== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
サスケに、木ノ葉に居た頃の雰囲気が漂い出していた。
長年蓄積させた負の感情を直ぐには転換できないものの、ここには強烈に変わらない人間が居る。
しゃべる言葉も懐かしい仕草も、急速に自分を思い出させる。
そして、年下の少女の立場が、忘れていた兄との温かい日々も思い出させる。
(今のオレには、コイツが必要だ……)
サスケがこの小さな島を訪れた時とは逆に、離れる時にはヤオ子の存在理由は大きく変わっていた。
第96話 ヤオ子と小隊・鷹
小さな島を出る影が三つ。
サスケとヤオ子とお供の忍猫タスケだ。
そのタスケは島を出ると直ぐにいつものポジション──ヤオ子の軽い頭の上に移動して、影は二つに減る。
そして、海上ではサスケの小隊・鷹のメンバーが待ち構えていた。
うち二人の機嫌は悪い。
それも当然……さっき襲って来た少女とサスケが仲良く歩いているのだから。
早速、大刀を背負った少年・水月がヤオ子を指差し叫ぶ。
「どうして、そいつと仲良く帰って来てるのさ!」
「今回ばかりは、ウチも水月と同意見だ!」
水月に続いて怒鳴る香燐を見て、サスケは溜息を吐くと答える。
「仲間にした」
「「ハァ!?」」
理由を知らなければ当然そうなる。
そして、基本、唯我独尊なサスケは、水月と香燐を無視して自分の目的遂行のために勝手に話を進める。
「もう、小隊はいらなくなった。
今、解散する」
「「ハァ!?」」
さっきから同時に声を発し続ける水月と香燐を見ながら、ヤオ子は懐かしさを感じていた。
(変わってない……。
恐ろしいほどの自分主義……。
あたしは初対面でいきなり宿題出されましたからね……。
そして、無視したら家を燃やす……。
・
・
この二人には、同じ被害者の匂いがします)
サスケは用件を話し終えると、さっさと歩き出そうとする。
変わらないことは嬉しいのだが、さすがにこの行動にはヤオ子も少し引いた。
「あ、あの……サスケさん?
皆さん、固まってますよ?」
「気にするな……」
「へ?」
「「ちょっと待て!」」
本日の水月と香燐のシンクロ率は高い。
「サスケ!
おかしいだろ!
理由を言えよ!」
「そうだ!
ウチらを強引に仲間に引き込んだクセに!」
サスケは面倒臭そうに言い返す。
「水月。
お前は暇だから付き合ったんだろう。
香燐。
お前も仕方なく付いて来ていたはずだ。
・
・
オレが頭を下げる理由がある人物が居るとすれば、重吾だけだ」
「「な!?」」
サスケの物言いに、ヤオ子は項垂れている。
(ドSな部分だけが懐かしい……。
・
・
この二人の反応を体験した記憶があります。
サスケさん……ハンパないです)
水月と香燐を無視して、サスケが重吾に向き直る。
「オレは別行動に出る。
どうする?」
重吾は考える間もなく、答えを返す。
「着いて行く……。
オレの殺人衝動を抑えられるのはサスケだけだからな。
それに最後まで見届けると決めている」
「そうか……。
じゃあ、着いて来い」
サスケが歩き出すと重吾も続く。
取り残された水月と香燐が哀れで、ヤオ子も動けない。
「ちょっと!
サスケさん!」
「何だ?」
「『何だ?』じゃないですよ!
何なんですか!
そのドSっぷりは!?
残された二人が可哀そうでしょ!」
水月と香燐には、この時のヤオ子がまともな人格者に見えた。
「何でだ?」
「何でって……。
あたしが襲った時には仲間だったでしょ!
何で、捨てるようなことをするんですか!」
(コイツ……)
(意外といい奴なんだな……)
水月と香燐は、ちょっとだけヤオ子に感動していた。
しかし、サスケはバッサリと切り捨てる。
「今度の目的には必要ない」
「「「が……」」」
水月と香燐とヤオ子が固まる。
そして、ヤオ子がキレた。
「少し見ない間にドSのクラスチェンジでも起きたんですか!?
一緒に生死を懸けた場面もあったんじゃないんですか!?
そんな言い方はないでしょう!」
「アァ!?」
水月と香燐が押し黙る。
何かおかしい……。
何故か仲間に引き込んだはずの少女とサスケが揉めている。
何より、サスケの返し言葉が引っ掛かる。
こんな雰囲気で『アァ!?』なんて聞き返すはずがない。
「サスケさん!
あったま来ました!
あなたに称号を付けてあげます!
