7.
氷の刃による弾幕攻撃は、途切れることなくナルトとサスケを撃ち続けていた。執拗なまでに狙い打ちにする刃は、皮膚を削り、血を消耗させ、大怪我はさせないけれども、だんだんと体力を奪い続けている。副次的効果として気温を下げ、身体の動きを阻害する。傷口から流れ続ける血液に体温を奪われ、相乗効果である。
遅くなり続ける身のこなし。
おかげでナルトは攻撃に捕われ始めていたが、サスケは関係なく、攻撃を避け始めていた。
自分に向かう攻撃だけでなく、ナルトに向かう攻撃すらも叩き落とし、庇い、回避させる。動きが、良くなっていく。
「君は、よく動く……仲間をかばいながらだというのに……賛嘆に値します」
強い。
サスケが強いことを認めて奥義を使った白であるが、これほどまでに強いとは思っていなかった。今まで自分の奥義を受けて生き延びているものがいなかったから、魔境氷晶に絶対の自信を持っていたのだ。それなのに、対処されている。
どうやって?
わからない。
ならば、攻撃を続けて分析をするしかない。
「次で止めます」
ナルトは身体のそこらに霜焼けしながら、肩で息をしていた。
白の宣言とともに放たれる弾幕攻撃。避けられない。
四方八方からの攻撃に術で対処するか悩む。だが、思考している間に、サスケに横から蹴飛ばされた。
意味があるのだろうと思い、全く逆らわずに勢いを殺さず飛び退いたら、無傷で済んだ。
サスケには見えているのだ。目に写らないほどの速度で飛来する氷の刃が。
ナルトは気づく。
そして、白の気づく。
サスケの瞳に車輪のようなものが二つ浮きがっていることに――
「その両眼……まさか、写輪眼!?」
うちはの正統血統にしか使いこなせない、写輪眼。
それはあらゆる幻術・忍術・体術を即座に見切る、最高峰の瞳術。
つまり、凡俗な他者と隔てる才能の象徴。
「そうか。君も血継限界の血を!」
白は恐ろしさをよく知っている。
片目のカカシで再不斬に対応してしまったのだ。ならば、両目ともに写輪眼のサスケはどうなるのだろうか。
予測はつく。
「だとすれば、そう長くは戦えません。僕の術はかなりのチャクラを使うので、術による移動スピードを保つのに限界があります。
おそらく闘いが長引けば長引くほど、僕の動きは君の"読み"の範疇に入ってしまう。君の眼は僕を捕らえ始めているならば……!」
時間をかけたら見切られる。
短期決戦で一撃にかけるしかない。非道な攻撃を加えるしかない。
サスケは強い。サスケは術を見切り始めている。
では、ナルトは?
「これでカタをつけます!!」
サスケに攻撃をせずに、全ての弾幕をナルトに向ける。
今までとは比較にならないほどの弾幕は、まさに壁。隙間などほとんどなく、特別な目がない限り、避けることはできないだろう。
何より、自分が直接超速度でナルトに向かって斬りかかっている。
鏡から鏡へと飛び移るときこそが、白の速度が最高潮になるとき。
つまり、避けられるものではない。
「何だとっ! ナルトに……! 間に合えっ!!」
ナルトは棒立ちで。
避けられる目も持っていなくて。
写輪眼が未来を教えてくれる。
ナルトは、このままでは死ぬ。
チャクラを用いての超速度で、ナルトの前へと立つ。出来る限り、刃を叩き落とす。
そうすればナルトが生き延びられることも写輪眼が教えてくれる。自分は……死ぬけども、迷うことなど、なかった。
だが、結末は――呆気ないものだった。
刃を叩き落とした。
そして、白がサスケの首に向かって、千本を突きたてようとしている。
明確な死のイメージ。
後悔は、ない。
(せめて――仲直りはしたかったなぁ)
そんなことを考えながら、目を閉じた。
しかし、痛みは来ない。おそるおそる目を開くと、そこには……血が滴りながら、仁王立ちしているナルトと、地面へと倒れ伏す白がいた。
おかしい。背にナルトを守って戦ったはずなのに。
どうして――
「あぁ、勘弁しろよ……俺の演技が完璧すぎるからって……俺、隙を窺ってたのが馬鹿みたいじゃん」
「ナルト、お前……」
つまり、魔境氷晶の中で戦っていたのは、影分身ということ。
笑いながら、ナルトはサスケのことを目の端に写している。
喀血する。
「ぐぅ……ハハハ、気にすんな。俺の影分身が演技派すぎただけだろ……だから、これはお前のせいじゃない」
