今年は担任の先生が変わりました。
名前はうみのイルカ先生です。
いまどき珍しいくらいの熱血教師です。
先生が変わったおかげで授業には参加できるようになりました。
でも、油断は出来ません。
もう2回も落ちてしまいました。今回が最後のチャンスだと思ってがんばらないといけません。
そのために僕は落ちこぼれを演じ続けます。
授業中は寝た振りをします。もちろん、授業を聞き逃すなんてもったいないことは絶対にしません。
でも、チョークを投げられたのはビックリしました。寝たふりをしているので避けるわけにもいけませんし・・・。
まさか叱られるとは思いませんでした。
こんな大人もいらしたんですね。
僕はつい嬉しくていつも寝た振りをしました。
いたずらをするとイルカ先生は本気で叱ってくれました。
前の先生はいつも無視を決め込んでいたので、反応を返してくれるイルカ先生が楽しくて、よく困らせてしまいました。
それでもイルカ先生はそんな僕に時々一楽のラーメンをごちそうしてくれます。
そして、なんと僕に3人の友達が出来ました!
キバにチョウジにシカマルと言います。
彼らは変な口癖で話す僕と一緒に会話をしてくれたり、時にはいたずらを考えたり、実行してくれたりします。
彼らの親は四代目の知り合いで、僕のことを「九尾」とは見ていないようです。
今の僕は本当に幸せです。
だから、今年こそ絶対に卒業して見せます!
NARUTO ~大切なこと~ 第14話
「で・・・・・・卒業試験は分身の術にする。」
よばれた者は一人ずつ、隣の教室に来るように。
しんと静まっている教室に担任の先生の声が響く。
とうとうやってきた卒業試験だ。
ナルトは今年、授業にも出席できたため、やっと試験にまで漕ぎ着けることができたのだ。他の子供たちとは気合の入れ様が違う。
先生が教室から出て行くと、教室の中は次第に騒がしくなる。
――今年こそはなんとしても合格するんです・・・!!
ナルトは静かに闘志を燃やしていた。
今年になって初めて離れていかない友達ができたナルトには、今回を逃してしまっては次の年にまた友達ができるかというと・・・望みは薄いだろう。
だからこそ今年は絶対に合格したいと思っているのだ。
「次!うずまきナルト!」
初めて卒業試験に名前を呼ばれたことに少し感動を覚える。
そして立ち上がると、キバやチョウジ、シカマルが声をかけてくれた。
「まかせろってばよ!!」
ナルトは3人に返事をして隣の教室へと移動する。
少し狭い教室に入ると、二人の教師が額あてを並べた机を前にして座っている。
ナルトにはその額あてがキラキラと輝いているように見えた。
そして、教室の中心へと歩いていく。
――印はゆっくり結んで、2体出せばいいですよね。
ナルトは頭の中でこの試験に合格するための手順を確認する。
なんといってもナルトはアカデミー切っての落ちこぼれだ。ここですばやく印を結び、見事にたくさんの分身を作ってしまっては「九尾」がどうのと勘違いをされてしまう。ここでそんな失敗をするわけにはいかない。
確認した内容を実行するため、腕を上げゆっくりと印を組み始める。
そして最後の印を組み、分身2体分のチャクラを練りこもうとしたその時だった。
――ッッ!!・・・これは金縛りの術!?
ナルトは最後の印の形のまま動かない。いや、動けないのだ。
その様子に担任の教師は首を傾げている。
――・・・イルカ先生・・・気づいて・・・!
