== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
ヤマト達がお見舞いに来てくれた次の日……。
ヤオ子は退院の準備を始めていた。
しかし、荷物はほとんどないが、問題があった。
「シャツがボロボロです……」
病院服を脱いで自分の私物である藍色のシャツを確認すると、背中に大穴と血が付着してご臨終していた。
第81話 幕間Ⅴ
ヤオ子は病室で頭を掻く。
「何で、うちの人間は着替えを持って来ないんでしょうね?
まあ、乳はサラシで隠れてんだし……いっか」
ヤオ子はサラシにミニスカートの姿で、病室をシャツを着ずに出る。
が、看護婦に捕まった。
「女の子が、何て格好で歩いているの!」
「いや、着るもんなくて……。
大丈夫ですよ。
ほら、乳出てないし」
看護婦のグーが、ヤオ子に炸裂した。
「露出狂の変態か!」
「変態のところは、もう否定しないですけど……。
服なくて……」
「それなら、そう言いなさい!」
(めんどいな……)
ヤオ子はチャクラを練り上げ、印を結ぶ。
「変化!」
ヤオ子は服を着た自分に変化した。
「これでいい?」
「見た目は……。
でも、根本の解決になってないんだから、ちゃんと服着るのよ。
街中で術を解いちゃダメよ!」
「……はい」
ヤオ子は、ようやく解放されて里へと向かった。
…
向かう先は決まっていた。
木ノ葉の外にある秘密基地。
ヤオ子は、まだ再建途中の何もない里の真ん中を突っ切り、秘密基地のある森へと向かう。
そして、森に到着すると秘密基地のある古い大木の中に入り、地下へと潜る。
「まず、薬房から」
ヤオ子は、先の戦いで使用したであろう薬草の残数を確認する。
薬房の中を一回りすると、ヤオ子は腕を組む。
「ほとんどない……。
傷薬や湿布に使う薬がないのは分かるけど……。
何で、病気で使う薬もないんだろう?」
暫し考える。
戦闘で消費する薬草がなくなったのは分かるが、何故、他の病気に使う薬草類までなくなっているのか?
「そうだ。
木ノ葉病院が壊れて薬も紛失したんだ。
だから、足りない分を持って行ったんだ。
・
・
まあ、いいです。
また集めればいいだけだし」
次に薬房を出て、武器庫を確認する。
ここは見て回らなくても、一目瞭然だった。
ヤオ子は腰に手を当てる。
「ここも、すっきりしてしまいましたね。
撤去に必要な道具を放出したから。
・
・
まあ、いいです。
また集めればいいだけだし」
ヤオ子の集めた薬草や道具類は、ほとんどが使用されてなくなっていた。
しかし、それがなければ、助からない命もあったかもしれない。
そう思うと、ヤオ子は損失したものよりも、備えて貯めてあったことに安堵する。
「あの時の失敗を繰り返さなかった……。
少し心が救われた気分になります。
・
・
また備えはしないといけませんね」
ヤオ子は秘密基地を後にした。
…
里に戻る道中、ヤオ子は薬房と武器庫への補充を考えて物思いに耽る。
(全部、ただだったから問題はないけど。
薬草の類だけは積極的に集め直さないと……予備がないのは問題です。
・
・
とはいえ、予備がないのは木ノ葉病院も同じか……。
物資の確保は急務ですね)
ヤオ子は里に入ると自分の家が吹き飛ばされたと思う方角に向かう。
しかし、そこには少し人だかりが出来ていた。
「何だろう?」
ヤオ子が自分の家のあった場所へと近づく。
『オイ。
あの部屋……開かないらしいぞ』
『どうして?』
『鍵が頑丈らしい』
『鍵だけじゃないんじゃないか?
部屋も原型留めてるし……』
『一体、何で、この部屋だけ無傷なんだ?』
ヤオ子は、『自分の部屋だろうな』と思いながら、人だかりを掻き分ける。
案の定、ヤオ子の部屋だった。
(やっぱり……。
違法改造を繰り返したから、
余所の建物より鉄壁になってるんですよね……)
ヤオ子は斜めに傾いている部屋のドアに近づくと、鍵を差し入れて開ける。
『あの子の家か……』
『例の変質者の……』
『きっと、見せられないものが一杯あるから、頑丈に造ってあったんだな』
(言いたい放題ですね……)
ヤオ子が部屋に入っても人だかりは消えない。
とりあえず、カーテンを閉め、ヤオ子は変化を解いてシャツを新しいものに取り替える。
そして、斜めになっている部屋をチャクラ吸着で進み、冷蔵庫へ近づく。
「電池に切り替わって非常電源が入ってます。
中古販売店のおじさんの趣味で一緒に付けた機能が役に立ちました」
続いて、クローゼットを開けて工具箱を確認する。
「中がグチャグチャですけど、壊れたものはありません。
こっちも問題なしです」
最後に工作室を確認する。
機械類は耐震の金具で固定したことと元々頑丈に出来ていることもあり、分解や破損といった箇所は見当たらなかった。
一部、バラけたところもあったが、それは簡単に接続すれば直る程度だった。
「こっちの機械も壊れていないですね」
ヤオ子は窓際に近づき、カーテンの隙間から野次馬がいなくなっていないのを確認する。
「手伝って貰うか」
変態の家の扉のノブが回り、ヤオ子が外に出ると全員の視線が集まる。
「すいません。
手伝って貰えませんか?」
「……何を?」
ヤオ子の家の前の人だかりの一人が、変態とのコミュニケーションを図った。
それに対し、ヤオ子ははっきりと答えを返す。
「里の復旧に使う道具を運び出します」
「…………」
人だかりは沈黙する。
少女の家に、何故か復興に必要な道具があるという……少女の家に。
いや、変態の家に……。
少女だろうと変態だろうと、兎に角、そんなものは後回しで、何故かここには里を復旧させる道具があるという。
見た目は極めて普通の家に、一体、何があるのか?
