“第三の試験”の予選が始まりました。
第一回戦はさっそくサスケですが、サスケなら大丈夫です!
・・・と言いたいところですが、音の下忍たちのそばに立っている上忍・・・大蛇丸が、
なにやらニヤニヤと、とても不気味な顔でサスケを眺めております・・・。
あの赤胴ヨロイという方はカブトさんと同じ班でしたよね・・・。
何かありますね、これは・・・
NARUTO ~大切なこと~ 第27話
開始直後、ヨロイの投げた手裏剣がサスケに襲いかかった。が、
「うらあぁぁあ!!」
すぐにそれをサスケはクナイではじき返す。しかし、サスケの首の痛みが尋常ではないらしく、はじき返すとともに倒れてしまった。そこをヨロイが透かさず鉄拳を振り下ろし、攻撃を仕掛けるも、サスケは転がるように避け、そのままヨロイの腕を掴み、足と腕で固定をした瞬間、
「 !!? 」
サスケの目が驚愕で見開かれた。そして、
「ぐォ!!」
ヨロイは掴まれていた腕でそのままサスケの腹を思い切り殴りつけ、立ち上がると今度は起き上がろうとしたサスケの顔をガッと片手で掴んだ。サスケはなんとか抵抗しようとする。が、
「・・・お前・・・・・・俺のチャクラを・・・・・・」
抵抗しようと上げた腕がバタッと下へ戻ってしまった。
「・・・フフフ・・・今頃気づいたか・・・。」
「ぐぅわぁああ!!」
ヨロイの言葉とともに、会場にサスケの声が響き渡った。
ミコトは思わず眉間に皺を寄せる。
赤胴ヨロイの能力、それはチャクラの吸引だ。サスケのチャクラを全て吸引して、呪印を発動させようとしているのだ。
こんなところでもうすでに大蛇丸によって仕組まれたものを感じる。
「コノォ・・・やろぉ!!!」
サスケは蹴りでヨロイの手から上手く抜け出すと、相手のあごを思い切り蹴り上げた。そしてサスケも一緒に飛び上がり、宙に浮いている相手の背後をとる。
その動きはまさしく“影舞葉”だ。
“影舞葉”とは、相手を木の葉に見立てて追尾する木の葉流体術で、次の技へのつなぎとなるものだ。
――あの時、写輪眼を使ったのですか。
“第一の試験”が開始される直前に感じたリーとサスケの気配。その時、リーと接触したサスケがきっと食らった技なのだろう。それを今この場でそれを使うことができるサスケは本当に天才だと言える。
「くっ・・・影舞葉だと・・・・・・!」
「くらえ!」
影舞葉から次の技を繰り出そうとしたサスケ。が、しかし、サスケの動きが一瞬止まった。
「火影様! もうこの試合は止めます!!」
アンコがサスケの動きが止まったことに反応して透かさず止めに入ろうとする。
見れば首のアザが広がってしまったのだ。しかし、
「アンコさん、止めなくて大丈夫です。」
「何言ってるのよミコト! 呪印が広がってるのよ!?」
アンコが今にも飛び出そうとしているのをミコトは腕を掴んで止める。視線はずっとサスケに向けたままで。アンコもミコトの視線に気づいたのか、「あっ」と言う顔をした。
「いくぜ。」
そう呟いてニヤリと笑ったサスケの首にはもうアザが退いていた。
サスケは気力で呪印を押さえ込んだのだ。
宙に浮いたままのヨロイに激しい蹴りを入れ込み、最後には強烈な踵落とし―獅子連弾―を食らわせて地面に叩きつけた。
地面に倒れたままピクリとも動かないヨロイ。
もう確かめるまでもないだろう。
静まった会場の中を、サスケがムクッと立ち上がる。と、
「これ以上の試合は私が止めますね・・・よって・・・第一回戦、勝者うちはサスケ・・・予選通過です!」
ハヤテの声が会場に響き渡った。その瞬間、ナルトが「やったー!!」と声を上げる。
しかし、その直後サスケがふらりと倒れ掛かった。それにサクラがハッと心配そうな顔をしたが、
「ま! よくやったな」
サスケの背後に現れたカカシが足でサスケの背中を支えていた。
「サスケー!! へへ・・・お前さ、お前さ、ダッセー勝ち方しやがって! ボロボロじゃねーか、バーカ!!」
ナルトのその言葉に上で見ていた者たちは次々に声を上げ始めた。その中でも、
――お、大蛇丸が気持ち悪いです・・・!!
