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No.13840の一覧
[0] 【ネタ・完結】NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~[熊雑草](2013/09/21 23:12)
[1] 第1話 八百屋のヤオ子[熊雑草](2013/09/21 21:27)
[2] 第2話 ヤオ子のチャクラ錬成[熊雑草](2013/09/21 21:28)
[3] 第3話 ヤオ子の成果発表[熊雑草](2013/09/21 21:28)
[4] 第4話 ヤオ子の投擲修行[熊雑草](2013/09/21 21:29)
[5] 第5話 ヤオ子と第二の師匠[熊雑草](2013/09/21 21:29)
[6] 第6話 ヤオ子の自主修行・豪火球編①[熊雑草](2013/09/21 21:30)
[7] 第7話 ヤオ子の自主修行・豪火球編②[熊雑草](2013/09/21 21:30)
[8] 第8話 ヤオ子の悲劇・サスケの帰還[熊雑草](2013/09/21 21:31)
[9] 第9話 ヤオ子とサスケとサクラと[熊雑草](2013/09/21 21:31)
[10] 第10話 ヤオ子と写輪眼[熊雑草](2013/09/21 21:32)
[11] 第11話 ヤオ子の自主修行・必殺技編①[熊雑草](2013/09/21 21:32)
[12] 第12話 ヤオ子の自主修行・必殺技編②[熊雑草](2013/09/21 21:32)
[13] 第13話 ヤオ子の自主修行・必殺技編③[熊雑草](2013/09/21 21:33)
[14] 第14話 ヤオ子の自主修行・必殺技編④[熊雑草](2013/09/21 21:33)
[15] 第15話 ヤオ子の自主修行・必殺技編⑤[熊雑草](2013/09/21 21:34)
[16] 第16話 ヤオ子とサスケと秘密基地[熊雑草](2013/09/21 21:34)
[17] 第17話 幕間Ⅰ[熊雑草](2013/09/21 21:35)
[18] 第18話 ヤオ子のお見舞い①[熊雑草](2013/09/21 21:35)
[19] 第19話 ヤオ子のお見舞い②[熊雑草](2013/09/21 21:36)
[20] 第20話 ヤオ子のお見舞い③[熊雑草](2013/09/21 21:36)
[21] 第21話 ヤオ子の体術修行①[熊雑草](2013/09/21 21:36)
[22] 第22話 ヤオ子の体術修行②[熊雑草](2013/09/21 21:37)
[23] 第23話 ヤオ子の中忍試験本戦・観戦編[熊雑草](2013/09/21 21:37)
[24] 第24話 ヤオ子の中忍試験本戦・崩壊編[熊雑草](2013/09/21 21:38)
[25] 第25話 ヤオ子と木ノ葉崩し・自宅護衛編[熊雑草](2013/09/21 21:38)
[26] 第26話 ヤオ子と木ノ葉崩し・自宅壊滅編[熊雑草](2013/09/21 21:39)
[27] 第27話 幕間Ⅱ[熊雑草](2013/09/21 21:39)
[28] 第28話 ヤオ子の新生活①[熊雑草](2013/09/21 21:40)
[29] 第29話 ヤオ子の新生活②[熊雑草](2013/09/21 21:40)
[30] 第30話 ヤオ子の新生活③[熊雑草](2013/09/21 21:41)
[31] 第31話 ヤオ子の下忍試験・筆記試験編[熊雑草](2013/09/21 21:41)
[32] 第32話 ヤオ子の下忍試験・実技試験編[熊雑草](2013/09/21 21:42)
[33] 第33話 ヤオ子の下忍試験・サバイバル試験編[熊雑草](2013/09/21 21:42)
[34] 第34話 ヤオ子の下忍試験・試験結果編[熊雑草](2013/09/21 21:43)
[35] 第35話 ヤオ子とヤマトとその後サスケと[熊雑草](2013/09/21 21:43)
[36] 第36話 ヤオ子の初任務[熊雑草](2013/09/21 21:44)
[37] 第37話 ヤオ子の任務の傾向[熊雑草](2013/09/21 21:44)
[38] 第38話 ヤオ子の任務とへばったサスケ[熊雑草](2013/09/21 21:45)
[39] 第39話 ヤオ子の初Cランク任務①[熊雑草](2013/09/21 21:45)
[40] 第40話 ヤオ子の初Cランク任務②[熊雑草](2013/09/21 21:46)
[41] 第41話 ヤオ子の初Cランク任務③[熊雑草](2013/09/21 21:46)
[42] 第42話 ヤオ子の初Cランク任務④[熊雑草](2013/09/21 21:47)
[43] 第43話 ヤオ子の初Cランク任務⑤[熊雑草](2013/09/21 21:47)
[44] 第44話 ヤオ子の憂鬱とサスケの復活[熊雑草](2013/09/21 21:47)
[45] 第45話 ヤオ子とサスケの別れ道[熊雑草](2013/09/21 21:48)
[46] 第46話 幕間Ⅲ[熊雑草](2013/09/21 21:48)
[47] 第47話 ヤオ子と綱手とシズネと[熊雑草](2013/09/21 21:49)
[48] 第48話 ヤオ子と、ナルトの旅立ち[熊雑草](2013/09/21 21:49)
[49] 第49話 ヤオ子と第七班?①[熊雑草](2013/09/21 21:50)
[50] 第50話 ヤオ子と第七班?②[熊雑草](2013/09/21 21:51)
[51] 第51話 ヤオ子の秘密[熊雑草](2013/09/21 21:51)
[52] 第52話 ヤオ子とガイ班のある一日[熊雑草](2013/09/21 21:51)
[53] 第53話 ヤオ子と紅班のある一日[熊雑草](2013/09/21 21:52)
[54] 第54話 ヤオ子とネジとテンテンと[熊雑草](2013/09/21 21:52)
[55] 第55話 ヤオ子とアスマ班のある一日[熊雑草](2013/09/21 21:53)
[56] 第56話 ヤオ子と綱手の顔岩[熊雑草](2013/09/21 21:53)
[57] 第57話 ヤオ子とサクラの間違った二次創作[熊雑草](2013/09/21 21:54)
[58] 第58話 ヤオ子とフリーダムな女達[熊雑草](2013/09/21 21:54)
[59] 第59話 ヤオ子と続・フリーダムな女達[熊雑草](2013/09/21 21:55)
[60] 第60話 ヤオ子と母の親子鷹?[熊雑草](2013/09/21 21:55)
[61] 第61話 ヤオ子とヒナタ班[熊雑草](2013/09/21 21:56)
[62] 第62話 ヤオ子と一匹狼①[熊雑草](2013/09/21 21:57)
[63] 第63話 ヤオ子と一匹狼②[熊雑草](2013/09/21 21:57)
[64] 第64話 幕間Ⅳ[熊雑草](2013/09/21 21:59)
[65] 第65話 ヤオ子とヤマトの再会[熊雑草](2013/09/21 22:00)
[66] 第66話 ヤオ子とイビキの初任務[熊雑草](2013/09/21 22:00)
[67] 第67話 ヤオ子の自主修行・予定は未定①[熊雑草](2013/09/21 22:01)
[68] 第68話 ヤオ子の自主修行・予定は未定②[熊雑草](2013/09/21 22:01)
[69] 第69話 ヤオ子の自主修行・予定は未定③[熊雑草](2013/09/21 22:02)
[70] 第70話 ヤオ子と弔いとそれから……[熊雑草](2013/09/21 22:02)
[71] 第71話 ヤオ子と犬塚家の人々?[熊雑草](2013/09/21 22:02)
[72] 第72話 ヤオ子とカカシの対決ごっこ?[熊雑草](2013/09/21 22:03)
[73] 第73話 ヤオ子の居場所・日常編[熊雑草](2013/09/21 22:04)
[74] 第74話 ヤオ子の居場所・異変編[熊雑草](2013/09/21 22:04)
[75] 第75話 ヤオ子の居場所・避難編[熊雑草](2013/09/21 22:05)
[76] 第76話 ヤオ子の居場所・崩壊編[熊雑草](2013/09/21 22:05)
[77] 第77話 ヤオ子の居場所・救助編[熊雑草](2013/09/21 22:05)
[78] 第78話 ヤオ子の居場所・死守編[熊雑草](2013/09/21 22:06)
[79] 第79話 ヤオ子がいない①[熊雑草](2013/09/21 22:06)
[80] 第80話 ヤオ子がいない②[熊雑草](2013/09/21 22:07)
[81] 第81話 幕間Ⅴ[熊雑草](2013/09/21 22:07)
[82] 第82話 ヤオ子の自主修行・性質変化編[熊雑草](2013/09/21 22:08)
[83] 第83話 ヤオ子の自主修行・能力向上編[熊雑草](2013/09/21 22:08)
[84] 第84話 ヤオ子の自主修行・血の目覚め編[熊雑草](2013/09/21 22:09)
[85] 第85話 ヤオ子の旅立ち・お供は一匹[熊雑草](2013/09/21 22:10)
[86] 第86話 ヤオ子とタスケの口寄せ契約[熊雑草](2013/09/21 22:09)
[87] 第87話 ヤオ子の復活・出入り禁止になった訳[熊雑草](2013/09/21 22:10)
[88] 第88話 ヤオ子のサスケの足跡調査・天地橋を越えて[熊雑草](2013/09/21 22:11)
[89] 第89話 ヤオ子のサスケの足跡調査・北アジトへ①[熊雑草](2013/09/21 22:11)
[90] 第90話 ヤオ子のサスケの足跡調査・北アジトへ②[熊雑草](2013/09/21 22:12)
[91] 第91話 ヤオ子のサスケの足跡調査・北アジトへ③[熊雑草](2013/09/21 22:12)
[92] 第92話 ヤオ子のサスケの足跡調査・状況整理[熊雑草](2013/09/21 22:13)
[93] 第93話 ヤオ子とサスケ・再び交わる縁①[熊雑草](2013/09/21 22:13)
[94] 第94話 ヤオ子とサスケ・再び交わる縁②[熊雑草](2013/09/21 22:14)
[95] 第95話 ヤオ子とサスケの新たな目的[熊雑草](2013/09/21 22:14)
[96] 第96話 ヤオ子と小隊・鷹[熊雑草](2013/09/21 22:14)
[97] 第97話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・マダラ接触編[熊雑草](2013/09/21 22:15)
[98] 第98話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・作戦編[熊雑草](2013/09/21 22:15)
[99] 第99話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・深夜の会話編[熊雑草](2013/09/21 22:16)
[100] 第100話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・作戦開始編[熊雑草](2013/09/21 22:16)
[101] 第101話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・奪還編[熊雑草](2013/09/21 22:16)
[102] 第102話 ヤオ子とサスケの向かう先①[熊雑草](2013/09/21 22:17)
[103] 第103話 ヤオ子とサスケの向かう先②[熊雑草](2013/09/21 22:17)
[104] 第104話 ヤオ子とサスケの向かう先③[熊雑草](2013/09/21 22:18)
[105] 第105話 ヤオ子とサスケの向かう先④[熊雑草](2013/09/21 22:18)
[106] 第106話 ヤオ子の可能性・特殊能力編①[熊雑草](2013/09/21 22:18)
[107] 第107話 ヤオ子の可能性・特殊能力編②[熊雑草](2013/09/21 22:19)
[108] 第108話 ヤオ子と砂漠の模擬戦[熊雑草](2013/09/21 22:19)
[109] 第109話 ヤオ子とイタチの葬儀[熊雑草](2013/09/21 22:19)
[110] 第110話 ヤオ子とサスケの戦い・修行開始編[熊雑草](2013/09/21 22:20)
[111] 第111話 ヤオ子とサスケの戦い・修行編[熊雑草](2013/09/21 22:20)
[112] 第112話 ヤオ子とサスケの戦い・最後の戦い編[熊雑草](2013/09/21 22:21)
[113] 第113話 ヤオ子とサスケとナルトの中忍試験・筆記試験編[熊雑草](2013/09/21 22:21)
[114] 第114話 ヤオ子とサスケとナルトの中忍試験・サバイバルレース編[熊雑草](2013/09/21 22:21)
[115] 第115話 ヤオ子とサスケとナルトの中忍試験・本戦編[熊雑草](2013/09/21 22:22)
[116] 第116話 ヤオ子の八百屋[熊雑草](2013/09/22 01:07)
[117] あとがき[熊雑草](2010/07/09 23:40)
[118] 番外編・ヤオ子の???[熊雑草](2013/09/21 22:23)
[119] 番外編・サスケとナルトの屋台での会話[熊雑草](2013/09/21 22:23)
[120] 番外編・没ネタ・ヤオ子と秘密兵器[熊雑草](2013/09/21 22:24)
[121] 番外編・没ネタ・ヤオ子と木ノ葉と砂と①[熊雑草](2013/09/21 22:25)
[122] 番外編・没ネタ・ヤオ子と木ノ葉と砂と②[熊雑草](2013/09/21 22:26)
[123] 番外編・没ネタ・ヤオ子と木ノ葉と砂と③[熊雑草](2013/09/21 22:26)
[124] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第1話[熊雑草](2013/09/21 22:27)
[125] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第2話[熊雑草](2013/09/21 22:27)
[126] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第3話[熊雑草](2013/09/21 22:27)
[127] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第4話[熊雑草](2013/09/21 22:28)
[128] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第5話[熊雑草](2013/09/21 22:28)
[129] 番外編・実験ネタ・混ぜるな危険  第6話[熊雑草](2013/09/21 22:29)
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[13840] 第72話 ヤオ子とカカシの対決ごっこ?
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/09/21 22:03
 == NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==



