修行一日目が終わって今はタズナさんの家でお食事をさせていただいています。
たくさんの人とのお食事は本当に楽しいです。
あぁサスケはあんなにがっついて・・・・・・吐いた!!
吐いちゃいましたよ!!なんてもったいない!!
はっ!すみません・・・姉さんに食べ物を粗末にすると大変叱られていたので、つい条件反射のように突っ込んでしまいました。
今静かに一緒に食事をしているイナリの気配は・・・修行を始めた頃にあったものと同じです。
イナリはあの修行を見てどう思ったのでしょうか・・・。
サクラちゃんが壁にかかっている破れた写真のことを尋ねています。
・・・イナリが部屋を出て行ってしまいました。
く、空気が重く・・・?
・・・破られた部分に写っていた人・・・イナリのお父さんなんですか。
英雄と呼ばれたお父さん・・・。
なんだか僕と一緒だね。
NARUTO ~大切なこと~ 第21話
タズナが涙を流しながらこの波の国の英雄について語りだす。
3年ほど前、
イナリのたった1人の友達である犬、ポチを悪ガキ3人組に海に落とされ、そのままイナリも一緒に海へと落とされてしまったことがあった。
イナリは泳ぐことができず、海の中で意識を失ってしまった。しかし、
「気がついたか、ボウズ。」
イナリが目を開けるとそこにはねじり鉢巻をした、あごにバッテン傷のある男が魚を焼いていた。
「あの悪ガキどもは俺がモロ叱っといてやったからな。・・・ほら食え!」
そう言ってイナリに焼いた魚を突き出す男、この男こそ波の国の英雄、カイザだ。
イナリは目が覚めてカイザを見たとき、神様だと思った。
その男は言った。
「男なら後悔しない生き方を選べ。」
自分にとって本当に大切なものは
「つらくても、悲しくても、頑張って頑張って、たとえ命を失うようなことがあったって」
この2本の両腕で守り通すんだ!!
・・・そしたら
「たとえ死んだって男が生きた証はそこに残る・・・永遠に。」
そう言った男の顔は輝いていた。
物心のつかないうちに本当の父親を亡くしていたイナリはカイザを慕うようになった。
そんなカイザが家族の一員になるのにそう時間はかからなかった。
カイザは大雨で川の堰が開いてしまった時も、1人激流の川へと飛び込んでロープをかけにいった。カイザはこの国に本当に必要な人物だった。しかし・・・
「いいか!この男は我がガトーコーポレーションの政策に武力行使でテロ行為を行い、この国の秩序を乱した。よって制圧しこれより処刑する!」
ガトーに刃向かったらどうなるかという見せしめの公開処刑。
木の十字架に縛り付けられたカイザ。
彼にはもう自慢の2本の腕がそこには無かった。
イナリは必死に父を叫ぶ。その時だ。
「イナリ!」
カイザは笑った。イナリに向かって。
そして英雄は消えた。
――ヒーローなんてバカみたい・・・か。
ナルトはふと修行前にイナリが言っていた言葉を思い出す。
その言葉はいまだに自分の胸に引っかかっている。
だって、その言葉は自分の父親を指すものでもあるから。
だから絶対に否定なんてしたくない。
――イナリは信じていた父が裏切った・・・とでも思ってしまったのでしょう・・・ね
そんなことは決して無い。死してなお残っている彼の名。
彼は最後まで自分の言ったことを貫き通したんだ。
それはなんてかっこいいのだろうか。
最後まで笑っていたカイザ。今から死ぬと分かっていてそんなことができるだろうか。
――僕の父さんも・・・笑っていたのかな。
ふと頭に浮かぶのは写真の中の父の顔。
その写真はいかにも里の長と言う威厳のある顔をしていた。
里を救った四代目。
死ぬと分かっていても使ったあの術。
笑った顔なんて見たことがないけれど、でもきっと最後は、
――笑っていたのでしょうね。
僕も笑えるかな
そんなことを考えて、
「修行してくる。んでもって、英雄はいるってこと」
証明してやる!!