サスケが呪印を押さえ込んでしまったことに驚愕の表情を見せたかと思えば、ヨロイを倒してしまったことに舌なめずりをしながらじっと見つめているのだ。よほど嬉しかったのだろう。
そのサスケはというと、そのままカカシにつれられて会場の奥へと行ってしまった。
そして、電光掲示板に第二回戦のザク・アブミ対油目シノの表示が出ると、その2名が下へ移動し、すぐに戦闘が開始された。
その直後、スッと消えた1つの気配。
ミコトはその消えた気配のあった場所をじっと睨み付け、静かに口を開いた。
「火影様。」
「・・・どうした。」
唐突に声をかけられた火影様が振り向くと、いつになく真剣な面持ちをしたミコトの顔があった。
「突然すみません・・・僕もはたけ上忍のところへ行きたいのですが・・・。」
「おお、そうか。おぬしも行ってくるがよい。」
今カカシが行おうとしていることは、サスケの呪印を押さえ込むための封印だ。その封印術は超高等忍術で、使用できる者もなかなかいないだろう。それを見るのは勉強になると、火影様はミコトの申し出に快く了承を出すと、ミコトは「ありがとうございます」と言って瞬身の術で消えてしまった。
何本もの柱が立っている中、少し空いている空間に黒髪の少年が座り込み、その少年の周りの床には円状にクナイが突き刺されている。そして、少年の首のアザを中心にして、周りに何列もの文字を己の血で書いている銀髪の青年が、「よし!」と言うと、その少年の背後に立った。
どうやら何かの準備が整ったらしい。
「少しの辛抱だ。」
すぐ終わる、と言って青年はすばやく印を組み、少年の首のアザに手を押し付ける。すると、その途端に苦しみ始めた少年。少年の周りに書かれていた血文字がズズズ・・・とアザの方へ吸い込まれるように消えていく。
青年が手を退けたときには、アザの周りを血文字が囲っていた。
これで全てが終わったようだ。
それを施された少年は息も絶え絶えとなっている。
「今度、もしその呪印が再び動き出そうとしても・・・この“封邪法印”の力がそれを押さえ込むだろう。ただし・・・」
全てが終わって話し始めた銀髪の青年。この青年こそ、先ほどの“第三の試験”の予選第一回戦で勝利したうちはサスケを連れ出した人物、はたけカカシだ。そして、“封邪法印”をされた黒髪の少年がサスケである。
「この封印術はサスケ・・・お前の意思の力を礎にしている。」
“封邪法印”とは、呪印の効果を最小限に留める法印術だ。
しかし、その術を施された者が、己の力を信じず、その意思が揺らぐようなことがあれば、呪印は再び暴れだしてしまう。
「ガラにもなく、そーとー疲れたみたいだな。」
その説明が終わった直後、ドサッと倒れてしまったサスケにカカシがポツリと呟いた。と、その時だった。
「封印の法術まで扱えるようになったなんて・・・成長したわね・・・カカシ。」
カカシは背後からかかった声に「アンタは・・・」と言いながら、振り返る。と、そこには忍服を着た長い黒髪の男。
「お久しぶりね、カカシ君。」
「・・・・・・大蛇丸・・・。」
にこやかに挨拶をしてきたこの男こそ、この現状を作り出した張本人、大蛇丸だった。
カカシの顔にはわずかに汗が浮かんでいる。その様子に大蛇丸はニヤリと笑った。
「でも、悪いけどカカシ君には用ないのよ。あるのはその後ろの子。」
「・・・なぜサスケをつけ狙う・・・!」
カカシは大蛇丸から視線を外さず、じっと睨み付ける。すると、視線の先の相手はフンと鼻で笑い、嫌な目つきでカカシを見つめながら言う。