 暁の角都を新術の風遁・螺旋手裏剣で倒したナルトの手が完治するまでのちょっとした期間。
 木ノ葉で一人の男が悩んでいた。
 彼の耳に妙な噂──否、態度が示されたのだ。

 ただ町中を歩いていた。
 それだけなのに……指差された。
 変態だと……。
 彼は、手の中の十八禁小説を見る。


 (これのせいか?)


 そんなはずはない。
 寧ろ、この本をいきなり見て、十八禁と瞬時で見破る奴が指差すはずがない。
 それは、お仲間の類のはずだ。
 噂話に続きがある。


 『あの子と関係があるらしい……』

 (あの子……)


 カカシの頭の中に浮かぶ容疑者は、それほど多くはなかった。



  第72話 ヤオ子とカカシの対決ごっこ?



 十中八九間違いないだろうと、カカシはいきなり核心と思われる人物に接触を試みることにした。
 件の人物は、最近、朝から夕方まで姿が見えず、居所が分からないという噂。
 仕方なく、接触は早朝の彼女の家の前。
 そして、透遁術を使っての尾行を彼女は数分で見抜いた。


 「何してんですか?」

 「…………」


 正直、信じられなかった。
 カカシは、上忍である。
 自惚れているわけでもなく、気付かれない自信があった。
 仕方なく姿を現す。


 「やっぱり。
  あたしを尾行できるのは、あたし以上の変態ぐらいですよ。
  あたしは、日々のストーキング行為により、
  尾行されることには最善の注意を払っていますから」

 (何て理由だ……)


 ちなみに、ここ最近でヤオ子の尾行に成功したのは、ヤオ子以上の変態の母親だけである。
 カカシはヤオ子に向かって歩きながら話し掛ける。


 「ちょっと、話があってね」

 「こんな朝から?」

 「朝と夕方しか君を発見できないという噂があってね」


 ヤオ子には思い当たる節がある。
 現在進行形で、修行は続いている。


 「で、話の内容は?」

 「ヤオ子……。
  オレに関して変な噂を流していないか?」

 「噂?」

 「そうだ。
  オレが『馬鹿だ』とか『変態だ』とか……」

 「あと、『だらしない』とか『遅刻魔』とか『ヤマト先生に詐欺した』とか
  『入院魔』とか『変態の部下を二名飼ってる』とかぐらいしか言ってませんけど?」

 「増えてる……」


 カカシは項垂れた。


 「何か問題でも?」

 「即刻、やめなさい」

 「いいですよ」

 (やけに素直だな……)

 「言いたいことは、言い尽くした感じですし」

 (手遅れだった……)

 「この前、紅さんといのさんにも言ったばっかりです」

 (それであんなに人を軽蔑した目で……)

 「一人に話せば、拡散しますからね。
  今頃、町中に広がってんじゃないですか?」

 (ああ。
  広がってたよ……)


 カカシが額に手を置く。


 「そういうことは、よくないぞ。
  あることないことを言い触らすなんて」

 「あることあることしか言ってないんですけど?」

 「…………」


 カカシは、暫し思考して出方を変えた。


 「ヤオ子。
  君の噂が広まってないのは、何故かな?
  それは他人が悪意ある噂を流さないからだ」

 「違いますよ」

 「違う?
  どうして?」

 「あたしは、自分をしっかりと変態として受け止めています。
  ただのスケベは、とっくに捨てました」


 カカシが項垂れた。


 「そして、それを恥じることなく言ってのけます!」

 (どうなんだ? それ?)

 「そうしたら、噂話が昇華されて都市伝説になり、
  いつの間にか、あたし以外の変態が里に降臨したことになったんです」

 (ついていけない……。
  この子、オレの遥か斜め上を歩き出しちゃってるよ……)

 「これにより、あたしが本物の変態と気づいているのは、
  あたしの変態行為を見抜いた被害者だけです」

 (なるほど……。
  オレは被害者だから気付いたのか……。
  まだ人として戻れるな)

 「カカシさん。
  もう、自分を偽るのをやめて、あたしと一緒にオープンにしたら、どうですか?」

 「オレ、そこまで人間捨ててないから……」


 ヤオ子は溜息を吐いて両手を組む。


 「未練がましいですね。
  忍び耐える者を忍者とは言いませんよ?」

 「その言葉を、こんなところで使わないで欲しい……」

 「忍者とは、この世全てのエロを使いこなす者を言います」

 「言わない!」

 「冗談ですよ」


 ヤオ子は笑っているが、カカシは頭が痛かった。
 そのカカシに、ヤオ子は指を立てる。


 「要するに噂を広げなきゃいいんでしょ?」

 「何とかなるのか?」

 「簡単です」

 「何でさ?」

 「負の噂が流れたなら、正の噂を流せばいいんです。
  カカシさんの普通エピソードを流せば、プラスマイナス0です」

 「それで何とかなるのか?」

 「出所は、同じあたしなんだから、広がる経緯も同じですよ」

 (信用できるんだろうか?)

 「広める噂は、第七班の初めての演習で、ナルトさん達をフルボッコにした噂でいいですか?」

 「やめてくれ!
  ドSの変態エピソードが追加されるから!」

 「ダメですか?
  じゃあ、どんなのがいいの?」

 「え?」

 「言ってくださいよ。
  自分を過大評価して負の噂を打ち消すような、嬉し恥ずかしの赤面エピソードを♪」


 カカシが上気して戸惑い始めた。


 「そ、それをオレが言うのか?」

 「自分のことでしょ?」


 カカシは暫く思案するが、やがて何かに耐え切れなくなり、近くの電柱に頭を打ち付け始めた。


 「そんなこと、自分から言えるかーっ!」

 (ふふ……。
  困ってる困ってる……。
  ナルシストでもない限り、自分を褒めるなんて早々できません。
  しかも、変態を打ち消すほどの嬉し恥ずかしの赤面エピソード……)

 「うあぁぁぁ!」


 ガンッ!
  ガンッ!!
    ビキッ!!
     バキキッ!!


