦っていたナルトを見ても、自分ではどちらが本体か分からなかった。
その問いに、ミコトは「僕が本体ですよ」と答えると、ニコッと笑った。

「あの影分身は、1体しか作れないんです。それに、禁術以上の忍術や、急所への攻撃には消えてしまいますし・・・。」

それはそうだろう、と大蛇丸は思う。あんな分身がたくさん作れたら大変なことになってしまう。しかし、次の言葉で大蛇丸の顔は驚愕で彩られた。

「でも、まだ研究中ですが、禁術以上のものにも耐えられる影分身が作れるかもしれないんです。」

「な・・・・・・!」

本体とほぼ変わらない影分身ですね、と子供らしく目を輝かせて話すミコトは大蛇丸の驚き様に気づいていないらしい。今の大蛇丸の顔は本当に伝説の三忍と言われた忍なのか、と疑わんばかりにかなり間抜けだ。
いや、そんな大蛇丸の反応は決しておかしくはない。どんな忍でも、今の言葉を聞けば驚くだろう。と、突然ミコトが「あ」と声を上げた。
その声で大蛇丸が我に返り、何事かと顔を向ければ、ミコトがこちらをジロリと睨みつけていた。そして、

「もちろん教えませんよ。」

と言ってミコトはニヒッと笑った。それがまた子供らしくて可愛らしい。

「そう・・・残念だわ。」

大蛇丸はそう言うが、はっきり言ってそんな術、己にはできないだろう。
いったいどんなことをすれば本体と変わらない影分身などできるのだろうか・・・。

――・・・恐ろしい子ね

ニコニコ笑うミコトを見ながら内心ため息を吐いた。



「そう、残念だわ」と言って口を閉ざしてしまった大蛇丸を見て、ミコトは口を開いた。

「では、そろそろ塔に戻りますね。」

案外慣れてしまうものだな、と内心で驚きながら、ミコトは「失礼します」と告げてそのまま大蛇丸の横を通り過ぎていく。が、しかし、

「まだ話はあるわ。」

そう言った大蛇丸に、ミコトは舌打ちしたくなったが、なんとか我慢して振り返り、「何ですか」と答えた。いつの間にか大蛇丸の顔は先ほどとは違って真剣なものへと変わっている。それになんとなく嫌な予感がした。

「率直に言うわ・・・・・・あなた、音の里に来ない?」

その一言で、先ほどまでの少し和やかな雰囲気が一変した。
嫌な予感は的中した。ミコトは目を細めて眼光鋭く大蛇丸を睨み付ける。しかし、大蛇丸は何故か嬉しそうに舌なめずりをしてこちらを見据えている。・・・やはりマゾなのだろうか。

「その姿だったらこの里でも良いでしょうけど・・・ナルト君にはどう?」

あの噂のせいで、大変でしょう? とニヤリと笑う大蛇丸に対し、ミコトは平然とした態度を崩さなかった。大蛇丸の言っていることが分からないはずがないけれど、それを覚悟の上で自分はこの里にきたのだ。

「塔の中でも言いましたけど・・・僕にとって、里の人たちはみんな家族なんです。」

その言葉に大蛇丸が眉間に皺を寄せた。が、ミコトは気にせず話を続ける。

「確かに、辛いこともあります。それでも、だんだんと僕のことを認めてくれる人が増えてきたんです。だから僕は諦めない。」

絶対に諦めない。父が守ってきたこのすばらしい里を、自分も守りたいんだ。
そのために医療を学んできたのだ。辛くなったら、笑えば良い。
笑うと自然に力が湧いてくるから。
悠然と微笑んだミコトに、大蛇丸は憎々しげに顔を歪めた。

「やっぱりあなたはあいつの子ね・・・。」

その大蛇丸の呟きを聞いて、ミコトはフンと鼻を鳴らし今度こそ体を塔へと向ける。すると、


「せいぜい守れるなら、守ってみなさい。」


あなたの無力さを思い知るがいいわ! と声を上げた大蛇丸に、ミコトはちらりと横目を送ると、また前を向いてそのまま口を開いた。

「僕が無力なのは十分知っています・・・それに、あなたがサスケだけが目的じゃないことも分かっています。」

後ろで小さく喉が鳴る音が聞こえた。
何を企んでいるのかはまだはっきりとは分からないが、サスケだけではないことは確かだ。今の反応がそのことを証明している。

「今あなたをどうにかすることもできますが・・・・・・それはきっと火影様が望んでいないから。」

ミコトは塔を見てスッと目を細めた。
大蛇丸は三代目の部下だった。三代目のこと、大蛇丸の里抜けの時には駆けつけていたはずだ。しかし、大蛇丸はこうしてまだ生きている。三代目だったらどうにかできていただろうに。でも、それができなかった。
里抜け、つまり“抜け忍”となった者は抹殺しなければならないのだ。
もし自分が三代目の立場であったなら、自分の部下を殺すことができただろうか?
・・・・・・できるはずがない。
信じていた者に裏切られても、やはりどこかでまだ信じたいと思う心があるから。
しかし、それが結果として里に危険をもたらしてしまった。きっと、三代目はその責任を誰よりも重く感じているはずだから。
だから、自分が勝手に何かするわけにはいかない。

「僕1人ではこの里を守りきることは、はっきり言って無理です。」

たくさんの大切な家族を全て守りきることなんて自分だけでできないのは、考えなくたって分かる。

「だけど、この里を守るのは僕だけじゃない。火影様や上忍、特別上忍、中忍の皆さん、・・・下忍の方々はまだまだこれからですが、僕はみんなを信じています。」

みんなが里を守ってくれると。


「“仲間”とはそういうものですから。」


この里にきて、教えてもらったんだ。
“仲間”とは、守り守られる関係であると。
あの時、第二の試験でみんなに教えてもらった大切なこと。

ミコトはフッと微笑み、振り返ることなく塔へと戻っていく。


そこに残った大蛇丸は、突如フフフ・・・と不気味に笑い出し、その場から去っていった。










「ではこれから・・・“本選”の説明を始める・・・。」

ミコトが塔の中へ戻り会場へ入ると、すでに予選が終わり、火影様の説明が始まっていた。本選進出を決めた下忍8名が会場の中心に横1列に並び、緊張した面持ちで話を聞いている。そして、ふと気づいたことはカカシがこの会場の中にはもういないということ。
そのことにミコトは視線を鋭くした。

――・・・サスケですね・・・。

ここに戻ってきたのは自分だけ。大蛇丸はあの後どこかに行ったようだ。が、大蛇丸自らサスケのためだけに人の集まる病院に姿を現すことはないだろう。
もし病院に来るのであるならば・・・恐らくカブトだ。

――とりあえず、カカシ先生なら大丈夫・・・ですよね。

ミコトは“カカシ”の名でふとサスケに封印術を施した時の大蛇丸の様子を思い出す。
第二の試験でサスケに接触した大蛇丸は、サスケの変化にどうやら焦っているらしい。
サスケが“復讐者”であることは確かだが、サスケは少しずつ変わり始めている。
兄を殺すために“生”に固執していたはずのサスケが、サクラを助けるために命を懸けて大蛇丸に挑んだのだ。それは大蛇丸にとって予想外だったのだろう。
何せ、わざわざカカシが封印術を施しているところに姿を現してまで、予言のような言葉を残していったのだから。

――大蛇丸が何のためにサスケを欲しているのかは分かりませんが・・・

大蛇丸が里抜けした理由は禁術の開発が発見されたからだ。
その禁術と何か関係があるのだろう、とミコトがそんな思考の海に潜っていた時だ。


「ミコトさん!!」


その声で我に返ったミコトが振り向けば、そこには息を切らした医療班の1人がいた。

「どうかされましたか?」

彼の慌て様に少し目を見張ったが、落ち着いて返事をする。その医療班の1人は自分を見てホッとしたのか、火影様の話の邪魔にならない程度の声音で話し始めた。

「見ての通り、もう予選は終了しました。」

「ええ、そのようですね。」

ミコトがちらりと横に目をやれば、火影様が「本選は1ヵ月後に行われる!」とおっしゃっているところだった。

「第十回戦で負けた秋道チョウジ君の怪我は軽かったのですが・・・その・・・第九回戦で負けたロック・リー君の容態が・・・。」

途中からとても言いにくそうにそう告げた医療班の1人に、ミコトは一瞬内容に驚いたものの、スッと目を細めて「詳しくお話ください」と言葉を返す。

「はい。第九回戦の砂瀑の我愛羅君とリー君の試合だったのですが・・・」










「では第九回戦、始めて下さい!」

ハヤテの声とともに、ダッと駆け出したリーは我愛羅にさっそく木の葉旋風を繰り出す。“木の葉旋風”とは、上段蹴りと下段蹴りを組み合わせた連続体術のことで、リーの場合、上段蹴りを囮に相手が回避したところに下段蹴りを放ち、命中させるのだ。が、その蹴りは我愛羅の砂によって防がれてしまった。