先ほどの人物が、再度、ヤオ子に訊ねる。
「君の家には、何があるのかな?」
「冷蔵庫の中に食料。
それと調理器具一式。
機械類を直す工具一式。
部品を作る機械類」
(何故、そんなものが……)
「そして……」
野次馬達が固唾を呑む。
「あたしのコレクションである漫画とエロ本」
野次馬達が吹いた。
『何で、エロ本なんだ!』
『ありえねー!』
『里を救済する道具と一緒にエロ本!
本当にありえねー!』
ヤオ子は声を張り上げる。
「うっさいですよ!
あたしの崇高な趣味にケチをつけるな!
・
・
そんなことより!
手伝うんですか!?」
「それは、もちろん」
「なら、運び出すのを手伝ってください!」
ヤオ子の勢いに飲まれ、人々が動き出す。
ヤオ子の家から、最初に冷蔵庫が運び出された。
冷蔵庫を持つ、里の人間がヤオ子に訊ねる。
「なあ……。
これ、何で動いてんの?」
「電池ですよ。
ブレイカーが落ちたら切り替わるんです。
とりあえず、里の配給をしている料理係のところに運んでください」
「分かった」
「あと、非常用の電源を繋ぎ直せば動くとも伝えてください」
「分かった」
ヤオ子は少し考えると影分身を一体出して、調理器具一式を持たせる。
「一緒に手伝ってください」
影分身は頷くと、冷蔵庫を運ぶ部隊に着いて行った。
「次は、機械類ですね。
・
・
すいませ~ん!
里の復興をしているとこって、分かります?」
「オレが分かる!」
野次馬の一人が手をあげた。
「じゃあ、機械類を運ぶので案内してください。
鉄を切ったり、釘を作ったり出来ますから」
「わ、分かった」
(この子、何者だろう?)
ヤオ子は、再び影分身を出す。
「工具箱を持って手伝ってください」
影分身は頷くと、機械類を運ぶ部隊に着いて行った。
そして、物資の運び出しと共に野次馬も居なくなった。
「後は……。
影分身に本類とか家の雑貨を秘密基地に運んで貰いますか」
ヤオ子は印を結び、三体の影分身を出す。
「よろしく」
こうして、家の後処理を任せると、ヤオ子自身は里を回り、状況を把握することに努めた。
…
周囲は瓦礫の山。
中央は更地。
そして、少しずつではあるが復興を始めた家々。
「ヤマト先生の木遁ですね」
ヤオ子は家の形状から判断する。
里が崩壊してからヤオ子が意識を戻すまでは僅かに数日、人々は必要な物資を瓦礫の中から抽出したり、瓦礫そのものを片付けたりと、里を建て直す下準備の最中だった。
「里の改造どころじゃないですね。
まず、雨露を凌がないと……」
更地の中心で、まばらに集まる人の群れ。
そのどれもが建て直しに向けてのグループである。
ヤオ子は里全体の把握の途中で、強制労働をさせられるヤマトを発見した。
ヤオ子はヤマトに近づく。
「精が出ますね」
「ヤオ子か……」
ヤマトはチャクラを大分消耗しているようで、返ってくる言葉に疲弊が混じっていた。
ヤオ子は笑みを浮かべて、ヤマトに話し掛ける。
「お疲れ様です」
「もう、いいのかい?」
「ええ。
今、自分の家に行って必要なものを運び出して来ました」
「そうか。
・
・
あ、これ」
ヤマトが思い出したように腰の後ろの道具入れか巻物を取り出し、巻物をヤオ子に手渡す。
「何ですか?」
「土遁と水遁の修行方法だよ」
「ありがとうございます!
