== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
コラボ忍術で粉砕した瓦礫の下から、ヤオ子達は重傷者の三人を救出する。
ついでにヘロヘロのカツユの分身三体も救出された。
暗部の忍がカツユに話し掛ける。
「カツユ様……。
治療をお願い出来ますか?」
「治療出来るのは、ここまでですね。
これでチャクラがなくなります。
それも応急処置までです」
「構いません。
お願いします」
ヤオ子はカツユと暗部の忍の会話を聞いて、全員が力を出し切ってしまったことを理解する。
そして、それを聞いてしまって、言えないことがあった。
第78話 ヤオ子の居場所・死守編
カツユの応急処置のあと……。
重傷者を運ぶのに担架が必要になった。
ヤオ子のチャクラは、影分身を出せないぐらいに減っている。
それも仕方がない。
影分身を使える忍がヤオ子一人だったため、救助者が見つかる度にヤオ子の影分身が活躍した。
また、怪我と必殺技の連発による疲弊も尾を引いている。
そして、チャクラが少なくなったヤオ子を残して人手を集めることになった。
皆が去った後で、ヤオ子は蹲る。
「傷口が…開いた……」
ヤオ子の背中のサラシに血が滲み始める。
「ま、拙いですね……。
カツユさんの治療を受けられなかった……。
重傷者が優先だから、思わず押し黙っちゃいました……。
体力が回復するまでチャクラも暫く練れません……。
出血って体力そのものが流れ出るんですかね……」
ヤオ子は一息つくと、自分よりも酷い状態の重傷者の体を確認し始める。
「応急処置で出血を止めただけか……」
ヤオ子は散乱する瓦礫から棒切れを拾い集めると、怪我人の折れた骨に添え木を当てていく。
そして、そのうちの一人に添え木を当てた時、意識を取り戻して声を漏らした。
「うっ……」
「すいません。
痛かったですか?」
「た…助かったのか?」
「はい。
今、担架を取りに行ってます。
もう少し待っていてくださいね」
「ああ……」
怪我をした彼が横を見る。
「他に……。
女の子も居なかったか?」
「いいえ。
ここには皆さんしか……。
カツユさんが付いていたのは、皆さんだけです」
「それでか……。
一般人だと思うんだ。
近くに居た……。
探してくれないか?」
「構いませんけど……。
他の方が到着したら困ります」
「オレが伝える……。
戻るまで十分かそこらだろう?
それぐらいは意識を保つから……」
ヤオ子が悩んでいると、里の外で大きな音がする。
巨大な岩の塊が浮いている。
ペイン・天道の地爆天星が発動していた。
「万が一も、まだあるってことですか……。
・
・
分かりました。
位置は?」
「東……。
東に二百メートルぐらいのところに居た」
「そこで爆発が起きたんですね?」
「ああ……」
ヤオ子が辺りを確認する。
「顔岩の近くだったんですか……。
ここから、東に二百メートル……。
・
・
一人で巻き込まれたんなら……」
もう……女の子は、既に死んでいるかもしれない。
ヤオ子が首を振る。
「諦めない……。
これが今の最善です!」
ヤオ子は目撃された女の子の探索へと歩き出した。
…
距離は僅か200メートル。
ヤオ子は目的の場所付近で足を止め、辺りを見回す。
目視では、何も分からない。
「誰か居ませんかーっ!」
瓦礫だらけの場所で、ヤオ子の声だけが響く。
「分からない……。
爆発が中心で起きて外に押し出された……。
だったら、壁際の瓦礫じゃないでしょうか?」
ヤオ子が外側に向けて歩き出したその時、瓦礫が崩れる音がする。
ヤオ子は崩れた瓦礫の方へ顔を向ける。
「こっち?
何もないのに……」
一見すると瓦礫が積み重なっているようにしか見えない。
しかし、注意深く見ると、瓦礫には所々隙間がある。
ヤオ子は大きな隙間のある崩れた瓦礫の下を覗く。
「誰か居ますか?」
「…~っ……」
「何か聞こえる……」
ヤオ子は瓦礫の隙間をしゃがんで確認する。
「匍匐前進(ほふくぜんしん)なら、進めるかな?)