「くっ!」

その砂がリーの背後にも回ってきたため、リーはすぐさまそれを飛び退いて回避する。そしてすぐに体勢を立て直し、突きや蹴りの攻撃を開始するが、それも尽く砂に邪魔をされ、本体に当てることができない。
リーはそれでも諦めずに体術を繰り出していく。
もうこの時点で、我愛羅に体術が利かないことは見ている者も含めて分かったはずだ。誰もが、忍術で距離をおいて戦うべきだと思っただろう。
しかし、リーは忍術を使うことができなかった。リーには忍術・幻術の技術が無い。忍者としてリーにできる技は唯一体術しか残されていなかったのだ。

襲い掛かってくる砂をバク転で避けるリー。その息は少しだけ上がっていた。が、その時、

「リー! 外せ!!」

聞こえてきた声に、一同そちらへ顔を向ける。その声は上の階からだ。
そこにはリーと似たおかっぱに、眉と下まつげの濃ゆい担当上忍が親指を立てていた。リー以外の者たちはその上忍の言葉が何のことかわからず、頭に疑問符を浮かべている。

「で・・・でも、ガイ先生! ・・・それは―――大切な人を“複数名”守る場合の時じゃなければダメだって・・・!」

ガイの言葉にリーは右手で敬礼をしながらそう答える。すると、

「構わーん!! 俺が許す!!!」

シュッと再び親指を立てて濃ゆい担当上忍、ガイはリーに微笑んだ。それに一瞬ぽかんとしたリーだったが、すぐに「アハ・・・ハハハ・・・」と笑い出し、嬉しそうに足に巻いていた“根性”と書かれた何枚もの重りを外していく。

「よーしぃ!! これでもっと楽に動けるぞーーー!!」

そう言いながら落とした重りは、

ドゴッ!! ドゴッ!!

地面に穴を開けた。
その音の大きさに、みな唖然としている。が、

「行けー!! リー!!」

ガイはニヤッと笑ってリーに指示を出す。
その指示に「オッス!!」と答えたリーは立っていた場所から一瞬で消えてしまっていた。それには我愛羅も軽く驚いている。そして、

「 !! 」

振り向いた我愛羅の後ろにはすでにリーの拳が迫ってきていた。それを顔面ギリギリのところで防ぐ砂。その攻撃から、我愛羅の砂も段々と追いつかなくなり、

ガッ!!

初めてリーの踵落としが我愛羅の頬をかすった。

「さあ・・・これからです!」

地面に着地したリーは体勢を整え、すっと右手を軽く出し、構えをとる。我愛羅はただじっとリーを睨みつけている。

「リー!! 爆発だぁー!!!」

再びガイの声援が会場内に響き渡る。

「オッス!!」

気合を入れなおしたリーはまたスッと我愛羅の前から消えた。それにすぐに反応した我愛羅は背後に砂の盾を作る。が、

「こっちですよ・・・」

確かに後ろにフッと現れたリーが、いつの間にか前から拳を突き出していたのだ。

ガッ!!

その拳は、今度はしっかりと我愛羅の頬へと直撃し、我愛羅は後方へと飛ばされ、ガフッと砂の上に倒れた。この攻撃には手応えを感じたリーは、それでも油断をせずに我愛羅を見据える。
上で見ている者たちには、この試合のレベルの高さに息を呑む者までいた。
と、その時、

「なっ・・・」

リーが思わず声を上げた。それは、ゆっくり立ち上がった我愛羅に驚いたわけではない。
その立ち上がった我愛羅の顔の半分がボロボロと崩れたからだ。顔中にはヒビが入っている。その下から見えている口元は、ゾッと背筋が寒くなるような笑みを浮かべていた。
そして、うごめき始めた砂が、我愛羅を包み込み、再び無表情の彼に戻っていった。
そう、先ほどの顔面の崩れは纏っていた砂によるものだったのだ。

それは“砂の鎧”と呼ばれるもので、自分の意思で薄い砂の防御壁を身にまとい、防御するものだ。自動で防御する“砂の盾”とは違う、絶対防御だ。
しかし、それは自動でない分、チャクラを膨大に消費し、何より“砂の盾”より防御力が劣っている。その上、本体に砂が密着しているために体は重くなり、体力も使ってしまう。
それを使用させるまでリーは追い込むことができたのだ。

「それだけか・・・・・・。」

完全に砂をまとい終えた我愛羅がリーに向かって呟く。リーはその砂の鎧をじっと見つめた後、パッと顔を上げた。顔を上げた先には、ガイが微笑みながらうんと1回頷いていた。
それにリーはニコッと笑い、腕に巻いていた包帯を少しほどき始める。そして、

「 ! 」

目にも留まらぬ速さで我愛羅の周りを走り出した。そんなリーに対し、一瞬驚いたものの、我愛羅は「さっさと来い」と挑発をかけている。すると、

「お望み通りに!」

突然我愛羅の前に現れたリーがゴッ! と我愛羅の顎を下から蹴り上げ、

「まだまだぁ!」

空中に浮いた我愛羅に影舞葉で追尾し、何度も攻撃を与える。と、その時、一瞬だけリーの動きが止まった。が、それもほんの一瞬のことで、次の瞬間には我愛羅の真後ろからほどいていた包帯で拘束し、

「くらえ!」

――表蓮華!!

受身の取ることができなくなった我愛羅とともに脳天から高速落下し、

ドカッ!!!

地面に叩き付けた。地面に叩きつけられる直前にリーは相手に巻きつけていた包帯をほどき、ザッとその場から飛び退いた。
叩きつける勢いがすさまじかったため、その場は砂煙に包まれ、中の状況を把握することができない。今のリーの技にみなが驚愕の表情を浮かべている。
そして、砂煙が晴れてくると、会場の床に開いた大きな穴の中心には、我愛羅が静かに倒れていた。

「よし!」

それを見て、思わずガイがグッと拳を握りながら声を上げる。
リーは飛び退いた後、上手く地面に着地して相手を伺っていたが、その息遣いは荒い。倒れている我愛羅を見て少しホッとしたリーだったが、すぐに目が驚きで見開かれた。上で見ていた一同もリーと同じ反応を示している。

倒れていた我愛羅がサラサラと崩れ始めたのだ。それに気づくのが遅かった。

「クク・・・・・・」

気づいたときにはもう、リーの背後に我愛羅が笑いながら砂の中からムクッと立ち上がっていた。
あの一瞬、リーの動きが空中で止まってしまったその隙に、我愛羅は砂の盾だけを残し、技をくらうことを回避していたのだ。
振り向いたリーの目に入ったものは、砂の大津波だった。

「うわぁ!!」

リーはその津波に押し流され、会場の壁に激突し、「ぐぅ!」と声をもらす。そして、続けざまにまた砂がリーへと襲い掛かる。
リーはそれを避けなかった。いや、避けることができないのだ。
“表蓮華”とは禁術だ。あれだけの高速体術は、足や体に多大な負担をかけるため、今は体中が痛み、動き回るなんてことはできないのだ。

リーはそれでも砂の攻撃から転がるように避けていく。
なんとか立ち上がったリーはもうふらふらだ。しかし、

「くっ」

リーは砂を走って避け、立ち止まることはなかった。
そして、もう避けられないだろうという砂の攻撃に、

「・・・リーさん、ダメ! これ以上は死んじゃうよ!!」

思わずサクラが叫ぶ。しかし、突然リーは体中の痛みを全く感じさせないほどの速さでその砂を避けきったのだ。それには口を開けて驚いている。

そんなみなの驚きの中心であるリーは、ゆっくりと、剛拳の構えをとった。
そのリーの顔はしっかりと前を見据え、微笑んでいた。

「・・・・・・お前はここで終わりだ。」

笑っているリーを睨みつけながら我愛羅が呟く。

「・・・・・・いずれにせよ・・・次で終わりです・・・。」

我愛羅の呟きに、やはり笑って返したリーは、スッと目を瞑り、両手を交差させた。すると、段々とリーの体は赤くなっていく。それは“八門遁甲”の第三の門、“生門”を開けた状態だ。
チャクラの流れる経絡系上には、頭部から順に体の各部に、開門・休門・生門・傷門・杜門・景門・驚門・死門と呼ばれるチャクラ穴の密集した8つの場所がある。それを“八門”と呼ぶ。この“八門”が体を流れるチャクラの量に制限を設けているが、“蓮華”はその制限の枠を無理やりチャクラではずす技なのだ。
先ほど、リーが砂を見事に避けたのは、すでに“休門”を開けて体力を上げていたからだ。
“表蓮華”は一の門である“開門”を開けるだけである。

今からリーが行おうとしている術、それは“裏蓮華”だ。

“裏蓮華”とは、“八門遁甲”の第三の門である“生門”を開けた状態で行う技のことだ。
この技はまさに諸刃の剣。“表蓮華”でさえあんなに体がボロボロになるというのに、“裏蓮華”を使えばどうなるか分かったものではない。
“八門”全てを開いた状態を“八門遁甲の陣”と呼び、少しの間、火影をすら上回る力を手にすることができる。が、しかし、その者に必ず訪れるものは、“死”だ。

「ハァアァァア!!!」

すでに第三の門まで開けたリーが、さらに第四の門、“傷門”までこじ開けた。そして、リーがダッと駆け出した次の瞬間、会場には床の破片が飛び散り、いつの間にか我愛羅が宙に浮いているではないか。

あまりの速さに、ほとんどの下忍たちにはもう目で追うことができていない。

空中にいる我愛羅は全くリーの動きについていくことができず、ものすごい回数の攻撃を受けている。しかし、我愛羅には体中にまとっている“砂の鎧”がある。リーの攻撃は食らっているように見えるが、まだ我愛羅の本体までは届いていなかった。が、それでも段々とはがれていく砂の鎧を見てリーは、

「これで最後です!!」

第五の門、“杜門”を開けた。それと同時にリーの腕からはブチッと何かが切れる音がした。しかし、リーはためらわずに我愛羅の腹に肘鉄を入れ、我愛羅はそのまま床に叩きつけられる。かと思いきや、我愛羅の体は床に叩きつけられる前にガクンッと唐突に止まった。その我愛羅の腹にはリーの左腕の包帯がいつの間にか付けられていた。

「はあああ!!」

かけ声とともにリーはその包帯を思い切り引っ張り上げ、再び我愛羅を自分のところへ引き戻す。そして、

――裏蓮華!!!