「お前……何で……?」
何で、助けた。
間抜けな自分を放り捨ててたら、間違いなく油断した白を倒せただろうに。
確率を重視するナルトの行動とは思えない。
だが。
「……野暮なこと聞くなぁ。助けようとしたのはお前が先だろ。それにさ……」
死にかけているのに、笑っている。
「失いたく……なかったんだよ」
小さな声。だがサスケは正確に言葉を聞き取った。
自分の吐いた暴言が脳裏を過ぎる。
『失うものがないお前に――何がわかる!』
わかっていなかったのは自分だった。
そして、ナルトのためにあっさりと命をかけてしまう事実にも、やっと気付いた。
涙がこぼれる。
頬を伝い、地面へと落ちていく。
「……泣くなよ」
ナルトの膝が、崩れ落ちた。
橋を穿つ氷の刃の布団の上に倒れ落ちる前に、腕で抱きかかえる。
とても、冷たい。そして、硬い。
「ぐ、くそ……くそっ!」
体温が、感じられない。
笑みのままで硬直してしまったナルトの表情に、生気はない。
「ふふ、すっかり騙されていましたよ。まさか彼が影分身で、本体が魔境氷晶の外にいただなんてね……彼は本当に勇敢な忍でした」
幽鬼のように立ち上がりながら、白は鏡へと戻っていく。
ナルトを抱きかかえることを優先して、敵を見逃した。それは致命的なことだ。
でも、そんなことはどうでもいい。
「仲間の死は初めてですか。これが忍の道ですよ……」
「……初めてじゃねぇ」
失ったのは初めてじゃない。
遠い昔、家族を皆殺しにされたことがある。
あのときは弱くて、何も守れなかった。今は、自分が強くなったと勘違いしていた。自惚れていた。
(俺は……弱い。仲間を守れないほどに、守られてしまうほどに!)
冷静に対処していれば、白はもう既に倒せていただろう。
ナルトが影分身だと気づいていれば――いや、サスケが気付けるようにナルトは心がけていた。今になって、わかる。自分の愚鈍さが、戦闘に熱中してしまう性格が、全ての災厄を呼んだ。
「自分の馬鹿さ加減に反吐が出る……そうか、お前の言っていた通りだよ。仲直りを先にしておくべきだった。いや……お前は森の中で殺しておくべきだった!」
何より、敵だと気付いていた。
森の中で出会ったとき、白は敵だと気付いていたのだ。それなのに、見逃した。
代償は仲間の死――あまりに重い。
「後悔――しましたか?」
悔いることに意味はないことも知っている。
サスケは穏やかにナルトを地面へと横たえると、涙を拭きとり、白を見た。
目は、閉じられている。
家族の死を、ナルトの死を、思い返している。
ふつふつと湧き上がるこの感情は、実に懐かしいものだ。長い年月をかけて積み重ねたと思い込んでいた、実は風化されていった感情。
どす黒いそれは、サスケの心を焼き焦がす。
(あぁ、そうか。わかった……久々に思い出した。これが殺意ってやつだな……)
原点を思い出す。
自分は家族を皆殺しにした兄を殺す為に、全てを捧げていた。
何と馬鹿らしいことだったのだろう。おかげで仲間すら守れない体たらく。自分は、弱い。
(力が――欲しい)
殺意が身体を埋め尽くす。
冷え切った身体が熱を帯び、白い靄となって身体から発散される。
熱い。
熱くて、熱くて、我慢できそうにない。
灼熱の如き温度を持つのは、目。
くり抜きたくなるほどの激痛を感じるが、今はそれすら心地良い。
仲間が死んだ。ならば、この痛みはきっと罰だ。
目を、見開く。
「昔の復讐なんざ、どうでもいい。今の目的は一つ――お前を殺してやる……!」
車輪の紋様が二つだった瞳には、三つ目の車輪が浮き上がる。
今はサスケの知らない瞳術――うちはが最強と謳われる所以。そして、うちはの中でも選ばれたものしか習得できない、伝説に名を残す存在。
万華鏡写輪眼。
ナルトの死を代償に、サスケは力を手に入れた。
◆
「ナルト!?」
かすかに見えた悲劇を、サクラはカカシに伝える。
「先生、ナルトが! ナルトが……!!」
サスケを庇って、わりと満足そうに笑って、横たわってしまった。
身体中を串刺しにされ、首を穿つ千本も見える。
間違いなく、死んだ。
現実を正しく認識しているはずなのに、あまりに唐突な別れのせいか――悲しみは浮かばない。