ナルトはイルカと呼んだ教師を必死に見つめる。
が、しかしナルトの思いは無情にも流されてしまう。
「ナルト・・・印はできてたんだけどな・・・、チャクラを練りこむこともまだまともにできないなら、卒業は無理だな・・・。」
・・・失格だ。
明るい空の下、アカデミーの校庭ではたくさんの子供とその親で溢れ、喜びの声を上げている。その子供たちの額には木の葉のマークの新しい額あてが光っている。
そこここで子供を誉める親の声が飛び交う。それはとても幸せな光景だ。
そんな光景を木陰にあるブランコに座って眺める金色の少年がいた。
その金色の少年に気づいた二人の大人が、先ほどまで子供と一緒に笑っていた顔に、突如怒りを浮かべ、キッと少年を睨む。しかし、金色の少年はその視線に気づいていないのか、ただただ下を見ていた。
「ふん!!いい気味だわ・・・あんなのが忍びになったら大変よ。」
だって本当はあの子、と言いかけた大人をもう一人が制している。
いつの間にかその木陰にはブランコだけが静かに揺れていた。
金色の少年はトボトボとアカデミーの出口へと向かっていた。その足取りはかなり重い。ふと少年は後ろに知っている教師の気配を感じた。
「ナルト君。」
唐突にその教師から声をかけられた。
「・・・ミズキ先生。」
ナルトは振り返り、そのミズキと呼んだ教師を見る。
するとミズキはナルトにいろいろと話し始めた。イルカ先生はああだとか、ナルトにこうだとか・・・。しかし、ナルトは聞く気になれなかった。
それもそのはず、ナルトがこの試験に落ちたのは今隣でペラペラとしゃべっている教師の所為だったのだ。
額あての並べた机の下で金縛りの術の印を組み、ニヤニヤと笑いながら見ていたミズキにナルトは気づいていた。
そんなミズキの話など興味もない。
「・・・・・・卒業したかったんです・・・。」
ナルトは下を向いたままポツリと呟く。つい、本音が出てしまった。
その呟きが聞こえたのか、ミズキが突如嬉々とした表情になり、ある提案をしてきた。
「火影邸の・・・にある部屋の・・・・・の巻物の術ができたら、」
きっと卒業できるよ。
誰にでも好かれそうな笑みを浮かべるミズキ。その顔をナルトは表面では卒業できるかもしれないという喜びに満ち溢れた表情をしているが、その下では胡散臭そうにミズキを睨んでいた。
――・・・それが目的で僕を落としたんですか・・・。
そりゃぁ、その術ができれば卒業は楽勝でしょう。なんせ禁術なんですから。と心の中で呟く。
これはナルトを使ってその巻物を盗ませ手に入れようというミズキの魂胆だ。
ミズキは人当たりのよい、アカデミーでは人気のある教師だ。他の教師からも信頼を得ている。
しかし、ナルトを見る目だけは違った。決して顔には出していなかったが、まるで汚いものか何かを見るような目をしていた。そんな視線をいつも受けていれば、ナルトじゃなくても気づくだろう。
――巻物を手に入れたら僕を始末・・・ですね。
ナルトはミズキの意図を理解し、このままこの教師を放っておくのは危険だと確信する。そしてミズキの言われた通りに、今晩それを実行に移す。
辺りが暗闇に包まれ、満月の柔らかい光だけが木々の隙間から射している中、ナルトは言われた通りの巻物を持って、指定された場所でその人物を待っていた。
とナルトはふと顔を上げた。
――・・・イルカ先生・・・?
今ナルトのいる場所に急速に近づいている2つの気配があった。
一つはもちろん、ミズキのものだ。しかし、ミズキよりも早くこちらに近づいている気配があったのだ。
それがイルカだった。
ぱっとナルトの前に現れたイルカはものすごい形相でナルトを睨みつける。
「・・・・・・見つけたぞ、コラ!!!!」
ナルトはイルカの表情に少したじろいだ。
今までかなり叱られてきたが、ここまでイルカを怒らせたのは初めてだ。
――火影様ですか・・・。
確かに巻物を盗む時に火影様がこっそり見ている気配を感じてはいた。あの後、火影様が自分を探すように言いつけたのだろう。
ナルトはハッと近づいていた気配が近くの木の上で止まったことに気づいた。
「あの、イルカせんせ、あぶっっ!!」
危ないと言おうとした瞬間、イルカは思い切りナルトを突き飛ばした。
そしてイルカは突然降ってきたクナイの雨を身体に受ける。
その光景を視界に入れたナルトは目を見開く。
――どうして・・・?
