僕の予想通り、仮面のお兄さんも戦っていらっしゃいますね・・・
あれは・・・氷?サスケがたくさんの氷でできた鏡に囲まれています。
その全ての鏡の中にお兄さんが・・・
あのお兄さんは血継限界だったんですね!!
水と風の性質による氷遁忍術だなんて!かなり興味があります!!
カカシ先生と再不斬は・・・カカシ先生がサスケを気にしていてなかなか上手く戦えないようです。
サスケもかなり苦戦を強いられていますね・・・。
あ!サクラちゃんが氷の鏡の一つにクナイを・・・見事にキャッチされてしました。
・・・って、暢気に実況している場合じゃありませんでした!!
NARUTO ~大切なこと~ 第22話
ガッ!!という音とともに、サクラのクナイをかわしたはずの仮面の少年が、突然氷の鏡から引きずり出された。その仮面には斜めに大きな傷が走っている。
氷の鏡に囲まれていたサスケは、目の前の出来事に一瞬動きが止まった。と、その時だった。
「よっ!助けにきたぞ!」
サスケの目の前に片手を上げながら突如現れたオレンジ色の目立つ服を着た人物。
「ナルト!?」
思わず声を荒げたサスケに離れた場所にいたカカシやサクラも反応する。
助けに来たはずのナルトだが、ナルトのいる場所はサスケと同じ氷の鏡に囲まれた中心部。
――さすが不思議な奴だ・・・助太刀に来たはずなのに状況を悪化させてやがるな・・・。
カカシは小さくため息を吐いた。
「こっ、このウスラトンカチ!忍びならもっと慎重に動け!」
「だってさ!だってさ!俺ってばこの忍術に興味があったんだってばよぅ!!」
「・・・・・・。」
戦いの最中とは思えないようなナルトの言葉にサスケは呆れるしかない。
そんなナルトに、頬を殴られたことを恨んでいた再不斬が氷の鏡の隙間を狙って手裏剣を投げつけた。が、それは仮面の少年の千本によって全てはじかれてしまった。
「白・・・どういうつもりだ。」
再不斬はそう言って仮面の少年、白を睨みつける。
「・・・再不斬さん、この子は僕に・・・この戦いは僕の流儀でやらせて下さい。」
そう告げた白の表情は仮面で伺えない。
「・・・手を出すなってことか・・・白。相変わらず甘いヤローだ。」
・・・お前は・・・
白は気づかなかった。そう言った時の辛そうな再不斬の目を。
そして白はそのまま氷の鏡の中へと再び戻っていく。
――甘い・・・か。本当に甘い方ですね。
ナルトはサスケの傷を見てそう思う。
まだ急所というところは狙われていない。それにしても、白は再不斬に非常に信頼されている。先ほどの会話の時に見せた再不斬の目がそれを如実に表していた。
しかし、どこかそれがこの仮面の少年に伝わっていないような気がする。
――どうしてでしょう・・・?
そんなことを考えている間に、白の千本による攻撃が始まる。
サスケはこの鏡が氷であるならばと、火遁豪火球の術を使うが全く溶けた様子が無い。
ボーっとしていたナルトは目の前に突然出現した火で、ハッと今の状態を思い出す。
そして、その火を起こしただろうサスケをチラッと見た後、
「俺には夢があるんだ!」
こんなところでくたばってられるか!
白に向かって叫んだ。
サスケの戦意が失われてきていたから、そう叫んだのだ。
すると、白の攻撃がピタリと止まった。
「・・・・・・僕にとって忍びになりきる事は難しい。出来るなら君たちを殺したくないし・・・君たちに僕を殺させたくもない・・・。」
けれど
「君たちが向かってくるなら僕は忍びになりきる。あなた達を」
殺します。
その直後、千本の雨が降り注ぐ。
白は鏡の中を高速で移動するため目で追うのは非常に困難だ。しかし、
――急所には1つもあたっていないです・・・
こんなに刺さっているのに。
だんだんと身体に突き刺さってくる千本はどれも全て急所には入っていないのだ。
必死に避けようと動いているサスケにさえ急所には1つも刺さっていない。
なんて優しいのだろうか。
白の腕であれば一瞬で殺すことは可能なはずだ。
しかし殺さないのは・・・
――夢・・・でしょうか。
ナルトの言った“夢”という言葉。
確かに白は一瞬だけその言葉にピクリと反応していたのには気づいていた。
白の夢はなんだろうか?
