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No.2371の一覧
[0] NARUTO ~大切なこと~[小春日](2007/12/04 23:34)
[1] NARUTO ~大切なこと~ 第1話[小春日](2007/12/06 19:28)
[2] NARUTO ~大切なこと~ 第2話[小春日](2007/12/08 11:57)
[3] NARUTO ~大切なこと~ 第3話[小春日](2007/12/09 13:40)
[4] NARUTO ~大切なこと~ 第4話[小春日](2007/12/10 18:47)
[5] NARUTO ~大切なこと~ 第5話[小春日](2007/12/12 16:44)
[6] NARUTO ~大切なこと~ 第6話[小春日](2007/12/12 16:50)
[7] NARUTO ~大切なこと~ 第7話[小春日](2007/12/13 18:18)
[8] NARUTO ~大切なこと~ 第8話[小春日](2007/12/14 19:29)
[9] NARUTO ~大切なこと~ 第9話[小春日](2007/12/15 19:13)
[10] NARUTO ~大切なこと~ 第10話[小春日](2007/12/16 19:35)
[11] NARUTO ~大切なこと~ 第11話[小春日](2007/12/17 20:32)
[12] NARUTO ~大切なこと~ 第12話[小春日](2007/12/18 19:24)
[13] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2007/12/19 19:38)
[14] NARUTO ~大切なこと~ 第13話[小春日](2007/12/21 18:21)
[15] NARUTO ~大切なこと~ 第14話[小春日](2007/12/23 23:41)
[16] NARUTO ~大切なこと~ 第15話[小春日](2007/12/27 19:27)
[17] NARUTO ~大切なこと~ 第16話[小春日](2007/12/28 19:25)
[18] NARUTO ~大切なこと~ 第17話[小春日](2007/12/28 19:44)
[19] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2007/12/29 20:55)
[20] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2007/12/30 10:32)
[21] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2007/12/30 10:31)
[22] NARUTO ~大切なこと~ 第18話[小春日](2008/01/01 19:42)
[23] NARUTO ~大切なこと~ 第19話[小春日](2008/01/01 19:59)
[24] NARUTO ~大切なこと~ 第20話[小春日](2008/01/02 15:46)
[25] NARUTO ~大切なこと~ 第21話[小春日](2008/01/02 16:15)
[26] NARUTO ~大切なこと~ 第22話[小春日](2008/01/02 17:55)
[27] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2008/01/03 09:15)
[28] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2008/01/03 09:21)
[29] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2008/01/04 23:12)
[30] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2008/01/05 09:50)
[31] NARUTO ~大切なこと~ 第23話[小春日](2008/01/07 23:00)
[32] NARUTO ~大切なこと~ 第24話[小春日](2008/01/07 23:04)
[33] NARUTO ~大切なこと~ 第25話[小春日](2008/01/11 16:43)
[34] NARUTO ~大切なこと~ 第26話[小春日](2008/01/13 19:48)
[35] NARUTO ~大切なこと~ 第27話[小春日](2008/01/16 19:00)
[36] NARUTO ~大切なこと~ 第28話[小春日](2008/01/16 19:05)
[37] NARUTO ~大切なこと~ 第29話[小春日](2008/01/16 19:17)
[38] NARUTO ~大切なこと~ 第30話[小春日](2008/01/21 18:32)
[39] NARUTO ~大切なこと~ 第31話[小春日](2008/01/26 13:48)
[40] NARUTO ~大切なこと~ 第32話[小春日](2008/02/02 12:34)
[41] NARUTO ~大切なこと~ 番外編[小春日](2008/02/10 23:03)
[42] NARUTO ~大切なこと~ 第33話[小春日](2008/05/16 21:54)
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[2371] NARUTO ~大切なこと~ 第31話
Name: 小春日◆4ff8f9ea ID:6fefa3ec 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/01/26 13:48






「ナルト! あんたすごいじゃない!」

「へへへ。」

下から戻ってきたナルトはサクラに声をかけられ、満面の笑みを作る。と、その時、

「・・・ナ・・・ナルト君・・・・・・。」

声をかけてきたのは白い眼が特徴的な黒髪の短い女の子。

「ヒナタどうしたってば?」

ナルトはビクビクと震えている黒髪の女の子、ヒナタにできるだけ優しく問いかけると、ヒナタはスッと何かを差し出してきた。

「ナ、ナルト君は掌仙術使えるけど・・・よ、良かったら・・・・・・使って?」

そう言われてナルトがヒナタの持っている何かに目を向けると、それは小さなビン。

「それって・・・」

「塗り薬よ。」

その声に振り返れば、黒髪の長い女性、紅が「もらってやりな、ナルト」と、ニコリと微笑んだ。

「うん! サンキュー、ヒナタ!」

お前っていー奴だな! と言ってそのビンを受け取ると、嬉しそうにヒナタが笑った。
そんな和やかな雰囲気になりかけた時だ。


「次の試合を発表します。」


ゴホッと咳をしながらハヤテが次に進めていく。そして電光掲示板には・・・







NARUTO ~大切なこと~ 第31話







上からみんなが見つめる中心、そこには同じ白い眼をした黒髪の短い少女と黒髪の長い少年が立っている。
第八回戦、それは日向ネジ対日向ヒナタだった。


「まさかアナタとやり合うことになるとはね・・・・・・ヒナタ様。」

「・・・ネジ兄さん・・・。」


そう呼び合う2人の関係、それは日向家の“宗家”と“分家”だ。





「何とも面白い対戦になったもんじゃ・・・。」

「・・・ええ、そうですね。」

火影様の言葉にミコトは歯切れ悪く答える。
日向一族とは、木の葉で最も古く、優秀な血をくむ名門だ。その中でも、ヒナタは日向流の“宗家”にあたり、ネジはその流れをくむ“分家”の人間。つまり2人は親戚同士である。しかし、“宗家”と“分家”の間には昔から色々とあり、今はあまり仲の良い間柄ではないらしい。

――とうとうこの戦いがきてしまったんですね・・・。

ネジのヒナタを見る目が、とても鋭い。しかし、それはヒナタを見ているようで、何か違うものを見ているようにも見える。
ネジの視線の先には何があるのだろうか。





「では、始めて下さい!」

ハヤテがゴホッと言いながら、試合開始の声を上げる。しかし、

「試合をやり合う前に1つ・・・ヒナタ様に忠告しておく・・・。」

そう言ったネジにヒナタは首を傾げた。すると、ネジが眼光鋭くこちらを見据え、そして次に出た言葉にヒナタは思わず眉間に皺を寄せた。


「アナタは忍には向いていない・・・棄権しろ!」


ネジはそう言うと、続けてヒナタに指摘を加えていく。

「あなたは優しすぎる。」

ネジはずっとヒナタの目を見つめたまま言葉で責めていく。

「調和を望み、葛藤を避け、他人の考えに会わせることに抵抗がない。そして自分に自信がなく、いつも劣等感を感じている。だから下忍のままでいいと思っていた。しかし、中忍試験は3人でなければ登録出来ない。」

ヒナタはネジの目を見ていられなくなって顔を逸らした。

「・・・同チームのキバたちの誘いを断れず、この試験を嫌々受験しているのが事実だ。」

違うか? とネジは顔を逸らしているヒナタに尋ねる。すると、ヒナタはその言葉に反応して、一瞬だがネジを見つめ返し、

「・・・ち・・・違う・・・違うよ・・・・・・私は・・・私はただ・・・」

すぐにまた視線を落として、ポツリと呟いた。


「・・・・・・そんな自分を変えたくて、自分から・・・・・・。」


その呟きはとても小さかったけれど、会場にいた者全員に聞こえていた。
棄権しようと思えばすぐにできるのに、ヒナタは目を合わせることができなくても、こうやってその場に自分で立っているのだ。それは本当に自分を変えたくて。ただその一心でこうやってここまでやってきた。
それはとても難しいこと。
逃げることは簡単だ。しかし、ヒナタはそれに自分から立ち向かっている。
ミコトはネジの強い視線に耐えて、じっと佇んでいるヒナタを見て微笑んだ。

