2.
秒針が時を刻む音が教室にこだまする。それがたまらなくストレスを溜める原因となることを、ナルトはこの日、初めて知った。
集合時間は午後一時――だったはずなのだが、時計の針が指しているのは三時二十五分。遅れているなんていう生易しいものではなく、もはや放置されているのではないかと疑うほどの遅延ぶりだ。
いらいらが止まらない。ナルトはいつだってきっちりやることを重んじる。規律を守れない奴が一番嫌いだ。それなのに、それなのに、それなのに!
机の下で小刻みに震える脚は貧乏ゆすり。不機嫌な顔で脚を揺らすその様は見ていて不愉快だ。サクラは顔を顰めて、ナルトを睨む。
「苛立ってるのはわかるけど、うざいから止めて」
ぴくりと反応すると、ナルトは申し訳なさそうな顔になって脚を止める。
再び秒針の音。
いらいらいらいらいらいらいらいら。
ナルトの堪忍袋は限界をとうに超えていた。
「あー! いつまで待たせるんだ! 忍者とかなんとかいう以前に! 人として! 時間を守れないのはどういうことなんだ! 最低限のルールだろがっ!?」
「他の班はみんな行っちゃったしね。遅刻かな? 教師ともあろうものが初日から?」
ガタンと椅子を倒して立ち上がるなり、叫んだ言葉はこれだ。
サクラとサスケは大きく頷く。そんなことも守れないやつの下に付くことになるのかと思うと心底うんざりしてくる。
「忘れられてるとかないよね……」と怯えるようにサクラは言うが、「フン、黙って待ってろ」とサスケが吐き捨てる。腕を組んで、机に脚を乗せながらのその言葉は多分に怒りを含んでいた。
こっそりとサスケも貧乏ゆすりをしているのだが、それを指摘するものは誰もいない。
――チクタク、チクタク
場を沈黙が満たすたびに、耳に入ってくる秒針の雑音。
後何時間待てばいいのだろう。太陽がそろそろ傾きかけている。本当に忘れ去られているのではないだろうか。
三人とも妙に焦りながら、時計を極力見ないように、ひたすら机の上を見つめていたとき、扉の開く音が聞こえた。
「いやぁ、ごめんごめん。来る前に腹痛がすごくてねー」
入ってきたのは白髪の男。黒で統一された忍衣装の上に、迷彩色のジャケットを着た、片目を額当てで隠していて、さらには鼻から下もマスクで覆っていて顔のほとんどが見えない――いかにも怪しげな男だ。
盛大に遅刻したにも関わらず、全く悪びれた様子はない。あげくに言い訳をしながら入ってくる様は、三人の神経を逆撫でするには十分だ。
自然と表情が引き攣るというもの。ナルトにいたっては吊り上がった口角がひくひくと痙攣している。
しかし、一応先生になる相手に失礼を働くわけにはいかない。三人とも大きく深呼吸をすると、少しだけ嫌味をするだけに留めることを視線で確認しあった。
「先生……凄く健康そうに見えるんですけど」
「顔色はいいな」
「これで本当に上忍か? 頼りなさそうな奴だな」
小さく呟く。だが、きっちりと相手の耳に届くように計算された小声。
聞き取った上忍は思い切り良い笑顔を浮かべると――といっても片目しか見えないのだが――とても爽やかな声で言い放った。
「んー……なんて言うのかな。お前らの第一印象は――嫌いだ!」
こっちの台詞だよ、と思ったのは誰だろう。
下忍の引き攣った笑みはどんよりと沈んでいく。
◆
「そうだな。まずは自己紹介をしてもらおう」
七班を引き連れてアカデミーの屋上に着いたときに発した怪しげな男の第一声はこれである。
初対面なのだから自己紹介をするのは当然と言えば当然だが、何を言えばいいのかわからない。
サクラは手を上げると「うん、桃色の髪の君。質問ならどうぞ」と言われ、怪訝そうな表情を浮かべながら、おずおずと言葉を紡いだ。
「……どんなこと言えばいいの?」
「そりゃあ好きなもの、嫌いなもの。将来の夢とか趣味とか……ま! そんなのだ」
