第二の試験はアンコさんが試験官です。
僕は全ての試験のお手伝いをするのですが、今回の試験はまた厳しいですね。
「第二の試験」会場、第44演習場・・・別名「死の森」です。
アンコさんが只今この試験について説明を始めようとしているのですが、
・・・・・・影分身が何やらアンコさんに向かって楯突いていますね・・・。
NARUTO ~大切なこと~ 第24話
「“死の森の所以、すぐ実感することになるわ”なーんておどしてもぜんっぜんへーき! 怖くないってばよ!」
ナルトがアンコの言った口調を真似て指差し叫ぶ。すると、アンコはニコッと笑い、
「そう・・・君は元気がいいのね。」
そう言ってシュッとクナイを取り出した。それを見て、ナルトは少し姿勢を低くしたその時、
――うっ・・・さ、寒気が・・・
突然ひどい悪寒を感じた。やたら視線を感じるのだ。
ナルトはギギギ・・・と首を動かしたそこには、にこやかに笑ってこちらを見ているミコトがいた。顔はニッコリ笑っているはずなのに、ミコトの視線がものすごく痛い。
ミコトの目は、さっきの試験の仕返しだとでも言っているようだった。
ナルトはしぶしぶ直立不動の姿勢をとると、アンコの投げたクナイが左頬を掠っていった。
「あんたみたいな子が真っ先に死ぬのよねぇ。私の好きな赤い血、ぶちまいてね。」
クナイを投げてすぐにナルトの背後をとったアンコがフフフと笑いながらナルトの頬の傷をなめ、なんとも恐ろしいことを告げる。と次の瞬間、アンコがまた手にクナイを持ち、バッと後ろに振り返った。
「クナイ・・・お返ししますわ・・・。」
そこには、人間ではありえない長さの舌を出している忍が立っていた。
その舌には先ほどアンコが投げたクナイが乗っている。アンコがそれを受け取ろうとする。が、しかし、
「試験官に殺気を向けるのは良くないですよ。アンコさん、クナイなら僕があげますから。」
とりあえず試験の説明をしましょう、とアンコとその後ろに立っている不気味な忍びの間にいつの間にか割って入ってきたミコトがそう告げる。
突如目の前に現れたミコトに、不気味な忍は軽く目を開き、驚いた様子を見せたが、すぐに平静を装いながら自分の班の仲間のもとへと戻っていった。
その忍の姿をじっと目を細めて見つめるミコト。
――あの草忍の気配・・・気味が悪いです・・・
第一の試験ではあんな気配の持ち主はいなかったはずだ。
教室で受験していた下忍の気配はほとんど把握している。今の下忍の気配は明らかにおかしいのだ。
――この試験・・・何か起こりそうですね・・・
ただの勘だが、そんな気がしてならない。
“死の森”という名前通り、おどろおどろしい森をミコトは睨むように眺めた。
ミコトがそんなことを考えている間、アンコは「ミコトのクナイがもらえる!」とはしゃいでおり、「早く試験の説明をしてくれ」と下忍たちに文句を言われていた。
「ゴホン! それじゃ、第二の試験を始める前にあんたらにこれを配っておくね!」
やっと落ち着きを取り戻したアンコが懐からバッと紙の束を取り出した。その紙の束を見ている下忍たちは頭の上に疑問符を浮かべている。
「同意書よ。これにサインしてもらうわ。・・・こっから先は死人も出るから。それについて同意とっとかないとね!」
私の責任になっちゃうからさーと、これからの試験のことをさも楽しそうに笑いながら説明していく。
第二の試験、それは極限のサバイバルだ。
この第44演習場の地形は鍵のかかった44個のゲート入り口に円状に囲まれており、川と森、中央には塔がある。その塔からゲートまでは約10キロメートル離れている。
この限られた地域内では各々の武具や忍術を駆使してよい。これは、
「なんでもアリアリの“巻物争奪戦”よ!!」
そう言ってアンコは2つの巻物を下忍たちに見せる。
表に“天の書”、“地の書”と書かれた2つの巻物をめぐって闘ってもらうのだ。
現在残っている下忍は78名。つまり26チームが存在している。
その半分の13チームに“天の書”を、もう半分の13チームに“地の書”を与える。
そして、この試験の合格条件は、
「天地両方の書を持って中央の塔まで3人で来ること。」
つまり、巻物を取られた13チーム半分は確実に落ちるようになっているのだ。
ただし、この第二の試験は120時間、ちょうど5日間という時間制限つきだ。この説明にものすごい速さで反応した下忍が1人。
「ごはんはどうするのぉ!?」
木の葉の下忍、秋道チョウジだった。
ミコトとナルトはチョウジに哀れみの眼差しを向ける。
