== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
少し冷たくなった風が少女の白い髪を吹き上げる。
少し見せたおでこに優しく手が乗っかる。
少女の母親と父親は、複雑な顔をした。
褒めてあげればいいのか?
叱らなければいけないのか?
何よりも命の危険を冒した結果が自分達によく似ていた。
女の子を庇って倒れた娘……。
そして、母を庇って倒れた父……。
第80話 ヤオ子がいない②
ヤオ子を治療してくれた医療忍者が検診に訪れると、仮施設の布団の上で横たわるヤオ子の診察をする。
「若いっていうのは驚かされますね」
医療忍者がヤオ子の両親に話し掛ける。
「順調なんですか?」
「ええ。
・
・
峠を越えてからは信じられないぐらい。
背中の傷も足の皹も肩の皹も完治しています。
……異常なぐらいです」
母親が微笑む。
「理由があるんです」
「え?」
「寝ている間も、ずっと話し掛けていました。
ヤオ子は、それに反応するみたいに元気に……」
「そんなことが……。
でも、意識のない人に好きな匂いを嗅がせると反応したり、
実は、会話を聞いていたということがあります。
そして、それが患者に活力を与えることもあります」
「ええ。
きっと、そうです。
・
・
この本を音読しています」
「本ですか」
母親の手には『イチャイチャタクティクス』。
そして、本を開くとヤオ子に語り掛ける。
「主人公は、Pi─────に
Pi──────────をして
訝しがるヒロインにPi─────をした」
「そんな話し掛ける医療があるか!」
「あら?
おかしい?」
「おかしいです!
そんな下品な本を延々と娘に読み聞かせてたんですか!?」
ヤオ子の母親はパタパタと手を振る。
「嫌ですね~。
これは娘の所有物ですよ。
しかも、中々の傑作」
医療忍者は、激しく項垂れる。
(この人、頭がおかしいよ……。
それを聞いて回復が早まる娘もおかしいよ……)
項垂れる医療忍者に父親が語り掛ける。
「娘は意識が戻らないようですが、
頭には、異常はなかったんですよね?」
(ほっ……。
父親は、まともそうだ……)
「はい。
情報部の忍の方に記憶まで見て貰いましたが、
特に異常はありませんでした」
ヤオ子の父親が腕組みをして言葉を漏らす。
「なら、何で、この馬鹿は起きないんだ?
言ってやりたいことが山ほどあるのに……」
「長い眠りではないと思います。
・
・
気長に──」
「待てるか!
・
・
オレは短気なんだ!
今、言わないと忘れっちまう!」
(それは短気じゃなくて……。
馬鹿なんじゃ……。
父親の方は馬鹿なのか?)
「お父さんの言う通りね」
(母親もなのか?)
医療忍者は苦悶の表情を受かべたあと、誤魔化すように苦笑いを浮かべながら指を立てる。
「で、では……。
起きた時に伝えられるように手紙でも書いては……」
医療忍者の言葉に両親は顔を見合わせ、手をポンと打つ。
「いい考えですなぁ」
「本当」
「しかし、出だしは何て書こうか……」
「果たし状よ……確か」
「そうか!」
「ご両親! 違います!」
病室には、何とも言えない空気が漂っていた。
…
二日後……。
ヤオ子のお見舞いにかなりの人数が集まった。
両親、弟、ヤマト、イビキ、ガイ、カカシ……。
ヤオ子と関わりの深い忍と班を代表して担当上忍と元担当上忍が顔を揃える。
ちなみに、紅は妊娠中のため、欠席。
シズネは綱手についている。
集まった忍達と両親の挨拶。
両親の危なっかしい容態の説明。
それが終わって、ようやく一息つく。
「娘のために、すいません。
わざわざ足を運ばせてしまって」
父親が改めて頭を下げる。
「いつも迷惑を掛けているようで」
母親も頭を下げる。
しかし、他の忍達は気が抜けない。
((((これがヤオ子の両親か……))))
まず、第一印象。
父親は思ったより馬鹿じゃなさそうだ。
母親は年齢詐称してんじゃないか?
