本体さんもいろいろと大変そうですね。
アンコさんたち、ちょっと怖いです・・・。
それにしても砂忍のくの一の方は強いです。
テンテンの武器攻撃を完封してしまうなんて・・・。
意識のないテンテンが投げ飛ばされたのをリーが受け止めましたが、あれはひどすぎます!
一生懸命戦った相手にそんなことするなんて!
テンテンを助けたリーを「いつまでもそんな見苦しい保護者同伴の男」なんて言うひょうたんを背負った少年の目は、
やっぱりとても冷たいです。
見ているこちらも辛くなってきます・・・。
あ、ガイ上忍がリーの隣に立って・・・
「この子は強いよ・・・覚悟しといた方がいい・・・。」
砂忍の方々に向かって宣言しましたよ! かっこいいです!!
そうです、リーはとっても強いんですよ。
って、あれ、サクラちゃん・・・前に出て一体何を・・・?
NARUTO ~大切なこと~ 第30話
突然一歩前に出たサクラは、思い切り息を吸い始めた。そのサクラの行動にナルトはどうしたのだろうか、と首を傾げた次の瞬間、
「あんな奴らに負けるんじゃないわよ、ナルト!」
そう叫んだサクラに目を見開いた。
「サ・・・サクラちゃん・・・!」
サクラが今まで自分にこのようにはっきりと応援してくれることはなかった。
初めの頃は邪魔者扱いだった自分が、やっとここまでくることができたなんて。
ちょっとしたことだけれど、それがすごく嬉しくて。
はにかむように笑ったナルトにサクラは話を続ける。
「こんなとこで負けたら男がすたる! あとでサスケ君に合わす顔がないわよ!」
「オウ!!」
その通りだ。自分をこうやって見てくれているサクラやカカシ、ここにはいないけれどイルカだって応援してくれている。
少しずつ増えてきた大切な人に応えたい。
ナルトが威勢よく返事をすると、サクラは顔を背けてボソリと呟いた。
「それと・・・さっきはアリガト・・・。」
その言葉にナルトは一瞬だけ驚いて、すぐにニッコリと笑った。
きっと、そのお礼はいのとの試合の時のことを指しているのだろう。
「サスケとサクラちゃんががんばったんだから、俺もがんばるってばよ!!」
そう言ってナルトは第六回戦がもうすぐ表示されるだろう電光掲示板をじっと見つめる。
「よーし! 早く! 早く! 俺の番!!」
「次は! 次は! 僕の番の気が・・・!!!」
ナルトの隣に下からスッと戻ってきたリーがそう言った瞬間、ナラ・シカマルVSキン・ツチの文字が現れ、2人ともガックリと項垂れた。
「勝者、奈良シカマル!」
すぐに始められた第六回戦はあっという間にシカマルの勝利で終わった。
シカマルの影真似の術は第二の試験の時にすでに対戦相手である音忍のくの一、キンには見られている。が、シカマルにはこの術しかなかった。
試合開始とともに影真似の術を仕掛けるがそれは簡単に避けられ、相手は鈴の付いた千本を投げつけてきた。それをしゃがむことで避ける。その鈴の付いた千本の意味、それは、
「古い手使いやがって・・・お次は鈴を付けた千本と付けてねーフツーの千本を同時に投げんだろ!!」
これは鈴の音に反応してかわしたつもりでいたら、音のない影千本に気づかず刺されてしまっていたということになるような攻撃だ。しかし、
チリン チリン
背後で突然鈴の音が鳴ったため、シカマルは振り返ってしまった。そこには先ほど投げられた千本があり、その鈴に糸がついていたのだ。
しまったと思い、すぐにキンの方に振り返るがそれは少し遅く、すでに3本の千本が襲い掛かっていた。それを腕で防ぐが、ドサッと倒れてしまう。倒れたシカマルに止めを刺そうとしたキンはすぐに異変に気づいた。
「フー・・・ようやく影真似の術成功・・・。」
そう、シカマルは倒れている間にも相手に気づかれないように影を伸ばしていたのだ。
その言葉にどこに影なんかあるのか、と驚いているキンに、親切にも教えてあげる。
「こんな高さにある糸に・・・影が出来るわけねーだろ!!」
キンの持っていた糸の下には糸と同じくらいの太さの影が出来ている。それは次第に太くなり、完全にシカマルとキンの影は繋がった。そして、
「手裏剣の刺し合いだ。どこまでもつかな!」
シカマルは相手も同じ動きをするというのに手裏剣を投げつけ、
ゴン!!
