== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
結局、ヤオ子はサスケのトラウマから逃れられなかった……。
朝修行は手裏剣術をし、午前中は覚えた忍術のおさらいをし、そして、午後は火遁・豪火球の術の習得に精を出して、サスケの居ない日々を律儀に修行し続けた。
ヤオ子はフッと息を吐き出し、両手を軽くあげる。
「トラウマの克服?
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・
ハッ! 二時間で諦めましたよ。
弱点がある方がいい女の条件みたいでしょ?
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・
決して逃げたわけじゃありません。
サスケさんは、正面から叩き潰す!
そして、あたしは真のトラウマを克服するのです!」
などと鼻息荒く息巻いても、自主修行はトラウマにより続けられるのであった。
第7話 ヤオ子の自主修行・豪火球編②
自主修行も二週間程が経過した。
サスケが帰らない理由が、担当上忍の写輪眼の使い過ぎなど知る由もなく修行は続く。
「はあ……。
サスケさん死なないかな……」
八歳児の幼女はいきなり物騒なことを呟いていた。
ヤオ子しか居ないサスケの練習場では、温かな日の光と枝葉が擦れる音だけが支配している、のどかな昼下がりなのに……。
実際、そのサスケが死にかけたことなど知る由もなく、ヤオ子の独り言は続く。
「何とか火は吹けるようになったんだけど……。
合ってるのかな? これ?」
実はシカマルに教わったあのデタラメな火の性質変化は、よく分からないが機能していた。
ヤオ子が妄想力などという如何わしいものをチャクラに混ぜ込んでいるのが原因か、本当にサスケの言うように才能があるのかは分からない。
しかし、ヤオ子のチャクラは火遁として機能していたのである。
まあ、十中八九、妄想力の恩恵だろうが……。
そして、火を吹けるようになったということは火遁・豪火球の術に着実に近づいている証拠である。
だが、ヤオ子は火遁・豪火球の術を見たことがなかった。
故に吹き出される火が、成功したものかどうか判断できない。
「あたしは間違ってると思うんですよね。
だって、球になってないし。
豪火なんて大層な名前が付いてる割にはしょぼいし。
・
・
まあ、釜戸や焚き火に着火するなら問題ないけどさ。
忍者が人を殺めるには威力不足ですよね」
ヤオ子は切り株に腰掛けながら印を結ぶと火を吹く。
火は一筋に伸びるが、あまりに拙い。
「家を燃やされるのを見とけばよかった……とは思いませんけど、
やっぱり実物を見ないことには完成したかどうかの判断ができません。
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・
どうしようかな?
勝手に改造して威力を上げるべきかな?
サスケさんは、いつ帰って来るんだろう?
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・
っていうか、何故にウチハ一族居ないの?
サスケさん以外に聞けないじゃないですか……」
ヤオ子は溜息を吐いて、切り株の上に寝転ぶ。
「やっぱり……威力上げようかな?
このまま使っても、サスケさんを殺せないと思うんですよね~」
ヤオ子の口から、また物騒な言葉が漏れる。
「そうです!
術見せるフリして殺っちゃえばいいんです!
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・
でも……。
暗殺に失敗したら、家焼かれるんだろうな……。
・
・
どうせなら、あたしのチャクラ性質が水なら良かったのに……。
サスケさんに家燃やされても消火できるし、野菜だって冷やせるし、
何かぬるぬるしたローション的なものとか練り出せそうだし♪」
ローション使って、何をする気なのか。
「とりあえず!
威力を上げよう!
・
・
いざって時にサスケさんを殺せなければ意味がない!」
ヤオ子は跳ね起きると、真面目(?)に修行を開始することにした。
…
ヤオ子は目を閉じると、頭の中でおさらいを始める。
その最中、自分の考察も含め、勝手に独自の予想を付加していく。
(まず、問題になっているのが威力です。
これは少し分かっています。
あたしの術は基本気合いで補っているので、
口から火を吐くために、術の発動を言葉に出せないのが気合いを弱くするのです。
つまり……。
・
・
『火遁・豪火球の術!』を叫べないためにテンションが上がらないのが原因です)
無意味な原因である。
(だから、ここを修正する必要があります。
叫ばなくてもテンションを上げられるように……)
ヤオ子は、本当に基本とずれたところで葛藤する子だ。
(もう一つは、形です。
吹き出す火が少ないせいもあるけど、球状になっていません。
威力を留めるなら、ただ広がるよりも球状に留めた方が燃焼効率がいい……と思います。
・
・
まず、威力!
次に燃焼効率をあげる形作り!
今のままでは、球状にするうんぬんが出来ません!)