この試験は5日間自給自足で過ごさなければならない。いつでもどこでもお菓子を手に持って食べていたチョウジにはこの試験はかなり過酷なものだろう。
自給自足と聞いたチョウジがガクッと項垂れている。
自給自足といっても、森は野生の宝庫だ。食べ物はたくさんあるだろう。しかし、人食い猛獣や毒虫、毒草なども存在するから気をつけなければならない。
そして半分の13チーム全てが合格することはまずありえないだろう。
行動距離は日を追うごとに長くなり、回復に充てる時間は逆に短くなってゆく。それに辺りは敵だらけでうかつに寝ることもままならない。
つまり、巻物争奪戦で負傷する者だけでなく、コースプログラムの厳しさに耐えきれず死ぬ者も必ず出るのだ。
「続いて失格条件について話すわよ!」
アンコがさわやかな笑顔で説明を続ける。
失格条件1つ目は、時間以内に天地の巻物を塔まで3人で持ってこれなかったチームだ。
2つ目は班員を失ったチーム、又は再起不能者を出したチームだ。ルールとして途中のギブアップは一切無しで、必ず5日間は森の中にいてもらう。
そして最後、巻物の中身は塔にたどり着くまで決して見てはいけない。中忍ともなれば超極秘文書を扱うことも出てくるため、信頼性を見るのだ。
「説明は以上! 同意書3枚と巻物を交換するから・・・その後ゲート入口を決めて一斉スタートよ! 最後にアドバイスを一言、」
死ぬな!
初めて真剣な表情を見せたアンコに、下忍たちも気を引き締める。
この試験では3人のうち誰が巻物を持っているかもわからない。と言うことは自分の班以外の全員が敵なのだ。同意書を受け取り、その意味を理解した下忍の中には深刻な顔をしている者もいる。
その中にはサスケもいた。
緊張した面持ちで同意書にサインをしているサスケをミコトはじっと見つめていた。
――サスケは僕が死なせませんよ。
とは言っても影分身の僕ですが・・・
それは心に決めていたことだから。それに、サクラだって守ってみせる。
まだチームワークというものは上手くいっていないが、初めてできた仲間だ。
絶対に自分が守ってみせる。
ミコトはフッと柔和に微笑んだ。
全ての班に巻物が行き渡り、それぞれのゲートへと移動する。そして、
「これより中忍選抜第二の試験! 開始!!」
アンコの合図で一斉に下忍たちは死の森の中へと入っていった。
「うむ! ダンゴにはやっぱおしるこね! そう思わない?」
「そ、そうですね。」
アンコはダンゴ片手におしるこをズズッと飲み、満面の笑みでミコトに尋ねる。そんなアンコを見ているミコトの笑顔はどこか引きつっているようにも見える。しかし、アンコはそれに気づかず、「もう一本ダンゴどう?」と勧めてくる。ミコトはそれに対し、「いえ、もう結構です」と丁寧に断る。
――もう3本もいただいたのですが・・・アンコさんすごいです・・・。
あ、今ので53本目です・・・。
ミコトは吐き気が催してきて、思わずうっと口を押さえる。
アンコはたった今おしることともに食べ終わったダンゴの串を木に投げつけると、
「木の葉マーク完成!」
串で木の葉のマークを作っていた。
今は試験開始から2時間ほど経っただろうか。
アンコとミコトはのんびりと、先ほど試験を説明していた場所で茶などを啜っていた。
この試験での試験官としての仕事は、はっきり言ってほとんどない。
だから5日間、あとはひたすら待つしかないのだ。
――アンコさんがそばにいろって言っていましたが・・・
ちょっと辛いかもです・・・とどこか遠くを見ているミコトだった。が、
「ッ!!!!」
ミコトはバッと森の中のある一点を険しい目つきで見つめる。その視線の先である森は特に変わったところなどない。しばらくじっと睨んでいると、今度はにこっと笑顔になり、アンコへと視線を戻す。
「すみません、アンコさん。やっぱりダンゴもう一本いただいてもいいですか?」
綺麗な笑みでアンコにお願いする。その顔にアンコは顔を赤くしながらも、「待ってて!」と言ってダンゴを取りに行った。
アンコの姿が見えなくなったことを確認したミコトはスッと十字の印を組み、1体の影分身を作り、その影分身をさらにミコトに変化させる。
「・・・・・・。」
ミコトはその影分身の目をじっと見つめる。すると、影分身は無言で頷いた。
それを見たミコトは変化をとき、サッとその場からいなくなった。
「はい。ミコト。」
「・・・ありがとうございます。」
アンコがダンゴを持って戻ってきた。しかし、そのミコトが影分身であることに全く気づいていない。影分身はそのダンゴを笑顔で受け取る。が、
――本体さんひどすぎます!