大切な人がいる白の夢。
こうやって戦っているのも、その人のためなのは間違いないだろう。
そんなことを考えながらナルトはうつ伏せになった。その間もサスケは必死にこの状況を何とかしようと千本を避ける。
「君はよく動く・・・けれど」
次で止めます・・・
白がサスケに向かってそう告げると手に2本の千本を構え、そして最後の攻撃を仕掛ける。しかし、
――完全に見切った!?そんな・・・!!
白は内心驚きの声を上げた。
サスケは今まで避けきれなかった千本を、今のは見事に避けきったのだ。
――あ・・・開眼したんですね。
ナルトは白の手が止まったことに疑問を抱き顔を上げると、そこには赤い目をしたサスケが白を睨んで立っていた。その目はまさしく写輪眼だ。
戦いの最中で成長を遂げるサスケはまだまだ強くなるだろう。
しかし、そろそろサスケを治療しないと出血がひどい。それに・・・
――お話ししてみたいです・・・
先ほどからずっと白を気にしていたナルト。敵ではあるのだが、なんとなく気になってしょうがない。ナルトがゆっくり立ち上がると、目の前には治療をしようと思っていた人物が立っていた。
「・・・サスケ?」
ナルトはポツリと呟く。
そばには鏡から出ている白が倒れている。どうやらサスケの攻撃を食らったらしい。
「まったく・・・お前はいつまでたっても・・・足手まといだぜ・・・。」
そう言って振り向いたサスケの首には今までなかったはずの千本が何本も突き刺さっている。
――僕をかばった・・・?
ナルトは目を見開いた。
まさかサスケが自分を守るようなことをするなんて思いもしなかった。
同じ班になってからナルトとしては友達になりたいと思っていたが、なかなか人に寄り添うなんてことをしないサスケ。
そんなサスケが今、自分の目の前に立っている。
「お前なんか大嫌いだったのによ・・・。」
体が勝手に動いちまった・・・。
そう言って倒れてくるサスケをナルトは腕で受け止める。
「あの男を・・・兄貴を・・・殺すまで・・・死んでたまるかって・・・思ってたのに・・・」
お前は死ぬな・・・
そう告げたサスケは目を閉じていった。
「サスケ・・・」
ありがとう。そして、
――僕が絶対に死なせません。
それはナルトが誓っていること。
絶対に死なせたりなんかしない。
初めて彼が自分のために動いてくれた。
そう思うと、顔が自然に緩んでしまう。
と、その時、倒れていた白がムクッと立ち上がる。
「彼は僕に一撃をくれ・・・ひるむことなく君を守って死にました。」
仲間の死は初めてですか?
白が顔を上げ、ナルトを見る。しかし、視線の先のその人物は何故か倒れている仲間を見ながら微笑んでいる。
「・・・何を笑っているんですか・・・。」
仲間が死んでしまったんですよ・・・?
白の声は少し震えているようにも感じる。それはそうだろう。
死んでいる仲間を見て微笑んでいるなんて奇妙だ。
その微笑んでいる人物、ナルトはゆっくりとサスケを地面に横たえ、慎重に首に刺さっている千本から抜き始めた。
「僕はサスケがかばってくれるなんて・・・思いもしなかったんです。」
それが嬉しくて。
「やっと・・・やっと少しずつですが、サスケが自分たちに近寄ってきてくれて・・・。それに」
サスケは死んでなんかいませんよ。だって、
「どの千本も急所には入っていないんですから。」
僕も千本練習してみようかなぁ、なんて言いながらナルトは笑っている。そう言いながらも手は休めることなく掌仙術をサスケに当てて傷を塞いでいく。
白は思わず息を呑んだ。
確かに白は急所をずらして千本を刺していった。しかし、サスケの首に刺したものは本当に急所擦れ擦れのもので、それが急所からずれていることを判断するには大変困難なほどだ。現にサスケは息をしていないはずだ。
しかし、ナルトはパッと見ただけでそう判断し、治療を施していく。手の当たった所は傷跡など見当たらない。
「・・・・・・話し方が違いませんか・・・?」
白はふと沸いてきた疑問をナルトにぶつけると、ナルトはフフッと苦笑した。
「僕もいろいろとあって・・・」
こちらが素の話し方ではあるんです。
そう言っていつの間にか治療が済んだナルトは、自分の身体に刺さっていた千本を抜き始める。しかし、ナルト自身には何もしないようだ。
そして全部抜き終えたナルトが口を開いた。
「お兄さんの大切な人って再不斬ですか?」
目を細めて微笑んでいるナルト。白はただその問いに首を傾げた。が、
「薬草を摘んでいるとき・・・お兄さん“大切な人はいますか?”って尋ねましたよね。」
「・・・気づいていたんですか・・・。」
僕の正体に・・・。
そう言って白はつけていた仮面をはずす。
それを見てナルトはますます笑みを濃くする。その笑みに敵同士であるにもかかわらず、つられて白も笑みを作ってしまう。するとその瞬間、突然目の前のナルトが消えた。
――は、速い・・・!!
