== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
ヤオ子が小隊・鷹に加わり、うちはイタチの体を取り戻すというところまでは説明が付いた。
しかし、サスケとヤオ子の関係や鷹が八尾を捕獲した経緯などは明らかにされていない。
新メンバーの加入により、お互いの情報交換が必要になる。
サスケ達は小さな島で夜を明かすと、最寄りの宿場町を目指して移動することにした。
第97話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・マダラ接触編
その移動中の森で、鷹のメンバー香燐はご機嫌斜めだった。
昨日加入した少女がサスケの横にぴったりと着いているからだ。
「気に入らんな……」
「あの子のこと?」
「ああ……。
ウチのサスケにあんなにぴったりと……」
「いつ香燐のものになったのさ……。
・
・
まあ、香燐には真似しても無理だろうけどね」
「真似?」
「ああ。
あの子がサスケに合わせて木々を飛び移っている異常さがよく分かるはずだよ。
あの子と同じことをしてみなよ」
「珍しいな。
サスケに手を出すと、いつも文句を言うのに。
だが……。
今日は、水月公認だ!」
(誰も、そこまで認めてないよ……)
香燐が移動速度を上げて、ヤオ子と反対側のサスケの隣へ移動する。
「サスケェ……。
そんなのと何を話してんだ?」
(そんなの?
あたし、嫌われてんのかな?)
嫌われている。
そして、両隣を飛び交うくノ一達の状況をサスケも嫌っている。
サスケが無言で進行方向を変えると、香燐だけが明後日の方向に飛び出す。
「サスケ!
てめェ──」
ヤオ子は、しっかりとサスケの横をキープしている。
確かに水月が言った通り、異常だ。
香燐が遠ざかって行く小隊を追い掛け、水月に話し掛けた。
「異常って、このことか……」
「ああ。
さっきから見ているけど、サスケの動きに同調しているみたいに着いて行っているんだ。
普通、あんな無言で曲がられれば香燐みたいになるけどね」
「どうなっているんだ?」
「多分、サスケの動きを先読みしているんだよ。
どんな修行をして来たか分からないけど、体術の技術で言えば、ボクや香燐より上なんじゃないの?
・
・
まあ、体術の高さは海上での戦闘で分かっていたけど」
「そういえば……。
アイツ、性質変化も幾つか使っていたな」
「この隊には居ないタイプの忍だね。
あの子のチャクラって、どうなの?」
「……よく分からない。
昨日の戦闘では禍々しく感じた。
だけど、本来のチャクラじゃないような気がした」
ヤオ子はチャクラを練る際に妄想を代用するので、香燐に混乱が生じている。
「禍々しいのかよ……」
「ああ……。
・
・
そして、今は何も感じない。
恐らくチャクラを瞬間的にしか出してないから、感知できないんだろうな」
「何で、そんな変な使い方をしているんだ?」
ヤオ子の修行の一つ。
幻術対策用にチャクラを止める訓練……。
貧乏性からチャクラを節約する訓練……。
瞬間的にチャクラを生成する訓練……。
これら三つを併用して、戦闘以外では極力チャクラを練らないようにしている。
つまり、普段時と戦闘時の切り替えをしている。
瞬間的にチャクラを一気に生成できるので、普段からチャクラを流しておく必要もない。
隊員二人の謎は深まる。
そして、サスケが止まると全員止まる。
「よう……。
サスケ」
小隊が止まった原因になった人物に視線が集中する。
ヤオ子が、初めてうちはマダラと接触した瞬間だった。
…
ヤオ子が初めて見る、うちはマダラ。
それは突然現れた。
(あたしが気付けなかった……。
お母さん以上の忍体術か……。
お母さんの言っていた特殊系を修めた忍。
・
・
後者なら拙い……。
あたしは、まだ特殊系を修めた忍に対抗できる手段を習得していない。
大軍系の忍術の印も覚えていない。
認められているのが、忍体術の及第点(母親辛口評価)のみ)
ヤオ子の緊張は、サスケにも伝わる。
だが、サスケは、それに少し安心する。
ヤオ子は、うちはマダラの強さを瞬時に判断した。
ヤオ子の経験値が上がっている証拠だった。
サスケがマダラに話し掛ける。
「……どうして、オレの居場所が分かった?」
「オレをなめるな。
こっちには、それなりの能力がある」
今の少ない会話から、ヤオ子は幾つか判断する。
(あたしどころか、サスケさんも気付かなかった。
恐らく特殊系の忍者。
・
・
そして、この小隊……感知されている。
忍が気付かないマーキングがされているに違いありません。
聞いた噂では四代目火影の時空間忍術などは、特殊な文字でマーキングしたとか。
文字なら視認すれば気付く。
・
・
と、なると……発信機の類。
そんなものがあるんでしょうか?