もう食べれませんよ!! と笑顔の下では嘆いている影分身であった。
それをなんとかおいしそうに食べた影分身を嬉しそうにニコニコと見ていたアンコが突如ハッと何かを思い出したような顔をした。そして、
「さーて、そろそろ私たちも突破者を塔で待つとするか。早い奴らは24時間もあればクリアするプログラムだからね。」
アンコがそう言って立ち上がる。ミコトも「そうですね」と相槌を打って立ち上がったその時だった。
「大変ですアンコ様!!」
突然現れた木の葉の忍の慌て様にアンコもミコトも目を細めてその忍を見る。
「何よ、急に・・・。」
「死体です! 3体の・・・。」
「死体・・・!?」
それを聞いてアンコとミコトはさらに眼光を鋭くする。ただの死体であればすでに忍者である目の前の忍がこんなに慌てるはずもない。
「しかも妙なんです・・・とにかく来てください!」
アンコたちをその現場へと連れて行こうとする忍。だが、
「ミコト・・・ミコトは先に塔に行ってといて。」
「え?」
ミコトはアンコの言葉に思わず目を開いた。そう言ったアンコは、何やらその死体に思い当たることがあるらしく、自分だけで行くと目で訴えていた。
ミコトは真剣な顔で頷き、サッと塔のほうへと消えていった。
アンコはミコトが行ったことに安堵し、死体を見にその忍について行った。
――まさか僕の影分身が消えるなんて。
本体であるナルトは瞬身の術で死の森の中のある一点を目指し走っていた。
そう、先ほどミコトが一瞬だけ森の中を睨みつけたのは、ナルトの影分身が消えて今までの影分身の記憶が全て戻ってきたからだった。
試験開始早々雨隠れの1人に襲われたようだがその場はサスケのおかげでなんとかなっていた。
――僕の影分身、役立たずだなぁ・・・
走りながら少し落ち込むナルト。その雨隠れの下忍に襲われたとき、影分身はトイレをしようと1人藪の中に行ったところを縄で拘束されたのだった。
ため息もつきたくなる。いくらドベでも限度というものがあるだろう。しかし、
――やっぱりあの草忍・・・只者じゃなかったです。
なんせ“五行封印”をしたんですから。
今現在、ナルトたちの班は1人の忍に襲われている。
“五行封印”とは超高等忍術の一つだ。
ナルトたちの班に突如襲ってきた草忍は、ナルトが九尾の力を使って攻撃してきたところをその封印術によって九尾の力を封じようとしたのだ。
でもそれは影分身。ナルトの影分身では禁術や超高等忍術以上のものには耐えられない。
結果としてその技によって影分身が消えてしまったのだった。
・・・それにしても、
――もうちょっと太るべきでしょうか・・・
草忍が姿を現す前に仕掛けてきた“風遁大突破”によって班の3人のうちナルト1人だけが軽く吹き飛ばされてしまった。他2名は飛ばされていなかった。それはやはり自分の体重が軽いからだろうか・・・。
影分身が吹き飛ばされた先には大蛇がいたが、それは瞬殺した。たった1発の鉄拳で。
そしてサスケたちの下へと駆けつけた影分身。しかし、サスケはその草忍に対して、自分たちでは勝てないと悟り、命乞いのために自分たちの巻物を投げ渡していたのだ。
――あんな目をした奴が、そんなことで見逃すはずがありません・・・
殺すことに戸惑いのない目。それに気づいていた影分身は透かさずサスケの手から離れ、宙に浮いた巻物を取り、サスケを殴りつけて目を覚めさせた。が、感情が高ぶりすぎて九尾の力が漏れ出てしまったようだ。
とにかく今は急がなくてはいけない。
ナルトはひたすら木々を飛び移り、サスケたちの下へと向かって走る。
ボンッ!!
