== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
豪火球の術を完成させ、サスケの課題は終わった。
あとはサスケが戻るのを待つだけでいいヤオ子は少し楽な気分だった。
「久々に気持ちが軽いですね。
家を焼かれる心配もなくなったし。
・
・
でも、サスケさんが木ノ葉に近づいている足音は、ひしひしと感じるんです。
トラウマを理解してから、サスケさんの気配が分かるんですよね。
到着するまで……後、一日。
サイヤ人の来襲を待つクリリンのような気分です」
ヤオ子にトラウマの副産物、サスケ感知の能力が追加された。
第8話 ヤオ子の悲劇・サスケの帰還
豪火球の術が完成しても、ヤオ子はサスケの修行場を訪れている。
ここは何だかんだで、色々とお世話になっている場所になっていた。
「サスケさんも明日到着ですし、綺麗にしときますか」
『この場所に対するお礼か、愛着が湧いてきたのかもしれない』そんなことを思いながら、ヤオ子は影分身の術で四人になると辺りに散らばった手裏剣やクナイを集め始めた。
それらを一本一本見極めて状態別に箱に詰める。
箱に詰めるのにも、しっかりと選り分けを行なう。
A:まだ、使える。
B:そろそろメンテナンスが必要。
C:ご臨終。
そして、分割した一人の影分身は的を回収していた。
「う~ん……。
これは、修繕が必要ですね。
特にサスケさんは命中率がいいですから、
真ん中のところが穴だらけです」
影分身のヤオ子は真ん中の円の円周の一点に穴を空けると、糸鋸を使って円を綺麗に抜き取る。
更に抜き取った表面に鑢掛けをして綺麗にする。
「次は、ここに嵌め込む別の木を作らないと」
木の葉の周辺には広大な森林が茂っている。
誰も見てないし一本ぐらいいいだろうの精神でヤオ子の影分身は手頃な木を伐採すると、鋸を引いて代用の木の円を作っていく。
それを先ほどの的に嵌め込み、裏で固定すると的にぴったしと収まった。
「これで、いつでも付け替え可能ですね。
サスケさんの腕なら真ん中の円だけの付け替えだけで、
的全部を替える必要はないでしょう」
器用に的を直して見せたヤオ子の影分身だが、コピーの大元であるヤオ子の能力が無駄に高いお陰である。
ヤオ子は貧乏が染み付いているので、再利用やリサイクルに対する努力を厭わない。
故に、この程度のことは苦にも思わず、そつなくこなす。
「さて。
今日は、早めに帰ろうかな」
選り分けた手裏剣とクナイの箱を積み上げると、ヤオ子はシートを被せた。
そして、辺りを最終確認して修行場を後にした。
…
翌日、サスケ達第七班が木の葉に帰還し、任務の報告の後、第七班は解散した。
そして、サスケが帰り道になる川沿いの道を歩いていると、その道の真ん中で腕組みをして仁王立ちをする少女が一人。
サスケは、それを問答無用、無言で蹴り飛ばした。
「何するんですか!?」
「何故、オレの帰りが分かるんだ?」
「それはめくるめくサスケさんとの甘い二人の時間が、
運命という言葉で二人を縛ったからです」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
ヤオ子は頭を押さえて、キッ!と睨み返す。
「いったいなーっ!
暴力以外で愛情表現出来ないんですか!?」
「何で、そんなにテンション高いんだよ?
オレは、任務が終わって疲れているんだ」
「本当ですか?」
「ああ」
「そうですか……。
じゃあ、これで」
ヤオ子が踵を返すと、サスケはふと思い出す。
「待て」
ヤオ子が振り返る。
「修行は、どうなった?」
「やっぱり、聞くんじゃないですか?」
「やっぱり?」
「これであたしが迎えに行かなきゃ、
また家を焼こうとするんでしょ?」
「…………」
サスケが顎に手を当て考える。
「よく分かったな」
「はい! やっぱり!
家は焼かせません!」
サスケは振り返ると、ヤオ子を置いて歩き始める。
「あの……どちらへ?」
「いつもの場所だ」
「何で、着いて来いって言わないんですか?」
「お前は、もう分かっているはずだ」
(帰って来て直ぐのこの独裁者っぷりは、何?