((((綱手様と同じ術でも使えるのか?))))
ある意味、伝説の生物が目の前に居る。
里を混沌に陥れた生き証人が……。
((((見た目じゃ分からない……))))
その後、他愛のない談笑の中で少しずつ花開く真実。
「実は、うちの店の経営は、ほぼヤオ子がやっているんですよ」
((((ダメな親達だ……))))
・
・
「私の料理で、何回、ヤオ子が死に掛けたか……」
((((日々、サバイバルか!))))
・
・
「お姉ちゃんが仕返しに行った次の日……。
いじめっ子の両親の会社が潰れたんだ」
((((何をした!? ヤオ子!?))))
・
・
「私も、尾行するクセがありまして……」
((((それ知ってます……))))
・
・
「人数が多くて暑苦しい……」
(((((((病室に鮨詰め状態だから……)))))))
・
・
ヤオ子は窓を開けて深呼吸していた。
「…………」
全員の視線が窓に移る。
「「「「「「「ヤオ子!?」」」」」」」
「ん?」
ヤオ子は振り返ると、ぶっきら棒に言い放つ。
「大人がぞろぞろと集まって気持ち悪い……」
父親のグーが、ヤオ子に炸裂する。
「折角、お見舞いに来て下さったのに!
何だ! その言い方は!」
「アァ!?
知らないですよ!
・
・
だったら、見舞い品は!?
菓子折りの一つでも持ってきたんでしょうね!?」
母親のグーが、ヤオ子に炸裂する。
「ねだらない!」
「あんたの料理が食えないんだから、
少しぐらいねだるのは自然の摂理ですよ!」
ヤクトのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「今のは、何で!?」
「ボク、心配したんだからね!」
ヤオ子にヤクトが抱きついた。
ヤオ子は首を傾げながら頬をチョコチョコと掻く。
「心配?」
記憶は、まだ正常に働いていなかった。
「…………」
ヤオ子は窓の外をもう一度確認すると、そこには破壊された里が広がっていた。
「そうだ……。
里が襲われたんだ……」
ヤオ子が振り返る。
「雁首揃える余裕があるってことは、敵は倒されたんですか?」
ヤオ子の質問にカカシが答える。
「ああ。
ナルトが倒してくれた……」
「そうですか……」
ヤオ子は安心して息を吐くと、今度は弟を抱く体温が一緒に居た子を思い出させた。
「あたしの……。
あたしの側に居た女の子は?」
「無事だよ」
今度は、ヤマトが答えてくれた。
「一件落着ですね」
「いいや……」
ガイが吼える。
「何で、一人で無茶をしたんだ!」
「え~と……」
(頭が、まだ働かない……。
いいわけが思いつかない……)
「すいません……」
「でも、お前って奴は!
青春しやがってーっ!」
ガイの暑苦しい抱擁。
(分からない……。
怒ってんの?
褒めてんの?)
ヤオ子は視線で全員に尋ねるが、全員、無言で首を振るだけだった。
少し照れながら、ヤオ子がガイに話し掛ける。
「ガイ先生の教えで助かりました。
足の重りのお陰で飛んで来る瓦礫から弟達を守れました」
「そうか……」
ガイが腕で涙拭うと親指を立てる。
「じゃあ、明日から重りを増やそう!」
ティーンと歯を光らせる。
「嘘!?
間違ってる!