そう、英雄はいるんだ。イナリ、お前の父は英雄だ。
修行が始まってから6日がたった早朝。
森の中で金髪青目の少年が頭や肩、伸ばした腕に乗った小鳥たちと楽しげに何やら会話をしている。その少年はナルトだ。と、その時、一斉に小鳥たちが空へと羽ばたいていった。
ふとナルトが空から木々のほうへと顔を向けると、そこにはナルトより少し年上で、黒髪を背中へ流したとても綺麗な子供が立っていた。
「おはようございます。」
こんなところで何をしているんですか?とニコリと微笑んだ子供はナルトに尋ねる。
しかし、ナルトは質問には答えず、その子供が持っている籠の中身を見て目を輝かせた。そして、
「あの!!一緒に薬草取っても良いですか!!」
ナルトの声が森の中を木霊した。
2人の間に沈黙がおとずれた。
「えっと、さっきはすみません。」
ナルトが薬草を取りながら目の前の子供に謝る。
自分の言葉に「いいえ」と言って苦笑をしながら薬草を摘んでいる子供をちらちらと盗み見る。
――とても綺麗でいらっしゃいますが・・・体付きからすると男性ですね。
ナルトはミコトとして忍びの任務はしていないが、里の病院の手伝いなどをしている。そのおかげで体格を見ただけで身長や体重などほぼ正確に分かるようになった。そんなナルトが男性と女性を見分けることは容易い。
「お兄さん。この薬草で良いですか?」
この問いに少年は頷いた。
今2人で摘んでいるこの薬草は、化膿止めや腫れに使えるもの。ナルトはじっと少年を見つめた。
――やっぱりあの時の仮面の子ですね。
・・・再不斬に使うんでしょうね。
ナルトはこの少年の気配と、今取っている薬草からそう判断する。
小鳥が飛び立つ前から感じていた気配は見知ったものだった。
そして、先ほどの少年の質問に答えるために、口を開いた。
「ここで僕は修行していたんです。」
最近ちょっとサボり気味だったので・・・と片目を瞑って軽く舌を出す。
その表情に目の前の少年はクスクスと笑っている。
「君はもう十分に強そうに見えますよ?」
そう言ってやわらかく微笑む少年。ナルトも一緒になって微笑む。
「僕にはもっともっと力が必要なんです。人を守るにはどんなに修行したってまだ足りないんです。それでいつかは医療忍者になるんです。」
目線をまた下へと戻し、せっせと薬草を摘む。だからナルトは気づかなかった。
少年が顔を強張らせたのを。
少年は目の前の金色をしばらく見つめ、そっと口を開いた。
「君には大切な人はいますか?」
ナルトは唐突な問いに薬草を摘んでいた手を止めた。顔を上げてみると、その少年の目がじっとこちらを睨むように見ていた。その目がとても力強くて、思わず目をそらしてしまいそうだ。
しかし、何故だろう。
――どこか再不斬と似ている・・・?
全然再不斬とは性格も違う目の前の少年。
おそらく少年の言う大切な人とは再不斬のことだろう。
ナルトがじっと見つめていると、再び少年の口が開いた。
「人は・・・大切な何かを守りたいと思った時に」
本当に強くなれるものなんです。
力強く言い切った少年の顔はとても真剣だった。ナルトは息を呑んだ。
その少年の言葉はナルトが常に思っていることだ。
姉が亡くなってから分かった、周りにあった大切なもの。
今ではその大切なものが少しずつ広がって、そのうち自分の手から零れ落ちてしまいそうで。
零れ落とさないためにも力が必要なんだ。
大切なものがあるから自分を強くしてくれる。
「うん!それは僕もよく分かります。」
そう答えたナルトに少年はやっと優しく微笑んだ。
でも、なんでだろう。
――どうして悲しそうな目をしているの?