――ヒナタは強くなりましたよ。

ヒナタは本当に強くなった。
見た目では分からないかもしれないけれど、“心”が本当に強くなったのだ。
それに、ヒナタが努力をしているのは誰だって気づいているはずだ。それなのに、

「ヒナタ様・・・アナタはやっぱり宗家の甘ちゃんだ。」

ネジはそんなヒナタを鼻で笑う。


「人は決して変わることなど出来ない!」


そう言ったネジが一番苦しそうに見えたのは自分の勘違いだろうか。

「落ちこぼれは落ちこぼれだ・・・その性格も力も変わりはしない。」

いや、勘違いではなかった。
ネジはヒナタに言っているようで、自分に言い聞かせている。
ネジは何かに縛られているのだ。しかし、

――今の言葉はいただけませんね・・・。

“落ちこぼれ”

それは自分を指す代名詞みたいなものだ。
ネジは確かに落ちこぼれではない。ネジは“天才”だ。
才能に溢れていて、誰もが羨ましいと思っただろう。しかし、今のネジはどうだろうか。
・・・少しも羨ましくなんてない。
ミコトがちらりと横に目を向ければ、今の自分の感情を顕にすることができる「ナルト」がギリギリと歯を食いしばってネジを睨んでいる。

「人は変わりようがないからこそ差が生まれ・・・エリートや落ちこぼれなどといった表現が生まれる。顔や頭、能力や体型、性格の良し悪しなど・・・変えようのない要素で人は差別し、差別され、分相応にその中で苦しみ、生きる。」

そこまで言うとネジはスッと目を細め、ヒナタにはき捨てるように呟いた。


「俺が分家で・・・アナタが宗家の人間であることは変えようがないようにね・・・。」


その言葉にヒナタは息を呑んだ。いや、ヒナタだけではない。日向一族について知っている者たちは同じ反応を示しただろう。ミコトもそれを聞いて顔を顰めた。
火影邸に行くようになってからいろいろと資料を読んできた。日向家の血継限界を調べようとすれば、自然と目に付いた言葉が“宗家”と“分家”。あまり詳しくは載っていなかったが、“分家”が“宗家”のために存在するのは明らかだ。
それがずっとネジを縛って、苦しませていたのだ。

「今までこの白眼であらゆるものを見通してきた。」

“白眼”は写輪眼に似た瞳術だが、特に洞察力に長けている。ほぼ全方向を見渡す視野、かなり先を見通す視力、物体の透視や体内のチャクラの流れる経絡系までも見ることができる眼だ。ネジの話は続いている。

「だから分かる・・・! アナタは強がっているだけだ。本心では今すぐこの場から逃げ去りたいと考えている。」

「ち・・・違う・・・私はホントに・・・」

ネジの言葉を必死に否定しようとするヒナタだったが、

「俺の目はごまかせない。」

ネジが白眼を発動させてこちらを見据えていたため、声を出すことができなかった。
ヒナタは咄嗟に目を逸らし、手で唇に触れる。すると、

「今の仕草・・・アナタは昔の自分をイメージし、これまでの経験から・・・この試合の結果を想像した・・・・・・負けるという想像をね!」

それを見たネジはどんどんヒナタを言葉で追い込んでいく。

「アナタ・・・本当は気づいてるんじゃないのか・・・“自分を変えるなんてこと絶対に出来・・・”」

ネジが最後の止めだと言わんばかりの台詞に、


「出来る!!!」


ナルトが切れた。

「人のこと勝手に決め付けんなバーーーカ!!! んな奴やってやれ、ヒナタ!!」

あまりのその言い草に思わずミコトは苦笑する。
ネジの言っていることは実際正しいこともある。
人はこの世に生を受ければ、自分ではどうしようもないことに縛られ、苦しみ続ける。しかし、それに必死に抵抗して、もがいて、なんとかしようとがんばってみてもいいのではないだろうか。

――ネジはもう、諦めてしまったのでしょうか。

アカデミーの頃からずっともったいないと感じていたのは、きっとそれだ。
ネジは自分の中のものに抵抗することを止めてしまった。でも、

――そんな人生はつまらないですよ。

あがいて、食らいついて、どんなに惨めでも、格好悪くても、自分を変えようと努力してもいいのではないだろうか。

「ヒナタ! ちょっとは言い返せってばよー!! 見てるこっちが腹立つぞ!!」

会場内に、ナルトの大声が響き渡る。すると、

「棄権しないんだな・・・どうなっても知らんぞ。」

ヒナタの目つきが変わったことに、ネジが気づいた。そして、ヒナタがギュッと目を瞑り、

「私はもう・・・逃げたくない!」

開いた次の瞬間には、白眼が発動されていた。


「・・・・・・ネジ兄さん・・・勝負です。」

「いいだろう。」


そう言って、2人は腰を低く落とし、手のひらを相手に見せるような構えをとる。
それは木の葉で最も強い体術流派の構えだ。
日向は、敵の体内のチャクラの流れる“経絡系”にダメージを与え、内臓などの内面を壊す“柔拳”を用いる一族なのだ。

ザッとヒナタが駆け出し、ネジに向かって手のひらを当てようとする。しかし、ネジはそれを全て手でいなしていく。が、

「くっ・・・」

ヒナタの攻撃がネジの腹をかすった。
“柔拳”には見た目の派手さはないが、かすっただけでも効果がある。“経絡系”は血管のように体の隅々まで行き渡っており、体内のチャクラを練りこむ内臓と密接に絡み合っているため、そこを攻撃すれば内臓にダメージを与えられるのだ。
いくら頑強な奴でも、内臓だけは鍛えられない。そのために日向流が最も強い体術と言われているのだ。
ネジに一撃を入れると、その流れに乗り、ヒナタがネジを押し始める。そして、

ドコッ!!

みなヒナタの攻撃がネジに入ったと思った。しかし、ゴホッと血を吐いたのはヒナタだった。

「・・・・・・やはりこの程度か・・・宗家の力は・・・!」

ヒナタの胸の上にはネジの右手のひらが当たり、左手はヒナタの右腕のある一点を突いている。

「はっ!」

しかしヒナタはそれでも再び攻撃に転じる。思い切り左腕をネジへと突き出す。が、その手をパシッと左手で掴まれ、そしてネジは右手でそのヒナタの左腕のある一点をまた突いた。
それにハッとしたヒナタ。

「・・・・・・ま・・・まさか・・・それじゃ・・・最初から・・・。」

ネジがスッとヒナタの左腕の袖をめくっていくと、そこには何箇所もネジが指で突いた痕が残っていた。

「そうだ・・・俺の目はもはや“点穴”を見切る・・・。」

ネジはヒナタの攻撃をいなすだけではなく、その“点穴”をついていたのだ。それを見て驚愕している上忍や下忍たちとは違い、ミコトは眉を顰めた。

――それだけの才能があって、どうして・・・

諦めてしまうのか。

経絡系上にはチャクラ穴という針の穴ほどの小さな361個のツボがあり、その中の“点穴”のツボを正確に突くと相手のチャクラの流れを止めたり、増幅させたり、思いのままにコントロールできるとされている。