忍でも気付かない発信機なんて……。
・
・
だったら、逆に盗聴も出来る?
もう、こちらが木ノ葉への復讐をしないことも、気付かれているかもしれませんね。
島で全てを話さなくて良かったかもしれないです。
宿場町に着いたら、より慎重にならないと。
この世界には知られていない忍術も数多くあるんだから)
目の前の人物の外套は、里で目撃した外套だ。
ヤオ子は情報を収集するために集中する。
そして、サスケも接触したマダラに警戒し始めた。
マダラの仮面から覗いた写輪眼がヤオ子を睨むと、ヤオ子は視線が合った瞬間に印を組む。
「解!」
まずは掛かっているかもしれない己の幻術の解除。
更に印を結ぶ。
自分の前に写輪眼の視線を入れないための影分身を一体出し、第二の目の役目をさせる。
マダラは、その行動の早さに感心する。
「いい手駒をまた見つけたようだな。
写輪眼に対して警戒をするとは……。
・
・
まあ、少し過剰な反応な気もするがな」
ヤオ子の写輪眼に対するトラウマはハンパじゃない。
木ノ葉で過ごしたサスケとの日々で、警戒心が強くなっている。
修行が行き過ぎていた頃は、サスケとヤオ子は対決に近いものになっていた。
写輪眼を試したいサスケに、写輪眼のトラウマに恐怖するヤオ子。
写輪眼による幻術を掛けるか、掛けられないかの鬩ぎ合い。
油断してれば写輪眼を試せない。
油断していれば写輪眼を使われる。
ドS vs トラウマ。
しかし、それも今となっては思い出の一つではなく……二人の黒歴史の1ページ。
故にサスケとヤオ子の頭に同じものが過ぎったが口に出さず、会話は進行した。
サスケがマダラに話し掛ける。
「……今更、何の用だ?
オレ達『鷹』は、暁を抜けた。
お前らに、もう用はない」
「へ?」
その言葉にヤオ子がサスケを見る。
(抜けてたのーーーっ!?)
「何だ?」
ヤオ子は、ジト目でサスケを睨む。
(何で、いつもサスケさんは、大事なことを言わないんですか!
暁に入ったから、指名手配されて抹殺命令が出ていたんでしょ!
だったら、あたしに一言あってもいいでしょ!
心配してここまで来たの知ってるクセに!)
ヤオ子がバリバリと頭を掻き毟る。
ヤオ子の頭……激しく沸騰中。
マダラは、そんなヤオ子を見て溜息を吐いた。
(この娘は、何を怒っているんだ?)
ヤオ子の評価を少し下げたあと、マダラはヤオ子を無視してサスケとの話を続ける。
「暁を裏切れば、ちゃんと死んで貰うと言ったはずだ。
お前達は、オレとの約束を裏切ったことになっている」
「何のことだ?」
「尾獣狩りの件だ」
ヤオ子が木ノ葉での話を思い出す。
サスケの追い忍の件で、一番の原因で問題。
雷影からの手紙にも、それが記されていた。
(そうでした……。
暁抜けてんのはいいけど、未だに八尾誘拐の件は、どうにもなっていない……。
この人、昔からやり過ぎなんですよ。
普段、あれだけクールなのに脊髄反射で動くような時もあって……)
ヤオ子が項垂れるのを無視して、香燐の反論が響く。
「それなら、もう八尾を狩って、あんた達に渡したはずだろ!」
「あれは変わり身だった……。
つまり、お前らは失敗したんだ」
「!?」
ヤオ子は『失敗』という言葉に反応する。
「お前らは八尾に一杯食わされたのさ。
正直、お前らにはがっかりしたぞ」
真実を聞いて固まるサスケ達と違い、ヤオ子の口はだらしなく緩む。
「あはぁ~……♪」
サスケ達が引く。
マダラも引く。
(((((何だ? コイツは……)))))
「えへへ……」
(思わぬところで拾い物が……。
つまり、間に合うんですよ。
サスケさんは暁を抜けてて、八尾も誘拐未遂でした。
・
・
いいこと、聞いちゃった~♪
まだ戻れます♪
サスケさんは、木ノ葉に戻れるんです!)
