3.
明くる日のこと、うららかな陽光が世界を優しく照らしているのを尻目に、ナルトと自来也は鬱々とした雰囲気の漂う【死の森】にいた。
川のせせらぎの聞こえるそこは目を開きさえしなければ穏やかさすら感じられる場所ではあるが、倒壊した木々に押し潰され、その下から見え隠れする死屍累々のナマモノが流れているせいで三途の川のようだった。命の雫である鮮血が浮かび上がっている。目に毒だ。
数分の歩みの後、水底が見える透明度を誇る上流についた。随分と綺麗だな、とナルトは思いながら、血や汗や涎で汚れて微かに痒い顔を清潔にするために、両手で水を掬って顔面に浸す。
目が醒める冷たさだった。
犬が水を弾くために身体を震わせるかの如く、ナルトは頭を振る。実にすっきりとした笑顔を見せた。
「で、修行ってのは何をするんだ?」
「とても簡単なことだのぉ」
自来也はナルトの頭を引っ掴む。「何しやがる!」とナルトは両手で抵抗するが、片手で上手く受け流されてしまう。そして、自来也は残る片腕で印を切り、チャクラを練り込んでいく。ナルトの髪が逆立つほどの莫大なチャクラを何気なしに引き出す実力に戦慄する。
(九尾の力も撥ね退けたんだよな……こいつ)
負けるはずがないと確信できるほどの無限に等しいチャクラ――【九尾の妖狐】の力を借りたとしても、負けたのだ。素の状態で抗えるはずもなく――
「大人しくしておるんだのぉ……むんっ!」
気合の声とともに使われたのは未知の忍術。
世界が切り替わる。
途方もない広さを誇るドーム状の造りの場所へと放り出された。壁や地面は妙に柔らかく、まるで生きているかのように脈動している。
見知らぬ場所に不信感を露わにするナルトを自来也は苦笑しながら見下ろすと、ぽんと頭を叩く。正拳突きでの激しい返答が返ってきたが、軌道を予知していたかのように拳は自来也の手のあるところへと納まる。
ナルトは苛立ち紛れに激しく舌打をした。
「ここは結界・蝦蟇瓢牢――蝦蟇の胃の中だ」
ふん、とナルトは鼻息を鳴らす。突き出した腕を引っ込めると、胡乱気な視線を這わせていくが、何かを諦めた賢者のように深く溜め息を放つと、敵意の混じる視線を自来也に向ける。
「あんたの言ってることが本当かどうかは置いておいて、ここで何をさせようって言うんだ?」
「嘘はついてないんじゃがのぉ」と困ったように笑うと、自来也は指先の皮膚を噛み千切り、印を組んだ。
口寄せの術式。
練り込まれたチャクラは先ほどよりも少ないものではあるが、戦慄すべき量である。
術式の方陣を指から滴る血で瞬時に描き上げると、練り上げたチャクラを叩き込む。すると、そこから煙がもくもくと噴き上がり、巨大な何かが躍り出た。
風すらないここでは煙はただ上に昇っていくだけで、足元からだんだんと輪郭が理解できるようになっていた。目を凝らし、ナルトは注意深くそれを見る
(……蛙?)