明らかに手裏剣が刺さった音ではない音が会場に響いた。
「へへへへ・・・いっちょあがり・・・。」
そう言ったシカマルはブリッジの状態から体を起こした。
「忍ならな・・・状況や地形を把握して戦いやがれ!」
お互い同じ動きをしていても、シカマルとキンの後ろの壁との距離が違ったのだ。
先ほどの鈍い音はキンが壁に頭をぶつけた音だった。
「手裏剣は後ろの壁に注意がいかないよう・・・気をそらすのに利用しただけだ・・・・・・。」
起き上がらないキンは医療班によって運ばれ、シカマルの勝利が決まったのだった。
シカマルの勝利にいのやチョウジが喜びの声を上げる。
――シカマルは中忍になりそうですね。
シカマルの試合をじっくり見ていたナルトは思う。
相手の鈴に一度は動揺しているように見えたが、その間にもすぐに次のことを考えられる冷静さは、忍として絶対に必要なことである。シカマルの頭の良さはずっと前から知っている。おそらくこの下忍たちの中で一番に中忍になるだろう。
「シカマルスッゲーってばよ!!」
いのたちに負けじとナルトも声を上げた。
少し照れたように帰ってきたシカマルから「お前もがんばれよ」と声をかけられ、ますます気合を入れる。
第六回戦を終え、残り4つとなった試合。いったい誰と戦うことになるのかと、電光掲示板を見る。と、そこには、
「来た来たぁよっしゃー!! おまたせしましたぁ! やっと俺の出番だってばよぉ!!!」
掲示板に現れた文字はウズマキ・ナルトVSイヌヅカ・キバだった。
「ナルト・・・か。」
掲示板を見てそう呟いたキバに赤丸はクゥ~ンと鳴く。
できればナルトとは当たりたくなかった。しかし、当たったからには戦わなければならない。
よしっ! とキバは覚悟を決めて赤丸とともに下へと行く。
「第七回戦!! うずまきナルト対犬塚キバ!」
ハヤテの声で向かい合う形になった2人。ナルトはやる気満々のように見えるが、どこか様子が違う。
――そりゃそうだよな。
キバとナルトはアカデミーからの友達だ。ナルトが誰よりも優しいことを知っている。
自分もここで負けるわけにはいかないが、やはり戦うならば本気で戦ってもらいたい。
そう思ったキバはニヤリと笑った。
「お前、医療忍者になりたいんだってなぁ。」
「そうだってばよ。」
怪訝な顔でそう返したナルトにキバはクク・・・と笑う。
「あの時風邪引いた奴が医療忍者なんかなれるのかよ?」
あの時、大丈夫だと言ったくせに風邪を引きやがったこいつ。
「ムっ・・・あの時は油断したんだってばよ!」
「へっ、何が油断だよ。」
あの時、それはキバとナルトが初めて会った時のことだ。
――やべぇ!! 赤丸のやつ大丈夫か!?
アカデミーも残すこと1年となったある日、キバはある先生に赤丸を連れていることを注意され、その日はしぶしぶ校舎の外に置いておいた。そして放課後である今、その先生に呼びだされて「もう連れてくるな」と叱られていたのだった。
赤丸を迎えに行こうと外を見れば雨がザーザーと降っている。
たまたま置き忘れていた傘があったからいいものの、いつから降りだしていたのか、地面を見ればもう乾いたところなど見当たらない。
キバは傘を差して急いで赤丸を置いてきた場所へと向かう。
人に見つからないように木陰に隠しておいたが、この雨の中ではきっとずぶ濡れだろう。
ビチャビチャと音を立てながら校舎の裏へと回る。そして、そこに生えている一番大きな木の下にいるはずだ。
「え・・・。」
しかし、そこにいたのは赤丸ではなかった。
――こいつは確か・・・
キバの目にまず飛び込んできたのは金色の髪。その色はこのアカデミーの問題児が持っている色だ。キバも時々その色を目にすることがある。
そいつは2回も卒業試験に落ちていて、今年初めて同じクラスになった。いつもいたずらをしてはイルカに追いかけられて楽しそうにしているそいつ。
変な奴だ、と思ったが、金髪にオレンジと派手な色をしているためつい目で追ってしまう。しかし、今この場にいるそいつの髪や服の色はいつもより少し暗い色をしていた。
――何やってんだよこいつ・・・!!
色が違うのは当たり前だ。
どこをどう見てもそいつはびしょ濡れなのだ。傘も差さずに膝を抱えて座っている少年。唯一濡れていないのは、お腹の部分だけではないだろうか。キバが唖然としていると、その子がこちらに気づき、顔を向けてニコリと笑った。
「俺、うずまきナルトっていうんだ! お前、犬塚キバだろ?」
そう言って立ち上がり、上着のお腹の部分に手を入れた少年。
「独りは寂しいからさ・・・・・・一緒にいてあげろってばよ。」
一瞬、なんのことか、と思ったキバの目の前にズイッと出されたのはここに置いていた赤丸だった。突然のことに目を丸くしたキバと、雨の中でニシシと笑うナルト。
これがキバとナルトが初めての出会いだった。
この後、ずぶ濡れのナルトを心配したキバに対し、ナルトが大丈夫だと言ったのだ。
そしてその次の日、見事にナルトは風邪を引いた。
――何が大丈夫・・・だ。
キバはあの時を思い出して苦笑する。しかし、今は試合だ。思い出に浸る時ではない。
「そう簡単に油断する奴が医療忍者なんかなれるわけねーだろ! それに万年ドベのお前が医療忍術なんて使えるのかよ!」
その言葉にさすがのナルトも怒りを顕にした。
「俺の夢をバカにする奴はいくらキバでもゆるさねー!! いいってばよ・・・医療忍術、見せてやるってばよ!」
ナルトがそう言うと、ハヤテが試合開始の声を上げた。
その直後、キバは赤丸に手を出すなと指示を出す。
「せめてもの情けだ・・・キレーに一発でのしてやんよ!」
そう言ってキバはバッとしゃがみこみ、印を組む。
――擬獣忍法・四脚の術!!
これは一時的に獣のように四本足で走り、速力を上げる術だ。
「行くぜ・・・。」
その瞬間、キバは一瞬でナルトのお腹に肘鉄を食らわせる。
それを直撃したナルトは吹っ飛び、ドカッと思い切り床に叩きつけられた。
――頼む・・・立たないでくれ・・・!!
