あいつが何かを抱えてるのは知ってるけどよ。
辛い時は泣いてもいいんじゃねぇか?
・・・メンドクセー奴。
辛い時は辛いって言えよ。
だって俺らは・・・・
NARUTO ~大切なこと~ 番外編 『それは何気ない一言だけど』
これはまだアカデミー卒業前の話。
「今日はここの・・・・・・で・・・して・・・・・・のルートで逃げるっと。」
4人の少年が円になってしゃがみこみ、その中の一人が何かの説明をしている。
少年たちがいる場所はアカデミーの屋上だ。
この4人組、アカデミーの中では有名ないたずら少年たちだった。
「さっすがシカマル!」
いつも完璧だってばよ!と元気な声を発しているのは濃い金髪に青目の少年、ナルトだ。
そしてシカマルと呼ばれた少年は先ほどから今回のいたずらの作戦を話していた少年だ。シカマルは黒い長い髪を高い位置で一つに括っているのが特徴だ。
他の2人の特徴はと言うと、1人は茶色い髪に、口から覗く犬歯が少し鋭く、頬には赤い長細い逆三角の模様があり、そして必ずそばには赤丸という子犬を連れている少年、キバだ。
もう一人は金髪を立たせ、頬には渦巻きの模様があり、いつもお菓子を食べている自称ぽっちゃり系の少年、チョウジだ。
こうやって4人でいたずらの会議をするのはしょっちゅうのことだ。
そんないつもの光景。
ただ今日はちょっと違った。
「しっかし、お前も毎回よくこんないたずら思いつくよな。」
勉強全然できないくせによ、とニカリと笑ったキバがナルトに向けて言う。
それを聞いたナルトは思わず頬を膨らませる。
「勉強といたずらはカンケーないってばよ。」
プイッと顔を背ける。そんなナルトをチョウジはまぁまぁと言いながらなだめている。
「お菓子あげるから」と言われてナルトはすぐに機嫌をなおし、お菓子にパクつく。
おいしそうに、嬉しそうに食べているナルトを見たキバは笑って言った。
「お前って悩みなさそうだよなー。」
そうやってすぐに機嫌よくなるし、うらやましい頭だぜ。
たったその一言。
その瞬間、シカマルは見てしまった。
ナルトの青い目が一瞬曇ったのを。
それは本当に一瞬のこと。
そんなことがなかったかのようにナルトはすぐにいつもの笑みを浮かべ、
「おうよ!」
と返事をしてニシシと笑っている。
――・・・・・・。
シカマルは「おい。」と言ってキバの肩に手を乗せる。
振り向いたキバの目に映るのはいつも以上にムスッとした表情のシカマルだった。そしてそんなシカマルが口を開く。
「・・・謝れよ。」
「え?」
シカマルの言葉に声を上げたのはナルトだった。いつになく真剣な顔をしたシカマルがキバを睨んでいる。雰囲気の違うシカマル驚いたものの、
「俺、気にしてないってばよ?」
本当のことだし、と言ってまた笑った。
それを見たシカマルはくしゃっと顔を歪める。
「テメーが気にしなくても俺が気にしてんだ。」
だから謝れ、と再度キバに言う。シカマルの態度に今度はキバがムスッとする。
「なんでだよ。」
だってほんとのことじゃん、ナルトもああ言ってるし?とシカマルを睨む。
それに怯まずシカマルは、
「とにかくあやま「コラーーーー!!!!」っ!!?」
謝れと言おうとした瞬間、屋上の扉の方から怒鳴り声が飛んできた。
4人の少年は恐る恐るそちらのほうへと振り向く。と、そこには鬼のような形相をした担任、イルカが立っていた。
イルカはズンズンと少年たちに近づいてくる。そして、
「おまえら!!こんな時間に何やってるんだ!もう下校の時間だろ。」
そう、今はもう授業が終わり、放課後と呼ばれる時間帯だ。イルカは続ける。
「それに!!ナルトとシカマルは今日の放課後に追試って言っておいただろう!」
お前らはそろいもそろってひどい点数を出しやがって・・・先生泣けてくるぞ、と泣きまねをしている。
「「あー」」
すっかり忘れてた(ってばよ)、という言葉にイルカはガクリと肩を下げる。
今からやるから早く来い、と言ってイルカは先ほど入ってきた扉から出て行く。
その背を見送ると、シカマルはまたキバを睨む。そんなシカマルをナルトが行こうと促し、イルカの後へと着いていった。
ある教室の中でカリカリと鉛筆の書く音だけが響いているそこへ、
「できたぁ!!」
静かだった教室に元気のよい声が上がった。
「お、もうナルトできたのか。」
ちゃんとできてるんだろうなぁ?と教師が声をかけた少年、ナルトをジロリと睨む。
今、ナルトとシカマルは追試の真っ最中だった。
しかしまだ追試が始まって間もない。かなり短時間でナルトはできたと言ったのだ。
「もぉ!!イルカ先生ひどいってばよ!」
ちゃんと見てから言ってくれってばよ!と頬を膨らまして担任であるイルカを睨む。
そのかわいらしい反応に苦笑し、イルカは採点していく。
「61点・・・ギリギリ合格だな!」
よくやったな。と言ってナルトの頭を撫でる。ナルトはへへんっと鼻をさすって、得意げな顔をする。
本試験は40点以上が合格だが、追試は60点以上を出さなければならない。追試の問題は本試験と違うが、同じ程度の問題を出す。
今回の本試験ではナルトは29点、シカマルは34点だった。ナルトとシカマルはいつもこのような点数を取るため、ドベ1、2の名をもらっている。