当たり前のこと聞くなよ、と言った風情の怪しげな男。
もともと苛立っているナルトは、さらに怒りとなる要素を贈呈されて、抗議をする。
「まずは自分からやるのが筋だろ?」
「そうね。見た目ちょっとあやしいし」
「かなり、だろ……」
七班は結成されたばかりとは思えないほどのチームワークを持って、怪しげな男の評価を言う。
顔は見えないし、名前もわからないし、遅刻はしてくるし、はっきり言って評価はかなり最低だ。できるものなら別の上忍に変わってほしいと全員が思っていた。
その意味を的確に把握しているのか、それともとことんまでに空気が読めないのか。怪しげな男は気分を害した様子はなく、「あぁ、俺か?」と自己紹介を始める。
「俺は"はたけカカシ"って名前だ。好き嫌いをお前らに教える気はない! 将来の夢って言われてもなぁ……ま! 趣味は色々だ」
「ねぇ、結局わかったのって名前だけじゃない……?」
サクラの言葉に強く頷く二人。はたけカカシは自分を全く紹介していなかった。自分の情報は決して他人に与えない。情報を大事に扱う忍者の鏡だ、とナルトは無理やり納得した。
「じゃ、次はお前らだ。右から順に……」
座っている順番は右からナルト、サクラ、サスケだ。
「俺か。俺はうずまきナルト。好きなものは――何だろうな。思いつかない。嫌いなもの――というより嫌いなことは見下されること。将来の夢はイルカ先生みたいに立派な教師になることだ」
特に隠す理由もないので全て正直に答えたところ、サクラとサスケが驚いたふうにナルトのことを見ている。「何かおかしいのかよ」とじろりと見返すが、「へぇ、ナルトって教師になりたいんだ? 意外~」「確かに意外だな」と両名に言われ、不思議に思う。
「そうか? 教え育てるってのは人生において最大の娯楽だと思うぞ」
「へぇ、きっとなれるわよ。頑張りなさいよ」
へへへ、と恥ずかしそうに照れるナルト。
何だかんだで生徒に言ったことはなかったので、こういう夢を語るのは初体験である。ちょっと恥ずかしいな、と少し顔を伏せる。
「趣味は――修行かな。できないことをできるようになるってのは楽しい」
「勤勉な奴……」
カカシの吐いた言葉は意図的に無視して、ナルトは自己紹介を終了した。
はい次、と指名されたのはサスケ。フン、と鼻息を鳴らすと、表情を隠すように顔の前で手を組んだ。
「名はうちはサスケ。嫌いなものならたくさんあるが、好きなものは別にない。それから……夢なんて言葉で終わらす気はないが――野望はある! 一族の復興と……」
瞳に宿るのは漆黒の焔。
「――ある男を必ず殺すことだ」
どれほどの憎しみを湛えているのか。堪えきれない憤怒は殺気として発散される。
先日にミズキの本物の殺気を受けた身であるナルトからすればそよ風のようなものではあるが、それでも、自分と同年代のサスケがそれほどの怒りを孕んでいることに驚きを覚える。
何を奪われたらここまで恨めるのか、わからない。
「よし。じゃ、最後は女の子」
気軽なカカシの声に殺気は霧散する。
すると――
「私は春野サクラ。好きなものはぁ……てゆーかぁ……好きな人は……えーとぉ、将来の夢も言っちゃおうかなぁ。キャー!!」
終始ちらちらとサスケのことを見るサクラ。ほんのりと頬を染めるサスケが可愛らしい。照れているのか、とナルトは冷静に分析する。ポーカーフェイスを装おうとしているのに、できていないあたりが面白い。
くつくつと笑うナルトのことをサスケは睨みつけるが、それがより一層笑える。
「嫌いなものは特にないです。あ、強いて言えば空気読めない奴です」
サクラがちらっと見たのはナルトだ。サスケのことを馬鹿にして笑っていることが許せないのだろう。
