== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
大蛇丸の北アジト……。
今、ここには新たな支配者が居る。
悪魔の術で混沌に陥れ、下僕達の鼻血で血の湖を作った張本人。
少女の前に異形の者達は、綺麗な整列をして話を聞いていた。
「我々は、一人の英雄を失った……。
しかし、これは敗北を意味するのか?
否! 始まりなのだ!
突っ込みに比べ、我がボケの数は1/30以下である。
にもかかわらず、今日まで戦い抜いてこられたのは、何故か?
諸君! 我らボケが正義だからだ!
これは諸君らが一番知っている……」
『知らねーよ』
「我々は突っ込みを追われ、ボケにさせられた。
そして、一握りの木ノ葉の突っ込みが支配して五十余年……。
我々が自由を要求して、何度踏みにじられたか……」
『何の自由だよ……』
「ボケの掲げる人類一人一人の自由のための戦いを笑いの神が見捨てるはずはない……。
私の術……諸君らが愛してくれた『おいろけ・走馬灯の術』は禁術に指定された。
何故だ!? 」
『当然の成り行きだな』
「新しい時代の覇権を、選ばれたボケが得るは歴史の必然である。
ならば、我らは襟を正し、この戦局を打開しなければならぬ。
我々は過酷なボケ不足を生活の場としながらも、
共に苦悩し、錬磨して今日の文化を築き上げて来た。
かつて、笑いの神は、人類の革新はボケである我々から始まると言った」
『まあ、ボケないと突っ込めないからな』
「しかしながら、木ノ葉のドS共は、
自分たちがボケの支配権を有すると増長し、我々に抗戦する。
諸君のボケも! ナイスパスも! そのドSの無思慮な抵抗の前に死んでいったのだ!
この悲しみも怒りも忘れてはならない!
それをあたしは、数多のグーをもって示した!」
『示したのかよ……』
「我々は、今、この怒りを結集し、
突っ込みに叩きつけて初めて真の勝利を得ることが出来る。
この勝利こそ、寒い結果へと導かれた全ての者への最大の慰めとなる。
立て! 悲しみを怒りに変えて! 立てよ! ボケよ!
我らボケこそ選ばれた笑いの申し子であることを忘れないで欲しいのだ!
優良種である我らこそ!
人類を救い得るのである! イッチャイチャ~!」
『この娘は、大丈夫なのか?』
大丈夫じゃない。
第92話 ヤオ子のサスケの足跡調査・状況整理
ヤオ子は満足顔で演説を終えた。
「と、これがあたしの木ノ葉のポジションです」
『『『『『さっぱり分からん……』』』』』
「そうですか?
省略し過ぎましたかね?」
「いや、元ネタが分かってねーんだよ……」
「さすがタスケさん。
的確なアドバイスです」
「やっと、分かったか」
「つまり、元ネタのギレンの話を教え込めばいいんですね」
「違うわ!
もう止めろって言ってんだ!
お前の妄想を実行するな!」
「え~。
折角、この島で一番強い存在になったのに~」
「お前、最悪の支配者だ」
「まあ、いいです。
・
・
それでは。
皆さん、お元気で」
異形の者達はポカーンとしている。
それもそのはずだ。
実は、別れの挨拶だった。
…
北アジトに来たヤオ子は暴走していた。
それは激しく……。
元々、異形の形に興味が津々だった。
好きか嫌いかで言えば好きに分類される。
そして、打ち解けてからは情報交換をしながら、話し笑い合っていた。
異形の者達も久々の珍客に何処か和んでいた。
ヤオ子の情報の引き出しにも協力したし、久々の温かい料理が嬉しかった。
──だが、それが悪かった。
ヤオ子が調子に乗った。
イチャイチャの話から、木ノ葉での都市伝説の数々……。
そして、最後の演説に繋がる。
ただ、それでも嵐のように暴走して去っていった少女に好感が残ったのは確かだった。
…
ヤオ子は水面歩行で北アジトの島を後にして、迷うことなく歩いていた。
タスケは、それがどうも腑に落ちない。
「なぁ。
何処に向かっているんだ?」
「ああ……。
サスケさんのところ」
「へ~。
・
・
何っ!?