「キャ!」

ネジはドカッとヒナタを突き飛ばした。

「ヒナタ様・・・これが変えようのない力の差だ。“逃げたくない”と言った時点でアナタは後悔することになっていたんだ。今アナタは絶望しているハズだ。」

ヒナタはその言葉に無言で地面を見つめている。

「・・・・・・棄権しろ!」

ネジは再びヒナタにそう告げる。しかし、

「・・・私は・・・」

ヒナタは口から血を吐きながらもゆっくり、

「ま・・・・・・まっすぐ・・・・・・自分の・・・言葉は曲げない・・・私も・・・それが忍道だから・・・!」

ゆっくり立ち上がった。そのヒナタの目は、とても力強かった。
そしてヒナタはある一点を見上げてニコリと笑った。ヒナタの視線の先、それは金髪の元気な男の子。



「ヒナタ・・・あいつスゲーってば。つえーってばよ。」

「君に良く似てます・・・。」

「そうね。・・・そういえばあの子・・・いつもアンタ見てたもんね。」

ナルトの呟きにリーとサクラがそう答えた。
ヒナタがアカデミーの頃から自分に気づいてくれていたのは知っていた。いたずらばかりする自分を、くの一たちは嫌そうな目で見ていたが、ヒナタだけはいつも楽しそうに見てくれていた。
声をかけてはくれなかったけれど、そのあたたかい視線が心地よかったのは自分だけの秘密。そう言ったら、薬を受け取った時みたいに、ヒナタは笑ってくれるだろうか。


「ヒナターガンバレーーー!!」


本当はさっきのネジの攻撃で、ヒナタの体がボロボロなのは分かっている。
だけど、今止めたらヒナタはきっと後悔してしまうから。
だから、今はがんばって、ネジに変わった自分を見せ付けてほしい。

それを見て、ネジも変わってほしいんだ。

ナルトの声援でヒナタは再び白眼を発動させて、ネジに向かって思い切り駆け出した。
何度も何度も柔拳を入れようとするが、ネジはそれを防いでいく。そして、ヒナタのある一手に手刀を下ろし、体勢を崩すと、あごを下から打ち上げた。

「ゴホッゴホッ・・・!」

その一撃にヒナタは思わず咳き込む。しかし、その目はずっとネジから離さなかった。そしてまたネジに向かって走り出し、突きを入れようとしたその瞬間、

ドスッ!!!!

ネジの攻撃がヒナタの胸に入った。

「アナタも分からない人だ・・・・・・最初からアナタの攻撃など効いていない・・・。」

ネジがそうはき捨てるように言うと、ヒナタはガハッと血を吐き、その場にドサッと倒れてしまう。ネジの攻撃は心臓を狙った決定打だった。これはもう、ネジの勝ちだと誰もが思っただろう。

「これ以上の試合は不可能とみなし・・・」

ハヤテもこれ以上の戦いは命に関わるため、試合の終わりを告げようとする。しかし、


「止めるな!!」

「何言ってんのよバカ! もう限界よ! 気絶してるのよ!!」


ナルトの叫びに思わずサクラが突っ込みを入れる。が、ナルトはじっと倒れているヒナタを見つめた。
ヒナタはもう十分戦ったことは分かっている。これ以上動けば死んでしまうかもしれないのも分かっている。でも、ヒナタはそれに勝つくらい強くなったんだ。

ほら、


「・・・何故立ってくる・・・無理すれば本当に死ぬぞ・・・・・・。」


ヒナタは自分の力で立ち上がった。それを見て驚いているのはみな同じだが、やはり一番驚いているのはネジだ。ネジは立ち上がってうっすら笑っているヒナタにそう呟く。

「ま・・・まだまだ・・・。」

「強がってもムダだ。立ってるのもやっとだろ・・・この目でわかる・・・。」

ネジは白眼でヒナタを睨み付けている。

「アナタは生まれながらに日向宗家という宿命を背負った・・・力のない自分を呪い、責め続けた・・・・・・けれど人は変わることなどない・・・これが運命だ。」

その言葉にヒナタは顔を歪めた。

「もう苦しむ必要はない・・・楽になれ!」

そう言って白眼をといたネジ。しかし、

「・・・・・・それは違うわ・・・ネジ兄さん・・・だって・・・私には見えるもの・・・私なんかよりずっと・・・」

ネジはそう言ってくるヒナタにまた白眼でギロリと睨み付け、ダッと駆け出した。

「ネジ君・・・もう試合は終了です!!」

それを見たハヤテが慌てて声をかける。と、その時だ。


「ネジ、いい加減にしろ・・・! 宗家のことでもめるなと私と熱い約束をしたはずだ・・・!」


ネジを止めに入ったのは、ハヤテだけではなく、そう言ったガイにカカシ、紅だった。
そんな上忍たちの態度に、ネジは「宗家は特別扱いか・・・」と睨み付ける。が、

「ガハッ・・・ガハッ!」

「ヒナタ!」

なんとか立っていたヒナタが急に咳き込み始め、また倒れてしまい、紅が急いで駆け寄る。それを見ていたサクラやリー、ナルトも上から飛び降り、ヒナタのそばへ寄る。
覗き込んだヒナタの顔色はひどく悪くて。ナルトは顔を顰めた。
医療忍者を目指す者としては失格なことをしてしまった。本当は止めるべきだったけれど、でも、

「ヒナタ・・・お前、変わったよ! ヒナタは自分に勝ったってばよ!!」

本当にヒナタは格好良かったんだ。きっと、みんなもそう思っているから。
ナルトのその言葉に、ヒナタが少し笑ったような気がした。

「おい・・・そこの落ちこぼれ。」

ナルトが振り向けば、目を細めてこちらを睨んでいるネジがいる。今の自分の言葉が癇に障ったのだろう。

「お前に2つほど注意しておく・・・・・忍びなら見苦しい他人の応援などやめろ! そしてもう1つ・・・しょせん落ちこぼれは落ちこぼれだ・・・」


変われなどしない!


鼻で笑うようにそう言ったネジにナルトは思わず眉を顰めた。
ネジはこんなに変わったヒナタに気づいてくれなかったのだろうか。
力が強くなったわけではないから、気づきにくいかもしれないけれど、ヒナタを知っている者たちだったらみな気づいたはずだ。
ヒナタは心が本当に強くなった。
今まですぐにあきらめてしまうようなヒナタが、こんなになるまであきらめなかったのだ。
それはすごい変化なのに。ネジだって気づいているはずなんだ。

――あ、そうか。

ナルトはスッと目を細めて、ネジを見た。

「お前・・・焦ってたんだな・・・。」

「 !! 」

そう言うと、ネジは激しく動揺した。
やはりそうだ。ネジは変化していく周りに焦っていたのだ。
自分は“運命”というものに縛られているから、変わることが出来なくて。
それなのに周りはどんどん変わっていってしまう。それには誰だって焦るだろう。
だから、ネジは“運命”だとか、“変われない”と言って、その自分の焦りを隠し、ごまかしていたんだ。
その言葉はネジにとって魔法の呪文のようなものだったのだ。
ネジの“運命”とはきっと“分家”のことを示しているのだろう。
確かに、日向家の“分家”は理不尽な問題があるかもしれない。
それでもネジはこんなにもその“運命”に逆らおうとしている。だって、“宗家”であるヒナタを最後には殺そうとまでしたではないか。
でも、そんなことをしてもネジの思っている“運命”からは逃れられない。
“分家”というものが檻か何かと思い込んでいるネジには、どんなに焦っても変わることが出来ない。変わるためには、それが檻なんかじゃないことをネジが気づかなければならないんだ。そうすればもっと今が楽しくなるから。
ナルトがそれを伝えようと口を開いた次の瞬間だった。

