4.
【結界・蝦蟇瓢牢】の中に閉じ込められてどれほどの時が経っただろうか。視界が見えないせいで光も確認できはしない。数える目安とすれば食事の回数と、トイレの回数だろうか。おおよそで算出する限りでは「五日くらいかな」とナルトは適当に計算した。ちなみに、食事は口寄せの兵糧丸で賄い、トイレの時間もガマケンは待ってくれる。さすがにそこまで鬼畜な修行をするわけではないらしい。
そして、五日も修行をしていて気付いたことがある。視覚を閉ざしているせいで他の五感が鋭敏になっているのだ。
嗅覚、触覚、聴覚の三つが特に顕著であり、おそらくは蝦蟇の胃の中のせいだろう。酸性の鼻につく臭いの中に、僅かではあるが油の混じった体臭が鼻につく。ガマケンのものだ。そして、触覚は僅かに流れる風すらも知覚し、聴覚に至っては自分の体内で動く内臓の音や、ガマケンの呼吸音すら聞こえてくる。
しかし、それだけではない。最も変化して来たことと言えば――暗闇の中にぼんやりと浮かぶ光があるのだ。ガマケンの輪郭を象る白光と、自分の身体の輪郭を象る朱金の光、腹の中に潜む何の光も移さない暗く澱んだ光――最初は何かはわからなかったが、だんだんと理解して来た。これはチャクラだ。鋭敏になった五感がチャクラすらも感知できるようになってしまったのか。
「つまるところ、これはチャクラ感知能力を向上させるための修行。そして……」
『印を組み上げる』システムの意味を、アカデミー時代で習った『術を発動させるための儀式』的なものだと覚えていたのだが、どうやら違ったらしい。
経絡系を規則的に循環するチャクラは印を組み始めると変化が起こる。術に適したチャクラの性質になるように組み上げられていき、増幅、もしくは圧縮されていく。それらのチャクラは理想的な形へと変換され、忍術として行使されることとなる。
理解すれば、早い。
どうやら今は戦闘中ではないらしい。暗闇の中でぼんやりと浮かぶガマケンの白光は座り込んだままこちらをじっと凝視しているだけであり、邪魔をする気はなさそうだ。
印を組み上げて、術を構築していく。行使したい忍術の性質は風。攻撃ではなく、索敵用。結界のように周囲を包み込むものが望ましい。忍術の蔵書で読み込んだ膨大な情報が頭の中で交錯し、ナルトは忍術を使うために、全ての情報を分解・統合・再構築をしていく。それにつれてチャクラの性質も変化していき――
「風遁・旋風陣」
微弱な風が【結界・蝦蟇瓢牢】を満たす。そよ風のような柔らかな風は攻撃性を持つものではなく、ただそこに在るだけ。ガマケンからすれば何も変化はないようには見えるが、鋭敏な感覚を持つナルトには、この忍術はとても素晴らしいものに思えた。
【風遁・孔雀旋風陣】――本来は自分の身体を中心とし、爆風で障壁を生みだす防御用忍術として使われるその忍術を改良した。普通の人間ならば使っても意味のないだろうそれ。
しかし、今のナルトにとってはこの忍術ほど役に立つものはないだろう。何せ、目の代わりになるのだから。
清涼な風が髪をなびかせるのを感じ、ナルトは満足げに頷いた。成功だ。
「展開した風で周囲を探り、いかに情報を多く取り込むかというものか……そやけど、それだけじゃワテには勝たれへんで?」
ガマケンは余裕を見せたまま立ち上がると、刺又を構えた。
目が見えなくても、見えるようになった。所詮はその程度のことだ。ナルトはガマケンの分厚い脂肪を貫く武器を持っていない。
――そう、今までは。
目が見えないからこそ使えなかったものがある。ナルトはウェストポーチから巻物を取り出すと、無造作に上に放り投げて、口寄せの術式を組み上げた。
「見えるなら問題ない。使わせてもらう」
ぽんっ、と間の抜けた音を巻物が放ち、そこからどでかい何かが落ちてきて、ナルトの掲げた右手にすっぽりと収まった。
