九尾の襲来からもう5年も経った。
里の復興もほとんどが終わったが、なにやら里では「ナルト」の噂が絶えんようじゃのう。
口外無用との掟も出したのじゃが・・・。
如何せん、気づくのが遅かったせいで里の大人たちはみなが口々にその噂をしておる。
「ナルト」は里の英雄じゃ。「ナルト」のおかげで今があるんじゃ。
・・・しかし、今度の噂は信憑性が出てきたのう。
金髪青目・・・四代目と同じではないか。
2年前、どこからともなく突然広がった噂じゃが・・・。
「ナルト」や、おぬしはまだ生きておるのか・・・?
「ナルト」を守ることができんかった自分が憎くてしょうがない!!
おぬしがまだ生きておるのなら、
わしの前に姿を見せてくれ
ナルト
NARUTO ~大切なこと~ 第10話
木の葉の里の中心部、火影邸の中を一人の老人が歩いている。
その老人こそ、この里で「プロフェッサー」の異名を持つ三代目火影である。
四代目火影の亡き後、再び火影として里の復興に力を注いできた。
そんな三代目火影様はなんとも疲れたご様子でトボトボと廊下を歩いている。
――今日は一段と疲れたのう・・・。もう真夜中じゃ。
そう、今の時間は丑三つ時と呼ばれる午前2時。
ご老体にはきついものがあるだろう。
しかし、何故か今日はすぐに寝ようという気分にもなれず、火影邸の中をさまよい歩いていたのだ。
――・・・?
行方も決めずひたすら歩き続けている時だった。
今歩いている廊下は禁術の保管されている部屋へと続く。
――部屋の扉が開いておる・・・?
まだその部屋の近くではないのではっきりとは分からないが、部屋の扉の隙間から青白い光がもれているように見える。
――あの部屋はわしのチャクラにしか反応せんはずじゃが・・・。
この部屋の鍵は火影のチャクラに反応して開くような仕組みになっている。
今では三代目火影しか開けられるものはいないはずなのだ。
部屋の中からは全く気配がない。
三代目は恐る恐るその部屋の扉の前へと近づいていった。
――1人誰かが近づいています・・・
ナルト(ミコト)はさっと扉を振り返った。
この1ヶ月、今まで一度も自分がいる頃にこの部屋へと近づいた者はいなかった。
ナルトは扉を見てさっと顔を青くする。
――扉が少しだけ開いています・・・!!やばいです!!ばれちゃいましたよね!!?
内心パニックを起こしていた。
――さっきまで普通にしていた気配を薄くさせてもう扉のそばまで来ています・・・!!
かなり気配が薄いです・・・。それってすごい忍びさんですよね!!?
どうしよう!!殺されちゃう!!と声に出そうになる口を両手で押さえ、気を落ち着かせる。
――まずは、やっぱり謝るしかありません!!・・・許してもらえるでしょうか・・・。
額には汗が吹き出てくる。
そして扉が開いた瞬間、それと同時に狐火を消し、ナルトは瞬身の術でその扉から部屋を飛び出し、扉を開けた人物の後ろに立った。
三代目火影は部屋に近づく前にさっと気配を消し、扉の前へと移動した。
――確かに扉が少し開いてはおるが・・・。全く気配がせぬ。
しかし、明かりが漏れているとな・・・?
意を決して扉を開くと
――っっっ!!!?
開けた瞬間、部屋の青白い光が消え、その部屋の中には巻物以外何もない。
――何があったんじゃ!?
目を見開いて驚きを隠せないでいると、突然背後から声がした。
「ごめんなさい!!!!」
「・・・・・・はぁ?」
三代目の理解の範疇から超えてしまったようだ。
突然聞こえてきた少年の声にもう頭の中はパニックである。
三代目の頭の中は白くなりかけていたが、なんとかして振り返る。
するとそこには金髪の頭をさげて必死に「ごめんなさい」と連呼している少年がいた。
――こやつ全く気配がない・・・?