「グフッ!!」

仰向けになっていたヒナタが突然また血を吐き出した。
慌てて紅がヒナタの胸に手を当てると、ハッとした後すぐにネジを睨み付けた。

「俺を睨む間があったら・・・彼女をみた方がいいですよ。」

紅の凄みにフンと鼻で笑って返すネジ。そんなネジの態度は気に食わないが、言われたことは本当のことだ。

「医療班は何してる! 早く!!」

「す・・・すみません。」

紅の怒声に、医療班の3人が急いで駆けつける。すると、ヒナタの状態を見てみな顔色を変えた。

「このままでは10分ともたない!」

その叫びに、周りの人々もうろたえ始める。と、その時だ。


「僕が診ますよ。」

「ミ、ミコトさん!!」


いつの間にか下へと降りてきていたミコトが、ヒナタへと近づいていく。それには医療班は少し顔を顰めた。
彼女は今、心室細動を起こしている。
“心室細動”とは、心臓の動きが不規則になる不整脈のことだ。心臓全体で収縮や弛緩ができないため、血液を体全体に送れなくなっているのだ。これを治すには必ずある機械が必要になる。そのためにも早く道具の揃っている緊急治療室に運ぶべきだ、と医療班の1人が口を開こうとしたその時だ。

「皆さん少し下がっていてください。」

そのミコトの言葉の直後、聞こえてきたのはチッチッチッ・・・という鳥の鳴き声。

「何この音!!?」

ナルトとともに下におりてきていたサクラが思わずその音に耳を塞いだ。それはサクラだけではない。他の者たちも全員耳を塞いでいる。

「千鳥か・・・!!」

その音を聞いて真っ先に反応したのはカカシだった。“千鳥”とは、今聞こえている独特な音が鳥の鳴き声に似ており、まるで千の鳥が地鳴きしているようであることから名付けられた術のことだ。しかし、この音量は半端なものではない。
その音の発生源、それは倒れているヒナタのそばにいるミコトからだった。

「ミコト!? それは・・・・・・!?」

カカシは千鳥を発動しているミコトを見て目を見張った。
“千鳥”とは、片手に電撃を溜めて対象を貫く術だ。しかし、目の前のミコトは片手だけではなく、両手に電撃を溜め込んでいるのだ。しかもかなりの量の電撃をだ。一体何をする気なのか。そう思った次の瞬間、

「何・・・!?」

突然止んだ鳥の鳴き声に、思わず声をもらした。そのカカシの声が聞こえたことで、鳥の鳴き声が止んだことに気づいた他の者たちも耳から手を次々と離していく。

電撃が目に見えるほど溜め込まれていたにも関わらず、それが一瞬にして消えてしまった。
いや、消えたのではない。

――なんだあれは・・・

カカシの視線の先、ミコトはじっと自分の手のひらを見つめていた。
その両手のひらの上には小さな丸い光が浮かんでいる。その光をミコトはグッと握りつぶし、手を開いた次の瞬間にはその光の球はなくなっていた。

――何をしているんだ?

カカシだけではなくみなそう思っただろう。
千鳥を出したかと思えば、今度はそれを消してしまったミコトの行動の真意が分からない。
そのミコトは周りからの不審そうな眼差しを気にすることなく、両手のひらをそれぞれヒナタの右胸と左脇腹の位置にそっと当てた。その直後だ。

ドンッ! という音とともにヒナタの体が一瞬だけ浮き上がり、再び力なく倒れた。

しんと静まり返った会場内にその音の残響だけが目立っていた。
みなが突然のことに息を呑み、絶句している中、カカシはただ呆然と今の出来事を眺めていた。

――今のは何なんだ・・・!?

ミコトが初めに術を発動した時、音からして千鳥だったことは間違いない。
“千鳥”はただでさえチャクラの消費が大きな術だ。片手で電撃を溜めても何発しか使えないような術を今、自分の目の前でミコトは両手でやってみせたのだ。それもかなりの電撃の量を溜め込んで。
しかし、それだけではない。
鳥の鳴き声が消えたとき現れた手のひらの中の光の球、あれは千鳥を形態変化させたものだ。それまではなんとか自分でも分かった。が、最後にそれを握りつぶしたミコトの行動・・・それはもう自分には理解ができない。
カカシは混乱してきた頭を軽く振り、考え込むことを止めると、目に入ってきたのはミコトがヒナタの胸の上に両手を重ね、心臓マッサージを行っているところだった。そして、その心臓マッサージを止めた直後、ピクリと動いたヒナタの指。

「ヒナタ・・・」

ミコトのそばでヒナタを見ていた紅が、体から力が抜けたのか座り込んでしまった。その紅の様子に気づいたミコトが優しく微笑み、口を開いた。

「ヒナタさんはもう大丈夫ですよ。」

ボーっとヒナタを見つめていた紅が、ゆっくりミコトに顔を向けた。

「さっきのはただの電気ショックです。ヒナタさんは心室細動を起こしていました。これには電気ショックを与えて心臓の不規則なリズムを整え、心拍を正常に戻さなければならないんです。」

そう言われてヒナタの顔を見れば、顔色も先ほどよりも幾分良くなっているように思われる。それに、呼吸が安定している。が、しかし、その言葉で気になることがある。

「・・・・・・ミコト。さっきの術は千鳥だったはずだ。」

あれはただの電気ショックなんかではない。
今までいろいろと考え込んでいたカカシがミコトにそう問いかける。
その質問は千鳥を知っているものならみな訊きたかったことだろう。

「そうです。あれは千鳥から医療用に改良した術です。」

そう答えたミコトは何故か悲しげに笑った。


「僕は医療忍者になりたくて、たくさん勉強してきたつもりでした。・・・・・・でも、それはただの思い込みでした。」

15歳からと特別上忍見習いとして勉強させてもらって、1年も経たないうちにほぼ全ての医療忍術を会得した。それなのに、どうにもできなかったあの時。

「特別上忍の見習いになった頃、僕にはそれよりも前から親しくしてもらっていたおばあさんがいました。」

いつものように、一緒に商店街で買い物をしていたあの日。
楽しく会話をしながら、一緒に笑って。それは本当にいつも通りだったのに。

おばあさんから消えてしまった笑顔。

「おばあさんが僕の目の前で突然倒れたんです。」

そう言うと、みなが眉間に皺を寄せたため、「今は元気にしていらっしゃいますよ」と苦笑しながら告げる。

原因はすぐにわかった。
人が急に倒れるなんて、脳か心臓くらいしか原因はない。


「僕はその時、自分の無力さを知りました。」


倒れたおばあさんの心臓は不整脈を起こしていて。

それは“心室細動”だった。

「心室細動には絶対に電気ショックの装置が必要で。僕はただ病院に急いでおばあさんを連れて行くことしかできなかった。」

心室細動を起こしてしまった場合、一分一秒でも早く電気ショックを与えて、心臓を正常な状態に戻さなければ蘇生率はどんどん下がってしまう。

「病院についてすぐに電気ショックを与えて、おばあさんは何とか一命を取り留めました。」

その後のおばあさんは何度も自分にお礼を言ってくれた。

・・・それがひどく悔しかった。

「包帯などの・・・ちょっとした道具ならいいんです・・・・・・でも、命に関わるような事態に必要な道具がそばにあるとは限らないじゃないですか。」

ミコトは顔をくしゃっと歪めた。
楽しげに話して、笑っていたおばあさんが目の前で倒れて。
いつも「ミコトちゃん」と呼んでくれたあのおばあさんが。
道具がないと何もできなかった自分が、本当に悔しかった。