一見、蛙っぽい何かに見えるそれはとても大きかった。ナルトの背丈の三倍はあり、横幅などは十倍を超えるだろう。牛を五頭並べてもなおそれよりも大きいだろう。
背中には黒塗りの大皿を背負っており、前足――いや、手でいいのだろうか。手には刺又――先端にU字の刃がついている長柄の武器――を持っていた。尋常の蛙ではないのだろう。
突如現れた巨大な蛙に目を奪われ、ナルトの思考は一瞬ではあるが、停止した。
「……なんですかい、自来也さん」
喋った。
驚きの現実に脳の処理が追い付かず、ナルトはあんぐりと口を開いて硬直した。
「久しぶりじゃのぉ、ガマケン。ちょいと頼みたいことがあってのぉ……」
「へい、自来也さんの言うことですし、やれることならなんでもやらせてもらいまっさ!」
「この生意気そうなガキを試してくれんかのぉ。もし認めることができたなら、力になってやってくれ」
「はぁ……このガキんちょでっか?」
大きくつぶらな眼で見下ろしてくる蛙――ガマケンにナルトは少しだけ、本当に少しだけ怯みながら、つつと自来也の背に移動する。背中をちょんちょんと突き、小さな声で「なぁ、自来也」と呼びかけた。
「ガキィ! 自来也さんを呼び捨てとは……口のきき方がわかっとらんのかっ! いてこますぞ、ゴラァッ!!」
だが、これはガマケンの怒りを買ったようだ。ナルトの頭が三個は入りそうなほどの額に、とてつもなく掘りの深い皺を寄せて、吠えた。
びくりとナルトの身体は竦む。意味不明な生物にいきなり怒鳴られたのだ。自来也の服の裾を微妙に掴んでいる。こいつ可愛いのぉ、などと自来也は思った。そのまま上目遣いで自来也のことを見上げ、困ったようにはにかむ。
「……えーと、何て呼べばいいんだ?」
「無難に師匠とでも呼んでおけ」
「じゃあ、師匠……つまりだ。この蛙をぶっ倒せばいいのか?」
ちらちらと脅えの混じる視線を向けながら、心底嫌そうにナルトは言う。
自来也は、うむ、と頷く。
「倒せるのならそれが理想だが、認めさせるだけでも構わん。
ガマケン、殺さないようにやれるかのぉ?」
「努力しますが、自分不器用ですから……このガキんちょが弱すぎると、うっかり息の根を止めてしまうやもしれまへん」
自来也の後ろで怯えるような小物が強いとは思えず、ガマケンは蔑視をナルトに向けていた。
地雷である。
ナルトは急に元気になると、自来也の背中から飛び出して、ガマケンの眼前に躍り出た。眼にはふんだんに怒気が詰め込まれており、舐められたという事実に対して憤っている。自分の先ほどまでとっていた情けない行動は記憶の底に放り捨てて、ガンを飛ばす。
ガマケンは、ほぉ、と感嘆の吐息を漏らした。男の表情ができるのか、と。
そんなときだ。
「ナルト。ちょっと来い」
言うなり、ナルトの背中を引っ張ると、自来也は印を組み上げる。それもまた未知のものであり、ナルトはよくわからないままに呆然とそれを見守っていた。
すると――
「幻術・黒暗行の術!」
光が失われた。
「視力を奪った。お前にはそのままで戦ってもらうからのぉ」
五感の一つである視覚を完全に奪われて、うろたえる。地に足がついているのかもわからない。何処を向いているのかもわからない。途方もない不安感。
これで戦えと――? ありえない、と叫び出したくなる衝動を抑える努力をするが、無理だった。
「おい、待てよっ! こんなんで戦えるはずが……っ!」
だが、自来也はあっさりとナルトを手放すと「ガマケン。頼んだぞ」と言うなり気配が消えた。
ガマケンも、酷いことしよるなぁ、と自来也の行動に思うところもありはしたが「任されやした」と答えるだけだ。
「ふざけんな! おいっ!」
わからないままに、叫ぶ。返事は腹が捩れるほどの衝撃だった。
「ぬ……ぐぁっ!!」
子供に投げられた小さなボールのように勢いよく地面をバウンドしながら、ナルトは吹き飛ばされていく。
肩が千切れそうなほどに痛いし、封印が刻み込まれた右腕が妙に疼く。暴走しかけの熱を持った右腕を抑えて、無理に姿勢を変えて地面へと足をつけた。がりがりと柔らかな肉を削っていく感触が靴裏から伝わってきて、気持ち悪い。数歩分の距離を引き摺られ、ようやく止まった。
