== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
深夜……。
宿の屋根の上で、ヤオ子はタスケを膝に置いて座っている。
浴衣姿で髪は下ろし、月を見上げてタスケの喉元をゴロゴロと撫でている。
「月明かりで、こんなに明るい……」
目を閉じると太陽の暖かさとは違う神秘的な力を感じる気がする。
流れる風も心地がいい。
第99話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・深夜の会話編
ヤオ子は、サスケを待つタスケの時間潰しの相手だ。
タスケの喉元を撫でながら、ヤオ子が質問する。
「ねぇ。
サスケさんにお話って、何ですか?」
「ん? う~ん……。
ヤオ子にも言えないことだな。
依頼主に関係があるからな」
「依頼主?
また伝言のお仕事ですか?」
「そんなところだ。
・
・
それより、お前は大丈夫なのか?」
「何が?」
「サスケが、お前に大蛇丸から教わったっていう結界忍術を伝授してただろう」
「ああ。
さっき、試しました。
結界内の水月さんのチャクラを感知できなくなっていました」
「一発で成功したのか?」
「そうなんですけど……。
微妙ですよね~」
「サスケの言ってた、あれか?」
「はい。
『心にやましいことがないと成功しない……。』
一発で成功したあたしの心は穢れているんですかね?」
「お前、自分の心が聖女みたいに綺麗だとでも思っているのか?」
「思ってます。
包み隠さない本能!
綺麗です!」
「隠せ。
理性で覆い隠せ」
「ヤダ。
あたしから、本能を取ったらエロいことを考えられなくなる」
「いい傾向じゃないか」
「あたしの魅力の八割がなくなりますね」
「……八割かよ」
「八割です」
タスケが溜息を吐いた時、サスケの姿が視線の隅に引っ掛かった。
タスケは直ぐに起き上がると、ヤオ子の膝を飛び降りる。
「じゃあ、こっからは秘密の会話だ。
お前は、寝ていいぞ」
「……そうします。
・
・
サスケさん。
明日、今日の分もお話ししましょうね。
今日は、タスケさんに譲ります」
「ああ」
ヤオ子は、そそくさと撤退した。
月明かりに照らされた屋根の上では、サスケとタスケが見詰め合っている。
タスケはちょこんと座ると、左の前足で隣を叩く。
「座ってくれ。
人間の視線に合わせるのは、首が疲れて大変なんだ」
サスケは無言でタスケの横に腰を下ろした。
「何から話すべきか……。
やっぱり、自己紹介からかな。
・
・
知っていると思うが、オレの名はタスケだ。
お前と一字違い」
「妙な縁だ……」
「確かにな。
だけど、偶然じゃない」
「?」
「オレの名付け親は、イタチだからだ」
サスケは、タスケの意外な言葉に驚いた。
…
タスケは首から巻物を外すと広げる。
そして、サスケの名前の書いてある部分に前足を置く。
「ここにイタチの名前があったんだ。
オレの最初の主人だ」
「どういう関係なんだ?」
「それを話そうと思っていた。
本当は、心に留めておくつもりだったが、ヤオ子を見ていられなくてな」
「ヤオ子?」
「ああ。
アイツ、根が明るいから微妙にしか分からないが、少しいつもより無理しているんだ。
お前が自分を取り戻す手助けをしようとしてる」
「そうなのか?」
「そうだ。
アイツだって、お前と同じだけ歳を重ねている。
少し大人になって馬鹿する頻度も減ってる。
イヤでも周りの常識が入って来て影響を受ける。
・
・
だから、お前と居るヤオ子を見ると、少し前のヤオ子が頭を過ぎる。
と言っても、根はあれだからな。
本当に些細な違いだ」
サスケは少し視線を落としたあと、月を見上げる。
「ヤオ子に心配を掛けているのか……。
・
・
それだけ変わってしまったんだな……オレは」
「人の生き様を否定する気はない。
それにそうなったのは、イタチのせいでもある」
「そういう言い方は気に入らないな」
「そう言うな。
復讐をさせたのがイタチなら、その後の対策も立ててあるのがイタチだろ?」
サスケは額に手を置く。
「何だか、兄さんに全てを見透かされてるみたいで、気味が悪いな……」
「それだけイタチのお前に対する想いが強いってことだ。
大事に受け取ってやればいい。
ヤオ子の言う通り
『イタチの想いを受け取れるのはお前だけ』なんだから」
「……分かっている」
タスケはサスケと少し話したことで幾分か話し易くなり、肩の力を抜く。
警戒して話す相手ではなくなった。
「オレが話すのは、お前にイタチの一面を伝えるためだ。
本当は、イタチ自身に誰にも言うなと口止めされていたが、依頼主のイタチが居なくなったから話すことにした。
これを聞いて、少しでも昔の自分を取り戻す材料にしてくれ。
そうなることが、ヤオ子の負担を軽くすることでもあるからな」
「ああ……」
タスケは、ゆっくりと自分の過去を話し始めた。
「……オレが初めてイタチと会ったのは、うちはの隠しアジトの一つだった。
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・