何でだ!?」
「色々と情報を貰ったけど、分からないことだらけなんですよ。
直接、聞かないと分かりません」
「分からない……確かにな」
「少し長くなりますが、状況を整理しましょうか?」
「ああ、頼む」
「振り返りたいのは、大きく分けて三つ。
『サスケさん』『イタチさん』『うちは一族』です。
・
・
まず、サスケさんのことから振り返ります。
木ノ葉を離れて大蛇丸さんに行ったところからです。
予測も含まれますが、説明なので断言してしまいます。
気になっても無視してください」
タスケは無言で頷く。
「北アジトで手に入れた情報では、サスケさんの根本は変わっていません。
基本、無口でクール。
修行に明け暮れる毎日。
無益な殺しをしない。
目的のためにのみ、力をつけていた感じです。
あたしは、木ノ葉に居た時と変わっていないと思います。
抹殺命令を出されるようなことはしていません。
・
・
そして、無益な殺しをしないのは、
うちは一族を皆殺しにしたお兄さんと同じ行動を取るのを無意識に嫌っているからだと思います。
だから、お兄さんと同じような行動を取るようなことはしなかったんだと思います。
今のは少しこじ付けもありますが、
あたしの知っているサスケさんは、理由もなく人を殺すようなことはしません。
まあ、ドS行為を実行する時は、容赦ない人でしたが……。
兎に角、サスケさんが命を奪う時には、理由が必要と感じました。
・
・
次にサスケさんの転機……大蛇丸さんの殺害です。
自分の体を狙う大蛇丸さんを返り討ちにしています。
あたしは、自分の体を奪われないようにするという理由での殺害と考えます。
が……。
ドSのサスケさんのことだから、とことん利用してポイした気もします。
あたしが写輪眼の実験台にされたのがいい例です。
人の許可なく、とことん利用します。
その後、中忍試験本戦の時にポイされました。
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・
そして、大蛇丸さんを殺害した後がサスケさんの復讐の始まりでもあります。
小隊を結成して、仇であるお兄さんを追っています。
北アジトの方の情報でメンバーも分かりました。
鬼灯 水月さん。
大刀を所持していたとのこと。
また、大蛇丸さんに捕まっていたとか。
霧隠れの出身らしいので、水遁系の忍者かもしれないとも聞いています。
香燐さん。
女の人だという事意外、よく分かりません。
重吾さん。
異形の人達のオリジナルみたいです。
戦闘方法は、少し戦ったから分かります。
ただ、精神的に不安定とのこと。
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・
少し予想します。
水月さんと重吾さんは、単純に戦力アップと考えられます。
しかし、問題は香燐さんです。
能力が不明です。
でも、大方の予想は出来ます。
サスケさんが、お兄さんを追うために必要な能力──感知能力です。
キバさんの嗅覚やヒナタさんの白眼のようなものがないと追えません。
多分、香燐さんは、そういう役目です。
眼鏡をしてたという話もありますから、瞳力ではないでしょう。
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・
そして、この小隊で、サスケさんはお兄さんを倒して復讐を果たしています。
ただ、ここからがおかしいんです。
復讐を果たしたのに、木ノ葉に戻って来ません。
それどころか、暁に入って余所の里で暴れています。
人も何人か殺しているとか……。
ヤマト先生の話では、うちはマダラという人との接触のせいらしいです。
一体、何があったのか?
サスケさんには、直接、ここを聞きたいんです。
以上が、サスケさんについてです」
タスケが頷く。
「なるほどな……。
確かに復讐を果たした後が、変だ。
復讐を果たす前までは、それなりの信念や工程がある。
力をつけたり、小隊を組んだりな。
だけど、その後の行動がお粗末だ。
嫌っていた兄の居た組織に入るというのもおかしい」
「はい。
サスケさんの心の中で何かが変わったんだと思います。
心を変えるほどの何か……。
考えられるのは『イタチさん』『うちは一族』です。
・
・
別の真実があったんじゃないでしょうか?」
「どういうことだ?」
タスケの聞き返しに、ヤオ子は質問で返す。
「タスケさん。
もう話してくれますよね?
タスケさんと初めて会った峠の茶店。
あそこであたしと話したのが……うちはイタチさんですよね?」
タスケは茶化すのをなしに、ヤオ子に訊ねる。
「……いつ気付いた?」
「里で暁の噂が広がって、暁の外套の特徴を知ってからです。
タスケさんは任務だから依頼主のことは言えない。
でも、依頼主は……もう居ません」
ヤオ子の付け足しに、タスケは大きく息を吐いた。
「ああ……正解だ。
アイツが、うちはイタチだ」
「やっぱり……。
・
・
でも──いや、だから納得できる」
「?」
「お兄さんって……悪い人のように思えなかったんです。
茶店で会った人がイタチさんかもって思ってから変だったんです。
サスケさんの復讐する人が、サスケさんのことを聞いた……。
一族を殺した人が木ノ葉を気に掛けた……。
少しだけ見せた笑顔がサスケさんに似ていた……。
・
・
本当にイタチさんが、うちは一族を滅ぼしたんですか?
本当は復讐する相手が別にいて、うちは一族を滅ぼしたんじゃないんですか?