「君はいいわよね・・・もう手に入れたんだからね・・・。昔は持ってなかったじゃない・・・それ。その・・・左目の写輪眼!」
視線はカカシの斜めにつけている額あてへと注がれている。
「私も欲しいのよ・・・うちはの血がね。」
その言葉に、眼光を鋭くしたカカシ。
「サスケにこれ以上近づくな・・・。」
そう言うと己の右腕に雷撃を溜め始める。これはカカシの技である“雷切”だ。
「いくらアンタがあの三忍の1人でも・・・今の俺ならアンタと刺し違えることくらいは出来るぞ・・・!」
すでにカカシの右腕からはバチバチと音が鳴り始めている。しかし、
「何がおかしい・・・・・・。」
目の前の相手は突然笑い出したのだ。そして、その笑いが止まると、カカシをじっと見つめてこう言った。
「すること言うこと・・・全てズレてるわね。」
ニヤニヤと笑っている大蛇丸に、ますます睨みを利かせるカカシ。緊張感が高まってきたその時だった。
「はたけ上忍、もう封印術終わってしまいましたか?」
「え?」
間抜けな声を出したのはどちらのほうだったのか。
「ミ、ミコト!?」
どうしてここに!? と目を開いて驚愕しているカカシの前には、大蛇丸の隣に並んで立っている金色の青年。その青年、ミコトは目を細めて微笑んでいる。
「はたけ上忍、少し落ち着いてください。早くサスケ君を病室に連れて行きますよ。」
そう言うと、すぐに気絶しているサスケのそばへと行き、「うわぁこれが“封邪法印”ですか!」と目を輝かせながらサスケの首もとを見つめるミコト。その言葉にハッとしたカカシは、右腕に溜めていたチャクラを消し去り、大蛇丸に「目的は何だ?」と問いただす。
「最近できた音隠れの里・・・・・・アレは私の里でね・・・これだけ言えば分かるわよね・・・。」
「くだらない野望か・・・。」
「まぁそんなよーなものね・・・で、その為には色々・・・いいコマが必要なのよ。」
大蛇丸の言葉にサスケを診ていたミコトがピクリと反応した。が、カカシはミコトが背後にいるため、そんな様子に気づくはずも無く、大蛇丸をずっと睨み付けている。
「サスケもそのコマの・・・・・・1人ってわけか・・・。」
カカシのその言葉に笑みを濃くした大蛇丸が答える。
「違うわ。サスケ君は・・・・・・優秀な手ゴマ・・・。そして今試験を受けている彼らは・・・ただの・・・」
捨てゴマよ
しんとその場は静まり返った。大蛇丸は依然として笑っている。それにカカシは再び右腕にチャクラ溜め込もうとした瞬間、
「・・・彼らは」
「・・・・・・ミコト・・・?」
カカシは突然背後で声を出したミコトに振り返って顔を向ける。そのミコトはサスケをじっと見ているため、表情は分からない。が、ミコトのこんなに低く、唸るような声は聞いたことがなかった。
「彼らはあなたのことを信じて必死に戦っています・・・そのあなたがそのようなことを言うのでしたら、」
ミコトがスッと立ち上がる。そして、
「!!?」
カカシの目が驚愕で見開かれた。目の前に立っていたミコトが消えてしまったのだ。
カカシは突然消えてしまったミコトを探そうとしたその瞬間、
――なんて殺気なんだ・・・!!!!
クッと思わず声をもらしたカカシ。ミコトが消えた直後、この空間をものすごい殺気が充満したのだ。この殺気のせいで上手く身動きがとれない。
いったいどこから? と動く眼球で探すと、殺気が発せられている場所、それは大蛇丸の背後だった。大蛇丸の背後から見えているのは金色の光。
「僕が許しませんよ・・・。」
その声はミコトのもので、それは大蛇丸の後ろから聞こえたのだ。
――今のは・・・飛雷神の術か・・・!!