 カカシが本気で頭を打ち付け出し、ヤオ子は慌てて止めに入る。


 「ちょっと!
  それ以上は、死に関わりますよ!」

 「オレなんか!
  オレなんか!
  オレなんか居なくなればいいんだーっ!」

 「カカシさん!
  嘘!
  嘘です!
  しっかりしてください!」


 ヤオ子に後ろから止められ、カカシが頭突きを止める。


 「ハッ!
  ・
  ・
  取り乱した……」

 (もしかして、結構、酷いことをしたのかも……)

 「大丈夫ですか?」

 「分からない……」

 (精神的ダメージを蓄積させてしまったようです……)


 ヤオ子はチョコチョコと頬を掻く。


 「仕方ありませんねぇ……。
  あたしが考えます。
  ・
  ・
  コピー忍者・写輪眼のカカシというのは、どうでしょう?」

 「もう、そう呼ばれてたり……」

 「そうなんですか?
  じゃあ、意味ないですねぇ。
  ・
  ・
  少しヒントを貰えますか?」

 「ヒント?」

 「大体でいいんで、どういう路線の人になりたいのか?」

 「普通の評価に戻るなら、何だっていい……」

 「困りましたね……。
  変態路線を強化するなら、イチャイチャの共通項があるので、何とでもなるんですが……。
  ・
  ・
  もう、あたしと一緒に二大変態ヒーローを目指しませんか?
  あたしがレッドで、カカシさんがブルー」

 「絶対、お断りだ!」


 ヤオ子がカカシの正の噂創作に悩み、カカシが落ち込んでいると、早朝の修行をしに行くサクラが現れる。
 目の前には、朝っぱらから頭を抱えて悶え苦しんでいる二人の知人。

 サクラは疲れた顔で二人を見た。


 「何……やってんの?」

 「サクラさん。
  いいところに……♪」


 ヤオ子の目が捕食者の目になる。


 「実は……。
  ・
  ・
  かくかくしかじか……。
  ・
  ・
  で、悩んでいるんです」

 (……馬鹿な上に自業自得な気がする)


 悩みの内容のくだらなさに、サクラは適当に答える。


 「ヤオ子と二人で二大変態ヒーローにでもなればいいんじゃないですか?」

 「…………」


 サクラを指差して、ヤオ子がカカシに振り返る。


 「教え子さんも同じ考えなようですけど?」

 「サクラ……。
  それ却下の方向で……。
  出来れば、変な噂を打ち消したいんだ」

 「…………」


 サクラは溜息を吐くと、腕を組んで答える。


 「ないこともないですけど?」

 「「本当?」」

 「ええ。
  至極、簡単なことです」

 「「え?」」


 カカシとヤオ子が顔を見合わせる。


 「あたし達の思考時間は、何だったんですかね?」

 「言うな……。
  ・
  ・
  それで方法は?」

 「ヤオ子が噂を流したことにすればいいんですよ」

 「?」


 振り出しに戻った?
 ヤオ子は、サクラに訊ねる。


 「どういうことですか?」

 「あんた、自分がこの里で、どういう存在か知ってる?」

 「変態」

 「そう。
  しかも、実態があるんだかないんだか分からないね。
  ・
  ・
  いい?
  あんたのやることなすことがデタラメだから、里の噂は大混乱しているのよ。
  妙に変な能力で問題解決するから、いい噂が立って。
  妙に変態的なことをするから、悪い噂が立って。
  ・
  ・
  いい噂は、ちゃんと残ってるから真人間のイメージを持つ人も居る。
  だから、そういう人達が信じられなくて架空の人物を作り上げ、
  変態エピソードが一人歩きして都市伝説を作り上げる。
  しかも、デイリーで噂が増えていってるから収拾がつかない」

 「そんなことに……」

 「コハルさんが『第二の荒波』とか溢してたわ」

 (母親も都市伝説作ってたからな……)


 ヤオ子は軽く手を上げる。


 「あの~……。
  カカシさんより、あたしの噂を放っといていいんですか?」

 「いいんだって。
  ヤオ子の噂のお陰で里に侵入したスパイが大混乱しているから、
  重要な情報が外に出ても混乱するらしいわ」

 「まさかの予防対策……」

 「十数年前に対策済みらしいわよ」

 「頭痛くなって来ました……」


 ヤオ子が項垂れて黙ると、カカシがサクラに話し掛ける。


 「紅に言われてショック受けたけど……。
  オレの噂なんて数日で消えそうだな」

 「消えると思いますよ。
  カカシ先生の噂をしている人に
  『ヤオ子が発信源です』
  って言うだけで、噂の上書きが起きて消滅すると思います。
  ヤオ子とカカシ先生じゃ、変態としての器が違うんで」

 「サクラ。
  堂々と先生を変態扱いするのは、どうなんだ?」

 「何を今更……。
  初対面で乙女の前で十八禁小説を読んでたクセに」


 ヤオ子がサクラに話し掛ける。


 「しかし、サクラさんは、やけに協力的ですね?」

 「当たり前でしょ?
  自分の班の先生が変態だって噂がいいわけないじゃない。
  その下についてる私は、どうなるのよ?
  揃って変態の烙印を押されるだけじゃない」

 「…………」


 カカシとヤオ子が見詰め合う。


 「カカシさん……。
  何か寒い時代ですね……」

 「同感だ……」

 「そういうわけだから、とっとと噂を消してください」

 「そうさせて貰おう……」


 カカシは少し安心した。
 自分に対する噂は、今日にでも消えそうな感じだった。


 …


 カカシの悩みである噂話は一段落したが、今度は、ヤオ子がサクラの話した自分の噂話に複雑な顔をしていた。


 「しかし、あたしの噂は、本人が知る以上に、凄いことになっていますね」

 「この前なんか凄かったわよ。
  あんたがシノの蟲を食べ尽くしたなんて噂が流れたんだから」


 想像したカカシがゲンナリとする。
 が、ヤオ子は小首を傾げて指を立てる。


 「あのことかな?
  任務中に両手両足が塞がってる状態でシノさんの蟲が攻撃されそうになって……。
  助けようとして口ん中に入れて攻撃回避したんですよ」

 「…………」


 カカシとサクラが嫌なものを想像した。


 「あんた、本当に食べたんじゃない……」

 「酷いですねぇ。
  食してないですよ。
  回避した後で逃がしましたよ。
  ・
  ・
  まあ……。
  その時、口から這い出る蟲を見て、
  ヒナタさんが気絶してしまったんですけど……」

 「最悪……」

 「シ、シノさんは褒めてくれましたよ!
  『命の恩人』だって!」

 「でも……蟲でしょ?」

 「一寸の虫にも五分の魂です!」

 「偉いけど……。
  私には真似できないわ」

 「ヤオ子は手段を選ばんな……。
  そんなことばかりしているから、変な噂が増えるんだよ」


 ヤオ子はフンと鼻を鳴らす。


 「サクラさん。
  他にもあるんですか?」

 「三忍の自来也様を殺そうとしたとか」

 「それ本当」

 「…………」


 サクラがカカシを見る。


 「カカシ先生。
  全部、噂じゃないのかも……」

 「そんなことはないだろう?
  これはないだろうっていうのは、何かないか?」

 「今、あげたのも既にそうなんですけど……。
  じゃあ……。
  禁術の開発に成功したっていうのは?」

 「…………」


 ヤオ子とカカシが揃って目を逸らした。


 「何をやった!?」

 「それ……本当です」

 「しかも、オレも使える……」

 「ハァ!?」

 「実は……。
  綱手さんに開発したエロ忍術を禁止させられました」

 「馬鹿か!」

 「「はは……」」

 「段々、カカシ先生とヤオ子が兄妹に見えてきた……」


 ヤオ子は両手で静止を掛ける。


 「も、もう、やめましょう!
  これ以上聞くと取り返しがつかなくなるような気がします!」

 「もう、つかないわよ……」

 「兄妹は、やめてくれ……」


 自分の噂話のせいで居心地が悪くなると、ヤオ子は慌てて走り出す。


 「あ、あたし、修行しないといけないから!」

 「さっさと行きなさい」

 「はは……。
  それじゃあ!」


 ヤオ子は逃げるように、その場を後にした。
 残されたカカシがサクラに質問する。


 「他には、どんな噂があるの?」

 「新たな禁術を開発中らしいです」

 「本当かな?」

 「分かりませんよ。
  冗談みたいな噂が、ついさっき本当だって暴露されたんですから」

 「そうだよな……。
  ・
  ・
  でも、新しい忍術か……」


 カカシが頬を掻く。


 「修行……見てみようかな?」

 「カカシ先生も好奇心強いですね?」

 「そういう、サクラは?」

 「……見てみようかな?」


 似た者師弟……。


 「場所……分かりますか?」

 「臭いで追える」

 「さすが、カカシ先生」


 二人はヤオ子の臭いを追って、瞬身の術でその場を後にした。


 …


 近い距離の追跡はヤオ子にバレる可能性が高いため、カカシとサクラは少し時間が経ってから街の外へと動き出す。
 とは言っても、木ノ葉のテリトリー内。
 鼻が利くカカシが追跡に失敗することはない。

 カカシとサクラは、ヤオ子の秘密基地のある森へと踏み込んだ。


 「こんなところで修行しているのか?」

 「演習場を使えばいいのに……」

 「道理で姿が見えなくなるわけだ」


 森の木々を飛び移りながら、カカシが鼻を引くつかせる。


 「この森は、広範囲でヤオ子の臭いがするな」

 「広範囲?」

 「きっと、森全体を修行に使っているんだろう」

 「一体、何をしてんのかしら?」


 そして、何気なく木を飛び移った瞬間、何かの切れる音がする。
 カカシはサクラの頭を押さえ、大きな枝の上で移動を止めた。


 「何!?」

 「見ろ!」


 木の下には矢が落ちている。


 「トラップ!?」

 「どうやら、森を使って罠を仕掛ける練習をしているらしいな」


 サクラが木を下りるて矢を拾う。


 「でも、殺す気はないみたいですよ」


 サクラが木から下りたカカシに矢を渡す。
 矢の先には厚い布が巻かれていた。


 「本当だ……」

 「これなら、安心ですね。
  行きましょう」

 「ああ」


 サクラとカカシが近くの木を駆け上がり、移動しようとしたが、二人は停止した。


 「起爆札がある……」

 「前言撤回ですね……」


 カカシが警戒心を強め、周りを確認する。


 「サクラ。
  よく見ろ。
  四方を囲むように配置してある」

 「真ん中に入ったら、誘爆するんですね」

 「そうだ。
  ・
  ・
  それにあの枝を見ろ。
  不自然に一本だけ残っているだろう?」

 「そういえば……。
  周りには焦げた跡も……」


 カカシの指差す先の枝は、一本残して爆破されていた。


 「きっと、正しい枝を踏まないと爆発するんだ」

 「じゃあ、誰か引っ掛かったあと?」

 「動物かもしれないな」

 「ヤオ子め……。
  何て危ないことをするのよ」


 サクラが残った枝に飛び移ると、枝は頑丈であるはずの根元から折れた。


 「キャッ!」


 空中で姿勢を立て直し、サクラは地面に着地する。


 「あのヤロー……」


 が、更に落とし穴が発動する。
 サクラが地中に消えた。


 「った~……」


 尻餅を付いた地面に紙の破れる音がすると、サクラは目を移す。


 「竹やりの絵が書いてある……。
  本物だったら死んでたってか……」


 カカシが穴の中のサクラに声を掛ける。


 「大丈夫か?」

 「ええ……」

 「さっきのは、オレ達に枝が安全であると思わせる罠だったみたいだな」

 「ムカつくわね……」

 「そして、これ……」


 カカシが、先ほどの起爆札をサクラに渡す。


 「偽物?」

 「やっぱり、殺す気はないみたいだ。
  あくまで練習の範疇だ」

 「一体、誰を狙っての練習なんですか?」


 サクラが落とし穴から飛び出て、カカシの隣に立つ。


 「手当たり次第なんじゃないの?」

 「どういうことですか?」

 「周りをよく見て」


 サクラが注意深く周囲を見ると、ワイヤーやロープや偽起爆札が散乱している。


 「こんな怪しい森はないって」

 「そうなると、ヤオ子は別ルートで目的地に向かったの?」

 「いや、新しい臭いは真っ直ぐに続いている」

 「何なの、これ?」


 カカシは顎の下に手を当てる。


 「これも修行なんじゃないか?」

 「修行?」

 「ここを通って目的地に向かう。
  罠を仕掛ける修行と罠を回避する修行だな」

 「自分で仕掛けた罠に引っ掛かります?」

 「だから、目に見えるほどの量を仕掛けてんじゃないの?
  自分が何処に仕掛けたか忘れるぐらいに」

 「徹底してるわね……」

 「いい機会だ。
  オレ達も修行に付き合うか」

 「これを抜けて行くと……。
  分かりました」

 「じゃあ、行くぞ」


 カカシとサクラは、ヤオ子の罠の森へと足を進めた。


 …


 ヤオ子の罠の森……。
 予想外に難易度は高かった。
 細心の注意で罠を発動させないで進んだが、発動した罠も多かった。
 しかし、それら全てを回避したのは、さすが上忍・中忍である。