両手両足を地面につけて、ヤオ子は瓦礫の隙間を進んで行く。
「奥に続いてる……。
這い蹲って行けますね」
ヤオ子は瓦礫の隙間を奥へ奥へとに進んで行く。
そして、突然、足元の瓦礫が崩れた。
「ちょっと!」
瓦礫が雪崩のように滑り落ち、ヤオ子はかなり下までずり落ちた。
「っ~……。
瓦礫の下にこんな空間が……。
そっか……。
大分、積み上げられていたんですね」
瓦礫で出来た空間は、ヤオ子が落ちて来たせいで塵が舞い少し埃っぽい。
そして、塵が全て舞い落ちて視界が広がると、ここが少し大きな空間であるのが分かった。
ヤオ子が、立って歩ける空間を進む。
しかし、広いと言っても瓦礫で作られた空間。
歩いて直ぐに終点に着いた。
「行き止まり……。
戻るしかないか……」
「…ん……」
僅かに聞こえた声に、ヤオ子は振り返る。
そして、辺りを見回し、音の出所を探す。
「…ん……」
「ここ!」
ヤオ子が声のした地面に顔を擦りつける。
「この穴からです」
前方にギリギリ通れそうな穴が、別の空間へ続いていた。
「途中で崩れたりしないかな?
・
・
チャクラ……回復しててくださいよ。
猛れ! あたしの妄想力!」
ギリギリの体力から搾り出すチャクラを使用して、ヤオ子が印を結ぶ。
「変化!」
変化の術を使用出来るチャクラは回復していたようだ。
例によって猫に変化し、ヤオ子は猫の姿で穴を通り抜ける。
「居た!」
狭い空間で変化を解くとヤオ子は発見した女の子に駆け寄り、そっとおでこを撫でる。
女の子の目がゆっくりと開くと、女の子は少し微笑んで完全に気絶してしまった。
「何で!?」
女の子は安心して気が抜けてしまったのだ。
「仕方ない……。
怪我がないか確認するか」
ヤオ子は女の子の体を調べる。
外傷のないのを確認し、骨などに異常がないかを確認する。
「見たり触ったりした感じは問題ないですね。
・
・
問題は、この子を連れて行けないってことです。
この子、変化の術なんて使えないよね?」
ヤオ子が腕組みして考える。
「ここに居ても仕方ないし、一度出て応援を呼びましょう」
そして、反転しようとした時、地響きがする。
「また!? 脆くなってたの!?」
外では地爆天星で作った巨大な岩の塊が崩れて落下していた。
その振動がヤオ子の潜った瓦礫の下にも届いていた。
瓦礫が崩れ始める。
「あ~! もう!」
ヤオ子は女の子の元に戻ると覆い被さった。
…
ヤオ子と女の子に瓦礫が崩れ降り注いだ。
ヤオ子の前後左右どころか上下でも音がして揺れている。
そして、決定的な音が入り口でした。
「…………」
ヤオ子は、ゆっくり目を開ける。
「セ~フ……」
押し潰されなかったことに、ヤオ子は安堵の息を吐いた。
瓦礫は、ヤオ子と女の子に僅かな空間を残してくれた。
「しかし、完璧に動けないですね。
空気もいつまで持つか……。
・
・
あ。
空気は流れてる……」
窒息死だけはなくなった。
ヤオ子は、周りを確認する。
ヤオ子の後ろの瓦礫が抱える女の子の後ろで大きな瓦礫に寄り掛かる形で空間を作っている。
「拙い……。
感知タイプの忍が見つけてくれるまで動けない……。
それに、瓦礫に振動が伝わって倒れたら二人とも潰される……」
ヤオ子は狭い空間でゴソゴソと動いて腰の後ろの道具入れに手を伸ばす。
しかし、そこに異変がある。
「裂けてる……」
慌てて残りの忍具を確認する。
「クナイが三本……。
口寄せする巻物がない!
・
・
ホルスターは!?」
右足には何もない。
「嘘!?