どうせ生きてるよね。ナルトだし。またくだらない悪戯だよね。
動揺しながらも、そう思う。思いたい。思わせて欲しい。
だが、身体の震えが止まらない。
「再不斬、聞こえるか。お互い忙しい身だ……お前の流儀には反するだろうが、楽しむのはやめにして……」
カカシも、見た。
サクラに答えることなく、再不斬に語りかける。
沸騰しそうなほどに身体が熱を持つが、冷静にしなければならない。
ナルトが死んだという確証はないし、まだ治療の余地があるかもしれない。ならば、邪魔な敵は葬ろう。
「次で白黒つけるってのはどうだ!」
巻物を胸のポケットから取り出すと、噛み千切った指先から滴る血で染めて、印を組む。
「フン、面白い。この状況でお前に何ができるのか、カカシ……見せてもらおう」
再不斬に時間はかけていられない。
カカシは命を賭して、再不斬を殺す決意をした。
◆
思い出すのは七班を組んでからの日常。
サスケはずっと一人だった。
うちはの名はサスケの両肩に重く圧し掛かり、トップでいるのが当たり前。努力してトップになっているとは他人に思ってもらえず、まるで自分が才能のみで結果を出しているように思われているのが癪だった。
だが、七班になってからはそんな扱いはなくなった。
体術でナルトを殴り飛ばした。普通の奴ならば、悔しそうにすることもなく「うちはの奴に勝てるはずがねぇよ」と諦め口調で自分を讃えてくる。だが、ナルトは悔しげに地面を殴りつけ、意識が飛ぶまで挑んできた。体術は教本通りのもので、鍛え抜かれた身体は色濃い修練の跡が見える。弱くはない。どちらかと言えば、強いほうだろう。それでも、サスケには及ばない。何度挑まれても、サスケは返り討にした。
サクラは言う。「あんたじゃサスケくんには勝てないわよ」と。
懲りずにナルトは自分に挑んで来て、いつからだろうか。冷やりとする場面が多くなってきた。そして、一か月もしない内に、自分は殴られて、勝負に負けた。 後々気付いたのだが、ナルトは自分に殴られながら、全ての攻撃パターンをノートに書きとめて、カカシに相談しながら対処策を考えていたのだという。次第に五分五分になり、油断できない相手になった。
いつも馬鹿正直に向かってきて、次第に仲良くなっていった。
一緒にサクラをいじって遊び、体術について語り合い、忍術についても語り合った。たまには、夢なんかも語ったりした。
ナルトと仲が良くなってからサクラも加わるようになった。そこからは戦術論や、チームワークについての作戦内容。いろいろと語り合った。
常に一緒に行動していた。
任務をして、修行をして、寝るとき以外はほとんど一緒だった。
楽しかった。
家族を失った悪夢を毎日見ていたのに、次第に夢を見なくなり、次の日を待ちわびるようになっている自分に気付いた時、サスケは苦笑したものだ。自分の野望よりも、友達と遊ぶことを優先するようになった自分の変化に驚いたものだ。
これが親友というものなのだろう。
命をかけて守ってもいいかな、と思える程度には、親友だったのだろう。
自分にとっては、片割れと言ってもいい。いつも一緒だった日常の象徴だったと言ってもいい。
失った。
あっさりと、日常の一欠片は消え去った。
奪ったのは誰だ。
「何ですか……その眼は写輪眼ですか!?」
驚きの声をあげる、こいつだ。白だ。
そして、間抜けな自分だ。
「見える……」
遅い。鈍い。止まって見える。これから動こうとする映像すら、全てが目に写る。
白がどういう速度で、どこへ向かって、どういうふうに行動するのか、全てが手に取るようにわかる。
「俺は……」
弱い。
「こんな奴に……」
相手にならない。
「この程度の速度に……」
全てが理解できているのだから、身体が勝手に動く。
先読み通りに身体を動かす。拳を突き出す。
正確に、サスケに迫りくる白の頬を、サスケの拳は抉った。
「――翻弄されてたってのか!!」
「がはっ!!」
衝撃は凄まじい。
白の速度はとてつもなく速く、それこそ疾風をも超える速度だ。
そこへ合わせるかのように拳を突き刺す。自分の速度が仇となる。
受け身をとる余裕すらなく、かつて受けたことのない攻撃のせいか、目が眩む。立つことすらできないほどに、脳が揺さぶられる。
(まずい、次の鏡へ!)