「ガキんちょ! 手加減せぇへんからなぁ。血祭りにしてやるよって……往生せいやっ!」
咆哮は真正面から聞こえ、同時に何かが弾ける轟音も聞こえる。強靭な足で地面を踏み締め、跳躍したのだろう。
ナルトは闘争心剥き出しの獣によく似た嗤いを浮かべると、「殺す気満々じゃねぇか。……上等だ」呟き、瞬時に印を組み上げ、胸が膨れるほどに空気を暴飲する。繰り出すのは。
「風遁・大突破ァァッ!」
放射状に放たれる強風。
「……ぬぅっ!」
飛翔したガマケンはこらえることはできず、跳んだ勢いを全て風に殺されて、大地が震えるほどの着地音とともに、地面へ舞い降りた。
着地音の大きさで距離と方向をおおまかに察知し、ナルトは駆ける。
「豚のような悲鳴をあげさせてやる!」
疾風の如く、寸分の躊躇もなく、黒で塗り尽くされた視界を気にすることなく、ナルトは地面に這うかのように姿勢を低く保ち、ガマケンの懐へと飛び込んだ。
ガマケンは飛び込ませまいと刺又を上から下へと突き出すが、殺気を敏感に察知したナルトはさらに沈み込むように踏み込み、
「喰らえッ!」
疾走の勢いと前体重を乗せた全身全霊の拳をガマケンの身体に突き刺した。
だが、拳先はぶにょっとした柔らかい何かに包み込まれるようにして衝撃を拡散される。
脂肪だ。
「うおっ!?」
腹の中に埋もれるかのように腕が埋没していく感触を覚え、ナルトは勢いよく腕を引っこ抜いた。
あまりにも勢いをつけすぎたせいでナルトは後頭部から地面に倒れ込むが、柔らかい地面が優しく受け止めてくれる。そのまま眠りたい衝動に駆られるが、突き刺さるような殺気を感じ、片腕で地面を押すだけで跳躍する。
刺又が地面を突き刺す音がさきほどまで自分がいた場所から聞こえ、ナルトは安堵の吐息を漏らす。やはり手加減する気はないようだ。
「わての分厚い筋肉を、ガキんちょの細腕で貫けると思うなっ!」
「ただの脂肪だろうがっ!」
軽口の応酬をしながら、その実、ナルトは必死に刺又による刺突を避けていた。
次第に高まってきた集中力は、ガマケンの攻撃を的確に予知していた。腕に来る。足に来る。次は頭だ。胴体だ。などと、予想した場所から攻撃による風圧が流れてくるのだ。
目が見えないからこそ研ぎ澄まされる感覚もあるということか、とナルトは独りごちる。
しかし、それは確実に正解するはずもなく、見えない攻撃はナルトの薄皮を剥いでいく。流れ出した赤色が地面へと染み込んでいく。柔らかな何かが脈動した気がした。
瞬間、攻撃が止んだ。
しかし、殺気がなくなることはなく、だんだんと高まってくる。
(渾身の一撃が来るな……。おそらく、腹狙い)
爆発しそうなほどに高まった殺意が、弾けた。
襲い掛かる暴風は物理的な圧力となってナルトに襲い掛かる。
それの狙いは過たず、ナルトの腹を狙っていて――
「何やとぉっ!?」
跳躍し、ナルトは刃の上へと着地する。
驚愕するガマケンは口を開き、伸ばした舌を鞭のしならせてナルトに向かって放つが、後方に跳躍して回避した。
全てが全てぎりぎりのタイミングであり、ナルトの精神はかなり追いつめられていた。身体中からは冷たい汗が流れ出し、明確な死の予感が背筋をはいずりのぼってくるかのようだ。視覚がないのはこれほどに辛いものなのか、と改めて知る。
しかし、何のための修行かはいまいち理解できない。本当に、何のために?
対するガマケンはナルトに向ける視線の色が変わっていた。
最初は雑魚だと思っていたが、思っていたよりもよくやる。眼が見えないのに恐怖で足が竦むこともない。勇気もある。
「ちょこまかとよく避けるもんや……目も見えんのに……」
「はっ! 生憎といつも殴りあいっこしてたやつは肉眼でとらえられないくらいに速かったんでね!」
「見えんでも一緒と言いたいわけじゃないやろな?」
「必要なハンデだ……ろ!」
足音が聞こえなかったのでガマケンの立つ場所は同じだと判断し、ナルトは足に爆発的なチャクラを溜め込み、爆ぜた。
視界がおぼつかなくなるほどの超高速の世界。
しかし、もともと目が見えないのだから関係ない。
(研究中の忍術――いくぜ……!)