「俺?」と少し動揺しているナルトを見て、サスケは少しだけ溜飲が下がったのか……「このウスラトンカチが」と馬鹿にしている。下らないことで張り合っているあたり、精神年齢は同じなのかもしれない。
「趣味はぁ……」
まだサスケに視線を向け続けるサクラ。いい加減鬱陶しくなってきたのか、サスケはぱたぱたと自分の顔を扇ぎ始める。
(この年齢の女の子は忍術より恋愛だな……)
呆れたようにカカシはタメ息を吐くと、ぱんぱんと手を叩く。
「よし! 自己紹介はそこまでだ。明日から任務やるぞ」
『任務』という言葉に、七班の新米たちは敏感に反応した。
一人は目を光らせて、一人は歪んだ笑みを浮かべて、一人は緊張した面持ちだ。
その光景を見下ろすカカシは、にやりと笑う。
「まずはこの四人だけである任務をやる。サバイバル演習だ」
サバイバル演習――要するに森や山などで生き残るための練習だ。
気配を消すことから始め、敵を見つけるための索敵、または敵から逃げ切る遁術の修練、果てには食べられる植物の学習などいろいろある。それらは全てアカデミーで習うものだが――
「何で任務で演習やんのよ? 演習なら忍者学校でさんざんやったわよ!」
当然、文句は出る。
仮にもアカデミーを卒業する実力はあるのだ。それなのに、また授業の復習みたいなことをさせられる。舐められている、侮られている、そう思っても仕方のないこと。
だが、カカシは淡々と言う。
「相手は俺だが、ただの演習じゃない」
「どんな演習なんだ?」
ナルトは手を上げて聞くが、カカシは答えない。
くつくつと笑うだけで、口を開こうとはしない。不気味なことこの上なかった。
我慢できなくなったのか――サクラが「ちょっと! 何がおかしいのよ、先生」と言うが、笑い声は途切れない。
「いや……ま! ただな、俺がこれ言ったらお前ら絶対引くから」
「引かねーよ。そこらのヘタレと一緒にすんな」
ナルトの言葉に答えるように、カカシは言う。
「卒業生二十七名中、下忍と認められるのはわずか九名。残り十八名はアカデミーへ戻される。この演習は脱落率六十六パーセントの超難関テストだ」
驚きのあまり硬直する二人。
だが、ナルトだけはのほほんと聞いていた。
それも当然である。この中で二度留年したナルトは、そういう末路を辿った人間を何人も見ている。
「あー、だから卒業したのに離れの教習所で修行してる人が多かったのか。下忍になれなかったわけね」
「……君、引かないね」
「先生! じゃあなんで卒業試験なんかするんですか!?」
湧き上がる疑問の声に対するは端的な答え。
曰く、下忍になる可能性のあるものを選抜するだけ。
ふざけんな! とサクラは思うだけに留めず、叫んでしまうが、カカシはどこ吹く風。
「とにかく、明日は演習場でお前らの合否を判断する。忍び道具一式持って来い。それと朝飯は抜いて来い……吐くぞ」
七班の鋭い視線を受け流しながら、腰に吊るしたポーチの中からプリントを取り出すと、全員に配っていく。
ナルトは思う。
サクラは思う。
サスケは思う。
(落ちてたまるか)
最後まで飄々とした態度をとるカカシに対しての反発心もある。だが、それ以上に――下忍になると決めた以上、それ以外の道は選べないのだ。
まぁ、「この試験に落ちたらサスケくんと離れ離れになっちゃう。これは愛の試験だわ!」と考えている女の子は一人いるが――
「詳しいことはプリントに書いておいたから。明日遅れて来ないよーに」
「どの口が言うんだよ」
こうしてサバイバル演習という課題を与えられた七班は、解散した。
ナルトはこの日、忍具の手入れに余念がなかったのは言うまでもない。
◆
サバイバル演習場は数多くあるが、集合の場所とされたところは『森』と言う他ない場所であった。
危険な動物などがあまりいない、基礎的な――初心者用の演習場である。毒物などはあまりなく、食料を判別するのもあまり苦労しないところ。