 「いい勉強になりました……」


 サクラが息を弾ませる。


 「よく研究している……。
  古いものから新しいものまで」

 「ええ。
  驚きました」

 「ここを抜ければ、ヤオ子まで、もう少しのはずだ。
  慎重に行くぞ」

 「慎重?」

 「あの子、尾行に敏感なんだ」

 「そんなに?」

 「ああ」


 今一、サクラは想像できない一方で、カカシが風向きを確認する。


 「西から回る」

 「そこまで警戒しないといけないんですか?」

 「そうだ」

 「いっそ、バラして見学すれば?」


 正直なところ、居所の分からないヤオ子の居所さえ分かればいい。
 新しい忍術を開発したという噂も、ヤオ子本人に確認を取れば済むことだった。
 ヤオ子ははぐれメタルのように、直ぐに逃げ出すわけでもないのだから。


 「……そうするか」


 カカシが頭に手を当てる。


 「正直、ここ抜けるだけで疲れちゃいましたよ」

 「そうだよな。
  こんな罠が続くところに足を踏み入れないもんな」

 「はい。
  普通、罠に気付いたら、ルートを変えるとかします。
  罠があるのを分かって進んで、神経削りませんよ」


 意見が一致する。
 カカシとサクラは、森を抜けて少し開けた場所に出た。


 …


 異様な光景が広がっていた。
 的の変わりに使用したと思われる木にクナイが刺さった跡がある。
 しかも、上から下まで均等に抜き取った跡が残っていて、外した形跡がない。

 そして、爆発により抉れた岩。
 奇妙なのは、こちらも均等な間隔で抉れていること。

 二人がヤオ子を探して辺りを見回すと、上からヤオ子が降って来た。
 音もなく両手両足で着地すると、ヤオ子が声を掛ける。


 「何しに来たんですか?」

 「その前に何処から現れた?」


 ヤオ子が上を指差す。


 「いやいや……。
  あんな上から落ちたら、骨が砕けるわよ」

 「大丈夫ですよ。
  猫は高いところから飛び降りても平気でしょ?
  彼等より頑丈なんだから、同じ要領で着地すれば少しぐらい高くても平気です」

 「ヤオ子は猫じゃないでしょ?」

 「知り合いの猫さんに教えて貰いました」

 (ついに人間以外ともコンタクトを……)


 カカシが会話に混ざる。


 「ひょっとして忍猫か?」

 「そうです」

 「この里に居たっけ?」

 「任務中に知り合いになりました。
  時々、うちをホテル代わりにします」

 ((猫の方が偉いんだ……))

 「それよりも、本当に何しに来たんですか?」

 「ちょっと興味があってね」

 「興味?
  ・
  ・
  あたしのボディラインに?」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「っなわけないでしょ!」

 「じゃあ、秘蔵のエロ本ですか?」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「っなわけないでしょ!
  あんたは、変態でしか構成されてないのか!
  あんたを訪ねる人間は、全員、あんたの変態性目当てか!? アァ!?」

 「そうは言いませんけど……。
  じゃあ、何ですか?」

 「修行を見に来たのよ」

 「そんなの見て、どうするんですか?
  あたしのやってることなんて、アカデミーでもやってる基礎ですよ?」

 「そうなの?」

 「はい。
  だって、サスケさんに教わったものばかりですもん」

 「…………」


 カカシは、木の跡と岩の跡を見る。
 あれは繰り返し修行して出来た成果らしい。


 「サクラ。
  後輩指導してあげたら?」

 「え?」

 「何か懐かしくてな。
  ヤオ子の歳は、お前らが卒業した時と同じぐらいだ」

 「そういえば……」

 「コツとか教えてくれるんですか?」


 サクラが腰に手を当てる。


 「偶にはいいか。
  ・
  ・
  いいわ。
  付き合ってあげる」

 「じゃあ、手裏剣術から教えてください」

 「いいわよ」


 ヤオ子が指差す。


 「あの木と……。
  あの木と……。
  あの木と……。
  あの木と……。
  あの岩の裏の的です」

 「五箇所ね」

 「はい。
  向きを変えずに当てます」

 「……ん?」

 「じゃあ、行きましょう」


 サクラが手で静止を掛ける。


 「ちょっと待った。
  何で、向きを変えないの?」

 「正面向いてたら、当たるのは当たり前だから」

 (当たり前?)


 ヤオ子がトコトコと目標物の中心に移動する。


 「ここが真ん中になります。
  正確に前後左右に木が生えているんです。
  あたしの修行場なので、あたしからやりますね」


 ヤオ子は腰の後ろの道具入れからクナイを取り出すと、正面の木の一番上の跡に目掛けて投げつける。
 更に右足のホルスターから素早く手裏剣を取ると左の木へ。
 今度は、左足のホルスターから素早く手裏剣を取ると右の木へ。
 真後ろには首の横に手を持って行き、手首のスナップを利かして手裏剣を投げる。
 右と左で一枚ずつ。
 そして、最後の岩の後ろを狙って上空にクナイを高く投げるとストンと音がする。
 投擲物は、全て投げつけて出来た跡にジャストミートしていた。


 「こんな感じです」

 「カカシ先生……。
  普通に凄くないですか?」

 「…………」


 カカシが無言で頷く。


 「何処で覚えたんだ?」

 「サスケさんに教わりました」

 (教わって出来るものか?)

 「でも、皆、出来るんでしょ?
  サスケさんは出来て当たり前って言ってましたけど?
  ・
  ・
  あたしは物覚えが悪いんで、最近になって、やっと全部当たるようになって来ました」

 (何か勘違いしているな……。
  サスケのフカシを真に受けたのか?
  ・
  ・
  だが、サスケは幼い頃からやっていたんだろうな。
  第七班で任務をしていた時から、高い命中率だったし)

 「次、サクラさんの番です。
  あたしのクナイの一個下の跡を狙ってください」

 (……無理。
  あんな正確に当たらない……。
  しかも、左右と後ろと岩の後ろは変則投げだし……。
  何より……)

 「あんた、両利きなの?」

 「いいえ。
  右利きですけど?」

 「前から気にはなってたのよ。
  ホルスターが両足に付いているから」

 「最初は敵から奪ったホルスターが余ってたから、左足にも付けていたんですけどね。
  左手で投げる時、『取り易いじゃん』ってなって」

 「それを両利きと言わない?」

 「いいませんよ。
  あたし本来は、右利き。
  忍者だから仕方なく左手も使えるようにしたんです」

 「仕方なく……」

 (そういう発想で使えるようになるものなの?)


 ヤオ子は指を立てる。


 「ちゃんと理由もあるんですよ。
  あたしやサクラさんは、女の子でしょ?
  いつか、力は男の子に負けちゃうんです。
  ・
  ・
  だから、力で負けないように別の方法が必要なんです。
  あたし達は秘伝忍術を伝授できない普通の家系ですからね」


 カカシは、自分の班の構成を思い返す。


 (そういえば……。
  うちの班は、サスケ以外はただの忍者だった。
  アスマ班のシカマル、いの、チョウジ……。
  紅班のキバ、シノ、ヒナタ……。
  同期は、皆、一族秘伝の術を持っていたな。
  そう言った意味では、うちの班は普通の忍者が二人も居たんだな。
  ・
  ・
  いや……。
  ナルトは九尾の力を持っていた。
  そうなるとサクラだけが普通か……。
  それでも他の忍に引けを取らないのは、サクラ自身が進んで綱手様に弟子入りして道を開いた結果だ。
  やっぱり、サクラも自慢のオレの部下なんだな)

 「……と思っていたんですが。
  サクラさんは、予想を無視した男勝りの怪力忍者になっちゃたんですよね」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「怪力言うな!」

 「痛い……。
  最近、殴る時にチャクラも流してません?」

 「流してるわよ!
  あんた、痛みに対して年々鈍感になっていってんだから!」

 「いや……。
  痛覚は変わりませんよ」

 (修行の話と逸れていくな……)


 ヤオ子がパタパタと手を仰ぐ。


 「まあ、サクラさん。
  修行を再開しますんで、一つお手本を」

 「無理よ」

 「何が?」

 「私は右利きだもの。
  あんな変則的な投げ方は出来ないわ」

 「そうなんですか?
  カカシさんは?」

 「多分、出来るな。
  オレは写輪眼で左利きの人間の動きをコピーしているからな」


 ヤオ子がカカシの答えに不満顔になる。


 「前々から思ってたんですけど……卑怯ですよね」

 「卑怯?」

 「あたし、写輪眼に対してはいい思い出がないんで、
  そういうインチキ的な話を聞くと腹が立って」

 「少し分かるわね」

 「コピーして簡単に利用されると
  『あたしの今までの努力が~っ!』って思います。
  まあ、コピーされたことはありませんけど」

 「でも、カカシ先生って写輪眼を使い過ぎると動けなくなっちゃうわよ」

 「リスクもあったんですか……」

 (それで入院が多いんですかね?)


