== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
ヤオ子が落ち着くまで、サスケは待っていてくれた。
随分と大きくなったヤオ子だが、サスケは昔と変わらない感覚があった。
「落ち着いたか?」
「はい……」
「なら、少し一人にしてくれ……」
「……どうして?」
「兄さんの計画を自分なりに考えたい」
「……分かりました。
適当な時間になったら来ます」
ヤオ子は、ゆっくりとサスケから離れる。
そして、サスケを残すとタスケの待つ小高い丘を目指した。
第95話 ヤオ子とサスケの新たな目的
この島でも、タスケの役目は変わっていない。
何かあれば、逆口寄せでサスケからヤオ子を引き剥がす。
そのため、島を見渡せる見晴らしのいい丘で様子を見ていた。
タスケはヤオ子の様子を見て軽く笑うと、何て言ってやろうかと考え出す。
そして、暫くするとヤオ子の姿が見えた。
早速、悪態をついて皮肉をかまそうとした時、ヤオ子がタスケを抱きしめた。
「なぬ!?」
「タスケさん!
何とかなるかもしれない!」
ヤオ子は思いっきりタスケを抱きしめる。
「タスケさんの言った通りでした!
自分の気持ちを伝えてよかったです!」
タスケはタップしている。
「タスケさん!
ありがとう!」
タスケは、ヤオ子の胸で圧死寸前だった。
最後の力で、ヤオ子にグーを炸裂させる。
「殺す気か!?」
「痛いな~」
解放されたタスケは、大きく深呼吸した。
そして、いつもの笑顔をしているヤオ子に溜息を吐く。
「皮肉の一つも言えないよな」
「ん?」
「お前の笑顔ってさ。
本当に嬉しそうだからさ」
「えへへ……。
嬉しいですね」
「まったく……。
・
・
どんな感じだ?」
「今、一人で考えたいって」
「そうか……。
でも、復讐を諦めきれないらしいな」
「はい……。
でも、仕方ないです」
「お前、復讐を肯定するのか?」
ヤオ子は首を振る。
「そうじゃないんです。
お兄さんの計画にサスケさんが復讐することが組み込まれていたんです。
変な言い方ですけど、サスケさんがお兄さんに復讐しないとお兄さんの気持ちに報いることが出来なかったんです」
「まあ、確かにそういう事情だが……」
ヤオ子は首を傾げる。
「タスケさん。
あたし達の会話……聞こえてたの?」
「まあな。
オレは、お前達より聴覚が発達しているからな」
「そうなんだ」
「ああ。
・
・
話を戻すぞ?」
「はい」
「お前、復讐を肯定しないと言っておきながら、仕方ないって変じゃないか?
理由も言ってるのに?」
ヤオ子は腕を組んで頭を傾ける。
「う~ん……。
そうですねぇ。
・
・
でも、お兄さんの計画は、自分が殺されるところで復讐は終わるはずなんです。
それでも復讐が終わらないのは、別要因のせいでしょ?
だから、これ以上の復讐は止めて欲しいんです」
「そうか……」
「まあ、仕返しはありですけどね」
「ん? また変なことを言ったな?」
「だって~。
どう考えても、マダラさんとホムラさん達はやり過ぎ!
サスケさんに土下座して、
靴の裏を舐めるぐらいのことはしてもいいんじゃないの?」
「靴の裏って……。
お前、陰険だな?」
「そう?
今のは、あたしの考えた仕返しの中でも軽い方ですよ?」
「お前が本気になるとどうなるんだよ?」
「そうですねぇ……。
例をあげるなら……。
弟をいじめたいじめっ子の父親の会社が、
次の日、ありもしない調書のせいで、役所から業務停止命令を出されて潰れるぐらいです」
「お前、何をしやがった!」
「ただの偽造文書作成ですよ。
それを二、三枚紛れさせただけです。
木ノ葉じゃ幅広く任務してますからね。
それぐらい簡単です」
ヤオ子は軽く笑い飛ばしているが、タスケは本気で項垂れている。
「笑いごとじゃないんじゃないか……。
木ノ葉は、こんな危ない奴を使って大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃない?