ふふふ……サスケさん。
あなたは、やっぱりただのドSではないようです)
ヤオ子も、サスケの後に続いた。
…
サスケの修行場……。。
そこでサスケは少し驚いて辺りを観察し、的に手を伸ばす。
「的が新しくなっている……」
「ああ。
穴だらけだったんで直しました」
「お前が直したのか?」
「そうですよ。
ついでに手裏剣とクナイも回収して選り分けて置きました」
サスケは直ぐ側にあったシートを取って確認する。
「ヤオ子──」
「はい?」
(褒めてくれんのかな?)
「──お前、本当のパシリ体質だったんだな」
「…………」
ヤオ子はグググッと前傾姿勢で何かを溜め込み、次の瞬間、サスケに叫んだ。
「何ですか!? それ!?
感謝の一つでも言ったら、どうなんですか!?
こんな高スペックな八歳児なんて、何処を探しても居ないですよ!」
「ん? ああ、助かった」
「……それだけ?」
サスケは腕を組む。
「他に何が欲しいんだ?」
「もっと心を込めろーっ!」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「お前はあまり見返りを求めるから、感謝が薄らぐんだ!」
「ううう……。
あんまりだ……」
(あ~……。
本当にうるさいな……。
折角、ナルトとサクラから開放されたっていうのに……)
サスケは疲れた顔で、腰に手を当てる。
「それで修行は、どうなんだ?」
「ちゃんとやってましたよ。
サスケさんは居なくても、あたしを縛ってましたから……」
「ハァ?」
ヤオ子は乾いた笑いを浮かべると沈黙する。
自分がサスケに逆らえないなどというトラウマを知られるわけにはいかない。
誤魔化すように、ヤオ子は続ける。
「まあ、いいです。
何から見せますか?」
「手裏剣術からやってみろ」
「はい。
・
・
……折角、新しくしたのにあたしから使っていいんですかね?」
「いいから早くやれ」
「いや、でも……。
何かあたしが造ったものを最初に汚すのは……サスケさんであって欲しいじゃないですか」
ヤオ子に、サスケのグーが炸裂する。
「その変な表現は何なんだ!?」
「そういうのって、興奮しませんか?」
「するか!
いいから、さっさとやれ!」
「……了解」
自分の崇高な趣味が分かって貰えず、ヤオ子はややテンション低めで的に向き直る。
しかし、的を目にすれば集中力が自然と上がってくる。
ヤオ子が手裏剣術と基本的な忍術を披露すると、サスケは腕を組んだまま動けなくなった。
(驚いたな……。
ほぼ的の中心に投擲出来てやがる。
術も悪くない。
何より凄いのが、あの印を結ぶスピードだ。
信じられないが、カカシより早いんじゃないか?)
その無言無表情のサスケに、ヤオ子は困っていた。
(分からない……。
基本無表情だから、何も読み取れない……。
ひょっとして、また怒らせた?)
次の指示を待つヤオ子に、サスケが先を促す。
「最後だ。
豪火球の術をやってみろ」
「…………」
その指示は、ヤオ子が一番返答に困るものだった。
故に、ヤオ子は黙りこくってしまう。
「どうした?」
「あの……やる前に言いわけさせてください」
「何だ?」
「あたし、豪火球の術を見たことないんで、
違うものになってるかもしれません」
サスケは顎に手を当てる。
「そういえば……。
ヤオ子には見せていなかったか?」
「はい」
(コイツとナルトって根っ子の部分が似てるから、
時々、勘違いするんだよな……。
・
・
待てよ……。
そうしたらコイツ、性質変化のイメージをどうやって作ったんだ?)
サスケは少し疑問を持ちつつも、素直にミスを認めることにした。
「今回は、完璧にオレのミスだ。
失敗してもいい」
「本当ですか!?
じゃあ、気楽にやりますね!」
(気楽にやるなよ……)
テンションが上がったヤオ子はポンと手を打つ。
「そうだ!」
「何だよ?」
「サスケさんのミスなんだから、
成功したら、何か見返りをください!」
「エロいことじゃなければ考えてやる」
「じゃあ、本気で一発殴らせてください」
「……いいだろう」
「約束しましたよ!」
ヤオ子は不適な笑いを浮かべたあと、人差し指と中指を立てて両手を合わせると集中し始める。
「猛れ! あたしの妄想力!」
(それ、毎回言うのかよ?)
ヤオ子が禍々しいチャクラを練成し、最大限に胸に留め始める。
そして、息を吸い込みチャクラを混ぜ合わせると印を結びながら、キュピーンと目を光らせた。
(ラブ・ブレス!)