目の前の少年には大切な人がいるはずなのに、どうしてだろうか。
ナルトは笑っている少年の目を見て不思議に思う。
大切な人と一緒にいられるなんて、とても幸せなことだ。
なのにどうして?
「君は強くなる・・・またどこかで会いましょう。」
少年はスッと籠を持って立ち上がり、帰っていく。ナルトはにこりと笑って少年に手を振った。
――次・・・ですか。
再不斬との対戦ですね・・・
今度はあの少年とも戦うのでしょう・・・。
ナルトの顔にはいつの間にか笑顔は消え、目を細めて少年の背中を見つめていた。
三日月の綺麗な夜のこと。
「帰るか。」
そう言ったサスケが今いる場所は森の中でもかなり背の高い木の天辺だ。
「おう!」
ナルトもサスケと同じくらいの高さの木の頂上に登っている。
やっと2人も木登りができるようになったのだ。
ナルトはサスケを見ながら優しく微笑んでいる。
――サスケもよくがんばりましたね!
下忍のルーキーナンバーワンは伊達じゃありませんね、と口には出さずに誉めていた。
「おう今帰ったか!・・・なんじゃお前ら、超ドロドロのバテバテじゃな。」
タズナの家に帰ってくると、すでにタズナ、カカシ、サクラはテーブルを囲んで座っていた。
修行を終えてタズナの家に帰ってきた2人にタズナが声をかける。
ナルトはニコリと笑いながら、
「へへ!2人とも天辺まで登ったぜ!」
その言葉にカカシも微笑む。そしてサスケとナルトに明日からはタズナの護衛につくように指示を出した。やっと任務である護衛ということに2人は気合を入れる。
サスケはそのまま席へと座り、ナルトは夕食の準備をしているツナミを手伝い始めた。
そんなドロドロのナルトたちを見ていたイナリにどんどんと何かがこみ上げて、
「なんでそんなになるまで必死に頑張るんだよ!!」
ついに膨れ上がった感情が爆発した。
「修行なんかしたってガトーの手下には敵いっこないんだよ!いくらかっこいいこと言って努力したって、本当に強い奴の前じゃ弱い奴はやられちゃうんだ!」
泣きながら叫ぶイナリ。しんと静まり返った中、そんなイナリを見てフフッと笑った者がいた。イナリはその声のした方へと視線を向ける。と、そこにはオレンジ色の服を着た奴が手に皿を持って立っていた。
オレンジ色なんて派手な服を着て苦笑をしている者、そう、ナルトだ。
ナルトは苦笑しながらテーブルの上に出来上がっている夕食をせっせと運んでいる。そんなナルトの様子にイナリはギリッと歯を食いしばった。
「何がおかしい!お前に僕の何がわかるんだ!つらいことなんか何も知らないでいつも楽しそうにヘラヘラやってるお前とは違うんだよぉ!!」
以前からナルトの行動にイライラしていたイナリはとうとうナルトに怒りをぶつけた。
すると、パタリと動きを止めたナルト。そして、きつい眼差しでイナリを睨み付けた。
イナリを見ていて思ったこと、それは、
――・・・甘やかすだけでは成長なんかしません・・・
タズナやツナミはイナリに対して本気で叱ったりなどしていない。それは2人ともがイナリの悲しみを分かっていると思っているから。しかし、それは違う。
このままではイナリはダメになってしまう。
イナリが前に進むためにはきちんとその悲しみを受け止めないといけないのだ。
ナルトはイナリを睨み付けたまま、口を開いた。
「笑ったのは悪かった・・・懐かしいなぁって思って。でもな・・・」
イナリはナルトの突き刺さるような視線にゴクリと喉を鳴らす。