当時、オレは親猫を亡くして、自分が忍猫だとも気付かないでエサを求めて彷徨っていた。
子猫のオレは、エサも満足に取れずに行く先も分からずに歩いていた。
雨が降って、仕方なく雨宿りをした御堂。
そこで疲労から眠りについた。
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そして、次に気が付いた時にはイタチの膝の上で、背中を撫でられていたんだ。
親猫を失って、久々に感じた温もりだった。
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お腹が鳴ると、イタチは少し笑ってた。
何かを言っていたが、分からない。
オレに忍猫としての力が目覚めてなかったのか、言葉を理解していなかったのか思い出せないんだ。
でも、差し出された握り飯に夢中でがっついていたのは覚えている。
それから、暫くするとイタチは去った。
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・
オレは、毎日、御堂でイタチを待っていた。
不思議とイタチの雰囲気に吸い寄せられたんだ。
イタチは、毎日じゃないにしろ、時々、顔を見せた。
そして、その都度、オレを膝に乗せて話し掛けていた。
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そのせいか……。
オレは、何時しかイタチの言っている言葉を理解できるようになっていた。
だから、ある日、話し掛けたんだ。
『ありがとう。
握り飯旨かった』って。
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・
イタチは驚いていた。
ただの猫だと思っていたから、話し掛けていたんだからな。
忍猫と知って、困った顔をしていた。
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・
イタチは、お前のことや木ノ葉のことを話していたんだ」
「兄さんが──当然だ……。
あんな辛いことを胸に仕舞ってなんておけない。
何処かで吐き出さなければ心が壊れてしまう」
「オレもそう思う。
だから、オレはイタチと契約したんだ。
『お前が主人になれば、誰にも話さないって』
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・
イタチは信じてくれた。
そして、信頼の証としてオレに名前を付けたんだ。
大好きな弟の名前を一字変えて『タスケ』と」
「それで名前が似ているのか……」
「そうだ。
・
・
オレは、それからイタチに忍術を少し学んだ。
簡単な基礎を教わり、風の性質変化を覚えた。
それ以降は、動物の領域だから独自で自分の動きにしていった。
そして、初の仕事で手に入れた金で、この巻物を買ったんだ。
・
・
イタチに契約して貰いたくてな」
タスケは少し照れている。
サスケは照れているタスケを見ると、イタチが内面は変わらない尊敬できる兄のままだったんだと再認識する。
タスケは話を続ける。
「イタチは契約してくれた。
オレは認められたんだと、凄く嬉しかった。
それからはイタチの依頼で情報収集をしたり、伝言を伝えたりと駆けずり回った。
・
・
ヤオ子と知り合ってからは木ノ葉に入る口実も出来て、木ノ葉の内情も少し伝えた。
ヤオ子には悪いが、利用させて貰っていた。
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・
そして、数年後のある日……イタチの死期が近いことを知らされた。
付き合いもここまでだと言われた。
『許せタスケ』ってご突かれたら、どうしようもなく嫌だったが受け入れるしかないように思えた。
・
・
巻物からイタチの名前が消えたのは、それから数日後だった」
サスケが巻物に書かれた自分の名前に目をやる。
「そこに……お前だったら、名前を書いてもいいと思ったんだ。
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・
イタチの意志を継ぐと言った……サスケなら。
・
・
……これが、オレがお前に伝えられるイタチの思い出だ。
今度の戦いでは、しっかり呼んでくれ。
イタチは契約をしてくれたが、口寄せしたことはなかったから。
オレは、誇れる主人に呼び出されたいんだ。
一匹の忍猫として」
サスケは巻物を巻き直すと、タスケの首にしっかりと付ける。
「……ありがとう。
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・
今度の作戦は、絶対に成功させる。
お前もイタチの意志を継いだ者だった。
オレ達なら出来るはずだ」
「ああ。
優秀なオレの部下も居るしな」
「ヤオ子のことか?」
「そうだ。
あれは、オレの部下だ」
サスケは軽く微笑むと手を差し出す。
「これから、よろしく頼む」
「任せろ」
タスケがサスケの手に前足を乗せる。
この日、イタチの意志を継ぐ者が、もう一人増えたのだった。