それは剣と言うにはあまりにも大きすぎた。大きく、ぶ厚く重く、そして大雑把すぎた。それはまさに鉄塊だった。
封印の術式を刻まれた包帯に覆い尽された右腕から赤黒い妖気が噴き出し、漆黒の刃を鮮血色に染め上げていく。粘性の妖気が混じり合った漆黒の刃は、ところどころ欠けたところから怨念によく似たチャクラが噴き出し、修復されていく。
「九尾の力か……」
ナルトの右目の瞳孔が縦に割け、金色が滲み出す。犬歯が伸び、頬には三本線の傷跡がが刻まれていく。封印の包帯は慟哭し、耳障りな甲高い音が蝦蟇の胃の中で暴れ狂う。
ガマケンは恐怖を感じた。
きっちりと封印されているはずの九尾が、ナルトの身体を汚染している。融合と言い換えてもいい。人の姿からかけ離れていくそれは、歪な気配を漂わせる。
半妖――とでも呼べばいいのだろうか。それは小さな【九尾の妖狐】のようだ。一度解放されてからというもの、九尾の片鱗はひょっこりと顔を出すようになった。ナルトの身体に結びついてからというもの、それはもうナルト自身の力となっていく……。
「……なんだか、とても調子がいいな」
ナルトは知覚する。
朱金の光と漆黒の光が混じり合い、赤黒い光が生み出されていくということを。おそらくは九尾の力と自分の力が混ざり合っているのだろう、ということも理解できる。
操れている、と思った。
冷静な自分が「人に扱い切れる力ではない」と忠告をしてくるが、ただ力を使ってみたいという単純明快な欲求に天の秤は堕ちた。
「切り刻んでやる」
暴力の魔性にとらわれた醜悪な微笑みを浮かべ、ナルトは無造作に【首斬り包丁】を振り上げたのだが――
「――合格や」
ガマケンの言葉に拍子抜けし、蓄えていたチャクラが霧散した。
眼の色は紺碧に戻り、頬に浮かんでいた三本線の傷跡も消え去って、暴れ出しそうなほどに疼いていた右腕も静まった。当然のように【首斬り包丁】もただの鉄塊に戻り、振り下ろされた鉄塊は地面へと突き立った。何かが悲鳴をあげ、地震のような揺れが起こった。
立っていることすらできないほどに鳴動する地面に【首斬り包丁】を深く刺し込み、なんとか身体を固定する。揺れが酷くなったが、次第に鎮静化していく。どすん、と巨大な何かが倒れる音がした。
「あんさん、酷いことするなぁ。さぞかし痛かったやろな……」
何のことだ? とナルトは首を傾げる。
「ま、ええやろ。とりあえず、あんさんは合格や。たぶん自来也さんの目的も達成してるやろしな」
「適当だな」
「自来也さん、いるんやろ?」
ガマケンが呼ぶと「……何だ?」と答えながら、どこからか自来也が現れた。
ナルトの鋭敏化している五感ですら知覚できないほどに完璧に隠れていたのだろうか。三忍の実力の片鱗を垣間見たナルトはひそかに慄いた。
そんなナルトを余所に、ガマケンは自来也と対峙する。十分に巨躯といえるだろう自来也ですらガマケンの前では小人に見える。それほどの偉容で胸を張りながら、ガマケンは堂々と告げた。
「わて、こいつに付くことにしましたわ」
「そうか」
意味がわからないままにナルトは状況に流されていると、いきなり視覚が戻ってきた。
場所も【死の森】になっており、どうやら【結界・蝦蟇瓢牢】【幻術・黒暗行の術】が解かれたようだ。久々の光は朝陽らしく、鮮やかな陽光が眼を焼くかのように注ぎこまれてくる。たまらず、ナルトは目を細めた。
近くに流れる川のせせらぎを聞くと、ナルトは真っ先に移動し、顔を洗った。次第に目に光が馴染んでいき、ようやく目を開けるくらいになる。
「次の段階に進む。ナルト、この巻物に血で名前を書け」
「……? あぁ」
川辺に【首斬り包丁】を突き刺してナルトは一人で勝手に休憩していると、自来也は巻物を差し出した。