ガイ先生、おかしいって!」
病室に笑いが漏れると同時に、そこにはいつもと変わらない雰囲気が漂っていた。
カカシがヤオ子に話し掛ける。
「オレは、そろそろ行かんといけないのでな。
元気に話す姿を見て安心したよ」
「ありがとうございます」
「その髪だけ……。
残念だったな」
「髪?」
ヤクトが手鏡をヤオ子に翳すと、ヤオ子は鏡を覗き込んだ。
「なんじゃこりゃぁぁぁ!」
「チャクラを限界まで使った副作用らしい……」
「…………」
ヤオ子が鏡を覗き込んだまま動かない。
心配になったカカシが声を掛ける。
「ヤオ子?」
「あたし……お母さんとカカシさんの隠し子だったとか?」
カカシと母親が吹いた。
そして、同時にグーが炸裂する。
「ほら、息もピッタリ……」
「私は、お父さんのものなの!」
「オレにも選ぶ権利をくれ!」
「違うみたいですね?」
「当たり前よ!」
「当たり前だ!」
ヤオ子が下ろされた髪を手に取る。
そして、カカシを見てから鏡を見る。
どうやら、自分とカカシを比較しているらしい。
「えへへ……。
意外とイケてるじゃないですか。
白髪も……」
(……本人が気にしないならいいか)
カカシは溜息を吐いた。
「じゃあ、これで……」
「オレもだ。
早く元気になれよ」
カカシとガイが病室を後にした。
ヤオ子はヤマトとイビキへ目を向ける。
「少し息が詰まりそうです。
諸々の事情とかも聞きたいんで、お散歩しませんか?」
「ああ。
いいよ」
「分かった」
ヤオ子は母親の羽織っていた半纏を借りると、両親と弟に手を振って病室を後にした。
…
木ノ葉の里全体を見下ろせる顔岩の上。
ヤオ子の纏められてない無造作な長い髪が風に流れる。
伸びと一緒に髪は波のように揺れる。
その何ともないような行動に、ヤマトとイビキは複雑な顔をする。
「絶対安静とかって言ってなかったか?」
「数日は……」
「もう、回復しているように見えるのだが……」
「ボクも、そんな気がします……」
両親の説明には、いつも落とし穴がある。
医療忍者に手紙を書くように言われて、他の部分が完治したことを伝え忘れた。
逆に伝えたら伝えたで、ヤオ子の変態性がアップする。
何より、母親の変態的な話し掛ける医療がヤオ子の回復に繋がったなどと信じたくない。
そんな事情など、何も知らずにヤオ子は笑顔で振り返る。
「風が気持ちいいですね」
「そうだね」
「里は、随分とすっきりしちゃいましたね」
「そうでもないよ」
ヤマトが指差す。
「ほら。
もう、家を建て始めているんだ」
「本当だ……。
ヤマト先生の強制労働の成果ですか?」
ヤマトが項垂れる。
「その通りなんだけどね……」
そのやり取りに、イビキが軽く笑う。
「まだ、終わってないんですね。
木ノ葉の里は……」
「ああ。
皆、動き出している」
「あたしも、さっさと復帰しないと。
雑務忍者として頑張らないといけませんからね」
「何をする気なんだ?」
イビキの問い掛けに、ヤオ子は目を細める。
「イビキさ~ん?
あたしの能力を忘れていませんか?」
「能力?」
「ヤマト先生の術の家には配管とかが通っていないんですよ?
あたしが任務で覚えた配管整備(水道、ガス)、電線の整備、アンテナの設置、etc...。
それらを使って家を家らしくしなくちゃ」
「そうだったな」
(ある意味……。
この子は、今、一番木ノ葉に必要な存在だった……)
ヤオ子が体を動かして軽い体操をする。
鈍った体に新鮮な血液が行き渡っていく。
「大掛かりになりそうです。
でも、遣り甲斐がありますね」
「頼もしいな」
「前から、木ノ葉全体に手を入れたかったんですよ」
「「は?」」
体操を終えて、ヤオ子が落ちている棒を拾うと地面にガリガリと簡易的な地図を描く。
「これは?」
「前の木ノ葉の里です。
主要な建物だけを記しています」
「器用だな……」
「この地図をですね……」
ヤオ子が地図を書き換える。
「こういう風にして……。
電線と地下の配管を変えたかったんです」
「…………」
ヤマトとイビキが沈黙する。
「もう、プロの領域だな……」
「そうですね……」
「そして、この配管の隣に……」
更に地図を書き換える。
「シェルターを作ります」
「…………」
「今回の敵のような攻撃を考えると、かなり深く掘りたいですね。
あと、地下倉庫の分配も。
口寄せで呼び出せる道具を分配しておけば、一箇所潰されても代用が利きますからね」
ヤオ子の説明にヤマトが慌てる。
「ストップ!