いや、消えたのではない。一瞬にして白の目の前へと移動し、
バコッ!!
思い切り白の顔面を殴ったのだ。
吹っ飛ばされた白が鏡にぶつかり、その鏡は粉々に砕け、地面に倒れた白はゴボッと血を吐いた。
「いくらサスケが死んでいないからって・・・僕も怒ってはいるんです。」
1発だけ殴らせていただきました、と白に向かって頭を下げたナルト。
白は先ほどからナルトに驚かされてばかりだ。白はなんとか立ち上がり、ナルトの方へと顔を向ける。すると、今度は
「白の夢ってなんですか?」
「・・・え?」
また突然の質問。ナルトはニコニコと微笑んで白の顔を見ている。
白はどうしてそんなことを?という疑問が浮かんだが、ナルトの顔を見て、何故かそんなことはどうでもいいかと思い、ポツリポツリと呟くように話し出した。
「僕の夢は・・・大切な人を護りたい・・・。」
その人のために働き
その人のために戦い
その人の夢を叶えたい・・・
「それが僕の夢です。」
・・・でも
「僕は君に敵いそうもありません・・・。」
さっきのナルトの動きを全く見ることができなかった。それは自分よりも速いということ。そして重みのある拳で軽く自分の身体は吹き飛ばし、鏡まで割ってしまった。
それは完全なる自分の負け。
「僕を殺してください。」
そう告げた白がじっとナルトを見つめる。視線の先のナルトはただ不思議そうに首を傾げている。
「再不斬さんにとって弱い忍び・・・道具は必要ない。」
白はニコリと微笑んで、また口を開こうとした時だった。
「お兄さんは再不斬にとって道具なんかじゃありませんよ?」
ナルトはまだ首を傾げて白を見つめている。白はその言葉に一瞬理解できなかった。
――再不斬さんにとって僕は道具ではない?
・・・では僕は何?
今までずっと道具として育てられた自分に、道具という価値をとってしまったら、自分は自分でなくなってしまう。
それはなんて恐ろしいことなのだろうか。
「僕は再不斬さんの道具だ!でもこんな弱い道具はいらない!君は」
僕の存在理由を奪ってしまった!
先ほどの落ち着きが嘘のように怒る白にますます不思議そうにナルトは見ていた。
「僕はただ殴っただけですよ?」
「僕は・・・!一回でも負けてはダメなんです!君は強い・・・道具の僕はもう再不斬さんの役には立てない。」
だんだんと冷静になってきた白はまたニコリと微笑んで「殺してくれ」と頼む。
するとナルトの顔が無表情になった。そして、
「お兄さんには再不斬以外に大切な人はいないんですか?」
真剣な面持ちで白を見つめている。
白はその迫力に身体を全く動かすことができなかった。冷や汗まで出始める。
ゴクリと喉を鳴らすと、ゆっくり話始めた。
「・・・ずっと昔にも・・・大切な人がいました・・・。」
僕の・・・両親です。
「僕は霧の国の雪深い小さな村に生まれました。幸せだった・・・本当に優しい両親だった。」
・・・でも
「僕が物心ついた頃・・・ある出来事がおきた。」
この血。
白は口についていた血を腕で拭う。
「父が母を殺し、そして僕を殺そうとしたんです。」
「・・・血継限界ですね。」
ナルトはポツリと呟く。白はその言葉に頷いて、話を続ける。
「血継限界・・・特別な能力を持つ血族は様々な争いに利用されたあげく・・・国に災厄と戦禍をもたらす汚れた血族と恐れられたのです。・・・僕の母は血族の人間でした。それが父に知られてしまって・・・気づいたとき僕は殺していました・・・。」
実の父をです・・・・・・!!
「そしてその時、僕は自分のことをこう思った・・・。自分がこの世にまるで・・・」
必要とされない存在だということです。
「・・・再不斬さんは僕が血継限界の血族だと知って拾ってくれた。誰もが嫌ったこの血を・・・好んで必要としてくれた・・・。」
嬉しかった・・・!!