キバは倒れているナルトをじっと見つめる。
今の攻撃をまともに食らったナルトが立てるとは思わない。が、こいつが何か力を隠しているのはアカデミーの頃から薄々感じていた。
本当はドベだなんて思っていない。
ああでも言わなければ、ナルトが本気で戦ってはくれないと思ったからつい口から出てしまった言葉。きっと傷つけたに違いない。
思えば自分はいつもナルトを無意識のうちに傷つけていた。すぐに思ったことを口にしてしまうから、いっぱい傷つけてきた。それは目に見えるものではなくて。
目に見えない傷は一度つけたらなかなか治るようなものではない。
お前はどれだけ見えない傷を抱えているのだろうか。
だから、せめて目に見える傷だけでも増やさないでほしい。しかし、
「俺をナメんなよ!!!」
ナルトは口から血をたらしながらもその場にしっかりと立ち上がった。
「血ィ流して何言ってやがんだ・・・強がんのもたいがいにしろ!」
自分はこんな言い方しかできないから、立ってほしくなかった。
「手ェ抜いてやったんだってばよ! お前の力みるのにな! お前こそ強がってねーで赤丸使いやがれ!! 手加減なんていらねーってばよ!」
キバはその言葉にハッとした。
ナルトに本気で戦ってほしいと思いながら、自分は手加減をしている。
なんて矛盾だろうか。
この自分の思いはただの自己満足であって、相手にとって失礼ではないか。このこと自体がまた相手を傷つけている。
――俺ってつくづくバカだよな。
これは忍の戦いだ。
いつだって目に見える傷は付き物だ。ナルトはそのことをよくわかっている。
きっとあんな酷いことを言わなくてもナルトだったら本気で戦ってくれたはずだ。
「・・・後悔すんなよ!」
この戦いが終わったら謝ろう。
「行くぜ、赤丸!!」
その言葉にワン! と返事した赤丸とともにキバも走り出す。その時、こっそりポーチから取り出したもの、それは、
「くっ・・・」
ナルトの周りを白い煙が覆い尽くしていく。そう、キバが取り出したものは煙玉だった。ナルトは視界が塞がれるが、キバには匂いで場所を掴むことができる。
煙の中でキバはナルトに攻撃を加えていく。それから逃れるためにナルトが煙から出ると、
「ワン!」
襲い掛かってきたのは赤丸だった。それにはキバもニヤリと笑みを浮かべ、煙から出る。
「うわぁ!」
赤丸に腕を噛まれたままナルトは煙の中へと倒れていった。そして、
「ワン!」
煙が晴れたそこには倒れているナルトとおすわりをしている赤丸がいた。その赤丸はキバに向かって元気よく戻ってくる。キバはその赤丸を良くやったと誉めてやろうとした次の瞬間、
ゴンッ!!
勢いよく飛び跳ねた赤丸がキバに思い切り頭突きをしたのだ。
「ぐっ・・・!!」
1人と1匹は無言で頭を押さえて悶えている。が、赤丸が突然ボンッと煙を上げた。
「いってぇぇえ!!」
煙を上げた中からはやっぱり頭を押さえて悶えているナルトが出てきた。
キバはそれには頭の痛みがどこかにいってしまうほど驚いた。
アカデミーでは一度も変化の術など成功したこともなかったナルトが目の前で自分がだまされてしまうほど完璧に変化してみせたのだ。
やはり、今目の前にいるナルトはあの頃のナルトではないのだ。
そこまで考えたキバはハッとする。
「くそ! 赤丸はどこだ!!?」
自分の目の前には痛みに悶えているナルトしかいない。キバはキョロキョロと赤丸を探しはじめると、視界に入ったのはもう1つの金色。
「ナルト!? お前赤丸に何したんだよ!!?」
もう1つの金色、それはもう1人のナルトだった。そのナルトの腕の中にはピクリとも動かない赤丸がいる。己の声にも全く反応を返さない赤丸に顔が青ざめていくキバ。そのキバの様子に赤丸を抱いていたナルトが苦笑をもらした。
「寝てるだけだってばよ。」
「へ?」
キバは思わず間抜けな声をもらした。
ナルトは優しい顔で赤丸の頭を撫でている。それはずっと前から変わらない。赤丸はナルトに撫でられるのがとても好きだった。しかし、戦いの場で撫でられただけで眠ってしまうだろうか。
キバが不審な眼差しでナルトを伺うと、ナルトはゆっくり赤丸を床に置き、キバに説明し始めた。
「医療忍術の1つ、掌仙術だってばよ。これは治療だけじゃなくて、相手を眠らすこともできるんだ。」
赤丸はあと30分くらいは眠ってるってば、と言うナルトにカカシとサクラ以外の者たちが驚愕し始めた。それはそうだろう。影分身や変化がまともにできることでさえ驚きなのに、医療忍術である掌仙術まで扱えるのだ。
あのアカデミーの頃のナルトとはまるで別人である。しかし、カカシとサクラ以外にも驚いていない者はいた。
「ちょっとー! あんたたち、なんでそんな平然としてるのよー!?」
あのナルトが影分身に変化の術までしておまけに掌仙術まで使ったのよー!? と、驚くいのに対し、平然としている者。それは、
「だって、なぁ。ナルトだし。」
「そうそう、ナルトだもん。」
メンドクセーと呟くシカマルと、当然でしょ、とでも言うように言葉を返したチョウジだった。
4人はアカデミーでもずっと友達だったのだ。ナルトに何かあるのはみな薄々気づいていた。それはもちろんキバも同じで。
――メンドクセー奴。
どちらのことを言ったのか、シカマルは心の中で呟き、じっと試合を眺めていた。
2人の言葉にいのはただただ首を傾げた。
「お前が医療忍術を使えることは分かった・・・・・・ナルト! 遠慮なく行かせてもらうぜ!」
キバはそう言うと、ポーチから何かを取り出しそれを口に含んだ。それを見て、悶えていたナルトも慌てて立ち上がり呟いた。
「兵糧丸・・・!」
キバが食べたもの、それは兵糧丸だった。
兵糧丸とは服用した兵が三日三晩休まず戦えるとまで言われる秘薬である。
高蛋白で吸収もよく、ある種の興奮作用、鎮静作用の成分が練りこまれている。
これによって、今のキバのチャクラは一時的に倍増しているのだ。
――赤丸は眠っちまって戦えねぇが・・・
1人で十分だ、とキバは判断し、スッと印を組むと、
「擬獣忍法!!」
まるで本物の獣のような目つきと動きになった。
「行くぜぇ!! 四脚の術!!」
キバはまず赤丸を抱いていた方のナルトへと攻撃を仕掛ける。この術と兵糧丸によって、上がった速さに狙われたナルトは避けることができず直撃した。しかし、
「チッ、影分身か!」
それはボンッと煙を上げて消えてしまった。本体はどうやら頭突きをかましてきたほうらしい。
――これ以上また増えられたら困るからな!
