== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
珍しくサスケがヤオ子に罪悪感を感じている。
しかし、当のヤオ子は、本当にノーダメージであった。
「たまには、いいですよね。
一緒にご飯食べるのも」
「ああ。
今の時間なら、先に一楽へ向かったナルトも帰っている頃だろう」
「会いたくないんですか?」
「絶対にな」
「あたしは、師匠にまだ挨拶を済ませていませんね」
(そのナルトとの師弟関係は解消できないのか……)
サスケは溜息を吐く。
「そんなことより、
今日は好きなものを食べていいぞ」
「嬉しいんですけど、一杯でいいですよ」
「?」
「あまり胃が大きくなると、
我が家の食事事情の関係で暫く辛い日々が続くので……」
「…………」
サスケは、少しヤオ子に優しくしようと思うのであった。
第9話 ヤオ子とサスケとサクラと
一楽に着いて暖簾を潜ると、客は誰も居なかった。
サスケ、ヤオ子と奥の方から席を詰める。
「塩ラーメン」
「ラーメンをお願いします」
『あいよ!』と気合いの入った掛け声が返って来る。
二人は静かに頼んだものが来るのを待ち、直にヤオ子とサスケの前にラーメンと塩ラーメンが置かれる。
それぞれ一啜りすると、ヤオ子がサスケに話し掛ける。
「本当に美味しいですよね。
一楽のラーメンは」
「ああ、そうだな」
「食べてる時も物静かですね?」
「まあな」
「素っ気ない……」
ヤオ子とサスケが半分ほど食べ終った頃、突然、後ろから声が聞こえる。
「キャー! サスケ君!
今、ご飯なの!?」
(誰ですかね?)
ヤオ子は、サスケの後ろで声をあげている赤を基調とした服を着ている桃色の髪の女の子を見る。
一方のサスケは面倒臭そうな顔をしている。
(知り合いのようだから、気を利かせますか……)
ヤオ子はラーメンを隣の席に移動し、布巾で自分の居たテーブルを拭く。
「どうぞ」
「ありがとう」
女の子は、堂々とヤオ子の居た席に座った。
(いい性格してますね。
躊躇わずに座るとは)
「おじさん!
私にも、ラーメンお願い」
さっきと同じ様に『あいよ!』と気合いの入った掛け声が返って来る。
サスケが女の子に声を掛ける。
「何しに来たんだ?」
「何しにって、ここはラーメンを食べるところでしょ?」
サスケが溜息を吐く。
「オイ、ヤオ子。
さっさと食べろ」
「え~!
もう、行っちゃうの!?」
(相変わらずのドS体質ですね。
何かこの女の人が可哀そうです)
その後も女の子は、何とかサスケと話をしようとするが失敗する。
そして、話題がなくなり掛けた女の子は、ヤオ子に話し掛けてきた。
「私は、春野サクラっていうの。
あなたは?」
(ついに子供をダシに使いますか。
仕方ない……あたしも女です。
一肌脱ぎましょう)
ヤオ子がグーッとどんぶりのスープを全て飲み干すと挨拶をする。
「はじめまして。
八百屋のヤオです」
「ヤオ? ヤオ子?」
サスケの呼んでいた名前と自己紹介の名前が違う。
サクラの中で何かの葛藤が起きるが、その葛藤も直ぐに終わる。
「よろしくね。
ヤオ子ちゃん」
(サスケさんに靡きやがった……)
ヤオ子は心の中で舌打ちする。
「ヤオ子ちゃんは、サスケ君とどういう関係なの?」
(さて、どこから話したもんか……)
返答に時間の掛かる幼い外見のヤオ子を見て、難しい質問をしてしまったとサクラは気を利かせる。
「ごめんね。
簡単でいいから」
「そうですか?
では……」
ヤオ子が目を閉じて今までを思い返すと、ゆっくりと口を開いた。
「SとMです」
サスケとサクラが思いっきり吹く。
「何を言ってやがる!
このウスラトンカチ!」
(何なの……この子?)