 カカシが修行に使っていた木を指差す。


 「おしゃべりは、ここまでにして。
  続き……やった方がいいんじゃないの?」

 「そうですね。
  じゃあ、続きしますね」


 修行を再開すると、ヤオ子が瞬身の術を使って、各的に刺さったクナイと手裏剣を回収する。
 そして、カカシとサクラの前で、投げては取っての繰り返しを延々と続けていた。


 「何で、ヤオ子は一回一回取りに行くのかしら?」

 「状況を想定しているのかな?」

 「疲れた時の?」

 「多分……」


 サクラは修行に励むヤオ子に目を向ける。


 「何か……こういった修行は、少し疎遠になってるな」

 「ん?」

 「綱手師匠に医療忍術を叩き込んで貰っているから、
  こういった修行が少し疎かになっているかな……って」

 「まあ、それ以外にも中忍になって、こなさなければいけない任務も増えたしな。
  隊のリーダーをすることもあるんだろう?」

 「はい」

 「アカデミーでしっかり身につけることだけど、
  偶には基礎をやるのもいいんじゃないか?」

 「そうですね」


 二人は、ヤオ子に目を移す。


 「それにしても別人の顔つきだな。
  普段の緩んだ顔が嘘みたいだ」

 「本当に……」

 「…………」


 カカシとサクラは、ヤオ子の修行風景を見続けている。
 すると、何か妙な疑問が浮かぶ。


 「カカシ先生……。
  木登りのチャクラ吸着の修行って、あんな全速力でやりましたっけ?」

 「いや……」


 ヤオ子の修行を見続けて、かなり時間が経つが、ヤオ子は休憩を入れていない。
 暫くして、修行中のヤオ子の動きに少しふらつきが出る。
 全速力で行なっているため、疲労が蓄積して来た証拠だ。


 「何かガイの臭いがするな……」

 「ガイ先生?」

 「ああ。
  きっと、ヤオ子が体力強化の質問でもしたんだろう。
  ・
  ・

  『ガイ先生。
   体力強化のコツを教えてください』

  『いい心がけだ。
   だったら、一回一回全力でやるんだ』

  『何で、ですか?』

  『これは二段構えの修行方法だ。
   誰にも言うなよ。
   ・
   ・
   まず、全力で行なうことで何事にも真面目に取り組め、
   体力のみならず、スピードも養うことが出来る』

  『なるほど』

  『更に疲れた時を想定した訓練になる。
   実戦で疲れた時の戦いをしたことがあるのとないのとでは、天と地ほどの差があるからな』

  『さすが、ガイ先生です!』

  ・
  ・
  みたいな……」

 「今、容易にその光景が浮かびました」


 案の定、ヤオ子は『青春! フルパワー!』と気合いを入れて修行を再開していた。


 「はは……」

 「当たりみたいですね」


 二人に見守られながら、ヤオ子の全力木登り修行は続いた。


 …


 木登り修行のノルマを達成すると、ヤオ子は息を切らして二人の前に座り込んだ。


 「随分とハードね」

 「身体エネルギーを……向上させないと……いけませんから」


 ヤオ子は、まだ息が整わない。


 「あと……。
  チャクラの……持続時間……。
  疲れてても練れるように……」

 「無理して答えなくていいわよ」

 「はい……」


 ヤオ子は小さく細かく息を吐き出し、乱れていた呼吸を整え始める。
 そして、息が整い出したところで、ヤオ子は立ち上がり深呼吸する。


 「よし。
  じゃあ、術の訓練をします!」


 隠れ蓑の術、金縛りの術、変わり身の術、縄抜けの術、分身の術、変化の術、etc...。
 アカデミーで習う術を確認しながら、丁寧に実行する。


 「カカシ先生。
  あの指の動きもコピーできます?」

 「あれは無理だな。
  間接が時々、明後日の方向に向いてる」

 「指が柔らかいから、印を結ぶ時に手を放さなくていいのか……。
  それで印を結ぶのが早いのね」


 ヤオ子の動きが止まると、ヤオ子は二人に顔を向けた。


 「ここから、お見せ出来ません。
  あたしの秘密の忍術です」

 「エロ忍術じゃないでしょうね?」

 「違いますよ。
  エロ忍術は使用頻度が高いから修行するまでもありません」

 「嫌な理由ね……」


 サクラに代わり、カカシが質問する。


 「新術なのか?」

 「いいえ。
  あたしの術は危険なんで、遊び半分でカカシさんがコピーすると大怪我するんです」

 「オレは悪戯っ子か……」

 「簡単に言えば必殺技なんです」

 「あんたが、よく叫んでるヤツね」


 ヤオ子が腰に手をあて、反対の掌を返す。


 「あれ、術と一緒にチャクラの盾も形成しなくちゃいけない不完全な術なんです。
  テンテンさん曰く、無駄なチャクラを使う忍術です」

 「分かってても使うんだ……」

 「術の不完全さは置いといて……。
  知らずにカカシさんがコピーしちゃうと、盾を形成し忘れて自爆しちゃうということです」

 「なるほどね」


 カカシが少し違う質問をする。


 「その不便と分かっていて、使い続ける根拠が知りたいな」

 「カッコイイから。
  慣れているから。
  何より、便利だから」

 「不便って言ってたじゃない……」

 「馬鹿と鋏は使いようです。
  一見、馬鹿な術ですがね……利点もあるんです」

 「例えば?」

 「まず、相手のチャクラ性質に火があることを見極める。
  次に術の威力を見せつける。
  ワザと印を教える。
  ・
  ・
  相手にこの術を利用させる状況を作る。
  そうすれば、相手は自爆です」

 「確かに自爆させる忍術なんて聞いたことがないな」

 「はい。
  あと、もう一つあります。
  属性は、火なんですがね。
  爆発って現象だけで考えれば弱点になる性質ってないんです」

 「確かに水の性質で術をぶつけても……」

 「はい。
  相手の術の威力や規模が大き過ぎない限り、
  相手にダメージを与えられると思います」


 ここでサクラが意見を入れる。


 「前から思ってたけど、術の形態はカカシ先生の千鳥みたいよね?」


 ヤオ子は首を振る。


 「大きく違います。
  カカシさんの術は、一定時間の効果があります。
  しかし、あたしの術は瞬間的です。
  だから、チャクラ量の少なかった頃のあたしでも開発できました」

 「ダメージの与え方も違うな。
  千鳥は腕自身を変える。
  だから、高速移動で腕を突き入れる威力を得て、術の威力を高める。
  しかし、ヤオ子の術は、その術の威力のみだ」

 「その通りです。
  この術は、豪火球の術を手の先で失敗させるイメージなんです。
  あたし、豪火球の術から入ったんで」

 「ふざけて話さないと
  それなりの術だったのね」

 「あたしは、いつでも大マジなんですけどね」

 「兎に角、オレがコピーするなら、チャクラの盾も覚えろってことだな?」

 「はい」

 「じゃあ、もう見ても大丈夫だな?」

 「ええ。
  でも、出来れば見せたくないですね」

 「何で?」

 「だって……。
  いざって時に見せるから、カッコイイじゃないですか。
  じっくり見られたら、飽きられそうで」


 悶えるヤオ子に、カカシは項垂れて話し掛ける。


 「君さ……。
  敵ならいざ知らず、仲間内で出し惜しみして、どうやって連携を取る気なんだ?」

 「最後においしとこだけ持っていく」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂した。


 「それの何処が連携だ!」

 「いいじゃないですか……。
  主役は、最後においしところを攫って行くんです。
  最後にヘリから狙撃して去って行く何処かの警察みたいに」

 「何処の警察よ……」

 「西部ですかね?」

 「木ノ葉から西って何処の国だっけ?」

 「カカシ先生。
  ヤオ子の言葉なんて、まじめに聞かない方がいいですよ」

 「酷い……」

 「でもさ。
  オレが聞かないと……。
  最近、このポジションの供給が少ないと思わんか?」

 「仕方ないですよ。
  二年間の月日で大人になった設定になっているんですから、
  いつまでも、ハッチャけていられないですよ」

 「そういう設定を話すのは、どうなんだ?」

 「何の話をしてるの?」

 「…………」


 全員、頭を掻く。


 「やめるか……」

 「やめましょう」

 「ですね」


 修行は、完全に脱線していた。


 …


 ヤオ子は、改めて質問をする。


 「あのさ。
  お二人は、あたしの修行を邪魔しに来たの?」

 「私達だけのせいじゃないでしょ?」

 「…………」


 ヤオ子は笑って誤魔化す。


 「もう、どうでもいいや。
  模擬戦しませんか?」

 「また、唐突に……」

 「折角、相手居るんだし。
  どうせなら、一人で出来ないことをしたいです」

 「ルールは?」

 「対決ごっこでいいんじゃないの?」

 「「た、対決ごっこ……」」


 サクラが手をあげる。


 「私、パス」

 (逃げた!?)

 「仕方ないですね。
  カカシさん。
  お子様は置いといて対決ごっこしましょう」

 (お子様は、オレ達じゃないのか?)

 「手加減しないと殺してしまいますね~」


 ヤオ子の言葉に、サクラがニヤリと笑う。


 「カカシ先生!
  いつものセリフ!」


 カカシが苦笑いを浮かべる。


 「殺す気で来い」

 「え?」

 「そうしないとオレは倒せないからな。
  いや、それでも倒せないな」

 「…………」

 (カッコイイこと言って、
  本当に死んだら、どうなるんだろう?
  ・
  ・
  重りは、付けとこ。
  ヤマト先生より、弱かったら殺しちゃうから)


 ヤオ子の中では、ヤマト>カカシ。
 前回は、ヤマトが手加減してくれたことも認識している。


 「じゃあ、やりますか」

 「ああ」


 模擬戦を始めようと距離を取り合った二人を見て、サクラはある事に気付く。


 (イチャイチャ読まないんだ……)


 模擬戦の開始……。
 ヤオ子が両手両足を地面につけ、チャクラを練り上げていく。


 「サクラさん。
  合図をお願いします」

 「いいわよ」


 サクラが手をあげる。


 「始め!」


 合図と同時にヤオ子が仕掛ける。
 チャクラを爆発させて、両手両足で地面を一気に蹴り上げた。


 「キバの擬獣忍法!?」

 「赤丸さんです!」


 空中で印を結んだ後で体に捻りを入れる。


 「通牙か!」


 カカシが回避すると、ヤオ子は、それを目視して方向を変えるために右手に装填した術を発動する。
 爆発が起きると通牙が止まり、ヤオ子が直角にカカシに向かう。


 「ファーストヒット!」


 カカシの顔面への左ストレートが入る。


 「っ!
  浅い!」


 ヤオ子の左ストレートは、伸び切った手が軽くカカシの頬に触れただけだった。
 カカシは一歩踏み込み、ヤオ子の腰を掴むと放り投げて自分との距離を取る。


 (驚いたな……)