クルッと振り返れば、こちらを睨んでいるナルトがいる。すると、ナルトが十字の印を組もうとしているのが目に入った。
「させるかよ!」
キバは再び四脚の術でナルトに襲い掛かる。それに必死で避けるナルトの体にはだんだんと傷が増えていく。そしてナルトがキバの攻撃を避けるために高く跳び上がった時だ。
「食らえ!! 獣人体術奥義!!」
――通牙!!!
キバは体を高速回転させ、その状態でナルトに体当たりを食らわせる。空中での攻撃だ。ナルトは避けることができるはずがない。そう思われた。が、
「影分身の術!!」
咄嗟にナルトは影分身を一体作り、その分身を踏み台にしてさらに高く跳び上がり、クルクルと回転しながら地面に着地する。踏み台となった影分身はキバの通牙によってボンッと煙を上げて消えた。
そんなナルトに、なかなかやるじゃん、と呟いたキバに対し、当たり前だってばよ、と返したナルトの顔には少し焦りが見えていた。
そしてそれはもう1人。
「どうかしたのか、ミコト。」
火影様は今までじっと黙っていたミコトが、突然片手を胸に当ててほっと息をついたのを不思議に思い尋ねた。
「いえ、なんでもありません。」
その問いにすぐに笑顔になって答えるミコトに火影様はそうか? と言ってまた試合の方へ顔を向けなおす。しかし、ミコトはまた今度は火影様に気づかれない程度に息を吐いた。
――獣人体術奥義・・・いくら下忍とはいえ、奥義は奥義です・・・。
そう、奥義を食らってしまえばあのナルトは消えてしまうのだ。
「ナルト」はドベのままでいることを決めたのは自分だが、見ているこちらはヒヤヒヤしてしまう。
上手く決着がつくことを祈って、ミコトもその試合をじっと見つめた。
「上手く避けやがったな!」
次はそうはいかねぇよ! とキバは冷静に分析を始める。
ナルトは実際、自分の動きについてこれていない。だから、よく見てまた隙をつけば、四脚の術で確実に後ろを取れるはずだ。
キバがサッと手裏剣を両手に構える。すると、
「俺もとっておきの新必殺技でケリつけてやるってばよ!!」
ナルトはそう言ってスッとまた十字の印を構える。キバはナルトの“新必殺技”という言葉に反応したが、
「どんな技か知らねーが! そんなもんやらせなきゃいい!!」
持っていた手裏剣をまだ術を発動させていないナルトに投げつける。それをナルトは上手く避けると、「うオオオ!!」と叫び、術を発動させようとする。が、
「遅い!」
キバはもうすでにナルトの背後をとっていた。
「くらえーー!!」
おそらく最後の一撃になるだろう攻撃をナルトに食らわせようとした、まさにその時、
ぷぅ~
「あ!」
「ウギャーーーー!!」
気の抜けた音の後、ナルトが短く声を出し、キバが叫んだ。
試合を見ているもの全員が絶句した。
しんと静まり返った中、キバの苦しそうな叫び声が木霊している。
「くっそー! 力みすぎた・・・・・・!」
そう、ナルトは術を発動しようとして力みすぎて屁をしてしまったのだ。
獣化しているキバは今、通常の何万倍もの嗅覚になっている。その状態でナルトの背後に回ってほぼそれを直撃してしまったのだ。
「ぐくぅ・・・。」
いまだにキバは鼻を押さえて苦しんでいる。
「こ、こっから新技の見せどころだってばよ!!」
キバが動けないのをチャンスに、ナルトは4体の影分身を作り出す。そして、
「う!!」
1体がキバを殴りつけ、5体のうち1体だけが高く跳び上がる。
「ず! ま! き!」
残りの3体がかけ声に合わせてキバを下から思い切り蹴り上げた。そして最後に、
「ナルト連弾ー!!」
宙に浮いたキバを、初めに跳び上がっていたナルトの踵落としで地に叩き付けた。それによって、もうキバが立ち上がることはなかった。そして、ナルトの影分身が消えたその瞬間、
「勝者、うずまきナルト!」
ハヤテの判定が下された。
「・・・・・・本当にどうかしたのか、ミコト。」
今度は額を押さえて顔を青ざめているミコトに心配して火影様が声をかける。すると、ミコトはすぐに手をどけて笑顔を作った。
「い、いえ、なんでもりません・・・。」
大丈夫です、お気になさらないでください、と言ったミコトの顔色はものすごく悪い。本当にどうしたのだろうか。無理せず寝てろと言いたいが、ミコトが頑固者であるのは自分が良く知っている。
「あまり無理するでないぞ。」
そう言うと、ミコトは素直に「はい。」とだけ返事をした。
――あれは自分であって自分じゃないあれは自分であって自分じゃ・・・・・・
ミコトは先ほどのナルトのあれをずっと気にしていた。
あれは人間としては当たり前のことであって、しょうがないものがある。が、しかし。
しかしだ。
あの隙の作り方はあんまりではなかろうか・・・。