そう言った白の目からはポロポロと涙がこぼれ始めた。
それをナルトはただじっと見つめていた。
――そうでしたか・・・。
白と再不斬がどこか似ていると思ったのは・・・これだったんですね。
鬼人と呼ばれて恐れられた再不斬が、いくら血継限界だからといって子供を拾うだろうか。ましてや自分の時間を削ってまで忍術や体術などをおしえるだろうか。
そんなことするはずないだろう。
霧の里の残酷な卒業試験を受けた再不斬。きっと白を拾う前の再不斬は人間らしい感情など持っていなかっただろう。そんな再不斬を今の人間らしく変えたのは
――お兄さん・・・あなたです。
しかし、再不斬は白を道具というふうにしか表現できなかった。
それはどう人間に接していいかわからなくて。
そのせいで白は自分を道具という価値でしか見ていないのだ。
――でも今の涙は・・・人間のものですよ?
白が流している涙。それはとても綺麗で。
そんな白が道具なわけがない。
――2人も不器用すぎます・・・。
大切だと思っているのに言葉に出せない再不斬。
道具としてでしか自分の価値を見出せていない白。
そんな2人の共通点。不器用で頑固で、だけど純粋すぎるくらい綺麗で・・・。
白は過去を乗り越えて大切な人を見つけて前に進んでいるようだけど、まだ止まっていた。
人間は道具になんかなれないんだ。
だって、白の目は悲しんでいるから。道具には感情なんてないんだよ。
ずっと道具だと思って生きてきたのは苦しかったでしょう?
「僕を殺してください。」
白はナルトに向かって再びそう告げる。
――伝えなきゃ
「お兄さんは道具に信頼できますか?」
ポツリと呟いたナルトに白は首を傾げる。
「再不斬はあなたを信頼しています。道具に信用はできても信頼はできません。」
――あなたは道具じゃないですよ?だからそんな悲しい目をしないで。
白はハッとして息を呑んだ。
「あなたは道具なんかじゃ・・・!!」
ナルトの言葉は途中で途切れた。
それは再不斬たちのいる方からものすごいチャクラを感じたのだ。あれは、
――カカシ先生の雷切・・・!!
雷切、それはカカシのオリジナル術である。
白もそのチャクラを感じ取り、一瞬こちらを向くと、そのチャクラの塊へと向かって行ってしまった。
――・・・ありがとう・・・ですか・・・。
白がこちらを向いて一言、小さく呟いた言葉。その顔は柔らかく微笑んでいて。
白は行ってしまった。
カカシの雷切は簡単に防げるものではない。
防げなければ待っているのは“死”だ。白には防げるほどの力はない。
白は自分がこれから死ぬと分かっていて行ったのだ。
自分の心を、夢を殺して白は行ってしまった。
大切なものを守るために。
ナルトは白の後を追っていった。
白はどんな顔をしている?
自分の言葉は届いたと思っている。
白は道具なんかじゃない。
道具としてではない白を見たかった。
白は道具として死ぬのではない。
白は1人の人間として、大切なものを守ったんだ。
霧の向こうに見えたのは、カカシの腕が左胸を貫通している白の姿。
その顔は嬉しそうに微笑んでいた。
――お兄さん・・・気づいていますか?
