== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
森の中を影が通り過ぎる。
集団が木々を飛び移り、先頭の二人だけが会話をする。
いや、二人ではなく、一人と一匹だった。
忍猫のタスケがヤオ子に話し掛ける。
「ヤオ子。
何があったんだ?」
「何がって?」
「まず、髪の色」
「ああ、これ?
似合ってるでしょ?」
ヤオ子がポニーテールを掴んでタスケに見せる。
「全然、似合ってねーよ。
生え際が茶色で気持ち悪りーよ」
「似合ってるじゃないですか。
銀髪に近い、綺麗な白ですよ?」
「馬鹿じゃねーの?」
「…………」
ヤオ子は自分のポニーテールを見る。
「そんなに変かな?
・
・
でも、確かに生え際が茶色というのは……。
これが伸びていって半分白で半分茶色だと、どうなるんだろう?」
「想像したくもないな……」
「う~ん……。
死に掛けるほどチャクラを使い過ぎて白髪になったんですから、
精神エネルギーのエロパワーが不足しているのかもしれませんね。
どっかで補給して一気に髪の色を──」
「戻るか!」
「あはは……。
やっぱり?」
「当然だ!」
先頭の本体とタスケに続いて、影分身達が一列縦隊で続く。
天地橋に向け、一路修行しながらの移動は継続中である。
第86話 ヤオ子とタスケの口寄せ契約
続く影分身は三人。
火の性質変化、水の性質変化、土の性質変化とそれぞれ修行を分担している。
残り二体は、木ノ葉近くでチャクラ吸着の木登りと手裏剣術を修行していたりする。
そして、本体とタスケの会話が続く。
「お前、いつの間に強くなった?」
「強く? なってないよ。
タスケさんと最後に別れて二ヶ月ぐらいでしょ。
なるわけないですよ」
「そうか?
木々を飛び移る間隔が半端なく広がっているぞ?」
ヤオ子がタスケと飛び移っている木々の距離に目を移す。
確かに少し前の自分とは、一足飛びの移動距離が違う。
だが、使っている体力、チャクラ量に変化はない。
「体の使い方を理解したんですよ。
今ね。
何でも分かる感じなんです」
「何だ? それは?」
「今までやってた修行が、何のためなのか分かるんですよ。
理解して体を動かせるんです。
・
・
そうするとね。
パーツが揃うんですよ。
あそこまでの枝にどう体を動かせばいいか……とか」
ヤオ子が今までの移動間隔の二倍先にある枝を凝視し、自然な動きのように見える中で体に込める力と爆発させる力を寸分の狂いなく解放する。
タスケの横のヤオ子が一瞬で消えると、タスケの目には前方の枝に着地するヤオ子が見えた。
(大化けしたな……コイツ)
タスケが速度を上げてヤオ子に追いつき、質問を続ける。
「分かるのは体の使い方だけなのか?」
「いいえ。
チャクラの特性の理解も早くなりましたよ。
でも、これも厳密に言えば、体の使い方かな?」
タスケが後ろを見る。
後方では移動しながらの影分身による性質変化の修行が見える。
「この短い期間に二つも覚えたのか?」
「ええ。
あと、風遁と雷遁でコンプリートです」
タスケが吹いた。
「全部、覚える気なのか!?」
「要領は同じでしょ?
性質変化に大事なのはチャクラを変えるイメージです。
チャクラの性質を火に性質変化させるのに必要なイメージは自然界にありました。
水遁も土遁もね。
だったら、風遁も雷遁も同じじゃないですか?」
「理屈じゃそうだが……」
「あたし、得意なんですよ。
想像するのとか妄想するの」
「知ってるよ。
お前のチャクラの禍々しさは、精神力に得体の知れないものを混ぜているからだからな」
「便利ですよ~。
エロいことさえ考えればいいんだから」
「変態にしか扱えん。
・
・
でも、それって汚くないか?」
「汚い?」
「そうだ。
普通は、精神力が減るから精神的負担が掛かる。
しかし、お前の場合は精神負担が掛からん」
「でも、影分身を解いた時には、頭に情報の負荷が掛かりますよ」
「他は?」
「え?」
「他の場合は?」
ヤオ子が移動しながら腕を組み、今までの経験を思い出す。
「あまり疲れないかな?」
「卑怯じゃないか」
「じゃあ、変態になるのとチャクラを練る時に精神負担が掛かるのと、どっちがいい?」
「…………」
今度は、タスケが自分の変態になった姿を想像するために考える。
そして、やがて溜息を吐く。
「……リスクが大きい。
精神負担が掛かった方がマシだ」
ヤオ子はタスケを見て笑った。
そして、その時、後ろの影分身が次々に煙になった。
「いつもより早いですね」
「動きを加えているからだろう。
動きながらチャクラを練るのは集中力がいるからな」
「その差か……。
でも、いい感じです。
動きながらもチャクラを練り続けられました」
前方に視線を戻すと、再びタスケはヤオ子に話し掛ける。
「……なぁ、少し間違ってないか?」
「ん?」
「チャクラを練るのは術の発動と高速移動を用いる時だろう?