いつ落としたの!?」
ヤオ子は、女の子に覆い被さる時に走った右足の何かが切れる感覚を思い出す。
「あれか……」
幸いにも、左足にはホルスターが付いてる。
「クナイが更に三本……。
手裏剣四枚……。
・
・
食べ物はなし……。
水もない……」
ヤオ子は溜息を吐く。
現在の状態は、右手を下に横になって女の子と向かい合っている状態である。
自由に動くのは左手のみ……。
持ち物は、クナイ六本に手裏剣四枚。
「ここで出来ることがあるとすれば……」
ヤオ子は左手にクナイを持って、女の子の後ろに刃が当たらない方向で突き刺した。
「後ろの壁が倒れた時に、
この子が潰れないようにクナイでつっかえ棒を作るのみですね」
女の子の後ろにクナイを全て突き刺して立て、手裏剣は少しでも役に立つように現在の瓦礫の根元付近につっかえ棒として固定した。
「これで、やれることは終わりです。
あとは、運を天に任せるのみ」
ヤオ子は息をゆっくり吐いて、気が抜けた。
「うっ!」
その瞬間、忘れていた背中の傷の痛みが走った。
「アドレナリンでも出ていたんですかね……。
薬の効果も薄れて来たのかも……。
・
・
開いた傷の血が止まらない……」
背中が濡れているのが、横になっているだけでもはっきり分かる。
「発見が先か……。
失血死が先か……。
・
・
もちろん、血が止まるという選択肢もありますけどね」
ヤオ子は自分の腕の中で寝息を立てる女の子に目が行く。
「寝息のリズムに釣られそうです……」
いつしかヤオ子も眠りの中に落ちていった。
…
ヤオ子が目を覚ます。
力が抜けて、体はぐったりと重い。
背中の血は止まっているようだが、大分流れ出たようだ。
思考力が低下している。
ヤオ子は女の子の手が自分の腰にあるのに気付くと、それをそっと地面に置く。
「倒れて来た瓦礫に挟まれるのは、あたしだけでいいです」
思考力の低下した頭で、死を意識する。
それでも、何故か目の前の女の子を守らなきゃと思う。
(あたしって、自虐的なMだったんですかね……。
・
・
喉渇いたな……。
この子に水分を補給させてあげたいな……。
水遁が使えれば……)
混濁する意識の中で振動を感じる。
(……ついに頭もおかしくなりましたか?)
それは勘違いではなかった。
ペイン達を操った暁のメンバー長門との決着をつけたナルトに駆け寄る足音だった。
しかし、人々は知らなかった。
彼等の足元にヤオ子と女の子が横たわっていることを。
幾人もの足がヤオ子達を踏みつけていく。
その振動でついに瓦礫のバランスが崩れた。
…
外での歓声とは裏腹にヤオ子は、息が切れる寸前だった。
最悪の予想通りのことが起きた。
バランスの崩れた瓦礫が、女の子とヤオ子に倒れたのだ。
ヤオ子の最後の抵抗のクナイに支えられ、僅か数センチの差で女の子には、瓦礫は触れていない。
しかし、クナイのない反対側でつっかえ棒になっているのはヤオ子の体だった。
肩、腰、足に容赦なく瓦礫は覆い被さる。
(っ……。
痛い……。
重い……。
・
・
左足が……完璧に板ばさみになってる)
ヤオ子が左足の指に力を込めると、指は、反応を返す。
(神経は繋がっていますね……。
痛みが返るんだから当たり前か……。
でも、骨に皹ぐらいは入ってますね……きっと。
・
・
あ……。
折角、止まった背中の血が……)
背中の血が再び流れ出す。
(拙いですね……。
痛いし…重いし…血は出てるし……。
死ねば楽になるかもしれないけど、死ねないし……。
あたしが死んだら、この子を瓦礫が押し潰す……。
今、瓦礫のバランスを取っているのは、あたしなんだから……)
痛みと重さと気を失わないように、ヤオ子は耐え続けた。
そして、救助の来ないまま二時間が過ぎようとしていた。
…
夜が近づき、帳が降りる……。
気温が下がってくると女の子が震えだした。
(まだ……。
助けが来ない……)
ヤオ子が無理に左手の掌を女の子の胸に置くと、チャクラを練り始める。
微弱に流したチャクラを掌だけに集中する。
(温かいものを想像して……。
熱過ぎるのはダメ……)
ヤオ子が人の温もりを思い出す。
しがみ付いて感じた温かい思い出……。
最後にしがみ付いた……。
(ふふ……。
あの時は、最後に鼻水つけちゃいましたね……。
でも、温かかった……)
ヤオ子が掌のチャクラを火の性質に変える。
温度は、人肌……。
女の子の震えが止まる。
(早く……)
残りのチャクラを僅かずつ消費しながら、ヤオ子は女の子を温める。
(目が霞んで来た……。
どうせ使えないなら……)
ヤオ子は目を閉じる。
(視力か……。
今度は、何の感覚がなくなるのかな……)
思考が薄れて意識がなくなり掛ける中で、ヤオ子の頭に色んな人の顔が浮かぶ。
(ヤマト先生……。
イビキさん……。
守れる側にはなれないみたいです……)
今度は、女の子に触れている感覚が消えていく。
(ヤクト達……。
大丈夫かな……。
・
・
サスケさん……。
約束守れない……。
待つことも出来ない……。
・
・
ごめんね……。
でも、木ノ葉の火種は残すから……。
この子は、意識がなくなっても守るから……)
意識が途切れる。
(…………)
ヤオ子は、何も分からないままチャクラを練り続けた。
そして、今度は永い眠りにゆっくり落ちようとしていた。