「そうやって泣いているうちに大事なものが無くなるかもしれないんだぞ?いつもそばにあって気づかないかもしれないけどな・・・早く気づかないと無くなってからじゃ間に合わないものがあるんだ。」
ナルトはギンッとさらに鋭い眼光でイナリ睨む。
「それでもいいならずっとそうやって泣いてろ!泣き虫ヤローが!!」
イナリはナルトの最後の言葉にビクリと肩を揺らした。
そう吐き捨てるように言ったナルトにサクラが言いすぎだ、と注意をしているのにも構わず、ナルトはそのまま部屋を出て行った。
バタンッという音の後、その場は静寂に包まれた。
三日月の優しい光が窓から注いでいる部屋の中、ナルトが布団からむくりと上半身を起こした。
ナルトはあの後、夕食も摂らずに自分が使わせてもらっている布団の中へと入ってしまった。しかし、なかなか寝付けないでいたのは頭の中にイナリがいたからだ。
いつまでも苦しんでもらいたくなかった。ただそれだけで言ったけれど、
――・・・少し言い過ぎてしまいました・・・
いや、かなり・・・
じっとその場で悩んでいたナルトは、そっと布団から出て気配を探り始める。すると、探していたその気配はすぐに見つかり、部屋から物音立てずに出て行った。
そして外まで出たナルトの視線の先、それは海をぼんやり眺めているイナリだ。
ナルトは先ほどのことを謝ろうと思ったのだ。
しかし、そこにはもう一つの気配があるのに気づいた。それは、
――カカシ先生・・・?
なぜでしょう?と首をかしげながらも、ナルトはその気配たちに近づいていく。
どうやら2人が会話をしているようだった。その2人に気づかれないよう気配を消してじっと待っていた。
「ちょっといいかな。」
家の外でしゃがんで海を見ていたイナリにカカシが声をかけた。
イナリが振り向いてカカシの顔を見ると、顔の大半を隠しているため何を考えているか分からない。カカシはイナリの返事も聞かずに隣へと座る。
「ま!ナルトの奴も悪気があって言ったんじゃないんだ・・・あいつはちょっと不思議なんだよな・・・。」
そう言ったカカシは空にある三日月を見つめていた。
「お父さんの話はタズナさんから聞いたよ。ナルトの奴も君と同じで子供の頃から親がいない・・・というより両親を知らないんだ。ホント言うと君よりつらい過去を持っている・・・。」
「え?」
イナリはここで始めて声を出した。カカシはやっと反応を示したイナリに顔を向ける。その顔はなんとなく優しく笑っているように見えた。
「ナルトは姉が1人いたんだ。実の姉ではないけどね・・・その姉さんに育てられていたんだ。だけどその姉さんもナルトが3歳の頃に亡くしている・・・。」
・・・あいつはもう泣き飽きてるんだろうなぁとカカシがポツリと呟く。
「それからずっとナルトは1人だったけれど、自分で見つけた“夢”のために今は必死で努力しているんだ。それにね・・・」
カカシはまた目を三日月へと移した。
「俺はナルトに救われたんだ。」
その言葉にイナリは驚いた。
「カカシ先生って、ナルトの兄ちゃんの先生なんだろ?」
なのにどうして?
カカシをじっと見つめてそう言った。カカシは空を見ながら苦笑している。
「んー・・・あいつは本当に不思議なんだよなぁ・・・・・・俺に、ほしい言葉をくれたんだ・・・。」
え?と首を傾げるイナリ。
カカシはあの下忍選抜試験の時を思い出す。
“過去”に逃げていた自分に“今”を教えてくれたナルト。
どうしてあんなに人のことがわかるのだろうか?