我愛羅の腹に渾身の鉄拳を打ちつけた。それによって我愛羅はものすごい速さで地面に落下し、ドゴォッ!! という轟音を立てた。リーの体はもう悲鳴を上げている。そのため、受身も取れずに地面へと落ちた。

しかし、気を失ったわけではないリーはゆっくりと立ち上がろうとする。が、

「 !! 」

いつの間にか左手足に砂がまとわりついていた。我愛羅が落ちたところを見れば、彼の背負っていたひょうたんが砂になっており、それで叩きつけられた衝撃を減らしていたのだ。
リーはなんとかその砂から逃れようと最後の力を振り絞って飛び退けようとする。が、

――砂漠柩!!

我愛羅がギュッと手を握り締めると同時に上がるリーの悲鳴。その悲鳴には、ゴキッという鈍い音が混じっている。
倒れたリーに、再び手のような形をした砂が襲い掛かる。が、


「なぜ・・・助ける・・・。」


その砂をかき消して、我愛羅の前に立ちふさがったのは、ガイだった。
我愛羅はそのガイの顔を見て、何かに苦しみ始め、頭を押さえながらそう問う。その問いに、ガイは視線を下に落としたが、すぐにしっかりと我愛羅の目を見据えて告げた。


「愛すべき俺の大切な部下だ。」


その言葉に我愛羅は視線を鋭くした。が、

「やめだ・・・。」

振り返って立ち去っていく。

「勝者、我愛羅!」

ハヤテの審判がくだったその時だった。

「え!」

誰が声を上げたのか、みなが目を丸くしてある一点を見つめている。

そこには、リーが立っていたのだ。

八門遁甲の五門まで開き、左手足を潰されているにも関わらず、スゥッと立ち上がり、剛拳の構えをとっているリーに誰もが声を出せないでいた。

「リー・・・もういい。終わったんだ。」

お前はもう立てる体じゃない、とガイがリーの肩に手を置いて告げる。リーは軽く肩に触れられただけなのに、グラッと体が揺れた。ガイはそんなリーの顔を覗きこみ、ハッとして、じわじわと溢れる涙を流しながら、ギュッと抱きしめた。










「彼は気を失ってもなお、立ち上がったのです・・・。」

ミコトはここまでの話を聞いて、顔を歪めそうになるのを必死で堪える。

――あぁ、・・・・・・彼らしい。

アカデミーで同じクラスになった頃、自分が授業に参加することは無かったが、こっそり覗いた時のリーはいつもみんなにバカにされていた。
忍術が使えない上、当時のリーは体術も人並み以下だった。
そんな彼がいつ頃か、何かに目覚めたように体術を磨き始めたのだ。自分はそれを見ていつも励まされていた。人になんと言われようと、負けないで、努力し続けるリーはとても格好良かった。
その彼は「体術だけでも立派な忍者になれることを証明する」ことが夢だった。その夢のためにひたすらがんばって。
リーは最後まで自分の忍道を証明しようとしたのだ。
それはなんてすごいことだろうか。

黙っているミコトに、医療班は話を続ける。

「その後私たちが駆けつけたのですが、かろうじて呼吸のあった彼は、全身の粉砕骨折と、筋肉断裂、それに攻撃された左手足のダメージが特に酷くて・・・。」

その言葉を聞いてハッとした顔をしてミコトが医療班を見つめる。が、医療班は何故か視線を火影様たちのいる方へと向けていた。そして、視線をそこに残したまま「それが」と呟いた。

「彼に駆けつけたのは私たちだけではなくて・・・。」

「え?」

ミコトはサッと医療班の視線の先を探す。そこには、

――・・・僕ですか・・・。

医療班の視線の先、それはオレンジの服を着た少年だった。

「・・・ナルト君が何か余計なことでも?」

ミコトは思わず顔を顰めた。
この中忍試験を受けるにあたって、いくつか自分の中で決まりごとを作った。
まずは今まで通りドベらしく振舞うこと。最近のサスケはかなり焦りの色が濃くなっている。これ以上サスケを刺激するのはなんとしても避けたいことだ。
そして、医療忍術を使うならば“掌仙術”だけ。この術は医療忍術の中でも基本的なものであるため、医療忍者を目指すものであれば初めに修得するだろう術だ。これくらいならば大丈夫だろうと考えたのだ。
ナルトは恐らくリーに“掌仙術”を使ったのだろう。
しかし、ここには医療班がいるため、ナルトの姿では手出しをしない決まりも作っていたのだ。が、

――もし僕がナルトだったら・・・

同じ事をしていただろう。

今の話からすれば、リーの容態はもう忍としてはやっていけるような体ではない。
・・・誰がそんなことを認められるだろうか。
ナルトが動いたのも、元はと言えば自分がここを離れたことにあるのだ。

ミコトはため息を吐いて、医療班の返事を待つ。
なんと言ってもあの“ナルト”だ。ここにいる下忍たち以外はみな“ナルト”の噂を知っている。医療班の口からどんな言葉が出ても、動揺を今の自分が出すわけにはいかない。身構えたミコトだったが、医療班の口から出た言葉は意外なものだった。

「余計なことだなんてとんでもない!!」

「・・・・・・は?」

ミコトの問いにブンブンと首を振る医療班に、思わず間の抜けた声を出してしまった。
その医療班の声が大きかったため、説明をしていた火影様や話を聞いていた者たちがこちらにバッと顔を向けている。その火影様の視線が痛いのは・・・気のせいではないようだ。
ミコトは冷や汗をかきながらもニコッと微笑むが、その視線は鋭いままだ。

医療班もその視線たちに気づき、再び小声で話し始める。すると、すぐに火影様たちの方も話が再開され、ミコトはほっと息を吐いた。

「彼・・・ナルト君は掌仙術だけで、リー君をほぼ完治の状態まで治療したんです! 左手足なんかはとても酷くて、私たちでは完治まではできないと思われたのですが、それもほぼ治してしまったんです! その術が見事で我々の出る幕がないくらいだったんですよ!」

小声ではあるが、興奮して話す医療班の様に、ミコトは目を丸くした。
その言葉には全く“ナルト”に対しての嫌悪が含まれておらず、純粋に誉めてくれているのが伝わってくる。
そこまで勢い良く話した医療班だったが、すぐに視線を落とした。

「しかし・・・、リー君はもう・・・。」

ミコトもスッと視線を落とす。
その先は言わなくても分かっている。

「・・・そうですね。五門まで開けてしまっては・・・後遺症が残ってしまったでしょう。」

“八門遁甲”の半分以上も開けて、何もないはずがないのだ。
ミコトは医療班を見据えて、やわらかく微笑んだ。

「リー君は僕が診ます。」

視線を下げていた医療班は、パッとミコトを見つめると、「お願いします」と言って頭を下げた。ちょうどその時、火影様の「1月後まで解散じゃ!」という声が聞こえ、ミコトは火影様のところに向かおうとする。と、その時、

「ナルト君の医療忍術は本当に見事でした。」

ミコトが振り向けば、ナルトのことをじっと見ている医療班。そのナルトはと言うと、上にいるサクラにカカシ先生はどこにいるかと尋ね、返答を聞くとお礼を言って会場から飛び出していった。
それを見ながら医療班はフッと笑う。


「彼にはぜひ、医療班に来てもらいたいですね。」


微笑んだ医療班に、思わずミコトははにかむような笑みを作る。
少しずつ、周りに認められていく自分。
今の言葉なんて、どんなに嬉しいことか。

「きっと喜びますよ。」

彼の夢は医療忍者ですから、と言えば、それは良かった! と返してくれた医療班に、背を向けてミコトは火影様の下へ向かう。が、

「・・・どうかされたんですか?」

唐突に歩を止めたミコトに、医療班が声をかける。すると、振り返ったミコトは何故かぎこちない笑みを浮かべており、「なんでもありません」と言って、今度は止まることなく火影様の下へと歩いていった。