じっとミコトを見つめていたカカシが、ミコトの動きを見ることができなかったのだ。目の前で消えた。・・・そんなことはありえない。
考えられることは自分の先生である四代目の異名の由来にもなった術である、“飛雷神の術”しかない。しかし、あれには必ずあれが必要になるはず・・・と考えて思い出すのは、
――あの時か!
ミコトが現れたとき、大蛇丸の横に並んで立っていた。
きっとそのときにこの術に必要不可欠である“術式”を貼り付けたのだろう。
大蛇丸相手にそんなことができるミコトは一体何者だろうか。それに、なぜこの術をミコトが知っているのか。
大蛇丸の背後で殺気を放っているミコトにカカシは息を呑んだ。
その姿があまりにも先生に似すぎていたから。
と、その時、ミコトの前に立っている大蛇丸からククク・・・と笑い声がもれだした。そして、
「あなた・・・まだ1度も任務に就いたことがないんですってね。・・・・・・もったいない。」
舌なめずりしている大蛇丸にカカシは思わず眉間に皺を寄せる。この殺気の中、平然としている大蛇丸はさすが伝説の三忍と言われるだけの忍である。が、カカシは今の大蛇丸の言葉に疑問を感じた。
――すでにミコトと大蛇丸は接触したのか・・・?
大蛇丸はミコトのことを何かしら知っているようだ。
確かにミコトは今まで1度も任務には就かず、医療関係だけに従事してきた。そのため、他の里の者たちには全く知られていないのだ。
医療以外の忍術は見たことがない。が、しかし、今目の前では簡単に大蛇丸の背後をとってしまったミコトがいる。ミコトは他に何を隠し持っているのだろうか。
「大蛇丸・・・」
ミコトが低く呟く。と、その時、大蛇丸の口からゴボッと血が吐き出された。
カカシは突然のことに目を見張った。
大蛇丸の左胸からクナイの先が見えているのだ。
そのクナイは背後に立っているミコトが刺したものだろう。
そこを刺されれば人間であれば死んでいるだろうに、ミコトの殺気は一向に消えない。
それどころか一層増したような気がする。
この場にいるのが耐えられなくなってきたカカシがなんとか口を開こうとする。と、
「きちんと姿を現してください・・・。」
カカシは首を傾げた。ミコトがどこかに向かってそう呟いたのだ。
何のことかと訊こうとした次の瞬間、ボンッと音を立ててミコトの前にいた大蛇丸が消えてしまった。
「影分身か・・・!」
カカシはすぐに姿勢を低くして本体である大蛇丸を探す。が、簡単には見つからない。しかし、ミコトはじっと暗闇の中のある一点を見つめていた。カカシはそれに気づき、その方向へと顔を向ける。と、そこはやはり暗闇だけが広がっているように見えた。が、
「フフ・・・バレてたみたいね。」
あなた、厄介ね・・・、と言って暗闇から出てきた大蛇丸はうっすら汗をかいている。やはりこの殺気の中では誰も平然とはしていられないようだ。眼光がさらに鋭くなったミコトに、大蛇丸がクッと声をもらす。しかし、
「・・・そんな封印してみてもまるで意味ないわ。」
「何!?」
薄笑いを浮かべて言った大蛇丸に透かさず反応を示したカカシ。
「分かるでしょ・・・・・・目的のため・・・“どんな邪悪な力であろうと求める”心・・・彼はその資質の持ち主・・・復讐者なのよね。」
「そこにつけこんだのか・・・だがサスケは・・・」
「いずれ彼は必ず私を求める。力を求めてね・・・!!・・・・・・それとミコト君?」
大蛇丸がにこりと微笑む。
「私はあなたとじっくりお話がしてみたいわ。」
「・・・・・・僕はあなたと話すことなんてありません。」
「あら・・・私はあるのよ・・・・・・ねぇ、ナッ!!」
大蛇丸の言葉は唐突に切れた。
それと同時にガッという音がこの空間に響く。
その音のした場所は大蛇丸がさっきまで立っていた場所だった。深々と地に刺さっているクナイを避けた大蛇丸はニヤニヤと笑っている。
――ミコト・・・?