こんなに長い時間練り続ける状況ってあるか?」
「…………」
ヤオ子は顎に指を当てて考える。
そして、暫くして緩い笑顔を浮かべて答える。
「ない♪」
タスケがこけた。
「でも、やる♪」
「何でだよ……」
「戦い続ける間中、術を発動するんだ~♪」
(コイツ、今度は何を考えているんだ?)
タスケがヤオ子に溜息を吐いた時、ヤオ子が枝の上で停止する。
「さてと。
今日は、ここまでにしよう」
「まだ午前中だぞ?
移動しないのか?」
「うん。
野宿するから、水の飲める場所を探す」
「そうか」
タスケが耳と鼻をピクピクと動かし、辺りを注意深く探る。
そして、進行方向の左を向く。
「あっちだ」
「さすが」
ヤオ子とタスケは水の音のする場所へと行き先を変更した。
…
水を確保するために移動した場所──そこは緩やかに川が流れている河原だった。
そして、その川の前で、ヤオ子は岩を担いでいる。
「せ~の!」
岩に岩をぶつける乱獲方法を実行。
岩から水中に伝わる振動で、魚がぷかぷかと浮かぶ。
「えへへ……」
ヤオ子は川の流れで手元に流れてくる魚をデイバックから取り出した包丁で恐ろしいスピードで捌いていく。
熾した火の前に次々と突き刺さる魚を見て、タスケは呆れる。
「お前、自給力あり過ぎだろ?
何だ? この恐ろしいほどの手際と量は?」
「まあまあ。
今回は塩もあるから、しっかりと味付け出来てますよ」
タスケが魚に目をやると、いつの間に付けたのか塩が振ってあった。
「まあ、いいか……。
旨い魚が食べられれば。
コイツの料理の腕は間違いないからな」
「そうそう」
魚を捌き終えたヤオ子がタスケの隣に腰を下ろすと、タスケはヤオ子の頭に飛び乗り、ヤオ子のポニーテールに尻尾を絡ませて遊び始める。
「あたしの頭は特等席ですね」
「お前の軽い頭が居心地いいんだ。
玩具までついてるしな」
「……ポニーテールは決して玩具じゃないです」
暫くして目の前で香ばしい臭いが漂い始めると、両面均等に焼けるように魚をひっくり返す。
「ヤオ子。
これから、どうするんだ?」
「そうですねぇ……。
水は確保できたし、食料も確保できたし。
・
・
午後は、修行かな?」
「お前、真面目過ぎるだろう?」
「そう?
でも、今、修行するの楽しいし。
午後から新しい修行をしようと思って」
「新しいのか?」
「ええ。
さっき、影分身がほぼ同時に消えたでしょ?」
「ああ」
「影分身には均等にチャクラを分けたんですけど、
それが同時に消えたということは、水遁も土遁も火遁と同じぐらい扱えたということになるんです。
無駄なチャクラを練っていれば差が出るはずですからね」
「なるほど」
「だから、新しい修行をします」
「どんな?」
「今日は、同時に火遁と水遁と土遁を発生させる修行です。
明日からは、移動中に火→水→土と素早く切り替える修行をします」
「どれも高度だな」
「ええ。
あたしの修行も、そこまで出来るレベルに達したということです」
「……奢ることなくいい心掛けだ」
「えへへ……。
ありがとう」
ヤオ子が焼きあがった魚を火から離れたところに刺す。
猫舌のタスケ用に冷ますためだ。
「タスケさんは、どんな術が使えるの?」
「オレか?