「ナ、ナルト!!?」
サクラたちの目の前で音とともに煙が上がった。
今、ここにいる4人の下忍は大木の枝の上で争いを繰り広げていた。
しかし、その1人であるナルトが、草忍の何かわからぬ攻撃を受け、突然煙を上げて消えてしまったのだ。サクラたちは目の前の事態に混乱する。
事を起こした草忍も一瞬驚愕の表情を浮かべた。が、
――これは影分身だわ・・・。あんなに攻撃を食らっていたのに消えなかったなんて・・・
草忍はすぐに冷静に今のことを把握し始める。しかし、まだ混乱状態のサクラはキッと草忍を睨みつけ叫ぶ。
「あんた!! ナルトを一体どうしたの!?」
「今の消え方で分からなかったの? ・・・あれは影分身よ。」
その草忍の言葉にサクラはハッと消えたナルトのいたところをじっと見つめる。
落ち着いて考えてみれば今のナルトの消え方は確かに影分身によるものだった。ということは、本体のナルトは無事であるということだ。
では、どこにナルトはいるのだろうか?
しかし今はナルトを探す余裕などない。目の前にはまだ不気味な草忍が立っているのだ。
――でも私にはあいつと戦える力はない・・・。
サクラはキッとこの草忍に対し動けないでいるサスケを睨む。そして、
「サスケ君!!」
サクラの呼びかけに振り向かないサスケ。サスケはわずかに震えているように見える。
「ナルトはどこにいるかわからないけど・・・絶対生きてるわ! 今のナルトは影分身だったけど、ナルトと変わりないの! ・・・ナルトは確かにサスケ君と違ってドジで・・・変な奴だけど・・・少なくとも臆病者じゃないわ!」
――自分で戦わないなんて卑怯なのは分かってる・・・サスケ君ごめんね。
でも、今のサスケ君は見たくないの!!
「ねぇ!! そうでしょう!!」
サクラは眼光鋭くサスケを睨む。と、その時、サスケの震えが止まった。
そしてサスケが目を開くと、そこにはうちは一族特有の写輪眼があった。
その目を見た草忍は心の中で喜びの声をあげ、口寄せで呼び出していた大蛇を消す。
サスケはザッと口にはクナイをくわえ、左手に4本ものクナイと右手には手裏剣を持ち、草忍を睨み付ける。そして
カッカッカッカッ
まずは左手のクナイを投げつけるが、まるで蛇のような動きで避けていく草忍。しかし、
――見えるぞ!!
サスケには次に草忍が来るだろう場所が見えていた。
サスケはその場所に勢いよく右手の手裏剣を投げつける。しかし、それも草忍は飛んで避けてしまう。が、
バシュッ!
今度は口にくわえていたクナイを草忍へと投げつけた。
――まずまずね・・・私の動きを先読みして確実に急所を狙ってくる・・・
攻撃をかわしながらサスケを観察する草忍。
サスケは写輪眼によって、こちらの動きが見えている。しかし、そんな急所を狙って投げているクナイを草忍はいとも簡単に避ける。が、
「これは・・・写輪眼操風車三ノ太刀!!」
サスケが放ったクナイと手裏剣には糸がついていたのだ。草忍は目を見張った。
“操風車三ノ太刀”とは手裏剣2枚をワイヤーで結び、木などを軸としてそのうちの1枚をヨーヨーのように引き戻すことで相手の死角から攻撃することができる技だ。写輪眼と一緒に使われるとさらに確実になる。
草忍はすぐさま避けた手裏剣のほうへと振り返る。と、そこには糸によってこちらに戻ってくる手裏剣がすでに目の前に迫っていた。それを見たサクラは思わず声を出して喜ぶ。今の手裏剣は草忍の顔面に刺さったはずだ。しかし、
「フフ・・・残念だった・・・」
その手裏剣を口にくわえた草忍は振り返りながら言った言葉は中途半端なところで途切れた。その草忍は驚愕で目を見開いている。
草忍の口にくわえている手裏剣の糸、それはサスケの口につながっていたのだ。
「フン」
サスケは口にくわえたままの糸を組んだ寅の印で挟み、
――火遁龍火の術!!
糸を伝って火が草忍の顔へ燃え移る。
サスケとサクラはじっとその草忍を見つめた。さすがにこの攻撃には耐えられないはず。しかし、
「その歳でここまで写輪眼を使いこなせるとはね・・・さすがうちはの名を継ぐ男だわ・・・やっぱり私は・・・君が欲しい・・・。」
火が消えて顔を上げながら不気味に呟く目の前の草忍。
その顔は火傷で爛れ、なぜか目のところは皮膚がめくれた下に先ほどとは違う目が覗いている。本当にこいつは人間なのだろうか。
サクラは「サスケ君!」と叫んで急いでサスケの隣に移動する。が、
――ぐっ・・・金縛りか・・・体が動かない・・・!