それにあの最後の新技は明らかにサスケを意識したものである。
そう考えるとますます落ち込んでいくミコト。と、その時、
「のう、ミコト。」
ミコトがパッと顔を上げると、前を向いたままの火影様。ミコトが「どうかなさいましたか?」と首を傾げると、火影様は顔をこちらに向けることなく話し始めた。
「あの、今勝ちおったナルトなんじゃが、おぬしのように医療忍者になりたいそうじゃ。」
「・・・ええ、そうみたいですね。」
第一の試験でそう宣言していましたよ、と苦笑する。
「今の試合でも掌仙術を使いよったし・・・あやつももしかしたらおぬしのような医療忍者になるかもしれん。」
その時はしっかり見てやってくれないか、と言う火影様。
ミコトはちらりと火影様の顔を伺い、そして、
「・・・はい。」
火影様があまりにも嬉しそうに柔和に微笑んでいたから、ミコトも目を細めて微笑んだ。
チクリと痛んだ胸に気づかないふりをして。
「おい、ナルト。」
キバは医療班の担架に乗せられ、連れて行かれそうになる前にナルトに手招きをして呼ぶ。
それに気づいて「キバ、大丈夫か?」と言いながら近寄ってくるナルト。
それがなんとも無邪気で。
――本当にお前は変わらねぇな。
どんなにいつもひどいことを言ったって、自分を友達だと言ってくれたこいつ。
だからせめて、試合の初めに言ったことを謝らなければ。
「あのさ・・・お前が医療忍者になれないなんていうのは・・・あれ嘘だ。」
そう言うと、ナルトはきょとんとして、すぐにニカリと笑い、腕を頭の後ろで組んで言った。
「うん、わかってるってば。」
「え?」
思わず間抜けな声を出すと、ナルトは苦笑をもらした。
「お前さ、嘘つくとき人の目見ねぇからさ。」
俺のために嘘吐いたんだろーなーって、サンキューな、キバ! と言ってまた笑うナルトにキバは目を見張った。
ナルトは何もかもお見通しだったのだ。それに、
――あぁ、そうだったな。
あの時も目が合わせられなかったんだ。
「独りは寂しいからさ・・・・・・一緒にいてあげろってばよ。」
雨の中ニシシと笑って、子犬を差し出してきたナルトと名乗る金髪の少年に、キバは目を丸くしたが、すぐにその子犬を受け取って腕の中におさめる。
「か、簡単に言うなよな!! お前だって知ってるだろ!?」
キバは思わずナルトの言葉に反抗してしまった。それも仕方ないだろう。
先ほどある先生にこの子犬、赤丸のことで叱られたばかりなのだ。そのことはクラスのみんなが知っている。突然声を荒げたキバにナルトは苦笑した。
「お前、あの先生に謝ったのかよ?」
「え?」
「だってさ、あれはお前が悪かったと思うってばよ?」
「うっ・・・・・・。」
そう言われたキバは押し黙ってしまった。
ナルトの言う、“あれ”。それは、昼間の出来事だ。
校庭でキバは赤丸とある修行をしていた。それは、
「いけ、赤丸! ダイナミック・マーキングだ!」
「ワン!」
“ダイナミック・マーキング”とは、小便をふりかけて、相手に“マーキング”を施すことだ。その臭いで赤丸とキバは追尾ができるようになる。
キバの命令に返事をした赤丸は高く跳び上がり、見事な小便を披露した。それに喜ぶキバだった。が、
「あ。」
キバの目に入ったのは無言で立っている先生。その先生は心なしか濡れているようにも見える。いや、思い切り濡れていた。
そう、たまたまそこを通りかかった先生にそれがかかってしまったのだ。
そして今の状況に至る。
「お前、見てたのかよ・・・。」
「たまたまだってば。」
苦笑するナルトにキバはため息を吐いた。
確かに自分はあの先生に謝るということをしなかった。しかし、
「あいつが許すわけねぇよ。あいつ、“動物”はだめだって言うしよ。」
キバはそう言って落ち込んだ。先生に呼び出されてこっぴどく言われたのだ。
“動物”をここにつれてくるな、と。と、その時、
「キバ・・・。」
ナルトの雰囲気が突然変わった。ナルトに名を呼ばれたキバはビクリと肩を揺らして恐る恐る顔を向ける。低く己の名を呟いたナルトの顔は無表情だった。しかし、雨のせいか、それは泣いているようにも見えた。
「キバは、赤丸のこと“動物”だと思ってんのかよ。」
「はぁ? 何言ってんだよ・・・赤丸は動ぶ・・・」
キバの言葉は途切れた。ナルトが唐突にキバの肩をガシリと掴んだのだ。
「キバ・・・俺の目を見てもう一度言ってみるってばよ。」
「え・・・。」
「だから、もう一度、おんなじこと言ってみるってば。」
そう言ってじっとナルトは目を見つめてくる。キバはゴクリと喉を鳴らした。
ナルトの目はとても澄んだ青をしていて、見ているこちらが吸い込まれそうだ。
そんな目に耐えられるわけがない。
「赤丸は動物・・・・・・なわけねぇだろ!! 赤丸は」
友達だ!!
