6.
朝の陽光が霧を切り裂き、ぽかぽかと暖かに照らしてくれる。
タズナの家の外、朝日に目を細めながら、ナルトを除く七班のメンバーとタズナは、仕事道具を持って出かけようとしていた。
「じゃ、ナルトをよろしくお願いします。限界まで体力を使っちゃってるから、もう動けないと思いますんで……」
「にしても、何があったんでしょうね。仲良くイナリ君と二人で寝ているなんて……」
「仲が良くなったんじゃろう……。金髪のガキはずっとイナリを応援するような言葉を言っていたからのぉ」
年の功というものか。タズナにはおおよその概要はわかっていた。
イナリとナルトがぼろぼろになって一緒に帰ってきた。しかも、どちらも身体中が筋肉痛だ。何をやっていたかを考えるだけで微笑ましく感じる。
強くなりたい。
そんなことを言っているイナリを見たのは初めてであり、ナルトたちの修行をしている風景を見て、考えを改めたのだろう。
孫は強くなる。
そう考えるだけでタズナは老体に鞭打つことが楽しくなってきた。
「じゃ! 超行ってくる」
「ハイ!」
ツナミに手を振りながらみんなが出発してから少しして、ナルトが眠そうに眼をこすりながら寝室から起き出してきた。
ナイトキャップが微妙にずれているかなり間抜けな状態で、しかも太股にはイナリがしがみついている。「兄ちゃん……ねむい」と言いながらぶらさがっているせいでズボンはだんだんとずれていく。
「何時だ。先生たちは?」
「あ! ナルト君、もう起きたの? 今日はゆっくり休めって先生が……」
「俺を置いていったのか……酷いな」
今日が再不斬が仮死状態から回復するのにかかるとされた一週間の最後の日である。つまり、今日からいつ襲われてもおかしくないということだ。それならば、戦力は一人でも多いほうがいい。
イナリを放り出し、身体の調子を確かめる。
筋肉痛は残っていない。チャクラも満タン。思考も鮮明だ。何も問題はない。
むすっとしたままイナリはナルトを見上げてくるが、デコピンを喰らわす。弾きとんだ。
「俺は行くから、お前は寝てろ。んじゃ、ツナミさん。行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
いってぇぇぇ、と泣き叫ぶイナリは無視して、ナルトも急いでサスケたちの後を追った。
そのことを後で悔いるとも知らずに……
◆
努力すれば報われる。
そう信じてやってきたのだろう男たちの末路は肉塊だった。
何も成し遂げられず、後世に思いを伝えることもなく、路傍に倒れて朽ち果てて行くだけ。
その生に意味はあるのだろうか。その死に意味はあるのだろうか。
意味を求めることに意味はなく、単純な事実として、男たちは死んだ。存在が消えた。もう立ち上がることはなく、目を開くこともない。
夢を繋ぐための架け橋。
タズナたちが命を賭して積み立ててきた命の結晶。
それさえできれば、それさえあれば、きっと変わる。変われる。日々の変革をもたらしてくれると信じていた希望の象徴。
穢された。
血で黒く染め上げられた。肉がぬらめいて混沌としているそれは、とてもではないが希望とは言えない。死は、いつだって絶望の象徴だ。
不謹慎ながらも、カカシは橋の上で散らばっている元人間だったものを見て『パンドラの箱』の物語を思い出した。
99%の絶望の中に1%の希望がある。その内の1%こそが絶望なのだ、と。何故なら、希望がなければ絶望に出会うこともないのだから。人々は希望があるからこそ、手を伸ばす。
伸ばした手は、届かなかったが。
タズナの膝が、折れた。
死した仲間たちを抱え上げては、涙をこぼす。
わしのせいだ。わしが作ろうなんて言ったから。
悔恨の言葉が流れては風に消える。別れの時間。だが、現実は無慈悲なものだと相場が決まっている。別れる余裕など、与えてはくれない。
晴れた視界が曇り始める。
霧だ。
「ね! カカシ先生……これってあいつの霧隠れの術よね」
サクラの言葉にカカシは頷く。
ほぼ間違いなく、タズナの仲間を殺した――そして、自分たちを殺そうとする敵がやっていること。
ぼやけた視界にかすかに写るのは顔の下半分を布で隠した大刀を担ぐ鬼人と、感情を隠すかのように仮面で顔を覆う少年だった。
鬼人は印を組む。
何度か見た覚えのある印は――水分身の術。
十を超える再不斬の分身はサスケたちの周囲を囲む。
逃げられない。
サスケは、震えた。身体を突き動かす衝動を抑えられない。
以前は水分身相手にカカシを除く三人で対処した。
あの時は、まだ弱かったから。
だけど、今は――っ!