もう、木ノ葉は、里が潰れて証拠もないし」
「お前の証拠隠滅のことなんか気にしてねーよ……」
「そう?」
「もういい……。
段々、お前が恐くなって来た……」
ヤオ子とタスケの会話は、いつも通りの調子になっていた。
…
一方のサスケは、一人で苦しんでいた。
長い間、復讐に囚われていたツケ……。
サスケは、未来を考えることが出来なくなっていた。
復讐したい相手は直ぐに頭に浮かぶのに、自分のしたいことが分からない。
「何故だ……」
復讐が本気であればあるほど、全てを懸ける。
己の復讐をするために未来を捨てた。
その先のことを考えずに、がむしゃらに力を求めた。
その全てが成就されれば、そのために鍛え上げた時間も力も必要がなくなる。
「だから……。
復讐を止めれなかったのか……。
・
・
オレは復讐を果たしたら、何もなくなる……。
なくなるのが嫌で復讐を止めれない……。
そして、この道に逃げ込むのは簡単だったんだ……」
サスケは俯く。
「未来を考える……。
兄さんが残した未来……。
・
・
このままじゃ、何も出来ない……。
兄さんの計画は受け継げない……。
・
・
オレは、どうすればいい……」
闇の中で生きて来たサスケは、人として大事なものを欠落させていた。
…
一方のヤオ子は、サスケを待つだけの身。
特にやることもない。
とりあえず、半乾きの服を火の近くに置いて乾かしていた。
火を熾すことで煙があがるので、サスケも考えが纏まればここに来るはずだ。
「サスケさんの未来か……。
あたしの未来も考えないといけないですよね」
「お前も目先のことに囚われて動いた口だからな」
「はい。
サスケさんを追って、ここまで来ちゃいました。
・
・
でも、そんなに気にしなくていいのかも」
「何でだ?」
「あたしは、大きな未来よりも身近な手の届く未来があればいいから」
「ふ~ん。
じゃあ、今の目標は?」
「今は、中忍になりたいんです」
タスケが軽く笑う。
「そういう強みがあるんだよな。
そうやって、直ぐに答えが返って来るんだよ」
「褒めてるの?」
「ああ。
お前の長所だと思うぞ」
「えへへ……。
ありがとう」
タスケが空を見る。
午前中にサスケとヤオ子の接触。
午後に話し合い。
そして、サスケが一人になって数時間。
まだ日は随分と高いが、もう少しすれば傾き出す。
「遅くないか?」
「サスケさん?」
「ああ」
「そう言えば、遅いですね。
・
・
仕方ない。
迎えに行ってあげますか」
ヤオ子が腰を上げると振り返る。
「タスケさんも来ますか?」
「いや、ここから見ている。
まだ何があるか分からない」
「タスケさんが見守ってくれているから、安心して無理できますね」
「出来れば、安心して見守れる行動を心掛けて欲しいものだな」
「本当ですねぇ」
(お前のことだ……。
分かってんのか?)