オレは、風遁だ」
「おお! 凄い!」
タスケがヤオ子の頭から飛び降りて手を出す。
爪が伸びると同時に風の刃が爪を覆う。
「まあ、在り来たりだが、猫が戦うなら爪を風遁で強化するのはセオリーだろうな」
「そうですね。
素早い動きの猫なら、スピードを活かして直接切り裂くのがいいですよね」
「そういうことだ。
午後は、オレも久々に修行をするかな」
「タスケさんと一緒か……いいですね。
・
・
そうだ!
タスケさん、風遁を教えてよ」
「お前は、別の修行をするんだろ?」
「影分身を修行させます」
「まあ、いいけど」
「そして、明日からの移動はコンビ忍術を作りませんか?」
タスケが首を傾げる。
「何だ? それ?」
「赤丸さんとキバさんみたいにコンビネーションで戦うんです」
「ヤダ」
タスケ、即答。
「何で?」
「面倒臭い。
お前が、オレの戦い方に合わせろ。
オレが指示してやるから、オレのオプションとなって戦え」
「何? この酷い扱い?」
「いいか?
オレが『火を吹け』と言ったら、火遁を使い。
オレが『行け』と言ったら、敵に向かって行け」
「本当にオプションじゃないですか……」
「そして、オレが『死ね』と言ったら、死ぬんだ」
「出来るか!
久々ですよ!
こんなサスケさんを彷彿とさせる独裁っぷりは!」
「冗談だよ。
最後のだけは」
「最後の以外も、結構、酷いですよ……」
「まあ、自由に生きる猫とコンビを組むというのはそういうことだ」
「……分かったような分からないような」
ヤオ子が時間差で焼きあがった魚を手に取る。
「修行の話は、後にしましょう」
「……だな」
タスケが冷めた魚を器用に両手で掴む。
「「いただきます」」
ヤオ子とタスケの昼食が始まった。
…
午後……。
影分身二体達が川の中にある丸みを帯びた小さめの岩の上に座っている。
ただ、片足を川に突っ込み、片足を座る岩の上に立てて、両手を岩の上に投げ出すという奇妙な姿勢だ。
そして、そんな姿勢でありながら集中力は極めて高く、額には汗が浮かんでいる。
水の中の足の周りがバシャバシャと水を跳ねさせ、岩の上の足の周りでビシビシと岩に皹が入り、そして、両手では周囲の空気が温められていた。
影分身達は、母親が言っていた同時にチャクラを発生させての三段攻撃を実現するための修行を開始していた。
母親との修行ではチャクラの性質変化の質をあげる修行までで終わっているが、これは思ったよりも高度な技術が必要だった。
何が難しくするかと言うと、チャクラの性質が変わり切るまでの体を通るチャクラの距離が短くなることだ。
例えば、一つの性質変化を実行する場合。
お腹で練り上げたチャクラが腕に到達するまでが全て性質変化として使える。
しかし、チャクラを二つ以上使う場合は少し違う。
お腹で練り上げたチャクラが分岐するまでの期間は、ただのチャクラ。
分岐して腕や足に向かう所からが性質変化の期間になる。
これを行なうと体内で性質変化させる期間が減らされることになる。
つまり、今までお腹から腕まで100%の性質変化が出来ていたものが、『腕から50%』『足から50%』しか行なえないようなものになるのだ。
そうなると腕や足の性質変化の質を上げて、二倍ぐらい濃い性質に変化させる必要が出てくる。
と言っても、これはヤオ子の持つ術が体内に留める装填式の必殺技のせいでもある。
ヤオ子自身、性質変化をさせるには幾つかのパターンがあるのは理解している。
例えば、ナルトの風遁・螺旋手裏剣。
これは影分身と共同作業により完成した術で、形態変化をする係と性質変化をする係に分かれている。
そして、本体の掌の上で外から形態変化と性質変化を加えている以上、体内で性質変化しきったチャクラを加えるのではなく、術として発動したチャクラに後付けで外から加えていると言える。
つまり、性質変化を発動するのは体内でする必要はない。
熟練した忍なら、体内から体外に出る瞬間に切り替えることも可能になる。
そして、今のヤオ子の修行方法はヤマトタイプと言える。
ヤマトの木遁忍術は体内から直接発生させることがある。
これは両手を合わせて合成する工程を省いて、体内で混ぜ合わせているからだと考えられる。
体内で混ぜ合わせている以上、チャクラの二系統を発生させて、体内の何処かで混ぜ合わせなければならない。