「久しぶりだな、カカシ。そこの憎たらしいガキも、一丁前に武者震いしてるじゃねぇか。勝てるつもりでいるのか?」
「やれ、サスケ」
修行の成果を全て、出しきる。
足の裏にチャクラを溜め込み、解放。
視界が歪む。
何もかもがスローモーションに見える。
再不斬の水分身の動きなど、遅すぎて欠伸が出てきそうだ。いや、欠伸が出ても問題ないほどに、彼我の差は大きかった。
苦無を取り出す。
首を掻き切る。
十を超える水分身を切り裂くのに、3秒もかからなかった。
ばしゃあっ。
分身は水となって、地面を濡らす。
「強敵出現ってトコだな、白」
「……そうみたいですね」
再不斬の言葉に仮面の少年――白は同意する。
「あのお面の子も再不斬と仲間だってこと隠すつもりはないようね。本当、ふてぶてしい!」
「アイツは俺がやる……下手な芝居しやがって……俺はああいうスカしたガキが一番嫌いだ」
「サスケくん、鏡を見たほうがいいわ。そうすると一番嫌いなガキが写るわよ」
「……どういう意味だ?」
「意味なんてわかんなーい」
てへっ、と舌を出しながらとぼけるサクラに意地悪をしたい衝動に駆られるが、サスケは強靭な精神力を持って耐え抜いた。そんなことは後でもできる。今は、目の前の敵のほうが大事だ。
「末恐ろしい少年ですね。いくら水分身がオリジナルの十分の一程度の力しかないにしても、あそこまでやれるとはね」
「だが、先手は打った。行け」
白は、駆け出した。サスケも同時に駆け出す。
交差する瞬間、サスケは目を見開いた。
見切る。
頭を狙う苦無の一突きを首を捻るだけで回避し、体勢を低く、踏み込む。
懐に入ったところで膝が襲いかかる。速度が乗っている今、回避するのは難しい。だが――生憎とサスケは普通ではない。それに、このパターンでの膝蹴りはナルトとの修行のときに何度もお見舞いされている。そのたびに昏倒しているのだ。馬鹿でも対策を思いつく。
打ち上げられる膝の横に肘打ちを与えて、軌道を逸らす。
「なっ!?」
苦無で突いたせいで上体は流れており、膝を上げたせいで片足立ち。いわゆる、死に体。対するサスケは肘打ちをした反動すら利用して、攻撃へと移ることができる。圧倒的優位。
チャクラで地面へと吸い付く。そして、爆発するかのように跳ね上がる。加速度的に増した速度から打ちだされるのは顎へと向けた掌底。
下から突き出すように打ちこまれたそれは、白はバク転をする要領で辛うじてかわす。だが、それすらもサスケの予測の範囲。
避けられるように攻撃をした。
一歩で距離を潰す。
そして、着地した右足へ、思い切り振り下ろすようにローキックを放つ。
自分の体重が乗ったときに、相手の攻撃を合わせる。カウンターの要領だ。
つまり、ダメージが倍増する。
白は歯を噛み締める。
足の激痛は意志の力で抑え込み、再びサスケに苦無で斬りかかる。
これも、予想内。
サスケは苦無で受け止めた。
ぎりぎり、ぎりぎり。
金属同士が軋み合う不協和音が耳朶を打つ。
◆
「すごい……」
サクラは戦闘の凄まじさに見とれていた。
自分ではできない高速戦闘。圧倒するサスケの姿。素直に格好良いと思える。
ナルトとサスケの修行での演舞は何度も見たことはあるのだが、あれはお互いの手を知り尽くしてるから、ここまで軽快な戦闘にならないのだ。どちらも頭が良いから、騙し合いが占める領域が多くなる。だが、これは純粋な肉弾戦――心が、昂る。
知らずして、頬は朱に染まり、汗がにじみ出ていて、手を握りしめていた。興奮する。
だが。
「サクラ! タズナさんを囲んで俺から離れるな! アイツはサスケに任せる」
「うん!」
今は実戦。気を抜いてはいけない。
サクラはサスケの戦闘から目を放すと、タズナの護衛へと意識を傾けた。
◆
膠着状態。
苦無での押し合いをしたまま、サスケと白は睨み合っていた。