白の後ろに立っている再不斬の目の色。鬼人と恐れられていた再不斬が顔を歪め、悲痛な目をして白の背を眺めているのだ。
しかし、再不斬はすぐに白もろともカカシを殺すために切りかかる。
それは、必死に何かを断ち切ろうとしているようにしか見えなくて。
でもそれは簡単に断ち切れるものでもなく、再不斬はカカシに両腕をクナイで刺されてしまい、腕が使えなくなってしまった。
今の再不斬がカカシに勝てるわけがない。
白の死で気を乱してしまった再不斬に、勝ち目などない。
「再不斬。」
突然呼ばれた名前。その声の方へと、その場にいた者たちがみな顔を向けると、そこにはガトーが武器を持ったたくさんの部下を引き連れていた。どうやらガトーは再不斬たちもろとも殺すつもりだったらしい。
ガトーは死んでいる白を見て、腕を折られた恨みだと言ってゴッと白の顔を蹴りつける。
それを見た再不斬はピクリと反応するだけだった。
――なんて不器用・・・
ナルトは心の中で呟く。
本当になんて不器用なのだろうか。
白が死んであんなに苦しそうだったのに、表に出せないでいる再不斬。
これでは白がかわいそうだ。
キッとナルトはガトーを睨みつける。
「てめー!なにやってんだってばよぉコラァ!!お前も何とか言えよ!仲間だったんだろ!!」
振り返って再不斬に向かって叫ぶ。
今の自分にできること・・・それは
「あんなことされて何とも思わねぇのかよぉ!!お前ってばずっと一緒だったんだろ!!」
この不器用で頑固な鬼人に
「あいつは・・・あいつはお前のことがホントに好きだったんだぞ!!あんなに大好きだったんだぞ!!」
白は
「あいつはお前のために命を捨てたんだぞ!!自分の夢も見れねーで・・・道具として死ぬなんて・・・」
道具なんかじゃ無いって
「・・・そんなのつらすぎるってばよぉ・・・」
言わせること。
「・・・・・・小僧。」
再不斬がポツリと小さく呟いた。
「それ以上は・・・何も言うな・・・。」
そう言った再不斬の目には涙が溢れ、流れた。
――やっと言いました・・・
白、聞こえましたか?
ほら・・・あなたは道具なんかじゃなかったでしょう?
再不斬があなたのためだけに涙を流している。
あなたの死を心から悲しんでいる。
「小僧、クナイを貸せ!」
そう言ってナルトのクナイを、包帯をほどいた口にくわえガトーへと突っ込んでいく。
白の言っていた通りだった。
――大切な何かを守りたいと思ったときに本当に強くなれる・・・
次々とガトーの部下たちが再不斬に武器を突き立てる。それに怯むことなく突き進んでいく鬼。
白は見ているだろうか?
大切なものを守るために戦っている再不斬。
今、再不斬は本当の強さを手にいれたのだ。
再不斬の背中にはたくさんの武器が突き刺さったまま。しかし、一度も倒れることなくガトーの下へとたどり着き
首を切り落とした。
その直後、初めて再不斬は倒れた。
その再不斬の周りにはまだガトーの部下たちはたくさんいる。
その部下たちはナルトたちへと襲い掛かってくる。が、その時、橋の反対側からイナリたち島の人たちが武器を持ち、立ち上がっていた。
それを見て、ナルトとカカシは影分身を作る。
突然こちらの人数が増えたことに、ガトーの部下たちは青い顔をして逃げ帰っていった。
「カカシ・・・頼みがある。」
まだ息をしていた再不斬がポツリと呟いた。
「あいつの・・・顔が・・・見てぇんだ・・・。」
カカシは「ああ」と言って、写輪眼を額あてで隠し、再不斬を白の隣へと運び横たえる。
曇っていた空からは、春だと言うのにチラチラと雪が降り始めた。
再不斬は横にいる白の顔を見ようとゆっくり手を伸ばす。こちらに振り向かせると、白の顔に落ちた雪が、白の代わりに泣いていた。でも、その顔は微笑んでいて。そして、
「・・・できるなら・・・お前と同じところに・・・行きてぇなぁ・・・」
・・・俺も・・・
そう呟いて泣いた鬼の涙は綺麗な人間の涙だった。
それから2週間が経ち、無事橋は完成された。
そして今、ナルトたちの目の前には2つの墓がある。
片方の墓には首切り包丁が突き刺さっている。
それは、再不斬と白の墓。
その墓の前には饅頭や花が供えられてある。
――僕は大事なことを学びました・・・
ナルトは墓の前で手を合わせ、心の中で白に呼びかける。
大切なものを守るにはいろいろな形があるということ。
白は自分を道具だと言っていたけれど、白は立派な人間だった。
白は再不斬の心を溶かした温かい光だった。
見えるものだけではなく、“心”も守ってきたんだ。
それは簡単にはできないこと。
人間の心はその人にしか見えないから、他人が支えることは本当に難しい。
それを白はすることができたのだ。
とてもとてもすごいこと。
――僕もそんな人間になりたい。