 カカシが、かすられた頬を撫でる。
 ダメージはないが当てられた。

 一方のヤオ子は、少しの時間でも無駄にしない。
 着地して直ぐチャクラを練り上げ、印を結ぶ。
 仕掛けて来ないカカシを警戒しながら更に印を結び続け、両手両足に必殺技を装填していく。
 そして、全ての装填が終わると、再び擬獣忍法を仕掛ける。


 「黒丸さんのアドバイス通りに!
  ・
  ・
  四点装填……」


 カカシに接近するまでは、ただの直進。
 カカシが回避しようとしたところで、術を発動する。


 「酔舞・デッドリーウェイブ(再現江湖)!」


 回転は、時計回り。
 左手の裏拳による爆発。
 続く右ストレートの爆発。
 更に回転力を強めるための右足の振り抜きで爆発。
 最後に踵からの左足の爆発。
 全てを通り過ぎる一瞬に叩き込んだ。


 「爆発!」


 ヤオ子が着地して振り向き確認すると、爆散した木が粉々に砕け散った。


 「変わり身?
  ・
  ・
  あたしの流派・東方不敗が躱された!?」


 とはいえ、ここで足を止めているわけにはいかない。
 ただ足を止めれば、狙い撃ちにされる。
 ヤオ子は瞬身の術で移動して背中に岩を背負う。


 「これで後ろからの攻撃はないはず……」


 ヤオ子は、上と前、左右を警戒してカカシの出方を待った。


 …


 ヤオ子の攻撃方法に、サクラが呆れる。
 中忍試験で見たキバの擬獣忍法が、悪質極まりない動きに変わっていた。
 カカシが本を読まなかった理由も分かる。
 また、ヤオ子の術の特性も少し理解し始めた。


 「あの必殺技とか言うの……。
  一定時間、発動を制御できるようね。
  そして、チャクラの盾が張れる場所なら、体の何処でも発動できる。
  ・
  ・
  今、術のストックを貯めないのは、きっと予想通りなんでしょうね。
  時間が経ち過ぎると爆発するか消滅するに違いないわ」


 サクラの予想は正しい。
 基本は豪火球の術の応用なので、必ず吐き出す必要がある。
 そのため、一定時間以内に術を発動する必要があるのだ。


 …


 ヤオ子が警戒し続けて約二分……。
 ようやく姿を見せたカカシだったが、堂々と真正面から走り込んで来る。
 忍術を使わずに向かって来られることが、逆に不気味さを感じる。

 ヤオ子は前方の地面に左右に二本ずつクナイを投げつけ、後方の岩に飛び乗った。
 そして、両手からチャクラ糸を伸ばし、クナイの後部にある丸い穴に通す。
 気付かれないようにチャクラ糸に流す量は最小限に留め、手の中のチャクラ糸を編み込む。
 チャクラ糸は徐々に形を成し、カカシを誘い込むネットの準備が完了する。

 ヤオ子は体術の構えを取って、獲物が掛かるのを慎重に待つ。
 そして、チャクラ糸のネットにカカシが触れた瞬間、チャクラ糸にチャクラを流し吸着の形態変換を付加する。


 「捕らえた!」


 両手を握り込み、強く糸を引き戻す。
 が、次の瞬間、カカシが煙になって消えた。


 (今度は、影分身!?)


 両手でチャクラ糸を引っ張たまま印を結ぶことの出来ないヤオ子に向かって、左舷から火球が飛んで来る。


 (ラブ・ブレス!)


 そのカカシの豪火球に対し、ヤオ子の豪火球がぶつかり相殺する。
 今度は、ヤオ子が飛んで来た方向にカカシを捕らえようと移動を開始する。
 そして、カカシに追いつくと、ヤオ子は声を掛ける。


 「今度は、本物ですかね?」

 「おかしいな……。
  印を結んだ形跡はなかったんだが?」

 「さっきネットを編み込む時に印を結びました。
  あたしは印を結びながら、あやとりが出来ます」

 「やっかいだな……」


 ぴったりと着いてくるヤオ子を見て、カカシはヤオ子を分析し始める。


 (この子の戦術は、接近戦がメインだな。
  体術の技術が極めて高い。
  そして、それに合わせた自分の術を使いこなし始めている。
  この前、ヤマトと話していたアドバイスを忠実に守って応用を増やしたんだろう。
  しかし……。
  ・
  ・
  ナルト達も、最初はここまで凶悪じゃなかった……。
  サスケが教えてたんだよな?
  アイツ、まさかオレを暗殺させるために、この子に忍術を教えたんじゃないだろうな……。
  テンゾウがこういう教え方をするとは思えない……)


 一方、カカシに合わせて併走するヤオ子だが、カカシの様子を伺うも、考え事をしているカカシの表情から次の行動の予想が立てられない。


 (何を考えてんですかね?
  ・
  ・
  まあ、いいか……。
  あたしの方が格下なんだし。
  分かんないなら、行くしかありませんよね)


 ワイヤーと手裏剣を取り出し、ヤオ子は手早く手裏剣にワイヤーを結び付ける。
 そして、上空に向かって手裏剣を投げた。


 「それは、前に見たことがあるな」


 そう、手裏剣を頭の死角から狙うのが、この戦術。
 一度見せたヤオ子の戦術をカカシは忘れずに覚えていた。
 カカシが狙いを付けさせないように左右に動きながら距離を取り出した。


 「この人、対応力あり過ぎ!」


 ヤオ子がワイヤーを放すと、手裏剣はワイヤーと一緒に空へ消えた。
 そして、カカシが止まるとヤオ子は体術の構えを取る。


 (今度は、体術総武で来るか)


 カカシがヤオ子に手裏剣を投げ付けると、ヤオ子は左手を上に構え振り下ろしながら回転させてチャクラを放出する。
 簡易的な回天が手裏剣を弾いた。
 これにより、体術の型は崩れずに手が下がっただけになる。
 構えを崩さなかった分だけ、無駄なく体術を仕掛けることが出来る。

 この差は時間で言えば僅かなものだが、カカシは手裏剣を投げ終えた体勢で、貴重な先手有利の条件をヤオ子は手に入れたことになる。
 しかし、一瞬遅いはずのカカシがヤオ子の体術を綺麗に捌いて躱す。


 「体術も出来るの!?」

 「出来ないとは言ってないけど?」

 「っ!
  折角、身長伸びてリーチも長くなったのに!
  ガイ先生直伝の体術がーっ!」


 ヤオ子は叫びながら、ガイ仕込の体術をカカシに仕掛け続けた。


 …


 ヤオ子の体術は、サクラでも分かるぐらいにガイやリーの動きに酷似していた。
 それは切磋琢磨して身に付けた努力の賜物だが、サクラは思った。


 (カカシ先生とガイ先生って永遠のライバルとか言ってたから、
  ガイ先生以上の体術使いじゃないとカカシ先生に攻撃をまともに当てられないんじゃないの?
  だって、勝負事の時にカカシ先生はガイ先生の動きを頭に叩き込んでいるはずだもの……。
  ・
  ・
  写輪眼でコピーしている可能性もあるし……)


 案の定、忠実にガイの教えを守っていたヤオ子の動きは、カカシに見透かされていた。


 …


 全ての攻撃を受け流されヤオ子は歯噛みする。


 「受け流されるなら!」


 印を結び、必殺技を装填する。


 「芸がないな」


 カカシがヤオ子の回し蹴りを二回回避すると、当然、爆発も二回起きる。
 しかし、蹴りの最中もヤオ子の指は動き続けて印を結んでいる。
 更に変則な動き。
 両手で印を結び、足だけの体術攻撃。
 もう、ガイの体術の面影はない。
 怪鳥蹴り……爆発。
 回し蹴り……爆発。
 ヤクザキック……爆発。
 上段蹴り……爆発。
 中断蹴り……爆発。
 水面蹴り……爆発。
 全て躱され、ヤオ子は息を切らす。
 カカシも見たこともない足技だけの体術を躱し切った後で、大きく息を吐いた。


 「当たらない……」

 「当たり前だ……。
  当たったら、死ぬ」

 「ううう……。
  ガード不可にしたつもりだったのに……」


 カカシは腰に右手を置き、悔しがるヤオ子を見る。


 (しかし、独創性の強い攻撃をする奴だな……。
  ・
  ・
  というか、スタミナがおかしくないか?
  一体、何時になったらチャクラ切れを起こすんだ?
  あの術って豪火球を基にしてるって言ってたよな?)


 千鳥ほどチャクラを使わないと言っても、豪火球の術は、一般的に中忍が使う忍術という位置づけにある。
 アカデミーで習う、分身の術なんかよりも多くのチャクラを必要とする。
 その術を連発したはずのヤオ子は、悔しがって地団太を踏んでいる。


 (……まだ元気そうだな)


 カカシは少し戦法を変え、印を結ぶ。


 「水遁・霧隠れの術!」


 辺りに濃霧が漂い、今まで捉えていたカカシがヤオ子の視界から消えた、


 「目くらまし?
  でも、相手も見えないし……」


 ヤオ子が音を立てずに移動しようとすると、足元に手裏剣が刺さる。


 「感知された!?」

 「オレは鼻も利くんだ……」

 「余裕のネタ晴らし……。
  ・
  ・
  さっきの修行で汗を掻いたから、バレたんですね?」

 (そういうわけじゃないんだがな……)

 「ううう……」


 ヤオ子は、何かを溜め込むと叫んだ。


 「カカシさんに嗅がれるーっ!
  運動後の乙女の汗の匂いを嗅がれるーっ!」


 ヤオ子の叫び声にカカシとサクラが吹いた。
 すると、ヤオ子が音のした方に手裏剣を投擲し、カカシは頭を勢いよく下げて躱しながら思う。


 (今のは油断した……。
  位置を知るための作戦か?)


 ヤオ子は、更に叫ぶ。


 「変態に!
  変質者に!
  あたしの汗の臭いが嗅がれるーっ!
  きっと、あたし以外にも、サクラさんやいのさんやヒナタさんの臭いを嗅いでいるんだーっ!」

 「…………」

 「男なんて、皆、獣です!
  キバさんも、きっと嗅いでいるに違いありません!」

 「…………」


 濃霧の中でカカシとサクラは、頭が痛かった。


 「ううう……。
  ・
  ・
  あたしもサクラさん達の乙女の汗の匂いを嗅ぎてーっ!」


 スコーン!とヤオ子の頭にサクラの投げた棒がクリティカルヒットした。


 「それが本音か!
  この変態が!」


 ヤオ子は頭を押さえて飛んで来た方向に話し掛ける。


 「サクラさん。
  第三者の介入は控えてください。
  イノベーターがやって来ますよ?」

 「真面目にやれ!」


 濃霧から溜息が漏れる。
 その音で、ヤオ子はカカシの大体の位置を掴んだ。
 だが、ヤオ子の位置はサクラにも分かるほどハッキリしている。

 ヤオ子は、お構いなしに印を結ぶ。


 (ラブ・ブレス!)