・
・
でも、宿題を出すということは、直ぐにでも里を離れるんですか?」
「いや、復興作業を言い渡されてね。
ほら、ボクの木遁は応用が利くから。
毎日、これをチャクラがなくなるまでやらされて、
修行を見るどころじゃないんだ……」
ヤマトの宿題を出す理由に、ヤオ子は可笑しそうに笑った。
「今、あたしは影分身に給仕班の手伝いと道具作りの手伝いをさせています。
家にあった機械が無事だったんで、
予備電源が生きていれば、釘とかを大量生産できるんです」
「君の存在って、本当に大きいな」
ヤオ子は頭に手を当てる。
「はは……。
綱手さんとコハルさんの強制任務に感謝ですね」
「そうだね」
ヤマトと明るく話していたヤオ子だったが、今の何もない木の葉の里を見て声を落とす。
「ヤマト先生……」
「ん?」
「……あたしは、こんなことしか出来ないですね。
物資を提供することしか出来ない」
「こんなことと言える君が凄いと思うけど?」
「そうですか?」
「ああ。
ボクを含めて、失った者がほとんどだ。
とても、提供できる者なんて居ないさ」
「あたしは勝手に家を改造したんで、無事だっただけです」
(まず、そこの認識からおかしいって気付いてんのかな?
勝手に改造しちゃいけないし、
あまつさえ、その改造であの術で壊れない耐久性を持った家を作るなんて……)
ヤマトは溜息を吐き、あえて突っ込まないことにした。
「それに君の力が必要になるのは、これからだろう?
配管とか電線とか下水の管理まで、出来るんだから」
「まあ、普通の忍者は出来ないことが出来ますからね。
……微妙な上に複雑な気分です」
ヤオ子とヤマトは笑いあった。
「少し元気が出ました。
とりあえず、あたしは里を見て回ったら、出来るところからお手伝いします」
「期待してるよ」
ヤオ子はヤマトと別れると、里の復興部隊のところへと足を向けた。
…
ヤオ子が歩くと皆が振り返る。
普段から色んな意味で目立つ存在だったヤオ子は、里では有名人である。
そのヤオ子の髪の色が茶から白に変われば、振り返ってしまうのは仕方がないことなのかもしれない。
当の本人は、それほど気にはしていない。
好奇な目で見られるのは慣れっこだ。
その堂々と歩くヤオ子のミニスカートを誰かが引っ張る。
「誰?」
ヤオ子は振り返り、ゆっくりと視線を下へと落として確認する。
「あ! あの時の!」
そこにはヤオ子の助けた女の子が居た。
「おねえちゃん……ありがとう」
「えへへ……。
元気みたいで良かったです」
ヤオ子は腰を落として、女の子の視線に合わせる。
「ごめんなさい……」
しかし、女の子は硬い表情でヤオ子に謝った。
(髪のことかな?
それとも、入院したことかな?
・
・
そういえば、入院したの初めてですね)
女の子が続ける。
「私のせいで、おねえちゃんが死にそうになったって……」
「そのことですか。
確かに、そういうこともありました。
・
・
でもね。
あたしは、お姉ちゃんですからね。
小さい子を守るのは当たり前です」
ヤオ子は、女の子の頭を撫でる。
「だから、最初のありがとうで、お腹一杯ですよ」
「お腹?」
「はい。
とらが言うんです。
・
・
あたしも同じく感謝の気持ちで一杯です」
「じゃあ、許してくれるの?」
「はい。
許しますよ」
(まあ、許すものもないんですけどね。
悪いのは里を壊した人なんで。
・
・
でも、そんなことを言っても納得できないんです。
傷付けてしまった人から、ちゃんと答えを貰わないと……)
ヤオ子が気持ちを込めて笑ってみせると、女の子はホッと息を吐き出した。
その女の子の様子を見て、ヤオ子は話を続ける。
「あたしもね。
少し不安だったんですよ。
あなたが助かってなかったら、どうしよう……って。
・
・
だから、お姉ちゃんも言います。
助かってくれて、ありがとう」
女の子はヤオ子に笑って返してくれた。
(これで……また半分こですね)
女の子は手を振って、その場を後にした。
残されたヤオ子は、左腕の包まれた額当てを見る。
「ヤマト先生、イビキさん……。
あたし、今から忍者を始めます。
あたしにも守れるものがあって、気持ちを分け合えることが出来たから……。
あの時のお二人と、やっと同じことが出来たから……」
ヤオ子は左腕の額当てを解くと包みを外す。
そして、しっかりと額当てを見えるように結び直した。
…
これからヤオ子の生活は、里の復興と新たな修行に充てられる。
木ノ葉隠れの忍として自覚を持ってから、少し変わった。
雰囲気的には、落ち着きが出て大人っぽくなった。
そして、前以上に修行に取り組むようになっていった。
だけど、決して変わらないものもある。
父から受け継いだ馬鹿さ加減と母から受け継いだ変態気質……これだけは変わらなかった。