イルカが他の大人たちと違うことはこの一年でわかったことだ。しかし、まさか自分をかばってくれるとは思わなかった。
「なるほど・・・そーいうことか!」
イルカは刺さったクナイを抜きながら、木の上の人物へと叫ぶ。これがミズキによる策略だったことに気づいたのだ。とその時だった。
「ナルト・・・本当のことを教えてやるよ!」
クククとミズキは笑っている。イルカの行動に驚いて、呆然としていたナルトはハッとしてミズキへと顔を向ける。イルカはどこか焦ったようにミズキを見つめている。
「この里ではな、「ナルト」は「九尾」を指すんだよ!お前は化け狐で、イルカの両親を殺したんだ!!」
「やめろ!!」
イルカは突然の言葉に驚き、ミズキに制止をかける。しかし、ミズキの叫びは止まらない。
「イルカだって本当はなぁ、お前のことが憎くてしょうがないんだよ!!」
「やめ・・・・・・ナ・・ルト・・・?」
イルカがミズキの暴言を止めようとした時だった。
ナルトからハハ・・・という乾いた笑いがもれた。
それが今の状況に妙に浮いていた。
イルカは様子の変わったナルトを不審に思い、振り返る。
ナルトは自分が「九尾」だと言われていることはずっと前から知っている。今更そんなことを言われても、もう負けない。だけど
――苦しい・・・
ナルトはぎゅっと胸の辺りを強く握る。
わかっていたんだ。イルカが時々、自分を見る目が何かに迷っていることを。
気づいていた。
でも気づかないふりをしていたんだ。
そうすれば、まわりの子と同じように自分が扱われているように見えたから。
一楽に連れて行ってくれるイルカに、お父さんってこういうのかなって想像してしまって。
それが嬉しかった。本当に嬉しかったんだ。でも、
――やっぱり・・・無理なのかな・・・
ナルトから一筋の涙がこぼれた。
――ナルト!?
イルカはナルトが流した涙に驚き目を見開いた。
確かに自分にとって「九尾」は親の敵だ。憎くないはずがない。
正直に言ってしまえば、自分の受け持ちのクラスにあの「ナルト」がいるということが分かった時には、自分はどうすればよいのか分からなかった。
でも、いざ授業をやってみれば、「ナルト」は普通の子供だった。
ただ少しやんちゃなだけで。よく笑う悪ガキで。
そう思っていた。
そう思っていたナルトが今、自分の目の前で泣いている。
――俺のせいだ・・・!!
イルカはキュッと唇をかみ締める。
己の少しの気の迷いのせいで、ナルトを苦しめていた。
なんてことだろうか。
これでは教師失格だ。
「ナルト!!」
イルカは思い切りナルトの名を叫ぶ。しかし、ナルトはこちらを見ようとしない。
いや、全く反応していない。自分の呼びかけにまるで気づいていない。
――もう・・・見てくれないのか・・・?
あの輝くような笑顔に、己の汚い心がどれだけ救われただろうか。
――ナルト・・・お前は知らないだろう?
伝えなければ。今、言わなければ二度とあの笑顔を見れない。そう思うんだ。
イルカは反応を返さないナルトに向かって再び叫ぶ。
「ナルト!!俺は確かに「九尾」は憎い!!殺せるなら殺したい!!けど・・・「ナルト」は違う!!お前は俺が認めた」
優秀な生徒だ!
その言葉にナルトの肩がピクリと揺れる。さらにイルカは続ける。
「お前は努力家で一途で・・・そのくせ不器用で誰からも認めてもらえなくて・・・お前はもう人の苦しみを知っている・・・今はもうバケ狐じゃない。お前は木の葉隠れの里の・・・」
うずまきナルトだ。
イルカはそう言ってじっとナルトを見つめる。しかし、ナルトの顔は下を向いていて、全くこちらを見ようとしていない。それを見たイルカは顔を歪ませる。とその時だった。
「ケッ!めでてー野郎だな。」
お前が殺さないなら俺がやってやるよ!
そう言ったミズキが背中の手裏剣へと手を伸ばし、ナルトに向かって勢いよく投げつける。
ザシュッ!!!!
「・・・・・・え?」
突然、地面に押し倒されたナルト。見上げたそこには口から血をたらしているイルカが目に飛び込んできた。今の音、それはイルカの背に刺さった大きな手裏剣によるものだった。イルカの口からはぼたぼたと血が流れ落ちる。
ナルトはただそれを呆然と眺めていた。すると、今度は血ではない何かが降ってきた。ナルトは頬に当たった何かを手で触れる。それは透明な液体だった。ナルトが恐る恐る再びイルカへと視線をもどす。
「ナルト・・・やっと見てくれたな・・・。」
そう言ってイルカは微笑む。しかし、すぐにひどく悲しそうな表情へと変わった。
「さみしかったんだよなぁ・・・苦しかったんだよなぁ・・・ごめんなぁ・・・ナルト。」
そこには涙を流し、自分に謝っているイルカがいた。
ナルトは思い切り目を見開いた。
――違うんです・・・!