医療班はそんなミコトにただ首を傾げた。










木の葉の里内にある、立派な柱が何本も立った厳かな建物に、2つの人影があった。
1人はその建物の柱に寄りかかった、音符のマークの額あてをつけた黒髪の長い男。もう1人はその男のそばで膝をついて頭を軽く下げていた。
膝をついている丸眼鏡をかけた青年の額には木の葉のマークの額あてが光っている。

「予選は無事終わり・・・本選に入るようです。」

丸眼鏡の青年がそう告げるとしばらく沈黙が流れた。
建物の欄干には3羽の小鳥がさえずっている。それをぼんやりと眺めていた黒髪の男がやっと口を開いた。

「・・・それにしてものどか・・・。」

今のこの光景を見たら誰でもそう思うだろう。

「いや・・・本当に平和ボケした国になったわ・・・・・・どの国も軍拡競争で忙しいっていうのにねぇ。」

そう言ってフッと笑った黒髪の男に、

「今なら取れますか・・・。」

スッと立ち上がった丸眼鏡の青年が尋ねる。

「まあね・・・。」

答えた黒髪の男の視線はそのまま里の景色の方へと注がれている。

「・・・大蛇丸様・・・何か良いことでもあったのですか?」

丸眼鏡の青年は先ほどから気になっていたことを訊いてみた。
目の前にいる黒髪の長い男、大蛇丸はどこかいつもより楽しげなのだ。

「フフ・・・ジジイの首を取ったらあの子、どんな顔をするかしら・・・。」

「あの子・・・?」

丸眼鏡の青年が訊き返しても、大蛇丸は勿体つけるように薄気味悪く笑っている。
教えるつもりはなさそうだ。

――大蛇丸様に目を付けられている子・・・?

サスケ以外にいるのだろうか、と丸眼鏡の青年が首を傾げる。
今の大蛇丸の言い方だと、サスケのように欲しがっているようではないが・・・。
しかし、今の一言で気になることがある。

「僕にはまだ・・・アナタが躊躇しているように思われますが・・・。」

そう言うと、初めて視線を寄こした大蛇丸。
大蛇丸の言う“ジジイ”とは木の葉の里の長、三代目火影のことだ。大蛇丸の師であった人物を殺すのに、里抜けしてからこんなにも時間が経っている。もちろん、ここまでくるのにかなりの時間が必要だったことも確かだが、本当に殺したいと思っているならば、こんなにゆったりとはしていないはずだ。

――まぁ、僕としては上手くいけば良いのですがね。

青年はかけている眼鏡をクッと上げる。

「これから各隠れ里の力は長く、激しくぶつかり合う・・・音隠れもその1つ・・・アナタはその引き金になるおつもりだ・・・。」

大蛇丸は無言のまま真剣な表情で青年をじっと見つめている。

「そして彼は、その為の・・・弾なんでしょう?」

うちはサスケ君でしたっけ・・・と言いながら視線を大蛇丸に向ければ、大蛇丸はフフッと笑い出した。

「お前は察しが良すぎて気味悪いわ・・・。」

笑ってそう言う大蛇丸に、青年も軽く口角を上げる。

「そうでもありませんよ。ドス・ザク・キンのことは知りませんでしたからね・・・。サスケ君の情報収集にあたって、彼ら音忍3人の能力を知っておきたくて、攻撃をわざとくらうような要領の悪いこともしましたし・・・・・・。」

買い被りですよ、と大蛇丸に告げる。そして、青年は表情を少し険しくした。

「・・・私はまだ・・・完全には信用されていない・・・みたいですね・・・。」

自分は音忍3人がこの中忍試験に出るという話を全く聞かされていなかったのだ。
大蛇丸はその言葉に、目を細めて微笑む。

「彼らごときの話を私の右腕であるお前に言う必要はあったかしら・・・。」

それこそ信頼の証よ・・・と言った大蛇丸に、青年は口を閉ざしたまま視線だけを向ける。

「だからこそ・・・・・・サスケ君をお願いしようかしら。」

サスケに与えた呪印は、カカシに封印されてしまったのだ。だからといって、それはあまり関係ないのだが、サスケの“心の闇”が消えてしまってはこちらとしては大変困るのだ。

「今すぐ攫って欲しいのよ。」

大蛇丸のその台詞に、青年は面白そうに笑う。

「ガラにもなく・・・焦ってらっしゃいますね。」

そう告げれば、「少し気になることがあってね・・・」と言葉を返した大蛇丸に、ニヤッと笑う。

「うずまきナルト・・・ですか。」

サスケを変えているのはこの少年だという確信はあるが、青年はどうもその少年のことがいまだによく分からないでいた。
その少年、ナルトは大蛇丸に一撃を与えたというではないか。
今そのことを考えていてもどうにもならないか、と青年が目の前の大蛇丸に意識を戻せば、大蛇丸はまた楽しそうに笑っていた。

「サスケ君は兄を殺す為に生きてきた復讐の塊。その目的を遂げるまでは絶対死ねぬ子・・・。」

それなのに、サスケは敵うわけがないと分かっていながら死を恐れずに自分に向かってきたのだ。

「本当にあの子は厄介だわ・・・。」

目を細めながらどこか遠くを見てそう呟いた大蛇丸に、青年はハッとした。
どうやら、初めに大蛇丸が言っていた“あの子”とは“うずまきナルト”のことのようだ。
大蛇丸は続けて口を開く。

「早く引き離すに越したことはないわ・・・。」

早く私色に染めないとねぇ・・・

そう告げた大蛇丸に思わずゾッとした青年。舌なめずりをして、サスケのことを考えている大蛇丸の姿はとても恐ろしい。そんな大蛇丸を見て、青年はキッと視線を鋭くする。

「では・・・。」

青年はそう言ってその場を立ち去る。が、しかし、

「カブト・・・お前・・・。」

大蛇丸に呼び止められ、ギクリとした青年。そっと振り返ると、己を鋭く睨みつけている目とぶつかった。

「私を止めたいなら・・・今サスケ君を殺すしかないわよ・・・。」

「 !! 」

その言葉に青年、カブトは目を丸くする。そのカブトの反応に、ニヤリと笑みを浮かべながら大蛇丸は続ける。

「お前じゃ私を殺せないでしょ・・・強いと言っても・・・カカシと同じ程度じゃねぇ・・・。」

カブトはゴクッと喉を鳴らす。すると、フフッと笑った大蛇丸。

「冗談よ・・・。」

さぁ、行っていいわよ! お前を信用しているから、とにこやかに告げた大蛇丸を一見して、カブトは今度こそ立ち去ろうとする。が、

「カブト・・・。」

また呼び止められた。
今度は何かと振り向けば、いつになく真剣な面持ちをした大蛇丸がいた。

「ミコト君が来たら・・・逃げなさい。」

あなたじゃ敵わないわ、と真剣な表情から笑みに変わった大蛇丸がそう告げる。

「ミコト・・・。」

その名前を聞いてカブトは首を傾げた。
この名前を大蛇丸から聞いたのはこれで2度目だ。

「大蛇丸様は、そのミコトとかいう忍を何かご存知なのですか?」

第二の試験終了後に訊かれた時は何も思わなかったが、これほど大蛇丸が気にするような忍なのだろうか。しかも

――僕が敵わないとなると・・・

カカシ以上ということになる。
カブトが眼光を鋭くすると、大蛇丸はフフッと笑い、

「秘密よ。」

と、至極楽しそうに告げた。
カブトは首を捻りながらも、その場を去った。










白が基調となった部屋に、ドサッという音が響いた。
部屋の入り口には動物のお面をつけた3体の人間だったものが転がっている。そして、その場で唯一動いているのは、その部屋の中心のベッドに近づいていく丸眼鏡をかけた青年だけだった。
その青年はフー・・・と息を吐く。

「優秀過ぎるってのも、考えものだね・・・。」

ベッドの前で立ち止まり、そこに寝ている黒髪の少年を眺めながらそう呟く。

「僕らは目立ち過ぎた。」

大蛇丸様の目に留まったのはお互い不幸だったかな・・・と哀れみの眼差しを向ける。
こんなに幼くても心に悪魔が巣くっているとは。

――そこを利用され・・・いずれはあの忍術でこの子も・・・

そこまで考えた青年は、突如視線を鋭くし、スッと所持していたメスを取り出した。そのメスをじっと見つめていた青年は、唐突にシュッと背後に投げつけた。
その背後でパシッという乾いた音が鳴った。青年はその音を聞いて口を開く。