早速、ヤオ子は豪火球の術の独自強化を図る。
だけど、その前に今の自分の限界を見極めなければならない。
ヤオ子は手順どおりにチャクラを練り上げ、息を吸って、印を結んで火を吐く。
発動した豪火球の術は、火が真っ直ぐにただ伸びて行くだけだった。
「これがあたしの限界ですね。
・
・
もう一つ、分かっちゃいました。
あたし、子供だから『肺に入る空気の量 = チャクラの量』に制限があるんです」
ヤオ子はコリコリと頭を掻く。
「気合い以外にも、もう一工夫必要ですね」
ヤオ子は胡坐を掻いて腕組み、目を閉じて考える。
子供ゆえの体の大きさという問題をどう解決するか?
~約三十分の時間が流れた~
…
ヤオ子は不意に目を開けると呟く。
「チャクラを圧縮してみようかな……」
想い発ったが直ぐ行動。
脊髄反射で、ヤオ子はチャクラを練る姿勢を取っていた。
「猛れ! あたしの妄想力!」
両手を合わせ、ヤオ子がチャクラを練る。
豪火球の術の威力を上げるため、練って練って胸にチャクラを留める。
(これ……辛い)
まだあと少しと、ヤオ子は何とか我慢する。
しかし……。
「げふ~!」
口からチャクラが漏れた。
「耐え切れない……。
こんなプレイ無理……。
更に息吸い込むなんて……」
マーライオンのようにヤオ子の口からダバダバとチャクラが溢れる。
そして、肺に溜まっていたチャクラが全て流れ出すと、ヤオ子は空気を求めてハアハアと息を荒げる。
「きっと、最初からチャクラを練り込み過ぎたのがいけません。
少ないチャクラを圧縮して、徐々に増やしてみましょう。
・
・
大人になってないサスケさんが使えるなら、チャクラの量は体の大きさに依存しないはず。
圧縮するんじゃないなら、肺にチャクラを送り続ける長さとか、
まだまだ試す方法はいくらでもあります。
それに今のは失敗でしたが、無理とは思えませんでした」
ヤオ子はチャクラを練り上げて印を結ぶと、独自にチャクラを留める方法を試みる。
成果は直ぐには現われないが、ヤオ子は自分の体と対話をするように豪火球の術の強化を図る。
その日、ヤオ子の試行錯誤は夕方まで続いたのだった。
…
二日が過ぎる……。
ヤオ子の豪火球の術は威力を増していった。
チャクラを練り、胸に留め、息を吸いチャクラを混ぜ合わせ、印を結ぶ。
そして、勢い良く吐き出す。
火の筋道のようだった術は、猛り狂う炎に変わっていた。
「いんじゃないの?
あたし、イケてない!?」
ヤオ子のテンションが久々に上がっていた。
試行錯誤の末、ヤオ子はチャクラを一点に留める──つまり、肺に留めるということを身につけたのである。
これはチャクラコントロールの一つを身につけたということにも繋がる。
術を発動するのにはチャクラを練り込むのは当然だが、発動する術によって練り込むチャクラ量も変わる。
この時、体の大きさに術の強弱は依存しないことも分かった。
つまり、チャクラというエネルギーは練ったら練った分だけ体に留めることのでき、発動する箇所に集中して力を発揮する万能エネルギーだと、ヤオ子は理解したのである。
ヤオ子は満足気に頷く。
「あとは、気合いの入れ具合と形態ですね。
ここ数日は、修行しながら、頭はそっちをひたすらに考えていたんですよ。
・
・
今こそ! 実行に移す時!」
威力を上げた豪火球の術は、あとは球体に留めて燃焼効率を上げるだけで完成する。
ヤオ子には変なスイッチが入り、気合いが別の方向で燃え上がっていた。
「猛れ! あたしの妄想力!」
ヤオ子が禍々しいチャクラを練り上げ、胸には限界まで留められるだけチャクラを留める。
そして、息を吸い込みチャクラと混ぜ合わせ、印を結ぶ。
ここで、キュピーンとヤオ子の目が光った。
(豪火球の術あらため……ラブ・ブレス!)
ヤオ子の改名が心の中で叫ばれると同時に、口から放出した火炎はハートの形を描く。
球体の形態補助が入っているはずの印の力を妄想力で押さえ込み、発動するはアホの結晶。
ハート型の火炎は空気を燃焼させながら空へと消えていった。
「やったーっ! 完成ーっ!
いや~! まさにエロカッコイイ術に生まれ変わりました!」
敵を豪火の球体で焼き尽くすはずの火遁系の術が、ピンク色のエロ忍術に変わった瞬間だった。
「何か威力もさっきと比べ物にならないです!
やっぱり、あたしは、エロが絡まないと真価を発揮出来ないのです!」
最悪の条件である。
「えへへ……。
これで、きっとサスケさんは、あたしのハートに釘付けですね!
今、上手いこと言っちゃった♪」
ヤオ子は、また一つ忍者として成長したのは間違いない。
火の性質変化に加え、チャクラを一点に留める技術を習得したのだから……。
だが、この成長をサスケは、どう捉えるのか?
サスケ帰還の日は近い。