さっきのイルカの叫びはしっかり自分に届いていた。
イルカの必死な声が、その言葉が嘘ではないと伝えるのに十分だった。
顔を上げられなかったのは、嬉しすぎて、幸せすぎて、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだったからなんだ。どうしてイルカが謝る必要がある?
――あぁ、やっと
やっと自分を本当に認めてくれる大人が現れたのだ。
里にもどってきてから5年間。自分を「ナルト」として見てくれる大人は三代目火影しかいなかった。1人でもいてくれたことに自分はとても感謝していた。しかしそれは
――孤独・・・
本当は寂しかった。苦しかった。どんなに人が集まっている中にいても自分は孤独だった。
長かった。それでも負けないで、諦めずに今までこれたのは姉と父と火影様、そして友達のおかげで。
そうしてようやく手に入れた理解者。
――イルカ先生・・・ありがとう。・・・もう許しませんよ・・・
ナルトはイルカの下から抜け出て、イルカの制止も聞かず、立ち上がる。
それを見たミズキは木から飛び降り、ナルトに巻物を寄越すように叫んだ。
しかし、ナルトはずっと顔を下げたままだ。全く表情が伺えない。と、その時ナルトはすっと十字の印を組み、二体の分身を作り出した。
いや、その分身は実体を持っているため、ただの分身ではなかった。
そう、それは盗んできた巻物の中の一つである禁術、“影分身の術”だ。
イルカはナルトの影分身の出現に目を見開く。
「ミズキ先生・・・、何か言い残すことはありますか?」
顔を上げたナルトは目を細めにこりと微笑んでいる。いつもの大口を開けて笑う笑みとは全く異なっていた。
ミズキは突然雰囲気の変わったナルトを不審に思ったが、
「お前なんかに何ができんだよ!」
化け狐が!!と叫び背中にあった大きな手裏剣へと手をかけようとした瞬間、
「「油断大敵だってばよ!」」
2重の声が聞こえたかと思うと、二体のナルトがミズキの両腕を固定していたのだ。
いつの間に!?と焦るミズキにだんだんと本体であろうナルトが近づいてくる。そして、ミズキの目の前へ来て立ち止まると、またにこりと笑う。
「それが最後の言葉でいいんですね?」
それじゃぁ、先生さようなら。
そう言い残すと、ナルトは右手にかなりの量のチャクラを溜め込み始める。
ミズキは「へ?」という声とともに間抜けな顔をした次の瞬間、ミズキの顔に黒い影がかかる。それは、自分の目の前にナルトが跳び上がったためにできた影だった。そしてその次の瞬間には
バキィッッ!!!!!!
ミズキの顔面が一瞬へこんだかと思うような強烈な鉄拳が入った。それと同時に二体の影分身は煙を上げて消える。ミズキは後方へと吹っ飛び、背後にあった木をなぎ倒していく。そして10本近くほど木をなぎ倒した後、やっとミズキの体は止まった。今の一撃の威力がその倒れている木々で伺い知れる。
イルカは今目の前で起こった事態に理解できず、頭が真っ白になっていた。いったい何がどうしたのか。とりあえず分かることは、ミズキをナルトが倒したということくらいだ。
そしてそのナルトはというと、自分の方を向いてこちらに歩み寄ってきている。
「ナ、ナルト・・・?」
なんとも間抜けな声を発する。イルカの目の前で立ち止まったナルト。すると、ナルトは無言のまますぐにイルカの背後へと回り込み、イルカの背に刺さっていた大きな手裏剣を慎重に抜いた。
それには大して痛みを感じなかった。
手裏剣を抜いた直後、背中に温かいものを感じる。と、その時、ナルトが口を開いた。
「ごめんってばよ、イルカせんせ。」
怪我させて。と、くしゃっと歪んだ笑みで呟く。
「それと・・・ありがとう!」
さっきの言葉・・・届いたよ、と言って背後からニシシと笑い声が聞こえる。イルカもさっきの自分の言葉を思い出し、少し顔を赤くさせる。と、突然ナルトの笑い声が止まった。
「俺さ・・・・・・医療忍者になりたいんだってばよ。」
ナルトのその言葉にイルカはハッと目を見開いた。
そういえばナルトの将来の夢など今まで一度も聞いたことが無かった。
いたずらばかりして自分を困らせていたこの少年。授業はまともに聞かないし、成績ではいつもドベだった。そんな少年がなぜアカデミーに通っているのか・・・少年に振り回されるばかりで、少年の将来の夢など考えたことも無かった。
イルカの背後からナルトはそのまま話を続ける。
「そんで、いっぱいたくさんの人を助けるんだってばよ!」
もう俺ってば2回もアカデミー落ちてるだろ?俺さ・・・今年こそは卒業したかったんだぁ。
最後は涙声になっていた。
イルカはふと背中の痛みがなくなっていることに気づいた。
そのことに少し驚いてイルカが振り向くと、そこには涙をポロポロとこぼしているナルトがいた。
「でもさ、でもさ、イルカせんせ。かばってくれてありがとう!」
イルカ先生がまた担任なら、俺、がんばっちゃうもんね!