チャクラを発生させる精神エネルギーと身体エネルギーを混ぜ合わせている工程中に水遁と土遁を混ぜ合わせている可能性もあるが、それは可能性が低いと思われる。
なぜなら、ナルトが仙術チャクラを練るのに自然エネルギーを混ぜ合わすのにアレだけ苦労するのに、同時に二系統の性質変化を加えて合成するなど、仙術チャクラを練るより難易度が高くなってしまうからだ。
そう考えると、チャクラを発生させて術を発動させる場所までに性質変化し終えるのがチャクラの性質変化と考えられるだろう。
故にチャクラを同時に変化させるのは奥義とも言えるものになり、それを合体させて別の性質を合成する能力は血継限界と呼ばれることになる。
そして、そう考えると血継限界である木遁を自在に扱えるヤマトは、チャクラの扱いの達人であることがよく分かる。
しかし、血継限界も一族秘伝のものだけではない。
努力とセンスで発生することも、十分に考えられる。
また、使う者のイメージや性質にも左右されると思われる。
よって、ヤマトが使う水遁と土遁の合体を別の者が同じように水遁と土遁を合体させたとしても、必ずしも木遁が発生するとは限らないと考えられる。
実は、ヤオ子は母親に騙されて修行をしている。
母親は、少しヤオ子に期待を込めて遠回しに修行を進めた……必殺技の進化系であると。
必殺技の進化系であることは確かだが、その先の血継限界の発動にも淡い期待をしている。
当然、無理も承知だ。
発生しない可能性の方が高い。
真実を告げないのは、血継限界が発生しないことで落胆するヤオ子を気遣ってのことである。
((もっと、質を……))
母親の思惑を知らないまま、新たな力を研磨する修行が続く。
影分身達の集中力は増していった。
…
一方、別の場所では、ヤオ子がタスケの隣で禅を組む。
風遁の性質変化の修行をおさらいしているタスケの横で、風遁の性質変化のチャクラを感じていた。
「うん……。
風を感じる……。
風のイメージです……」
タスケから発せられる風のチャクラを、ヤオ子は涼風のように感じていた。
(草原を流れるようなイメージがします……)
タスケが少し攻撃的にチャクラを練る。
(荒れ狂っている……。
強い向かい風みたいです……)
タスケのチャクラは、更に研ぎ澄まされる。
(風の刃……。
鎌鼬……)
タスケのチャクラが止まる。
「こんな感じだ。
イメージは伝わったか?」
「はい」
ヤオ子が、ゆっくり目を開ける。
「風のチャクラは練れそうか?」
「多分……」
ヤオ子は手を前に突き出し、お腹から手の先までしっかりとチャクラの流れを意識する。
「初めてだから、時間を掛けてゆっくり練ります」
チャクラをお腹に意識する。
ゆっくりと上ってくるチャクラの通り道にタスケが示してくれたイメージを乗せる。
変えたいイメージをじっくりとチャクラに練り込む。
ゆっくり……。
ゆっくり……。
腕まで到達するまでじっくりと練り込んでいく。
そのチャクラを感じ、側に居るタスケは驚いている。
(オイオイ……。
初めて風のチャクラを練ったんじゃないのか?
このチャクラは、確かに風だぞ。
・
・
何なんだ? コイツは?)
タスケがヤオ子の顔を見る。
額に汗が浮かんでいる。
そして、手に視線を移す。
チャクラは、まだ到達していない。
丁寧に……そして、確実にチャクラを練っている証拠だった。
(分かった……。
コイツ、ずば抜けて集中力が高いんだ。
そして、さっきコイツが言っていたことは、本当だ。
想像することが抜きん出ているんだ。
だから、得体の知れない初めてのことでも、自分のもののように扱えるんだ)
片鱗は見せていた。
サスケに投擲を教わった時も、ヤオ子は真ん中に当てている。
そして、考えることを止めない。
頭の中は、常に想像や好奇心が駆け回っている。
そして、何よりエロい事を妄想するのが大好きな変態だ。
ないものをあると仮定したり、思い込んだりするのは常日頃から行なっている。
今まで迷惑でしか発揮されなかった変態性の能力が、思い掛けないところで役に立っていた。
「いける……」
ポツリと呟くと、手から僅かな溜息程度の風が流れた。
「ふっ…くくく……」
「ヤオ子?」
「何だろう?