カカシは大蛇丸の視線の先にいるミコトを見て驚いた。
クナイを投げたのはミコトだと分かっていたが、その彼は何故かかなり動揺しているのだ。こんなミコトは見たことがない。
大蛇丸はそんなミコトにクク・・・と笑いをもらす。
「まぁいいわ。サスケ君、お願いね。」
そう言い残すと大蛇丸はどこかへ去っていってしまった。大蛇丸の姿が見えなくなると同時に消えた殺気。
カカシはやっと身動きが取れるようになると、ミコトをじっと見つめた。
先ほどの動揺はどこへいったのか、もうミコトはサスケのそばに立っていた。
「ミコト・・・大丈夫か?」
「え、ええ・・・あまりにも大蛇丸の視線が気持ち悪かったので、つい・・・。」
苦笑いをしているミコトにホッと息をついた。が、
――それだけであんなに動揺・・・・・・
するかもしれない。
思い出すのは舌なめずりをしてじっとミコトを見つめていた大蛇丸の顔。
誰でもあれには動揺してしまうだろう。少し顔色が悪くなったカカシにミコトは首を傾げたが、サスケを抱きかかえると、
「サスケ君を病室に運びますね。」
はたけ上忍は先に会場に戻られてください、と言ってここから立ち去ろうとする。が、
「ミコト・・・お前、大蛇丸に会ったことがあるのか・・・? それにあの“飛雷神の術”は一体・・・。」
ミコトが振り返ると、真剣な目をして見ているカカシがいた。その目があまりにも鋭かったため、ミコトは思わず苦笑をもらした。
「大蛇丸とは第二の試験でちょっと・・・それと、その術に関しては・・・僕はよく物を口寄せするんです。」
「口寄せ?」
ミコトは抱えていたサスケをまた下にゆっくりと寝かせ、ベストの胸元の所から巻物を取り出した。それは口寄せ用の巻物だ。「見ていてください」と言って、その巻物を広げたミコトはポンッと何かをさっそく口寄せする。それは、
「包帯・・・?」
「そうです。」
にこりと微笑んだミコト。
「患者を治療するのに道具が足りなくなることはあってはならないことです。もちろん、できる限りは自分で持ち運びますけど、緊急の時はこれを使うんです。」
また包帯を巻物に戻すと、ミコトはそれをベストへと仕舞いなおす。
カカシはただそれを唖然として見ていた。もしかして、ミコトは・・・
「口寄せって時空間忍術じゃないですか。物だけでなく動物にも使えますよね。だから人間にも使えないかと思ってやってみたんです。・・・それって“飛雷神の術”って言うんですね。」
知らなかったです、とのほほんとした口調でそう言ったミコトにカカシは開いた口が塞がらなかった。
やはりミコトは知らなかったのだ。
“飛雷神の術”は奥義・極意レベルの忍術。それを知らないとはいえ、いとも簡単にやって見せたミコトの力はいったいどれほどのものなのか・・・。
そんなミコトはと言うと、
――本当は知っていましたけどね。
九尾から四代目の“黄色い閃光”の異名にもなったこの術の話は聞いていた。しかし、ここでそんなことを言うわけにはいかない。それに、自分が四代目の名前を出すのもあまりよくないだろう。何故かみんなから“似ている”と言われるのだ。自分の存在自体ただでさえ怪しいのに、これ以上怪しまれても困る。
さっきの説明の中で、この術を会得するのに物の口寄せから考えたのは本当のこと。とは言っても、普通の口寄せのようにはいかず、術式を考えるのに大変苦労したのは記憶に新しい。
それはともかく、今の説明でおかしいところはないだろう、と腕を組んでうんうん頷いているミコトにカカシは首を傾げた。
ミコトがサスケを再び抱き上げ、やっと病室に運ぼうと歩き出したが、その足はすぐに止まった。カカシはミコトの話を聞いて呆然としていたが、動きが止まったミコトを不審に思い「どうかしたのか?」と声をかけると、パッと振り返ってきた。
「はたけ上忍、サスケ君の病室に暗部をお願いしてもよろしいですか・・・?」
「・・・・・・ああ、そうだな。」
カカシはミコトの言葉に頷く。
またいつ大蛇丸がサスケを襲ってくるのか分からないのだ。ミコトに何人か暗部を送ることを伝えると、そのままミコトは去っていった。それを見送ってカカシも会場に戻ろうとする。が、その歩をふと止める。そして思ったこと。
――・・・・・・ミコトは大丈夫なのか・・・?