口寄せの契約――そのための巻物。
何をさせる気だろうかと訝しみながら、ナルトは指先を噛み切って、血文字で自分の名前を書いた。達筆過ぎて読みづらい字を自来也は呆れたように見下ろしている。
「口寄せのやり方はわかるな?」
「そりゃ、まぁ……」
「でっかい剣を呼びだしてるしのぉ。さすがにわかるか。では、思い切りチャクラを込めろ。右腕のチャクラをな」
「……わかったよ」
【九尾の妖狐】に与えられた右腕のチャクラを循環させる。身体が焼けつきそうなほどの莫大な量のチャクラは経絡系を蝕み、苦痛をもたらす。
「ぐ、ぎぎぎ、あぁぁぁああぁぁぁっ!」
目は見開き、歯が折れそうなほどに噛み締めて、ナルトはチャクラを練り上げた。
経絡系の中で自分のチャクラと混ぜ合わせ、漆黒から鮮血へ――練られ練られたチャクラは手に持つ巻物に収束され、禍々しい暗褐色の光を放つ。
口寄せ。
完了した瞬間、生命力を根こそぎ持って行かれたと感じるほどの疲労感に襲われる。呼びだしたものを見たとき、その疲労感は加速度的に高まった。
ガマケンのときもナルトは結構驚いた。未知の生物が喋る。それだけでかなり恐怖したものだが、今回は格が違った。桁が違った。あまりに凄過ぎて言葉すら出ず、身体の自由すら奪われた
「なんじゃ、クソガキィ」
こちらを見下ろしながら話しかける声は、大きすぎて耳を塞ぎたくなる。
なんだこれは、ナルトは素直にそう思った。
山のような大きさの蝦蟇蛙。手には巨大過ぎて馬鹿らしくなるほどのドスを持っている。圧倒的過ぎる巨漢。この蝦蟇蛙からすれば人など蟻のように等しい存在だろう。踏み潰しても気付かないほどに。
冷静になれ、とナルトは自分に言い聞かせる。
こんな変なものを呼びだしたのは自分だ。何でこんなのが出てきたのかは甚だ不明ではあるが、きっと意味があるに違いない。
嫌な予感をひしひしを感じながら、ナルトは自来也を見た。
「――自来也……いや、師匠。この巨大な蛙っぽい生物は何だ」
「ガマブン太――蝦蟇一族の首領じゃのぉ。次はこいつと戦うんだのぉ」
言葉を失った。自来也の正気を半ば本気で疑ってしまった。
知れず、「冗談だろ?」と口から零れ出てしまうのも無理はないだろう。
しかし、
「ワシは冗談は嫌いでのぉ。おい、ブン太ァ!」
「おぉ、自来也か。ワシを呼んだのは久しぶりやないか?」
「このガキ、いじめてくれんかのぉ?」
「アホぬかすな。なんでワシがこんな雑魚を……」
「お前を呼んだのはこのガキじゃしのぉ。それに、ガマケンも認めとる」
「ほぉ……?」
悲しい事に冗談ではなかったらしい。
巨大過ぎて顔を見るためには、空を見るように真上を向く必要があるほどの巨大な蛙――ガマブン太にナルトは見下ろされる。蛙に睨まれる人のようだった。いや、蛇に睨まれる蛙のよう……か。
脂汗を流しながら引き攣った笑いを浮かべ、背伸びをして自来也の耳元に口を寄せる。
「おい、待て、やめろ、さすがにこんな規格外の奴と戦う気はしないぞ」
答えは実に無慈悲なものだった。
「言い訳はきかん。やれっ!」
ガマブン太は巨体を揺らすと、思い切り足を振り上げて――
「うっそだろぉ!?」
――勢いよく振り下ろした。
自来也はするりと被爆地帯から抜け出して、大樹の天辺に跳躍し、戦況を見守っている。
(随分と気に入られたんだのぉ……)
踏み潰された場所から少し離れたところ、ナルトはガマケンに背負われて回避していた。あやうく死にかけるところだったのを、ガマケンに救われたのだ。
「何やっとんじゃ!」
「ガマケン?」
恐怖で霞む視界の中、怒鳴る蛙がいた。
「ワテはあんさんのこと認めた。だから助太刀くらいしたる」
逃げるのを止め、方向転換をする。