「だから、僕はこの術を作り出したんです。」

あの時からずっと研究して編み出したこの術。
それはただの電気ショックだけど、自分にとってはとても必要な術だと思ったんだ。

「でも、僕はもともと雷の性質ではなかったため、新しく自分で術を生み出すことはできなかったんです。」

「それで千鳥か・・・。」

カカシの呟きに「そうです」とミコトは頷く。

「雷遁の中でも形態変化ができそうな千鳥を会得しようと思ったんです。」

しかし、それには問題があった。
電気ショックをするには2箇所から同時に心臓に刺激を与えなければならないのだ。

「本当の千鳥でしたら、片手だけですが・・・心臓には2箇所からショックを与えなければならないため、どうにかして両手でできないか、と考えたんです。」

それが思った以上に上手くいかなくて大変でした、と苦笑するミコトに上忍たちは開いた口がふさがらない思いだった。ミコトの発想からしてもう呆れるしかない。
それに、実際は“大変”どころではない。

「そんなこと・・・下手したら死ぬぞ!」

千鳥は雷遁系の超高等忍術の1つだ。
その千鳥を両手でやるなど誰がそんな馬鹿なことをするだろうか。はっきり言って自殺行為だ。片手でさえチャクラ量の激しい技であるのに、両手でやるなど、自分の命を削るようなものだ。しかも、さっき見たミコトの千鳥は、通常溜める電撃よりもはるかに多かったのだ。
カカシの怒号に一瞬きょとんとしたミコトだったが、すぐに真剣なものへと変わった。


「人の命が救えないのなら、僕は医療忍者なんて辞めます。」


そう言い切ったミコトにカカシは思わず息を呑んだ。ふと頭に蘇ってきたのは、九尾が襲ってきたあの日の先生の言葉。

「なんでそこまで・・・」

今の言葉はまるで、先生みたいだ。
言葉だけじゃない。真剣なその顔も先生そのもので。
カカシの小さな呟きに、ミコトは表情を和らげ、


「だって、里の人たちはみんな僕の家族ですから。」


そう言って目を細めてニカッと笑った。





「火影様、どうかされましたか?」

アンコは突然、三代目が片手で顔を覆ったことに気づき、具合でも悪くなったのかと心配して声をかけた。しかし、三代目は「なんでもない」と首を振った。

なんでもない・・・わけじゃない。

――今の言葉は・・・

四代目とナルトが言ったものと同じではないか。

ミコトが15歳の頃からずっと見てきたが、ミコトは年を取るに連れて四代目火影に瓜二つになった。まるで自分の目の前に彼が戻ってきたようだ。
しかし、そんなことはありえない。
四代目が死んだのを見たのはこの自分だ。人間が生き返るはずがない。
我ながらおかしなことを考えてしまい、苦笑をもらす。

あぁ、ここにも・・・

「火影様、何かおっしゃいましたか?」

顔を覆っていた手を離し、フッと笑った三代目が何かをボソリと呟いたのに、アンコは首を傾げて聞き返す。しかし、

「なんでもない。」

そう言って優しく笑った三代目の視線の先は金色の青年。


――ここにも、火の遺志は受け継がれていた。


アンコはそんな三代目の態度に、首を捻った。





――何か変なことを言ってしまったでしょうか・・・?

突然しんと静まってしまった場の雰囲気に、ミコトはコクリと首を傾げる。が、すぐにまたヒナタの方へと顔を向けた。
電気ショックによって心拍が戻ったヒナタだが、内臓器官がかなり傷ついているのは、白眼がなくても分かることだ。先ほどの戦いでネジが本気で柔拳を入れていたのだから。

ミコトはスッと右手を持ち上げチャクラを溜め始める。今度は掌仙術だ。
しかし、内臓まで届かせるにはかなりのチャクラが必要になる。ミコトが集中してチャクラを溜め込み始めたその時だ。


「もう止めろ!」

「は、はたけ上忍・・・?」

突然カカシがミコトの右腕をガシッと掴んできたのだ。
その力はとても強くて、思わずミコトは顔を歪める。が、そのミコトよりもカカシのほうが辛そうな顔をしているのだ。その目は自分を見ているのに、見ていなかった。

「もう・・・やめてくれ・・・。」

カカシはそう何度も呟いて。掴んでいる手はわずかに震えている。
そんなカカシの様子を見て、ミコトはハッとし、ゆっくりその手を左手で上から包み込んだ。

「はたけ上忍。・・・僕は大丈夫です。」

さっきの術は自分以外の者が使ったら、確かに命に関わるような術かもしれない。それでカカシはこれ以上チャクラを練ることを止めに入ってきたのだろう。
しかし、このカカシの怯えようは尋常ではない。きっと父のことを思い出しているのだ。
父がどんな風に亡くなったかは知らないけれど、今のカカシを見ていれば、カカシが自分に父を重ねているのは明らかで。

「現に、さっきの術を使っても平気じゃないですか。」

そう言うと、カカシの震えが止まった。

「それに、僕は“神影ミコト”です。」

と笑えば、カカシがやっと自分のことを見てくれた。
大切な人の死を経験した者が、そう簡単にそれを乗り越えることなどできないのは自分も良く分かっているから。

「わ、悪い・・・。」

平常心を取り戻したカカシがミコトの腕をパッと放そうとする。が、

「・・・ミコト?」

ミコトはその手をガシッと掴んで、ニコリと笑う。

「心配してくださって、ありがとうございます。」

それだけ言うとやっとカカシの手を開放し、再び集中して掌仙術を発動する。
右手は目に見えるほどのあたたかい光で包み込まれていく。そして、それをゆっくりヒナタの胸へ当てると、その光はスッと体の中へと消えていった。
その途端、みるみる顔色が良くなっていくヒナタに、みなホッと息を吐いた。

「もう大丈夫です。」

ミコトはそう言って医療班にヒナタを病室に運ぶよう指示をする。それをただ呆然と見ていたカカシは、ふと思い出したように今まで考えていたことを尋ねた。

「・・・その両手の千鳥を形態変化まで持っていったのは分かったが、その後の行動・・・消えた千鳥どこにいったんだ?」

最後に光の球を握りつぶした動作はいまだに分からない。
担架で運ばれていくヒナタを見送っていたミコトが振り向いて、またニコリと笑う。

「あれは消えたのではありません。千鳥を形態変化で球にして圧縮したものを、手のひらに薄く均等にのばしただけなんです。」

「へ?」

カカシの間抜けな声に、ミコトはクスクスと笑う。

「電気ショックには電圧などの微調整が必要です。それの微調整を兼ねるのと、球体のままでは均等に心臓に向かって当てるのはとても難しいので。」

最後のあれが一番大変です、と笑うミコトは全然大変そうには見えないが、きっと誰も真似ができないのは間違いないだろう。
その術の後、見事な掌仙術まで行ったミコトは今こうやってけろりとしているが・・・・・・ミコトのチャクラ量の多さに驚きである。唖然としていたカカシは、クスクス笑うミコトを見て、何か引っかかることがあることに気づいた。

「ミコトの性質は何なんだ?」

そうだ。ミコトは雷の性質ではないと言っていたではないだろうか。
確かに、違う性質のものは修行することで扱えるようになる。あそこまで見事に雷遁が使えるようになるには、かなりの訓練をしたのだろう。
もともと、医療忍術は使える者は限られているが性質などは関係ない。なので、ミコトが何の性質を持っているかは今まで誰も知らなかったのだ。
そう問われたミコトは、何故か少し困ったような顔をしている。そして、しぶしぶといったように口を開いた。

「・・・・・・僕は猿飛上忍と同じ風の性質です。」

「風・・・。」

そのミコトの返答にみな驚きを隠せなかった。
下忍たちは、風の性質であるにも関わらず、他の性質を扱ったことに対して驚いているのだろう。しかし、上忍たちは違う。
確かに風の性質は猿飛アスマの性質でもある。が、それと同時にあの四代目火影も風の性質だったのだ。