性質変化のチャクラを練るのが、妄想するのにそっくりに感じるんです」
「ありえないって……」
タスケが顔の前で手を振る。
「やっぱり強いイメージが必要なんですよ。
これって相性が重要かと思ったけど、そうじゃないです。
だって、結局のところ、自分の体内にしかない物質をチャクラに混ぜるんじゃないんだもん。
自分のイメージでチャクラを変化させるんだもん。
・
・
よくよく考えれば、チャクラはそういうものでした。
何で、吸着できるのか?
何で、エネルギーに成り得るのか?
全然、分かりませんでした。
でも、混ぜ込んでいるのが精神エネルギーで自分の意志のエネルギーなら、
何でも出来るし出来て当たり前なんですよ」
「それで納得できるのか?」
「正直、完全には理解できないけど……そういう特性がないと理解できないです」
タスケは唸りながら考えている。
「これなら、雷遁も直ぐに習得できるかも。
やってみよう」
(マジか?)
ヤオ子が目を閉じて集中し始めた。
しかし……。
「…………」
途中で止める。
「どうした?」
「イメージすると感電する……」
タスケがこけた。
「何でだ!?」
「いや、人間って体の七割ぐらいが水分じゃなかったっけ?
そんなもんに電気流したら……ねぇ」
「火遁なんて、もっと危ないだろうが!」
「……そうですよね」
「土遁は!?
体中砂だらけだぞ!」
「本当だ……。
何で、雷遁の時だけ変なイメージが浮かぶんだろう?」
「やっぱり相性があったんじゃないか?」
「……そうかもしれない」
どうやら、ヤオ子は雷遁に苦手なイメージがあるようだった。
しかし、そこは妄想するのが得意な変態。
イメージに何度か修正を加えて対応する。
四回ほど、チャクラを練りながら感電したが、雷遁も手の先で発生させて見せた。
「お前、凄いな……。
全部の系統を発生させた奴なんて始めて見たぞ」
「多分、集中力とイメージする力が必要なんですよ。
この性質変化ってヤツは、忍の力と少し掛け離れていますね。
だって、戦いには予想が必要で想像はあまりしないと思いますから」
「そうだな。
イメージトレーニングはしないかもな。
会う忍、そのものが得体が知れないというのが当たり前だから、
想像なんかよりも観察する分析能力と対応能力が求められる気がする」
「でしょ。
あたしみたいにエロいことを想像し続けるなんてないんですよ」
「なるほどな」
(コイツ、戦闘中に妄想もしてるのか……)
タスケは、そっちの方が頭に負担を掛けるんじゃないかと思ったが、黙っていることにした。
変態の思想など、理解しても何の役にも立たないし、知りたくもない。
その内面で微妙な気分になっているタスケに、ヤオ子が続ける。
「でもね。
変態が性質変化を習得し易いって、少し思いあたることがあるんです」
「ん?」
「コピー忍者のカカシさんって知ってる?」
「ああ、有名人だ」
「あの人も複数の属性の系統を使うんです。
でね。
あたしと同じで、多分、変態の類です」
「……は? えぇ!?」
タスケは、普段のカカシを知らない。
「いつもね。
イチャイチャのエロ小説を読んでます。
きっと、ずば抜けて想像力が豊かなんです」
「嫌だなぁ……。
結構、尊敬したり憧れる忍者の一人なのに……」
「でも、あたしとの共通点って、それぐらいですよ?
そして、あたしは変態の格で言えば、カカシさん以上と自負しています」
「嫌だ……。
本当に嫌だ……。
変態ほど、チャクラの性質変化に長けているなんて……」
タスケは項垂れ、その横でヤオ子が顎に指を当てて首を傾げる。
「でも、ヤマト先生は二系統使えるけど、
凄い真人間でしたねぇ」
「だろ!
そうだろ!
絶対にそんなわけないんだ!」
「何か必死ですね?」
「当たり前だ!