世間一般のマスコミが、一昔前に視聴者がドン引きしているのに流行ってると勘違いして、
挙って付けた寒い称号『王子』です!
今日から、サスケさんは『ドS王子』です!」
水月と香燐は、強ち間違いではない称号に笑い声をあげた。
「てめェ! ヤオ子!
ふざけるな!
何で、そんな訳の分からない二つ名を付けられなければならないんだ!」
「自覚がないなら重症ですよ!
このドS王子!」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。
「その名前で呼ぶんじゃねー!」
「呼んで欲しくなければ、ちゃんと理由を説明してください!」
「だから、何でだ!
コイツらが着いて来ていた理由も、おかしいだろうが!」
「理由?
・
・
ああ……。
『暇だから』に『仕方なく』でしたっけ?」
ヤオ子は、水月と香燐に振り返る。
「馬鹿じゃないの?」
水月と香燐のグーが、ヤオ子に炸裂した。
「お前は、ボク達の味方じゃないのか!?」
「さっきまでの擁護は、何だったんだ!?」
「知らないですよ!
こっちも吃驚ですよ!
擁護しようと思ったら、
手持ちの理由が『暇だから』に『仕方なく』で、
どうやって、サスケさんに一矢報いればいいんですか!?」
「それを何とかするのが、お前の役目だろ!」
「っなわけあるか!
あたしは、サスケさんの態度が気に入らなくて、思わず注意しただけですよ!
・
・
な・の・に!
何で、お二人の小隊在籍理由が、そんな訳の分からない理由なんですか!?」
水月と香燐が押し黙る。
そして、仕方なしに言葉が漏れる。
「「……その場の雰囲気で。
……つい」」
「ふざけるな!
この馬鹿ヤローどもが!」
場は荒れる。
激しく荒れる。
サスケvsヤオ子の様相が、いつの間にか水月&香燐vsヤオ子に変わっている。
もう、収拾がつかない。
既に何が原因で揉めていたのかすら、分からない。
「いい加減にしろ!」
サスケがキレた。
しかし、説得力がない。
そもそもの原因はサスケにあり、サスケも揉めていた一人だからだ。
ヤオ子が、サスケをビシッと指差す。
「黙れ!
サスケさんも注意される側の人間です!」
「「そうだ!」」
「お前ら……!」
サスケが拳を握る。
そして、本当に注意出来る者が声を発する。
「本当にいい加減にしたら、どうだ?」
ヤオ子の頭の上に視線が集まる。
「「「「猫がしゃべった……」」」」
「タスケさん」
「「「タスケ?」」」
水月と香燐が大声で笑う。
「何で、猫とサスケが一字違いなんだ!?」
「アハハハハハッ!」
「「お前ら……!」」
サスケとタスケが、水月と香燐を睨みつける。
今度は、助け舟を出そうとしたタスケがふてくされる。
「サスケ……。
オレは、お前の味方だ。
コイツらはいらん。
捨てて行け」
「分かった」
「「オイ!」」
「振り出しに戻った……」
結局、揉めに揉めたあと、再び小さな島に戻って説明し直すことになった。
…
辺りは夕闇に浸かり、すっかりと夜……。
焚き火を囲んで、鷹のメンバーとヤオ子が倒木を椅子にして座っている。
そして、水月がサスケに話し掛けた。
「一体、何があったのさ?
コイツは、ボク達を襲って来た敵だったんだろ?」
「その時点から違う」
「どういうこと?」
サスケは、どうしたものかと考えたが、隠すことでもないと話し出す。
「ヤオ子は、オレと話しに来ただけだ。
そして、あの場面で先に仕掛けたのはオレ達……。
ヤオ子は、仕方なく戦闘したに過ぎない」
水月達が昼間の戦闘を思い出す。
確かにそういう流れだった。
「それで話し合いに、一人でこの島に来たんだよね。
それが小隊を解散する理由になるの?
木ノ葉を潰すんなら、頭数は多い方がいいはずだろ?」
「もう……。
木ノ葉は、どうでもいい」
「ハァ!?