――ミコトのやつ・・・まさか風の性質じゃったとは。

上でその話を聞いていた火影様はフムと顎に手を添えて、下にいるミコトを見つめる。
ヒナタが倒れた後すぐ、「僕に行かせてください」と言われ許可を出したが、まさかこのようなものが見られるとは思わなかった。

「まさか、ミコトが風の性質だったなんて・・・。」

アンコが驚いたように呟いた。アンコ以外の上忍たちも呆然としてミコトを見ている。
そんなみなの反応に火影様は思わず苦笑する。今が中忍試験の途中ということを忘れているのではないだろうか。

――じゃが、それも無理ない。

この自分でもかなり驚いているのだ。
どこまで本当に似ているのだろうか。・・・だが、ミコトはミコトだ。

木の葉の火の遺志を継いだ立派な医療忍者だ。

下では無事ヒナタの治療を終え、話のほうも一段落着いたようだ。そろそろミコトも上に戻ってくるだろうと思った火影様だったが、そのミコトはと言うと、彼は目を細めてじっとヒナタの対戦相手だった少年を見つめていた。
その少年は試合が終わってからずっとその場に佇んでいたが、ミコトの視線に気づき、フンと鼻を鳴らして上の階へ戻ろうとする。が、


「あなたもとても苦しんでいるんですね。」


ミコトのその言葉にピクリと反応し、立ち止まって少年は振り返った。その顔はとても険しいものになっていて。上忍たちもみな、眉間に皺を寄せている。
今のミコトの台詞は、少年の地雷を踏んでしまったのだ。

「ミコトとか言ったな・・・。」

「はい。」

少年の言葉ににこっと笑って返事をしたミコト。その態度はさらに少年の感情を高ぶらせてしまった。


「・・・お前に俺の何が分かる!!」


何が分かるというのだ。
今までこんな木の葉の忍を見たことがなかったが、どうやら目の前のこいつは医療忍者として活躍しているようではないか。自由に、自分の好きなように。束縛されるものなど何もなく。
そんな奴が己の苦しみを分かるはずがない。

分かるはずがないのだ。

「確かに、僕はあなたではないので、あなたの感じている苦しみを知ることはできません。」

依然として微笑んでいるミコトにいらついてしまう。もう話すことなどない、という風に少年が向きなおして歩き始める。と、「でも」とミコトが呟いた。

「僕は医療というものが、体を治すものだけではないと思っています。」

突然話が変わったことに不審に思い再び振り返れば、ミコトは自分の胸の上をギュッと掴んでいた。

「心にも見えない傷ができるんです。それを治すのも、医療の役目だと僕は思います。」

そう言って微笑んだミコトに、少年は目を見張った。
まるで自分が見透かされているようで、少し恐怖を感じた。人を見透かすことなど、己が一番得意なことだというのに、こいつの青い目を直視することができない。

「ネジ君は、変われますよ。」

「ッ!!」

「変わらないと・・・もったいないです。」

ネジは息を呑んだ。
こいつは何を言っているのだろうか。
何がもったいないというのだろうか。
・・・頼むから


「そんな目で俺を見るなッ!!」


何もかも見透かしてしまいそうなその目で俺を見ないでくれ。

「人は変われなどしない!」

変われないから、己はこうやって苦しみ続けなければならない。
それは“運命”なんだ。


「ネジ!!」


突然違うところから自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
そこへ顔を向ければ、ミコトとかいう奴と同じ色を持ったあの“落ちこぼれ”が己を睨んで立っていた。
その落ちこぼれが床についていたヒナタの血を手につけて、グッと握り、


「俺がお前をぜってー変えてやる!!」


その拳をネジに突きつけるように掲げた。

「フン・・・」

それを見たネジはクルッと回って、もう振り返ることなく上へと戻っていった。

そして、今までの出来事に呆然としていた者たちも我に返り、ハヤテを残して上に戻っていく。が、



「ミコトはどこに行ったのじゃ?」

火影様の呟きに「え?」とアンコが振り返り、パッと下を探せば、そこにはハヤテしかいなかった。上へあがってきた者たちを見ても、そこには金色は1つしか見当たらず、それは青年のものではなかった。


「では、これから・・・次の試合を始めます!」


ハヤテはみなが上に行ったことを確認して、ゴホッゴホッと咳をしながら次に進めている。

「ミコトは・・・きっと、気分転換に外に行ったのではないでしょうか?」

さっきの術でかなりチャクラを消費したみたいですし、とアンコがミコトを心配してキョロキョロと視線をせわしなく動かしている火影様に、苦し紛れな言い訳をする。

――ミコト!! どこに行ったのよ!?

火影様が何かとミコトに過保護なのは火影邸の中では有名な話だ。もし、ミコトに何かがあったら・・・・・・想像するのも恐ろしい。

「・・・・・・だといいんじゃが。」

ブスッとそう答えた火影様に、アンコはこっそり息を吐いた。
その間にも、下では


「では第九回戦、始めて下さい!!」


ひょうたんを背負った砂の少年と、緑のスーツにおかっぱ頭の木の葉の少年の戦いが始まっていた。










あとがき

お久しぶりの更新です。つまらないお話で申し訳ないです・・・。
夜寝る前にコツコツ書いています。
ミコトさんに少しでも医療忍者らしいことをしていただこう、と勝手に術を作り出してしまいました。この術を名付けるならば・・・除細動の術? ですかね。そのまんまですね。(笑 
すみません! 自分にはネーミングセンスが全く無いのです。
なんとか週1回更新したいなと思っております。
↓にまたおまけを書いています。よろしかったらお読みください。













明日は念願の卒業試験です!

・・・でも、その前に




おまけ




澄み渡る青空に、ぷかぷかと浮かんでいる白い雲。
今日も木の葉の里は平和・・・かと思いきや。



「見てみろよ・・・あれ。」

「なんちゅーバチ当たりな!」


早朝であるのに関わらず、たくさんの人々が集まって声を荒げている場所、それは火影邸の屋上だ。その人々が見上げている先には、この里を見守るようにある歴代火影様の顔岩だった。そして、そこには上から縄でぶら下がって、その顔岩にペンキで落書きをしている金色の少年。

「おーおー! やってくれとるのぉ。」

「ほ、火影様!」

突然屋上に現れた三代目火影様に、そこにいた人々はざわめき始める。人々の雰囲気が変わったことに気づいた金色は振り返り、ニシシと笑った。少年の顔はかなり満足気だ。

その少年の背後には、いろいろな落書きを施された間抜けな歴代火影たち。

――最後くらい盛大にやらなくては!