「さすがカカシさんだ・・・僕の死角からの攻撃を止めるなんて・・・。」

青年はメスを振り返ることもなく、最小限の動きだけで背後にいる人物に投げつけたのだ。そのメスを片手で止めた銀髪の青年、カカシはじっとその青年の背後を睨み付ける。

「お前・・・ただの下忍じゃないでしょ・・・。」

カカシの視線は鋭いまま、その青年に向かって話す。

「俺の気配に気づき、すぐに武器を構えるなんてのは・・・大した奴だ。」

青年はその言葉を聞いてフッと笑う。

「あなたで良かったです。」

「・・・・・・何の話だ。」

突発的な青年の言葉に、カカシは思わずそう尋ねる。しかし、青年は「いえ、こちらの話です」とカカシの問いを流した。

「サスケに何の用だ。事と次第によっちゃあ・・・捕まえて尋問する。」

話を戻したカカシに、青年はニヤリと笑いながら振り返った。


「出来ますかねぇ・・・アナタごときに・・・。」

「そのごときと・・・試してみるか・・・?」


2人の間に沈黙が走る。
それを破ったのはカカシだった。

「お前は何者だ?」

カカシが用意しておいた暗部たちがこうもあっさりと目の前の青年に皆殺しにされてしまったのだ。

「お前・・・確か木の葉の忍医の息子だったな・・・うだつの上がらないダメ忍者で・・・名前はカブトだっけか?」

そう尋ねられた青年は口を閉ざしている。それは今の言葉を肯定しているも同じだ。

「・・・・・・今度からは最低10人は・・・用意しておいた方がいいですよ。」

青年はカカシを挑発するような笑みでそう告げる。それを聞いてカカシは口を開いた。

「黙って質問に答えろ。」

「“イヤだ”と言ったら?」

カカシはさらに眼光鋭く睨み付ける。

「質問してんのはこっちだ・・・大人しく答えろ。」

そう言うと、青年はまた口を閉ざした。

「お前は・・・大蛇丸と繋がってるのか?」

サスケを狙っているのは大蛇丸だ。今この青年、カブトは暗部を殺してまでサスケに何かをしにやってきたのだ。大蛇丸と繋がっていないはずがない。
カカシの問いにニッと笑ったカブト。

「・・・・・・今ここで僕を捕まえたら、大蛇丸との繋がりを証明できないかもよ。・・・どんな拷問や幻術をかけられたって僕は口を割らないしね・・・。それに僕はケンカはあまり好きじゃないし・・・。泳がせとけばいずれ分かることなんだから・・・」

今回は見逃してくれないかな・・・とこの場に及んでふざけたことを言うカブトに、カカシはスッと目を閉じる。

「お前・・・わがままなガキだね、どーも・・・。」

・・・大人をあんまりなめるなよ、コラ

カカシはカブトにスゥッとクナイを突きつける。すると、

「やっぱり素直にゃ帰してくれないか。」

カブトもスッと先の少し曲がったクナイを取り出した。

「この里の掟は知ってるよな・・・・・・スパイ行為はどうなるか。」

カカシがカブトにそう告げる。しかし、

「あまり偉そうにしないで下さいよ。状況はこっちが有利なんですから・・・・・・。」

そう言ったカブトは、持っていたクナイを寝ているサスケの首もとに近づけた。それにカカシはスッと目を細める。そして、カブトの手がピクッとほんの少し動いた瞬間、カカシはダッと駆け出し、カブトのクナイを弾いて腰を蹴りつけた。その蹴りによってカブトがドサッと倒れた。と、その時、ザッと立ち上がった1人の動物のお面をつけた暗部。

その暗部は部屋の出口へと向かって走っていく。それに反応するのが少し遅かったカカシだった。が、

「影分身!!」

暗部が驚きの声を上げた。
暗部の向かった出口には、もう1人のカカシが腕を組んで立っていたのだ。
2人のカカシに挟まれた状態になった暗部はくっと声をもらし、首をキョロキョロとしている。段々と寄ってくるカカシにオロオロとし始める暗部。と、その時だ。

ガッ ガッ ガッ

突如倒れていた暗部の1人が起き上がり、窓にクナイを投げつけたのだ。そして、その暗部はクナイの刺さった窓を突き破って飛び降りた。

突然のことに、カカシは急いでその窓から下を眺める。すると、そこにはお面をスッと外してニヤッと笑ったカブトがいた。カブトはそのまま下に生えている木の上へと落ち、姿を消した。


「大した奴だ・・・。」

しんと静まり返った病室にカカシが憎々しげにそう呟くと、先ほどまで立って動いていたもう1人の暗部がドサッと倒れた。それと同時にボンッと煙を上げて消えたカカシの影分身。
カカシがそっと倒れているカブトに近づく。もちろんそれはカブトではないが。
カブトだと思っていた者の顔の横を見れば、顎から耳裏にかけてしっかりと縫いつけた後が残っていた。

――やはり・・・これは死体の心臓を一時的に動かして操る死魂の術・・・

しかも、死体の顔を整形で自分の顔に変えていた。
ご丁寧に鼻でバレてしまわないように体臭まで消し、カブトは心音を止めて殺した暗部の1人になりすまし、逃げ支度を整えていたのだ。

「医療班長の養子として育てられただけはある・・・。」

死体をここまで弄びやがって、と呟くカカシ。
死体処理班も顔負けなことをカブトはやってのけたのだ。そのカブトが大蛇丸の下にいるとなると・・・

「俺もこのままじゃあな・・・。」

そう言ったカカシは倒れている暗部を見つめ、顔を歪めた。

――この場にミコトがいなくて良かった・・・な

倒れている暗部たちは、「ミコトからの依頼だ」と言うと、喜んで引き受けてくれた者たちだった。ミコトが今の出来事を見ていたら、どんなに自分を責めるだろうか。
黒髪の少女を助けた時のミコトを思い出すと、ますますカブトのしたことには許せない。

カカシは割れている窓をじっと睨みつけた。










医療班と別れたミコトは、本選の話を済ませた火影様の下へと向かうと、そこにはまだアンコもいた。が、とりあえず火影様に先ほど会場から抜けてしまったことを謝らなければ、と思い、口を開こうとした瞬間、

「へ?」

ガシッとアンコが腕を掴んで、自分を火影様から少し遠ざけたのだ。
そして、火影様に背を向けた状態で、アンコがじろりとこちらを睨み付けた。そのアンコの目に、思わずミコトは「ひっ」と声を上げる。

「ミコト・・・一体どこに行ってたのよ・・・。」

アンコの声は小さいが、かなりの迫力を持っていた。
ミコトは自分の顔が引きつっているのを感じた。自分がいなくなったことはアンコをここまで怒らせるようなことだったらしい。

「すみません・・・少し気分転換を・・・。」

ミコトはなんとか笑顔を作ってアンコにそう返す。

――アンコさんには・・・言えないです。

大蛇丸に会っていただなんて・・・

第二の試験で大蛇丸とアンコはいろいろとあったばかりだ。
大蛇丸はこれから木の葉の里に何かを起こすようだから、自分が今言わなくたても必ず関わることになるのだが、やはりできれば少しでもその傷を塞いでおいてもらいたい。

――火影様にはきちんと報告しなければ・・・

最後に言った大蛇丸の言葉、あれは里全体に危害を加えると言っているものだった。とりあえずそのことを火影様だけには伝えておく必要がある。

笑顔の下でそんなことを考えているミコトの返答に、アンコは一瞬きょとんとして、次には満面の笑みになった。

「そうよね! 気分転換よね!」

良かった! と機嫌を直したアンコに、何が良かったのか分からないが、とりあえずミコトはホッと胸をなでおろす。が、

「あれ?」

胸をなでおろしている間に忽然と消えたアンコ。ミコトがハッとして振り向けば、

「火影様! ミコトは気分転換で風に当たりに行ったようですよ!」

ほら心配しなくても大丈夫だったじゃないですか、とアンコが火影様に嬉々としながら伝えていた。それに「うむ・・・」とどこか納得いかないような返事をしている火影様にミコトは苦笑いをする。

「勝手に抜け出してしまいすみません・・・。」

少し気分が悪くなったもので・・・と今はアンコに合わせてミコトはそう告げる。すると、火影様がとても心配そうな顔になってしまったため、慌てて「もう大丈夫ですよ」と付け加える。
実際気分が悪かったのは本当だったりする。

――大蛇丸の視線・・・

だいぶ慣れたと思ったが、今思い出すとまた鳥肌が立ちそうだ。
ミコトは軽く頭を振って、それを頭から追い出そうとする。そんなミコトの様子に火影様とアンコが首を傾げたが、火影様がミコトに口を開いた。

「先ほどの・・・千鳥のようなあの術、見事じゃった。」

ミコトがパッと顔を向ければ、やわらかく微笑んでいる火影様の顔が目に入った。

「おぬし、あの術には名はつけておるのか?」

「え?」

火影様の問いに、ミコトは目を丸くする。正直何も考えていなかったのだ。
ミコトの様子を見かねてアンコは、「あれだけすごい術なら名前が必要よ!」と真剣な顔をして言う。う~んとミコトは少し悩むと、ポツリと呟いた。

「除細動・・・の術?」

“除細動”とは、心臓の心拍異常の原因となる心室細動や心房細動を抑えて、正常な調律に戻す治療法のことだ。

「そのまんまじゃない。」

「う・・・・・・。」

アンコの突っ込みに、少し落ち込むミコト。そんなミコトを気にせず、アンコは「そうねぇ」と考え始めた。と、その時、

「ならわしがつけてもいいかのぉ?」

2人は声を出した人物、火影様に顔を向ける。その火影様はというと、ニコニコと笑っていた。その顔は、ミコトに尋ねる前からもう術名を考えていた、という顔だ。
苦笑をしてアンコが「どうぞ」と返すと、火影様はゴホン、と1つ咳をして告げる。