・・・それは
「あいつは良く人のことを見ているんだ。それで、その人のことを良く考えて言葉をくれる・・・。」
そう言ってカカシはやっとイナリのことを見た。
「君にはちょっと辛いことを言ったけど・・・ナルトは君の気持ちを一番分かっているはずだよ。あいつどうやら・・・」
君のことが放っておけないみたいだから。
そう言ったカカシを見れば、今度ははっきりと見えている右目だけでも微笑んでいるのが分かった。
イナリは海に視線を戻して、ただ黙ってそれを聞いていた。
いつの間にか気配を消して待っていたはずのナルトの姿はそこにはなくなっていた。
「ナルトちょっと起きなさいよ!」
朝からサクラの声がタズナの家に響く。サスケもいつまでも布団の中にいるナルトに「ウスラトンカチが」と言っている。しかし、ナルトは起きる様子が無い。
すでにみな朝食を終えていて、タズナの護衛のために橋に向かう時間が迫っているのだ。
ナルトを起こそうとしていた2人をカカシが先に外に出ているように言うと、いまだにピクリとも動かないナルトを睨む。そして、
「お前起きてるでしょ。」
決して疑問系ではない。カカシにはナルトが起きているという自信があった。
修行1日目から、ナルトは夕食後にまで1人で修行をしに行っていたが、いつの間にか帰ってきて寝ているのをカカシは知っていた。そして、まだ誰も起きていない早朝に1人起きてまた修行に行っているのだ。
それを今までずっと続けていたナルトは、1度も疲れた様子など見せたことも無かった。
しかし、今のカカシの言葉にもナルトは反応を示さない。
そんなナルトにカカシはふぅと息を吐いた時だった。
「いいや。寝てるってばよ。」
「・・・・・・。」
寝てると言う割にはかなりはっきりとした声で答えたナルト。それには思わずカカシも黙ってしまった。カカシは頭を掻いて、
「まぁ・・・お前のことだから何かあるんだろうけど・・・」
迷惑はかけないようにな、と言って部屋から出て行く。すると、
「カカシせんせーたちも気をつけて。」
布団の中に入ったままそう言ったナルト。
――・・・嫌な予感がするなぁ・・・
内心そう呟いたカカシはそのままタズナたちと橋へ向かって行った。
ナルトは「ごめんなさい」と、もうここにはいないカカシに小さく呟いた。
――でも確かにこちらに2つの気配が近づいているんです。
忍びではなさそうですが・・・
ナルトは2つの気配がこの家の方へと来ていることにだいぶ前から気づいていた。だからわざと寝坊などということまでしたのだ。
カカシたちの気配はどんどん遠ざかっていく。それとは逆に近づいてくる気配。
――来た・・・!
ナルトがそう思った瞬間だった。
何かが壊れる音とともに、女性の悲鳴が上がった。その声に一番に反応したのはイナリだった。
「母ちゃん!!」
イナリが悲鳴を上げたツナミのところへ駆けつけると、そこには2人の侍がいる。
侍たちはイナリの方をジロリと睨み付けるように見た。それに慌てたツナミはイナリに逃げるように叫ぶ。
しかし、イナリは目の前で起こっていることに泣くだけで動けないでいた。
侍たちが人質は1人でいいと判断すると、1人が刀をイナリに向けようとした、その時、
「待ちなさい!!・・・その子に手を出したら・・・舌を噛み切って死にます。」
人質が欲しいんでしょう?
そう言ったツナミは母親の顔をしていた。
我が子を守る強い母親の顔。
「母ちゃんに感謝するんだな」と言って侍たちはツナミを連れて行ってしまう。
ただただイナリはそれを見ていることしかできなかった。
――母ちゃんごめん・・・ごめんよ・・・
イナリはその場にうずくまり嗚咽を抑えて心の中で母に謝る。
謝ることしかできない。だって、
――僕はガキで弱いから母ちゃんは守れないよ・・・
それに
――死にたくないんだ・・・
僕、怖いんだ・・・
イナリがそう思った瞬間だった。
――「泣き虫ヤローが!!」
ふと頭の中によみがえってきた派手な色を持った少年の声。
――「そうやって泣いているうちに大事なものが無くなるかもしれないんだぞ?」
――「・・・あいつはもう泣き飽きてるんだろうなぁ」
――「それでもいいならずっとそうやって泣いてろ!泣き虫ヤローが!!」
次々に聞こえてくる声に、イナリは涙を拭う。
――母ちゃんも・・・父ちゃんも・・・みんなすごいよなぁ・・・
カッコいいよなぁ・・・
――みんな強いよなぁ・・・
・・・僕も・・・
――僕も・・・強くなれるかなぁ・・・!・・・父ちゃん!!