這いずるように屈みへと向かうが、足首を掴まれた。
おそるおそる背後を見ると、そこには鬼の形相ということすら生ぬるいほどの、暗い瞳を浮かべるサスケがいた。
「逃がすかよ……」
振り上げる。白の身体を持ちあげる。
そのまま、地面へと叩きつける。何度も何度も、叩きつける。
「ぐ……あぁぁぁぁぁぁっ!」
苦悶の声が途切れ途切れに耳朶を打つが、いっそ清々しいほどに、サスケは嗜虐の笑みを浮かべている。
次第に悲鳴をあげなくなり、白の身体は微かに痙攣のするだけとなる。
つまらない。
地面へと放り投げると、仰向けになるように蹴り転がした。
虫の息。
ひゅうひゅう、とかすかな吐息が漏れるだけの哀れな姿。
まだ、生きてる。それがわかると、サスケの口角が嬉しそうに釣り上がった。
足を振り上げて、白の腕へと勢いよく下ろす。
枯れ木が折れるような音を立てて、腕の骨は粉砕された。
悲鳴はなく、びくんと身体が跳ねあがるだけ。そのとき、白のつけていた仮面が、かたりと音をたてて外れてしまう。
出てきたのは、森の中で出会った穏やかな顔立ちの少年だった。見る影もなく、苦痛に歪んでいるが。
怒りが再燃する。
「やっぱり、やっぱりお前か! また会いましょう、だって? ……ふざけやがって!!」
首を、掴む。
左手で持ち上げていく。
悲鳴すらあげられないように、喉を握り潰していく。
死なない程度に、痛めつけるためだけに、力を加えていく。
「……凄い、殺意ですね」
呟くような声は白のもの。
その声が苛立たしくて、まだまだ痛めつけるつもりだったサスケの神経を刺激した。
こいつにも同じような気持ちを味あわせてやる。
目を、閉じる。
剥き出しの殺意が瞳に凝縮されていく感覚。焼け付くような傷み。それらがだんだんと高まっていく。
燃えそうだ。
だが、わかる。何故かは理解できないが、力の使い方だけは、わかる。
不思議な感覚だ。とてつもない全能感。今なら何でも自分の思い通りに運ぶという感覚が身体中を駆け巡っている。
目を、見開く。
瞳の模様が変化して、六芒星を描いていた。
これこそが万華鏡写輪眼――"月読"。対象の五感を奪い、思いのままの苦痛を与える幻術の極み。
見つめる。
無垢とすら言える白の瞳は絶望には染まっておらず、それがサスケには気に食わない。自分と同じ目に合わさないと気がすまない。
「お前も仲間を失う痛みを味わえ」
闇に、堕ちた。
◆
親子三人の暮らしは慎ましやかではあるが、愛情溢れるものであった。
「抱っこして~」と母のもとへ駆け寄り、頭を撫でられながら抱きしめられる。それを父が微笑みながら見守っている。
ごくごく普通の一般家庭。
実にもろい、日々の暮らしだった――父が母を殺し、そして、自分を殺そうとするまでは。
白は霧の国の辺境で暮らしていた。
絶え間ない内戦を避けるように家族は暮らしていたのだが、それが変わった原因は血継限界を持っているからだ。血継限界は、忌み嫌われる。普通の人間は戦う術を持たないから、血継限界という超常の力を行使する存在を恐れる。
「隠していたんですけど、バレました。だから、父は恐怖に駆られて殺したのでしょう」
自分の母が目の前で殺される光景を見せ付けられながら、白は独白する。
映像だ。
白とサスケが並び立ち、映写機で映し出される映画のようなもので、白の絶望の根源を探している。