ナルトは目を細めて微笑んだ。
小さく「ありがとう」と呟く。
今度会うことができたら、友達になろうと胸に誓って。
生き物には絶対に訪れる死。またいつかあえるから。
柔らかい春の日差しに、空には白い雲が漂っている。
「よし、お前ら帰るぞ!」
カカシの声に3人の子供たちはお墓を後にする。と、その時、後ろから暖かい風が吹いてきた。
その風にナルトは振り返る。
そこには白が笑っているような気がした。
「お前、ほんとに医療忍術使えたんだね。」
「それがどうかしたのかってばよ。」
波の国からの帰り道、後ろを歩いていたカカシがふと立ち止まり、前を歩いていた金髪の少年に声をかける。その道にはそこかしこに春の花が咲いている。あの時、雪が降ったのが幻だったかのようだ。
呼ばれた少年は振り返り、カカシの見えている右目をじっと見つめる。
前を歩く二人はそれに気づかず、ピンクの髪の女の子が一方的に黒髪の男の子に話しかけている。
「いや、あの仮面ちゃんとの戦いでサスケが受けた傷がさ・・・綺麗になくなってたから。」
すごいなぁって感心したんだよ。
そう言ってニコリと笑うカカシ。
再不斬が倒れた後、意識が戻ったサスケは全くの無傷だった。ナルトが途中で助けに来ていたのは気づいている。しかし、助けに来たものの、2人は仮面の少年の千本によってハリネズミのようになっていたはずだ。それを全て治療したナルトには感心するしかない。
アカデミーでは基本的なことしか習わない。
体術はもちろん、手裏剣などの忍具の扱い方やチャクラの練り方、簡単な忍術しか教わらなかったはずだ。ましてやナルトの目指している医療忍者など、アカデミーを卒業してやっと勉強できるものだ。
――・・・あいつの関係者か?
ふと頭に浮かんできたのは金髪の青年。7年前ほどから火影邸で特別上忍見習いとして医療に携わっているその青年。よく見ると、気配やチャクラの質は全然違うが、目の前の少年は彼と同じ色を持っている。
「ねぇ、ナルト。おまえ神影ミ・・・」
不自然なところで言葉を切ったカカシ。それはナルトがカカシに呼びかけて遮ったからだった。
「カカシせんせ!俺ってば医療忍者になるって言ったってばよ!少しは自分でも勉強してるの!」
そう言って目の前の少年はプンプン怒っている。と、その少年はカカシを見ていた視線を前の黒髪の少年へと向ける。
「先生が、俺の・・・九尾の監視役なのはなんとなくだけど知ってるってばよ。」
カカシはギクリッとしてナルトをじっと見る。しかし、ナルトの顔は前を向いているため表情を見ることができない。
――なんでそれを知っているんだ・・・?
カカシは部下を持つ気がなかったが、この班を持つことになったら、九尾の監視役を頼まれていたのは確かだ。
火影様が言うには、ナルトはすでに九尾の力を扱えるらしい。が、それは言葉で聞いただけなので暴走する可能性がないとは言えないのだ。
「俺は大丈夫だからさ・・・サスケ見てやってよ。」
そう言ってクルリと振り向いたナルトは満面の笑顔だった。ナルトの話は続いている。
「俺・・・サスケと友達になりたいんだけどさ、まだ無理みたい。サスケ・・・このままじゃ」
どっかに行っちゃうかも。
その言葉にハッとして、カカシはだいぶ前へと行ってしまっている黒髪の少年を見る。その少年は隣の少女に少しうんざりしたような雰囲気でとにかく歩いていた。
それを見てなんとなくだがホッとしたカカシが再びナルトに目を向けると、ナルトは目を細めて笑っていた。そして、前を歩いている2人に向かって話しに入れてくれと言って走り出した。
カカシはまだそこにポツンと佇んでいる。
――結局何も分からなかった・・・
前で楽しそうに騒いでいる3人の子供。
「・・・不思議な奴だ。」
カカシはポツリと呟き、歩を再会させる。
忍びとして“死”を見てしまった子供たち。
それでも自分の目の前でこんなにも輝いている。
その光景は自分には眩しすぎるけれど、
願わくば、この時間がずっと続いて欲しい。
忍びの世界では無理なことだけれど、そう思わずにはいられないのだ。
「せんせー!早くー!」
「はいはい。」
そう返事をしたものの、全く急ごうとしないカカシにナルトとサクラがやってきて、腕を引っ張り始める。サスケは腕を組んでじっと来るのを待っていた。
こんなところにも子供たちの性格が出ていて、カカシは思わず苦笑をもらした。
そんな4人を見ていたのは春の花たちだけ。
空にはタンポポの綿毛が舞っていた。
あとがき
ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます!!
次はまた番外編です。なるべく早めに更新します。
中忍選抜試験から少しペースを落とすと思いますが、これからもよろしかったらお立ち寄りください。