(ふっ……。
甘いですね……サスケさん。
あたしが意味もなくサクラさんをあたし達の間に誘ったとでも思っているのですか?
サクラさんを間に入れたのは、あなたのグーを回避するためです)
ヤオ子が勝ち誇った目をしていると、サスケが爪楊枝を取り、ピッと飛ばす。
「はう!」
それは見事にヤオ子の眉間に刺さった。
「さすが、サスケさん。
あたしの用意した防御壁を軽がると飛び越えるとは」
眉間の爪楊枝を引き抜くと、ヤオ子は唾をつける。
「タフな子ね……」
「馬鹿なだけだ!」
「ところで。
サスケさんもサクラさんもあたしの言葉で吹いたということは、
変態チックな意味で捉えたんですか?」
「ヤオ子ちゃん……。
SとMなんて言われたら、普通そう捉えるわよ」
「お二人は本物の変態ですね。
サドとマゾとは……」
サクラの額に青筋が浮かぶ。
サスケは、更に爪楊枝を掴むとラー油をつけてピッと飛ばす。
「ギャー!
ワンホールショットした!
今度のはひりひりする!?」
眉間の爪楊枝を引き抜くと、ヤオ子は唾をつける。
「サスケさんの無駄に高いスキルがムカつきます!」
「お前は、もう黙れ! 行くぞ!」
「ちょっと! サスケ君!」
(っと……。
このままじゃ、サクラさんが可哀そうですね)
ヤオ子が一楽の主人に目で合図を送ると、一楽の主人は直ぐに理解した。
「お嬢ちゃん! 奢りだ!」
ヤオ子のどんぶりに替え玉が入れられる。
「…………」
(おじさん……。
ナイスフォローだけど、スープ入ってない……)
そして、その意図に気付いたサクラも乗っかる。
「おじさん!
ヤオ子ちゃんにお替わり入れてあげて!
私の奢り!」
「よし来た!」
ヤオ子のどんぶりに替え玉が、もう一個追加された。
(……これは、何て言うイジメなんだろう?)
「ほら! サスケ君!
ヤオ子ちゃん、まだ食べ終わってないから!」
「チッ!」
サスケが席に座り直す。
(あたしは、この替え玉だけのラーメンを
どうやって処理すればいいんだ?)
「ねぇ、ヤオ子ちゃん」
「え? あ、はい」
「さっきのSとMを教えて」
「あ~……はい。
いいですよ。
じゃあ、ヒントをあげます。
サスケさんも考えてくださいね」
「何で、オレまで……」
「Sがあたしで。
Mがサスケさんなんです。
こうなるとサドとマゾの関係が成り立たないでしょ?」
周囲の人間がヤオ子とサスケのSとMの関係など知るわけがない。
しかし、サスケとサクラ、そして一楽の主人は考え始めた。
その間に、ヤオ子はラーメンに噛り付く。
(さすがに麺だけはキツイですね。
素材に拘っている一楽の麺ですから、不味くはないんですが……)
ヤオ子が麺だけのラーメンと格闘して数分。
皆がギブアップする。
「ヤオ子ちゃん、分かんないわ」
「オレもだ」
一楽の主人も口には出さないが、興味津々で聞き耳を立てている。
何とか替え玉一個分を処理したヤオ子が一息つく。
「仕方ないですね。
じゃあ、教えます。
マスター(主人)とスレーブ(奴隷)です」
再び、サスケとサクラが吹く。
一楽の主人は、気合いで堪えた。
「この馬鹿ーっ!
同じ意味じゃない!」
サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。
ヤオ子は後方に海老反ったまま頭を押さえる。
(しまった……。
サクラさんはツッコミ側の人間でしたか。
サスケさんに色ボケしてたんで、てっきり……)
「サスケ君!
何なの!? この子!?」
「他人だ……」
「サスケさん……あんまりです。
サスケさんとあたしは、完全なMとSじゃないですか?」
「ヤオ子……。
それ以上、しゃべるな!」
「嫌です!
しゃべります!