歯が軋むほどに力を込めながらの意地の張り合い。退くことは、ない。
そんなときだ。
「君を殺したくはないのですが……引き下がってはもらえないのでしょうね」
「アホ言え……」
「僕は貴方のスピードについていけない。けれど、僕は既に二つ先手を打っている」
「二つの先手?」
「一つ目は辺りに撒かれた水……そして、二つ目に僕は君の片手を塞いだ。したがって、君は僕の攻撃をただ防ぐだけ」
「片手で印だと!?」
片手での印。
サスケはそんなものをアカデミーで習うことはなかったし、今まで見たことすらない。
未知の術。
言葉尻でわかることは、水を利用するという特性だけ。
用心深く周囲を窺う。足元にある水溜りを注視する。いつでも離脱できるように足にチャクラを込める。
「秘術・千殺水翔!」
水が宙に浮かび、無数の氷の刃となってサスケに襲い掛かる。
冷やりとしたのは氷によって急速に気温が下がったからか、それとも恐怖のためか、それとも――自分が熱くなったからか。
刃がサスケへと向かって、飛びかかる。
避ける隙間さえ与えない弾幕攻撃に晒されて、サスケは穴だらけになる。
さて、ここで問題が起こる。
仮に、印を片手で組むとしよう。その間、力が均衡するはずがない。思い切り力を込めているサスケと、印を集中力を割く白ではどうしても差が出る。
それなのに、何故か均衡していた。理由は簡単だ。
敵が術を発動する一瞬、それは発動する。
「水遊びか? 蒸し暑いからちょうど良い感じだな。で、先手が何だって?」
串刺しに刺されたサスケは、何故だか白の後ろで嗤っていた。
どきりとする。確実に殺したはずなのに、それなのに生きている。
からん、と乾いた音がした。
死んだのはサスケではなく、ただの丸太。変わり身の術。初歩中の初歩。
気が、抜けた。そんなことも見抜けなかった自分に呆れ果てた。
隙。
サスケは決して見逃さない。
背後からの上段蹴り。頭を狙ったそれは屈むだけで避けられるが、上段蹴りの軌道を無理やり変えて、屈んだ顔へと叩きこむ。いわゆる、変則的な下段蹴り。
避けたと安心したところへ思い切りぶつけられたそれは白を吹き飛ばす。地面を跳ねるほどの衝撃。数度跳ね、受け身を取り、白はよろりと立ち上がった。
「自信満々で挑んだ相手に一蹴された気分はどうだ?」
鼻息を鳴らしながら、自分こそが自信満々になっていることに気付かず、サスケは白を挑発する。
「全く……うちのチームを舐めてもらっちゃ困るねぇ。サスケは木の葉の里のナンバーワンルーキーだし、サクラは里一番の切れ者……
そして、今はいない奴はオールラウンダータイプで……里一番性格が悪い、演技派忍者のナルトだ」
「先生、それ褒めてないと思います」
少なくともナルトのことを褒めているかは微妙だ。結構な悪戯をされているので、カカシとしてもナルトのことは素直に褒めたくはない。ガキっぽい、とサクラに思われることも気にせずに、堂々と里一番性格が悪いと言いきった。
笑みを深くしながら、くつくつと笑う再不斬はかなり異様だ。自分の部下が劣勢なのにも関わらず、負けるはずがないと信じ切っている目。
「……白、わかるか。このままじゃ返り討ちだぞ」
「えぇ、残念です」
白は印を組む。
先ほどとは違い、両手で。
何をするのか見極めるためにサスケはじっと見据えていたが、間違いだ。
印を妨害すべきだった。
「秘術・魔鏡氷晶!!」
サスケを囲うように氷の鏡が浮き上がる。しかし、その鏡にサスケは写らない。何も、写らない。
戸惑いながら分析をするサスケを置いて、白が鏡へと触れる。鏡の中へと、入り込む。
意味が、わからない。
いくら思い返しても自分の知識にこんな術はなく、同系統の術すら思い浮かばない。そもそも、氷とは何だ。術は五系統しかないはずだ。『火』『風』『水』『土』『雷』しかないはずだ! それなのに、何なのだこれは!