だから……サスケさんは、木ノ葉に戻って来れない。
お兄さんを殺してしまった後に、マダラさんに真実を聞いたから……」
タスケは顔を背ける。
「さあな……。
詳しくは、分からん。
だけど、お前の『勘』も大事だと思うぞ」
「『勘』が大事?」
「ああ。
人間は、話す相手によって感情を変える。
油断したり、警戒したり、心を開いたり、閉じたり……。
・
・
イタチからすれば、お前以外──例えば、木ノ葉の要人には警戒する必要があるだろう。
しかし、お前はイタチからすれば枠の外の下忍。
しかも、子供だ。
油断もあっただろうし、他の人間に比べて気も抜いていただろう。
だから、お前が感じ取った感覚に真実が含まれていてもおかしくない。
・
・
それに、お前の会話は意表を突く」
「どういうこと?」
「予想と違う答えが返って来るんだよ。
波があるんだ。
真剣な話しかと思えば脱力させられ、真面目な話しかと思えば笑い話だ。
それ以外にも、根本から予想外で始まる話もある。
だから、隙が出来る。
オレから見ても、イタチの顔は予想外な回答に感情が出ていた」
ヤオ子は複雑な顔で頬を掻く。
「貶してるの? 褒めてるの?」
「両方だ。
お前の会話だからこそ、イタチは油断したはずだ。
その会話の中で、お前が感じた感情があるなら、全部が間違いだとは言い切れない」
「そうなんですかね?」
「オレの経験談からすればな」
「……少し説得力が出た。
・
・
そうなるとお兄さんの真実が欲しいですね。
でも、全然情報が入らないんです」
「当然だな。
イタチに接触した人数が少な過ぎる。
サスケの場合、大蛇丸のところで修行をしていたから、手合わせした実験体達から情報を得られる。
しかし、イタチは単独行動の上、暁という組織は少数精鋭で構成されていて情報が出難い。
・
・
だから、茶店で会話をしてイタチの印象を持っているというのは、情報としては、結構、大きいんだ。
だが、それでも情報不足は否めない」
ヤオ子が顔を顰める。
「う~ん……。
お兄さんの情報は、出て来そうにありませんね……」
「じゃあ……サスケに聞いてみたら、どうだ?」
「え?」
「兄弟なんだろう?」
「はい」
「丁度、いいじゃないか。
もう、会うって決めちまって、他にも質問することもあるんだろ」
「はい……」
「それにお前……イヤなんだろ?」
「何が?」
「サスケの行動もイタチの行動もだよ」
ヤオ子は言われて気付く。
「……うん。
サスケさんが悪いことするのもイヤだし、お兄さんも悪いことしたとも思いたくない。
出来れば、真実が間違っていて欲しいって思ってます。
・
・
そして、出来れば納得のいく形で、これでもかってぐらいのハッピーエンドが欲しいです」
「それは欲張り過ぎだろ……。
もう、結構、ドロドロした方向に傾いてんだから……」
「じゃあ、納得する答えだけでも」
「だな。
・
・
でも、これ以上の情報を得るのは難しいぞ。
さっきも言ったように、真実を知っている人間が少な過ぎる」
「ええ。
でも、あたしの中には情報がない。
真実がない。
予想しかない。
・
・
それでも知りたいなら……サスケさんに会うしかない。
……シズネさんとした危ないことしないって約束は、どうしよう?」
「危なくないように接触するしかないな」
「危なくないように?
でも、今のサスケさんは、狂犬のように危険です」
「そうだな……。
・
・
ヤオ子、こうしよう。
もし、お前が安全に接触出来る方法を考えられたら実行する。
考えられなければ諦めろ……。
木ノ葉に大人しく戻るんだ」
「タスケさん……」
「一応、保護者だからな。
これが最低限の条件だ」
今の状態でも情報としては、かなり重要なものが揃っている。
この情報を持って木の葉に帰り、改めてサスケの別情報を探るのもありだと考える。
(でも、サスケさんの位置は、それほど離れているわけでもない……。
それに抹殺命令が出たことを伝えないといけない……。
そのためには──)
ヤオ子は目を閉じて頷く。
「分かりました。
サスケさんと安全に接触する方法を考えます」
「期限は、サスケと接触するまでだ」
「はい。
じゃあ、行きましょう」
「ああ……。
・
・
って、何処に向かうんだ?」
「あっち」
ヤオ子が行き先を指差す。
「何で、あっちなんだ?」
「あたし、サスケさんの居るところは、歩いて一~二日ぐらいなら分かります」
「お前、感知タイプの忍だったのか?」
「いいえ……。
・
・
四年前に刻まれたトラウマで、サスケさんのドSパワーだけ感知できるんです」
タスケがこけた。
「何だ! それは!?」
「あたしの悲しい過去の遺産ですよ……。
正直、あたしだって、こんな能力いらないですよ。
サスケさんしか感知できないって意味分かんないし」
「本当にどうしようもない奴だな……」
「まあ、いいです。
今は役に立つんだから。
・
・
接触は、明日です!」
「じゃあ、移動しながら答えを出せ」
「はい!」
ヤオ子は目的地をサスケにして走り出した。