そんなのボク達に言われても分かんないよ!」
「そうなの?」
「そう……」
「でも、里を再建するなら考えなしに再建するよりも、
この機にパワーアップするべきだと思うんですよね」
ヤマトとイビキが顔を見合す。
「ヤオ子を早くそれ相応の部隊に引き渡すべきでは?」
「賛成だ。
ここで才能を埋もれさすのは勿体ない。
里の再建に必要な全ての能力を持ち合わせているんだ。
さっさと引き渡そう」
話は、少し逸れた。
ヤオ子の話したいことは、こういうことではなかった。
「と、里を見て話が逸れました。
・
・
戦いの終着と暁。
これを詳しく聞きたいんです。
もう、下忍だからって、黙っているわけにもいかないです」
ヤマトとイビキに真剣さが戻る。
ヤマトは、イビキに質問する。
「言っていいんですかね?」
「出来れば話したい。
だが、言えない」
「どうして?」
「理由は、幾つかある。
お前のような下忍に秘密にされていたこと。
それの許可を出していたのが火影様だということだ」
「じゃあ、綱手さんに許可を貰えばいいの?」
「それがそんな簡単なことじゃないんだ」
ヤオ子が首を傾げる。
「何で?」
「綱手様は、お倒れになられた。
里を守るために力を使い過ぎたのだ」
ヤオ子は綱手の心配をしてから質問する。
「容態の方は、どうなんですか?」
「昏睡状態らしい……。
意識も戻っていない……」
「そんな……」
ヤオ子は目を閉じて、あの日のことを思い出す。
「少しだけなら覚えています。
カツユさんを口寄せしていましたよね?」
「ああ……。
そのお陰で被害が最小に抑えられたんだ。
だけど、それで綱手様はチャクラを全て使われてしまった……」
(綱手さん……)
ヤオ子は目に見えないところで起きていた事態に、今の木の葉が、また窮地にあることを思った。
そうなれば、自然と自分の意識がなかったところに目が向くことになる。
「……戦いの終着を教えてください。
里がこの状態です……。
また木ノ葉崩しのようになったんじゃないですか?」
「そこが謎の多いところなんだ」
イビキが、今回の終着を話す。
「今回、里を襲撃した六人のペインと呼ばれる者は、
亡くなられた自来也様の弟子でもあった者が操っていた。
そして、そのペインを倒したのがナルトだ」
「ナルトさんが……。
・
・
ちょっと、待ってください。
自来也さんは、本当に亡くなったんですか?」
「知らない者も居たのか……」
「知っているのは噂です。
綱手さんも、自来也さんの葬儀をしていませんし……。
・
・
やっぱり、本当なんですね?」
ヤマトが、ヤオ子に話す。
「自来也様が亡くなられたのは、この襲撃の一週間ほど前なんだ。
そして、その間に色んなことがあったんだ。
訃報の知らせを持って来たのは、口寄せの契約をしていた蝦蟇だったし、
そこで手に入れたペインの死体の一体を調べたり、
次に狙われるだろう木ノ葉やナルトの対策も取らなければならなかった……。
だから、連絡が遅れたんだ……。
自来也様の葬儀は、また別の日に行なわれるはずだ……」
「……色んなことがあり過ぎて分からなくなって来ました。
でも、事の顛末だけは知っておきたいです……」
ヤオ子がイビキを見ると、イビキは頷いて続きを話す。
「ペインを倒したあと……。
ナルトは今回の首謀者と会話をして、何らかの答えを導き出したようだ。
詳しくは分からないが、相手にとっても自分にとっても……。
その結果、首謀者の術で、里で死んだ者が生き返ったのだ」
「生き返った!?」
ヤオ子がヤマトを見ると、ヤマトは黙って頷いた。
「今回の襲撃は、色んなことが入り組みすぎて──ちょっと、待ってください。