「お前もなぁ、本試験の時にこれくらいとれたらいいんだがなぁ。」
追試はきちんと取れるのになぁ、とイルカはため息混じりに呟く。そこに、
「俺もできました。」
シカマルが紙をイルカの前へと突き出す。そのぶっきらぼうな言い方にシカマルらしさを感じ苦笑しながらその紙を受け取り、採点していく。
「62点。」
お前も合格!と言ってシカマルの頭をポンッと叩く。そしてイルカは
「2人ともおつかれ!」
早く帰れよ、と言ってその2枚の紙を持って教室から出て行った。
しんと静かになった教室には2人の少年が佇んでいた。
しばらくしてナルトが口を開く。
「シカマル、帰ろ!」
あ、もうあいつら帰ってるかな?と言ってシカマルに顔を向ける。シカマルはまだどこかムスッとしている。いつも以上に機嫌の悪いシカマルに首を傾げるものの、ナルトが教室から出て行くとシカマルも後を無言でついてくる。
そして後ろで歩いていた気配がふと止まった。
「シカマル?」
ナルトは振り返ってシカマルを見る。シカマルは下を向いていて表情が読めない。ナルトは思わず眉間を顰めた。
反応を示さないシカマルとナルトの間にしばらく沈黙が続く。と、その時、
「なぁ、ナルト。」
シカマルがやっと口を開いた。
「ん?」
シカマルの暗い口調に合わない能天気な返事を返すナルト。それに構わずシカマルは続ける。
「お前さ、本当はできるんじゃねえか?」
勉強。
その言葉にナルトは軽く目を見開いた。
「はぁ?何言ってんだってばよ。シカマル。」
できないから追試受けてるんじゃん!と苦笑する。しかしシカマルは、
「お前いつも追試では短時間で解いてるし、」
しかも必ず60点か61点なんだぜ?と言って、バッと顔を上げてナルトの目を見つめる。
その問いにナルトが口を開こうとした瞬間、
「たまたまなわけねぇだろ。」
先に言葉をとられてしまった。そして、俺ら何回一緒に追試受けてると思ってるんだよ、とナルトを睨む。その目にナルトは少し怯んだが、
「そんなこと言うならシカマルだってそうだってばよ。」
シカマルもいつも追試はすぐに合格するってばよ。と腕を組みながらナルトは言う。
「それに、シカマルがいつもいたずらの作戦を考えてくれると失敗したことがねぇし。」
シカマルはすごく頭が良いってばよ、とニコリと微笑む。
「俺はただ「メンドクセーんだろ?」!!」
シカマルの言葉をナルトが遮る。そう、その通り、シカマルは極度のめんどくさがりだ。自分の興味あるものしか頭を働かせようとはしない。
今度はシカマルが軽く目を見開く。そのシカマルの反応に苦笑し、
「俺さぁ・・・今年こそは卒業したいんだってばよ。」
お前も知ってるだろ?俺が2年も落ちてるの、とナルトはやわらかな笑みを浮かべ、両腕を頭の後ろで組む。
「だから俺はこのままでいいの。」
このままがいいの。とナルトは目を細めて微笑む。
――・・・・・・。
シカマルはただじっとナルトを見つめる。
こいつは一体何を抱えているのだろうか?
どうしてイルカ以外の教師はこいつを嫌っているのだろうか?
いや、教師たちだけではない。
この里のほとんどの大人たちがこいつを嫌っているのだ。
――なんでだよ・・・
そんな環境の中でもこんなにもやわらかい笑みを浮かべているこいつが信じられない。
なんで泣かないんだ?
こいつの泣き顔なんて見たことがない。
でも見たいわけじゃないんだ。
・・・俺はこいつの笑顔をなくしたくない。
じゃあ、俺に言えることは1つ。
「メンドクセー奴。・・・なんかあったら俺らに言えよ。」
いくらでも聞いてやるからよ。
そう言ってナルトの頭を軽く拳で押す。ナルトはその言葉に少し驚いたが、すぐにはにかむような笑みで「おう」と答えた。
この時、泣いてしまいそうだったのはナルトの中だけの秘密だ。
と、そこへ向うの方から2人くらいの足音が近づいてくる。
近づいてきた足音、それはキバとチョウジだった。
2人を見たナルトは、
「なんだぁお前らまだ帰ってなか「ごめん!!!!」・・・?」
ナルトの言葉は途中で遮られた。ナルトの前には頭を下げているキバがいる。
――・・・あぁ
ナルトは自然に頬が上がるのを感じた。それはもう満面の笑みだ。
「気にしてないってばよ!」
キバが謝るなんてキモチワルー!と、腕をさすりながらふざけて言う。
「なんだとぉ!!?」
俺様が心を込めて謝ってやったのに!!
ガバッと身体を起こしたキバはナルトに飛び掛ろうとする。しかしそこは、
「はいはい、2人ともけんかしないの。」
お菓子あげるか、と言ってチョウジが間に入る。
「メンドクセー。」
そう言ったシカマルの顔は、いつの間にか優しい表情をしている。
「よし!もう帰るぞ!」
「おう!」
キバが駆け出し、ナルトもそれを追いかける。
シカマルとチョウジはそんな2人に、顔を見合わせて苦笑する。
「待ってよー。」
「ったくメンドクセー奴ら。」
そう言って2人も駆け出す。
4人の子供たちの笑い声が、赤い夕焼けの空へと溶けていった。
――友達ってあったかい
あとがき
ホッとするようなお話を、と思って書いてみたのですが・・・苦笑するしかないですね。
次から原作沿いに戻っていきます。
今度の番外編は波の国後にまた入れようと思っております。