向かう先にいるのはガマブン太。圧倒的な巨体を揺さぶりながら、ゆるやかな歩みでナルトたちへと近づいてくる。そのせいで木々がなぎ倒されていくが、そんなものはお構いなしだ。まるで台風に直撃したかのような様相の【死の森】は、ガマブン太によって致命的な被害を被っている。もともとナルトに伐採されまくっていたので、実のところ最初から手遅れなくらいにぼろぼろだったのだが。
腰が引けたままガマケンの背中に居座るナルトはかなりやる気がない。目が死んでいた。
「そういや自己紹介してなかったな。俺の名前はうずまきナルト。さん付けで呼ばせてやる」
「偉そうやないか、ナルトォ! オジキは強いでっ!」
「マジでやんの?」
「逃げんのんか? 臆病者やなぁ」
瞳に焔が灯される。
臆病者と呼ばれることをナルトは心底嫌う。たとえ相手が山のような蛙であったとしても、臆病者と罵られたら覚悟を決めるしかない。
腕を振ると、遠く彼方にあった【首斬り包丁】が主であるナルトの手に向かって飛来する。慣れ親しんだ手に馴染む感覚を覚えながら、ナルトは嗤う。どのみち今までまともな敵と戦ったことはほとんどないのだ。今までと変わらない。勝ち目が見えない戦いというのは……悔しいけどいつものことだ。
つくづく不幸だなぁ、とナルトは微妙にしょんぼりして、負け癖のついた意識を振り払い、咆哮する。
「いいぜ。やってやる。その代わり、死ぬ時はお前も道連れだっ!」
「付き合ったるっ!」
一人と一匹の新たに結ばれた主従は敵を射るように見つめる。
「話は終わったんか?」
「これから拳で語り合うんだよ。お前となぁ!」
一人と一匹は、猛威を振るう巨体に向かって疾走した。
◆
『終末の谷』にはナルトを除く七班が勢揃いしていた。
時刻は既に夕刻だ。赤く染まった夕焼けが世界を赤々と照らしている。鳥たちも飛ぶのに疲れたのか、途切れ途切れに鳴きながら、終末の谷の近くに鬱蒼としげる木々へと足を下ろす。嘴に咥えられた餌を巣に残っていた雛鳥たちにあげている。微笑ましい光景だ。
しかし、七班はそんなものを余裕を持って見ることができずにいた。飄々とした、不真面目の代名詞であるはたけカカシが凛とした表情でサスケとサクラのことを見下ろしているのだ。常にはない緊張感を感じ、二人は珍しくきびきびと行動している。今は『気を付け』の状態だ。足を広げ、後ろで手を組んでいる。
二人の態度にカカシは満足気に頷くと、重々しく口を開いた。
「では、これより修行内容を説明するっ!」
サスケは楽しそうに笑い、サクラは目を逸らす。
「サスケは水上で常に写輪眼を使って俺と戦い、俺の体術をコピーしてもらうよ。で、サクラだけど……」
「お、おすっ!」
何故か男らしい返事をしてしまうサクラ。過緊張気味だった。
筋肉が硬直してるサクラの肩を揉み解しながら、カカシは実にいやらしく笑っている。
「なんでそんな緊張してるの? ほら、リラックス、リラックス」
にっこりと笑うカカシ。それがたまらなくサクラの不安を増幅させてくれる。
「だって先生……何で滝のほうをじっと見てるんですか?」
「おい、カカシ――お前、まさか……」
バレた? と可愛らしくもない顔立ちで、てへ、と言うカカシが凄く気持ち悪くて、サクラはげんなりとして舌を出した。「うへぇ」と露骨に顔を顰めているサクラと同様に、サスケも見てはいけないものを見てしまったかのように顔を歪めている。眉間に皺を寄せ、腐った眼球を癒す為に夕焼け空を見て目の保養をしていた。
カカシは顔には出さないが、ひそかに心に傷跡を残すと、修行方針を語り出す。
「サクラには前みたいに滝を登ってもらうよ。助けはなしだから、絶対に落ちないようにね」
サクラは明晰な頭脳でカカシの緩んだ言葉を日本語に訳す。「落ちたら死ぬけど、頑張ってね」という結論が出た。