ヤオ子の口から吐き出された火炎はハートに形成され、禍々しく空気を燃焼させる。
威力、火炎を留める形の形成、全てが術として機能していた。
「どうですか!?」
テンション高めに振り向くヤオ子に、サスケのグーが炸裂する。
「このウスラトンカチ!
何で、お前は、いつもオレの斜め上を行くんだ!?」
「失敗?」
「形のことだ!
何だ!? あのふざけた形は!?」
「釘付けでしょ?」
「アァ!?」
サスケの言葉に威圧されると、ヤオ子は萎縮する。
「な、何でもないです……。
・
・
え~と、形でしたよね?
何で、でしょうね?
あたしがやるとああなります」
ヤオ子が嘘をついて誤魔化すと、サスケは突っ込む気すら失せた。
「術の威力は完璧なのに……。
いや、寧ろオリジナルより高いかもしれないのに……」
サスケが額を押さえて項垂れる。
「どうですか?
サスケさん、一発殴らせてくれます?」
サスケが溜息を吐く。
「約束だ。
殴らせてやる」
「本当ですか!?」
「ああ」
早速と腕を廻して、ヤオ子はサスケに狙いを定める。
当のサスケは、溜息を吐いて腕組みをしている。
「うおぉぉぉ!
キル! ユー! ヘル!」
ちなみにヤオ子が言いたかったのは『Go to the hell!』である。
「あれ?」
殴り付けたと思ったサスケをヤオ子は素通りした。
「終わりだ」
「ええっ!? 何っ!?
何が起きたの!?
サスケさんが、一瞬消えた!?」
波の国で、サスケはチャクラコントロールの修行をして来ている。
それを使ってチャクラを一気に練り上げ、足に集中したのである。
そこから生み出される爆発的なスピードに、ヤオ子は着いていけなかった。
「もう一回!」
ヤオ子は、何回もサスケをぶん殴ろうとする。
徐々に殺気も込め出すが、サスケは余裕で躱し続ける。
「はあ…はあ……。
卑怯者ーっ!
初めから、ぶん殴らせる気なんてないんじゃないですか!」
「当てればいいだろう」
「そんな界王星で修行して来た孫悟空みたいなスピードに、
太刀打ち出来るわけないでしょう!」
「また訳の分からない例えを……」
「大体、目で追えないスピードって何なんですか!?
何で、一ヵ月ぐらいで人間捨てて来ちゃったんですか!」
サスケのグーが、ヤオ子に炸裂する。
「誰が人間を捨てた!」
「だって~!」
「お前にも教えてやる」
「…………」
ヤオ子はチョコチョコと頬を掻く。
「えっと……。
また、そのパターン?
・
・
それ覚えたら、本当に人に回帰出来なくなっちゃうんじゃないですか?」
「安心しろ。
他にも覚えることは沢山ある」
ヤオ子は遠い目で明後日を見る。
「最近さ……。
あたしも、ようやく忍者の修行って、
健康的でいいかもって思い出したんです。
でも……。
さっきのあれはありませんよ。
もう、人間じゃないですもの」
「一ついいか?」
「ええ」
「口から火吐くのは、どうなんだ?」
「…………」
ヤオ子は乾いた笑いを浮かべる。
「何だ……。
あたしはとっくに人間を捨てていたんですね」
「じゃあ、教える」
「…………」
ヤオ子は腰に左手を当てる。
「サスケさん。
波の国に行ってスルースキルでも
身につけて来たんですか?」
「一ヵ月だからな……。
ナルトとサクラと……。
そのスキルを覚えないとこっちが持たない。
見事なものだったぞ。
オレの担当上忍のスルースキルは」
(と言っても、カカシは、ほとんど寝たきりだったが……)
「何というか、苦労してますね……」
サスケは、ヤオ子に同情される自分を何故か虚しく思った。
…
サスケが覚えたチャクラの新しい修行方法をヤオ子に伝えることになる。
サスケはヤオ子を連れて木の前に立つと説明を始める。
「オレがやって来たのは、チャクラコントロールの修行だ。
足の裏にチャクラを集めて吸着させ、手を使わないで木登りをする」
「それとさっきの関係あるんですか?」
「練り上げたチャクラを必要な分だけ、
必要な箇所に集めてコントロールする修行だ。
足の裏はチャクラを集めるのに困難な場所らしい」
「へ~。
それを利用して、さっき走ったんですか?」
「そういうことだ」
「なるほどね~。
でも……。
何で、チャクラが吸着出来るの?」
「…………」
ヤオ子に言われて気づいたが、サスケ自身、何故、チャクラで吸着できるのかよく分からなかった。
そこで出た言葉は完全な予想だった。
「形態……変化じゃないのか」
「出た……。
また、訳の分からないチャクラの謎の性質。
分からないけど、何か使える。
何なんですかね?