「“掌雷纏の術”なんてのはどうじゃ?」

「ショウライテン・・・ですか?」

アンコが首を傾げた。火影様は、うむ、と頷いて話を続ける。

「“掌”に“雷”を“纏う”と書いて“掌雷纏の術”じゃ。」

「掌雷纏・・・響きも良いですし、いいんじゃないですか。」

ね、ミコト! と子供のようにはしゃぐアンコに、ミコトは「いいと思います」と苦笑する。その返事に満足げな火影様だったが、その顔はすぐに険しくなった。


「その“掌雷纏の術”なんじゃが・・・ここぞという時だけにしか使ってはならぬ。」


急に重くなった空気に、2人は思わずゴクッと喉を鳴らす。
たった一言であるにも関わらず、ここまで相手を緊張させることのできる火影様は、さすがである。

「あれはチャクラの消費が多すぎる・・・絶対に一日に何度も使ってはならん。」

一日にそんなに心室細動を起こす者がいても困るがのぉ、と笑った火影様にようやく2人は緊張から解放され、ミコトは「はい」と言葉を返した。すると、火影様がふと思い出したようにこれからについて話し始めた。

「おぬしも知っておるだろうが、本選は1ヵ月後じゃ。」

ミコトはその言葉に頷くと、火影様はニコッと笑った。

「おぬしもすることがあろう・・・火影邸には来られる時に来れば良い。とは言っても・・・おぬしの場合、毎日来そうじゃのぉ。」

とりあえず今日はゆっくり休むが良い、と言う火影様にきょとんとしたミコトだが、すぐにニコリと笑う。

「ありがとうございます。」

火影様のその言葉は、こちらとしても都合が良かった。が、ミコトはスッと目を細めた。

「火影様、少しお話があります。」

ミコトの雰囲気が真剣なものに変わると、アンコがそれを察して「失礼します」と去っていく。火影様も、ミコトに変化に顔つきを変えた。

「話とは?」

「・・・・・・先ほど会場を出た時、大蛇丸と会いまして・・・。」

「・・・そうか。」

ミコトの言葉に驚くことなく、言葉を返す火影様。やはり、気づいていたのだろう。

「アンコがいては言いにくかったのじゃろう?」

苦笑をした火影様に「ええ」と言って頷く。するとすぐにまた真剣な顔に変わった火影様が口を開いた。

「して、あやつはなんと?」

「はっきりとはわかりませんが・・・木の葉の里全体に何かを起こすと思われます。」

曖昧で申し訳ありません、と顔を顰めたミコトに、火影様はフッと息を吐く。

「あやつは木の葉に恨みをもっておるからの・・・。」

そう呟く火影様に、ミコトは眉を顰める。火影様の表情には出ていないが、どことなくその呟きには悲しみが含まれていて。今、火影様は何を思ったのだろうか。
大蛇丸の里抜けを止められなかったことを悔いているのだろうか。それともこうなってしまったことに自分を責めているのだろうか。・・・たぶん両方だろう。

「大蛇丸が何か起こすのは恐らく中忍試験本選・・・。」

ミコトのその言葉に「そうじゃろう」と火影様も頷く。
大蛇丸はわざわざアンコの前に姿を現して、中忍試験を止めるなと言ってきたのだ。
何か起こすとするならば、その時しかないだろう。

「まぁ何! まだあまりに情報が少なすぎるからのぉ。こちらがうかつに動いて、そこをつかれてはお仕舞じゃ。」

今は様子を見よう、と告げた火影様に静かに頷くミコト。それを見て、やっと火影様の顔も明るいものへと変わった。

「とりあえず、おぬしは今日は休め。チャクラを使いすぎだからのぉ。」

「・・・はい。」

ニコニコと笑ってそう言う火影様に軽くため息を吐くミコト。
以前休むように言われても、それに反して働き続け、倒れてしまったことがある。その時の火影様の怒り様はかなり恐ろしかった・・・。それからというもの、火影様はこのように気がついたら自分に「休め」と言うようになったのだ。

――こんなに気にしてくださってありがたいですけどね。

ミコトはまだ自分に優しく微笑んでいる火影様の顔を見て苦笑をもらす。
話が済んだミコトはさっそくこれからの予定を立て始める。
この1ヶ月は影分身を作らなくて済みそうだ。
昼間は修行をして夜に火影邸、その合間に病院に行けばいいだろう。

影分身のナルトはというと、火影様の話が終わった後すぐ、サクラにカカシの居場所を尋ね、カカシがサスケのところにいる、と聞いて会場から飛び出していったが、会場を出ると人に見つからないように消えていたのだった。

消えた影分身の記憶が戻ってきた時、それはミコトが医療班と別れた時だ。
あの時ミコトが立ち止まったのは、影分身の記憶の中にあるリーの姿を見たからだった。
潰されてしまった左手足はナルトの掌仙術でもまだ治りきれていない。それほどひどい状態だったのだ。それに、

――恐らく神経系に支障があります・・・

記憶の中でのリーしか見ていないため、はっきりと断言できないが、全身の粉砕骨折により、その骨の破片が神経に支障をきたしているだろうと予測をつけたミコトは、顔を歪めた。もしも予測通りであるならば、手術は極めて困難だ。その場合、リーにはとても辛いことを言わなければならないのだ。
自分が顔を歪めたちょうどその時、どうかしたのか、と声をかけてきた医療班。それになんとか笑みを作ってごまかしたが、ごまかしきれた自信はない。

これからまずリーを診に行かなければならない。カカシに会うのはその後だ。
ミコトは「では失礼します」と火影様に告げて背を向ける。と、

「本選、実に楽しみじゃのぉ。」

おぬしも医療班と話している時、聞こえておったじゃろ? と笑う火影様に、ミコトは立ち止まり、目を瞑った。

「・・・ええ、そうですね。」

聞こえていたわけではないが、影分身の記憶で分かっている。
第一回戦、それは日向ネジ対うずまきナルトだ。
いきなり当たることになるとは思いもしなかった。が、

――ネジは変えてみせます。

このチャンスを逃すわけにはいかない。
自分を“運命”というものに縛り付けてしまったネジ。なんてもったいないことだろうか。
決まっている“運命”ほどつまらないものはない。
そんなものは気持ちしだいで変えることができるはずだ。
見方を変えれば、ネジの言う“運命”は辛いものでもなんでもなくなるはずだから。
だから、ネジにはそれに気付いて欲しいんだ。

ミコトはスッと目を開けると、会場を後にした。










木の葉病院のある一室、そこは重い緊張感に包まれていた。
そこにいるのは、丸いすに腰をかけた上半身の服を脱いだおかっぱ頭の少年と、その少年の背中をしゃがんで診ている長い金髪を括っている青年。
そしてもう1人、その2人のそばにそわそわとしながら立っている、少年と同じような髪型の濃ゆい男だ。

「どうだ? ミコト。」

濃ゆい男が金色の青年、ミコトにいてもたってもいられず声をかけた。ミコトは先ほどからずっと、眉を顰めた状態で少年の背中を見つめているのだ。
その問いかけで視線を少年の背中から下へと移したミコトに、男は嫌な予感を覚えた。

「・・・はっきり申し上げます・・・・・・忍は・・・諦めたほうがいいです・・・。」

静かな部屋に息を呑む音が響いた。その音が溶けて消えると、次にはハハハ・・・と乾いた笑い声。

「ミコト、そんなボケはいらないぞ。」

それにしても面白くない冗談だ、と笑う男にミコトは顔を顰めた。
大人しく黙っている少年の肩は震えている。

「・・・重要な神経系の周辺に、多数の骨破片が深く潜り込んでいます。とても忍としての任務をこなしていけるような状態ではないです・・・。」

そのミコトの言葉に、再び静寂がその場を支配し始める。が、その静寂を破ったのもミコトだった。

「・・・可能性が無いわけではないんです。」

バッと顔を向けた男に、ミコトは「でも」と続きを話し始める。

「この手術はとても難しく、時間がかかりすぎてしまうために・・・大きなリスクを伴います。」

「・・・リスク・・・?」

また視線を落としたミコトに、男は焦りを見せた。その続きはここで言わせてはならないような気がするのだ。しかし、

「手術が成功する確率は良くて二分の一・・・」

ミコトは重い口を開いて言葉を紡ぎだしていく。


「失敗すれば・・・死んでしまいます。」


思わず息を呑んだ男は、少し気を落ち着かせてからミコトに問いかける。

「・・・綱手様ならどうだ?」

ここにはいない医療スペシャリストの綱手なら、この少年、リーを治すことはできるだろうか。男の問いに、ミコトは苦笑いを浮かべる。

「綱手様でしたらもう少し成功する確立が上がるかもしれません・・・でも・・・。」

そこで言葉を切ったミコトの顔を見れば、続きは聞かなくたって分かる。

「お前に診せるんじゃ・・・」

なかった、という言葉は男の口から出ることはなかった。なぜなら、先ほどまでずっと黙っていた少年が初めて声を発したからだ。

「ミコトさん・・・僕はその手術を受けます。」

「リー・・・!?」

いつの間にかリーの体の震えは止まっていた。男はそのリーの言葉に驚愕で目を見張る。
確かに忍を彼に諦めてなんてほしくはない。が、リーはミコトの説明を聞いていなかったのだろうか?