サスケさんのドSっぷりをハードに例えるなら、
ファイフォのライトオンリーです!」
「また、訳の分からないことを……」
「私も言ってる意味が、さっぱり分からない……」
「メモリ転送しか出来ないのにファイフォのライトオンリー!
メモリにライトオンリーの割り込みクリアのレジスタでも実装しているのかって感じです!」
サスケが指でGOサインを出す。
「サクラ!
ここからじゃ届かない!
代わりに殴れ!」
「分かったわ! サスケ君!」
サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「何!? 今の共同作業は!?
サクラさん!
あなた、初対面の人間にグーを入れるなんて!」
「あなたは例外よ!」
ギャアギャアと一楽の店から聞こえた奇声は暫くして沈静化した。
…
ヤオ子は、何故か一楽の椅子の上でサスケとサクラにより正座させられていた。
ヤオ子は、大人しく麺に噛り付く。
「このウスラトンカチが……」
「まったく……」
サスケとサクラが軽蔑の目でヤオ子を見る。
「さっきのあれは、何なんだ?」
「ハードのことですか?」
「ハードって、何なの?」
「ハードウェアのことですよ」
「…………」
サクラは眉間に皺を寄せたまま質問する。
「ヤオ子ちゃん、いくつ?」
「八歳ですけど?」
「お前、ハードウェアって……。
オレでも良く分からない分野だぞ」
「話すと長いから掻い摘みますけどね。
うちテレビがないんです」
「何で?」
「ヤオ子の家は、貧乏なんだ」
(そういう設定の子なの?)
「で……。
テレビを作ろうと思い立ったわけです」
サスケとサクラが吹く。
「馬鹿か!」
「まあ、サスケ君。
まだ子供なんだし……」
「それで……。
どうせなら最新の地デジの液晶を作ろうと思って。
LSIのRTL設計に繋がるわけです」
「いや、繋がらないだろ……」
「とりあえず、Verilog-HDL言語を覚えて仕様書作成して、
ノートに鉛筆でRTL記述を始めたんですけど……。
途中で検証ツールのライセンス料とかが馬鹿にならないことが発覚しまして」
「もっと別に気付く要素があったんじゃないの?
部品とか専用の機械とか」
「そこは落ちているものをくっ付ければ何とかなるかと」
「ならないわよ……」
「まあ、そこで断念したわけです。
さっき言ったのは、その時のハードの知識とサスケさんのハードSを掛けたんです」
「誰に伝わるんだ?
その無駄な知識……。
・
・
あとハードSって、何だ?」
「八歳児の考えることじゃないわね……」
「理解していただけましたか?」
サスケとサクラが首を振る。
「馬鹿だ馬鹿だと思ってたが……。
ここまでとは……」
「八歳でテレビ作ろうって、発想は凄いと思うけど……。
本格的にLSIとか言われると引くわね」
「もしかしたら、あたしが就職した会社で、
メイド・イン・ヤオの無線を皆さんが使うかもしれませんよ?」
「「使いたくない……」」
「…………」
ヤオ子がやれやれと手を上げて麺に噛り付く。
傍から見るとサスケとサクラが無理やり、麺だけを食べさせているように見える。
やがて、ヤオ子は麺を食べ終えた。
「行きますか?」
「ああ。
・
・
ヤオ子……。
お前は、オレから離れて歩け」
「そんな邪険にしないでくださいよ」
サクラは、一楽を去る奇妙な二人連れを見送る。
「何だかんだで、サスケ君といっぱいお話出来たからいっか」
そして、サクラの前にラーメンが置かれる。
サクラは割り箸を割る。
「サスケ君も、あんなにしゃべるんだな。
あの子がサスケ君の心を開いたのかしら?
・
・
まさかね」
サクラはラーメンを啜る。
一悶着したせいか、お腹が空いていつもより美味しく感じる。
「おじさん!
とっても美味しい!」
一楽の主人は微笑む。
「あ!」
「どうしたの?」
「アイツら……代金払ってねェ!」
サクラは苦笑いを浮かべる。
そして、この時の代金はサクラが立て替え、後日、サスケがサクラに支払いを済ませることになった。