チャクラのこの万能性って」
「お前、細かいな。
使えているならいいじゃないか」
「あたしは、サスケさんのアバウトさに吃驚です」
「オレの家系は忍者で当たり前のように使っていたから、
そんな疑問を抱かないんだ」
「そんなもんですかね」
「そんなもんだ。
やってみろ」
「お手本なしですか……。
まあ、いいです。
今ので大体分かりました。
あたしが、ただの幼女でないことを証明して見せます。
・
・
猛れ! あたしの妄想力!」
両手を合わせると、ヤオ子は思いっきりチャクラを練り上げ始めた。
(コイツ……オレの話を聞いていたのか?
必要な分だけ練り上げなきゃいけないのに)
ヤオ子がゆっくり木に足を掛けると、木はヤオ子のチャクラ吸着に負けてバキバキと音を立てる。
そして、ヤオ子は、お構いなしに次の足を木にくっつけた。
(それで、どうするんだ? ヤオ子?)
「うおぉぉぉ!」
ヤオ子は力任せに吸着する足を引っぺがし前進させる。
木には引っぺがした後と新たに吸着した後が生々しく残る。
己のチャクラ吸着と脚力の力勝負を慣行させて、ヤオ子は力任せに木を登り始めた。
「…………」
サスケは予想外のことに開いた口が塞がらない。
ヤオ子は、何処までもサスケの斜め上を進み続ける。
「うおぉぉぉ!」
八歳の幼女の声とは思えぬ雄たけびが森に響き渡る。
ヤオ子の足には木屑や木片が次々に吸着されて凄いことになっている。
そして、ヤオ子は木のてっぺんまで登り切った。
「サスケさ~ん!
出来ましたーっ!」
「出来てねェ……」
「え!? 何ですか!?
聞こえませんよ!」
木のてっぺんから聞こえるヤオ子の声に、サスケは叫ぶ。
「このウスラトンカチ!
それは間違いだ!
下りて来やがれ!」
「…………」
しかし、ヤオ子は一向に下りようとしなかった。
「何してんだ!」
「下りれません……」
「ハァ!?」
「何か木が凄いことになってて、
これ以上傷つけたら倒れそうです」
ヤオ子のチャクラ吸着のせいで、木はご臨終を迎えようとしていた。
「ったく! あの馬鹿!
飛び降りろ!」
「出来るかーっ!
十メートル以上あるじゃないですか!」
「オレが受け止めてやる!」
「本当ですか?」
「任せろ!」
ヤオ子はモジモジとしたあと、声を大にする。
「あの……出来れば、お姫様抱っこでお願いします!」
(余裕あるじゃねーか……)
「行きます!」
ヤオ子が手をクロスする。
「アーイ!」
右手を広げる。
「キャーン!」
左手を広げる。
「フラーイ!」
しかし、足は離れない。
「やっぱり! 怖いです!」
サスケは眉間に皺を寄せ、額を押さえる。
そして、ヤオ子の足目掛けてクナイを投げつける。
「ちょっと!」
サスケの投げたクナイをヤオ子はジャンプして躱す。
「あ!
・
・
キャ~~~!」
ヤオ子が落下を始めると、ヤオ子を捕まえるべくサスケは身構える。
「何っ!」
が、ヤオ子の足に吸着されていた木屑や木片が開放されると凄まじい勢いで降り注いできた。
サスケは、思わず回避してしまった。
そして、ヤオ子をキャッチし損ねる。
サスケの目の前で、ヤオ子は凄い勢いで地面に激突した。
地面には、ヤオ子の人型が出来ている。
「し……死んだか?」
「死んでたまるかーっ!
何で、受け止めてくれないんですか!?」
(ノーダメージかよ……)
「あたしがギャグ体質じゃなかったら、
死んでましたよ!」
「お前……もう、何でもありだな」
ヤオ子は穴から這い出ると、ゴキゴキと首を鳴らす。
「大丈夫なのか?」
「体の前面がジンジンします」
「それだけか?」
「それだけです」
「…………」
「一楽にでも行くか……」
「あ。
ラーメン一杯で許してあげますよ」
サスケは安いことだと思いながらヤオ子と修行場を後にした。