== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
外壁以外破壊しつくされた木ノ葉隠れの里に、カカシに背負われてナルトが帰還する。
長門の術・外道輪廻転生の術で生き返った人々が、破壊された里の真ん中で里を救った英雄に歓声を上げる。
全てが万事解決で終わったかのように見えた。
だけど、すれ違いも起きていた。
長門の術が終わった後で力尽きた者……。
ヤオ子には、術の恩恵が与えられない。
第79話 ヤオ子がいない①
最初に異変に気付いたのは、弟のヤクトだった。
この歓声の中に、あの姉の声が一切しない。
歓声に沸く人混みの中を姉を探して走る。
そして、ヤオ子の信頼を置く人物を見つける。
「イビキさん!」
その声に、イビキがヤクトを見る。
「確か……。
ヤオ子の弟の……」
「お姉ちゃんを知りませんか!?」
「ヤオ子?
見ていないが……」
「おかしい……」
「見つからないのか?」
「はい……。
こういうところに、お姉ちゃんが居ないのは変なんです!」
「確かに……。
あの明るいヤオ子の声が聞こえないというのは……。
少し聞いてみよう」
ヤクトを連れ、イビキが顔岩近くに設置された情報部の情報を確認する。
そこにはヤオ子の行動がしっかりと残されていた。
顔岩でのヤクトを通じた薬草と医療道具と水の提供。
そして、ヤオ子は、ヤクトと別れてから救助活動に参加していたことが明らかになる。
そこで救助隊に救助活動に必要な道具も提供している。
(相変わらず用意周到な子だな……。
あの任務以来、拍車が掛かったようだ)
そして、ヤオ子は救助活動に入る。
ヤオ子の影分身が仮施設に何度も顔を出しているのを確認している。
「君のお姉さんは、救助活動に参加していたみたいだ。
怪我人を運んで来た際のサインが残っている」
イビキが、その時のリストをヤクトに見せる。
「本当だ……」
ヤクトもリストに残る、ヤオ子の筆跡を確認した。
イビキは、その時の隊長だった暗部の忍を見つけると事情を聞く。
「途中まで一緒だった。
巨大な瓦礫を退かして重傷者を救出したんだ」
「そうか……」
「その後、重傷者の言葉からヤオ子に応援が出ているはずだが……」
「その後があるのか?」
イビキが情報を整理し、リストを再確認する。
「そこで情報が切れている。
誰も応援に行っていない……」
「じゃあ、お姉ちゃんは?」
「まだ、その近辺に居るのかもしれない」
「ボク、行きます!」
直ぐにでも走り出そうとしたヤクトの肩をイビキが掴む。
「待て!
感知タイプの忍も必要だ!」
ヤクトは焦り過ぎていたことを認識する。
そして、心配で堪らないのを我慢して声を絞り出す。
「分かりました……」
イビキは『大丈夫だ』と安心させるようにヤクトの頭を力強く撫でる。
暫くすると、日向一族の忍が協力してくれることになった。
…
ヤオ子の捜索を始めるための捜索隊が結成される。
イビキは情報部隊の指揮を執らなければならず、参加できない。
それでも、万が一を考えて無理して一人医療忍者を加わえてくれた。
捜索隊は、ヤクト、日向一族の忍、医療忍者の三人で構成されることになった。
「イビキさん。
ありがとう」
「すまない。
オレ達の情報ミスでもある」
「誰も責めれないです……。
特にお姉ちゃんが馬鹿してる可能性も高いから……」
「そ、そうか……」
(さすが姉弟だ……。
ヤオ子の行動パターンを熟知しているな……)
「ま、待って!」
声の方向に皆が振り返ると、ヤマトが息を切らして立っていた。
「どうしたんだ?」
「どうしたじゃありませんよ……。
任務の途中でナルトの九尾の反応があって、
急いで戻って来たら、里は壊滅されているのに歓声があがってて……。
何か全てが終わってて……。
・
・
このまま終わったら、ボクが戻って来た意味が分からない……」
(ヤマトって、そういう扱い多い気がするな……)
「じゃあ、手伝ってくれるんですか?」
「ああ。
任せて!」
捜索隊には、ヤマトも加わることになった。
…
ヤオ子の捜索が始まる。
場所は、ヤオ子が女の子を捜索したと思われる場所。
早速、日向一族の忍が印を結んで白眼を使う。
「居ないな……」
白眼で360度確認するが、ヤオ子の姿どころか人の姿一人確認できない。
「やっぱり居ない……」
ヤクトが腕を組んで考える。
「有り得ない」
「何で?」
ヤマトは、直ぐに質問した。
「お姉ちゃんって、変に完璧主義者なんです」
「何となく分かる……」
「だから、女の子が見つからない限り、ここに居るはずなんです」
「しかし、何で、姿がないんだろう?