立ち上がったイナリの目には、もう涙は無かった。
腕を縛ったツナミを侍たちは早く歩くように急かしている。と、その時だった。
「待てぇ!!」
3人が振り向くとそこにはイナリが立っていた。
「かっ・・・!母ちゃんから離れろー!!」
うおおおお!!
イナリは目を瞑って侍たちへと思い切り走る。
自分が母を助けるんだ。自分だってきっとできるから。
突っ込んできたイナリに侍たちは嬉々としながら刀を抜いて切りつけた。が、
「イナリよくやったな!」
そう言って突然現れたナルト。それと同時にドサッと2つの何かが倒れる音。
イナリは何が起こったのかと、瞑っていた目を開き、侍たちを探すと、さっきまで自分のいた場所にはぶつ切りになった木が落ちていた。そして侍たちはいつの間にか倒れている。
「遅くなってごめんな。」
ナルトは内心、イナリがこんなにがんばってくれるなんて思わなかった。
本当はもっと早く助けに入るつもりだったが、イナリが閉じこもっていた殻から自分で抜け出したから。イナリができるところまで見たいと思ったのだ。
「それと・・・昨日は悪かったな。」
へへっと苦笑いで謝るナルトに少し驚いたような顔をするイナリ。
「泣き虫なんていったけど・・・あれは無しだってばよ。お前は強えーよ!」
そう言ってナルトはイナリの頭の上に手をポンと乗せる。
すると、途端にイナリの目からボロボロと涙が溢れ出てくる。イナリは「もう泣かないと決めたのに」と言いながらその涙を必死に拭う。そんなイナリにナルトは思わず微笑んだ。
それはイナリの勘違いだから。
くそ!と言って止まらない涙に困っているイナリ。
そんなに必死になって止めなくていいんだよ。だって、
「嬉しい時には・・・泣いてもいいんだぜ!」
ナルトは腕を頭の後ろに組んで満面の笑みでイナリに言う。
火影様が初めて自分の名前を読んでくれた時、イルカ先生が自分を認めてくれた時、自分も涙を止めることができなかったから。
それは幸せな涙だよ。
イナリの目にはますます涙が溢れた。
イナリはこれからもっと強くなれるから。泣ける時には泣けばいいんだよ。
ナルトは流れる涙を拭っているイナリを見て、目を細めて微笑んだ。そして、
「さーて、ここが襲われたって事は橋の方もヤベーってことだ。」
イナリはハッとしてナルトの顔を見る。いつの間にか侍たちは縄で縛られていた。
「もうここはお前に任せて大丈夫だよな。」
イナリならできるよ。だから疑問系なんかじゃない。
「まったくヒーローってのは大変だってばよ!」
そう言ったら、イナリが笑って「だってばよぅ!!」と答えてくれた。
もうイナリは大丈夫だね。
ナルトもつられて笑った。
しかし、笑っているナルトには気にかかることがまだ残っている。
頭の中にちらついている悲しげな目をした少年。
――仮面のお兄さんにはサスケがなんとかしていると思いますが・・・
まだサスケには敵わないでしょう・・・
大切なものがいるあの少年は強い。
しかし、自分も大切なものを守らなければならない。
ナルトは周りの景色が見えないほどの速さで駆けていった。
あとがき
自分の書いている小説を読み返すと、サスケさんは本当に台詞が少ないなぁと笑ってしまいました。「ウスラトンカチ」という台詞ばかりです。
そんなサスケさんが大好きです。