目に映っているはずなのに、まるでいないかのように感じられる目の前の少年をじっと凝視する。そしておもむろにその少年の肩に手を置いた。
「おぬし、どこの忍びじゃ。」
よかった、人間だ。と思ったのは秘密だ。
――わしの後ろをとるなんてよほどの忍びじゃ・・・。
気配が全く無いこともだが、とりあえずこの部屋にいたのは確実のようだ。それを部屋から出て一瞬にして背後に回ったのだ。
とにかく少年を落ち着かせ、顔を上げさせる。
「え?あ・・・、えっと、木の葉の忍び・・・?です。」
何やら自信のなさそうに答える少年の顔を見て再び驚く。
老人の驚きに気づかずに少年は何かを考え込んでいた。
――父が木の葉の忍びだったのですから、一応僕も?木の葉の忍びですよね?
――こやつの顔は・・・!!四代目!!?
この髪の色といい、目の色といい・・・。何者じゃ!?
「おぬし、ちょっと着いて来い。」
三代目はそう言うと、少年の返事も聞かず少年の手をとって歩き始める。
ナルトは掴まれた手に驚いたが、黙って三代目の後についていく。
しばらく歩いていると、おもむろに三代目が口を開いた。
「おぬし、もう少し気配を出してはくれぬか。」
後ろにいるはずの人間から全くといってよいほど気配を感じられない。
手をとってはいるので、後ろにいることは確かなのだが、なんだか四代目にそっくりなこともあり、幽霊をつれているような感覚なのだ。
すると、少年からやっと、わずかに気配がもれてきた。
それでもとても薄い気配。
――こやつの気配の消し方は尋常じゃないぞ。
今でこそやっとわしでつかめるが、他のやつらでは掴めんじゃろう・・・
そのまま後は無言のまま目的地まで歩いていく。
ある部屋の扉を開け明かりを点ける。
火影室だ。
少年を中へ連れ込みソファーに座らせ、三代目も少年と向かい合うように置いてあるソファーへと座る。
「おぬし、木の葉の忍びと言ったな。」
静かな部屋に老人の声が響く。
「・・・はい。」
少年は真っ青な顔で返事をする。
――どうしましょう!!この方三代目火影様です!!
木の葉の里の忍術は全て知っているというあの有名な「プロフェッサー」様です!!!!
うはぁ。僕はやっぱり殺されてしまうでしょうか・・・。そうですよね・・・。
何せ禁術の巻物を読んでしまったのですから。
ナルトの顔色は悪くなる一方だ。
「おぬし、名はなんと申す?」
三代目は睨みを利かせたまま少年に尋ねる。
「神影ミコト・・・と申します。」
刺すような視線にナルトはじっと耐える。
1秒がとても長く感じるこの状態はとにかく精神的に辛い。まるで時が止まっているかのように感じる。この空間にいることがとても痛い。
まるで静止画のような状態が続く。
そしてその止まっていた時間を老人が動かした。
「おぬし、特別上忍をやらんか?」
ナルトはその言葉をすぐには理解できなかった。
――特別上忍・・・?それはえっと、中忍と上忍の間の忍者のことですよね。
うわぁ、上のほうですねぇ。・・・って!!えぇ!!?
やっと理解したのか驚愕の表情を浮かべた少年を見て三代目は苦笑する。
「いやなに、今里はおぬしも知っておるだろうが九尾のことがあって忍び不足。おぬしはワシの背後を意図も簡単に取ったのじゃ。そこから考えると、おぬしの実力は上忍くらいありそうなのだが・・・まずは特別上忍で様子を見たいんじゃ。おぬし、下忍ではなかろう?おぬしの顔は見たことが無いからのう。上忍や特上はわしの推薦でなることができる。木の葉の忍びと言うなら、ぜひとも頼みたい。」
そう言って軽く頭を下げるその様子に、ナルトは慌てた。
「あの、僕・・・勝手に忍び込んで禁術の巻物を読んでいたんですよ・・・?それにまだ火影様とはお会いしたばかりで・・・、こんな怪しい僕なんかを正式な忍者にだなんて。」
顔をお上げください。としどろもどろになりながら少年は言う。
「そういえばおぬし、いつから忍び込んどったんじゃ?まさか今日が初めてではあるまい。」
今思い出した、というような表情で尋ねる三代目。
全く気配のない少年のことだ、少し前から忍び込んでいたのだろう。
「えっと・・1ヶ月前くらいから・・・です。」
「1ヶ月!!?」
2、3日前くらいと高を括っていた三代目は目を見開いた。そしてふと疑問に思っていたことを尋ねる。
「あの部屋には鍵がかかっておったのじゃが、おぬしどうやってあの扉を開けたんじゃ?」
そう、あの扉は己しか開けることが出来ないはずなのだ。
少年はコクリと首を傾げながら三代目を見た。
「簡単に開きましたよ?」
触ったらそのまま。
それがどうしたんですか?というような眼差しでじっと見つめてくる少年には嘘の色は見られない。
――故障したか・・・?