お前の理論で言えば、二系統以上使える忍者は全員変態だ!」
「えへへ……。
そうなりますね」
「まったく……」
「でも、何で、そんなに必死なの?」
タスケは溜息を吐く。
「あのなぁ。
オレ達、忍動物の一部は、優秀な忍と契約できることを誇りに思っているんだ。
だから、これから会う忍が全員変態だと困るんだよ」
「そうなんですか。
・
・
契約って?」
タスケが首の巻物を指差す。
「コイツに名前と血判を押して、口寄せの契約をするんだよ」
「へ~」
「オレは、コイツに契約する忍を探すのも目的なんだ」
「へ~。
・
・
見せて」
「これか?
今は、何も書いてないぞ」
ヤオ子がタスケの首輪にある巻物を手に取る。
「こんな小さいの?」
「何十人も契約する気はない」
巻物を広げると小さな巻物には五人分の欄しかない。
「五人分しかないですよ?」
「オレの生涯仕える忍は、それだけでいい」
「ふ~ん……。
・
・
あたしと契約しませんか?」
「は?
・
・
何で、お前なんかと?」
「この口寄せって、あたしを呼び出すことも出来るんでしょ?
逆口寄せでしたっけ?
子分のあたしを呼んでもいいじゃないですか」
「なるほど。
その手があったな。
確かにヤオ子は、オレの子分の中で一番の雑用スキルを持つ忍だ」
「他にも子分居るんだ……。
・
・
っていうか、雑用スキル!?
タスケさんは、あたしをメイドか何かと勘違いしていません!?」
「お前、そういう忍者だって言ってただろ?」
「言ったかもしれないけど……。
タスケさんとは対等というか友達というか……。
そういう関係だと思っていたのに」
タスケがヤオ子の膝にポンと肉球をあてる。
「お前は、そういう存在だ」
(今、思いっきり契約したくなくなりました……)
タスケがヤオ子から巻物を受け取り、地面に開いて書く場所を叩いて示す。
「ほら、指切って血で名前を書け」
「こんな感慨も何もない強制的な契約があるんですかね?
・
・
ん? 何で、一つ開けて二番目?」
ヤオ子が人差し指を口に運び、歯でピッと切る。
そして、サラサラと巻物に自分の名前を書き込み、契約の血判を押す。
タスケは、巻物を眺める。
「お前、達筆だなぁ。
こんな綺麗な字を書く忍を初めて見たぞ」
「まあ、任務で書物の偽造なんかもしていますんで。
『根』ってとこでは重宝されましたよ」
「偽造文書まで作ってたのかよ……」
タスケは巻物を巻き直すと、首輪に固定する。
「これで契約は終わりだな。
お前、口寄せしたことあるか?」
「ないです」
「実は、オレもないんだ。
どれ位、チャクラを使うんだろうな?」
「確かに。
試してみます?」
「オウ」
ヤオ子が少しタスケと距離を置く。
タスケが印を組み、地面に肉球を押し付ける。
「逆口寄せ!」
ヤオ子が消えると、タスケのところに口寄せされた。
「おお! 出来ましたね!」
「面白いな、コレは」
「ねぇ、呼び出された人って役目終わると戻るんでしょ?
どうやるんだろう?」
「そうだな。
・
・
どうやるんだ?」
「へ?
知らないの?」
「知らん」
「…………」
ヤオ子とタスケが顔を見合わせる。
「この口寄せって間違っていません?」
「そうだな……」
「多分、『解』っていうのがあるはずですよ。
この術の元ネタは?」
「すまん。
口頭の口伝だったし、『解』は聞いてない」
ヤオ子は溜息を吐く。
「印を教えてください」
タスケがヤオ子に印を教えると、ヤオ子は腕を組んで片手を顎の下に当てる。
「この印か……。
幻術なんかの『解』を応用して、この印用の『解』を作るか……」
ヤオ子は、久々に印の開発を行なう。
地面にガリガリと色んな系統と幻術の『解』の印の統計を書き込みむ。
前回の土遁と水遁の失敗を反省してから印について、もう一度、復習し直していた。
そして、ガリガリと長い工程を書き終え、最終的に印を導き出す。
「多分、この印」
「……本当か?」
「やってみます」
ヤオ子が印を結ぶ。
「口寄せ『解』!」
煙があがると、田お子は元の場所に戻った。
少し遠くでヤオ子がタスケに手を振る。
「アイツ、本当に凄いな……。
・
・
いい子分を見つけたな」
タスケはニヤリと笑う。
こうして、ヤオ子とタスケは口寄せの契約を結んだのだった。