今の生き返ったって話だけで考えさせてください。
・
・
前回の襲撃──木ノ葉崩しに比べると、建物が壊れただけで済んだということですか?」
「そうだ。
だが、件の術は死者にしか効果がないようなのだ。
お前は自力で回復していたからな」
「そっか……。
その術が生きている人にも有効なら、綱手さんも回復している……。
そうなると、怪我をした人とかだけが被害者になるんですか?」
「そうみたいだ」
「怖い術ですね……。
まるで生と死を区別しているみたいです……」
「そういう術かもしれん。
実際、戦闘中に魂のようなものを引き抜かれた者も居た」
「信じられないことばかりです」
ヤオ子は暁と言う組織の力が、少しだけ分かった気がした。
そして、今回の襲撃の人数の少なさから、敵の組織が少数精鋭で成り立つ理由が分かる。
戦いの終着はわかった。
暁という組織は、里の噂や今回の襲撃での自分なりの考えの範囲だけで理解した。
「イビキさん、ありがとう。
ちょっと信じられないことばかりでしたけど、執着のの経緯だけは分かりました」
そして、今度は自分のことを考える。
地下で身動きが出来なかったことが思い浮かぶと、自分の足りない力と欲しい力を認識する。
ヤオ子は、暫くして静かに口を開く。
「ヤマト先生。
お願いがあるんです」
「何だい?」
「……あたしに新しい力をくれませんか?」
「力?」
「あたし、さっちゃんの任務で二人に大事なものを貰いました。
一つは思いを分け合えるという気持ち。
そして、子供で居られる時間です。
・
・
あの時、イビキさんがあたしを止めてくれて……。
ヤマト先生が悲しみを半分貰ってくれて……。
イビキさんもあたしの気持ちを貰ってくれて……。
あたしは、忍者でありながら子供で居られました。
それは、とても大事な時間でした。
・
・
でも、その時間も自分で幕を引かなくちゃいけません」
ヤオ子は拳を握る。
「あたしには、守る力があった……。
あたしの手から、今度はすり抜けなかった命がある。
だから、あたしは忍者なんです。
・
・
気持ちだけは、ヤマト先生とイビキさんに近づきました。
今度は、実力も近づけてヤマト先生やイビキさんみたいになりたい」
「…………」
ヤオ子の真剣な言葉を聞き、ヤマトは真剣に考えてヤオ子に質問する。
「確かに認めなければいけないこともある。
・
・
何の力が欲しいんだい?」
「土の性質と水の性質が欲しいんです」
「二つも?」
「はい」
「時間の掛かることだよ?」
「だから、早い段階からの努力が必要なんです」
「気持ちは分かるけど……どうして急に?」
「この数日間、ずっと考えてました」
イビキが驚く。
「数日って……。
お前は、意識がなかっただろう?」
「夢の中で、閉じ込められていたことを繰り返し考え続けていました。
あの時、あたしに土の性質変化があれば脱出できたのにって……。
あの時、あたしに水の性質変化があれば水分を補給できたのにって……」
ヤマトは溜息を吐く。
「それさ……。
考えてたんじゃなくて魘されてたんじゃないの?」
「……そうとも言いますね」
ヤマトとイビキは苦笑いを浮かべる。
「時々、心配になるよ。
普段、あれだけ自分勝手なのに、自分以外のことにいつも一生懸命になり過ぎる」
「でも……」
「そこがいいところでもあるんだけどね」
「……褒めてるの? 貶してるの?」
「ヤオ子らしいってことなのかな」
「どういう意味……」
イビキは、ヤマトとヤオ子のやり取りを見て笑っている。
しかし、ヤオ子は少し緩んでしまった空気の中でも必死に説明する。
「でも、やっぱりこの二系統は必須なんです。
今回の件もそうですが戦闘においても、