キバは心の底から叫んだ。
あの先生に動物だと言われてものすごく腹が立った。先生は赤丸をただの動く塊だというような目で見ていた。その目が気に食わなかった。
赤丸は動物なんかじゃないんだ。
やっと自分だけの忍犬を親から渡されたのだ。
自分のかけがえのないパートナーだ。それをバカにした先生に謝ることなんてできなかった。
思い切り叫んだキバはハァハァと荒い呼吸を繰り返す。すると突然、ナルトが手に掴んだ何かでキバの頬を撫でて、そっと口を開いた。
「うん、赤丸はキバの友達だ。だから、」
泣かないで?
そう言ってニコリと微笑んだナルト。
「・・・・・・はぁ?」
思わずキバは目を見開いた。
自分が泣いている?
手で触れてみれば本当に濡れていて。
自分はいつの間にか泣いていたのだ。それほど悔しかった。
悔しかったんだ。
「俺もあの先生苦手だけどさ・・・明日一緒に謝りに行こうってば。」
「へ?」
キバがナルトの顔を見ると、とても優しく笑っていて。
キラキラと輝いて見えた。
――あ、涙のせいか。
まだ少し目が潤んでいるせいで、ナルトの顔がキラキラしている。でも、そうでなくてもきっと輝いているんだろうな。
「明日、逃げんじゃねーぞ!」
「お、おい!!」
突然振り返って去って行こうとするナルトにキバは声をかける。しかし、
「それ、あげる!」
捨てていいからな! と言って去っていくナルト。
「・・・・・・それ?」
いつの間にかキバの手の中に握らされているそれ。キバはそれを見て驚き、すぐにまたナルトに向かって叫んだ。
「お前!! 明日風邪でも引いて休むんじゃねぇぞ!! 約束だかんな!!」
大声で叫んだら、ナルトがこちらに振り返って、満面の笑みで、
「だいじょーぶ!! 俺ってば風邪なんか引かねーもんねー!!」
そう言い残して、雨の中を走っていった。
キバは去っていくナルトの姿が見えなくなるまでその雨の中を傘を差し、犬を抱いたままポツンとしばらく立っていた。ぼーっとしているキバに赤丸がクゥ~ンと心配そうに鳴いている。その声で下を見れば目に入ってきたのは手の中のそれ。
「・・・・・・湿ってんじゃん・・・。」
手の中のそれは綺麗なハンカチだった。
でも、それはだいぶ湿っていて。
自分が流した涙でこんなに湿ってしまうわけがないじゃないか。
「あいつ・・・バカだよな。」
いったいいつからここにいたんだろうか。
まだ季節は新学期が始まったばかりで。
どう考えたって寒いのに。
ずっと赤丸を抱いていてくれたのだろうか。
「・・・・・・バカだよな。」
捨てられるわけねぇだろ、これ。
キバはポツリと呟いた。
「クゥ~ン。」
赤丸は降ってきた雨に顔を上げる。
そこにはくしゃっと嬉しそうに顔を歪めて泣いている“友達”がいた。
次の日、それはそれはいい天気になった。
「お前、いつにもまして今日はダメダメだったな!!」
そう言ってキバは思い切りナルトの背を叩いた。
全ての授業が終わり、頭の上に赤丸を乗せたキバはこれからさっそく謝りに行こうと思い、ナルトに声をかけたのだ。そのナルトは今日の授業の忍術や体術、全てにおいていつも以上にできが悪かった。まぁ、いつも悪いのでそう大差ないのだが。
キバに思い切り叩かれたナルトは少しよろめいたが、振り返ってニカリと笑った。
「ウッセーてば!! キバもよく逃げなかったな!」
そう言ってニシシと笑う姿は昨日と少し違うような気がするのはなぜだろうか。
キバは少し首を傾げたが、ナルトが「早く行くってば!」とキバの腕を掴んで教員室へと歩いていく。
その掴まれた腕がとても熱かった。
教員室に着くと、「失礼しま~す!」と勢いよく扉を開けてズンズンと入っていくナルトに、キバはまだ心の準備が・・・! と思ったが、もう遅い。
ナルトが立ち止まった先には、昨日自分を叱り付けてきたあの先生が机についていた。
「先生。赤丸のこと許してほしいってば。」
ほら、キバも謝れ、と言って振り向いたナルト。キバはゴクリと唾を飲む。
突然声をかけられた先生は少し驚いた様子でこちらを向き、ナルトを見た途端、目つきが変わった。それは赤丸を見る時とは比べ物にならないくらい嫌な目だった。
「き、昨日はすみませんでした・・・。」
キバは赤丸を腕に抱いて頭を下げる。
確かにあれは誰だって怒るはずなのだ。謝らなかった自分も悪いと思い直すと、意外にすんなりと謝罪の言葉は口から出てきた。しかし、
「お前・・・また“それ”連れてきたのか。」
顔を上げれば、先生が赤丸に指を差していた。その目は昨日と全く一緒で。
そんな先生の態度にキバはギリッと歯を食いしばり、反論しようとしたその時だ。
「“それ”なんかじゃねー!! 赤丸はキバの友達だ!! 先生だからって言って良いことと悪いことがあるってば!!」
「ナルト・・・。」
教員室はしんと静まり返った。そこにいた全ての人がナルトを凝視している。
・・・それだけならいい。
――なんだよ・・・これ!?
その目はまるで汚いものを見るような目で。こんな目は見たことがなかった。
これが本当に同じ人間の目なのだろうか?