タスケが溜息を吐く頃、ヤオ子はスキップしながら遠くにいた。
…
ヤオ子は、空を見て辺りを見る。
まだ太陽が輝いているのに暗い……。
目の前に闇がある。
「あ、あの……。
サスケさん……?」
「ヤオ子か……」
「ど、どうしたの?」
「……何も…何も思いつかない」
「はい?」
「やりたいことが…思いつかない……」
「な、何で?」
「分からない……。
・
・
殺してやりたい奴の殺し方なら、直ぐに頭に浮かぶのに……」
(危ないですね……。
そんなこと、直ぐに思いつかないでくださいよ……)
「オレは…何をすればいい……」
ヤオ子は、サスケの横にちょこんと座った。
「ず~っと悩んでいたんですか?」
サスケは無言で頷いた。
「考えませんよね。
復讐中に……。
でも、今は考えないといけないですもんね。
イタチさんの最後の試練かもしれませんね」
サスケは額に手を当てる。
「何て試練だ……」
「でも……」
サスケがヤオ子に顔を向ける。
「将来を考えるって、誰でも難しいんですよ……」
「……そうかもしれないな」
「例えば、忍者になりたいって夢が叶ったら、次の夢を探さないといけない……。
終わりがないんですよ」
サスケが視線を戻す。
「だが、オレは直ぐ先の未来も考えられない……」
ヤオ子は『肩肘を張ることじゃない』リラックスして考えることだと思うと、足を投げ出す。
(だって、未来に起こる楽しいことを考えるんだから)
ヤオ子は、サスケの大事な親友の名前を出す。
「ナルトさんは凄いですよね」
「ナルト?」
「だって、ちゃんと昔から目標を持っている。
そして、今でも真っ直ぐに夢に向かっている」
「……ナルトの夢」
サスケの脳裏に、第七班での自己紹介に語っていたナルトの姿が蘇る。
「もう、笑えないな……。
アイツは夢を忘れてない……」
「サスケさんは?」
「復讐が全てだった……」
「違いますよ。
あたしにも言ってたでしょ?」
「オレが……?」
「はい。
・
・
あたしと子作りしようって♪」
サスケが吹いた。
そして、空かさずグーを炸裂させた。
「言ってねー!」
「いや、一族を再興するって、吼ざいてたじゃないですか」
「誰が吼ざいてた!」
「そのためには……。
あたしと沢山エロいことして~♪
子供を沢山作らないと♪」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。
「アホか!」
「え~!
サスケさん公認でエロいこと出来るのに~!」
「お前は、何を考えているんだ!」
「嫌ですね~。
あたしの頭の中なんて、年がら年中、お花畑に決まっているじゃないですか♪」
「自分で言うな……」
「安心してください。
サスケさんのために処女は取ってあります」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。
「どんな気遣いだ!
そもそも、何で、お前と子作りするするのが前提になっているんだ!」
「嫌なの?」
「お前の遺伝子は、後世に残しちゃいけない類のものだろうが!」
「あたしに一生処女で居ろと?」
「そうしろ!」
「ヤダ。
サスケさんとエロいことするんです!
サスケさんもあたしと初エッチすることを将来の目標にしましょう!」
「どんな将来だ!
このウスラトンカチ!
アホか!?
アホなのか!?」
「至って正常です。
変態としては」
「異常じゃねーか!」
「あたし体には自信があるんです!
エロいことしましょう!」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。
「何の自慢だ!」
「妄想して、頭に蓄積してあるテクニックも凄いですよ?」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。
「もっと、普通の将来を考えられんのか!」
「じゃあ、普通の将来って?」
「それは……」
サスケが言い淀む。
だけど、何かに気付く。
「普通に……暮らせていればいいんだ。
木ノ葉に居た時はこうだった……。
コイツが、次の日にどんな馬鹿をするかなんて分からなかった……。
・
・
兄さんと一緒に居た時の思い出……。
確かに特別だけど……。
普通の日常だった……」
「あたしが居たのも、普通の日常の1ページですよ」
「ヤオ子……」
「ナルトさんみたいにはなれないですよ。
サスケさんだけじゃない。
あたしも……」
「オレは……」
ヤオ子は静かに待っている。
「兄さんの意志を継ぎたい……。
あの頃の日常が欲しい……」
ヤオ子は微笑む。
「力は?」
「兄さんが認めてくれた……。
もう、要らない……。
・
・
でも、うちはの力を高めなければいけない。
兄さんが命と引き換えにくれた力だ……。
使いこなさなければ……」
「新しい目標ですね」
サスケが、ハッとしてヤオ子を見る。
またヤオ子に乗せられた。
「コツ……掴めました?」
「ああ」
サスケの返事は、少し力強かった。
「ヤオ子……気が晴れたら、やりたいことが出来た」
「お付き合いしますよ」
サスケの目に力が篭もる。
そして、口から出たことは、復讐を優先して先送りにしてしまった大事なこと……。
「兄さんの体をマダラから取り戻す!」
ヤオ子も力強く頷いた。