そこの入り口の開けた場所で七班に所属するナルト、サスケ、サクラの三人は集合していたのだが、前回と同じく、教師の姿は一向に現れない。
ナルトはポケットの中で綺麗に折り畳まれたプリントを取り出すと、集合時間を再確認した。
八時、と書かれている。
腕時計を確認した。デジタルの数字で表示されるそれは朝のニュース番組に表示される標準時間に合わせたばかりのもの。それなのに、『AM09:48』と表示されている。
遅刻だ。正しく遅刻だ。
うんざりとしたようにナルトはタメ息を吐く。残り二人も同様に、深い深いため息を吐いた。
怒る気力も残っていない。
人間というのは怒りすぎると無気力になるものなのだ。
うなだれて座り込むナルトにかけられる言葉はなく、サスケはぼんやりと空を見ていて、サクラは木にもたれ掛かりながら小説を読んでいた。
朝の陽光が世界を照らし、実に日向ぼっこ日和である。ナルトは地面に生えている草など気にせずに寝転がった。それを嫌そうに見つめるサクラの視線があるが、全く気にしない。
朝日に眩む目を細めながら、ぼけっとしていた。
それから数分後――
「やー諸君、おはよう!」
悪びれることなく、はたけカカシは現れた。
「やっぱり遅刻かよ……」
「早く来るんじゃなかった……」
ナルトとサクラは嫌味を漏らすが、カカシには届かないようだ。
にこにこと機嫌が良さそうに片目だけで笑顔を表現しながら、ポーチから目覚まし時計を取り出す。
「よし、十二時セット」と切り株の上に置かれた。意味がわからず、七班の三人は全員疑問符を浮かべる。
すると、カカシがごそごそとポーチから新たにものを取り出した。それは鈴だ。風に揺られて凛と鳴る音は綺麗なもの。風流ですらある。カカシが持っていなかったとすればその音色に眠気を誘われていたであろう、とナルトはこっそり考えた。
「ここに鈴が二つある。これを俺から昼までに奪い取ることが課題だ。もし昼までに俺から鈴を奪えなかった奴は昼飯抜き! あの丸太に縛り付けた上で、目の前で俺が弁当食うから」
沈黙。
このとき、三人は全く同じことを考えていた。
(朝飯食うなってそういうことだったのね……)
腹が鳴る。
育ち盛りの年齢であるナルトやサスケ、サクラにとって空腹とは大敵だ。力が、入らなくなる。そんな過酷なことを要求するカカシが鬼のように見えた。胡散臭い鬼、絵にならない。
「鈴は一人一つでいい。二つしかないから――必然的に一人が丸太行きになる」
カカシはサバイバル演習の説明を続ける。
「で! 鈴を取れない奴は任務失敗ってことで失格だ。つまり、この中で最低でも一人は学校へ戻ってもらうことになるわけだ。手裏剣を使ってもいいぞ。俺を殺すつもりで来ないと取れないからな」
「でも、危ないわよ。先生!」
「仮にも上忍なんだから下忍の手裏剣なんか喰らわないだろ。喰らったらそいつはそこまでのことだったってことだ。そうだろ、先生?」
「その通り! よくわかってるねぇ」
ナルトの言葉をカカシは肯定する。
そもそも下忍に殺されるような上忍がいるわけがないのだ。仮にいたとしても、そんな奴に上忍の任務がこなせるはずがない。死んだほうが里のためだ。
「ところで、質問いいか?」
いいよ、とカカシは言う。
ナルトはこの時点で不思議に思っていたことがあったのだ。
スリーマンセルということで組まれた卒業生。それなのに必ず一人は落ちるという。それは、おかしい。上忍と合わせて、木の葉の基本スタイルであるフォーマンセルが組めない。この課題は致命的に矛盾している。
それに、仲間割れを起こさせるために作られたような課題を疑問に思える。得をすることがないのだ。
だが、それは保留する。それは試験中に考えればいいこと。まず確認すべきことは一つだ。
「他の班でも同じような課題をしてるとすれば、他の班で合格した奴が新たに七班に加わるってことか?」