後ろ手に構えた左掌にチャクラを溜め込む。操れるだけのぎりぎりの量を練り上げて、性質変化を加えていく。
刹那、感じる殺気。
残る右手を差し出して、迫り来る何かの軌道を力づくで変更させる。
にやり、と笑いが零れた。
チャクラの籠った左手をガマケンの腹に押し込んで――
「風遁・獣破掌っ!」
身の丈を越えるほどの風の刃が、ガマケンの肉体を蹂躙する。
耳を聾するほどの爆音が世界を満たし、衝撃に抗えず、ナルトの身体も吹き飛ばされる。
遠距離用に考案した忍術を近距離で爆発させた。これで倒せなかったら、正直どうしようもない。眼が見えないのに【首斬り包丁】を使いこなす自信もないし、これがナルトの精いっぱいだ。
どすん、と何か重いものが地面に落ちる音が耳に届く。
これでいい加減やっただろ、と思うが――
「心地良いそよ風や……」
むくりと起き上がるガマケンは、あっさりと答えた。
無傷。
分厚い脂肪は風の刃すら通さないほどに頑健だった。それだけのことだ。
「豚蛙が……確かに手ごたえはあったってのによ」
舌打ちとともに、ナルトは吐き捨てる。
そんなナルトを遠くから見下ろすガマケンは――
「ガキんちょ、お前は面白いやないか。特別やで? 真面目にやったる」
「そりゃどーも」
真面目にやる。ナルトの視力がないことを徹底的に衝いた戦法をとってきた。
つまり、遠距離からによる刺突攻撃。
舌で刺又を持ち、変幻自在の軌道を放つそれを、ナルトはかわしきれない。
どれほどの時間責め立てられていたのだろうか。
命からがらといった風体でもナルトは立ち上がり、よろめきながらも刺又の攻撃を、本当に辛うじてかわしていく。
しかし、膝からくず折れた。
「――くそ……!」
地面に手をつき、罵声を吐く。
震える身体を意志でねじ伏せ、立ち上がろうと試みる。
だが、
「寝ろや」
刺又の長柄で思い切り頭を殴り飛ばされ、気絶した。
ナルト、惨敗。
結局のところ、ガマケンに怪我一つ与えることもできずに、ナルトは倒れ伏した。
「思ったよりも持ったほうだのぉ」
どこからか自来也は姿を現すと、前のめりに倒れ込んでいるナルトを仰向けにし、傷に軟膏のようなものを塗りつけていく。見る見る内に傷跡が修復されていく。
(これも九尾の恩恵か……)
自来也は複雑な表情を浮かべると、何とも言えないように歯を噛み締めた。
その間に、ガマケンは自来也の方向へと歩み寄り、問う。
「自来也さん、こんなもんでいいでっしゃろか?」
「うむ……これからも稽古をつけてやってくれ」
「にしても、こんなにえぐい特訓させる必要あるんでっか? こいつ放っておいても勝手に強くなるタイプでっせ」
こういう反骨心の強い奴は、一度ぼこぼこにすると勝手に努力して強くなる。必要以上に痛めつける意味がないのだ。普通ならば、の話だが。
生憎とナルトには時間がない。弱いということが許される立場にもないのだ。
「強くさせる必要があるんだのぉ……」
「そりゃまたなんで? いや、喋る必要がないと判断されるんでしたら深くは聞きまへんけど……」
「こいつは九尾を飼っておる」
「……なるほど、四代目の子供ですかいな。因果なもんですなぁ」
ガマケンは露骨に顔を顰めて、盛大に溜め息を吐いた。いつの世も利用されるのは力のあるものだ。
「狙われるものには選択肢は三つしかない。自分の身は自分で守るか、強者の庇護下に置かれるか、狙われているものを手放すか……」
「戦ってわかりましたで。こいつは迷わず一番目を選ぶタイプや」
そのための力がないにも関わらず、意地という名の信念で、ナルトは自分の力で守ろうとするだろう。そして、自滅する。最悪な結末だ。
「だろうのぉ……どこぞの座敷牢に幽閉するのが一番安全なんじゃがのぉ」
「こいつ、逃げ出せるくらいの実力はありまっせ」
ナルトはある程度強い。
【九尾の妖狐】の力も僅かながら使えるようで、もし利用されたら、どのような結界の中に閉じ込めようとも這い出てくるだろう。それだけの力があるのだから。