ナルトはその視線に気づいているだろうに、ずっとその先生を睨みつけている。
――・・・もういい。
もういいよ。
お願いだからお前がこんなところにいないでくれ。
あんなに綺麗な目をしたお前がこんなところにいなくていいんだ。
キバはもう行こう、と声をかけようとした次の瞬間、
ドカッ!!!!
「ナルトっ!!」
突然立ち上がった先生がナルトを蹴りつけたのだ。
ナルトの小さな体は吹っ飛び、後ろにあった机に思い切りぶつかり、「うっ」と短いうめきをもらした。慌ててキバはナルトのそばへと駆け寄る。
ナルトの顔を覗き見れば、口から血がたれていた。
「・・・おめぇ!!」
キバはナルトを蹴りつけた先生をギロリと睨み、立ち上がる。が、
「・・・・・・ナルト。」
キバの服をナルトはギュッと掴んで放さなかった。ナルトは血を片手で拭い、首を横に振って、にこっと笑った。
「・・・何笑ってんだよ・・・!」
――どうしてだよ?
なんでだよ。おかしいだろ。突然そんなことされてなんで笑っていられるんだよ。
キバはまたギリッと歯を食いしばる。と、その時だ。
「一体どうされたんですか!?」
扉から入ってきたのは鼻の上に一文字の傷がある男。
「イルカ先生!! こいつがナルトのこと蹴りやがったんだ!!」
その一文字の傷の男、イルカにキバはナルトを蹴った人物を指差しながら訴える。イルカは倒れているナルトを見て驚き、すぐに駆け寄った。
「ナルト、お前・・・・・・熱があるじゃないか!!」
「え!?」
どうりで今日はおかしいと思ったんだ、と言うイルカの驚いた声にキバは振り返った。そういえば先ほどからナルトの息遣いは少し荒かった。それに、手だってとても熱くて。
こんな高熱でお前・・・と呟いたイルカは、キバが指差した人物を睨み付ける。
「先生・・・生徒に暴力を振るいましたね。」
そう言いながらイルカはそっとナルトを背負う。
「フン・・・先にわけのわからないことを言ってきたのはそいつだ。」
「何言ってんだよ!! ただ俺たちは昨日のことを謝りに来ただけだろ!!」
蹴ったことを謝りもしない教師にキバは怒鳴りつけた。それでも飄々としているそいつ。しかし、
「先生、このことは火影様に報告させていただきます。」
「なっ!! そ、“それ”はそういうことをされてもおかしくないだろ!?」
イルカの一言で態度をがらりと変えた教師。その言葉にナルトを背負い、教員室から出て行こうとしていたイルカがピクリと反応した。そして、ゆっくりと振り返ったイルカが口を開いた。
「・・・こいつは俺の生徒です。“それ”なんて言い方は許しませんよ・・・。」
そう低く唸るように言ったイルカに教師だけでなくキバまで驚いた。
いつもナルトを叱る姿は見たことがあったが、ここまで怒っているイルカは見たことがなかった。イルカに睨まれた教師は「ヒッ!!」と声を上げて、ズルズルとその場に座り込んでしまった。
それを見たイルカはフンと鼻を鳴らし、部屋から出て行く。それを呆然と眺めていたキバはハッとしてすぐにイルカを追いかけた。
「ねぇ、イルカせんせー。」
「ん? なんだぁ、ナルト。」
イルカがのんびりした歩で、ナルトの呼びかけに応える。キバはイルカの後ろを黙ってついて歩いていた。
「キバの友達の・・・赤丸さぁ、連れてくるの・・・許してほしいってばよ・・・。」
「 !! 」
苦しそうな呼吸でそう呟いたナルトにキバは驚き、足を止めた。
もとはといえば、ナルトがこんな熱で来たのも自分のためだったのだ。
熱でうなされるように「お願いだってばよ、イルカせんせー」と何度も何度も呟いて。
どこまでこいつはバカなのだろうか。
その呟きにイルカは苦笑した。
「俺はダメなんて言ってないぞー。」
イルカのその言葉に「あ、そっか」と言ってナルトはにこっと笑うとそのままスッと眠ってしまった。イルカはまた苦笑をして、ナルトを起こさないように振り返り、キバにニコリと笑う。
その笑顔はいつもの笑みだった。
「キバはこいつの友達か?」
「え・・・あ、その・・・。」
イルカの唐突な問いかけにキバは口を噤んだ。
そういえば、ナルトとは昨日初めて話したばかりだった。今日だって放課後になって初めて話しかけたのだ。なぜ、ナルトは己のためにこんなにがんばってくれているのだろうか。
首を捻ったキバに、イルカは微笑む。
「こいつさ、いい奴だろ? いつもはいたずらばっかするけど・・・ちゃんと謝るんだよ。」
「え?」
「たいしたいたずらじゃないのに、つかまえた後は必ず謝ってくるんだよ。」
イルカはその時のナルトを思い出しているのか、少し悲しそうな顔をした。
「なのにどうしてかな・・・・・・こんなにいい奴なのに友達がいなくてさ。」
「あ・・・。」
――あ、そういえば・・・
ナルトは何をするのにもいつも1人だった。
いたずらをするのも1人。お昼を食べるのも1人。
組み手の相手さえなかなか決まらなくていつも困っていた。
「ま、キバも赤丸を連れてきてもいいが、あれは誰もいないことを確認してから行いなさい。」
「げっ!! 先生知ってたのかよ!?」
ハハハと笑いながら再び歩き出したイルカに、キバはその場に佇んでいた。すると、イルカは振り返らずに、「俺はこいつを送って帰るから、お前も早く帰れよ。」と言って去っていく。
イルカが去った後も、キバはその場でじっと地面を睨み付けていた。
――そう言えばあの時、お礼言ってねぇなぁ。
担架に乗せられて横になったままボーっとナルトを眺めていると、またナルトはニカリと笑った。
「キバ! 早く怪我治せってばよ!」
そう言って会場の上へと戻ろうとするナルトに、結局自分はまた何も言えていないことに気づく。これでは呼び止めた意味がない。
「ナルト!」
呼びかければすぐ振り向いてくれて、優しく笑って、「なんだってば?」と言葉を返してくれる。そんなお前に言う言葉は、
「ありがとな!!」
“ごめん”じゃなくて、“ありがとう”だ。
その言葉にきょとんとしたナルトは、またすぐ笑って、
「俺も! ありがとな!! 俺、」
お前と友達で幸せだ!!