「……そうなるね」
なるほど、とナルトは頷く。
そして、少しだけ困ったような表情を浮かべる。
「せっかく二人と友達になれたんだ。できれば一緒の班になりたいんだが……」
素直すぎる言葉にサスケとサクラは少しだけ、笑う。
ナルトにとって『友達』という言葉はとても大事なものだ。他のなにものにも変えられない。やっと手に入れられたもの。それを手放す気はない。しかし、試験では絶対に引き剥がされる。
納得できない。
その言葉を気にいらないのか、カカシは笑う。
「友達失いたくないから任務できないよーってか? けっこうなことで。そんなんじゃ教師にすらなれないだろうな」
笑うと言っても、それは嘲笑の類だ。
「安い挑発だな」とナルトは言い返すが、拳に力が入っているのがわかる。怒っている。
お互いに満面の笑顔のやり取り。
サクラは内心ドキドキしながら経緯を見守っていた。
「アカデミーで習ったのか? その下らない受け答えは。授業を担当した教師の力量が知れるな。随分と、つまらない。程度が知れる」
ナルトの顔が、鬼のような形相に変わる。
地雷だ。
それは恩師であるイルカに対する侮辱。ナルトの目標を穢す言葉。
看過できるほど――ナルトは大人ではないし、冷めてもいない。
殺気を撒き散らす。
太腿につけられたホルスターから苦無を引き抜き、振り上げる。
一連の動作は無駄のない、流麗そのもの。教本に載ってもおかしくないほどの、日々の鍛錬による賜物。
だが、肝心の投擲に入ったとき、その動きは止められた。
「そうあわてんなよ。まだスタートは言ってないだろ」
「うそ……! まるで見えなかった」
「これが……上忍か」
サクラとサスケが驚くのも無理はない。
目に写らない圧倒的な速度。
それはまさに――疾風。
気づけばナルトの後ろに立ち、苦無を握る手を押さえていた。それほどまでの神業。
だが、驚いていない奴が一人いる。
ナルトだ。
口の端を吊り上げながら、好戦的に笑っている。
「悪いな。俺の中ではもうスタートだ」
このとき、カカシは気づく。苦無の柄に巻きついているものに――
(起爆札ッ……!?)
耳を劈くほどの轟音。
近くで爆発した余波でサクラとサスケの視界は白く染まる。
見えない視界の中では爆煙が巻き起こり、状況がわからない。
カカシはどうなった。
「ナルト!?」
サクラは叫ぶ。
そんなとき、地面を踏みしめる音が確かに聞こえた。
「どうだ。つまらない教師に育てられた補欠合格の卒業生の実力は?」
吐く言葉は挑発的なもの。不敵な笑み。
現れたのはナルトだった。
どうやったのかはわからないが、汚れ一つない綺麗な格好で、草陰から歩き出してくる姿は、サクラの女心をくすぐった。
かっこいい、と思ってしまった。
だが――
「もう一度言う。スタートはまだ言ってないだろ?」
「なっ……!?」
ナルトの後ろには、胡散臭い男が欠伸混じりに立っていた。
学習能力の低い子供に対し、呆れるように注意する様は、余裕を窺わせる。
「でも、ま! 俺を殺るつもりで来る気になったようだな。やっと俺を認めてくれたかな?」
さきほどまでのふざけた態度ではない。
「ククク……なんだかな。やっとお前らを好きになれそうだ」
飄々とした昼行灯の姿から、ようやく本当の姿を出してきた。
上忍。
木の葉を支える――選りすぐりのエリート。
下忍などとは比べることもおこがましいほどの戦力差を保有している。
サクラは彼我の力の差に怯える。
サスケは強者に挑戦できる幸運を笑う。
「俺は、嫌いだ。イルカ先生を馬鹿にしたこと、絶対に撤回させてやる……ッ!」
ナルトは侮辱された恨みをぶつけるため、怒る。
「じゃ、始めるぞ。よーい」
風が、吹いた。
「スタート!!」
こうして木の葉の忍は試験に挑む。
"一人前"と認められるために……。