ここはサスケが作り出した世界。一瞬という時間をサスケの万華鏡写輪眼が途方もないほどに引き伸ばし、幻術空間へと閉じ込めている。
「絶望なんて、僕にはないです。希望なんて持っていませんから」
過去の記憶を探っても、白は絶望しなかった。いくら見せ付けても、絶望しない。
もどかしい。どうすればいいのか、どうしたらいいのか、サスケには――思いついた。
「お前は必要ないんだよ」
凍りついた湖面の静けさを思わせる冷ややかな声は、突如白の横に現れた。
聞き覚えのある声のほうを向くと、まるでゴミを見るかのように自分を見下ろす顔の半分を布で隠した鬼人――再不斬がいた。
「こんな小僧にすら勝てないのか」
期待を裏切った。
「優秀な駒だと思っていたのに……使えねぇな」
血継限界を持つ優秀な血族だと知って拾ってくれた再不斬の期待を裏切った。
「何のために拾ったのかわからねぇ」
敗北する駒は優秀ではなく、役立たず。
「愚図が。消えろ」
そんなものを再不斬は必要としてくれない。
「あの時、死ねばよかったんだよ。お前なんか誰にも必要とされてねぇんだから」
幻術――なのだろうか。
現実味を帯びたその言葉は、白の心を責め立てる。
戦果を上げられない忍に意味はなく、再不斬の道具として傍においてもらっている白にとっての敗北とは存在意義の消失。
「死ね」
再不斬の声で言われると、幻だとわかっていても……
「死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね」
気が、狂いそうだ。
生気を失っていく白を満足げに見ているのは、サスケ。
絶望を見つけた。
それから【月読】の世界が切れるまで、白は夢を見続ける。
最も言われたくない言葉を、最も信じている人に言われ続ける、そんな悪夢を。
「殺して……殺してください……」
吐き出される言葉は、もう、ない。
◆
虚ろな表情で「殺してください……」と途切れ途切れに喋るだけの、生きた死体。
つまらない。
反応のなくなった、絶望のあまり壊れてしまった白を、サスケは嗜虐の笑みでとらえていた。
首を掴んで片手で持ち上げたまま、【月読】を行使したせいか目が眩むし、身体がだるい。痙攣すら起こる。チャクラもほとんど残っていない。だが、白の命を摘み取るくらいのチャクラは残っている。
空いている右手にチャクラを溜め込んでいく。
足にチャクラを集中する修練をした。
水の上ですら走り回れるほどに、修行した。
その成果が、右手に凝縮されるチャクラとなる。
ばちばち、ばちばち。
発行するほどに溜め込まれたチャクラは、小さく音をたてて空気を震わせる。
「死ね」
心臓を狙うように突き出される貫手は避けられるはずもない。
名前すらないチャクラを込めた穿突の意味は――必ず殺す。必殺。
だが。
「白ッ!!」
必殺を放つはずの腕は、横から襲来した陰により、叩き折られる。
意味がわからず、攻撃をした相手を見ると――いや、見る前にサスケは蹴り飛ばされた。
地面をこするように転がっていく。衝撃に目が眩む。脳が揺さぶられる。死ぬほど痛い。
そんなサスケを見向きもせず、白は――
「大丈夫か?」
「……ぁ、あぁぁぁあぁぁ……」
救いの主を見た。
そこにいたのは、自分を守るために駆け付けた――再不斬だった。