「リー・・・これはお前の人生を左右することだぞ!? そんな簡単に・・・」

またも男の言葉は途切れる。
振り返ったリーが笑っているのだ。

「自分を信じない奴なんかに、努力する価値はない。」

男はハッとした顔をした。
その台詞は、昔リーに自分が言った言葉なのだ。

「先生・・・僕にそうおっしゃいましたよね。」

そう言ってニコリと笑うリー。しかし、これは努力でどうにかなる問題ではない。
リーはそれを分かっているはずだ。男はリーの言いたいことが分からず、眉を寄せた。
それを見て、リーはまた口を開く。

「自分を信じたいんです。そして、また努力を積んでいきたい。」

それに・・・と言ってリーは窓に視線を移した。

「・・・それに、ナルト君が言ったんです。」


あきらめるなって。


その言葉に今度はミコトがハッとした顔をする。
影分身がリーの治療中、確かに「あきらめんな!」と叫んだのだ。しかし、あの時のリーは気を失っていたはずではないだろうか。

「今こうやって座っていることさえ、ナルト君がいなかったらできなかったですよね。」

リーは自分の手を眺めて微笑む。
まだ完全とは言えないが、左手も動かないことはないし、何より歩くことができるのだ。
あんなに酷い怪我をしたのに、今こうやって動いていられるのはナルトのおかげ。

「ナルト君に助けられたのはこれで2回目です。」

1回目は第二の試験の時、そして今。

「それなのに・・・僕はまだナルト君にお礼が言えていません。」

そう言ってリーはミコトに顔を向ける。

「だから僕は、これを乗り越えてからナルト君にお礼を言いたいんです。」

その顔は自分を信じているという顔で。リーは手術が成功すると確信を持っているのだ。
ミコトはフー・・・と息を吐くと、真剣な眼差しをリーに向ける。

「手術が成功しても、長いリハビリを続けなければなりませんよ。」

それでも受けますか、と訊いたミコトにリーは力強く頷いた。

「努力は僕のモットーです!」

そう言うと、リーは先ほどからずっと黙っている濃ゆい男、ガイに顔を向け、ニコリと笑った。呆然とリーとミコトの会話を聞いていたガイは、その視線に気づき、リーを見つめる。ガイはずっと眉に皺を寄せている。と、次の瞬間、笑っているリーから出た言葉に、ガイの表情が歪んだ。


「先生! その時はよろしくお願いします!!」


ニッと笑った顔とともに見せた、親指を立てたポーズ。
それは2人の中で特別な意味を持つ“ナイスガイポーズ”だ。
それは、ナイスガイなポーズをしてまで男が格好つけた以上は死んでも約束を守る、という意味を持っているのだ。
それを見て歪んだガイの顔、それは驚愕と嬉しさによるもので。

「リー・・・お前って奴は・・・。」

リーはすでに自分で覚悟を決めていたのだ。
自分が言った言葉をいつも真剣に受け止め、ひたすら努力し続けてきた。そんなリーに手術が失敗することなど

――あるわけないに決まってるだろう?

リーに会った時から自分の“忍道”は「リーを立派な忍者に育てること」だった。
「たとえ忍術や幻術が使えなくても、立派な忍者になれることを証明する」というリーの忍道を支えるのが自分の役目ではないか。

「リー!」

突然大きな声を上げたガイに、呼ばれたリーはビクリと肩を揺らした。その顔はどこか不安げだ。しかし、

「せんせい・・・。」

リーはガイを見て目を丸くした。
ガイはリーに向かってニカッと笑い、その手には“ナイスガイポーズ”を作っていて。

「お前の手術は必ず成功する!! もし一兆分の一、失敗するようなことがあったら・・・俺が一緒に死んでやる!」

さっきのリーが見せた“ナイスガイポーズ”の手はわずかに震えていた。
怖くないわけないじゃないか。
それでもリーは笑ってそのポーズを出したのだ。
自分はそれを押してやらなければ。


「約束だ!」


自分はリーを笑って見ていればいいのだ。
その言葉で、リーの目からはボロボロと涙がこぼれた。その涙をごしごしと腕で拭いながら、「はい!」と返事をするリーに、ガイとミコトは目を細めて微笑む。

リーが泣き止むまで、そこはあたたかい空気に包まれていた。





「手術はそうですね・・・本選の2日前でどうでしょうか?」

しばらくしてから、ミコトが口を開く。泣き止んだリーは、それを聞いて眉に皺を寄せた。恐らく、本選を見に行くことはできるのだろうか、と思っているのだろう。
ミコトはリーにニコリと微笑む。

「手術後1日しっかり休めば、もうそれからすぐにリハビリを始められますよ。」

本選を見に行くのはちょうど良いリハビリになるのではないでしょうか、と言えば、リーの顔はみるみる輝くような笑顔に変わる。そのリーの様子にミコトは苦笑し、「でも」と付け加える。

「長時間、試合の観戦をするには体に負担がかかります。ですから見たい試合に絞って行く事をお勧めしますよ。」

「ならもっと早くに手術はできないのか?」

そうすればその頃には試合観戦くらいできるんじゃないか? とミコトの言葉にガイが思ったことを口にした。
確かに今日明日にでも手術を行えるなら、本選までには全ての試合を観戦するくらいの体力は戻っているかもしれない。しかし、

「リー君の左手足はまだ完全には治っていません。」

その言葉にガイとリーはハッとした。

「急激な回復は体に負担をかけてしまいます。今回の場合は致し方ありませんが、できればゆっくりと治すべきです。」

だからまずはその手足を本選2日前までに治してしまいましょう、と微笑んだミコトにリーも笑って頷く。が、

「絶対に手術まで無理をしてはいけませんよ。」

ミコトはじっと真剣な眼差しで告げると、リーはギクリとした。
やはりリーは何かしようと考えていたようだ。小さく頷いたリーは少ししょんぼりとしているが、こればかりは守ってもらわないとこちらとしても困る。
そんなリー様子を見て苦笑したミコトは「では」と言ってこの部屋から出て行く。と、その時、

「すみません、ガイ上忍。」

少し良いですか? とミコトがその部屋から出てすぐのところでガイを呼ぶ。そのガイは何か用か? というような顔でミコトに近づいていく。
そして誰もいない廊下に出ると、ミコトがガイに口を開いた。

「リー君にああは言いましたが、きっと彼、無理するはずです。」

なんせあなたの部下ですからね、と笑うミコトにガイは苦笑いを浮かべる。
リーのことだ。間違いなく無理して修行をするだろう。

「だから、時々リー君を見に来てあげてください。」

「それはもちろんだ。」

ガイの気持ちの良い返事を聞いたミコトは、スッとリーのいる病室の壁を見つめた。

「リー君はもう立派な忍者ですね。」

ガイが顔をミコトに向ければ、そのミコトは柔和に微笑んでいた。ガイの視線に気づいたミコトが、顔を向けてニコリと笑う。


「彼なら手術を乗り越えて、きっとあなたのように素晴らしい忍者になるんでしょうね。」


そう告げるとミコトは「ではお願いします」とこの場を去っていく。
ガイは今のミコトの言葉に動けないでいた。
今の言葉で、この成功の確率の低い難しい手術も大丈夫な気がした。いや、絶対に大丈夫だ。彼なら成功させてくれるはずだ。
何て言ったって、ミコトは今木の葉の里にいる最高の医療忍者だ。


「ミコト!」

ガイの呼びかけにミコトが振り向けば、ガイは背中を向けていた。

「リーを・・・頼む!」

そう言ったガイに、ミコトは目を細めて微笑み、「はい」と言ってまた歩を再開させる。
ガイの背中が震えていたのに気づかないふりをした。










ガイと別れたミコトは一旦病院の外に出た。そして誰もいないことを確認すると、ミコトは変化をとき、ナルトの姿へともどる。
今からカカシに会いに行くのだ。
カカシはまだこの病院内にいた。しかし、

――暗部の方たちの気配がないんですよね・・・。

この病院に来てから気づいていたが、サスケのそばにはカカシの気配しかないのだ。
ナルトはそのことに首を傾げるものの、

――暗部の方々も暇ではいらっしゃらないですからね。

暗部とは特殊な任務をこなす影の部隊だ。彼らが任務に行っては怪我をして戻ってくるのを自分が良く知っている。それも何回も。彼らはとても忙しいのだ。
カカシがきっと彼らを帰したのだろう、と納得したナルトはまた病院へと入り、サスケの病室に入れないことは知っているが、とりあえず受付に「サスケの病室はどこだってばよ」と尋ねる。すると、