ヤオ子の顔は、百面相になっている。
百のにやけ顔……。
ヤオ子は、暫くトリップしていたが戻ってくる。
そして、シュタッ!とマダラに手を上げる。
「いい情報をありがとう!
知らない誰か!」
「何?」
「サスケさん。
もう用ないし、さっさと行きましょう」
ヤオ子は目の前の人物を誰かも知らずに無視して、サスケの手を引く。
そして、そんなことをマダラが許すはずもない。
「待て! 小娘!」
「ん?」
「話を聞いていなかったのか!」
「聞いてましたよ。
八尾誘拐に失敗したんでしょ?」
「その前だ!」
「その前?
・
・
何か言ってたっけ?」
「死んで貰うんだ!」
「ああ……。
そんな冗談を言ってましたね」
「な!?」
マダラは怒りを蓄積させ、サスケ達は呆れている。
(コイツ、場の空気っていうのを考えてないよな……)
(ここまで、壮大に無視するっていうのはありなのか?)
(冗談ってなんだよ……)
(…………)
サスケは溜息を吐くと、盛大にヤオ子にグーを炸裂させた。
「お前は、黙っていろ!
話が進まん!」
「ぐぁぁぁ……っ!」
ヤオ子が蹲った。
「話を続けろ……マダラ」
「マダラ!?」
再び、サスケのグーが炸裂する。
「だから、黙っていろ!」
「ううう……。
あんまりだ……」
サスケのグーで、話は強引に戻った。
サスケが続ける。
「八尾を再び捕らえろということか?」
「イヤ……。
もう、それはいい。
代わりに別の用をやって貰う」
「断わると言ったら?」
「ここでお前らとやり合うことになる。
木ノ葉へは行けないということだ」
サスケが暫し考える。
今は、木ノ葉に向かう必要はない。
かと言って、マダラの思い通りになる気もない。
そして、何より……鷹の次の行動の詳細は未定だ。
これから、宿場町で相談することになっている。
(どうしたもんか……)
マダラからすれば、少し肩透かしだった。
サスケは、もう少し突っ掛かると思っていた。
悩んでいるのは別のことだが、悩む姿が見れるとは思っていなかった。
マダラは、別のカードを切る。
「それに今更、木ノ葉に行っても遅い……。
木ノ葉隠れの里は、もうない……」
「何っ!?」
サスケはヤオ子を睨む。
(何で、その情報を言わない……!)
ヤオ子は思いっきり目を逸らしている。
しかし、サスケも暁を抜けたことを言い忘れている。
この二人は、何処か似ている。
拳を握り込み、黙るサスケにマダラが話し掛ける。
「話していいか?」
「……続けてくれ。
(この馬鹿のせいで)真実が分からない」
「そのようだな……」
「ソコカラハ オレガハナソウ」
新たな人物が現れる。
木から直接生えるように現れる姿は、植物を思わせる。
そして、その姿に香燐が思わず声をあげる。
「何だ!? コイツは!?」
「オレの部下だ」
マダラの言葉があっても、怪しい姿に警戒が解けない。
しかし、お構いなしに新たな侵入者ゼツから、木ノ葉での真相が語られた。
…
ゼツの説明で何があったかを語られた後で、マダラが語り出す。
「オレの部下のペインが木ノ葉を潰した。
しかし、やり過ぎた。
ハデにやり過ぎたせいで五影が動き出した」
「自業自得だな……」
「そう言うな。
お前の八尾の狩り方にも問題がある」
マダラの言葉にサスケが押し黙ると、マダラは話を続ける。
「ところで、気にならないか?