大蛇丸はミコトと話をしたいと言っていなかっただろうか?
カカシは手をあごにあてて、う~んと考えていたが、
「ま、あいつなら大丈夫だろう。」
その呟きとともにカカシは消えた。
白い空間に囲まれた中、ベッドに寝かされた黒髪の少年。
その少年の口には呼吸器がつけられ、目の上にはコードのようなものが何本か繋がっているものがのせられている。そして、ベッドの横には金色の長い髪を1つに括った青年が気配なく立っていた。その青年はじっと少年を見つめている。と、突如青年が振り返った。
「ミコトさん、ご苦労様です。ここからは我々が見ていますので早く会場へとお戻りください。」
そう言ってサッと金色の青年の後ろに現れたのは動物のお面をつけた3人の男たち。
その独特な格好は暗殺戦術特殊部隊ものである。
彼らがカカシの送ってくれた暗部だろう。
「よろしくお願いします。」
金色の青年、ミコトは真剣な顔で頷くとまた黒髪の少年へと顔を戻した。
その様子をじっと静かに見つめる暗部。
――こいつも厄介な奴に狙われたな。
暗部3人ともが思ったことかもしれない。
呪印はいくら、綱手を継ぐと言われているミコトでさえどうにもならないものである。
押さえ込むことはできても完全に取り去ることなどできない。ミコトを見れば、複雑そうな顔で黒髪の少年を見つめている。
――まぁ、しかし、ミコトさんがいる限り、呪印で死ぬことはないだろう。
この暗部たちはよくミコトのお世話になっている。
暗部の任務はほぼ死がつきものだ。怪我無しで帰ってこれることなど滅多にない。どんなにひどい怪我でも、帰ってくればミコトがいつも治療してくれるのだ。こうして自分たちが生きているのもミコトのおかげだ。
いくら感謝してもしきれないものがある。
と、考えたところでなかなか会場に戻ろうとしないミコトに再び声をかけようと口を開いたその時、
突然ミコトがフッと少年を見たまま微笑んだ。そして、
「失礼します。」
と言って静かに去っていった。
ミコトの最後の笑みに、暗部たちはただ呆然と立ち尽くしていた。
「よろしくお願いします。」と言うと、ミコトはベッドに寝ている黒髪の少年をじっと見つめた。
あの時の大蛇丸の言葉、
――「目的のため・・・“どんな邪悪な力であろうと求める”心・・・彼はその資質の持ち主・・・復讐者なのよね。」
ニヤリと笑った大蛇丸の顔。
――「いずれ彼は必ず私を求める。力を求めてね・・・!!」
今、目の前で寝ている黒髪の少年、サスケの野望は兄であるイタチを殺すこと。そのために彼は今まで必死に生きてきたのだ。
どんな力でも強くなれるのならば、きっとそちらを選んでしまうのだろう。
できれば大蛇丸などについていって欲しくはない。でもそれは、
――僕のわがままですね。
全てはサスケが決めること。復讐というものを止めることができないのは一番自分が分かっている。
サスケがどこかへ行ってしまう前に、“友達”になりたい。
彼を死なせたりなんかしない。これは自分が誓ったこと。
ミコトはフッと笑うと、後ろの暗部たちに「失礼します」と言って、戻っていった。
あとがき
ものすごく原作で申し訳ございません。
私の書くお話は、ナルトさんが関われば多少変わりますが、ここら辺ではなかなかそういうわけにもいかず、この第三の試験の予選はほぼ原作です。
最後のミコトさんの視点のお話はやめておこうかと思ったのですが、あんまりサスケさんのところを削りすぎるのもよくないかな・・・と思い、残しておきました。
続けて2話更新しようと思いますので、もしよろしかったらお読みください。