「それが厄介な理由なんだ……」
中途半端に力があることこそが、ある意味では一番の不幸なんかもしれない……。
すやすやと気持ち良さそうに眠るナルトの額にデコピンを喰らわすと、自来也は再び姿を消した。
◆
木の葉隠れの里の一角にある団子屋にて、サクラはみたらし団子を口いっぱいに詰め込んで、リスのように頬を膨らませていた。とても幸せそうにもぐもぐと食べている姿は、店員の頬を綻ばせるほどだ。良い食いっぷりだねぇ、とサービスで三本のみたらし団子を差し出され、サクラは輝かんばかりの笑顔になる。
そんなときだ。リーが団子屋の前を通りかかり、サクラと視線が合った瞬間に気まずそうに目を逸らすといそいそとこの場から立ち去ろうとしたのだ。
サクラは指先をリーの足元に向けると、リーはつんのめってこけた。
「あっ……!」
見事な反射神経と褒めるべきか。両腕で身体を支えたリーは、腕の力のみで跳躍し、両足で着地し、不器用な愛想笑いを浮かべながらサクラの様子を窺っていた。
サクラはちょいちょいと指で「こっち来なさい」と指示すると、リーは渋々とサクラの隣に腰を下ろす。みたらし団子を一本、渡された。
喋らないサクラのことを横目でちらちらと見ながら「いただきます」と団子を頬張る。実に美味しいそれを一口で平らげると、店員に差しだされた緑茶を一気に飲み干した。
「人の顔見た瞬間逃げ出すなんて失礼じゃないの?」
不意に言われた言葉に、どきりと心臓が脈打つ。
「……ですが、僕たちは敵です」
「それ以前に同郷の仲間でしょ?」
「そうですけど……」
そうと割り切れるほどリーは器用な性格ではない。
サクラに絶対に勝てるという確信があるならばもう少し余裕も持てるだろうが、油断ができるほどにサクラは弱くはないし、自分は強くない。そして、自分が殴るであろう好きな女の子にどういう態度をとればいいのかもわからない。
リーは混乱の極致にいた。
凍りついたように固まると、隣に座るサクラは仰々しく手を広げる。
「サクラ、何をしているんだ?」
「あ、サスケくん。リーさんと会ったから話でもしようかな、って」
どこからか歩いてきたサスケがちらりとリーを見る。
「ふん……? 次の敵か」
「もう! サスケくんもそんなこと言う!」
サスケは鼻を鳴らすと、リーへの興味は失ったかのようだ。
「行くぞ。もうカカシが来てる」
「え? まだ集合時間から一時間しか過ぎてないわよ?」
「いつもいつも遅れてくるほうがおかしいんだよ!」
「ま、まぁそうだけど……」
サスケはサクラを待たずに歩きだす。
おろおろとサクラは戸惑うが、とりあえず店員を呼んで会計を済ませると、リーに向かってにへらと笑った。
「えーと……じゃあ、リーさん! 次に会うのは戦う時になるのかな? お互い、ベストを尽くしましょ」
「は、はい」
小さな声でリーは返事をし、
「置いていくぞ」
「待ってよー!」
走り出すサクラを見送った。
後ろ姿が見えるまでじっと見つめ続けると、今まで悩んでいたことが実に小さかったかを思い知る。
サクラを殴らなければならないのか、と鬱屈としていた。
しかし、ただの力比べと思えばいいのだ。テンテンとだって何度も殴り合ったことがあるし、ネジなどは言わずもがなだ。サクラにだけ遠慮すると言うのは筋が通らないし、何よりも青春ではない。青春とは全力でぶつかりあってこそ生まれるのだ、とリーが敬愛するマイト・ガイ先生が言っていた。
「……僕も頑張らなくちゃ」
ぐっとガッツポーズをとると、リーも修行するために駆け出す。
「まずは縄跳び一万本だ!」
【アトガキ】
サクラとかのところはオマケ。
で、ナルトの修行法公開です。かなりソフトな段階です。口寄せでおたまじゃくし呼びだしてるくらいソフト。
だんだんきつくなっていきます。
ちなみにガマケンの喋り方はいまいちわからなかったので大阪弁にしました。ヤクザっぽく!