相手の目を見た途端、サスケたちはピクリとも身体を動かすことができなくなった。
そして目の前の忍の額あてがいつの間にか草隠れのマークから音符のマークへと変わっている。
「やっぱり兄弟だわね・・・あのイタチ以上の能力を秘めた眼をしてる。」
その言葉にサスケは目を見開き、叫ぶ。
「お前は一体何者だ!!」
「私の名は大蛇丸・・・もし君が私に再び出会いたいと思うなら・・・この試験を死にもの狂いで駆け上がっておいで・・・。僕の配下である音忍三人衆を破ってね・・・。」
そう言いながら大蛇丸は影分身のナルトから奪った天と書かれた巻物を燃やし灰にしてしまう。
サクラは「あんたなんかの顔、こっちはもう2度と見たくない」と反抗するが、大蛇丸はそっと手で何かを組むといきなり首が伸び、サスケの首へと噛み付いた。と、次の瞬間、
バキッッ!!!!
「え?」
サクラが突然のことに声をもらした。
音とともに目の前から消えたサスケ。そして大蛇丸と名乗った忍の長い首があらぬ方向へと曲がっている。いったい今度は何が起こったのか。
サクラは一瞬の出来事にかなり動揺していると、スッと目の前に金色の何かが現れた。
サクラは目を見開いた。その金色はさっき消えてしまった人物、
「ナ・・・ルト?」
「サクラちゃん、サスケ頼むってばよ。」
サクラの前にはサスケを小脇に抱えて立っているナルト。
「遅くなってゴメン」と謝るナルトは場違いなほど穏やかな表情をしている。
そしてサクラに向かってにこりと微笑むと再び口を開いた。
「サスケのやつ・・・これからちょっと熱が出たりすると思う。だからサクラちゃん、早くこいつ連れて寝かせてあげて?」
抱えられているサスケはピクリとも動いていない。どうやら眠っているらしい。
サクラは思わずその言葉に従おうとするが、ハッと何かに気づいたようにナルトの顔を見つめた。
「ナルトはどうするのよ!!」
そうだ。この言い方ではナルトは囮になると言っているようなものだ。
「俺がこいつの相手をする・・・大丈夫。」
俺が絶対、サクラちゃんたちを守るから。
そう言って微笑むナルトにサクラは息を呑んだ。
サスケが持てる力を使って戦っても平然としている相手に、あのナルトが敵うはずがないのは目に見えている。でも、
――なんでだろう・・・
いつもあんなに騒がしいだけの変な奴なのに、今のナルトの顔を見たら、信じることができる。ナルトのやわらかい笑みが一つの希望に見えるのだ。
サクラはうんと頷き、サスケを背負ってその場を後にする。一回だけちらりと振り返ったサクラにナルトは思わず苦笑をした。そして、その姿を見届けたナルトはやっぱり笑っている。
「あなたが相手をしてくれるの?」
ナルトはパッと振り返った。
そこにはナルトに蹴られて曲がっていた首がもとの位置へと戻って不敵に笑っている忍。しかし、それを見てもナルトはまだ微笑んだままだ。
不気味な忍はそんなナルトの様子に首を傾げる。と、
「サスケが自分の命をかけてサクラちゃんを守ったんです。」
フフッとやわらかい笑みで笑うナルト。
サスケには野望がある。それはなんとしても叶えるという強い意思を持っていた。それまで絶対に死ぬわけにはいかない。それなのに、サクラを守ったのだ。
「死ぬかもしれないと分かっていても戦ってくれたんです。だから俺も2人を守るんだ。」
鋭く前の忍を睨み付けるナルト。もうその顔には笑みなどどこにも見つからない。
「・・・あのサスケの呪印・・・お前、大蛇丸だな。」
草忍はその言葉にニヤリと笑った。
大蛇丸、その名は木の葉の里の伝説の三忍の1人である天才忍者だ。しかし、大蛇丸は里抜けし、一時期“暁”という組織にいたがその後はよく知られていなかった。
「あら知ってるの?でもちょっと遅かったわね。」
あの呪印でサスケ君死んじゃうかも、と大蛇丸はフフフと笑う。
そんな大蛇丸の挑発に乗らず、ナルトはただじっと睨みつけている。
「それにしてもさっきの影分身・・・すごいわねぇ。でも、あなたはサスケ君より弱い。そんなあなたに何ができるの?」
大蛇丸は余裕の笑みを浮かべている。すると、今まで睨んでいたナルトがフッと笑った。
しかし、そんなナルトに対し、だんだんと場の緊張感は高まってきている。
「俺は確かにアカデミーではいつもドベだった・・・・・・だけどな、仲間は俺が守るんだ。」
ナルトが大蛇丸の目を見てそう言った瞬間だった。
――消えたっ!!?