「じゃあ、そろそろ行きますよ」
言葉とともに、鏡から浮き出てきたのは、先ほどの比べ物にならない数の氷の刃。鏡で囲われているせいで逃げ道もない。
降りそそぐ。
逃げ道はなく、せめて急所を外すように避けるしかできない。
苦無で叩き落とすために、サスケは防御の構えを取った。
だが。
「土遁・土流壁!!」
刃は全て、橋から急にせり上がった石の壁の中へと埋もれて、再び橋の中へと消えた。
周囲全てによく見知った金髪の奴がいて、囲うように地面へと手を翳している。全方位からの攻撃を防ぐために土遁を用いたせいだろう。基本的に土遁は地面へと手を触れなければならない。
格好良い登場の仕方しやがって、とサスケは呟いてしまい、そいつはサスケを見ると、照れ隠しの笑みを浮かべた。
「よぉ、ちょっと遅れた」
「ナルト……ッ!」
声が出る。
喧嘩をしているのに助けられたことで動揺してしまったのか、声が出てしまった。
ナルトはにっこりと笑って、瞬間、表情を消す。
「とりあえず、こいつ片付けようぜ。その後、仲直りだ」
「あぁ……!」
「にしても、この術は何だ?」
「知るかよ……! というか、何で中に飛び込んできたんだよ!」
「お前がピンチだったんだ。無我夢中で飛び込むに決まってんだろ」
当然なのか? と疑問を覚える。ナルトはそういうタイプではないことを、サスケは重々承知している。
「戦闘中にお喋りですか。随分と余裕ですね」
「一対二なのに余裕なお前のほうがすげぇよ」
「……行きます」
今度は印を組む時間すら与えず、連続的に白が攻撃を放つ。
ナルトとサスケはぎりぎり急所を外しながら全ての攻撃を回避していくが、ところどころに裂傷を負っていく。避けきれない。
だが、冷静さは失わない。
分析する。
「氷から氷に飛び移ってるのか?」
ぽつりと呟くと、攻撃が止んだ。
「この術は僕だけを写す鏡の反射を利用する移動術……僕のスピードからすれば君たちはまるで止まっている……がはっ!!」
不意打ち。
わざわざ術の説明をしてくれている白の後ろに潜ませていた影分身による、頭を狙った膝蹴り。
わかったことが一つ。
鏡の中にいても、思い切り殴れば吹き飛ばされて出てくるということ。
急いで捕まえようと二人で試みるが、白のほうが速かった。すぐに鏡の中へと戻ってしまう。
「お前、馬鹿だろ? 俺がいつ本体だなんて言ったよ。ご大層に術の自慢なんてしちゃってまぁ……」
あえて嘲笑する。挑発とも言う。
少しでも相手が怒ればいいな、という程度の意味のないものだ。
「くっ! 影分身を使えるんでしたね、貴方は!」
「ご名答。化かしあいは得意でね」
そして、この会話すらも時間稼ぎと陽動だ。
「火遁・豪火球の術!!」
これもまた不意打ち。
白の潜む鏡に打ちつけられるサスケの身長の二倍はあろうかという火の球は轟々と燃え盛る。
全てを飲み込まんばかりの豪華は――しかし。
「無駄です! そんな火力では氷の鏡は溶けませんよ! そして、後ろからの攻撃も無駄です」
「ぐぅっ!」
まだ潜ませていた影分身は殴られ消える。
ナルトは騙せたと思っていたので、思い切り舌打をした。見切られたら悔しいものだ。
「君たちは……強い」
白の言葉は、唐突だった。
「まぁな」と自信満々に胸を張るサスケに、「当然だ」と吐き捨てるナルト。態度は違うが、言っていることが同じなあたり、似たもの同士なのかもしれない。自信家だ。
「出来るなら君たちを殺したくないし、君たちに僕を殺させたくもない。けれど、君たちが向かってくるなら、僕は刃で心を殺し、忍になりきる。