あの頃と全く変わらない笑顔で、そう返してくれた。
キバはちらりと横を見る。担架に乗せられたのは自分だけではない。
横には何の夢を見ているんだか、
幸せそうに眠っている赤丸の顔があった。
これはイルカがナルトを連れて去っていった後のお話。
キバはじっと地面を睨み付けている。その場に残ったのはキバと腕の中の赤丸だけ。
そんなキバの様子に心配した赤丸がクゥンと鳴いた。が、
「よっしゃぁあ!! 赤丸!! 俺はあいつの友達だ!!」
突然ガバッと顔を上げて拳を握ったキバに赤丸は腕から飛び降りる。
そう叫んだキバはとても楽しそうだった。
「帰るぞ!! 赤丸!」
「ワン!」
駆け出したキバに赤丸もついて走る。
1人と1匹は嬉しそうにアカデミーから帰っていった。
その次の日、すっかり元気になったナルトのまわりをうろつく1人と1匹が見られるようになった。
そして、ナルトの周りにはまた1人、また1人、と増えていったそうだ。
ナルトを蹴りつけた教師はイルカが火影様にそのことを報告したため、辞めざるを得なくなった。
あとがき
読んでくださってありがとうございます!!
今回はキバさんとナルトさんメインのお話でした。キバさんの攻撃で、赤丸さんと一緒だと“牙通牙”で、1人だと“通牙”になることを今回初めて知りました。
キバさんの過去話に出てきたあの先生は、ナルトさんの初めての担任です。気づいてくださった方、本当にありがとうございます。
実はナルトさんと一番初めに友達になったのはキバさんでした。この過去のお話を書きながら初めてボロボロと泣いてしまった作者です・・・。いったいどこで!? と思われますよね。自分でもビックリしました。自分の妄想はすごいな、と思います。読者様が泣けるようなお話が書ける文才がほしいです・・・。
センターを受けた皆様、お疲れ様でした。なんとか無事に目標の点数を取ることができました(驚くほど低いですが・・・)。
自分はこれから大変がんばらなくてはならないため、極端に続きを書く時間が減ってしまいます・・・。このお話が書き溜めされている最後のお話だったので、これから暇をみつけては書こうと思いますが、更新がかなり遅くなってしまうと思います。
がんばって書き続けますので、これからもよろしかったら読んでいただけると大変喜びます。
↓にちょっとしたおまけを書きました。よろしかったら、お読みください。
おまけ
「ナルト? 空に何かあるのか?」
「あ、イルカせんせー。」
アカデミーの教室の中で、珍しくおとなしくしているナルトにイルカは思わず声をかけた。そのナルトはずっと空を眺めているのだ。何かあるのだろうか。
「今日、雨降りそうだなぁって思ったんだ!」
「雨?」
イルカも一緒に眺めると、空には太陽が高い位置に見えている。雲など全然見当たらなかった。とても雨が降りそうな天候ではない。
「本当に雨なんて・・・」
イルカがナルトに尋ねようとすると、ナルトの視線が空から校庭の方へと変わったことに気づき、イルカもその視線の先へと顔を向ける。そこには、
「あのバカ!」
あちゃぁと頭を抱えるイルカ。
「あれって・・・犬塚キバと赤丸だってば?」
「お、ナルト知ってるのか。」
たった今、校庭ではキバが赤丸を抱いたまま、ある先生に怒られていた。
「あの先生厳しいんだよなぁ・・・赤丸・・・連れてくるなって言われそうだな・・・。」
あいつもバカなことをして、と呟くイルカに対し、ナルトはずっとその光景を見ていた。しかし、
「あ、おい! ナルト! どこに行くんだ!」
突然教室から飛び出て行こうとするナルトに呼びかける。すると、立ち止まって振り返り、ニカッと笑った。
「独りは寂しいからさ!」
そう言い残し、ナルトは教室を出て行った。
イルカはそんなナルトにため息を吐く。と、窓から校庭を見れば、キバがいつの間にか1人だけになっていることに気づいた。そして、
「あ、雲。」
空にはいつの間にか黒い雲が見え始めていて。
本当に雨でも降ってきそうだった。
――独りは寂しい・・・か。
イルカはじっとその黒い雲を睨み付けて、
――どうか、あいつが独りになりませんように。
そう祈る。
その祈りが叶うのも、
もうすぐ。
あとがき2
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!
次のお話はネジさんとヒナタさんの試合ですが、今度は少しミコトさんが活躍されます。
完結までのプロットは作っているのですが、とにかく時間がなくなってしまったため、書きたくても書けない状態です。それでもなんとか書いていきます!
このような感じでこれからもお話は進んでいくと思いますが、続きを楽しみにしていただけたら・・・と願っております。