今までアカデミーに入学してから、様々ないたずらをしてきたが、ここまですごいいたずらはもちろん今回が初めてで、最後。

すごいといっても、ただの幼稚な落書きだが。
初代様や二代目、四代目が父だからといって容赦はしない。それぞれの頬にうずまきを書いたり、下まつげを書き足したり、そんなくだらない落書き。

何と言っても明日は卒業試験だ。

だからこれでいたずらは最後。

「ん? わしの顔には何か文字が・・・。」

三代目が目を細めて、自分の顔岩の額の文字を読もうとする。自分の顔岩だけはその文字以外の落書きはないことに少しホッとする。

――気づいたようですね。

金色はその火影様の様子に気づき、うんうんと頷いている。
今回のいたずらは恩を仇で返すようなものだが、これだけは言っておきたかったのだ。

「た・・・べすぎ・・・注意・・・? 何のことじゃ?」

額には「たべすぎちゅーい!」という大きな文字。・・・一体何のことだろうか。
首を傾げた火影様にナルトがその説明をしようと、息を吸い込んだ瞬間、


「何やってんだ!! もうすぐで授業が始まるぞ! 早く降りてこい!」


ナルト! と大声で叫んだのは、鼻の上の一文字傷の男。彼は金色の少年、ナルトの担任だ。

「イルカせんせーごめんってばよ!! これ、アカデミー終わったら消すからさ、ちょっとこれだけは言わせて!」

ナルトはそれだけ言うと、思い切り息を吸い込んだ。それを見ていた火影様は、なんとなく身構えた。おそらく今から言うことは己のことだろうから。そしてナルトが口を開いた次の瞬間だ。


「火影室の机の右の上から2番目の引き出し! また新しく大福がたくさん増えてたってばよー!!」


この前は大量の饅頭だったってばー!! と大声で叫んだナルトにギクリと肩を揺らした火影様。そこにいた人々は思わず、ジロリと白い眼で火影様を見ている。

「火影様・・・。」

イルカにいたっては呆れてため息まで吐いている。

「甘いものの食べすぎはちゅーい!! 糖尿病になっちまうってばよ!」

健康第一!! とまで叫ぶと、ナルトはすっきりした顔で体につけていた縄をつたって上へとのぼっていこうとした時、ふと目に入ってきた下の人々の顔。

――あ、また笑ってる。

アカデミーに向かっている子供たちが立ち止まり、みながこっちを向いているのは気づいていた。その中には、

「ひゃっほー! また今度はすげーことやってんなー!」

犬を頭に乗せた少年が、眩しそうに目を細めて上を見ながら声を上げる。

「・・・・・・メンドクセー。」

ちらりと少しだけ上を見た黒髪を高い位置で結んだ少年がそう呟く。

「あ~ぁ、僕、消すの手伝わないよ。」

朝食を食べてきただろうに、お菓子を片手に食べながら登校しているポッチャリ系の少年がそう言うと、他2名もその言葉に頷いてまたアカデミーへと歩き出している。

そんな3人の態度に、ナルトは苦笑をもらす。

しかし、ナルトが気にしているのは、落書きを始めた頃からずっとこちらを見ていた黒髪の短い少女。その少女は真っ白なとても綺麗な目を持っている。

その少女は、くの一クラスでもおとなしくてあまり笑わないと言われていた女の子だ。そんな子が今、自分を見て笑っているのだ。それは楽しそうに口を手で押さえてクスクスと。

ナルトはその子と同じ学年になってから、その子をよく見かけるようになった。それも、だいたいいたずらをしている最中に。その時見る顔はいつも笑顔だった。
くの一たちは、自分を見るときはほとんどが嫌そうな目で睨んでくるけれど、この子だけはいつも楽しそうに見てくれていた。それが嬉しくって。

クスクスと笑っていたその子が自分の視線に気づいたのか、パッと顔をこちらに向けた。バチッとあった目に、ナルトはニコッと微笑む。すると、その子の顔がボッと赤くなって、それを隠すようにアカデミーの方へと駆け出した。

突然のことに、きょとんとしたナルトだが、今度はこちらがクスクスと笑った。
その女の子は日向ヒナタ。
ヒナタは自分のいたずらを見始めてからよく笑うようになったらしい。
いたずらを始めた頃は自分のためだったけれど、いつの間にかその子のためにしようと思うようになっていた。

このいたずらはヒナタへのプレゼント。

ちっぽけでくだらない最後のプレゼント。こんなくだらないものに、意味を与えてくれた君に心からのありがとうを。
これからもずっとあんな風に笑っていてほしい。もう、ヒナタにはこんないたずらがなくても笑えるはずだから。

時々立ち止まっては振り返る、それを繰り返しながらだんだんと小さくなっていくヒナタの背にナルトは目を細めて微笑んだ。


「ナルトー!! その落書きはアカデミーが終わったら、きっちり綺麗にしてもらうからな!」

とにかく早く降りて学校に行かないと、遅刻するぞ! と叫ぶイルカに慌てて縄を上っていく。そのイルカの後ろでは、「なぜナルトはあのことを知ってるんじゃ・・・」とぶつぶつ呟いている火影様に、「お菓子は没収させていただきますよ」と忍たちが言うと、「くっ・・・これも里のためじゃ・・・」と、ひどく辛そうに火影様が言葉を返しているのが聞こえて、思わず笑ってしまった。


これで、もういたずらはおしまい。


顔岩の上までたどり着けば、気持ちの良い風が吹いていて。
朝のさわやかな空気を思い切り吸って見おろせば、いまだに「頼む! 5個・・・いや3個残しておいてくれんか!」と頼んでいる火影様に、首を振っている忍たち、こんなことをした自分に怒っているだろうがどこか楽しそうな里の人々が目に入った。
そんな人々を、いつも厳格な表情で見守っていた歴代火影様たちは、今日だけ落書きのせいで少し笑っているようにも見える。

それを見てニッコリと微笑んだナルトは、


――今日もみんなが笑っていられますように。


見上げた空にそう願った。







太陽が少し傾きかけた頃。

「今回はやけに派手ないたずらだったな。」

アカデミーが終わって、歴代火影様の顔岩のペンキをナルトがせっせと消していると、上からイルカの声が降ってきた。それに顔を上げてナルトは口を開いた。

「んー、これで最後だからかな。」

「最後?」

「それと、プレゼントなんだ!」

それだけ言ってナルトは頭に疑問符を浮かべて首を傾げたイルカに構わず、また手を動かし始める。
そう、これが最後。明日はやっと受けられる卒業試験だから。絶対に卒業するんだ。
それにはいたずらからも卒業しておきたかったから。

「それにしてもお前・・・今日はやけに機嫌がいいな。」

また顔を上げれば、満面の笑みでこちらを見ているイルカがいた。ナルトはそれに、へへっと笑って返す。

機嫌がいいのは、あの子が笑ってくれたから。

このいたずらが最後だから、思いっきり笑ってもらいたくて。
今回は大成功だったと思っている。でも、先生には悪いことをしてしまった。

「イルカせんせー・・・ごめんってばよ。」

手を休めずに、呟くように謝った。
わざわざ見張らなくてもきちんと消すつもりなのだが、アカデミーが終わってすぐに一緒に行くと言ってくれた先生にはとても悪いと思っている。これから明日の準備だってあるだろうに、1人の生徒のために付き合ってくれている先生は、本当に優しい。
その優しさが嬉しくて。あったかくて。

「ありがとー。」

謝っても返事をしない先生が、どんな顔をしているか見るのが怖いから、じっと間抜けな顔の父を見つめたまま、小さく小さく呟いた。
すると、上から笑っている声が聞こえてきた。恐る恐る顔を上げれば、やっぱり楽しそうに笑っているイルカ。何が楽しかったのか分からないが、ナルトも一緒に笑うと、イルカが視線を空に向けて、口を開いた。

「これで最後かぁ・・・・・・ってことは、明日は絶対卒業してくれるんだよな。」

空からナルトに視線を戻したイルカがニヤリと笑う。
ナルトは一瞬きょとんとしたが、

「まかせろってばよ!」

笑って言葉を返す。

そう言ったら、先生が少し寂しそうな顔をしたのはきっと気のせい。

父の顔がきれいになれば、この時間ももう終わり。
もう、イルカ先生に追いかけられて、叱られるのもこれで最後。
これで本当に最後なんだ。

・・・・・・寂しいな。

「ナルト・・・」

あと少しで終わりというところでイルカに呼びかけられ、顔を上げる。
そのイルカは恥ずかしそうに目をそらし、頬をかきながら、

「ま・・・なんだ・・・今晩ラーメンおごってやる!」

そうぽつりと呟いた。
その言葉に、ナルトの顔はみるみる輝きを増していく。

「よーし!! 俺さ! 俺さ! がんばっちゃお!!」

そう言った自分に、「おう、がんばってくれよ」と嬉しそうに笑ってくれた先生。
先生も、寂しいと思ってくれたのかな。

・・・そうだといいな。


フフッと笑ったナルトは、それから黙々と父の顔をきれいにしていった。

心の中では「落書きをしてごめんなさい」と「ありがとう」を呟きながら。











あとがき2

この日の夜、イルカ先生とラーメンを食べて、家に帰ったナルトは次の日の卒業試験が楽しみすぎて、あんまり眠れなかっただろうと思います。そして第14話になってしまうのです。
アカデミーの頃のちょっとしたお話でした。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