いくらシミュレーションをしても切ることが出来ないんです」
「シミュレーション?」
イビキは少し分からないという顔をする。
それを察して、ヤオ子がヤマトに話し掛ける。
「ヤマト先生は、前に話したことを覚えていますか?」
「術の結果が残るか残らないか……だね?」
「はい」
「何のことだ?」
ヤマトがイビキに説明する。
「ヤオ子は、チャクラの性質変化を自分なりに二分割して考えているんです。
『火』『風』『雷』をエネルギー放出系。
『土』『水』が術の結果を残す──岩壁とか湖のように……」
「変わっているな」
ヤマトの説明に、ヤオ子が新しい考えを説明に加える。
「そして、今回気付いたのが術の及ぼす範囲です。
巨大な瓦礫を手持ちの系統じゃ撤去できませんでした。
エネルギー放出系は個体に対する威力は大きいですが、その分、範囲が小さい。
しかし、『土』と『水』は広範囲に成果が及びます」
「言われてみれば……。
そういう術が多い気がする」
「理由も考えました。
無から作り出すのと違い、
『土』と『水』は、そこにあるものを利用するからと考えます。
例えば、今居るこの顔岩。
ここで岩を利用して隆起させるのと、0から火を生成する。
どちらがチャクラを使いますか?」
「確かに……。
もっと大きく考えてみよう。
この顔岩全体に隆起させる術を施すのと、顔岩全体を多い尽くすほどの炎の術……。
チャクラを使うのは後者だろうね」
「はい。
あたしは、そういう考えを持っています。
故に土遁と水遁を覚えたいんです」
ヤマトは、腕を組んで深く考える。
それは土遁や水遁が簡単に身につくものではないからだ。
それに新しい系統の性質変化を覚えさせるのが正しいのかも悩む。
しかし、イビキがヤオ子を推してくれた。
「教えてあげたら、どうだ?」
「しかし……」
「この子がカカシより才能がないとは言い切れんだろう?」
「カカシ先輩ですか?」
「ああ。
オレは、アイツが複数の性質変化の術を使っていたのを見たことがある。
写輪眼を持っていないから、術までコピーは出来ないだろうが、
二系統の性質が身につかないとも言い切れない」
「そうですね……」
「何より、努力することを否定するのは苦手だ」
ヤマトは溜息を吐く。
「分かった。
教えるよ」
「ありがとうございます」
「ただし、辛い修行だよ?」
「簡単な修行なんてありませんでしたよ?」
「……それもそうだ」
ヤオ子とヤマトとイビキは笑い合う。
「でも、ボクも忙しくなる」
「二年掛けて戻した里が、また崩壊ですからね」
「うん。
だから、忙しい時は宿題を出す。
時間があれば、修行を見ることにするよ」
「お願いします」
ヤオ子は深く頭を下げる。
「頑張ります。
ヤマト先生やイビキさんのような立派な忍者になります」
ヤオ子は、この日を堺に大人への一歩を踏み出した。
それは辛い修行の再開でもあった。
…
深夜……。
ヤオ子は、病室の天井を眺めて思っていた。
(サスケさん……。
あたし、まだ待つことが出来るみたいです。
死なずに済みました。
・
・
いつかサスケさんが木ノ葉に戻って……。
あたしの人生と再び交わった時……。
サスケさんと肩を並べられるようになっているといいな……)
ヤオ子は目を閉じる。
(まずは、里を取り戻します。
綱手さんも復活して、それから……。
・
・
やることだらけで纏まりません。
あたしの未来への切符もバッシュと同様に真っ白です)
ヤオ子の思考が停止し、静かな寝息が流れ始める。
(サスケさん……。
あたし……。
・
・
再び会えるのを待っていますよ……)
眠気が勝ると、やがて夢の中へとヤオ子は落ちていった。