この場所はそれぞれの夢へとつながる戦いの場所。僕は僕の夢のために、君たちは君たちの夢のために……。
恨まないでください。
僕は大切な人を護りたい。その人のために働き、その人のために戦い、その人の夢を叶えたい。それが僕の夢。
そのためなら、僕は忍になりきる。貴方たちを殺します」
訥々と語られた言葉は平坦なのにも関わらず、強い意思が宿っていた。
負けない、負けてたまるか、という剥き出しの意志が宿っていた。
そんなものをぶつけられたら、ナルトとサスケも男の子だ。ムキになってしまう。意地になってしまう。お前に負けるか、と強気にならないといけなくなったしまう。
宣戦布告。
つまり、そういうこと。
喧嘩を売られたのなら、買うという旨をわかりやすい形で伝えるのが作法だ。
ナルトは親指で首を掻っ切るジェスチャーをして、サスケは親指を地面へ指差した。
「今すぐ忍を廃業して詩人になったらどうだ? ファンになっちゃうぜ」
「他人に夢を預けるあたりが感動ものだ」
喧嘩が、始まる。殺し合いの喧嘩が。
「にしても、お前はむかつくなぁ……誰かのために人を殺す、か。自分のために殺すと言えよ。全部を全部、他人のせいにしてるんじゃねぇ。人を殺すことを美談にしてるんじゃねぇ。だいたいが、汚いことだろう? 夢のため、とか笑っちまう。我欲のために訂正しろ。そっちのほうが相応しい」
「君は――厳しい考え方をしてるね」
「来いよ。潰してやる」
咆哮する。
男は苦無を手に持って、未知の敵へとぶつかることを良しとした。
◆
カカシと再不斬が対峙する。
本気を出した白を眼の端に移しながら、再不斬は嘲笑する。
「お前らみたいな平和ボケした里で本物の忍は育たない。忍の戦いにおいて最も重要な"殺しの経験"を積むことができないからだ」
それは的外れなものだった。
ナルトは命の駆け引きを卒業試験のときにやっているし、サスケは家族を失ったことにより、殺される覚悟が身体に染み付いている。もともと素養はあったのだ。
サクラは――
「生憎と、うちのメンバーは殺しを何度か経験していてね。そこらへんの機微をよく理解している。殺さなければ殺される、という事実をね」
忍の任務で重要なのは"殺し"の経験。そんなことはカカシだってわかっている。
だから、潜入任務などという危ない任務を選んだのだ。
こいつらなら、もう大丈夫だろう、という思いを持って。信じたと言ってもいい。人を殺す罪に潰されない、と。
「ま! あの正体不明の血継限界は怖い。というわけで、一瞬で終わらせてもらうぞ」
「クク……写輪眼……芸のない奴だ」
額当てで隠す写輪眼を、カカシは見開く。
恐れのない目で、再不斬は写輪眼を睨みつけた。
「俺は既にお前のその目のくだらないシステムは全て見切ってんだよ。この前の戦い……俺は馬鹿みたいにお前にやられてたわけじゃない。かたわらに潜む白にその戦いの一部始終を観察させていたわけだ」
「それって――負けたことには変わりないんじゃない?」
空気を読まないサクラの一言で場が凍りつくが、気を取り直して再不斬は口を開く。
「……で、既にお前の写輪眼の対抗策は練り上がってるんだよ」
対策――それは。
「忍法・霧隠れの術」
視界を白く染め上げる濃霧。要するに、見られなければいいわけなのだから……。
なるほど、と呟きながら地形を覚えるためにカカシは周囲を見渡したとき、目に写った光景は……血塗れのナルトを抱えて泣き叫ぶサスケの姿だった。
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