あとで他のやつらに確認させようと三代目は決め込んだ。しかし、調べてみても故障など見つからず、さらに謎を深めるだけだったが、後にこの鍵のシステムは廃止され、火影邸にいる忍びたちがそれぞれ個々で警戒するという対策をとることになった。
「ま、そのなんじゃ。禁術の書を読んで悪いと反省しておるなら、ぜひ忍者として働いてもらいたい。それに、もうわしはおぬしの名前を知っておる。正直者の良い子のようじゃ。それにの、おぬしを見ていると四代目を思い出しての・・・。」
正直者という言葉でナルトはピクリと反応し、少し顔を下げる。
ミコトの反応に気づかないまま三代目は顔を上げ、歴代の火影たちの写真が並んでいる中の1枚をじっと見つめる。ナルトはチラッと三代目の動きが目に入り、下げていた顔を三代目が見ている同じほうへと向ける。
――・・・お父さん。
四代目火影にミコトは本当にそっくりだった。
――あの写真の首飾り・・・。
ナルトは服の上からぎゅっと首飾りを握る。
「こんな爺の願いなんぞ迷惑かもしれんがの、頼む、この通りじゃ。」
また軽く頭を下げる。
そこに「頭を上げてください」と声がかかる。
顔を上げると、何かを少年は考え込んでいるような顔をしていたが、すぐに三代目へと顔を向ける。
「その話、お受けします。」
先ほどまでのおどおどしていた態度はそこにはもうなかった。
その言葉に火影は表情を明るくする。そしてそのまま少年は言葉を続ける。
「でも僕はまだまだ修行中の身です。ですから、すぐに忍びとしての仕事にはつけないと思います。それでもよろしかったら、ぜひやらしてください。僕は医療忍術に興味があります。実はここに忍び込んだのも医療関係の本が読みたかったからなのですが・・・つい禁術にも興味があったので、先に見つけてしまった禁術書を読み漁ってしまいました。」
本当にすみませんと言って頭を下げる。
――医療忍術じゃと!!?
三代目はこの目の前の少年に驚かされてばかりである。
「おぬし、医療忍術が使えるのか?見たところ14、5歳のようじゃが・・・。」
「はい、少しだけですが・・・。」
少年は遠慮勝ちに答える。そして、僕は15歳ですと付け加える。
三代目は少し考えてから
「医療忍術を使えるものは本当に少ない。おぬしが特上となってくれたら、いくらでもここにある医療の本を読んでよいぞ。」
その言葉に少年は輝くような笑顔を見せる。
「喜んでお受けします!!」
それはもう満面の笑みだ。
その少年につられて三代目も微笑む。
「おぬしに忍服と額あてを渡しておく。それを着て明日からでもここに来なさい。」
それを聞いて少年は
「あの、特上として来るのは夜だけとかでもよろしいですか・・・?まだいろいろと修行をしたいんです。」
と申し訳なさそうに言う少年に、三代目は微笑んだまま「好きにしてよい。」と答えた。
あとがき
火影様視点から始まりました。
ミコト(ナルト)さんの特別上忍になったお話でした。
こんな小説(と呼んで良いかわからないもの)ですが、読んでくださっている人がいらっしゃるのかなと思うと、すごく嬉しいです。
あと2話で原作にもどりますが、その前にちょっとした番外編を入れようと思っています。明日も更新できるようがんばります。
お時間があるときにお読みください。これからもよろしくお願いします。