大蛇丸の目の前から一瞬で姿を消したナルト。
いや違う。
消えたのではなく一瞬で大蛇丸の目の前へと間合いをつめたのだ。
「くッ!!」
大蛇丸の目の前にはナルトがそのままの勢いで迫ってきている。大蛇丸は咄嗟に後ろへ飛び退こうとするが間に合わず、両腕を交差させ防御をとる。が、
――何もしてこなかった?
ナルトは大蛇丸が交差させて上にきていた右腕に手のひらで軽く触れただけだった。
そしてナルトはそのまま大蛇丸の脇を通り抜けていく。
大蛇丸は今のナルトの不可解な行動に疑問を抱いた。
今の速さで間合いをつめられれば、どの忍も油断するだろう。
しかしナルトはただ軽く腕に触れただけなのだ。この後に何かまた仕掛けてくるのでは?
サッとナルトの方へと振り向こうとした時だった。
「右手が・・・動かない?」
異変は起こっていた。
触れられた右腕は見た目も何も変わっていない。が、何故か指を動かすことができないのだ。大蛇丸はバッと後ろを振り返る。
「あなた・・・一体何したの。」
そこにはナルトがこちらを睨んで立っていた。
そう言った大蛇丸の顔にはわずかに汗が出ている。
あの一瞬、ただ触れただけではこんなことにはならない。ナルトは質問にも答えず、無言で大蛇丸を睨みつけている。
指が動かない・・・それ以外におかしなところはない。
指だけが動かない、それは神経が切られない限り起こらないだろう。
――まさか!!
大蛇丸はハッとナルトを見て告げる。
「あなた・・・医療忍術を使ったわね・・・!」
外傷を与えず神経だけの切断。それは医療忍術の“チャクラ解剖刀”によってできることだ。それはチャクラコントロールが難しいため、解剖刀のリーチが短くなってしまうという欠点があるが、目立たない動作でダメージを与えることができるのだ。
――・・・聞いてないわよ・・・
大蛇丸はこの森のどこかにいる自分の1人の部下をこの場で呪う。ナルトが医療忍術を使うなど、そんな情報は聞いたことがなかった。それに、
――どこがドベなのよ・・・
自分でさえ油断させるあの速さ、正確に神経だけを切断させるチャクラコントロール。下忍なんてレベルの問題ではない。九尾の力を使っている様子も見えない。
そんなナルトに大蛇丸にも焦りの色が出始める。と、その時ナルトがまた何かを仕掛けようと姿勢を低くした。
それを見た大蛇丸は咄嗟にあるものを地に叩きつける。
――閃光弾ですか・・・!
その瞬間あたり一面に広がった眩い光。
すぐにナルトは目を腕で覆い隠す。が、突然のことだったためにもう目は強い光にやられてしまった。強すぎる光を受けた目の視力はすぐには回復しない。
この隙にも大蛇丸は逃げてしまっただろう。
しばらく瞬きを続けていると、視力もだんだんともどってきた。
そして落ち着いて相手の気配を探っていく。と、その気配はすぐに見付けることができた。しかし、
――大蛇丸のそばに・・・アンコさん!?
どうして!?
大蛇丸の気配のそばにはアンコの気配があった。
どうやら2人は接触しているらしい。
ナルトはその2人のいる方角を睨みつけると、スッと印を組みだす。
ボンッと煙を上げた中から出てきたのはミコトだった。
先ほどまでの争いが嘘のように静けさを取り戻した現場。
「・・・・・・先手は打たせてもらいました。」
その現場でミコトがポツリと呟いた瞬間、
ミコトの姿は消えてしまった。
ただそこは争いの跡だけを残し、静寂に包まれていた。
あとがき
第二の試験が始まりました。
戦闘シーンは本当に難しいですね!
私の文章では臨場感があまり出ていないです・・・。
もっと上手くなれるようがんばって続きを書いていきます!