それどころか形跡すら残っていない」
「空かも?」
「まさか……」
皆が上を見る。
「じゃあ、地面かな?」
「まさか……。
ヤクト君……。
適当なことを言ってない?」
「真剣ですよ……。
お姉ちゃん、いつも斜め上の行動をするから」
(家族間でも、そういう認識されてんだ……)
しかし、日向一族の口から驚きの声があがる。
「本当に地面に居たーっ!」
「嘘!?」
「やっぱり……」
全員が日向一族の忍の周りに集まる。
「どんな様子ですか?」
「拙い……。
子供を庇って瓦礫に押し潰されてる」
「!」
全員に緊張が走った。
「ボクの木遁忍術で救出します。
詳しい情報をください」
日向一族の忍が白紙の巻物と筆を取り出すと、図にヤオ子と女の子、そして、瓦礫の状況を描き出した。
「このクナイは、何なんですか?」
医療忍者が女の子の後ろのクナイを指差して質問する。
「まただ……。
お姉ちゃんは、また庇ったんだ……」
「庇う?」
皆が図に目を向けると、ヤクトが指差す。
「このクナイと自分の体で、倒れる瓦礫から女の子を庇ってんだよ。
お姉ちゃん……。
よく虐められたボクを庇ってくれた……。
こういう時、いつも体を張るんだ……」
「……分かった。
早く助けよう」
日向一族の指示の元、ヤマトが木遁忍術を使う。
「木遁・四柱牢の術!」
ヤマトの木遁忍術が瓦礫ごとヤオ子と女の子を木製の牢の中に囲み、ヤオ子に覆い被さっていた瓦礫を押し退ける。
そして、地下から木製の牢がヤクト達の前に姿を現した。
「お姉ちゃん!」
木製の牢の扉からヤクトが中に入り、ヤオ子に近づくと肩を掴む。
「あ……。
冷たい……」
「退いて!」
医療忍者がヤオ子に触れると、胸に耳をつける。
冷たくなっているのは曝されている肌だけで、心臓は動いている。
「まだ、間に合う!
応援を呼んでください!」
「オレが行く!」
日向一族の忍が走り、ヤマトが木遁忍術を更に行使する。
「木遁・四柱家の術!」
介抱する場所のない場所に木遁の家を出現させると、ヤマトは女の子の方を抱きかかえる。
「こちらに!」
医療忍者はヤオ子を抱きかかえ、ヤマト達はヤオ子と女の子を木遁の家へ運び込んだ。
…
ヤオ子に対して医療忍者が医療忍術を掛けるが、一向にヤオ子の顔には生気が戻らない。
「何をしたんだ!?
この子は!?」
心配になったヤクトが、ヤオ子の左手を取る。
「左手だけ温かい……」
ヤクトが日向一族の忍が残していった図を広げる。
図のヤオ子の左手は、女の子の胸にある。
ヤクトが静かな寝息を立てる女の子の胸を触る。
「おじさん……。
お姉ちゃんは、この子にチャクラを当て続けていたんだよ。
お姉ちゃんの左手とこの子の胸が温かい……」
ヤクトは医療忍者の前に図を差し出した。
図を見ると、医療忍者は声を荒げる。
「何て無茶をするんだ!
自分は瓦礫の下敷きになって!
それでもチャクラを使い続けるなんて!
・
・
力を使い切った証だ!
この子の髪は!」
ヤオ子の髪は、全て白髪に変わっていた。
ヤマトは部屋の中で火を熾しながらヤオ子を見る。
(ずっと、気にしていたからな……。
だから、こんなに一生懸命になって……)
ヤマトは火を熾し終わると女の子の様子を見る。
「この女の子は、大丈夫そうですね」
「当然だ!
この子が命を懸けて頑張ったんだから!」
医療忍者は、叫びながら必死に医療忍術を掛け続ける。
そして、応援が駆けつける。
治療をしていた医療忍者が、応援に来た医療忍者の忍達に指示を出す。
「直ぐに点滴を!
あと、左足と左側の腰と左肩を!」
ヤオ子の治療が続く。
点滴が行なわれるとヤオ子に少し赤みが戻って来た。
「う……」
ヤオ子が手を伸ばす。
そして、戻った体力でチャクラを生成し始めた。
「何をしてるんだ?」
ヤオ子の手は、何かを探す。
「うう……。
・
・
あぁぁぁ!」
ヤマトが予想を口にする。
「女の子を捜しているんじゃないですか?」
ヤオ子の手は女の子を求めて彷徨う。
そのヤオ子の手をヤクトが握る。
「……大丈夫だよ。
心配しなくても、もう、こんなに温かいよ」
「…………」
ヤオ子の手は彷徨うのをやめ、チャクラを練るのもやめる。
ヤクトがヤオ子の手を下ろすと、ヤオ子は安心したように静かな寝息を立て始めた。
「とりあえず、ここまでだ。
そして、絶対安静!
・
・
他の患部は?」
「肩は、骨に皹が入っています。
腰は、打撲のみ。
足は、大きく皹が入っているようです。
どちらにしても、医療忍術で細胞を活性化させるには体力を回復してからでないと……」
「生命維持までだな……」
ヤクトがヤマトに質問する。
「結局、お姉ちゃんは?」
「時間を掛けて療養だ。
大丈夫だよ」
ヤクトが大きく息を吐くと、医療忍者にお礼を言う。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして。
・
・
しかし、問題もあるんだ……」
「問題?」
「病院が吹っ飛んでしまった……。
お姉さんをゆっくり休ませられない」
「……それは問題ですね」
ヤクトが上を見て右を見て左を見る。
「ヤマトさんに作って貰えば、いいんじゃないの?」
「…………」
医療忍者二人が顔を見合う。
「「それだ!」」
医療忍者の二人はキュピーンと捕食者の目でヤマトを見た。
「何か…嫌な予感……」
これがきっかけで、ヤマトは、この後、家作りの強制労働をさせられたとかさせられなかったとか……。