涙を流したままナルトは満面の笑みでそう告げる。イルカは声が出せなかった。
ナルトはそんなイルカの様子に気づかず、こっちを向いたイルカの体中の傷の一つ一つに手のひらを順々に乗せていく。ナルトの手のひらが当たったところにはもう傷など見当たらなかった。
それに驚いたイルカはやっとのことで口を開いた。
「ナルト・・・お前、掌仙術できたのか・・・。」
それに影分身まで、と呟いたイルカをナルトはふと見上げる。
「掌仙術は医療忍術の基本だってばよ。影分身はミズキ先生が持って来いって言った巻物に書いてあったんだってば。」
本当はもうちょっと前からできましたが、というのは心の中にしまっておく。
イルカはそれを聞いてナルトの背負っている巻物に気づいた。
それは火影様の言っていた巻物だろう。
イルカはふっと笑みを浮かべて、掌仙術を自分の身体にせっせ施しているナルトを見つめる。
――俺はこいつの何を見てきたんだろうな・・・
この1年間、ずっと見てきたつもりだった。しかし、それは自分の勘違い。
試験の時の不自然だったナルト。確かにナルトは授業でも忍術が成功することなんてなかったが、術は失敗しても、チャクラ自体は練ることはできていた。
あの時の試験でナルトは何かがあって術を発動することができなかったにちがいないのだ。だからあんなにも必死な目をして自分を見ていたのだ。
――それに気づけなかったなんて・・・情けない・・・
目の前では自分の前で見事な医療忍術を使いこなしているナルト。イルカはその様子に微笑みながら、ナルトに気づかれないようにこっそりと何かをし始める。そして、
「ナルト。」
ちょうどイルカの傷を全て治療し終わったところで、頭上から降ってきたイルカの声にナルトはパッと顔を上げる。その時の目に入ってきたイルカの顔が眩しくて、ナルトは初めて今がもう朝になっていることに気がついた。
すると額につけていたゴーグルを取られ、何かを巻きつけられる。イルカはずっと満面の笑みだ。今のイルカはどこかいつもと違う気がするのはなぜだろう。
「卒業おめでとう。」
ナルトは一瞬その言葉を理解できなかった。
額に巻きつけられたものに手を触れる。と、そこには額あてがあった。
自分がほしくてほしくて、でももらうことができなかったもの。
――だからイルカ先生がどこか違うと思ったんですね。
イルカの額にはいつもつけている額あてがなくなっている。
やっとその意味に気づいたナルトはさっき止まったばかりの涙がまた溢れ出てくる。
そしてイルカに思い切り抱きついた。
「お前なら、立派な医療忍者になれるさ。」
と、人差し指で鼻をかきながら、少し恥ずかしそうにイルカは笑う。
「おうってばよ!」
ナルトもつられてニカッと笑う。
卒業祝いだ!と言ってイルカはナルトの手をとった。
ナルトはつながれた自分の手を見てはにかむ。
卒業という言葉は嬉しかった。でも、イルカの言葉がもっともっと嬉しかったんだ。
――この気持ちが伝わりますように。
ナルトはつながれた手にぎゅっと少し、力を入れる。そうしたら、イルカがこっちを見て苦笑をして、ぎゅっと握り返してくれた。
そんなことと言われるかもしれないが、それが本当に幸せで。
その日の早朝、一楽では楽しそうな、どこか幸せそうな笑い声が響いていた。
一方、ミズキはというと、ナルトの捜索にあたっていた他の忍びたちに発見された。
ミズキは生きていた。それはもちろんナルトが死なない程度に殴ったおかげだ。
イルカから全ての事情を聞いた火影様がミズキの治療後、厳重な処罰を下したのは言うまでもない。
あとがき
今日から少し忙しくなってきました小春日です。
このお話は何度も何度も書き直しましたが・・・自分の文才の無さに涙が出てきます。