そしてなんと、↓にもう1つおまけを書いてしまいました・・・。
番外編『本屋のおばちゃん』のお話です。もし、お時間がありましたら、読んでくださると大変喜びます。












おまけ


商店街から少し離れたところ。
金色の少年が大きな袋を片手で持ち、もう片方の手は後ろにいるおばあさんの手を引いて歩いている。その歩はとてもゆっくりで。と、その時、おばあさんがおもむろに口を開いた。

「さっきは本当にごめんねぇ。」

さっき、自分はこの少年を知り合いの青年と間違えてしまったのだ。

「いえ・・・こちらこそ、怖がらせてしまいすみません。」

そう言って、顔だけこちらに向けた少年はどんな表情をしているのだろうか。唯一見えている色で判断するならば、2つの青色が少し細くなっていたから、“苦笑い”というところだろうか。じっと見つめてしまったせいか、少年はまた前を向いてしまった。
・・・目が悪いのは本当に不便だ。ものの輪郭がぼやけてはっきりとしない。
それでも、この少年の持っている色が見えるだけでもありがたい。今目の前に広がっている金色が髪の色で、さっき見えた2つの青、それは目だ。服の色はオレンジとどれも派手な色彩で、自分にはちょうどいいくらい。
そして、繋がれた手がとてもあたたかい。その手はあの青年とそっくりだ。背とかはよく見れば違うけれど、雰囲気とか、歩く早さがあの青年とそっくりなのだ。
おばあさんは繋がれた手を見てフフッと笑う。

「ナルトちゃんも、忍者さんなのよね。」

そう言うと、ピクリと震えたナルトの手。その反応が少し悲しい。
自分が「ナルト」の噂を知らないわけではない。大人たちならみんな知っていることだ。だが、自分はどうしてもあんな風に嫌う気にはなれなかった。
というのも、いつも一緒にいてくれたミコトも今のナルトと同じ反応をしていたからだ。
一緒に買い物に行くと、時々何かに反応して震えていたミコトの手。それはだいたいが「ナルト」の名が聞こえてきた時だった。
その震えも一瞬のことで、ミコトの声には全く変化がないから、初めは自分の気のせいかと思っていた。でも、それは一度や二度じゃなかった。「ナルト」という名が聞こえるたびに震えていたミコトの手が何かに怯えているようで。そんなミコトの様子を感じていたから、「ナルト」という子が嫌いになんてなれなかった。
おばあさんの問いに、ナルトは静かに「はい」とだけ答えた。

「さっきね、あなたと間違えたミコトちゃんもね、忍者さんなのよ。」

あなたとそっくりなの、と言えば、そうなんですか、ときちんと言葉を返してくれたナルトの手は、いつの間にか震えが止まっていた。

「あなたの手、ミコトちゃんとおんなじだわ。」

「同じ・・・ですか?」

「ええ。」

また見えた綺麗な2つの青に、おばあさんはにこりと微笑む。

「何年も前から今のナルトちゃんみたいに、一緒に買い物に行ってくれてた子なんだけどね・・・ある日、私が倒れてしまったことがあったの。」

気づいた時には白い空間の中にいて。自分のそばには金色がぽつんと佇んでいた。
それが見えたとき、ここは天国かと思った。そしてその金色は天使。
天使って言ったら、笑っているものだと思っていた。だけど、その天使は自分の想像しているものとは違った。

「死んでもおかしくないような状態だったのだけど、泣き虫な天使さんに助けてもらったのよ。」

天使がぎゅっと自分の手を握って、「良かった」と呟いた声が震えていたから、顔を見なくても泣いていることが分かった。天使も泣くんだな、と思ってその子の顔を覗き込んだら、2つの青い目とぶつかった。

「その天使さんが、ミコトちゃんだったの。」

その目を見て、初めて自分が生きていることが分かったのだ。
助けてくれただろうミコトにお礼を言うと、

「その子ね、『絶対に立派な医療忍者になります』って、私に言ってくれたの。」

泣きながら、何度も何度も。

「本当にとてもいい子なのよ。」

と笑えば、ナルトは何故かサッと顔を隠すように前へ戻した。
おばあさんの話が始まってから、ナルトはずっと黙ったままだ。しかし、おばあさんは気にせず話し続ける。

「そのミコトちゃんとあなたは同じ手をしているわ。」

とっても、とってもあたたかい、泣き虫な天使とおんなじ手。

「忍は、人を殺めなければならない時もあるけれど・・・あなたの手は人を救うことができる手だわ。」

この里で暮らすには、あなたにとってとても厳しいだろうに、こんなにも優しい心を持っている。
それは本当にすごいこと。


「大丈夫よ。あなたなら、きっと幸せになれるわ。」


先ほどからずっと何も反応を示さない金色を見ながら、おばあさんはニコリと微笑んだ。と、その時、ナルトが突然立ち止まった。それに気づいて周りの景色を見てみたら、見覚えのある色彩ばかりに囲まれたところで。
どうやら、自分が話している間にも、家に着いてしまったらしい。もう少し、この色を見ていたかったのだけれど、しょうがない。
そう言えば、何故この子が自分の家を知っているのだろうか、とふと思ったが、

「今日はありがとうねぇ。」

そんな些細なことは気にしない。
おばあさんが荷物を受け取りながらそう告げると、「いいえ」と言って、ナルトはすぐに駆け出してしまった。突然のことに少し驚いてしまったが、小さくなっていくオレンジに笑って、

「ナルトちゃん。また一緒に買い物、お願いできないかしら。」

いつもより、大きな声を出して言ってみる。すると、立ち止まったオレンジが、振り向きもせずに、


「うん!」


と返事をして、そのまま走り去っていった。






家の中に入ったおばあさんは、さっそく荷物の整理を始めていた。が、

「あら・・・?」

一番上に乗っていた果物を掴むと、何か液体のようなものが手についたことに気づいた。他の果物を調べてみたら、濡れているものはそれしかなくて。
その果物は、さっきからずっと見ていた色と同じ色を持っていた。おばあさんは手に乗ったそれを見て、フフッと笑う。


「泣き虫なオレンジさん。」


そのオレンジは、キラキラと輝いていた。
泣いているオレンジの涙を拭ったおばあさんは、それを机に置くと、そのまま何かを探しに行ってしまった。
数分後、戻ってきたおばあさんの手にはかわいらしいバスケット。そのバスケットを机に置き、袋に入っていた果物たちを次々に乗せていく。
そして、最後に乗せたのは泣いていたオレンジだ。


「これでもう、大丈夫ね。」


そう言って、目を細めて微笑んだおばあさんの目の前のバスケットには、


泣き虫なオレンジがたくさんの果物に囲まれて、笑っていた。











あとがき3

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!!
このお話のヨモギさん(おばあさんのお名前です)たちを気に入ってくださった方がいらっしゃって、あまりの嬉しさに書いてしまいました。
いかがだったでしょうか・・・?

受験ももう1ヶ月をきっていますが、少しずつ気分転換に書いていきたいと思います。
これからもよろしかったら、足をお運びください。


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