もしかして、そいつに説得されたわけ!?」
「それも違うな……。
今までのオレが少しおかしかったんだ。
復讐するなら、木ノ葉じゃない」
「じゃあ、誰なのさ?」
サスケは、少し視線を落とす。
正直、そこは結論が出ていない。
「分からない……」
「ハァ!?」
水月の疑問は、今までの流れからすれば当然だ。
サスケは、イタチに復讐するために小隊を作った。
そして、マダラから語られたイタチの話に、木ノ葉を次の復讐の対象に選んだばっかりだ。
そのために暁とも一時的に手を組んで人柱力である八尾の捕獲を実行した。
この流れを辿っているから、鷹のメンバーは混乱する。
そして、その中で重吾だけが混乱しないのは、彼の目的がサスケの生き様を見届けることにあるからだった。
水月の質問だけでは理解できないところを香燐が質問する。
「ウチが知りたいのは、チャクラの質が変わったところだね。
サスケのチャクラは少し冷たい感じだった。
それが生ぬるい感じになっている。
温かいのか冷たいのか分からない」
香燐の言葉に、今の自分を表す最もな状態だとサスケは思う。
温かいのか冷たいのか分からない。
復讐も中途半端に諦めきれず、兄の意志を継ごうと変わり始めている心。
きっと、どちらも自分の中に存在している。
「そうだな……。
簡単に言えば、自分のためのことを考え出したら、復讐は後回しでもよくなった。
そして、今の考えの纏まっていないオレの行動に香燐達が付き合う必要もない。
だから、小隊を解散する」
ようやく話の流れが分かり始め、水月が溜息を吐く。
「それならそれでいいさ。
でもさ。
ボクらは少なからず命を懸けて戦ったんだ。
労いの言葉の一つでも掛けて貰いたいね」
「そうかもしれないな……。
すまなかった……。
ありがとう……」
「……妙に素直で気味悪いな」
(コイツは……。
じゃあ、オレは、どういう行動を取ればいいんだ!)
サスケは不機嫌を内面で押さえ込むと黙り込む。
しかし、香燐が黙らせてはくれない。
「サスケ。
サスケは、これからどうするんだ?」
「……イタチの体を奪い返す」
「うちはマダラのところに行くのか?」
「ああ。
アイツは、オレ達との信用を得るために、不覚にもアジトの場所を教えている。
まず、そこでイタチの体を奪い返して、オレの手で弔う。
・
・
そこからオレは……オレ自身を始める。
・
・
そういう訳だから、お前達にこれ以上、オレに付き合う理由はない」
しかし、水月がニヤリと笑う。
「でも、今度はマダラとやり合うんだろ?」
「ああ」
「ボクも付き合うよ」
「ハァ!?
何でだ!?」
水月の言葉に反応したのは香燐だった。
「何で、香燐が怒鳴るんだよ?
それに当然じゃないか。
暁には、干柿鬼鮫が居るんだから、七人衆の持つ鮫肌を奪うにはいい機会だろ」
「ぐ……!」
香燐が少し押し黙ったあと、眼鏡をクイッとあげて怒鳴る。
「ウチも残る!
マダラのアジトに忘れ物をした!
だから、付き合ってやる!」
「本当に?」
「本当だ!
コノヤロー!」
鷹のメンバーを見て、ヤオ子は微笑む。
この雰囲気はナルトやサクラに通じるものがあったからだ。
何だかんだで、サスケの周りには似たような人物が集まる傾向にあるらしい。
「えへへ……。
じゃあ、人数が増えて戦力アップですか?」
「フォーマンセルじゃないから、もう小隊じゃないね」
「お前らな……」
結局、鷹は解散せずにヤオ子が一人加わったことになる。
今まで、黙っていた重吾が口を開く。
「どうするんだ? サスケ?」
「どうもこうもないだろう……。
勝手に決めちまいやがって……。
・
・
また改名するのか?」
「改名?」
ヤオ子が首を傾げると、香燐が補足してくれた。
「ウチらは、最初『蛇』と名乗っていた。
それから『鷹』に変わったんだ」
「へ~。
何かを転機に名前を変えていたんですか。
動物を隊の名称にしていたんですね。
蛇から鷹か……。
・
・
うん、強くなっている気がします」
「何も思い付かないな」
「無理に変えなくてもいいんじゃないの?」
「あたし、ピッタリの思い付きましたよ」
全員の視線がヤオ子に集まる。
「動物の名前を隊に組み込み、昇格させる意味を持たせるんですよね。
あたしを組み込んだことで進化させた隊の名前……。
・
・
小隊・女豹!」
鷹のメンバー全員が吹いた。
「「「「却下!」」」」
「何で?」
「動物ですらねーだろうが!」
「女豹なんて弱くなってんじゃないか!」
「ウチはいいと思うが、サスケにそれを名乗らせられない!」
「コイツは馬鹿なのか……」
ヤオ子は溜息を吐くと呟いた。
「センスの欠片もない人達です」
「「「「お前だ!」」」」
こうしてイタチの体を奪還するまで、小隊・鷹での行動は続くことになった。
ヤオ子という大いなる不安要素を加えて……。