「ナルト、サスケは今面会謝絶だ。」

「あ! カカシ先生!!」

ナルトはカカシの声で振り返り、駆け寄っていく。カカシも自分の言いたいことが分かっているような顔をしていた。

「あのさ! あのさ! 俺には誰が修行見てくれんの?」

「へ?」

いや、カカシはどうやら今の自分の言葉が予想外のものだったらしい。その証拠にカカシの右目が大きく見開かれている。そんなカカシにナルトはニコリと笑う。

「だってさ、カカシ先生はサスケ見るんだろ?」

「あ、ああ・・・。」

カカシは先ほどからずっと鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

――そんなに意外でしたかね・・・。

思わずナルトは苦笑する。
写輪眼の使い方を教えられるのはカカシだけだ。カカシがサスケを見なかったら誰が見るというのだろうか。
ナルトの苦笑でやっと我に返ったカカシが口を開いた。

「・・・ま! お前には俺よりしっかりした先生を見つけてきたからな!」

それを聞いて、ナルトは目を輝かせる。
久しぶりにまともな修行ができると思うと楽しみで仕方がないナルトは、「誰!? 誰!?」とはしゃぎだす。と、その時だ。


「私だ!!」


その声で振り向いたナルト。そこには黒い丸サングラスをかけた忍が立っていた。その人を見てナルトは、「あ」と声をあげ、


「ムッツリスケベ。」


ポツリと呟いた。

「エビス先生が・・・ムッツリスケベ・・・?」

カカシのその台詞でハッとしたナルト。
ナルトは自分の口から出てしまった言葉に自分で驚き、バッと口を両手で押さえる。が、それはもう遅かった。












あとがき

更新速度が遅くなってしまい、すみません。
そして、前回ミコトさんが使った新術の名前なのですが、感想に書いてくださった方のを使わせていただきました。
初めにこのお話を書いているときは、ただ火影様が「あの術は使うな」とおっしゃって終わるようにしていたのですが、あまりにも素敵な術名だったので、勝手ながら使用させていただきました。感想にはもっと詳しく術名の説明を書いてくださっています。本当にありがとうございます!
ナルトさん(ミコトさん)のネーミングセンスのなさは、私のせいです。
このお話でなんとか予選を終わらせようと張り切ったら、とても長くなってしまいました。次はなんと番外編です。中途半端なところで切っていますが、次の番外編、楽しく書かせていただきたいと思います。

そしてまた↓におまけが少しあります。よろしかったらお読みください。












おまけ





アカデミーの校庭のトラックを走る子供たち。規則正しい足音を鳴らし、集団で列を乱さないように走る子供たちは、授業中であるにも関わらず走りながら何かを言い合っていた。


「ハハ・・・バーカ! お前が忍者になれるわけねーだろー!」

「だいたい忍術使えない奴が忍者になれるわけねーじゃん・・・なぁ!?」

このクラスには1人、忍術が使えない子がいる。その子は黒い髪を三つ編みにしている子で、今は走っているためそれがぴょんぴょんと跳ねている。
その子はいつもこうやってみんなからからかわれていた。

「なれます!!」

その話の中心の子が、声を張り上げて主張する。しかし、

「てゆーかよぉー・・・人並み以下の体術以外なにもできねぇお前が・・・この忍者アカデミーに居ること自体ナンセンスなんだぜ・・・。」

三つ編みの子の隣を走っていた少年がその主張を否定する。その言葉に三つ編みの少年はプイッと顔を背ける。そして、

「フン・・・お前ここで何て呼ばれてっか知ってっか・・・!?」

その言葉を聞かないようにサッと耳を塞ぐと、ダダッと駆け出した。
突然のその少年の行動に、みながきちんと並べと怒っている。と、その時、誰にも気づかれずにフフッと笑った金色の少年。

「“熱血おちこぼれ”・・・ですか。」

その少年のいる場所は走る子たちの見える葉が生い茂った木の枝の上だ。
枝の上に座って、その子たちを眩しそうに眺める少年、それはこのアカデミーの問題児、うずまきナルトだ。
彼は担任の教師によって授業に参加することはない。そのため、時々こうやってこっそり覗いているのだ。

――リーはすごいです。

三つ編みの少年の名はロック・リー。子供たちの間では“熱血おちこぼれ”と呼ばれている子だ。今もその子は1人列を乱してみんなより先を走っていた。
そんな彼にまたナルトはフフッと笑う。
リーはどんなにみんなからバカにされようと、決して屈することはなかった。今年初めて同じクラスになって、まだ話したことはないけれど、こうやっていつも彼のことを目で追っていた。
そんな彼の精神が清清しくて、いつも自分にやる気を出させてくれた。
今こうやって見ているのも、1人での修行が辛かったから。

試験以外はずっと1人。
修行と言うものは1人でやるものかもしれないけれど、こんな風にみんなと一緒に混じって授業をしてみたいんだ。
でも、負けるわけにはいかない。
みんなに自分を認めてもらいたいから、こうやってこの里に来たのだ。

――僕もがんばらなくては!

枝から静かに下りたナルトの背後で、またリーがみんなから「列にもどれ!」と怒られているのが聞こえ、思わず笑ってしまった。





そんなある日のアカデミーの放課後のことだ。

――あれは・・・

リー・・・?

帰ろうとしていたナルトがたまたま校庭へ顔を向けると、そこには1人ポツンと立っている三つ編みの少年。なんとなく気になって、こっそりとその少年、リーを見ていると、リーは突如印を組んだ。そして、


「分身の術!!」


リーがそう叫ぶ。その叫びは空へと溶けていき、しんと静まり返った。


「変化の術!!」


またもリーは叫ぶ。しかし、何の変化も見られない。
リーはじっとその印を組んだまま佇んでいた。


――・・・・・・リー・・・

ナルトはサッと顔を伏せた。
彼が泣いていたのだ。
声を上げることもなく、ただ静かに頬を流れる涙。
忍術ができなくても忍者になれると主張していたあの彼が、泣いているのだ。

――・・・僕はバカです

リーは強い人間だと勝手に決め付けていた自分はバカだ。
そんなわけあるわけないじゃないか。
信じるものを持っていても、やっぱりどこかで挫けそうになることはある。

でも、それを乗り越えなければ、その信じているものにはたどり着けない。

――僕が今リーに何か言うことはできません・・・

自分の言葉はきっと彼には届かない。
だって、自分は忍術を使うことができるから。そんな人から励まされたって、リーにとってただ辛いだけだ。でも、

――何故かガイ上忍がこちらにいらっしゃるんですよね・・・。

リーを見ているのはナルトだけではなかった。
先ほどからずっとあるガイの気配に、ナルトは小さく苦笑をもらす。ガイは忍術が苦手で、体術を極めた忍者だ。どうやらガイは、自分と同じリーを気にしているらしい。
ナルトが顔を上げれば、リーの背後にいつの間にか立っているガイがいた。
ナルトはそれをじっと見て、フッと笑うと歩を再開させる。

校庭ではガイの熱い言葉が響いていた。





次の日、アカデミーの校庭のトラックを走る子供たちは、いつものようにまたリーをからかっている。しかし、今日のリーはいつもと違った。


「忍術が使えなくたって、立派な忍者になれることを僕が証明するんです!」


そう言って微笑むリー。
いくらからかってもリーは前のように列を乱したり、ムキになったりすることは無かった。
そんなリーの反応に、子供たちはつまらなそうにしている。

それをまた木の枝の上から見ていたナルト。その顔はとても嬉しそうで。
サッと枝から飛び降りると、ナルトは自分の修行へと戻っていった。



その日からもう、リーがからかわれることはなくなり、ただひたすら努力する彼の姿があった。


そして同じくその日から、いつにも増していたずらに精を出しているナルトの姿が見かけられるようになったそうだ。













あとがき2

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!!
このおまけは第13話のところです。リーさんが大好きで、自分もリーさんみたいに努力しなければ! といつも励まされます。

毎日本当に少しずつですが書かせてもらっています。
できれば週1回更新したいと思っていたのですが、それも危うくなってしまい・・・すみません! これから受験が終わるまでますます更新が遅くなってしまうと思います。
次の番外編まではなんとか受験前に更新したいです。
書けない時に、何かふと浮かぶと携帯にメモをとるのですが、もう携帯には完結までのメモだらけです。完結までどのくらいの話数になるのかはまだわかりませんが、まだまだ道のりは長そうです。頭の中ではお話ができているのに、パソコンに書き出すとすぐには文章にできなくて、落ち込みそうな時もありますが、そんな時は皆様の感想を読んでやる気を起こしております。
皆様の心優しい支えがあるおかげで書いていけそうです!
これからもがんばりますので、よろしかったらまた足をお運びください。




*いろいろとおかしなところがあり、申し訳ございません!!
 更新が遅くなる代わりにしっかりとお話を練って書こう!
 と意気込んでいたのですが、さっそくおかしなことを書いてしまいました。
 申し訳ありません。
 まだまだおかしなところはあると思いますが、一生懸命がんばりますので、
 よろしかったらお読みください。


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