 ヤオ子の豪火球がカカシの居た場所へ向かう。
 しかし、カカシは、既にそこに居ない。


 「当たらない……。
  それに霧が晴れない……。
  外れても火遁の上昇気流、水分の蒸発を狙ったんですが……。
  ・
  ・
  逃げても居場所がバレるし……。
  ダミーを増やそう」


 ヤオ子は印を結んで影分身を二体出し、三人のヤオ子が背中合わせに全方位を警戒する。


 「水場のないところでの水遁です。
  術の効果も直ぐに切れるでしょう。
  ・
  ・
  あとは、いつ仕掛けて来るか……」


 五感のうち、一番頼りになる耳に集中する。
 が、風切り音がすると一体の影分身がやられた。


 「ダメですね……。
  音聞いてから反応するのに慣れてない。
  必ず目が追って見えないものを探してしまいます。
  ・
  ・
  じゃあ、霧が届いてないところまで全力で逃げましょう。
  手裏剣から飛んで来た位置は分かりましたから」


 ヤオ子はチャクラを足に集中すると影分身と一緒に飛んで来た手裏剣と反対側に走る。
 動いていれば鼻が利くカカシでも、手裏剣の命中率は落ちると判断したからだ。
 左右にランダムに走り、時折、緩急を付けて狙いを付けさせないように意識しながら、ヤオ子と影分身は霧を抜けると背中を合わせて周囲を確認する。


 「森に入ってヤマト先生とやった鬼ごっこの要領で姿を隠しますかね?
  いや……。
  これは対決ごっこだから、遠くに逃げ過ぎると主旨に反しますね」


 霧が晴れてくる。
 カカシの霧隠れの術も効果を失ったようだ。


 「チャクラを使い過ぎました。
  でも、木登りと瞬身の術の修行を終えた後でも、これだけ使えるなら問題なさそうです。
  日々の鍛錬で体力の回復力も上がっています。
  まだまだ戦えます。
  ・
  ・
  大技は、そろそろ控えよう……」


 ヤオ子は、ようやくカカシの姿を確認する。


 「余裕ですね……。
  霧の中で仕掛けた回数が一回だけなんて」

 (ヤマト先生と同様に本気じゃない。
  あたしは、まだ本気を出させるほどでもないということです)

 「なら……。
  フルボッコにされても勉強させて貰いましょう!」


 ヤオ子が真正面から突っ込んだ。
 再び純粋な体術のみ。
 ヤオ子はカカシと体術を組みながら、『何故、躱されるのか?』『何故、捌かれるのか?』を考え始めた。


 …


 サクラは、ヤオ子の攻撃が体術だけになったのに気付く。


 「チャクラが切れたのかしら?
  いい体捌きね……。
  ・
  ・
  また動きが変わって来た……。
  カカシ先生の戦い方を真似し始めたんだ。
  どっちもコピー忍者みたい」


 …


 サクラの言った通り、カカシもヤオ子の動きが変わり始めたのを感じる。


 (この子、好奇心の塊だな……。
  気に入ったものや応用できるものは、手当たり次第に取り込んでいく。
  学習能力も悪くない。
  ・
  ・
  だけど、そろそろ自分の好奇心に負けて……)


 ヤオ子がカカシの拳を受ける時に手にチャクラ吸着を発生させる。


 「これで放しません」

 (やっぱり……。
  自分のスタイルを掛け合わして来た)

 「お互い片手が使えません。
  どうしますか?
  ・
  ・
  あたしは、こうします」


 ヤオ子がチャクラ吸着している腕と肩の関節を外す。


 「これで動ける範囲は、あたしの方が有利です」

 「なんてことを考えるんだ……」


 間接でロックされない分だけ、稼動範囲の広いヤオ子が少し有利に戦いを進める。
 先ほど学習したカカシの体術を見極めて、何回かに一回攻撃がカカシの体に触れる。

 それに対し、カカシが距離を取ろうとすると、ヤオ子は間接を入れ直してチャクラ吸着を強める。


 「逃がしません!」

 「こんな戦い方ってあるのか?」

 「忍術を使われるよりもいいです!」

 「危ないな……」


 ヤオ子とカカシが反対の手も合わせてガッチリと組み合う。


 「動けませんね……」

 「そうだな……」


 ギリギリと力が均衡する。


 「おかしいよな?
  女のお前が、オレと張り合っているなんて?」

 「長く続くわけないでしょ!
  無理して力比べしているんです!
  直にあたしが疲れて押し負かされます!」


 ヤオ子は歯を喰いしばり始める。


 「やっぱり、このままじゃ……!
  印も結べない。
  体術も使えない。
  ・
  ・
  だったら、言葉で揺さぶるしかありませんね」

 「言葉……?
  ・
  ・
  まさか試験の時の!?」


 カカシの頭にあの時の悪夢が蘇り、ヤオ子はニヤリと唇の端を吊り上げる。


 「イチャイチャは話しません。
  あそこに鬼が居るので……」

 「賛成だ……」


 カカシとヤオ子がサクラをチラリと見て鬼が見ているのを確認すると、視線を戻してヤオ子が揺さぶりに掛かる。


 「カカシさんの覆面……。
  色々と仮説があります」

 「ほう……」

 「その中にガイ先生好みのが一つあります」

 「ガイ好み?」

 「ええ……。
  酸素を取り入れ難くして心肺機能を鍛えるってヤツです」

 「それが、何なんだ?」

 「ガイ先生に言えば真似します」

 「何っ!?」


 ヤオ子はカカシが驚いた隙に少し押し込む。


 「カカシさんとガイ先生のペアルック……。
  非常に興味がありますね……」

 「冗談じゃない!」


 カカシがヤオ子を押し戻す。


 「さっきの片手を封じた戦い方……。
  どうでしたか?」

 「やっかいだったよ……。
  まだネタがあるのか?」

 「第二弾です。
  ・
  ・
  実はですね。
  あれ……あたしのための戦い方じゃないんです」

 「?」

 「カカシさんとガイ先生の熱い戦いの話を聞いて思い付いた、ガイ先生のための戦い方なんです」

 「何ッ!?
  しかも、またガイのネタ!?」

 「接近戦で、さっきみたいにチャクラ吸着でカカシさんの忍術を封じるのが狙いです。
  体術や力なら、ガイ先生の方が有利と見ましてね」

 「恐ろしい奴だな……。
  戦術的にも性格的にも……。
  ・
  ・
  ガイをネタに使うのが、更に凶悪だ……」

 「そして、成果が実証されたわけです。
  ・
  ・
  これらをガイ先生にチクリます」

 「な!?
  やめろ!
  また、あの暑苦しい戦いに巻き込まれるんだぞ!」

 「くっくっくっ……。
  確か次は、ガイ先生がルールを決める番でしたね?」

 「卑怯だぞ!」

 「あたしは、ここで負けるでしょう。
  しかし、あたしの復讐は、ガイ先生が必ず遂げます!」



 …


 サクラは思った。


 (何かヤオ子のセリフが、最後にやられる大魔王みたいなセリフだな……)


 …


 言葉の揺さぶりにより延長した力比べも、そろそろ限界に近づいていた。
 ヤオ子がカッ!と目を見開く。


 「あたしの最後の賭けを見るがいい!」


 両手を放して距離を取ると、ヤオ子はチャクラを練り上げ、印を結ぶ。
 両手には術が装填される。


 「二点装填!
  ・
  ・
  流派! 東方不敗がぁぁぁ!
  最終奥義ぃぃぃ!」


 前傾姿勢で盾の分のチャクラを練り上げる。
 そして、両手を突き出す。


 「石波天驚拳!!」


 中距離に位置するカカシに向けて大爆発が起き、ヤオ子は爆発の威力に耐えるために残りのチャクラを必死に足のチャクラ吸着に回す。
 一方のカカシも印を結んで術を発動していた。


 「水遁・水陣壁!」


 水の壁が爆発の衝撃を押さえ付ける。
 しかし、一点突破の爆発術は、水の壁をも突き抜ける。
 カカシに大量の熱湯が降り注ぐ。
 いや、見ていたサクラにも降り注ぐ。


 「あっつっ!」

 「キャーッ!
  熱い!
  熱いって!」


 技を打ち終わったヤオ子は舌打ちする。


 「土遁だったら、石つぶてで物理ダメージを与えられたのに……。
  ・
  ・
  でも、後ろには吹っ飛ばなくなりましたね」


 力尽きて片膝を突くと、ヤオ子は言葉を漏らす。


 「降参です……」

 「……最後の最後に火傷するとこだったぞ」

 「私を巻き込まないでよ!」

 「だって、水遁でガードするなんて知らなかったんだもん」

 「ヤオ子の術は火遁なんだから、水遁でガードするのが普通でしょ!」

 「それもそうか……」


 ヤオ子は両足を投げ出して、息を吐いた。


 「まだまだです……」

 「いいところまで行ったと思うけど?」

 「経験は、中々埋まりません……」

 「そりゃそうでしょ」

 「最後の必殺技も、体が耐えられない……。
  撃ったあと、全身が少し痺れる。
  もう少し、体の強度が必要です」


 体に負担が掛かるというヤオ子に、カカシとサクラが術の威力を思い出す。


 「もっと、普通の術を覚えたら?」

 「あたしみたいなペーペーが他の術に手を出すなんて、まだ早いですよ。
  手持ちの術すら扱い切れてないのに……。
  今は基礎を固めて、術の応用を考えます」


 ヤオ子は必殺技の反動が消え始めると立ち上がり、伸びをする。


 「お昼、食べて行きませんか?」

 「ここで?」

 「鍋を持って来るんで、火を熾して貰えますか?」

 「いいけど……」


 ヤオ子は、大木の秘密基地へ向かって歩き出す。
 しかし、残された二人は、何処かに去って行ったように見えた。


 …


 数分後……。
 鍋に出し汁と材料を入れて、ヤオ子が現れる。
 そして、石で組まれた簡易的な釜戸の火を見る。


 「いい感じですね」


 ヤオ子が鍋を釜戸の上に設置すると、鍋を見てカカシが質問する。


 「鍋は、何処から持って来たんだ?」

 「ここで修行をしているんで、近くに生活用品があるんです」

 「へ~」

 「ちなみに、お肉はありません。
  腐るんで」

 「贅沢は言わないよ」

 「さすが、カカシさん。
  大人です」


 鍋は、野菜と茸がメインである。
 暫くして鍋が完成すると、おわんに具と汁を盛り付け、各々一口、汁を啜る。


 「旨いな……」

 「いい味……」

 「ほっとしますね……。
  ・
  ・
  ガイ先生の班では、よくやるんですよ」

 「他の班は?」

 「お弁当のおかずを作っていくことが多いですね。
  ガイ先生の班は──あれ?
  いつからか、あの班だけ手料理を振舞ってますね。
  まあ、一番お世話になっていますし」