顔が青ざめる。心臓が不規則に脈打つ。血が冷たくなったかのようだ。身体がだるい。滝を見る。たまらなくトラウマが蘇る。あそこから何度落ちたか、数えたくもない。それを一度で登れと言う。しかも、あのキノコなしでだ。
「死んじゃうよ!? 私、死んじゃうよっ!?」
サクラは震えた声音で訴える。かなり必死だ。サスケも目頭を押さえながら、首を振りつつカカシの動向を窺っている。少しだけ楽しそうなのは見間違いだろうか。口元を手で覆って隠してはいるが、微かに見える口元は僅かに吊りあがっているように見えた。
「人間ってね。命が危険になるくらいが一番集中できるらしいよ?」
「知らない! そんなの知りたくない!」
「あ、そうそう……サクラとサスケにプレゼント」
ぶんぶんと頭を振って地団太を踏み、そっぽを向くサクラはひとまず放置して、カカシはあるものを地面に落とした。
どすんっ、と豪快な音を立てて地中に埋まったそれは――
「リーくんがつけてた重りと同じものをガイにもらったんだ。良かったな! これで飛躍的にパワーアップ!」
そう、重りだ。
サスケが背を曲げて拾い上げるが、あまりの重さに顔が引き攣っている。
左右の手足全てに装着すると、身体の自由が奪われそうだ。「重……ッ!」とくぐもった声を出すサスケは今すぐにでも外したい衝動に駆られるが――
「ちなみに、リーくんがつけてる重りはそれの倍だから」
「軽い。軽いな。重くなんてなかった」
筋肉を思い切り膨張させながら、肉体活性を全身全霊で行い、ポーカーフェイスで乗り切った。負けず嫌いなのである。
(本当はリーくんが使ってるのより重いんだけどね……)
カカシはそんなことを考えながら、内心ほくそ笑んでいる。サスケは何気に扱いやすいなぁ、とも思ってしまった。
そんなときである。サクラは重りをつけたまま座り込み、決して立たないぞ、と明快にアピールしながら、カカシに話しかけた。
「あのー、先生」
「何?」
「これつけて滝を登るんですか?」
「うん、そうだよ」
「私に死ねと言ってるんですか?」
カカシは頷きかけ、途中で止めた。その動作をきっちりと見届けたサクラは――カカシに対して糸を巻きつけようとする。しかし、【瞬身の術】であっさりと避けたカカシは、終末の谷にある湖面に立っていた。つまり、逃げられた。
「サスケ、サクラ、修行しようか」
「わかった」
「やだ。私死にたくないし」
相反する答えにカカシの笑みは深くなる。
ジャケットの胸元に収納されている口寄せの巻物を手に取ると、忠実な忍犬の一匹である小型のパグのパックンを呼びだした。
「パックン、サクラの見張りお願いね」
パックンは深く頷くと、サクラの方へとてとてと歩いていく。短い尻尾がふりふりと揺れるのがとても愛くるしい。
だが、
「こら、小娘。さっさとやるぞ!」
「痛っ! 引っ掻かないでよ! 何よこのブッサイクな犬!」
「キュートだろうが、ボケ!」
とても凶暴だった。
サクラに飛び掛かって柔肌を引っ掻かかれ、重りのせいで自由の効かない身体を引き摺るように動かしながら、サクラは必死に逃げた。終末の滝へと追い立てられることも気付かずに……パックンは獲物を追い掛けることのできるプロの忍犬だった。決して獲物を見逃さない!
「ひーん!」
泣き声をあげながら必死に逃げるサクラ。追いかけるパグ。
何だか哀れな光景で、サスケは何だか悲しい気持ちになった。
「……あいつ、大丈夫なのか?」
「サクラはやればできる子だよ。たぶん……」
それは誰にもわからない。
【アトガキ】
長々と修行書くのもあれなので、5日間の描写はなしにしました。
そしてサクラの修行風景。何気にスパルタ。まずは身体を鍛えるのが基本ッスよねー!