新たに代わった火影について……ダンゾウについて」
「?」
「お前の兄を追い詰めた上層部の一人が、木ノ葉の火影になったということにだ」
その言葉は、確実に引き金になる言葉だった。
サスケの中で負の感情が膨れ上がっていく。
隣に居るヤオ子にもピリピリとした感情が伝わる。
(サスケさん……。
・
・
お兄さんの死に関わる人です。
割り切れるはずがないんだ……。
だけど、あの目は──)
サスケが必死にその感情を噛み殺そうとしているのが分かる。
冷静に勤めようと、感情に流されまいと抵抗している。
マダラが続ける。
「そして、先の八尾の件と木ノ葉を潰したことで、五影会談が開かれる……。
ダンゾウは、その時、火影として確実に現れる」
「…………」
ヤオ子はサスケの中で葛藤が起きているのを認識する。
そして、こういう言い回しでサスケを利用しようとしていたのかと認識する。
だから、分かった。
この人物がマダラで間違いない……と。
(お兄さんのことを口出ししていい資格を持っているのは、サスケさんです。
サスケさんに考えることをさせるなきゃいけない。
それ以外は、脇役です。
──あたしの役目が分かりました)
嘘つきに対抗するには、嘘つきをぶつければいい。
大事な人のことをサスケが考えられるように、この人物に利用されないように誘導すればいい。
ヤオ子の頭が活発に動き出した。
「どうする?」
マダラの質問に鷹のメンバーは答えられない。
全てが後手に回っている。
目的を決める前にマダラと接触してしまったこと。
その決定権を決めるリーダーであるサスケが不安定であること。
今は意志を貫くにも、答えを返すにも、準備が整っていない。
一人を除いては……。
そして、部外者が口を挟む。
「サスケさん。
殺るなら五影会談にしましょう。
ダンゾウは殺さなければいけない」
「ヤオ子……?」
ヤオ子はサスケと視線を合わすと、マダラから見て反対の方の目でウィンクする。
自分に任せろと合図する。
サスケも少し迷ったが合わせることにした。
そして、サスケとヤオ子が木ノ葉を出て以来の共同作業を開始する。
「マダラさんの情報は確かです。
あたしも木ノ葉で聞いています」
急に話し始めたヤオ子に今度はマダラが警戒し、当たり前の疑問を投げ掛ける。
「お前は、何だ?
新しいメンバーのようだが?」
「サスケさんの部下──正確には、サスケさんの部下になるように命令されていたんですよ」
「命令?」
「うちはイタチ……。
知っているはずです」
「イタチか……」
「イタチさんの写輪眼で、ある命令が刷り込まれていたんです。
生前は、木ノ葉の情報をイタチさんに流す。
そして、もう一つはあるスイッチが鍵でした」
「スイッチ?」
「木ノ葉の崩壊。
突然、あたしがサスケさんの前に現れたのは偶然じゃないんです。
木ノ葉の崩壊というスイッチで、サスケさんに協力するように仕向けられていたんです。
・
・
その手の術に少し覚えがあるんじゃないですか?」
「サソリの術を利用したか……」
実は、ヤオ子のハッタリ。
何でもありの忍の世界だから、通用した嘘。
そして、ハッタリをかます上でのマダラへの期待。
本物のマダラなら、老獪な知識を蓄えている。
ある程度の嘘も知識が補うという敵の能力を信じた上でのハッタリ。
案の定、マダラの知識にヤオ子のハッタリは引っ掛かった。
しっかりとサソリという部下の知識から、該当する術を補ってくれた。
ヤオ子は、心の中でにやりと笑うと続ける。
「あたしは、サスケさんの望むものを与えます。
そして、邪魔をするなら、あたしが排除します。
・
・
今のあなたの情報は必要で有意義です。
確実に狙える日程と場所が分かるのは、サスケさんの復讐を完遂させるのに重要です。
・
・
特にダンゾウ、ホムラ、コハル。
この三人は、楽には殺さない。
自ら殺すことを懇願するまで痛めつけて殺す。
そして──」
「ヤオ子……もういい」
ヤオ子はサスケを見ると黙る。
バトンタッチ。
ここからは、サスケがハッタリを掛けると目が訴えていた。
”マダラの任務へのやる気を見せる”
サスケは、ヤオ子の狙いがそこにあると思って話を続ける。
「マダラ。
さっきの用件……ダンゾウの抹殺でいいんだな?」
「五影会談でハデに暴れてくれればいい……」
「そうか……。
なら、協力してやる。
ダンゾウを殺すのは、オレだからだ。
・
・
ただし、少し時間を貰うぞ」
「何故だ?」
サスケは、ヤオ子を指す。
「コイツの洗脳が浅い。
木ノ葉で一般の忍として温い生活をしていた時と、イタチに付き従っていた時の状態が混同している。
これでは使い物にならん。
写輪眼で刷り込み直す」
「使えるのか?」
「一応、コイツと戦闘をしている。
イタチが使っていた忍だけあって、幾つか使える術を習得している。
・
・
最悪、術だけでも頂いて死んで貰う」
サスケは、ヤオ子を見る。
「オレのためなら、死んでくれるんだろう?」
「サスケさんが望むなら……」
マダラは仮面の中で唇を吊り上げると、機嫌よく伝える。
「一日待つ。
場所と日時は、その時、教える」
「分かった……」
マダラは空間を歪ませると、ゼツと共に去った。
サスケも無言で移動を開始すると、ヤオ子と鷹のメンバーが続く。
そして、宿場町までの移動で暁の尾行がないのを確認した。