 「ふ~ん。
  ガイの奴……いい思いをしているな」

 「ガイ先生とは、意外と相性がいいんです。
  最初は、あのノリに着いていけなかったんですが、
  一度、自分のプライドを捨てると叫ぶのがクセになります」

 ((それで修行中に……))

 「最近は、あたしも叫ぶ方から叫ばせる方になっています」

 「何だい? それ?」

 「さっきの必殺技になった元ネタの漫画です。
  ・
  ・
  流派! 東方不敗は王者の風よ!
  全新系裂! 天破侠乱!
  見よ! 東方は赤く燃えている!
  ・
  ・
  これを時々、一緒に叫んでいます」

 「ガイもノリがいいな……」

 「リーさんも♪」

 「被害者が追加された……」

 「ネジさんとテンテンさんは、仲間が吸収合併されたと嘆きましたね」

 (そうだろうな……。
  3対2だったのが、2対3になっちゃったんだから。
  完全にバランスが崩れちゃったよ)


 カカシは、ネジとテンテンを思って手を合わせた。


 「他にも料理関係では、月一で女性陣の宴もしていますよ」

 「何それ?」

 「サクラさん達とあたしの家で宴をしてます」

 「そんなことしてたの?」


 カカシがサクラを見る。


 「まあ……。
  最近は暁の行動が盛んでしていませんが、綱手師匠も一緒に」

 「綱手様も!?」

 「あの人が一番暴れます」

 「…………」


 カカシが苦笑いを浮かべる。


 「楽しそうだな」

 「まあ、それなりに」


 カカシが茸を食べながら話す。


 「これだけの味付けなら、宴をする気持ちも分からなくないな」

 「ヤオ子の腕は、卓越していますから。
  前日までに皆で何を作らせるか決めるんです」

 「作らせる?」

 「あたしに自由なんてないんです。
  一番の弱者ですから……」

 「下忍だもんな……」


 ヤオ子は乾いた笑いを浮かべる。


 「ヤマトとは?」

 「時間が空いた時に修行を見て貰っています。
  でも、最近、忙しいみたいです。
  この前も任務の報告書を書きながら、無理に修行を見てくれましたから」

 「そうか」


 サクラが感想を漏らす。


 「同じ先生なのに、随分違うわね。
  カカシ先生は、任務の報告書なんて後回しにするのに」

 「オレの仕事なんて見てないだろ?」

 「ナルトから本を貰った時、本当に直ぐに報告書を書いたんですか?」

 「…………」


 サクラが溜息を吐く。


 「やっぱり……」

 「見透かされてますね」

 「付き合い長いからな……」

 「でも、あたしは気持ち分かりますね。
  新しいエロ小説を手にしたら、何より優先しますからね」

 「さすが、ヤオ子だ」

 (この二人、本当に兄妹なんじゃないの?)


 暫くして鍋は空になった。


 …


 ヤオ子の影分身が鍋を下げると食休みに入る。
 カカシがヤオ子に話し掛けた。


 「午後は、どうするんだ?」

 「今日は終わりです。
  いつも以上にしんどかったから。
  カカシさん、ありがとうございました」

 「こっちもご馳走になったし気にするな。
  美味しかったよ」


 ヤオ子は微笑んで返す。
 そして、今度はサクラを見る。


 「サクラさん。
  ちょっとだけ、午後、付き合ってください」

 「いいわよ」


 カカシは、午後の予定を考える。
 予想外に動かされて疲れた。


 (偶には休むか……。
  それに、ここからは女同士の話みたいだし……)

 「オレは、帰るな」


 カカシが立ち上がると、煙と共に消えた。


 「わざわざ瞬身の術なんて使わなくてもいいのに」


 ヤオ子は、ポツリとぼやいた。


 …


 残されたサクラがヤオ子に話し掛ける。


 「用って?」

 「え~と……ですね。
  よく考えたんですけど、
  あたし以外にも医療忍者のお二人と分け合おうかと思ったものがあるんです」

 「?」


 ヤオ子の言い回しにサクラが首を傾げると、ヤオ子は古い大木を指差す。


 「あの木が何なの?」

 「あそこにあるんです」


 ヤオ子は、サクラを秘密基地に案内する。
 大木の仕掛けと内装……サクラは、サスケと同じような反応を示した。


 「凄いわね……」

 「昔は、エロ本の隠し場所でした」

 「…………」


 一気にテンションが下がった。
 ヤオ子が地下への扉を開く。


 「地下?」

 「はい」


 サスケが訪れて以来、新たに拡張された空間。
 階段を下りると少しひんやりとする。
 地下には、部屋が二つあった。


 「一つは、忍具の隠し場所。
  もう一つが薬房になっています」


 ヤオ子が薬房の扉を開き、サクラが後に続く


 「広い……。
  それにこれって」


 土壁の中で薄っすらと分かる広大な空間。
 ヤオ子が近くの蝋燭に火を灯すと、薬房の全体が姿を見せる。

 サクラは整理されて置かれた薬包紙や乾燥して保存されてある薬草を見て回り、その後ろからヤオ子が声を掛ける。


 「木ノ葉病院ほどじゃないけど、中々でしょ?」

 「これ、どうしたの?」

 「任務の度に見つけた薬草を粉にしたり乾燥させたりして、長期間保存できるようにしてあるんです」


 ヤオ子が整理された薬包紙の下に広げてある巻物を指差す。


 「ここにある薬を時空間忍術で呼び出せます」


 ヤオ子は腰の道具入れから巻物を取り出す。


 「これです」

 「薬を口寄せするのね」

 「個人の家に置ける量じゃないんで、秘密基地の下に薬房を作りました。
  ・
  ・
  それで……」


 ヤオ子は近くの棚から巻物を二つ取り出す。


 「サクラさんといのさんにもあげます」

 「私達も薬を取り出せるってこと?」

 「はい。
  ただし、あたしの所有物だって忘れないでください。
  病院の薬房よりも充実してないし、ストックも多くありませんから」

 「じゃあ、どうしてこれを?
  大事なんでしょう?」


 ヤオ子は言葉を暫し止め、顔を上げてサクラの目を見る。


 「もし……。
  任務先で薬が足りなくなった時、使ってください。
  これで救える命もあるでしょ?」

 「……前から思ってたけど、
  何で、薬草にそこまで拘るの?」

 「…………」


 ヤオ子は、再び言葉を止めた。
 そして、ヤオ子は信頼できる関係を作ったサクラだから話すことにした。


 「……あたし、初めてのCランク任務で友達を亡くしたんです。
  あれば助かった薬草がなくて……。
  だから、それから薬草の知識だけは蓄えるようにしました」

 「じゃあ、何で医療忍者を目指さないの?」

 「やっぱり……ヤマト先生やイビキさんみたいになりたいから」

 「…………」


 サクラが溜息を吐く。
 これ以上は、追求できない。
 普段、いい加減な行動しか取らないヤオ子にも、言葉では語れない大事なものがあると感じ取ったからだ。
 サクラはヤオ子の持つ巻物二つをそっと手に取る。


 「これは、ありがたく使わせて貰うわ。
  いのにも渡して置く」

 「お願いします」

 「そして、私達も見つけた薬草は、ここに提供するわ」

 「え?」

 「一人より、二人。
  二人より、三人。
  ・
  ・
  綱手師匠やシズネ先輩にも秘密。
  私達だけの薬房にしましょう。
  それに私やいのが見つけた薬草が、ヤオ子に取って必要かもしれないでしょう?」

 「サクラさん……」


 サクラはヤオ子に笑みを浮かべた。


 「あたし達だけ……。
  いいですね……」


 ヤオ子の笑顔に、サクラは再び微笑んで返す。
 サクラはヤオ子の方から力が抜けるのが分かると、改めて薬房内を見回す。


 「それにしても薬草を磨り潰す道具とか、何でもあるわねぇ……」

 「皆、貰い物です。
  割れたものをくっ付けたり、柄が折れたのを付け替えたり」

 「ヤオ子の私物で新品のものってあるの?」

 「サスケさんの形見の服ぐらいですかね。
  これだけは、体が大きくなる度に新調しています」


 サクラのグーが、ヤオ子に炸裂する。


 「勝手に殺すな!」

 「冗談なのに……」

 「冗談でも言っていいことと悪いことがるでしょう。
  ・
  ・
  ところで……。
  この巻物って、どうやって使うの?」

 「普通は、血を媒体にするんですけどね。
  これ、印で鍵を掛けてます。
  しっかり覚えてくださいね」

 「分かったわ」


 ヤオ子は、サクラに秘密の印を教えた。


 「これで用件は、おしまいです」

 「そう。
  ・
  ・
  ねぇ。
  修行、時々、付き合おうか?」

 「どんな風に?」

 「医療忍者って相手の攻撃を全て躱し切る必要があるの。
  小隊で医療忍者がやられたら、治療することが出来なくなるから」

 「なるほど」

 「だから、ヤオ子は体術の攻撃。
  私は、ひたすら躱し続ける」

 「いいですね。
  それなら、いつでもお付き合いします」

 「ただし、あの爆発する術はダメよ」

 「分かりました」

 「さて。
  じゃあ、戻るかな」

 「はい」


 ヤオ子とサクラが秘密基地を後にする。
 空はまだ高く、濃い修行内容だったため、時間はいつもよりも多くある。
 ヤオ子は自分の気持ちを貰ってくれたサクラに、嬉しそうに話し掛ける。


 「帰りにナルトさんに遭遇したら、何か奢って貰いませんか?」

 「いいわね。
  お昼食べたから、デザートかな?」

 「あたし達の色香に掛かれば、イチコロですよね」


 その後、ヤオ子の秘密基地は、地下で発展を続ける。
 修行の方もサクラの協力を得て、少しずつ充実していく。
 そして、修行が無駄に終わらない事件が刻一刻と近づいていた。


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